いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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みんなのおかげで日刊九位乗ってましたありがとー!酒と評価と感想が一番のモチベーションです!これからも美味い店探して飲み歩きます!!


レモンサワーごくごく十一杯目

 

 

 

 

 

「暑ーい……」

 

「まあ、八月ですからね」

 

電車から出た瞬間、むわっとした夏の空気に包まれて、センパイと二人、少し萎えながら改札へ向かう。いくら暑いからと言って、そのキャミソールワンピの胸元をぱたぱた動かすのはやめてほしい。毒なので。

 

「で、本当に奢ってもらっていいの?」

 

「いいっすよ。今日に関しては、マジでオレが付き合わせてるだけなんで」

 

この猛暑の中呼び出してしまった罪悪感もある。しかも今日は、ここからずっと屋外だ。

北口側から出て、歓楽街の方――ではなく、のれん街と呼ばれる居酒屋街の方に向かう。

 

「え……もしかしてあの行列のとこ……?」

 

「いえ、違います。アレは特に関係のないおにぎり屋さんですね」

 

「その情報の方がよっぽど気になるんだけど」

 

ガードレール沿いに並んだ数十人の行列を見て、センパイが言った。気になるも何もそうとしか言いようがない、アレはこの暑さの中でさえ人がめちゃくちゃ並ぶ名店なのだ。行ったことないから実際どうなのかはわからないけど。

 

 

「まああのレベルまではいきませんけど、オレたちもそこそこ混雑するとこいきますから覚悟してくださいね」

 

「病弱お姉さんには厳しいよお」

 

「白ワンピ着て麦わら帽子被ってから言ってください」

 

信号を渡れば、居酒屋っぽい佇まいがひしめく地帯に入る。それを横切って進めば、法被を着たおじさんや屋台など、早くも人集りが見えてきた。都心にしてはそこそこの広さの駐車場。そこで開催されるレモンサワーフェスが、本日の目的地である。

 

「いいねえ、お祭りって感じする!」

 

「ですね、屋台のいい匂いしますし!」

 

とりあえず一周、店を見て回る。そこそこ広いと言っても、出店している店舗は二桁いくかいかないかって程度。だいたいどこもレモンサワーが五百円、おつまみが三百~五百程度なので、たぶん諭吉さん一枚で制覇できると思う。雑に飲むにしては少し高いけど、まあ祭りの雰囲気料だと思えばこんなものだろう。

 

「これ、この辺の居酒屋さんたちが合同でやってるイベントらしいんですよね。だから低コストで居酒屋の下見できてめちゃくちゃいいなって」

 

この前話した『都心から少しだけ離れた駅には名店あり』の法則である。池袋から一駅のここには、結構いい飲み屋が多いと聞いたのだ。とはいえ土地勘がないので、ひとまずこれで様子見である。

 

 

「え……それこそPAちゃん誘ってくればよかったんじゃない?」

 

「いやいや、いくらなんでもこの猛暑の中あんな可憐な人に外飲みさせられませんって」

 

「あのさあ、私のことなんだと思ってるの?」

 

「敬愛するセンパイです」

 

まあ、申し訳なさがあるからこそセンパイの分は全部奢るのだ。これで許してほしい。

 

「ふうん、まあ別にいいけど」

 

「拗ねないでくださいよ、きくりセンパイ。ほら、あのベーコンみたいなのめっちゃ美味しそうですよ!」

 

「物で釣ろうとしてもそうはいかないからね!」

 

会食スペースでパック酒を開け、テコでも動かない風格を醸し出し始めたので、渋々一人で列に並ぶ。限定のイベントロゴ入りプラスチックカップと、でけえベーコン二つを買って、センパイのもとに戻る。そっぽを向いてた彼女だったが、ベーコンを顔に近づけていくとジトっと視線を向けてくれた。

 

「ほら、冷めないうちに食べてみてください」

 

「……いただきます」

 

紙皿に乗ったベーコンを齧る。噛んだ瞬間溢れ出す旨味と、アツアツの肉汁。油の乗った舌触りも最高で、思わず「美味っ!」と声が漏れた。

 

「え、めちゃくちゃ美味しくないですか!?」

 

「うん……美味しー」

 

「ほら、レモンサワーも飲んでください! ぐいっと!」

 

「んっ、ん……美味しー!」

 

「ばかうめえ!」

 

次第に元気になってきたのを感じたので、会場中を駆け回って枝豆だとか唐揚げだとかポテトフライだとか卵焼きだとか焼き鳥だとかおでんだとか、もうしこたま買ってきてたくさん食べた。センパイのカップが空になったのを見れば、洗い場に持っていって水流で綺麗にした後に別のレモンサワーを注いで戻り、必死にそんな奔走をしているうちに――

 

 

 

「ねえ後輩くぅん!」

 

「ちょ、なんすか! うわ日本酒くさ、ちゃんぽんすな!」

 

「そーゆー細かいことゆうから陰キャなんらよー?」

 

「ひ、人が気にしてることを……」

 

センパイはすっかりできあがっていた。とはいえこの惨状を作り上げた原因は全面的にオレにあるので、泣きながら相手をするしかないのだ。対抗すべくレモンサワーを煽る。ようやく三杯目である。早く酔いたい。

 

 

「こーゆーのはねえ! すきなひととくるからたのしーの! ってか好きな人とこられればなんだってたのしいれしょ!?」

 

「いや、でもまだそこまで親しい間柄になれてない人に微妙な思いさせたくないじゃないですか……」

 

「そこでビミョーになるくらいならまず一緒になるのにむいてないから! だいじょぶ!」

 

「うう……たしかに……」

 

見てきた中で五本の指に入るくらい泥酔しているように見えたが、言っていることが正論過ぎて今日に関しては何も言えなかった。というか再三再四反省してるけど、オレがいらんこと言ったのが原因だし――

 

 

「……あ」

 

「ろうしたの~?」

 

「その……そういえば言葉足らずだったな、って」

 

「?」

 

「オレがきくりセンパイを誘ったのは、別にPAさん誘う前の叩き台にしようと思ったわけじゃなくて……いやそれもなくはないけど、まあ、何よりセンパイとなら失敗しても楽しい思い出になるな、と思ったので」

 

「…………」

 

「慣れない土地でも、アンタといればなんか安心して動けるっていうか……」

 

「…………」

 

「……センパイ?」

 

レモンサワーのコップをゆらゆら揺らしながら恥ずかしいことをつらつら語っている間に、隣のセンパイは机に突っ伏してすやすやと寝息を立て始めていた。

 

「くそ、語り損じゃんか」

 

肩に手を回して、無理矢理立たせる。のは厳しそうだったので、頑張って背負う。酒と格安の惣菜だけでできてそうな痩身は、めちゃくちゃ軽かった。

 

「今度はほんとに、ちゃんといいもの食わせて飲ませますからね」

 

「……………おねがいね」

 

首に回された手に妙な安心感を覚えながら、大通りでタクシーを止める。夜の街の灯りが、妙に滲んで見えた。

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