「なんか四人で集まるのも久々な気がしますね」
「たしかにね~」
注文の到着を待っている間、ふとオレが漏らした一言にきくりセンパイが相槌を打つ。同時にダイセンパイが「本当にな。誰かさんが忙しかったみたいだから」と含みのある視線をこちらに向けてきた。
「……今度星歌さんも誘いますね」
「いや、別にお前とサシ飲みはしなくていい」
「なんなんすか、もー」
とはいえ確かに数話分くらい放置していた気がするので今度何かいい店があったらお誘いしてみようと思う。
「おまたせしました、泡盛四つで~す」
「あざ~す」
今日やってきたのは沖縄料理のお店である。あまり馴染みがなくて興味があったのと、
で、沖縄のお酒といえばということで、一杯目から泡盛である。とはいえ、流石に水割りとかソーダ割りとかにしているが。……センパイ以外は。
「んじゃとりあえず、お疲れーす」
『かんぱーい!』
声が重なり、グラスを突き合わせ、口に運ぶ。ほのかな樽の香りと、あっさりとした舌触り。酒感はあるんだけど、割っているのもあってか、程よい味わいと飲みやすさがある。
「初めて飲んだんですけど、飲みやすくなった焼酎のような印象がありますね」
「実際、法律的には焼酎に区分されてるらしいっすよ。製法とか材料とかはちょいちょい差がありますが」
「へ~」
「焼酎より好きかもな」
ちゃんとハマったらしく、星歌さんがごくごくジョッキを傾ける。いい感じにほろ酔いになってきたところで、つまみの数々がやってきた。
「こちらラフテーとゴーヤチャンプルー、それからくんちゃまベーコンです~ね」
「あざ~す!!」
小皿に入ったラフテーとベーコンが二皿ずつと、大皿のチャンプルーが来た。既にめちゃくちゃいい匂いがする。ひとまずチャンプルーを取り分けて、手を合わせる。
「いただきま~す!」
ゴーヤのシャキシャキとした食感と独特の苦味、それらを味付けが引き立てつつ誤魔化し、アクセントに変えている。なんか、理想のゴーヤチャンプルーって感じ。卵と豆腐に豚肉とゴーヤの旨味が染み込んでてめっちゃいい。
「ラフテーってチャーシューみたいなやつだっけ?」
「豚の角煮の方が近いですね。センパイ、こんな分厚いチャーシュー見たことありますか?」
「いいでしょ、この分厚さのチャーシューがあっても!」
「夢だけは熱いですね」
丁度一皿に二切れ入ってたので、一人一つ食べる。口に入れた瞬間とろけるような柔らかな食感と、肉と脂身の旨味・甘味。やっぱりここの肉類に間違いはない。めちゃくちゃ泡盛に合うので、食べきる前に飲み物のおかわりを頼んだ。
「やっぱりここのお肉に間違いはないねえ!」
「そうっすねえ! でもまだ本命が待ってますよ!」
盛り上がるオレとセンパイは、ベーコンに箸を伸ばす。齧りついて、その香ばしさと美味さに舌鼓を打つ。
「美味すぎる……これ、絶対ベーコンのイデアなんだよな」
「うんうんうんうん」
センパイが頷くことと酒を飲むことしかできない身体になってしまった。そんなオレたちの姿を見て、他の二人も恐る恐るベーコンに手を伸ばす。そして秒でジョッキにも手を伸ばす。
「これ……めっちゃ美味いな」
「ちょっとこってりしすぎかなと思いましたが、これはこれで癖になりますね」
「でしょ~!? 私たち、これ食べるのがメインで来てるからね」
「さっき、この店来るのは初めてって言ってなかったか?」
「初めてですよ、
──先日、センパイと言ったレモンサワーフェス。ここは、そのときに出店していた店のひとつなのだ。
あのとき二人でバクバク食べたベーコンがこれである。あの味が忘れられなかったのと、泡盛が飲みたかったので来てみたのだ。思いの外店内が狭かったから、予約してきたのは英断だった。
「なるほどな」
「そうなんですね」
説明し終えると、二人が何か言いたげにこちらを見ていたので「どうかしました?」と聞き返す。すると「いや? 私たち抜きで随分楽しそうなことしてたんだなって」なんて、ジト目のダイセンパイが言った。続けてPAさんが、
「……他の女の子にも、
「えっ、いやそんなまさか!
「……ああいうことって何?」
センパイまで訝しげにこちらを睨むが、違うんですマジで。ただ楽しく飲んだだけですから。楽しすぎて記憶飛ばしたから、正直詳細は覚えてないけど。
「いいな、お前らは楽しそうでさ」
『楽しくないです』
「そういうところだぞ」
頬杖をつき、心底つまらなさそうに肉を齧る星歌さん。忙しい中せっかく来てもらっているのに、それでは申し訳ない。
「あ、星歌さん見てください。泡盛サングリアですって。めっちゃ美味しそうじゃないっすか?」
「酒ごときで機嫌がよくなると思ってんのか?」
「まあまあまあ、ここはオレが奢りますから」
*
「クソ、どいつもこいつも見る目がないんらよな! お前らもそう思うよな!?」
「いやマジでその通りだと思います、思いますのでそろそろお水とか飲まれた方が…………」
「ああ!」
「あっ、それ私の泡盛……」
気づけば、ダイセンパイがすっかり出来上がっていた。ウワバミとまではいかずとも、結構酒の飲める方だと思っていたのだけれど、普段はある程度制御して飲んでたのかも。泡盛を奪われて消沈したセンパイが、暗い瞳になる。
「まあ先輩、昔からこういうとこあったもんね」
「あ?」
「いやー、こういう気遣いができないとこだろうなって」
「お前よりよっぽどマシだろ」
「先輩今年いくつになるんでしたっけ?」
「……30歳だけど」
「あ〜、ってやめて! いま揺らされるとふつーにやばいから〜!」
『そりゃな』みたいな顔をしたセンパイの肩を、ぐわんぐわんとダイセンパイは揺らした。赤い顔が青くなった。
「いや、アレですよ。星歌さんはなんか男運ないだけです」
「喧嘩売ってんのか?」
「でも、ヒモ男とかに引っかかるよりよっぽどよくないですか?」
「それは…………」
そう主張するPAさんの瞳はめちゃくちゃ据わっていた。妙な説得力があるが……違うよね? そんな仄暗い過去は、ないよね?
「まあ、大丈夫っすよ」
「お前、何をそんな気楽に……」
「星歌さんなら絶対いい人見つかりますって。動き出せば引く手あまたっすよ」
「……根拠は」
「ほら、面倒見良いですしカッコいいですし店長ですし、何より美人さんじゃないですか。いけます、世の中顔がすべてなので」
「え~、そんな適当な励ましで先輩が喜ぶわけ──」
「そ、そうか……?」
「意外と乗り気……!」
たぶん普段だったらシカトされるか冷たい視線を向けられるかその両方なのだが、いまに限っては酩酊しているのが幸いした。
「だからほら、元気だしてください」
「うん、ありがとう……」
差し出したお冷を、彼女はごくごくと静かに飲む。普段と違って大変しおらしい様子に心が打たれるが、ここは紳士として、しっかりと妹さんの元に送り届けてあげなければならない。
「結構長居しちゃいましたし、そろそろお開きにしましょうか。星歌さん、帰れます?」
「よゆーです」
「きくりセンパイには聞いてません。星歌ダイセンパイに聞いています」
「二軒目いこーぜ」
「なるほど、タクシー呼んどきますね」
このまま解散すると夜の飲み屋街に消えていく予感があったので、ダイセンパイを三人で仲良く大通りへと運ぶ。
「この住所までお願いしますね、お釣りは大丈夫なんでこれで頼んます」
タクシーの運ちゃんに札を握らせ、運送は任せる。PAさんがさっき妹さんに連絡してくれたみたいなので、たぶんどうにかなる。
「さて……じゃあ、二軒目いこっか!」
「マジで言ってます?」
「明日休みだから私は大丈夫ですよ」
「え……じゃあ、行きます?」
「いこいこー!」
ダイセンパイの「そういうところだぞ」という声とジト目が浮かんでくるようだ。苦笑しながら、我々は夜の街へと向かうのだった。