いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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このお店はなくなっちゃったので、探さないでください……かなちぃ


天ぷらサクサク十四杯目

 

 

 

 

 

 

 

「久々に美味しい日本酒が飲みたいよ~~~」

 

「ふん、まあいいでしょう……」

 

「なんで偉そうなんですか?」

 

 そんなやり取りを経て、三人でやってきた二軒目が、都電の踏切を越えた先にある居酒屋さんである。階段を下ると、明るい照明に照らされた、木造の綺麗な店内に入る。

 

 

「とりあえずこれとこれとこの日本酒、あと刺盛り三人前お願いします」

 

 注文を終え、お冷を飲みながらふと顔を上げる。流石に結構飲んだからか、二人とも頬が少し赤い。それを見て、胸の中でむらっと疑問が膨らんでくる。が、とりあえずは届いた日本酒に舌鼓を打つことにする。

 お米の芳醇な香りに、刺し身のぷりぷりの食感ととろけるような旨味が重なって、もう優勝。幸せすぎる。

 

「やっぱ日本人ならお刺身に日本酒だよねえ」

 

「いいこといいますね。なんてったって酒の肴、ですからねえ」

 

「和食と合わせると本当に美味しいですよね」

 

「なんかその路線で追加頼みますか」

 

 日本酒が美味いところは和食に強い、という法則に従い、天ぷらと追加のお刺身も頼む。なぜなら、『ぬた漬け』なるものがめちゃくちゃ気になったため。

 

 

「おまたせしました~刺身のぬた漬けと、天ぷらですね」

 

「ありがとうございまーす」

 

 ぬたなるものは、刺身の隣の器に入れられていた。どろどろで、わさびよりも黄緑に近い形状。刺身に軽く付けて食べてみると、にんにくのパンチの効いた旨味と辛味が素材の味を引き立て、めちゃくちゃに美味しかった。はまちにめちゃくちゃ合う。

 

「うわ、ぬたえぐ……! これ違法かも!」

 

「これとお酒だけでも無限にいけるかも~」

 

「ちょっとわかるのがめちゃくちゃヤだな」

 

「天ぷらもとっても美味しいですよ」

 

 PAさんの勧めに従って、おろし天つゆに春菊をくぐらす。もう、言うことない。サクサクの衣、たまらん。

 少し意外なことに、特に美味しいのはわかめ天だった。きちんと下処理されたが故の食感を感じる。ぬるぬるした感じがない。塩辛さが、酒によく合う。

 

 

「すいませーん! 日本酒おかわりお願いします!」

 

「センパイ、飛ばしすぎないでくださいね。二軒目ですからね」

 

「だいじょーぶ、さっき潰れてる人見たばっかだし」

 

「ああ……」

 

 ドナドナとダイセンパイを運んでいった、タクシーの後ろ姿を思い出す。

 でも、たしかに不思議なことに、自分より酔ってる人がいると冷静になるものだ。だからといってセンパイが後を追わない保証はどこにもないけど。

 

「おいしい~」

 

「日本酒飲んでるときが、一番きくりセンパイっぽくて好きですね」

 

「もっと好きになっていいんだよ~?」

 

「いやー遠慮しときます」

 

「むっ」

 

 不満そうなセンパイは、一気にグラスを煽った。絶対やめたほうがいいよその飲み方、もったいないから。

 

「私は、このお酒が似合うとかあります?」

 

「そうですね……PAさんは何飲んでても画になりますけど、やっぱりカクテルとか飲んでるときが似合ってるな、とは感じますね。綺麗なオトナの女性って感じがして」

 

「ふふ……ありがとうございます」

 

 次の注文で、PAさんはカシオレを頼んだ。オレへのサービスだとは思うが、なんとなく嬉しい。

 二人がそれぞれお酒を飲んで、なんとなくほろ酔いになっているのを感じて、その雰囲気にむらむらと疑問が復活してくる。

 

 

「ずっと不思議だったんですけど」

 

「どうしたの?」

 

「なんでお酒飲むと、色気って増すんですかね」

 

「あら……もしかして、口説かれてます?」

 

「いえ、まじで学術的興味です」

 

 心からの言葉には変わりないですけど、と加えておく。随分軽率なことを言った気がするが、これもお酒のせいと言い訳しておく。

 

「アルコールの効能的ななにかのせいなんですかね、酒飲んで脳が溶けて、自分の頭が本能に忠実になってるだけかもしれないですけど」

 

「ロマンがないねえ」

 

 やれやれ、とセンパイは首を傾げた。

 

「素直になる言い訳を得たから、なんじゃない? シラフだったら絶対言わないキザなこととか言う人もいるじゃん?」

 

 一回くらい遭遇してみたいよねえ、とケラケラ笑ってセンパイは言った。

 

「キザなこと……」

 

 小さく呟いたPAさんと目が合った。同時にセンパイが「やっぱり、PAちゃんも言われてみたいよねえ?」とぐるぐる眼で言った。

 

「そうですね、是非また言われたいです」

 

「でしょ? あ〜、言ってくれるカッコイイ男の子がいたら嬉しいのにな〜」

 

「最悪の無茶ぶりやめろ」

 

 センパイはふらつく足取りでトイレに向かった。それを見送ったPAさんは、口元に手を添えて、オレの耳元で妖艶に囁く。

 

「この前みたいに、ね?」

 

 ──上気した頬と、悪戯な微笑が、いつまでも焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

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