いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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感想評価ありがとうございます、どんどんください。最近のマイブームは養命酒を飲むことです。


ビヤでヒヤヒヤ十五杯目

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のパフォーマンスもぶっ飛んでましたね、センパイ」

 

「まあ、歌詞飛んでたからねー」

 

 二人、夜の街を行く。暑さのピークは過ぎたように思うが、それでもジメッとした纏わりつくような熱気があった。

 しかし、今日に関しては出歩かなければならない。店は既に予約してあるから行かざるを得ないし、何より知らない街を楽しまないなんて損、できるわけがない。

 

「招待されたライブなのにあんなんでいいんすか」

 

「わかんないけど、呼んでくれた人笑ってたし大丈夫じゃない?」

 

「後で怒られたほうがいいですよ」

 

「その時はね、素直に謝ればいーの」

 

 頭を下げる姿が容易く想像できてしまったが、まあ知ったことではないので無視して街並みを眺める。

 東京よりも広い歩道には、夜も更け始めているというのに多くの人が行き交っている。大通りには結構な高さのビルが点々と並び、賑わいを窺わせる。

 駅前の、螺旋状に渦を巻き、先端になるにつれて細く尖っていくような謎のモニュメントまで戻ってきたところで、大人しく白旗を上げた。

 

「すいません、迷子です」

 

「え~、後輩くんが土地勘あるっていうから任せてたのに」

 

「これはまじで申し訳ないっす。いや、乗り換えで結構使ったことあるしJR付近には自信あったんですけど、行きたいのが名鉄周りの駅ビルなの忘れてました」

 

 今回何故ここ──名古屋にいるのかといえば、SICK HACKが東海付近で活動するバンドとの対バンイベントに呼ばれたため。オレもたまたまそのイベントの取材をする仕事が入ったので、仲良く打ち上げに来ているというわけだ。

 

 大人しく地図アプリに頼って、歩くこと数分。予約から数分遅れて、ようやく店へと辿り着いた。

 

「遅れてすみません、21時から予約してた廣井です」

 

「お待ちしておりました、お席にご案内しますね」

 

 皿に盛られた無数の料理をチラ見して取るものを考えながら、案内された席に着く。

 屋根はあるもののほとんど屋外のここは、駅ビルの屋上に開かれたビアガーデンである。前に通りがかった時に広告が貼ってあったのを見て、気になっていたのだ。ビュッフェ形式で、なんか80種類とかの料理があるはず。屋上だけあって、名古屋の夜景を見られるところも評価点らしい。

 

「軽く見た感じ、既にめっちゃよさげっすね」

 

「ね! 早速取り行こ!」

 

 多種多様な主菜と副菜が並ぶのを見て、うーんと唸りながら少量ずつ取っていく。

 ひとまずシーザーサラダ、枝豆、唐揚げ、焼きそばを少なめに盛って、注文カウンターの方に向かう。カウンターの下にはドリンクメニューの表が貼ってあって、大まかな酎ハイや簡易的なカクテルは結構品揃えがよかった。ビアガーデンだけ合って、ビール系は他よりも少し充実している感じだ。

 

「すみません、黒ビール一つお願いします」

 

 トレイにビールを乗せて、席まで戻る。少しして、トレイに山ほど料理を乗せたセンパイが帰ってきた。

 

「センパイ、絶対そんなに食えないでしょ」

 

「いや~いけるって、ここ数日金欠でもやししか齧ってないし」

 

 食い溜め食い溜め、とセンパイが笑った。人間の体にそんな機能はない。

 

「とりあえずお疲れーす」

 

「カンパーイ!」

 

 ビール特有の気持ちいい喉越しを堪能する。黒ビールは通常のビールに比べて最初の口当たりは軽いものの、香りの深さと後味の苦味、微かなまろやかさが特徴だと思う。

 

「正直普通のビールのほうが好みではありますが、たまには黒もアリですね」

 

「お酒ならなんでもオイシイ!」

 

「ウワバミめ!」

 

 シーザーサラダをむしゃむしゃ食べる。これはライフハックなのだが、野菜を摂れば健康になれるので、これで飲酒分のマイナスを相殺することができる。

 まあ飲酒した時点で、メンタルはプラスだ。

 

「いま気づいたんすけどオレ、ビアガーデンまで来といて、普通の居酒屋みたいなメニューしか持ってきてないんすよね。なんか損してるみたいで悔しい」

 

「食べたいモノ食べればよくない?」

 

「センパイが言うと説得力ありますね」

 

 よく見ればセンパイの皿は、揚げ物とか肉とかそーゆーのばっかりだった。たぶん、普段もやししか齧れていない反動なのだと思う。絶対胃もたれするって。

 

「私おかわり取ってきたいんだけど、後輩くんもいる?」

 

「────ぷはあ! お願いします!」

 

「は~い」

 

 立つのがめんどくさいので、イッキしてジョッキを任せた。こういうときセンパイの積極性はありがたい。

 

 

 こう……女性を働かせて自分は何もしていない時間の、なんとも言えないいたたまれなさに名前を付けたい。働いていないことを恥じる気持ちと、働かずにすんで喜ばしい気持ちと、ちょっとの優越感が入り混じってる気がする。

 

 

「おまたせ~」

 

「ありがとうございます」

 

 センパイが盛ってきてくれたビールをごくごく飲む。働かずに飲むビールは美味い。

 

「やっぱオレはこっちのが合ってますね。流石センパイ、オレが黒に飽きたことをわかってて普通のやつ持ってきてくれるなんて」

 

「……え? あー、うん、そう!」

 

「ぜってー忘れてたじゃん」

 

 自分のやつ頼む流れで重ねただけだな。いや、全然いいんだけれども。まず、働いていない人間には、文句を言う権利がないので。

 

「……後輩くん」

 

「なんですか?」

 

「春巻きとか、食べたくない?」

 

「そろそろそういう頃だと思ってました」

 

 センパイの皿に盛られた揚げ物をサクサクと取っていく。

 ここに、酒も料理も動かずに回収できる無敵のビュッフェが完成してしまった。それ、ビュッフェじゃなくね?

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