いままでもちょびちょびやってたので結構今更ですが、今話はガッツリ単行本のネタバレを含みます。基本は飲んで食ってがメインのお話なので、今後原作の内容触りそうな時にはこんな感じで前書きに警告を含ませてもらいます、今後もよろしくお願いします〜
「お疲れさまです! せんぱい!」
「あー、うん。おつかれさまデス」
退勤間際、今日はどこに飲みに行こうかとスマホを眺めていれば、媚びっ媚びのロリータボイスに引き止められた。少し棒読みの返答をしつつ見上げれば、そこに年齢不詳ツインテールの姿があった。
「久しぶりですね、佐藤さん」
「も~! 仕事中なんですからちゃんとペンネームで呼んでくださいっ!」
「オレもう退勤するとこだから大丈夫」
モロに地雷系のファッションと声音。彼女は佐藤愛子──もとい、ペンネーム『ぽいずん♡やみ』。音楽関係のフリーライターで、稀にウチのネット記事の仕事を斡旋している。で、その社内担当がオレという訳だ。
「で、どうしたの? 今日は打ち合わせとか特になかったはずだけど」
「この辺に取材の予定があったので、ついでに寄らせてもらいました!」
「ええ……? オレ、意外と忙しいんですけど」
「つれないこと言わないでくださいよ、退勤間際だったじゃないですか~」
なるほど、なんかよくわからんが狙われていたらしい。別にこの娘とは、仕事帰りに流れで数回飲みに行った程度で、わざわざ顔出してもらうほど距離が近かった覚えもないのだけれど。
「このあと予定なかったら、ちょっと付き合ってくれません?」
「まあいいけど、安めの居酒屋でもいい?」
「全然大丈夫です!」
ツインテールは元気よくサムズアップした。たぶん、奢ってもらえるのを察したからだと思う。フリーライターの貧しさを知るオレは、少しだけ嘆息した。
*
「とりあえず生二つ、あと枝豆と唐揚げお願いします」
何の変哲もない居酒屋定番のセットを注文して、無事お通しと飲み物が届いたところで、ひとまずジョッキを突き合わせた。
「はい乾杯」
「かんぱ~い☆」
黄金色の液体で喉を潤わせたところで、本題に入る前に、ひとまず聞きたかったことを聞くことにする。
「ぽいちゃんさあ、ぶりっ子の割に毎回開幕ビール頼むのキャラブレじゃない?」
「今更せんぱいの前で繕う必要あります!?」
「いや、たしかにそれはなかったわ」
そもそも、『そのキャラオレの前で通すのはやめて』と出会った頃に言ったのはオレの方だった。そうでなければきっと、甘めのカクテルでも頼んでちびちび舐めてたんだろう。その方が財布には優しいが。
「あとなんですか、その絶妙に緩い愛称は。普通やみの方で呼びません?」
「いや、ぽいずんのほうがいじり甲斐あるでしょ。ずん子と迷ったけど」
「ぽいちゃんでいいです……」
ずん子は嫌なのかよ。東北だぞ、ずんだ餅だぞ?
そんなことより
「で、今日はどうしたんだよ?」
「いやあ、ちょっと色々ありまして……」
感情をストレートに言葉にしがちな彼女にしては珍しく、何かを言い淀んでいるようだった。まあ急いでいるわけでもないので、ビールを一口と唐揚げ一個をつまみながら、気ままに待つ。
「才能が無為に消費されるのって、心底悔しいじゃないですか」
「そりゃあ、まあ」
突拍子もなく吐かれた言葉に、ひとまず頷く。そんなのこの業界では腐る程見た。メンバーに恵まれないギタリスト、ワンマンで進んできたドラマー、稼げずに楽器を置いたベーシスト。
理由も分からずメジャーシーンから去った、誰かの姿も。
「最近、あたしが好きなネットギタリストの、中の人に遭遇したんです」
「あー、前に話してた人?」
たしか《ギターヒーロー》みたいな、見るからにギター弾いてそうな名前の配信者だった。絶妙に中二臭いのが肝で、これでオレより下手だったら笑っちゃうなと思いながら再生したら、普通に上手すぎて笑いが漏れた覚えがある。
「そうです。その人が、シモキタの学生バンドに所属してて……でも明らかに、バンド全体のレベルとは合ってなくて」
「まあ、あるあるだな」
「で、あたし言ってやったんです。あなたなら即デビューできる才能があるんだから、こんなところで油売ってたら腐っちゃいますよって」
「うわあ……わかるけど、キミすごいな」
たしかに、アレ程の才能が一配信者、一アマチュアバンドに収まるのは勿体ない。が、楽しくバンドやってるやつらに向かってソレ言うのはどうなんだ。
みんながみんなプロ目指してるわけじゃないしね。アマチュアだからこそ輝く才能というのも、ないわけじゃない。
「間違ったこと言ったつもりはないです。いくらでも輝ける人が燻ってるのって、見てて悔しいじゃないですか」
「……ああ」
ただ酒癖が悪いだけで、一向にメジャーデビューできない誰かのことを思い出した。
「でも、本当はそんなことなかったのかもな、って今日思わされたんです。ちょうどそのバンドが路上ライブやってて……仕事中だったので軽くしか聴けなかったんですけど、前よりも全然、よくなってて」
「悔しかったんだろうねえ、きっと」
「……かもしれません」
「だとしたらきっと、言ってよかったんだと思うよ? ぽいちゃんの言葉が起爆剤になったなら、きっとその子達も多少なりとも思ってた部分があったんでしょ」
いや──違うか。気になるのは言ったこと云々じゃなくて、言った後の彼女たちの成長なのだから、正しくは。
「そうだよな──羨ましいよな。好きな人と、好きなことで成長していけるのは」
「……はい」
オレたちみたいに中途半端なところで燻っている人間にとって、そういうのが一番眩しいんだ。闇を照らす、光みたいに。
「まあぽいちゃんも、頑張ってるんだからいずれいいことあるよ。この前の記事も面白かった」
「ほんとですか!? えへへ、せんぱいに褒められるのが一番嬉しいです……!」
「いいところで無駄にあざとさ出すのやめよっか?」
「ちょ、本心ですって!」
もー! とぷりぷり怒る彼女の口に枝豆を突っ込んで、とりあえず黙らせる。まあたまにはこういうのも悪くないな、と思った。