いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

2 / 36
麦酒ごくごく二杯目。

 

 

 

「ライブお疲れ様です」

 

「やー、ありがと」

 

 ライブハウス『新宿FOLT』の裏口。汗だくのきくりセンパイにタオルとドリンクを渡す。彼女は身体を拭った後、一瞬停止してからペットボトルの蓋を開けた。

 

「悪ぅございましたね、ソフトドリンクで」

 

「流石にそこに文句はないよ!?」

 

 私をなんだと思ってんのさー、と手で顔を扇ぎながらドリンクを煽る。どこか物足りなさそうに見えるのは気のせいではないと思う。

 

「今日もバチバチでしたね」

 

「まーね、みんないい感じだったかも」

 

「一番よかったのは、センパイが何も機材を壊さなかったことですけどね」

 

「それ!」

 

 ビシッと指差ししてセンパイが頷いた。

 

「何年ぶりだろうなあ、銀ちゃんにどやされずに終わるの……」

 

「そのレベルなんすね……」

 

 たしかに、オレの見たライブは百発百中で何か壊していた気がする。そういうパフォーマンスなんじゃないかってレベルだ。

 

「なら今日はお金がありますし、奢らなくてもいいですよね」

 

「うん、よゆーです」

 

「っていうかむしろ、この前貸したタクシー代分で奢ってください」

 

「任せなさい」

 

 胸を張るセンパイ。任せるも何も当然の権利の行使なのだが、できる後輩なので何も言わない。ついでに思い出したので、センパイに質問する。

 

「そういえば、他のメンバーは誘わなくていいんですか?」

 

 SICK HACKの他のメンバー……ギターの清水イライザさんとドラムの岩下志麻さんだ。いつもセンパイが備品を壊して怒られるせいで、不機嫌になってしまって、志麻さんが打ち上げに着いて来てくれないらしいけど、今日ならいけるんじゃなかろうか。

 

「や、むしろ不気味がられて『早く帰って寝なよ、お大事に』って逃げられた。失礼しちゃうよね」

 

「日頃の行いですね」

 

 ちなみにイライザさんには『今日はアニメのリアタイするので帰りマース!』と逃げられたらしい。どんまい。

 

 

 

「じゃあ行きますか、打ち上げ」

 

「待ってました!」

 

「何飲みたいですか?」

 

「う~ん、打ち上げといえばやっぱり、一杯目はビールじゃない?」

 

「わかりました」

 

 新宿FOLTから数分ほど歩き、繁華街の方に向かう。三丁目付近のビルに入って、四階までエレベーターで上る。そこにあるのが今日の目的地、クラフトビールで有名な店である。

 

「いらっしゃいませ~」

 

 横に広く明るい店内には、長いバーカウンターと、背の高い丸テーブルの席が並び、客で賑わっている。

 

「十枚お願いします、それと──────」

 

 料理を数点を注文すると、会計はちょうど諭吉一枚で済んだ。番号札と硬貨十枚を受け取り、なるべく()()()()の近くに席を取って、そのままそこへ向かう。

 

「おお、すっごい……!」

 

 ずらりと並ぶビールサーバー。十数台ほどあり、それぞれ別の種類のビールが出てくる。王道のアサヒだとかキリンだとかだけでなく、ペールエール、シュヴァルツなどの色々な種類のクラフトビールが見える。

 

「たくさん買いましたし、味の違いを楽しむ意味でも、とりあえず普通の生いきますか」

 

 グラスをセットし、コインを入れてボタンを押すと、グラスが少しだけ傾き、注ぎ口からビールがなみなみと一杯になるまで注がれる。泡をこぼさないように大事に抱えて席に戻り、グラスを突き合わせる。

 

「それじゃセンパイが機材を壊さなかった記念に、カンパーイ!」

 

「乾杯~!」

 

 ごくごくと、勢いよく喉を鳴らして飲む。泡が喉を越えていく感じが大変心地いい。生きてるって実感を得られる。

 

 

「っはー、やっぱり一杯目のビールは効くね~~!」

 

「マジでたまらないっすよねえ……!」

 

 齢二十歳半ばと後半にして、オジサンくさい飲み方をしている自覚はあるが、こればかりは許してほしい。美味いもんは美味いのだ。

 そして美味いので、二人して秒で一杯分消える。なんなら今のはアップみたいなもので、ここからが本番なのだ。

 

「さて、じゃあクラフトビールいきますか」

 

「まってました!」

 

「頼んだ料理はアレだから──とりあえず、ソレがいいと思いますよ」

 

 指差したタップを捻ると、薄橙色の液体が注がれていく。ペールエール系の一品である。

 

「おまたせしました、ソーセージの盛り合わせとマルゲリータです」

 

 席に戻るとちょうど、料理が運ばれてきた。絶好のタイミングである。

 

「ソーセージはわかるけど、ピザはちょっと意外かも?」

 

「それが意外と合うんすよね。とりあえず食べてみてくださいな」

 

 いただきます、と揃って手を合わせる。四つに切り分けたうちの一つを手に取って口へと運ぶ。トマトソースの甘みと酸味、ガーリックの風味、モッツァレラの旨みがよくマリアージュしている。流石に釜焼きではないと思うけど、ピザというよりはピッツァの味わいだった。

 

「さ、グッと流し込んじゃってくださいよ」

 

「ん、ん…………んま~!」

 

 ゴクゴクと喉を鳴らすいい飲みっぷりで、センパイがビールを堪能した。

 ピザといえばワインの印象が強いが、意外とオールマイティに酒のつまみとなるのだ。ペールエールの爽やかな味わいと喉越しが、ピザの旨味をよく引き立ててくれる。

 

「このビール美味しいね~」

 

「いいっすよね。他にも色々ありますから、ジャンジャン飲んで試しましょうや」

 

 注いだ時点で、普段のビールとはまったく違う色合いの物が多い。白ビールとも呼ばれるヴァイツェン、見た目からして黒いスタウト、褐色だったり橙だったり黄金だったり、それぞれ味わいも香りもコクも段違いであり、その違いだけで無限に楽しめる。

 

 ただ、違う印象のビールたちでも、一つだけ共通している点がある。それは────

 

 

「ソーセージバカ美味ぇ……!」

 

「これは最高過ぎるかも……!」

 

 噛んだ瞬間の肉汁も、旨味も、スパイスの効いた風味も、すべてがビールにマッチしている。長年付き合いのある相棒みたいな安心感だ。センパイとその愛機、スーパーウルトラ酒呑童子EXみたいな。

 

「お肉食べてお酒飲んでる時が一番幸せだよねぇ~~~」

 

「いいこと言いますね~」

 

 そこに音楽をキメれれば無敵の布陣の完成である。センパイのライブとかでやりたいな。

 

 

「はー、満足満足!」

 

「お気に召したなら何よりです」

 

 少し膨らんだお腹をぽんぽん叩きながら、二人で店を出る。夜風が肌を刺すが、酒で温まった身体には丁度いいくらいだった。

 

「よおし、じゃあ二軒目いこっか!」

 

「満足したんじゃなかったんですか?」

 

「それはビールの話だよ~~~~」

 

 まあこの人からしたら、ウォーミングアップが終わった程度なのだろう。「明日も休みですし、付き合いますよ」と苦笑しながら答える。次は何を飲ませようか、なんて少しだけはやる胸のうちを抑えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。