いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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シカゴピザばくばく二三杯目

 

 

「あとどのくらい歩くんだ……?」

 

「たぶん五分くらいです」

 

 初冬にも関わらず、じんわりと汗を滲ませながら、オレは答える。

 隣を歩くダイセンパイも少しばかり疲れた様子だし、斜め後ろを歩くセンパイはだいぶへばっているように見える。オレは真後ろのPAさんにカッコつけるためだけに涼しい顔でスタスタ歩いて見せているが、現在進行形で普段の運動不足を実感させられている。たぶん、喫煙者なのも悪い。

 

「……ここですね」

 

「えー、ほんと……?」

 

 センパイが訝しげに言うのも頷ける。何故なら、俺が示した店は小さな看板だけ掲げた、雑居ビルの二階のインド料理屋だからである。

 急な階段を四人で上がり、左側に唐突に現れた扉を開く。暖色の照明が照らす店内は横長で、入口から正面左の細い通路を挟んで、ざっくりツーブロックに別れていた。

 

「イラッシャイ」

 

「あの、18時から予約していた」

 

「コッチ、ドウゾ」

 

 本場っぽい風貌の店員さんが、左ブロックの窓際の席に案内してくれる。比較的早い時間だからか、まだ店内はスカスカで、貸切状態だった。

 

「シカゴピザコース、OK?」

 

「お、おーけー」

 

「サイショにタクサンでてくる、ソレおわったらピザたべホーダイ。イッパイメドリンクは?」

 

「えーっと、まあ生4つで」

 

 去っていった店員は、ジョッキ4つを抱えてすぐに戻ってきた。更に開幕のシーザーサラダと、カプレーゼも運ばれてくる。チーズばっかだ。

 

「とりあえずお疲れ様でーす!」

 

「かんぱーい!」

 

 高らかにグラスをぶつけ合って、歩いて消費した分の水分を一気に補給する。やはりビールに外れはない、とても美味しい。

 サラダを適当に取り分けて、むしゃむしゃ食べる。美味しい。やはりシーザーサラダにも外れはない。

 

「あ、ラッシーがありますよ。めっちゃインドっぽくていいなあ」

 

「ラッシーのサワーとか酎ハイもあるぞ」

 

「私、カシスラッシーにしてみますね」

 

「私は普通にビールにしよ~」

 

 ラッシー三兄弟とビールを注文。同時に唐揚げと、フライドポテトがやってきた。

 

「あ~揚げ物大正義だな、たまらん」

 

「このジャンキーな味、間違いなく体には悪いのに、ついつい箸を伸ばしてしまいますよね……!」

 

 ラッシーにも触れてみる。特有のまろやかで甘めな味わいは、どこかクセになる。サワーで美味しいのかと少しっ疑問に思っていたのだけれど、これが結構合う。

 

「よかったら飲ませてもらってもいいですか?」

 

「どうぞどうぞ」

 

 PAさんとグラスをチェンジして、カシスラッシーをいただく。ラッシーのまろやかさに強い甘みが加わって、フルーツヨーグルトみたいになってて美味しい。なかなかの好相性である。

 

「私も一口もらいたいな」

 

「どぞどぞ」

 

「私にも分けて~!」

 

「センパイはもう頼んだほうが早そう」

 

「合わなかったらヤじゃん?」

 

「絶対鬼ころより美味しいから大丈夫っすよ」

 

「あ! すぐそうやって悪口を言う!」

 

「オマタセシマシタ」

 

 机上にナポリタンが置かれ、その隣に、センパイの顔と同じくらい大きなホール状の物体が置かれる。本日のメイン、シカゴピザである。

 

「これは……想像より大きいな」

 

「これがおかわり自由なんですか……?」

 

「そうっすね、これだけがおかわり自由です」

 

「お腹空かせてきてよかったかも」

 

「とりあえず切り分けますね」

 

 ピザソーサーを通すと、弾力のある感触。刃に伸びたチーズが絡んでいる。分厚い生地の中身のほとんどはチーズなのだ。カロリーの化け物、キング・オブ・チーズ・モンスター。がんばってギコギコ四等分にして、各自のお皿に取り分ける。

 

「いただきます」

 

 フォークで一口、先端側に齧り付く。瞬間口内に広がるチーズの味。もっちゃもっちゃとチーズを噛みしめる。玉ねぎの食感と程よい塩気、時々挟まるピザ生地の味が最高である。

 ピザを食べていて、生地から落ちてしまったチーズを先端に無理やり乗せて、そこに齧り付いたことはないだろうか? 例えるならアレである。あとの楽しみを捨てて、旨さにバフをかけた至高の一口目。アレが永遠に続くのが、このシカゴピザという食べ物らしい。

 

「え、旨っ……ナニコレ、ピザってかチーズ食っとる」

 

「ワイン頼みたくなってきますね」

 

「量凄そうに見えたけど意外といけるな」

 

「おかわりしよ、おかわり!」

 

 シカゴピザ一枚と、各自酒を適当に注文する。結構品揃えが豊富なのはありがたいポイントだ。

 

「オマタセシマシタ」

 

 十分程して、二枚目が到着した。アツアツのシカゴピザに各自嬉々として手を伸ばす──が、変化はすぐに訪れた。

 

「う、ちょっとしんどくなってきた……」

 

「流石にこの量のチーズは……胃もたれが……」

 

「やばい、アレがオレの未来の姿だ……」

 

 星歌さんとPAさんの二人のペースが急激にダウンした。そこまでとはいかずとも、オレも徐々にシカゴピザへの飽きが来て、段々と食べられなくなってきている。唯一元気そうなのは隣でバクバク食べ進めているきくりセンパイだけである。

 

「こういう時にたくさん食い溜めしとかなきゃいけないからね」

 

「たくましすぎるだろ……」

 

「なんだったらもう一枚くらいはいけるかも~」

 

「オレら絶対手伝えないですよ?」

 

 静止を振り切り、センパイが追加の酒とピザを頼んだ。我々が目の前のカロリーモンスターとの戦いを繰り広げる中、ラストオーダーの確認と同時にやってきたピザを、センパイはもぐもぐ食べ始める。が、当然の結果というべきか、半分ほど食べたところで手が止まった。

 

「う、やばいかも……」

 

「ほら、だから言ったじゃないですか」

 

「少しだけなら手伝えますけど」

 

「八等分の一切れくらいなら手伝ってやる」

 

「いや、そうじゃなくって……」

 

 センパイは、青い顔をして続けた。

 

「飲みすぎて気持ち悪い……」

 

「ばかめ」

 

「ちょっと夜風に当たってくる……」

 

「席の時間あと30分だからな、ちゃんと帰ってこいよ」

 

 三人合わせて四分の一ほどを処理したあとに、センパイがスッキリしたような顔で帰ってきた。

 

「おまたせ、ちゃんと食べ切れるから安心して!」

 

「センパイ、まさかとは思うんですけどその爽やかさは……」

 

 いいや、何も言うまい。きっと夜風に当たって散歩したことで消化が進んだだけだ。路地裏だとか、コンビニのトイレだとかには何の迷惑もかけていないはずである。

 センパイは、すごい勢いでピザを食べきった。

 

「あ~、もう一杯くらい頼んどけばよかった」

 

「じゃあまあ、二軒目いけばいいんじゃないですか? そんなに高くなかったですし」

 

 三千円ちょっとで済んだ。まあアレだけ飲み食いしてそれなら全然満足である。美味しかったし。

 

「財布が軽いから辛いよ~」

 

「じゃあ……宅飲みでもします? みなさんどうですか?」

 

「私は別に構わないけど……場所はどうするんだ?」

 

「言い出しっぺですし、ウチ貸しますよ。男の一人暮らしなんで大してオモロイもんないですけど」

 

 ここから二駅程度なので、そこまで遠くないのもポイントである。顔を見合わせるPAさんと星歌さん。やがて「なら……お言葉に甘えて」と言った。

 

「じゃあいきますか」

 

 ちょうど通りがかった空車のタクシーを捕まえる。駅まで遠くてだるいし、人が多いときにはこれが一番楽なのだ。社会人パワーである。

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