この作品の構造上の欠陥により、作者が良い店を見つけるか良いお酒を飲まない限り更新がされないバグがあります
「東は西武で西が東武なの、ふつーに意味わかんなくない?」
「それはそうとしか言えない」
ということで、そんな素敵な駅ビルを持つ街・池袋に本日は来ていた。普段は東口ばかりに行くので、今回は西口である。
──何故東口ばかりに行くのかと言えば、理由は簡単。
「お兄さん居酒屋探してません!? 二時間飲みホっすよ!?」
「ガールズバーやってま〜す」
「キャバクラどうですか〜」
「いや、マジで間に合ってますんで」
客引きがまあまあ多いからである。歌舞伎町レベルではないけど、そこそこめんどくさい。
「というか、仮にも女が隣にいるのにガルバのキャッチが声掛けてくるってどーゆーことなのよ」
「ガルバ、意外と女の子のお客さんいますよ」
「え、マジ?」
「マジマジ」
まあキャバ嬢の方は何の言い訳もできないけど。オレらはカレカノとかそーゆーアレコレには見られていないらしい。
「ところで後輩くん、ガルバに詳しいんだねえ?」
「いやあ、まあ社会勉強の一環と言いますか……」
「ふ──────ん」
「あ、あの店とかいいんじゃないですかね!?」
適当に指差したのは、通りに入ってすぐのところにある看板。地下にあるタイプの居酒屋らしいので、まあ、多少高くとも不味いということはないはずだ。
「和食メインっぽいので、美味い日本酒もあります! たぶん!」
「ふ──────ん」
「二杯くらい奢りますよ」
「それで手を打とうか」
薄暗い階段を降りていくと、狭めの玄関のようなスペースと、目の前には靴箱があった。土足厳禁らしい。
「いらっしゃいませ。ご予約はされておりますか?」
「いえ」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
店員さんは席の空きを確認し、そしてすぐに戻ってきた。
「おまたせしました。お席ご案内致しますね。そのままお待ちくださいませ」
案内するのにお待ちとはどういうことかと思っていれば、サンダルを履いた店員さんが階段を降り始めた。地下二階も同じ店らしい。
「こちらのお部屋となります」
靴箱にローファーを入れ、襖を開く。半個室の居酒屋らしく、今から会計が不安になってきた。が、まあ目が飛び出るほどの高さではなかったので諦めた。たぶん、セーブして頼めば三千円とかで満足できる。
「どのお酒頼もうかな〜」
──尚、日本酒を二合頼んだ時点で最低二千円、最悪三千円飛ぶ。
できるだけ安いのを頼んでくれという一縷の望みは、センパイの笑顔によって一瞬で絶たれたので、もうどうにでもなれという気持ちですき焼きを注文する。
「あ、あとこの枝豆と出汁巻き卵とすき焼きもう一人前、それから肉寿司の盛り合わせお願いします〜」
「かしこまりました〜」
「容赦がなさすぎる」
去っていく店員さんの後ろ姿を見て、静かに絶望する。聞きました? 肉寿司の盛り合わせですって。確実に二三千円しますわよ。これが先輩のやることなのか……?
「や、いいよ別に。いま頼んだのは奢ってあげる」
「……はい?」
「日本酒奢ってもらうし、そのお返しってことで」
「……何か悪い物でも食べました? いや、アルコール不足ですか?」
「いらないなら別にいいけど~?」
「めちゃくちゃ助かります! あざます!」
三つ指ついて綺麗に土下座した。スムーズにこれができるのは座敷ならではの強みかもしれない。
「いやすいません、どういう風の吹き回しなのか普通に気になってます」
「そりゃもう先輩風よ」
ちょっと酒臭そう、と思ったが黙っておいた。気が変わっちゃう展開になると困るので。
「宝くじ当たった、とか?」
「んーん」
「機材壊さずにライブできた、とか?」
「んーん」
「わかんねえ……」
「そんな大したことじゃないよ」
届き始めたお酒とつまみを流してから、センパイは「本当にわからない?」と、どこか寂しげに言った。
「すみません、皆目検討もつかないです」
「も〜、自分のことでしょうが」
そこまで言われてようやく、もしかしてという可能性に行き当たる。
「……え、誕生日が近いから?」
「正解ー。まだ一週間くらいあったと思うけど、当日会えるかわかんないからね」
たしかに学生時代、何度かそんな話はしたし、祝い祝われた記憶もある。だけどまさか、五年経っても覚えてくれてたなんて。
「おまたせしました、こちらすき焼きと盛り合わせですね」
「ありがとうございます」
「さ、どんどん食べちゃってよ」
いただきます、と品々に箸を伸ばす。肉寿司は柔らかく、とろけるような甘みと旨みがあったし、出汁巻き卵の温かい味わいは堪らないし、すき焼きは言うまでもなく最高だった。
「センパイ、マジで美味いです」
「人のお金で食う肉が一番美味しいからね」
人のお金で飲むお酒が一番美味しいようにね、とセンパイは続けた。同時にグラスを空にした。
「……お酒の分はオレが出しましょうか?」
「二杯分だけでいいよ。後輩くんも遠慮せずに飲みな? これとか美味しかったよ」
「あー、じゃあお言葉に甘えて。すいません、この日本酒と刺し身の盛り合わせお願いします! あ、あとチェイサーにこのチューハイと、馬刺しの盛り合わせもお願いします」
こういうのは下手に遠慮される方が気分悪いと知っている。ガンガン飲み、ガンガン食べることにした。
「こ、後輩くん? 大丈夫、そんなに食べれる?」
「任せといてください。ここ数日もやししか食べてなかったんで余裕です」
「なんでそんな限界大学生みたいな食生活だったの……」
「色々あって……」
久々にガッツリ新しい趣味にハマったのが悪かった。大人の財力を見せつけた結果、生活力が終わってしまった。
「ふう……まあ美味しく食べてくれるならなんでもいいや、頼めるだけ頼みな! すいません日本酒おかわりお願いします〜!」
残っていた一杯をイッキしたセンパイは、ヤケクソみたいに大量の酒を注文した。次回は奢るので、今日ばかりは許してほしい。
「今日は飲み明かすからね〜、後輩!」
「いくらでも付き合いますよ、先輩」
いつものだらしがないセンパイもいいが、たまにはこういう先輩らしいきくりさんも悪くないな、と思う夜なのだった。