『焼肉が食べたーい!!!』
『なんかいいことでもあったんすか?』
『特に何もないけど、そういう日ってあるじゃん?』
『先輩もPAさんも明日お休みでしょ? 昼からビールと焼肉で優勝しようよ〜』
『空いてはいるけど』
『絶対奢んないからな』
『私もイイ大人なんだから流石に先輩にたかったりしないって』
『イイ大人は他人の家にシャワーを借りに来ないけどな』
『イイ大人だからきっとシャワーの恩を肉で返してくれますよ』
『まあ、ちょっと多めに出すくらいなら……』
『夜には帰りますが、私も行けます』
LINEでそんな感じの流れになり、翌日である今日。
現地の最寄り駅で集合したオレたちは、そのままアーケード街を抜け、反対側の入口付近にある焼肉屋に入った。
「予約してた廣井です」
「おまちしておりました、お席ご案内しますね」
煙と肉の匂いが漂う店内を縦断し、案内された奥の席に座る。ダイセンパイを上座、隣にPAさん、オレの奥にセンパイ、そしてオレが座る。
「本日は松コースでよろしかったでしょうか?」
「大丈夫です。とりあえず生四つお願いします」
「かしこまりました〜」
待っていると、無数の大ジョッキと味付けキャベツ、サラダ、キムチが運ばれてきた。
ひとまず乾杯。昼から飲むビールがいっちゃん美味いんだから。
「ビールおいしー! お肉は何食べようかな〜♪」
「いや、何食べるも何もコースなんですって。なんかいい感じの肉が勝手に出てきますよ」
「選ぶ手間がない分楽でいいな」
くあ、と小さく欠伸をして、星歌さんはそう言った。「それは違いますよ!」と思わず反論する。
「お店焼肉の醍醐味と言えば、メニューとにらめっこして好きな物を好きなだけ頼めること……! カルビを頼みすぎて油に苦しんだり、豚やホルモンを頼みすぎて焼き時間に悶えたり、シンプルに食べきれなくて泣いたりするのも一興じゃないですか!!」
「だから失敗のないコースがいいんだよ」
じとーっとした視線は、主にオレと先輩に向けられている。なんですかその、どうせお前らが勝手に頼むだろみたいな目は。
そんなやり取りをしているうちに、次の皿が運ばれてきた。厚切りの牛タンと、それから──
「え! これは──」
「に、肉寿司!!」
先輩が糸目を見開き、ぐる目を顕にした。
肉寿司、それは旨そうな物の代名詞。ただ肉を寿司に乗せただけなのに、妙に旨い。
肉寿司、それは高級地雷店の代名詞。ただ肉を寿司に乗せるだけなので、妙に看板にされがち。繁華街の肉寿司はだいたいぼったくり。
だが、この肉寿司は──
「明らかに霜降ってるし普通にうめえ……!」
口に入れた瞬間とろける感じの肉だ。〇〇牛の冠詞が付くものであることは間違いないだろう。
「肉寿司って美味しいですね……!」
「騙されないでください、PAさん。この肉寿司はだいぶ上澄みです」
「っていうか肉焼こうよ肉!」
ハイペースで来たせいで完全に忘れてた。網にタンを広げていくと、すぐにジューッと食欲をそそる音と、匂いがやってくる。牛なので程よく表面を焼いて、パクりと一口。
「ん、うますぎ……!」
コリコリの食感と牛の旨味。たぶん取るのが早すぎたせいでだいぶ半生な感じがあるが、まあ、大抵の物はレアな方が旨いので、まあよしとしよう。カンピロバクターガチャ。
「おまたせしました、ヤキスキですね。こちらでご準備してもよろしいでしょうか?」
「よろしくお願いします」
『え、すき焼きじゃないの?』という顔を浮かべた三人に、いいから見てなさいと目配せしておく。
網の上にどかんと、文字通り山みたいに盛られた薄切りの霜降り肉の群れ。野菜も散らばっているソレの上に、
「こちら触れずにお待ちくださいね」
「はーい」
待っている間に、
「失礼致します。蓋、お取りしますね」
「おー……!」
センパイが感嘆の声を上げる。ご開帳されたクローシュの内側から、肉と野菜の芳醇な香りが漂う。ヤキスキは、焼き上がりがめっちゃ早いのだ。
「こちらの卵に軽く浸けてお召し上がりくださいね」
「はーい。あ、あとレモンサワー四つお願いします」
隙を見て酒を頼まないとあっという間に満腹になってしまう。食べ放題でなくとも、女三人と少食男一人の腹を満たすには十分すぎる量が来るのだ。
「お肉が柔らかいな」
良い肉の薄切り、しかも焼きすぎていないので、食感がフカフカである。卵がよく絡んで美味しい。
「ホルモンそろそろいいかな?」
「お腹壊してもいいならいいっすよ」
「いただきまーす! うん、ちょっと冷たいかも?」
「毒味役として最適過ぎるだろ」
「ぺっしなさいぺっ!!」
眉を顰めているダイセンパイ。
オレはセンパイの胃腸を守るべく背中を小突いたが、むしろそれは嚥下を誘発させたらしく、ごくんと喉が鳴った。
「脂のってて美味しいかも〜」
「そのうちマジで死にますよ」
まあ、生食のが美味いって感覚はわかる。いつかは鹿児島行って鳥刺し貪りたいよな。
「ん……めっちゃ美味い。もう普通に食えますねコレ」
「毒味ありがとうございます」
「いえいえ、この人に比べれば全然」
「アルコールで消毒してるからよゆーです」
「そんな度数じゃないだろ」
レモンサワーでホルモンを流しながら言う。
その辺の居酒屋に比べれば濃いが、飲み放題なのもあってか度数はそこそこだ。レモネードの味が濃いのは嬉しいところだけど、ハイペースで飲まなきゃ酔えないだろう。
「すいませ〜ん、黒霧ロックで!」
「やっぱ焼酎はロックっすよね〜、オレも同じのお願いします」
「私は水割りでいいかな」
「梅酒ロックでお願いします」
お腹が膨れてきたことで、スペースを圧迫せず酔える濃いめのお酒を頼み出す辺り、流石の酒カス集団って感じだった。
「おまたせしました、お飲み物と柔らかヒレステーキですね。焼けましたらこちらのハサミでカットしてお召し上がりください」
「ありがとうございまーす」
「分厚っ」
スーパーのセール肉と違い、しっかりと分厚いヒレ肉。適度に差した霜と脂。網に乗せ、一度裏返した辺りで問う。
「今のうちに聞いときたいんですけど、皆さん好みの焼き色は?」
「レア!」
「ミディアム」
「ウェルダン、ですかね」
「見事に三者三様ですね」
ちなみにオレはミディアムレア。それぞれの望む段階でカットして、皿に取り分ける。
「う、うまー!」
「うめ〜」
「美味いな」
「美味しいですね」
順繰りに感想を漏らして、黙々と肉を食べる。厚くて食べ応えがあるのに口の中で蕩けるので、なんか脳がバグる。
「ふう、満腹だな」
「大満足ですね」
「あとは飲むだけっすね」
「すいませ〜〜んビールお願いします〜〜〜」
「センパイ暴飲暴食し過ぎじゃないですか?」
「だいじょぶ、今のうちに飲み貯めしとかないと!」
「だから人間にそんなシステムはないんだって」
数十分後、お腹を下したセンパイのせいで退席が遅れ、お店に迷惑をかけたことは言うまでもない。
責任を感じたのか会計をすべて持ち、お釣りを拒んだ辺り、やはりセンパイはなんとも憎めない奴である。