いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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三重チェーンの三十杯目

「後輩く────ん、お外でコスパ飲みがしたいよ〜〜〜」

 

「センパイは知らないかもしれませんが、実はお酒って飲まない方がコスパいいんですよ」

 

「それじゃ財布はプラスでも心はマイナスでしょ!」

 

「まあそりゃそうだ。じゃあやりますか、コスパ飲み梯子酒」

 

「いえーい!」

 

 折角なのでいつでもどこでもコスパ飲みを楽しんでもらえるように、今回はチェーン店に縛ってコスパ飲みを紹介したいと思う。

 

 ①中華食堂

 

「あ、うちの最寄り駅前にもあるお店だ〜」

 

「都内ならだいたいどこにでもありますよね」

 

 昼下がりのスーツの群れで賑わう店内に入り、ラーメンとチャーハンを一ずつ、それから餃子とビールを二人前ずつ注文する。

 

「まずは腹ごしらえがてら、ということで」

 

「いただきまーす!」

 

 皮ぱりぱりの餃子をもきゅもきゅと食べて、ビールで流す。味も勿論なんだけど、周りのサラリーマンたちの視線が大変心地よくていいつまみになる。ごめんな、昼休みに薄着の女と酒飲んで。

 

「ちょっと後輩くん、私にもラーメン分けてよ」

 

「いいですけど、オレにもチャーハン食わせて下さいね」

 

 目の前に置かれたチャーハンにスプーンを伸ばす。うん、チェーン特有の変わらない味がいとおしい。香味油だか中華味だか分からない謎の旨味と、ネギのシャキシャキ、卵のふわふわ。いや、ラーメンじゃなくてこっちにすればよかったな。

 

「うん、美味し〜。でもこれコスパいいの?」

 

「いいっすよ。一人頭ギリ千円行かないんで、まあ飯のついでのチョイ飲みとしてはいいっしょ」

 

「ちょい飲み過ぎるよ……」

 

「まあマジで腹ごなしなんで」

 

 もうアラサーなので、オレも昔みたいに何も腹に入れずに飲むのはやめたのだ。臓器によくないらしいので。

 

「次からはがっつり飲みますからね」

 

「楽しみ〜」

 

 ②貴族

 

「やっぱりね、貴族です」

 

「え、ちょっと高いイメージあるんだけど。だって貴族だよ?」

 

「実際ちょっとは高いです。ただそれは基準値が個人経営の安い店だったり、適切なメニューを選べてないだけで、しっかりピックできればだいぶ安いっす」

 

 タブレットで酒一杯ずつと貴族焼を頼む。コスパだけ見るなら鳥白湯と釜飯辺りがいいんだけど、飯はさっきがっつり食ったからもう、妥協である。

 

「おまたせしました〜」

 

「でかっ!」

 

「どでかサイズの奴、めっちゃでかいんすよね」

 

 たぶんL単位のジョッキである。発泡酒だと氷の嵩増しもないので、しっかり安い感じがしていい。

 

「おいしいかも〜」

 

「品がない!」

 

 センパイはジョッキを振って氷をカラカラと弄びながら飲む。あ、コラ。鳥用に頼んだ薬味に目を向けるんじゃありません。

 

「こちら貴族焼ですね」

 

「あざーす」

 

 味付けはタレではなく、塩でもなく、スパイス。それだけはマストなので、これだけ覚えて帰ってほしい。

 

 口に含んだ瞬間香る芳醇なスパイス。塩味と香ばしさが程良くて、酒がよく進む。

 

「そうするとあっという間に酒が消えるから、おかわりを頼みましょう」

 

 貴族ドデカ三強最期の一角・レモンサワーに手を付ける。居酒屋のレモンサワーってサッパリしすぎなやつが多いけど、ここのは程良く甘いから好きだ。たぶん、濃いめな原液だと思う。

 

「お腹たぷたぷかも。え、でもあんまり酔ってる感じしないね?」

 

「あんまり度数は濃くないんですよ。ほらここ見て下さい、注文票に純粋アルコール量が書いてあるじゃないですか」

 

「へ〜、ほんとだ。面白いね」

 

 ビールのロング缶がだいたい25gのアルコール量なので、それを基準に考えてもらえばわかりやすいと思う。

 

 いまのデカジョッキはその半分くらいの量なので、酔うことそのものを目的とするならコスパは悪いが、量と味を鑑みればまあ、タイパ的に結構いいんじゃね? と僕は思う。

 

「酔いたいならもう、結局宅飲みで──ってなっちゃいますけど、最後の三軒目はガチなんで。ほんとここだけで酔えるんで」

 

「じゃあ初めからそこでよかったんじゃ──」

 

「いつでもどこでもそんな素敵なお店があると思ったら大間違いですからね。択が広いのが一番大事なんで」

 

 特に、他二軒と比べて、どこにでもあるわけではないからサブプランが必要なのだ。

 

 ③イタリアン

 

「えっ、ファミレスじゃん」

 

「ファミレスですよ」

 

 しかしファミレスと侮るなかれ。なんとここのワインはバカ安い。

 

「え、500mlで400円!?」

 

「一人で頼む分にはそれが一番コスパいいっすね」

 

 250ml200円の方でも値段的には変わらないので、そちらでも構わない。今回は酒カスが二人いるから、もっとすごいことするけど。

 

「おまたせしました、赤と白のデカンタ、それからWチーズのモッツァレラピザですね」

 

「あざーす」

 

「おー、壮観だねえ……!」

 

 グラスにまずは赤を注ぎ、乾杯してからピザを齧る。よく伸びるチーズのもきゅもきゅとした食感。ピザってかチーズを齧ってる感じでたまらない。バジルの風味も良いアクセントである。

 

「うま〜! 500円でこのピザ食えるのめっちゃいいねえ」

 

「一人で来るなら、ドリアの方もオススメですよ」

 

 ピザよりちょっと安いし。

 チーズを食べたので、マナーとして赤ワインを煽る。うん、流石にめっちゃ美味しいわけではないけど、食中酒としてはじゅうぶん美味い。渋すぎずえぐすぎず丁度いい。なんか、いい意味でも悪い意味でも水みたいな感じ。

 

「赤白合わせて500mlとピザ一枚食っても千円いかないの普通にやばいですからね。ドリアだったらドリンクバーつけても1000円ジャストだし、これが真のせんべろかもしれないっす」

 

「でもうちの近所この店ないんだよねえ」

 

「程良い郊外にだけある印象ありますね」

 

 あるいは逆にめちゃくちゃ都会なところか。どちらにせよ結構混むので、ファミレスにあるまじきレベルで混み、長居しづらいのは唯一のデメリットかもしれない。

 

 いや、いい大人がファミレスに居座るなよと言われたらその通り過ぎて何も言えないけど。酒がある限り追加で何か頼むから許してくれ。

 

「センパイ、なんか欲しいつまみあります? そのくらいはオレが出すんで、二人で分けましょうよ」

 

「あ、マジ? じゃあ生ハムチーズと、ハンバーグと、辛味チキンと……」

 

「加減ってものを知らないんですか?」

 

 しっかり爆食いされたので、オレも爆飲みすることでどうにか釣り合いを取ってプラマイゼロにした。差し飲みの会計ってのは平等が一番気持ちいいからね。

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