いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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ぼざろ二期決定いぇーい!!!『グルーミーグッドバイ』楽しみすぎ!!!!!
最近廣井きくりの深酒日記を一気読みしたんですけど、まさかのこの作品が解釈違いの可能性が出てきており、とても大変なところ



タンキにイッキの三十二杯目

 

 

『今日宅飲みできる人いる~?』

 

『んー、仕事終わったあとならいいですよ。20時くらいかな』

 

『今日はパス。別の予定ある』

 

『21時くらいでよければいけます』

 

『おっけー、じゃあとりま後輩くんちいくね!』

 

 どうせセンパイは何も持ってこないだろうと踏み、酒とつまみを買い込んで、ビニール袋両手に帰宅すれば、部屋の前で体育座りしている成人女性の姿があった。

 

「何やってるんすか、センパイ」

 

「何って君を待ってたんだよ、後輩」

 

 はー、と白い息を吐きながらセンパイは言った。相変わらずのスカジャン下駄姿に、寒そうだなという感想を抱きつつ「ヒマなんですか?」と聞いてみた。

 

「むっ、失礼な! たしかに今日はスタジオ練もなくてすることなかったけど!」

 

「それを暇人って言うんですよ」

 

 鍵を開けて、部屋に招き入れる。寒空の下待たせるの悪いし、合鍵を渡すべきか? と一瞬思ったが、そんなことをしたらセンパイのシャワーレンタルローテがウチで固定されてしまう、ということに気づいて、秒でやめた。

 

「どうぞ。PAさん来るまでオレ色々準備するんで、センパイは適当に寛いでください。酒はまだあげませんからね」

 

「だいじょうぶ、今日は持ってきた鬼ころがあるから〜」

 

「うわっ、まあ勝手に飲んでてください」

 

「だって寒かったんらもん!」と最悪の弁明をするセンパイを尻目に、食材の準備を始める。冬場だし、最悪残った場合オレの朝ごはんになってラッキーなので、今夜は鍋パである。

 食材を適当に切って、市販の鍋の素と共に突っ込んで、煮込み始める。PAさんを待つか迷ったが、目の前に既に飲んでる女がいるので、オレも気にせずビールを開けることにした。

 

「ってか、センパイがグループで宅飲み提案するの珍しいっすね。金ないんですか?」

 

「それも当然あるけど、ちょっとやりたいことあるんだよねー」

 

「はあ」

 

 いつも通り手ぶらだったが、何がしたいのだろう。まあ概ねロクでもないことなんだろうなと当たりをつけた辺りで、インターホンが鳴った。この家に来る人間でそんな殊勝なことをするのは一人しかいない。

 

「お疲れ様です」

 

「お疲れっす〜」

 

 予想通り、PAさんが玄関の前にいた。仕事後だからか、いつもより香水の匂いが濃くて、ちょっと興奮する。

 

「PAちゃんおっつー、先飲んじゃってるよごめんね〜〜〜」

 

「遅くなっちゃいましたし、そんな気はしてたので大丈夫です」

 

「んじゃ鍋パ始めますか」

 

 卓上のガスコンロに土鍋をセットして、点火する。元から火を通していたこともあり、鍋はすぐにグツグツと煮え始めた。

 

「「「かんぱーい」」」

 

 缶を突き合わせてそのまま煽る。グラスじゃないが故のこの軽い音と感触が、宅飲みという行為の本質を表現している感じがして好きだ。

 

「お肉だけ入れたてなので、まだ取らない方がいいっすよ」

 

「ふえ?」

 

「あっこら普段食えないからって欲張るから!!」

 

 センパイが口から赤身肉をぶら下げて首を傾げていた。まあ牛だし死なないだろと思いたい。

 

「美味しいです。やっぱり後輩さんって料理お上手ですね」

 

「ありがとうございます! まあ市販のタレのパワーですけどね。PAさんの方こそ──」

 

「そこの二人ー! 私を挟んでイチャつかないで!!」

 

 センパイの悲痛な叫びが響いた。い、イチャついてないし。という思いの籠った咳払いが重なった。

 

「──で、今日は何用なんですか? さっきやりたいことがあるって言ってましたけど」

 

 ある程度鍋の中身が空いたところで切り出す。たぶん早めに言わないと、忘れたまま飲み続けるだろうなと思ったからである。

 

「え? あ〜〜〜」

 

 案の定忘れていた様子だったセンパイは、ポンと手を叩いて、それからワンカップ(六本入りパック)を、勢いよく机上に置いた。

 

「──飲みゲーをしよう」

 

「は?」

 

「飲みゲーがしたいの!」

 

「大学生ですか?」

 

 アラサーとは思えない提案だった。一応確認をとる。

 

「飲みゲーって、あの何かゲームして負けたら罰ゲーム的にテキーラをイッキしたりするアレですよね?」

 

「そう!」

 

「もしかしてテキーラの代わりにワンカップイッキさせようとしてます?」

 

「そう!」

 

「そんなの絶対嫌なんすけど」

 

「嫌じゃなきゃ罰ゲームじゃないでしょ?」

 

 ニコニコ笑顔でセンパイは言った。おい一人だけ罰じゃなくてボーナスになってる奴いるって。

 

「なんでまた急に……」

 

「この前居酒屋行ったら隣の卓で始まってさ〜、めちゃくちゃ盛り上がってていいな〜〜〜って」

 

「たぶんオレらでやってもそんな盛り上がらないですけどね」

 

「後輩さんも廣井さんも、そういう物に手馴れていそうな印象がありますけど」

 

「オレらのサークル、意外とそういう嫌なノリはなかったんすよ。勝手に飲んで終わるヤツは無限にいましたけど」

 

 オレとかセンパイとかね。健全なサークルの姿である。

 とはいえ飲みゲーって、嫌よ嫌よも好きのうちというか、飲みのストッパーを外して馬鹿になれるのを楽しむ物なので、普段から馬鹿なオレとセンパイには不要だろう。

 

「私、ちょっと興味ありますね」

 

「えっ」

 

「この歳になると自分の限界値も分かって、あまり飲みすぎることってないじゃないですか。だからこそ少しやってみたいかなーって」

 

 意外な反応である。となると、オレも特に反対する理由はない。この中で一番アルコール耐性が低いであろうPAさんへの気遣いの意が大きかったので。多数決的にも負けてるし。

 

「んじゃやります?」

 

「やろー!!」

 

「飲みゲーって、具体的にはどんなことをするんです? 何かゲームをして負けた人が飲むのは分かるのですが」

 

「そうっすね、トランプとか黒ひげとかワニワニとか、運実力ないまぜの奴で場をあっためてくのが定番ですかね。ある程度酔ってくると、飲みの場でしかやらないような、手遊びみたいなゲームしたりするんですけど……まあその辺はおいおい。とりあえずこのアプリ入れてもらっていいですか?」

 

 二人に入れさせたのは、パーティゲームを手軽に遊べるアプリである。ほんとは実物があった方が盛り上がるんだろうが、一人暮らしの男の家にそんな愉快な物はない。

 一旦、話題にも上がった黒ひげを遊ぶ。残りの穴の数と()()()の場所の数が設定できて、それを確認できるのはデジタルならではだ。ドキドキしながら剣を刺すあの感覚は味わえないが、演出でフェイントをかけてくるのでそれなりには楽しめる。

 

 五巡目。

 

「そろそろ危ないんじゃない?」

 

「そうですね……」

 

 スマホをスワイプして画面上の樽をくるくると回し、PAさんは悩ましげに唸った。もう穴は少なくなってきていて、そこそこの確率で当たりそうな感じだ。

 

「えいっ」

 

 穴をタップして剣を差し込むと、一瞬ぶるぶると黒ひげが震える演出が入ったが、飛ぶことはなくそのまま耐えた。

 

「ふう、ヒヤリとしますね」

 

「ですね」

 

 この流れでオレも、と思って穴をタップしたが、爆風のエフェクトと共に、黒ひげは無慈悲に宙へと飛んでいった。

 

「げっ」

 

「はい後輩くんイッキ! イッキ!」

 

「クソァ!」

 

 蓋を開けて、ワンカップを一息に煽る。一気飲みのコツは、味あわずに流し込むことである。

 

「ぐええ……テキーラのショットより十倍くらいキツイ……」

 

 ショットが30mlとかなのに大して、ワンカップは180ml。テキーラがだいたい40度前後でワンカップは15度程度だから、まーアルコールのしんどさだけで言っても倍はある。

 っていうか、ワンカップ特有の雑味と酒臭さがエグい。後味がそれなりに甘ったるいのもあってガチで気持ち悪くなる。

 

「ん? 後輩くん結構残してない? ミーリ残し、ミリ残し!」

 

「あっ、センパイ飲んでいいですよ」

 

「え〜ありがと〜!」

 

 残ってた丁度ショット程度のワンカップを、センパイはペロりと飲んだ。

 危なかった、センパイが酒カスで助かった。いまのはしっかりイッキしなかった人間を攻め立てる、追い討ちのコールである。アレで複数名に煽られるとつい飲んじゃうのだ。飲み切ったあとに入る別のコールも気持ちいいので。

 

 

 数回黒ひげを遊んで、オレとセンパイが二杯ずつ飲んだところでゲームを変えることにする。

 

「コレは……なんですか?」

 

「アングリーオジサンです」

 

 とてつもなく簡単でシュールなゲームである。

 4×4の形で、同じ顔のオジサンが敷き詰められている。それを触ると『隣の囲いはかっこいー』みたいなくだらない台詞とともに、おじさんが消えていく。

 が、その中に一人だけ、触れると怒り出すアングリーオジサンがいるのだ。

 

「それ引いた人が負けで飲み、ってだけのルールです。いきますよ?」

 

 十六分の一なだけあって、一周目は何もなく終わる。だが肝は二周目からだ。

 

「ほいほいっと」

 

「え、二個触った!?」

 

「そうですよ。もちろん先輩たちも二個触ってくださいね」

 

 誰かがやり出したら全員乗っかるのが、飲みの場の不文律である。

 乗っかってセンパイも二個。そしてPAさんも二個触った。

 

 が。

 

「きゃっ」

 

 画面全体が、オジサンの真っ赤な怒り顔で覆われる。遂に一杯目が投下される時が来た。

 

「はい、じゃあPAちゃんも飲んでね〜」

 

「マジで無理しなくていいですからね、自分のいける範囲で頑張ってください」

 

「ご心配いただきありがとうございます」

 

 微笑んだあと、PAさんはワンカップの蓋を開けて両手で握る。そして瓶を傾けると、コクコクと勢いよく流し込み──アレ? オレよりちゃんと飲んでない? 

 

「──ふう、聞いていたより全然美味しいですね」

 

「PAさん、やりますね……!」

 

 口の端を伝った雫を拭って、PAさんが微笑む。

 まあワンカップがヤバいっていうのは、スト虚無がヤバいっていうのとほとんど同ベクトルなので、酒飲める人からすれば許容範囲なのだ。そうじゃなきゃこんなに有名になってないし。

 

「では早く続きをやりましょう! 絶対お二人に飲ませますよ!」

 

「臨むところだよ! どんどん飲ませて!」

 

「ほんとに望んでるじゃん、オレは絶対二人に飲ませますからね」

 

 

 *

 

 

 そして一時間後。

 

「ありぇ? もうぜんぶから?」

 

「センパイが……めっちゃ飲みましたからね……」

 

「後輩くんも飲んれよー!! ないならコンビニいこ!?!?」

 

「だるすぎる、いまのオレらが飲んでいいのは水だけだし行っていいのはトイレだけですからね……」

 

「えー!!」

 

 文句を垂れていた割に、数分もすればセンパイの方から寝息が聞こえてきた。流石の酒カスもアレだけ飲めば潰れるらしい。

 オレも別に余裕はない。現在進行形で頭がフワフワガンガンする。四本目のワンカップをいったところで限界が来てトイレに駆け込んだため、アルコール自体は多少抜けてシンプルに具合が悪くなった。やっぱり、吐いた直後とゲロの処理してる時がいっちゃん酔い覚めるんだから。

 

 ちなみに、PAさんは二本目を飲んだ直後に真っ赤な顔でフラフラポワポワし始めたため、オレのベッドに寝かせた。思えば一本目いってすぐもテンションが高かったし、あの時点でそこそこ酔っていたのだろう。

 オレはその後も一人でセンパイに付き合わされたせいで死んだが、PAさんに醜態を見せずに済んだのは不幸中の幸いか。

 

「シャワー浴びなきゃ……でもだりぃな……酔い覚ましに吸ってくるか……」

 

 ライターとメビウスを握って、ベランダに向かおうと立ち上がる。しかしフラつく足で踏み出した一歩で体勢が崩れて、思わずベッドの端に手をつく。

 

「ん……」

 

 スプリングが軋んだ。そのせいか、寝ていたはずの彼女が顔を歪めて身じろぐ。起こしちゃ悪いと去ろうとすると、袖口を掴まれる。

 

「どこ行くんですか……?」

 

「ちょっと外の空気を吸いに……」

 

「……そのあとは?」

 

「その辺で寝ます」

 

「だーめ」

 

 ぐい、と引き寄せられる。相変わらずフラついていた足は、つんのめって、思わず覆い被さる形になる。

 

「風邪引いちゃいますよ……一緒に、寝ましょう?」

 

 彼女が微笑む。その頬はまだ少し赤かったが、きっといまのオレの顔はそんなものではないだろう。

 

 ──スプリングが軋んだ。

 

 

 

 

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