いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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市場でいちいち三十六杯目

 

 

 翌日。

 

「頭痛ェ……」

 

 倦怠感と吐き気、それから頭痛。完全な二日酔いである。しかも、何故かシングルベッドが狭い。

 

「センパイ、何やってんすか。自分の部屋で寝てくださいよ」

 

「無理、動けないです……お水と味噌汁をください……」

 

「こっちの台詞過ぎるな」

 

 とはいえ、「コイツよりはマシ」を感じると途端に軽くなるのが二日酔いである。強者の義務として冷蔵庫のウェルカムドリンクを取り出して、飲ませてやった。

 

「ん、ありがと……」

 

「いえいえ」

 

 ちらりと時計を見遣れば、朝八時。一応、朝食バイキングの時間ではあるが。

 

「……センパイ、飯行きます?」

 

「お腹空いてるけど、今入れたら絶対吐く気がする……」

 

「わかる〜……」

 

 二日酔い特有の、胃がバグった感覚。栄養が足りてないけど、異物(アルコール)は排出したいというイカれた状態。これを解決するには一択しかない。

 

「チェックアウト三十分前にアラームをかけて、と……」

 

 二度寝である。結局、全ての物事は時間が解決してくれる。

 

 

 

 *

 

 

 

「寝坊した……!」

 

 全然アラームで起きられなかった。なんならフロントからの電話で目覚めた。チェックアウト時刻は余裕で過ぎている。

 しかし、ホテルには悪いが睡眠のおかげで体調はかなり改善された。今日はやらなければならないことがあるので、この快復はかなりデカい(そもそもそんな時に二日酔いするなと言われれば、ぐうの音も出ないけど)。フロントで謝り倒して、慌ててチェックアウトした。

 

「や〜、後輩くんおまたせ」

 

「ちゃんとホテルの人にごめんなさいしました?」

 

「そんなに私の信用ないの……?」

 

「何だったらフロントの人がファンだったみたいで、サイン書いてきたよ」と、口を尖らせたきくりさんは言った。ちゃんと仕事してるじゃん。

 

「いいじゃないですか。じゃ、今日もアーティストらしく撮れ高作ってくださいね」

 

「一旦鬼ころ買ってきてもらっていい?」

 

「迎え酒しようとすな」

 

 それに、今日の日中は絶対に飲まないでほしい。何故なら今日は、何かあった際の()()が必要なため。

 

 

「じゃ、シートベルトと覚悟の準備をしておいて下さいね」

 

「ほ、本当に大丈夫なんだよね……?」

 

「たぶん、きっと」

 

 レンタカーのキーを回して、エンジンをかける。今日は観光地を周りながら高知に向かうため、車移動なのだ。

 

 

「ちなみに、オレはペーパーで、数年ぶりの運転であり、実質わかばドライバーであることを、センパイには伝えておきます」

 

「今からでも変わろうか!?」

 

 常にアルコールが体内に残っていそうな上に、仮にもゲストである人にそんな真似をさせる訳にはいかない。せめて市街地を抜け、限界を悟ったあとの最終手段とさせていただきたい。

 

「ちなみに、自動車事故の死亡率って助手席が一番高いらしいですね」

 

「せめて後部座席に座らせてもらってもいいかな?」

 

 

 

 ──などと愉快なやり取りをしていたが、特に何事もなく旅は進んでいった。

 有名な無人駅にいったり、その近くのカフェで名産のじゃこ天と生ビールに舌鼓を打つセンパイに歯噛みしたり、海を眺めたり、山中の悪路を越えた先の雄大な四国の自然に圧倒されたりと、撮れ高盛り沢山で無事、本日の目的地である高知県まで辿り着くことが出来た。

 一旦ホテルにチェックインして荷物を置き、自由を確保する。

 

「さて、じゃあ本日のメイン目的地に向かいますか」

 

「ワクワクするねえ」

 

 市街の方に向かい、商店街を歩いているとその場所は突然現れる。

 広々とした広場みたいな入口と、マスコットである猫の置物。高知県が誇る観光名所の一つ、ひろめ市場である。

 

「それじゃ行きますよ!」

 

「おー!」

 

 中に入ると、所狭しと店が軒を連ねている。平日にも関わらず人でごった返しており、活気と熱気と、それから酒気を感じる。

 

「色々あって目移りしちゃうね」

 

「ですね」

 

 やはり目立つのは海鮮系で、名産のカツオのたたき、王道のまぐろ系だけでなく、蟹だとかクジラだとか、多種多様な物がある。

 餃子とか肉系とか、普通のつまみも多くて全然目移りする。

 

「一旦、席取りますか」

 

 奥の方に座席があって、市場内で買ってきた商品をそこで食べることができる。座席のある飲食店も多いらしいが、どうせならまずは色々買って、満遍なくつまみながら飲みたい。

 

 そんな感じで、諸々買い揃えて戻ってきた。

 

「んじゃ飲もー!」

 

「おー! いただきますか!」

 

 ぱちん、と手を合わせて、それからボムっとプラカップを突き合わせる。

 

「「カンパーイ!」」

 

 ゴクゴクと、生ビールを流し込んでいく。いやあ、一日運転したあとの一杯は格別である。

 

「何から食べます?」

 

「お刺身いきたいよね〜」

 

 まずは通らしく、白身魚からいきたい。

 一旦鯵に箸を伸ばす。臭みがまったくなく、旨味だけが舌先に残る。新鮮だからか身もしっかりしてて、食感がいい。

 

「良い(あじ)してる〜」

 

(あじ)だけに!?」

 

 ガハハ、とどちらからともなく笑う。早くもハイになってきている。

 

「ブリ食べちゃお〜」

 

「え、後輩くんその緑のヤツ何?」

 

「ぬたですよ、ぬた!」

 

「あー、あの美味しかったヤツ!」

 

 ぬたと言えば一般的には黄色いが、高知の物は緑なのだ(十四杯目参照)。葉ニンニクや味噌、酢などを混ぜて作られたパンチのある味わいは、脂の乗ったブリと大変相性が良く、もうブリブリになってしまう。

 

「これはお酒が進むね」

 

「流石にビールが最高すぎますね。でも折角の魚だから、日本酒も買ってきちゃお〜」

 

「いいね!」

 

 本当は買いたくなかった。なぜなら、観光地価格と言うべきか、別に東京でも買える銘柄なのに割高なので。

 それで言うと買い漁ったつまみも別に安くないんだけど、まあ、旅行バフで許すことにした。センパイじゃないけど、経費で落ちることを祈るばかりである。

 

「くじら、美味え〜」

 

 酒を見ながら、手元を見て思う。魚の方はなかなか大味でガッシリしており、肉感があって美味しい。酒の方ともとても相性がいい。

 

「うん、満足!」

 

「そりゃよかったです」

 

 買ったつまみを平らげたため、追加の品を買おうと市場を回っていたものの、二人とも特に食指は動かず、退出を決意した。面白い場所だったものの、良くも悪くも観光地って感じだった。雑多で混んでるし、若干値も張るため、飯を食う場所として最高かと聞かれると、ちょっと悩ましい。

 

「え、っていうかなんかガッツリご飯食べたくない?」

 

「中途半端につまみ食った時のあるあるですよね」

 

 我々の欲望に際限などないのだ。折角高知まで来てるし、なんか美味しそうなものでも探すか、と、夜の街に繰り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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