翌日。
「頭痛ェ……」
倦怠感と吐き気、それから頭痛。完全な二日酔いである。しかも、何故かシングルベッドが狭い。
「センパイ、何やってんすか。自分の部屋で寝てくださいよ」
「無理、動けないです……お水と味噌汁をください……」
「こっちの台詞過ぎるな」
とはいえ、「コイツよりはマシ」を感じると途端に軽くなるのが二日酔いである。強者の義務として冷蔵庫のウェルカムドリンクを取り出して、飲ませてやった。
「ん、ありがと……」
「いえいえ」
ちらりと時計を見遣れば、朝八時。一応、朝食バイキングの時間ではあるが。
「……センパイ、飯行きます?」
「お腹空いてるけど、今入れたら絶対吐く気がする……」
「わかる〜……」
二日酔い特有の、胃がバグった感覚。栄養が足りてないけど、
「チェックアウト三十分前にアラームをかけて、と……」
二度寝である。結局、全ての物事は時間が解決してくれる。
*
「寝坊した……!」
全然アラームで起きられなかった。なんならフロントからの電話で目覚めた。チェックアウト時刻は余裕で過ぎている。
しかし、ホテルには悪いが睡眠のおかげで体調はかなり改善された。今日はやらなければならないことがあるので、この快復はかなりデカい(そもそもそんな時に二日酔いするなと言われれば、ぐうの音も出ないけど)。フロントで謝り倒して、慌ててチェックアウトした。
「や〜、後輩くんおまたせ」
「ちゃんとホテルの人にごめんなさいしました?」
「そんなに私の信用ないの……?」
「何だったらフロントの人がファンだったみたいで、サイン書いてきたよ」と、口を尖らせたきくりさんは言った。ちゃんと仕事してるじゃん。
「いいじゃないですか。じゃ、今日もアーティストらしく撮れ高作ってくださいね」
「一旦鬼ころ買ってきてもらっていい?」
「迎え酒しようとすな」
それに、今日の日中は絶対に飲まないでほしい。何故なら今日は、何かあった際の
「じゃ、シートベルトと覚悟の準備をしておいて下さいね」
「ほ、本当に大丈夫なんだよね……?」
「たぶん、きっと」
レンタカーのキーを回して、エンジンをかける。今日は観光地を周りながら高知に向かうため、車移動なのだ。
「ちなみに、オレはペーパーで、数年ぶりの運転であり、実質わかばドライバーであることを、センパイには伝えておきます」
「今からでも変わろうか!?」
常にアルコールが体内に残っていそうな上に、仮にもゲストである人にそんな真似をさせる訳にはいかない。せめて市街地を抜け、限界を悟ったあとの最終手段とさせていただきたい。
「ちなみに、自動車事故の死亡率って助手席が一番高いらしいですね」
「せめて後部座席に座らせてもらってもいいかな?」
──などと愉快なやり取りをしていたが、特に何事もなく旅は進んでいった。
有名な無人駅にいったり、その近くのカフェで名産のじゃこ天と生ビールに舌鼓を打つセンパイに歯噛みしたり、海を眺めたり、山中の悪路を越えた先の雄大な四国の自然に圧倒されたりと、撮れ高盛り沢山で無事、本日の目的地である高知県まで辿り着くことが出来た。
一旦ホテルにチェックインして荷物を置き、自由を確保する。
「さて、じゃあ本日のメイン目的地に向かいますか」
「ワクワクするねえ」
市街の方に向かい、商店街を歩いているとその場所は突然現れる。
広々とした広場みたいな入口と、マスコットである猫の置物。高知県が誇る観光名所の一つ、ひろめ市場である。
「それじゃ行きますよ!」
「おー!」
中に入ると、所狭しと店が軒を連ねている。平日にも関わらず人でごった返しており、活気と熱気と、それから酒気を感じる。
「色々あって目移りしちゃうね」
「ですね」
やはり目立つのは海鮮系で、名産のカツオのたたき、王道のまぐろ系だけでなく、蟹だとかクジラだとか、多種多様な物がある。
餃子とか肉系とか、普通のつまみも多くて全然目移りする。
「一旦、席取りますか」
奥の方に座席があって、市場内で買ってきた商品をそこで食べることができる。座席のある飲食店も多いらしいが、どうせならまずは色々買って、満遍なくつまみながら飲みたい。
そんな感じで、諸々買い揃えて戻ってきた。
「んじゃ飲もー!」
「おー! いただきますか!」
ぱちん、と手を合わせて、それからボムっとプラカップを突き合わせる。
「「カンパーイ!」」
ゴクゴクと、生ビールを流し込んでいく。いやあ、一日運転したあとの一杯は格別である。
「何から食べます?」
「お刺身いきたいよね〜」
まずは通らしく、白身魚からいきたい。
一旦鯵に箸を伸ばす。臭みがまったくなく、旨味だけが舌先に残る。新鮮だからか身もしっかりしてて、食感がいい。
「良い
「
ガハハ、とどちらからともなく笑う。早くもハイになってきている。
「ブリ食べちゃお〜」
「え、後輩くんその緑のヤツ何?」
「ぬたですよ、ぬた!」
「あー、あの美味しかったヤツ!」
ぬたと言えば一般的には黄色いが、高知の物は緑なのだ(十四杯目参照)。葉ニンニクや味噌、酢などを混ぜて作られたパンチのある味わいは、脂の乗ったブリと大変相性が良く、もうブリブリになってしまう。
「これはお酒が進むね」
「流石にビールが最高すぎますね。でも折角の魚だから、日本酒も買ってきちゃお〜」
「いいね!」
本当は買いたくなかった。なぜなら、観光地価格と言うべきか、別に東京でも買える銘柄なのに割高なので。
それで言うと買い漁ったつまみも別に安くないんだけど、まあ、旅行バフで許すことにした。センパイじゃないけど、経費で落ちることを祈るばかりである。
「くじら、美味え〜」
酒を見ながら、手元を見て思う。魚の方はなかなか大味でガッシリしており、肉感があって美味しい。酒の方ともとても相性がいい。
「うん、満足!」
「そりゃよかったです」
買ったつまみを平らげたため、追加の品を買おうと市場を回っていたものの、二人とも特に食指は動かず、退出を決意した。面白い場所だったものの、良くも悪くも観光地って感じだった。雑多で混んでるし、若干値も張るため、飯を食う場所として最高かと聞かれると、ちょっと悩ましい。
「え、っていうかなんかガッツリご飯食べたくない?」
「中途半端につまみ食った時のあるあるですよね」
我々の欲望に際限などないのだ。折角高知まで来てるし、なんか美味しそうなものでも探すか、と、夜の街に繰り出した。