いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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酎ハイチュウチュウ五杯目

 

 

「後輩くん、今からちょっと人呼んでもいい〜?」

 

「え〜?」

 

 休日。暇だったからセンパイと昼飲みしてたら、一軒目の途中でそう切り出された。

 

「今日ホントはライブハウス行く予定だったじゃん?」

 

「そうですね、定休日だったから諦めましたけど」

 

 先日星歌さんが店長を勤めていると聞いた、ライブハウス『STARRY』のことだ。ちょうどヒマだったので顔を出してみようという話になったのだけれど、定休日だったので門前払いをくらい、泣く泣く新宿まで引き返してきたのだ。ていうかセンパイは知っててくれ。

 

「で、定休日ってことは先輩ヒマなわけじゃない?」

 

「わかんないですけど、まあそうですね」

 

「だからいまから飲みましょうよ〜って誘ったんだけど、ちょうど人といるみたいで」

 

「はあ」

 

「だからその人とまとめて呼んじゃお〜と思って」

 

「オレはいいですけど、その人気まずくないですか?」

 

「だいじょーぶ、私は知り合いだかんね!」

 

「なんでもいいです」

 

 まだ大して酔ってはいなかったが、だいぶ適当な気分になってたのはたしかだった。まあセンパイとダイセンパイの知り合いなら間違いはないだろうし、賑やかな方が楽しいからいいか、という安請け合いだ。

 

 

「おっけー、呼び出しといた〜」

 

「じゃあ丁度いいですし、店出て二軒目のアテだけつけときますか」

 

 適当に繁華街を散策しつつ、到着の連絡を受けたので分かりやすいポイントまで移動する。歌舞伎町前のでけえ看板とクソでけえドンペンの前で待っていると、星歌さんと、もう一人が来た。

 

「またせたな」

 

「おまたせしました」

 

 ──口元や耳元にバチバチに開けられたピアス、流麗なロングヘア、その裏に覗く藍色のインナーカラー。冷たく落ち着いた雰囲気。

 

「初めまして、お噂は店長から聞いてますよ〜」

 

「ど、どうも」

 

 思い出したようにセンパイがニヤついていた。何を隠そうオレは、こういう治安悪そうな雰囲気の女子に死ぬほど弱いのであった。

 

 

 *

 

 

「かんぱーい」

 

 ジョッキがぶつかる音が四つ、同時に響く。

 ジンジャーハイの安っぽい甘味を楽しみながら、生イッキするセンパイと、レモンサワー飲むダイセンパイと、ちびちびとみかんサワーを舐めるPAさんを見つめた。

 

 

「この二人の後輩です」

 

「STARRYでPAをしているスタッフです」

 

 これが先程の自己紹介であるが、明らかにミスであった。肩書きを名乗ったせいで向こうも肩書きで返してきた。いまさら名前聞けないし、普通に名乗ればよかった。

 

 

「二人が休日一緒にいるのって、結構意外かも〜」

 

「今日は私の所用に付き合ってもらったんですよ」

 

「ヒマだったから丁度よかったよ。まあ数合わせだけどな」

 

「へー」

 

 PAさんが脇の方に視線を向けたのを見て、ついそちらを追ってしまう。するとトートバッグに付けられたキーホルダーが目に入った。

 

 

「それ……もしかして『だいさんじ』の限定のヤツですか!?」

 

「え!? ええ、そうです」

 

「何だよ、知ってるのか?」

 

「知ってるも何も常識ですよ。最大手のVTuberグループですからね」

 

「私は全然知らないけどね〜」

 

「センパイは音楽のこと以外何も知らないですからね」

 

 ぐえ、と悲しげな声を漏らして、ジョッキが浮いた。

 

「後輩さん、そういうのご覧になるんですか?」

 

「結構好きですね!」

 

「キーホルダー、よければひとついりませんか? 狙いの子は出たので」

 

「やった、ありがたくいただきます……お、天王寺クオンちゃんだ。『だいさんじ』の中ではこの子が推しなんですよね。普段はゲーム実況ばかり見てるので、そこまで∨は追えてないんですけど……」

 

「ストリーマー全体だと、誰が一番好きなんですか?」

 

「そうですねえ……」

 

 こういう時オタクにありがちな悩みだと思うのだが、正直にありのまま伝えて、それがコア過ぎて伝わらなかった場合だいぶ気まずい。ので、当たり障りのない反応で終わらせようかとも思ったのだけれど……酒が入って気が大きくなっていたのもあり、せっかくなので自分に正直にいこうと思う。

 

「ゲーム実況メインの配信者なんですけど、音戯アルトって知ってます?」

 

「ブフォッ」

 

「ちょ、大丈夫ですか!?」

 

 PAさんが飲んでいたみかんサワーを吹き出した。咳き込んだ背中を、星歌さんが「大丈夫か?」と心配そうに擦る。

 

 

「え、ええ。ご心配おかけしてすみません……いや、その……音戯アルトは私も一番思い入れがある∨なので、名前が出たことでびっくりしちゃって」

 

「いいですよね、音戯アルト! 声めちゃくちゃ可愛いですし、雑談の緩いノリとか、音楽知識豊富なところとかがすごく好きなんですよね!」

 

「わ、わかります……」

 

「実は初めてスパチャ投げたのも音戯アルトなんですよね。大したお金じゃないんですけど、向こうも初スパチャだったらしくてすんごい嬉しそうだったのが印象的で……あっすいません、めちゃくちゃ喋っちゃって」

 

「い、いえ……」

 

 多少酔ってきたのか、PAさんは頬を赤くして頷いた。さっき盛り上がるオレたちを後目にセンパイたちが酒とつまみを頼みまくってたけど、その調子で大丈夫なのだろうか。

 反応が薄いしたぶんドン引きされたことを察して、次の話題を探していたところ、「お前意外とオタクだったんだな」とダイセンパイが意外そうに言った。

 

「恥ずかしながら、めちゃくちゃオタクっすよ。学生の頃は教室の端で本ばっか読んでるタイプでした」

 

「やっぱり陰キャ同士は惹かれ合いますからね~」

 

「酒くさっ」

 

 肩を組んできたセンパイに顔を顰めれば、「うう、出会った頃はそれこそ初々しい大学デビュー陰キャでめちゃくちゃかわいかったのに……」と人の黒歴史を流れるように暴露してきたため、「そのあと立派なセンパイの背中を見て育ったおかげで、こんなに真っ当な社会人になれました」と笑顔で答えておいた。

 

「先輩、言われてますよ~」

 

「確実にお前だろ。私がコイツと絡み始めたときは、もうこんなのだったし」

 

「てへへ。あ、カルピスハイひとつお願いします」

 

「私も同じものをお願いします」

 

「じゃあ私も」

 

「日本酒一合お願いします~」

 

 呼び止めた店員に思い思いの注文をするかと思いきや、ほとんどみんな同じ品だった。っていうかセンパイは居酒屋の謎の日本酒飲むのやめた方がいい。パック酒よりマシだけど、銘柄書いてないやつは大抵微妙なんだから。

 

 

「学生の頃の話して懐かしくなってきたから、誰かにイッキ飲みとかやらすか」

 

「昭和のアルハラですか?」

 

「はい! 私やりまーす!」

 

「イッキ飲みってそういうシステムではないと思うのですけど……」

 

 身体も胃も肝臓も場も、いい感じにあったまってきた。この脳が溶けてきている感じはたしかに懐かしいな、と頷いて、届いたカルピスハイをイッキするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








音戯アルト……PAさんの配信者ネーム。配信中にさりげなく結束バンドの宣伝をしてくれる。
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