いんしゅ・は・ろっく!   作:織葉 黎旺

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ポンプでプシュプシュ九杯目

 

 

『せんべろまでいかなくてもいいけど、二千円程度までで安く飲めるとこある?』ときくりセンパイから聞かれたのが昨日のこと。 『池袋でいいっすか?』と返したのが今朝。そして今夜、飲み会が開催される。

 

「おまたせ〜」

 

「はいはい、行きますよ」

 

「雑すぎる! またせたの私だけど!」

 

 遅れてくる奴に人権はない、とよく言われている。オレも最近ようやく人になれたので、センパイにも頑張ってほしい。

 エスカレーターを上がって家電量販店を横切り、大通りを横断して辺鄙な方に向かう。ラブホが連なる少し手前くらいに、人でごちゃついたビルがあった。週末なせいか、エレベーターの前には多くの人が並んでいる。

 

「もしかして……アレ?」

 

「はい。アレの隣の、地下の店です」

 

「そっちか、よかった〜〜〜」

 

 指差したのは飯屋が連なる混雑ビルの脇。バンドワゴン効果というべきか灯台元暗しというべきか、入口の雰囲気からして閑散としていた。ぽっかり空いた穴みたいな入口を抜けて階段を降りて、ちょいオシャな居酒屋みたいな絶妙な間接照明の店内に入る。

 

「二名なんですけど、入れます?」

 

「はい、ご案内いたします」

 

 店員さんに着いていき、店の奥の席に座る。華金にも関わらずチラホラ空き席が目立つ。いい店なのに先程のビルとの落差が酷い。

 

「そういえば、ほんとに先輩とPAさん誘わなくてよかったの〜?」

 

「いいんですよ。あの二人には、こんな店紹介できないですからね」

 

「お店と私のことなんだと思ってるの?」

 

「飲みホでいいっすよね、あと適当な焼き鳥」

 

「うん」

 

 盛り合わせと、ビールの入らない安い方のコースをピックしておく。タブレットで注文して数分で卓上に、ロックとソーダ、それとシロップと()()が運ばれてきた。

 

「来ましたね、目玉が」

 

「こ、これは……!」

 

 酒カスセンパイが目を輝かせている。それもそのはず、目の前に鎮座するのは業務用サイズの焼酎とウイスキー。それらの蓋部分にはポンプとノズルがくっついており、ワンプッシュで一杯分の酒が出てくる仕様となっている。それを好きなように割って飲めるのだ。

 

「え、贅沢すぎる……! 注文のラグがないし、遠慮せず飲めるから楽〜!」

 

「オレには遠慮してくださいよ」

 

 潰れた時介抱するのは誰だと思っているんだ。まあそんなの慣れっこだからいいが。

 

「おまたせいたしました。おつまみと、巨峰サワーですね」

 

「ありがとうございます」

 

「え、普通に頼んじゃったの?」

 

「これも飲みホに含まれてるんで」

 

 最初はオレもプッシュにテンションが上がったものの、何度か通った結果『普通にサワー頼んだ方が美味い』という結論に至ったのだ。混んでたり酔ってきたりしたら普通にプッシュするけど。

 

「結局自分の満足感が一番ですからね」

 

「いいこというねえ〜」

 

 頷きつつ、センパイはポンプを見た。嫌な予感がするなと思ったら、それは秒で的中した。きくりが連打を始めたのだ。

 

「ちょ、何やってるんですか!?」

 

「濃い方が美味しいじゃん?」

 

「それはもう濃いとかそういう話じゃねえよ!」

 

「ウイスキーで中和しよ」

 

「むしろ濃くなってる〜!」

 

 バカの飲み方過ぎる。ってか、まだ飲んでないんだよ? 乾杯前だよ? 

 

「……センパイ、もしかして今日も飲んできました?」

 

「今日は流石に飲んできてないよ〜、昨日は朝まで飲んだけど」

 

「その昨日っていうのは?」

 

「今朝」

 

 なるほど、寝たら一日が切り替わると思っているタイプの人種だ。ソシャゲのログボが変わったら大人しく日付の変更を認めろ。

 

「絶対そのアルコールが残ってるじゃないですか。アル中め」

 

 枝豆と串盛りにパクつきながら、センパイは焼酎のプッシュを繰り返した。これ、ポンプから酒が出るか出ないかをランダムにして、その確率を徐々に下げていけば、なかなか愉快な絵面になるのではないかと思った。

 

「…………オレもやっちゃお」

 

 ぽす、と間抜けな音を立ててポンプが沈み、酒が排出される。なんだろう、小学生の頃に変身ベルトで遊んでた時のような、謎のワクワク感があった。

 

 

 

 

 

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