翁月は死なないッ何度でも蘇るさっ!!
ハジメside〜
ここは五十階層のはずれ、錬成で作り上げだ簡素な拠点にハジメ
現在、彼らは消耗品を補充しながらお互いの話をしている。
ハジメが奈落へと落ちてからどれくらい経っただろう。ここに至るまで、ハジメを取り巻くあらゆる環境が変わっていた。
まず挙げられるのはその容姿だ、身長は以前よりも十センチほど伸びて一七五センチになっていて体つきも以前と違い、ガッチリした筋肉質となっている。また、髪は以前の黒髪から白髪になっており、目の色も赤くなっている。
そして容姿に合わせるように、その心も強く荒々しいものとなり、喋り方なんて面影の一つもない。
これは、第一階層で魔物を倒し、飢えによりその肉を食べてしまったのが原因だ。魔物の肉は猛毒であると聞かされていた、喰らえば人間の体を内側から侵食し、破壊させてしまう。だが、その時にハジメは
神水とは、ハジメが爪熊から必死に逃げ延びた際に空けた洞穴の先で、偶然にも発見した
だがそれでもお釣りが来るくらいに彼は大きなものを得た、神水の再生と魔物肉の破壊を幾度もひたすら繰り返し、
ステータスは大きく上昇、魔物の固有魔法をも己の物にした。更に自分よりも強い魔物と言う制限があるが、肉を喰えばステータスが上昇し、固有魔法を得ることができるようになった。
今のハジメのステータスは、
ハジメはステータスプレートに目を向ける
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:49
天職:錬成師
筋力:880
体力:970
耐性:860
敏捷:1040
魔力:760
魔耐:760
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・赤き加護・魔力操作・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・言語理解
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“赤き加護”この技能は、ハジメが魔物の肉を食う
触らぬ神に祟り無しとはよく言ったものである。
次に変化を上げるならハジメのメイン武器であるリボルバー型のレールガン、ドンナーだ。これはハジメが奈落の一階層で作って以来ずっと彼の相棒として活躍してきた武器だ。他にも様々な武器を作ってきて、それらを駆使してここまで来た。
しかし、その中でも一番の変化は━━━━━
ハジメ「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」
“ユエ”「……マナー違反」
ユエと呼ばれた少女がが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。
彼女はユエ。と言っても前の名前を捨て、ハジメが新たにつけた名前であるが………。
彼女は、五十階層の飾り付けられた封印部屋にて封印されていたのをハジメが解き放ち、つい先程、共に修羅場をくぐり抜けた仲である。
驚いたことに彼女は吸血鬼で、見た目の年齢は12歳ぐらいにしか見えず。最高級のビスクドールのような美貌に長い金髪、赤い瞳、そして年に似合わぬ妖艶さを持った少女だ。
しかも彼女は300年前にほろんだ吸血鬼族の女王で、”自動再生“と言う魔力がある限り再生し続ける固有魔法、更に魔法陣や詠唱無しで全属性の魔法を放てるという規格外の能力を持っているが、欲に目の眩んだ叔父にその能力を疎まれてあそこに封印された。
ハジメ「それで……肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」
ユエ「……わからない。でも……」
ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。
ユエ「……この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」
ハジメ「反逆者?」
聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わず錬成作業を中断してユエに視線を転じるハジメ。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。
ユエ「反逆者……神代に神に挑んだ神の眷属のこと。……世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」
ユエは言葉の少ない無表情娘なので、説明には時間がかかる。ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、サソリモドキとの戦いで攻撃力不足を痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く構えだ。
ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。
その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。
ユエ「……そこなら、地上への道があるかも……」
ハジメ「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。”神代の魔法使い“なら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」
見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ。再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線もハジメの手元に戻る。ジーと見ている。
ハジメ「……そんなに面白いか?」
口には出さずコクコクと頷くユエ。だぶだぶの外套を着て、袖先からちょこんと小さな指を覗かせ膝を抱える姿はなんとも愛嬌があり、その途轍もなく整った容姿も相まって思わず抱き締めたくなる可愛らしさだ。
ハジメ(だが、三百歳。流石異世界だぜ。ロリババアが実在するとは……)
変心してもオタク知識は健在のハジメ。思わずそんなことを思い浮かべてしまい、ユエがすかさず反応する。
ユエ「……ハジメ、変なこと考えた?」
ハジメ「いや、なにも?」
とぼけて返すハジメだが、ユエの、というより女の勘の鋭さに内心冷や汗をかく。黙々と作業することで誤魔化していると、ユエも気が逸れたのか今度はハジメに質問し出した。
ユエ「……ハジメ、どうしてここにいる?」
当然の疑問だろう。ここは奈落の底。正真正銘の魔境だ。魔物以外の生き物がいていい場所ではない。
ユエには他にも沢山聞きたいことがあった。なぜ、魔力を直接操れるのか。なぜ、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。なぜ、魔物の肉を食って平気なのか。左腕はどうしたのか。そもそもハジメは人間なのか。ハジメが使っている武器は一体なんなのか。
ポツリポツリと、しかし途切れることなく続く質問に律儀に答えていくハジメ。
ハジメ自身も会話というものに飢えていたのかもしれない。面倒そうな素振りも見せず話に付き合っている。ハジメがなんだかんだでユエには甘いというのもあるだろう。もしかすると、ハジメが目的のためには本当の意味で手段を選ばない外道に落ちないための最後の防波堤に、ユエがなり得るということを無意識に感じているのかもしれない。
ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと、魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。
「なんだ?」と再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。
ハジメ「いきなりどうした?」
ユエ「……グスッ……ハジメ……つらいッ……私もつらい……」
どうやら、ハジメのために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。
ハジメ「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」
スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。
ユエ「……帰るの?」
ハジメ「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」
ユエ「……そう」
ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。
ユエ「……私にはもう、帰る場所……ない……」
ハジメ「……」
そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメは、カリカリと自分の頭を掻いた。
別に、ハジメは鈍感というわけではない。なので、ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、ハジメが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。
ハジメは、内心「〝徹頭徹尾自分の望みのために〟と決意したはずなのに、どうにも甘いなぁ」と自分に呆れつつ、再度、ユエの頭を撫でた。
ハジメ「あ~、なんならユエも来るか?」
ユエ「え?」
ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。
ハジメ「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど……今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし……あくまでユエが望むなら、だけど?」
しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。
キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。
思わず、見蕩れてしまうハジメ。呆けた自分に気がついて慌てて首を振った。
なんとなくユエを見ていられなくて、ハジメは作業に没頭することにした。ユエも興味津々で覗き込んでいる。但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……
ハジメは気にしてはいけないと自分に言い聞かせる……
その後はユエに、現在制作中だった新武装、
対物ライフル:レールガンバージョン通称シュラーゲンの機能や拘りどころなどをツラツラと語り、遂に完成させる。
理屈上、この一・五メートルもの迫力ある代物はドンナーの更に十倍の威力が出る……はずである。
ハジメ「ユエ、メシだぞ」
一段落したハジメは腹が減ってきたので、先ほど倒したサイクロプスやサソリモドキの肉を焼き、食事をすることにした。
ハジメ「って、ユエが食うのはマズイよな? あんな痛み味わせる訳にはいかんし……いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」
魔物の肉を食うのが日常になっていたので、ハジメは軽くユエを食事に誘ったのだが、果たして喰わせて大丈夫なのかと思い直し、ユエに視線を送る。
ハジメの問にユエは「食事はいらない」と首を振って答える
ハジメ「まぁ、三百年も封印されて生きてるんだから食わなくても大丈夫だろうが……飢餓感とか感じたりしないのか?」
ユエ「感じる。……でも、”もう大丈夫“」
ハジメ「大丈夫? 何か食ったのか?」
腹は空くがもう満たされているというユエに怪訝そうな眼差しを向けるハジメ。ユエは真っ直ぐにハジメを指差した。
ユエ「ハジメの血」
ハジメ「ああ、俺の血。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」
ユエ「……食事でも栄養はとれる。……でも血の方が効率的」
吸血鬼は血さえあれば平気らしい。ハジメから吸血したので、今は満たされているようだ。なるほど、と納得しているハジメを見つめながら、何故かユエがペロリと舌舐りした。
ハジメ「………………………何故、舌舐りする…」
ユエ「……ハジメ……美味……」
その一言に身震いするハジメ
ハジメ「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうな印象だが……」
ユエ「……熟成の味……」
ハジメ「……」
ユエ曰く、何種類もの野菜や肉をじっくりコトコト煮込んだスープのような濃厚で深い味わいらしい。
そういえば、最初に吸血されたとき、やけに恍惚としていたようだったが気のせいではなかったようだ。飢餓感に苦しんでいる時に極上の料理を食べたようなものなのだろうから無理もない、
ただ、舌舐りしながら妖艶な空気を醸し出すのはやめて欲しいと思うハジメ。こういう時、ユエが年上であることを実感してしまうのだが、幼い容姿と相まって、なんとも背徳的な感じがしてしまい落ち着かない事この上ないのだ。
獲物を前にした狩人のような瞳でにじり寄るユエに、ハジメが「勘弁してくれぇ〜ッ!!」と叫んだ瞬間だった━━━━
「━ッグゥ ――ッ!? アガァアアアアアアアアアアアッッ!!!」
ハジメ、ユエ「!!??ッ」
拠点の外、そう遠くない場所で何者かの悲鳴か、怒号のような叫びが聞こえた。
ユエ「人ッ………!?」
ハジメ「いや、新手の魔物かもしれねぇ、少し様子を見る」
他にも人がいたのかと驚愕するユエに対してハジメは冷静に意見を述べ、ドンナーを手に警戒して拠点を出ていく。
ハジメ「あのぉ~ユエさん?拠点で待ってくれててもいいのですが?」
ユエ「ん……ハジメの側にいるッ………」
先程の様子とは一変、真っ直ぐ真剣な眼差しでそんな事を言う相棒の様子に照れくささで鼻を鳴らして誤魔化すハジメさんなのであった。
ハジメはユエと共に“気配感知”で先程の声の主を追って封印部屋の手前まで戻ってきた。近づくに連れて呻きや叫びがどんどん強くなる。
気配の手前で岩陰に隠れ慎重に顔を出したハジメ、そこに居たのはッ
ハンナ?「うぐぅ……ックッぐあっあぁあッッッ!!」
ハジメにとっては見覚えのある少女が血まみれの傷だらけになって自分の体を抱きしめ、のたうち回る姿だった。
ハジメ「アイツは、言峰ッ!?」
ユエ「……知ってる人?」
ハジメ「あぁ、さっき話したクラスメイトの一人だ、でもなんでアイツがこんなところに?」
ハジメの疑問は最もだ、
ハジメは事のなり行を見極めるために敢えて放置を選択しようとする
ハンナ?「あ!?━━ッグガぁ?ア”ア”ァァァァァァァ!!」
突如彼女の体が痙攣し、体中にエメラルドグリーンに発光する神経のようなものが張り巡らされた瞬間、上体を仰け反らせ一際苦しみだした言峰ハンナと思しき存在、ひとしきり苦しみ終えた彼女は力なく己の血溜まりに倒れ伏した
ユエ「…ハジメッ!!」
おそらく、これ以上はユエも見ていられなかったのだろう。ハジメに懇願するように潤んだ瞳を向けてくる。
ハジメ「ックソっ!」
ユエのその眼差しに良心の呵責が耐えかねたのか、罠かもしれないと頭の中では思いつつ岩陰から飛び出していった
ハジメ「おいっお前言峰かッ?!大丈夫か!!」
ハジメは警戒を解かずに彼女へと近づく、まだかろうじて息があるような瀕死の状態で、体中に何かが弾けたような裂傷が見られる。どこか既視感のある傷にハジメがまさか!?と辺りを見回す、すると彼女の側に軽く肉片の付いた生き物の大腿骨のようなものを発見する。
ハジメ「おいこれっ魔物の肉を食ったのか?神水は?……ッ持ってねえじゃねぇか!?」
ハジメの予想は的中したが、あの言峰ハンナが魔物肉が猛毒だと前情報を持った上でなんの対策も無しにそれを口にした事がどうにも納得がいかない、確かに神水は伝説級の代物で見つかりにくいのはわかるが………故に未だに罠の可能性を考え、熟考するハジメ。
ユエ「ハジメっ早くしないとこの人ッ!」
しかしその思考はユエの言葉に遮られる。
ハジメ「分かってるが、これじゃあ飲みそうにねぇしどうしたらッ」
今彼女は全身ズタズタでおそらく骨も折れている、経験した自分が言うのだから間違いない、ハジメは結構序盤の方で神水を飲めた為なんとかなったが、言峰ハンナのこれはもう大分ズタボロにされたあと、意識もまともにない状態でどうやって飲ませればいいというのか、そもそもこれはホントに言峰ハンナなのか?
助けなければ死ぬ、しかし罠であればこちらに被害が及ぶ可能性がある。あらゆる憶測が飛び交う今のハジメの頭の中はしっちゃかめっちゃかで混乱していたその時━━━━
ハンナ?「たす……………けて………………」
消え入りそうな言峰ハンナの助けを求める声が聞こえた。
ハジメの思考は一点に収束する、
完璧超人でみんなに優しく、お人好しな言峰ハンナ、学校の連中はハジメも含めそれなりの恩がコイツにはある、そんな彼女が今、助けを求めた、ハジメも変心前、どうしょうもなく、みっともなく助けを求めた、そんなハジメだからわかる。
こんな極限状態で求めた救いの声は、誰かを騙そうなどとそんな邪な思いが入る隙のない純粋な願い。
先程も言ったがコイツには恩がある。ならば
“ここで恩に報いなければ道理りが通らない”、だから━━━
ハジメ「しょーがねぇなぁッッ!!」
ハジメは手に持った神水をすかさず己の口に含む。
最初から単純な話だったのだ、たとえコレが罠でも今のハジメならどうとでもなる、どのような罠が来ようともその悉くを踏み砕くッ!!
ハジメはその勢いのまま、言峰ハンナの唇に自分のそれを重ねた━━━━━
ユエ「………………………………………………」
ユエは宇宙猫となった………。
ハジメは唇を重ねたそばから口に含んだ神水をすべて流し込む、しっかりと喉奥に送りこむために舌もねじこみ、バッと勢いよく口を離したハジメは、言峰ハンナが神水をしっかりと飲んだことを確認して安堵する。
しかし━━━
ハジメ「なんだ………これ………」
変化はすぐ訪れた。だがその変化はハジメのときのもととは少し様子が異なっていた。
「う“っ」と少し呻き声をあげたあと肉体の修復が始まったのは同じなのだが彼女の場合、治ったそばから”肌が茶色く変色し、次第に全体に広がった“のだ。あっという間に広がった茶色は彼女の肌を褐色に変えた。
そこで変化を終わらせた彼女はなにかから解放されたようにこわばった表情から平静のものへと変わりゆっくりと寝息を立てだした。
その様子を見てひとまずは万事解決であることを確認したハジメは、言峰ハンナを連れて拠点へ戻ろうとする。
ハジメ「ユエ、悪いがコイツ抱えるの手伝って……ってユエ?」
ユエ「………………………………………。」
片腕の、しかも武装中のハジメでは人一人抱えるのは難しい、だから一緒に来てくれたユエに助力を請うたが、俯いたユエから何やらワナワナと言いしれぬオーラが滲み出ていた。
ハジメ「あ、あのぉ~ユエさんや〜?聞いておりましゅるか?」
そんなユエにイヤな予感を察知したハジメは変な言葉遣いになりながらお伺いを立てる、そんなはじめの問にユエはボソッと答えた
ユエ「……キスした………………」
ハジメ「は?」
ユエ「ハジメ………キスしたッ!……………」
ハジメ「はっはぁ!?」
どうやら先程のハジメの行いがあらぬ誤解を生んだらしい、ハジメは必死に「あれはあくまで救命措置だッ!!」とどこか照れ気味に弁明するが………
ユエ「ん………後で覚悟………」
ハジメ「ひゅっ」
聞き入れて貰えそうになかった………………。
その後なんとかユエの力も借り拠点へ戻ってきた3人は、件の人物、言峰ハンナが起きるまで待つことにした。だがそこまで待つことはなかったようで彼女は十分程度で目を覚ました。
ハンナ?「ん“っあれ?ここは………?」
ハジメ「気がついたか言峰、思ったより早かったな」
なんともテンプレな応対に少し苦笑気味になるハジメ、ユエも隣で大人しく座っていて、まだ寝ぼけ眼な言峰ハンナはぼんやりとした表情であたりを見渡したあと眼の前の二人に問いかけた
ハンナ?「あなた達は一体………?」
ハジメ「まぁ……当然の反応だよな、ここ数日で俺も大分変わったのは自覚してる」
自嘲と共に肩をすくめたハジメは説明を始める
ハジメ「わかりにくいかも知んねぇが、俺だよ俺、南雲ハジメだ」
ハンナ?「ナ……グモ…ハジメ………………ッ!南雲君!?」
どうやらようやく正気になったらしい言峰ハンナは凄い驚愕と取り乱しようを見せる。悲痛な表情のまま凄い勢で四つん這いでハジメの下へ擦り寄ってハジメの体のあちこちを触る。その様子にユエも驚愕と少しの警戒の目を向けるが彼女は気にも止めていないようだ。
しかし、
ハンナ?「良かったッ!生きてるッ本当に生きてるッ!良かったッ本当に良かっ━━━━━━」
ハジメ「おっおい落ち着けって言峰……って言峰?」
怒涛の勢いで迫ってきていた言峰ハンナは“ある一箇所“に触れて、見た瞬間にピタリとその動きを止めてた、訝しんだハジメとユエは彼女の視線を追いその理由に気づく、そう彼女が見ていたのはハジメの左側、血で染まった袖、肘から先がなくなった左腕部だった。
ハジメ「あ~えっとこれはだな言峰…………」
また変な空気になることを嫌がったハジメは心配させないように調子よく説明しようとしたそのときだった
ハンナ?「ぁあ、ああ……ぁぁぁああああ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“あ“ッッッ!!!!!!!」
ハジメ、ユエ「!!?ッ」
突然の彼女の絶叫に二人は驚愕━━━
ハンナ?「ごめんなさいッごめんなさいッ!!私の私のせいで!私がもっともっと早く、早く駆けつけていたらこんなッ……こんなあァァァァァァ!!!」
━━する暇もなく怒涛の勢いで捲し立てられる
ハジメ「おっおい落ち着けって言峰!?」
ハンナ?「あぁ何でっ何でわっ私はいつもいつ……も」
ハジメ「言峰?」
唐突に静かになったことで落ち着いたのかと考えるハジメ、しかしその考えは甘すぎたと次の瞬間、ハジメとユエは知ることになる
ハンナ?「いやっいやっいや嫌、……だ……み、見ないでいやっイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤいやぁああああああああそ、そそんな、そんな目で私、私を……ぁああああッいやっイヤイヤいやぁああああああああああああああああああああああッ!!見ないでッ!見るなあああああああああ!!!」
大袈裟、どころか明らかに様子がおかしかった、ハジメは自分が知る冷静沈着な彼女とはかけ離れた取り乱した姿に動揺する。
ハジメ「おいっしっかりしろ言峰!?どうしたってんだ急に!?」
ハンナ?「いやぁああああああああッ来るなっ来ないでええええええええええ!!!」
支離滅裂な言動、焦点の合っていない視線、見えないなにかに怯えるようなその様に、何かを察した
ユエ「ハジメッちょっと退いて……!」
ハジメ「ユエ?!」
ハジメの了承を得る前に素早く言峰ハンナの下に向うユエ、次の瞬間、ユエは言峰ハンナの首筋にその牙を突き立てる。
ユエ「う“ッ!!」
うめき声を上げたのはいきなり噛まれた言峰ではなくユエだった。ユエはそのまま言峰の血を吸い出す。しかしハジメのときとは全く別で至福の表情ではなく、まるで何か不快なもの口に入れたかのような顰めた表情、しばらくそうしていたユエは、口を離し吸い出した血を飲むことなくそのまま地面に吐き出した。
ユエ「ぺっぺゲホゲホッ」
ハジメ「おいユエッ一体何を…?」
ハジメが全部聞き終わる前に言峰ハンナは再び気絶した。その様子を尻目にユエはハジメに説明する。
ユエ「……あのままだとこの娘が危なかった……だから大量の血を……一気に吸い出したことで気絶させた……ケホッ」
なるほどと一応納得したハジメにユエはさらなる爆弾を投下した
ユエ「……ハジメ、この娘……薬物中毒になってる……」
ハジメ「!?ッ何だと!」
衝撃の事実に青褪めるハジメを置いてユエは言峰のバックパックを漁る。
ユエ「……やっぱり」
ユエが彼女のバックパックから取り出したのは茶色い粉末の入った試験管と煙管だった。ユエは試験管の中身を少量手のひらに乗せて匂いを嗅ぐと再び顰めた顔を見せる
ユエ「……血の感じから、相当のものを使ってると思ってた……だけど………これは想像以上に強い……薬ッ………」
ユエはハジメに説明しながら慣れた手付きで作業を進める。
ユエ「ここまでの物を使わないと満足できなくなっていたのなら………多分末期………」
ハジメ「ユエ、お前は平気なのか?」
ハジメが心配したのは、そんなヤバイものの匂いを嗅いだり、血を吐き出したと言っても少量は口に含んでしまった事を言っていた。その問いに対してユエは「再生の魔法で少しくらいなら大丈夫」と答えた。続いてハジメはユエに何をしているのか聞く。
ユエ「……このまま目を覚ましてもさっきのやり取りを繰り返すだけ、……一旦落ち着いてもらう……ハジメも手伝って……」
その後はユエの指示通りに作業をした、拠点から少し離れた場所にもう一つ、錬成でドームを作る、ここに人一人寝るには少し大きめのベットを作りそこに言峰を寝かせる、だがただ寝かせるわけではなく寝かせたあと身体のあちこちを錬成で作った枷で拘束させる。万が一起きたときにパニックで暴れ出さないようにだ。
そして次にこれまた錬成で醤油皿のような平たい小皿を作り、ユエがそこに先程の薬をうずまきのような形でこぼす。その端っこを言峰ハンナが持っていたマッチで火をつける。さながら麻薬が原料の物騒な蚊取り線香だ。ソレを彼女の枕元に置きそのドームを天井の空気穴以外を密閉する。
後は彼女が起きるのを待つ、幾らハジメもユエも耐性があるからと言ってもそんな危ないものが漂う場所のそばにいる道理はないため、拠点に戻る。拠点から場所を離したのはこれが理由だ。
ハジメ「何でわかったんだ?」
何が?とは言うまでもなく、言峰ハンナが薬物中毒者であることが何故ユエには分かったか?ということだろう。拠点に戻ってからハジメはユエにすぐそのことを聞いた。
ユエ「……お城にいた時……道楽や……現実逃避で薬に逃げる人は多かった………その人たちと同じ目をしてたから………」
ハジメ「………そうか……」
元女王として、そういった国の暗部にも触れてきたであろうユエの人間の厚みを改めて実感する。
二人の間にお通夜のような空気が流れる、あのようなことがあったあと、流石のユエも空気を弁えてハジメに迫らずにいた。
ふと、ハジメの視線の端に光るものを捉えた、先程ユエが荒らした言峰ハンナのバックパックから“ステータスプレート”が顔を覗かせていた。
彼女も魔物肉を食らった、ということはそれなりのステータスになっているはず、こういう事態になったが彼女も迷宮攻略の戦力になるのは必然だろう。今後の連携を考えると、今眠る彼女が起きるのを待つより、前もってステータスを確認していたほうが手っ取り早い。ハジメは何のためらいもなくステータスプレートを拾い内容を確認する
ハジメ「なんだ………これ………」
ハサンside〜
目が覚めたら、”岩の中に首だけ出して埋まっていた“。
見事にガッチリと固められている、幸い体が楽な体勢で固定されているが、同じ体勢が長時間続くのも考えものである。そもそもの話、私は何でこんな事になっているのか?
魔物の肉を食べたところから記憶が跳び、変わり果てた姿の南雲君と、とても美しい金髪ロリが目の前に居たとこまでは覚えている。
私は動かせる範囲で首を動かして周りを確認する。すると細い煙を上げて燃えるお香のようなものを確認する。嗅ぎ慣れた匂いでこれの正体が私の薬であることはすぐにわかった。
そこで私は合点がいく、おそらく私は南雲君と生きて再会できたは良いものの、薬の禁断症状で暴れ出したのだろう。そこを南雲君の錬成で拘束されていて、次目覚めた時私が落ち着くように敢えて薬をアロマのように焚いているのだ。
しかし、そっかぁ〜、南雲君に私が薬中であることがバレてしまったらしい。幻滅されただろうか?まぁいい、今は彼が無事であったことを喜ぼう。
私がそんな事を考えていると、目の前の壁が上から下へスライドして消失する。そこからすっかり別人のように変貌した南雲君が歩いてくる。
ハジメ「よぉ、言峰起きたか」
ハサン「南雲君……ごめんなさいッご迷惑をかけたみたいで……」
ハジメ「覚えてねぇのか?」
ハサン「えぇ、あまり……」
どうやら見た目だけではなく、喋り方、性格なんかも変わったのかも知れない、少し弱々しい印象だった彼が高圧的に接してくる。
ハサン「あっ待って南雲君ッこの部屋は今━━━」
私は薬の煙が充満した部屋に南雲君を入れる訳にはいかないため、入ってこないように注意しようとするも、彼は無視して平然とした態度で入ってくる。
ハジメ「あぁ大丈夫、俺毒耐性付いてるからこんくらいの煙じゃどうということはねぇよ、それより正気に戻ったらしいな」
ハサン「えぇ、お陰様で…………その……やっぱり……」
私は恐る恐る聞こうとするが、やっぱりと言うべきか、彼はあっさりとした態度で答える。
ハジメ「あぁ、お前が薬中ってことか?確かに知っちまったがそんだけだろ?人は誰しも完璧ってわけじゃねぇ
どっかでホツレが出るもんだよ。まぁお前の場合、張り詰めた場所とほころんだ場所の差が激しすぎる気がするがなッハッハッハ」
そう言って笑う南雲君に少し救われた気がする。彼の笑顔に吊られて私も自然と笑みを作る。
━━━だがそこまでだった
ハジメ「さて、しっかりと受け答えができることを確認したところで━━━」
ゆっくりと私に近づく南雲君、その目は先程のものより鋭く、
ハジメ「お話をするとしようか━━━」
カチャッ
彼は冷たい銃口を私の眉間に押し当てる
ハジメ「言峰、聞きたいことは色々あるがまずは一つ……」
私はそんな彼の鋭い
ハジメ「言峰、お前は俺たちの━━━━━
“敵か?”
ユエ「跪け、命乞いをしろ」
ひっひひ〜〜〜〜〜ッ!!ごめんなさいッ
お通夜空気を流してイチャイチャできなくしてごめんな━━ッ
ユエ「”雷龍“!!!ッ」
アバァアバアバアバババババババババババババババババババババババババッッ!!
ハジメ「翁月が死んだッ!!」
ハンナ「この人でなしぃー!!」