ありふれない暗殺者は世界最強と共に……   作:翁月 多々良

14 / 18

 翁月はし━━

 ユエ「うるさい……約半年近く何していた………」

 あっえ、えっとぉ~

 す、すいません……お絵描きが楽しくってつい……

 テヘヘ(*ノω・*)テヘ
 
 


第13話: 宣誓 〜吸血姫と殺人姫〜

 

 ハサンside〜

 

 

 ハジメ「言峰、お前は俺たちの敵か?」

 

 その言葉と共に彼は私にリボルバーに似た銃を突きつける。私はただ冷静に南雲君の目を見つめてこう聞き返した、

 

 ハサン「説明もなしに拘束されているんです。何故そんな疑いがかけられているのか、根拠を述べてもらってもよろしいですか?」

 

 銃を突きつけられているにも関わらず平然としている私に南雲君が目を一瞬丸くする。

 

 

 ハジメ「流石に冷静すぎないか?今てめぇ、命握られてんだぞ?」

 

 ハサン「えぇ、こういうのはは慣れていますので、今更慌てたところでどうしようもありませんし、それに………いえ何でもありません(・・・・・・・・)。」

 

 ハジメ「は?」

 

 

 南雲君の言葉に私は軽く返して続ける、

 

 ハサン「それで?どうすればいいんです?私は敵じゃないッ━━なんて言ったところで納得なんてしないでしょう?」

 

 

 どこまでも冷静な私の態度に南雲君は訝しんだ表情を見せて聞いてくる。

 

 

 ハジメ「お前は…………“言峰”か?」

 

 ハサン「はい、私は南雲君が知っている言峰ハンナですよ」

 

 

 彼の問にそう答えると南雲君の後ろからヒタヒタと足音が聞こえてきた。現れたのは胸のあたりから白い魔物の毛皮を巻いた先程の金髪のロリ美少女だった。美少女はその手に持つ銀に光る物を掲げる。

 

============================

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

遠藤 霞(えんどう かすみ)

 

 

 

(ハサン・サッバーハ) 17歳  女  レベル : 20

 

 

 

 

 

 

 

天職:暗殺者          職業:教祖

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

筋力 : 900

 

 

 

体力 : 1420

 

 

 

耐性 : 1000

 

 

 

敏捷 : 2800

 

 

 

魔力 : 250

 

 

 

魔耐 : 800

 

 

 

 

 

 

 

技能: ・山翁寵愛(ザバーニーヤ)(己を含めた歴代十八の翁の御業の劣化版を扱え、死を理解する)、[+並列思考]

 

 

 

   ・天使降臨(己を含め、初代を抜いたた歴代の翁の首を一つ捧げるにつき初代様が降臨なさる)

 

      〘18/18〙

 

   ・天性の肉体・直死の魔眼・遠視・縮地・隠形・

気配遮断EX[+気配操作][+デコイ]・気配感知・先読み・状態異常無効・精神干渉無効・偽装・薬品調合[+薬草鑑定]・人体改造[+自己解析]・限界突破・魔力操作・胃酸強化・天歩[+空力]・言語理解

 

 

 

状態異常)) 薬物中毒X ※この症状は状態異常無効がつく前に発生したもの 

 

 

 

=============================

 

 

 

 

 

 

 

====

 

 

 

 

 

 ハジメ「根拠、だったな、これ(・・)がそうだ」

 

 そこにあったのは内容が少し変化した”偽装“が施されていない私のステータスプレートだった。

 

 

 ハジメ「名前を偽っている奴を信用するほど俺は間抜けじゃなくてな、俺たちよりもステータスが上な分、本来なら即死んでもらうところだが名前が日本人な所を見るに俺たち神の使徒と無関係なはずはねぇ。一応、言峰には恩がある。本当にお前が言峰なら俺は恩知らずの外道になっちまうからな。俺が今、お前を殺さない理由はソレだけだ。」

 

 南雲君は銃口をそのままに顎でステータスプレートを指しながら続ける

 

 ハジメ「どうすれば?って言ったな、決まってる

全て話せ包み隠さず、誤魔化さず、お前が誰で、何をしにここに来たのか、余さず全てだ。」

 

 

 正直、今の私に抵抗する手段もその意思すら無い。彼らの目を見てもわかる、少しでも嘘や誤魔化しをしようものなら次の瞬間私の眉間に風穴を開けるぞっ!と目が訴えている。

 しかし参ったな、できることならこの秘密は墓場まで持っていくつもりだったんだけど、南雲君を、雫達をそしてコウちゃんを無事に地球に帰すためには背に腹は代えられない。

 

 その後私は自分の身の上を、ここに至るまでの半生を赤裸々に語った。

元は普通に日本で暮らす少女だったことから始まり、中東の暗殺教団に教団の創始者の子孫という理由で誘拐され、教祖に祀り上げられそのままクズに堕ちていったこと、そこから10年只ひたすらに人を殺して生きてきたこと、現実逃避のため薬と肉欲に逃げたこと、そして去年、とある試練のために10年ぶりに日本に戻ってきたこと………あとは南雲君も知ってる日本での私のことを語った。

 

 

 ハサン「そして私が何をしに来たかということでしたが、それは単純にあなたを助け……に?」

 

 

 ハジメ「…………」

 

 ユエ「グスンッ…………」

 

 

 私があらかた話し終え彼らに視線を向けたら、南雲君は驚愕に目を見開き、隣の黄金の美幼女はその赤い瞳に涙を浮かべていた。

 

 

 ハサン「えっとぉ……」

 

気まずくなって声をかけようとしたとき、おもむろに彼らが口を開いた。

 

 ハジメ「正直……信じ難い話だが………ユエ、」

 

 ユエ「うんッグスッ………ハジメ……この娘……嘘は吐いてない…グスンッ……でも………グスンッ……」

 

 

 金髪美幼女は、同情……だろうか、小さく鼻をすすりポロポロと涙を流す。そんな彼女に南雲君は気遣うような視線を向けた後、顔を引き締め再び私へと向き直る

 

 

 ハジメ「そうか…………ユエがこう言うなら俺の疑念は飲み込もう。だが2つ、聞きたいことがある。」

 

 ハサン「どうぞ」

 

 

 私の平坦な返事に彼はド直球の質問で返す。

 

 ハジメ「まず、“試練”ってなんだ?」

 

 

 ハサン「…………私が”山の翁“の資格足り得るかの試練、堕落しかけた私を平穏というぬるま湯に浸し、その刃を曇らせないかを“初代山の翁様”自らが見極められる。」

 

 ハジメ「初代ってことは大昔の人間だろ?そんなやつが何で?」

 

 ハサン「悠久の遥か彼方から、研鑽を重ね、死と生の境界に立ち続けたたかの御仁は、その身を生物の枠組から解き放ち、”教団を監視する現象“へと昇華させた。今もこうして私達のことを見ていらっしゃるでしょう。」

 

 

 ユエ「ッ!?………」

 

 

 ハジメ「信仰宗教特有の反吐が出そうな御伽噺……って訳じゃ無さそうだなこれは……ハハッ俺達の故郷も大概ファンタジーだったらしい」

 

 私の初代様の話を聞いて、金髪美幼女は驚愕に目を見開いている。子供特有の何でも真に受けている目ではない。彼女が何者なのかは分からないが、本質を見抜く見地は備えているらしい。

 

 だからだろうか、先程からも南雲君が彼女の判断を鵜呑みにして話を進めているのは。彼はどこか唖然とした様子を見せながらも質問を続けた。

 

 

 ハジメ「その試練、察するに合格したら教団の教祖に返り咲くってのは、まぁ予想はつくが………逆に、落ちたらどうなる?」

 

 南雲君は無意識なのか自分がした質問に表情を歪める。

 

 

 ハサン「……翁の資格無しと判断され、翁の面を剥奪、要するに初代様により私は首を断たれます。」

 

 ハジメ「比喩とかじゃなく、そのままの意味か?」

 

 ハサン「はい、そうです」

 

 ユエ「そんなッ……」

 

 ハジメ「………」

 

 

 彼らは最初の頃とは打って変わって悲痛な面持ちで押し黙ってしまう。

 

 あぁ南雲君。あなたは色々変わってしまったけど、その本質の優しさは何も変わっていなかった。最初は見せかけ(・・・・)の敵意をあんなに顕にしていたのに、今はその銃口も向けているだけで、わざとらしい(・・・・・・)殺気も今は霧散している。これなら香織と再会しても何の心配もなさそうだ。

 

 隣の金髪美幼女も、初対面の私に対してここまで涙を流せるのも良い人柄である証明だろう。

 

 

 ハジメ「最後に一つ聞いときたい……」

 

 ハサン「……はい」

 

 

 今も気丈に振る舞おうとしている彼に私も応えて、神妙な面持ちで返答を返す

 

 

 ハジメ「言峰、お前は…………俺達の“味方か”?」

 

 ハサン「勿論です、南雲君達と敵対するなんて考えたくありませんしね。何でしたら昔の暗殺者のように主従の誓いでも立てて忠誠を誓いましょうか?」

 

 ハジメ「そこまでする必要は無ぇよッ!」

 

 微笑みながら私がそう答えると、ガラガラッと私を拘束していた岩が崩れた。

 

 

 ハジメ「悪りぃな少々手荒だったとは思う。」

 

 ハサン「いえ、必要なことだったと思いますので私は気にしていませんよ」

 

 私の拘束を解いた南雲君はばつが悪そうに銃を持った手で頭をかきながら私に謝罪する。私は気にしていない、と自由になった体を解し確かめながら言葉を返す。

 

 

 ハサン「ん?」

 

 すると、ところどころ血が付着し破れた服の隙間から見える私の肌が変色前の元の色、いやそれよりかは少し明るい健康的な褐色になっていた。

 

 ハジメ「あぁ、魔物肉を食ったお前に”神水“を飲ませて傷を治したんだが、治ったそばから肌が黒くなって行ってよ」

 

 ハサン「あっいえ、私はもともと肌が黒かったのでこちらが元の色ですので気にしないで大丈夫です。ところで“神水”ですか?」

 

 ハジメ「それについて諸々こっちの事情も後で話す……あぁやっぱりあと一つだけ聞いていいか?」

 

 

 他愛のない言葉の応酬のあと徐ろに南雲君が聞いてきた。

 

 

 ハサン「はい、何でしょう?」

 

 

 ハジメ「お前の名前………この”遠藤“ってまさか━━━」

 

 

 ハサン「南雲君、ん"っんん失礼、私はもう二度とその名で呼ばれることも名乗ることもできないし、資格もありません。ですのでどうか、これからは“ハサン・サッバーハ”と呼んでください」

 

 

 咄嗟に南雲君の言葉の先を遮る為につい声を荒げてしまう。

 

 

 ハジメ「……そうか、わかったよ“ハサン”」

 

 ユエ「ん……私もそう呼ぶ……よろしくハサン」

 

 ハサン「はい、よろしくお願いします……えっとぉ…」

 

 

 私もいい加減、そろそろ聞いていいだろうか?

 

 ハサン「……あなたは一体?」

 

 私は金髪美幼女に向き直って聞く

 

 

 ユエ「ん……私はユエ……いい名前でしょ?」

 

 ハサン「………えぇとても、ところでユエさんはどういった経緯で南雲君と?」

 

 

 そこで私は金髪美幼女、ユエ(・・)さんの事情と、今わかっているだけの情報を聞いた。

 

 ハサン「なるほど、吸血鬼、それに反逆者ですか……」

 

 

 ユエさんから齎された情報、それはユエさんが吸血鬼という種族で、ユエさんの持つ“自動再生”の固有魔法により見た目以上の長生きであるということ、その力によって、とても長い時間この迷宮に閉じ込められていたこと、丁度私が見つけたあの人工的な装飾のされた大扉の先、あそこで封印されていたそうだ。

 

そこを南雲君に助けられたらしい(ジトー)………………………。

 

 そしてここ、オルクス大迷宮を含めた七大迷宮を作り出した神への反逆者。

 

 「だいぶ……きな臭くなってきましたね……」

 

 

 火のない場所に煙は立たない、異常とも言えるほどに、宗教統一のなされたこのトータスで、神へ逆らう勢力が存在した。

 

 長い歴史の中でそういった勢力があったのは不自然ではない。だが、それはあくまで私達の世界の尺度としての宗教的価値観のぶつかり合いの話だ。偶像にすがる妄信者とはわけが違う、この世界には実在する神がいる。そしてその神の言うことなら、たとえどんな非道でもなんの疑いもなく聞き入れ実行する狂信者共が跋扈している。まさに全世界を敵に回すようなものだ。そんなものに少数で立ち向かおうなど正気の沙汰ではない。

 それでも、彼ら反逆者が身命をとして戦い、敗れてなお後世にまで残るこの様な代物を生み出した理由は何なのか……どう考えてもそこには高潔な意思を感じさせる。それこそ反逆者側こそが正義であると思えるほどに。

 

 創造神 エヒト

 

 今思えば奴には不自然な箇所はいくつもある、今までコウちゃん達の身の安全ばかり考えていたから気づくのが遅れたが、エヒトは創造神(・・・)、この世界のすべて、つまり魔人族、はたまた亜人族もエヒトによって生み出された存在のはず、なのに何故人間族をこうも贔屓にするのか?

 

 これが人間族の生み出した妄想満載の偶像の神なら話はわかるが、エヒトは紛うことなき神、私達の世界で言うところの偶像ではなく実在している神だ。それは今こうして異世界へと呼び出された私達の存在がその証明となっている。だからこその不自然、

 

 エヒト本人の趣向か?、もしそうだとしてもそういった趣向の持ち主が人間族を勝たせ、戦争を終わらせただけで私達を元の世界に返すだろうか?

 

 いや、今考察をしたところで不毛だ。どっちにしろ今は情報が少なすぎる。南雲君たちが言うように最下層まで潜れば何かわかるかもしれない、取り敢えず今は先を急ごう………。

 

 それはそれとして………

 

 ハサン「なんだかお二人、距離が近くありませんか?」

 

 

 私が視線を移した先、南雲君にベッタリと体をくっつけているユエさんとそれを満更でもない表情でされるがままにされている南雲君、ユエさんは体が小さい、これからのことを考えると南雲君が担いでいくのが合理的ではあるが、それにしても近すぎる。特に顔とか……。

 

 私の問いにユエさんがその幼体には不釣り合いな妖艶な笑みで答えた

 

 

 ユエ「ハジメは私の運命の人………これからもずっと一緒………だからこの距離感は恋人(・・)として普通……」

 

 

 

 ハサン「は?

 

 ハジメ「お、おいユエッ!?」

 

 

 コイビト?……恋人と言ったのか?これはユエさんの戯言……ってわけでもなさそうだな

 

 南雲君の様子、驚いてはいる、だが肯定こそしなければ否定もしないし、満更でもなさそうだ。

 不味い、これは一大事だ!!

 南雲君はまだそこまで意識しているわけでは無さそうだが時間の問題だろう。

 

 香織の事を思えば目も当てられないッ!不憫だぁ………かくなる上は……

 

 私は南雲君の大きなリュックにしがみつくユエさんを強引に引き剥がし抱きかかえる。

 

 

 ユエ「ん〜!なにするハサンッ……!!」

 

 ハサン「これでも元の世界では風紀委員でしたので、我が校の生徒の不純異性交遊を見逃す理由はありません!それに、話を聞く限りユエさんは南雲君よりも遥かに(・・・)歳上だそうで、これは私達の世界では”青少年淫行罪“という罪に問われる可能性があります。」

 

 ユエ「ムー!ここじゃそんなの関係ない!……それにさり気なく年齢をイジるな!!……」

 

 ハジメ「ていうか、暗殺者が風紀と法律を語るのかよ……」

 

 

 南雲君に痛いところを突かれだが気にしない!

 

 ハサン「……ごほんッ兎に角、ユエさん?私の目が黒いうちは好き勝手にはできませんので悪しからず」

 

 多少無理矢理でもこうやって私が間に立つことにより、時間稼ぎになるだろう。一刻も早く香織達と合流しなければ、私が目を離した隙にNTR…いや、こういう時は、BSSというのか?そういった展開に香織がなるとも限らない!

 他にも思うところはある(・・・・・・・・・・・)先を急ぐ理由がまた一つ増えたようだ。

 

 ユエ「キスしたくせにゴニョゴニョ……」

 

 

 ハサン「今なんと?」

 

 ユエ「……別に」

 

 ハサン「?」

 

 

 この時の私はまだ気づいていなかった、他でもない私が一番の裏切りを犯していることに………。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 追い風の中ふと手元の短刀に目をやる。そこに反射して映る己の姿は魔物の肉を食したことで南雲君同様に変貌を遂げていた。

 

 ハサン「慣らしていくのに手間がかかりそうですね」

 

 

 まず、先程も確認できた肌の変色、変装のために白くしていた肌は元の血の凍ったような薄黒い肌とは打って変わって、小麦色の健康的な褐色に変貌。

 

 そして戦闘において厄介なのが、体格の変化、そしてステータスの急上昇だ。身長の方は恐らく、折れた骨の再形成で少し縮尺が伸びたのだろう。もとより香織と同じくらいだった身長は、雫より少し小さな百七十センチメートルまで伸びていた。

 

 これにより体のバランスが少しズレたり、力の加減が制御しにくかったり、手足が伸びたことによる間合いの拡大により、色々と勝手が変わってしまった己の体を元の調子で戦えるようになるまで修練を通して慣らさなければならない。

 

 髪は黒の染髪料を落とさなければどうなっているかはわからないが、一番の変化は()だ。

 

 もともとは黒い絵の具をぶちまけたような真っ暗な黒い瞳だったのだが、今はまるで魔眼を発動したときのような初代様の炎と同じ蒼色、それに加えて、瞳の虹彩と瞳孔の境を魔物の目ような赤色が瞳孔を囲うようにラインをなぞっている。

 

 ハサン「まぁ地上に出れば私は教会指導で指名手配は確実でしょうし、染髪料を落とせば、ぱっと見誰だか分かりませんよ。思わぬ収穫でしたね。結果オーライです!」

 

 

 ハジメ「そうかッそれはッ良かった…なッ……そういうッ確認…はッ後で…やれぇえええええええ!!」

 

 ユエ「ハジメ………………ファイト!………」

 

 

 ハジメ「ざけんなぁ〜〜っ!!

 

 

 ユエさんの可愛らしい激励に南雲君が慟哭する

 

 

 現在、私達は全力疾走していた。背の高い草むらの中、私の方はまだ余裕があるが南雲君はユエさんを背中に抱え剰え大荷物、息を切らせて全力で走っているさまを見ると変わってやりたくなるのが人情なのだろうが、残念ながらそんな暇はない。

 

 私達は一刻も早く逃げなければならない!何からって?それは勿論……

 

 

 「「「「「「「「シャァアアアアアアアアアッ!!!」」」」」」」」」

 

 

 二百体近い魔物の群れである。

 

 こうなった原因を話す前に一悶着あったため、まずその話をしよう。

 

 

 

 時は少し前に遡る〜

 

 

 私の合流で、予定を遅らせてしまったらしいが、すでに準備を終えていた南雲君達と下層へと出発することになった。その道中で南雲君はここに至るまでの道程を、私は現在私が神敵として魔人族のスパイだと疑われ、追われる身であることを話した。

 

 南雲君の話は壮絶なもので、私も対峙した凶悪な魔物達による敵意、片腕の欠損もさることながら、よく生き残ってくれたと称賛した。なるほど、それ程のことがあれば見た目だけでなく言動に変化があるのも頷ける。

 

 私は新しい体にまだ慣れていないため後ろの方で援護に徹していたのだが、思いのほか順調に十階層ほどを降りることが出来た。

 

 南雲君の装備や技量が見違えるほど充実していて、私達異世界組の中で最弱だったのが嘘のようだった。しかも、その動きは力に振り回されたものではなく、熟練した動きはしっかりと力を己のものにしていて、ここまで多くの努力をしてきたんだろうことが伺える。

 

 そして何よりもユエさんの実力が想像以上だった。全属性魔法をタイムラグ無しに使用し、的確に南雲君を援護している。

 

 ”魔力操作“本来は魔物のみが持つ技能、魔物の肉を食らって手に入れた南雲君と私とは違い、デフォルトでそれを所持した彼女はどんな強力な魔法も、陣や詠唱を必要としない。

 

 ただ、そんな彼女も万能ではなく、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。彼女自身に”自動再生“があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。今はまだ、私達には“神水”があるので回復役は必要ない。しかし、話を聞くところに神水はとても希少なものだ。また運良く次が見つかるとも思えないので乱用は避けたい。

 

 もっとも、

 

 ドパンッドパンッ

 

 ジュイィーンッ

 

 南雲君の改造リボルバー、ドンナーとユエさんの魔法が次々と襲いかかるベヒモス以上の魔物達に炸裂する。この布陣なら滅多なことと油断がない限り怪我を負うことはないだろう……。

 

 彼等の無双ぶりを尻目に私もお荷物にならないようにそこそこ援護しながら進んで行き、降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼(うっそう)と茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

 

 そうやって階下に下る階段を探そうと動き出した瞬間、

 

 ハサン「二人共止まってくださいッ」

 

 魔物肉を食らってから拡張した私の”気配感知“の索敵に大きな反応を捉えた。私の声に反応した二人はこちらに振り向いた後にお互いにアイコンタクトを交わす。私のハンドサインに従って3人で最大限気配を殺して物陰へと隠れる。少しして地響きとともに現れたのは……

 

 ハジメ「あれは……ティラノサウルスか?」

 

 ハサン「流石は異世界ですね……」

 

 

 

 現れたのは太古の昔、地上の覇者と恐れられた肉食恐竜、ティラノサウルス……に、そっくりな巨大な爬虫類型の魔物である。

 

 但し……、何故か頭部に一輪の可憐な花が生えていた。

 

 気配を殺した私達をティラノサウルスもどきは見つけられない、よって有利な状況にある私達はその魔物をじっくり観察する余裕ができた。

 

 鋭い牙に隆起する筋肉、迸る魔力が議論の余地なくこの魔物が強者であることを物語っていたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 しかし、私の魔眼はその花こそを警戒していた。

 

 ハサン「あの花、怪しいですね」

 

 ハジメ「確かに怪しいけどよ……そこまで警戒することか?」

 

 ユエ「………魔眼…?」

 

 ユエさんの問に私は頷く、私の“直死の魔眼”についての詳細は二人にも伝えてある。

 私の魔眼は万物の終わり(・・・)を視認し、干渉する力を持つ。生物、非生物問わず皆個にして“死の起点”と“死の線”を有しているものだが、”寄生生物“彼らは、少し事情が違う。

 

 彼らは、例外なく宿主に依存した生き物だ。個としての生存が不可能なため、死の起点が宿主に“同化”している。故に宿主を殺せば寄生体も吊られて死に至るし、針金虫のような寄生体が主導権を握る者は宿主を喰い捨てる時に死の起点をそのまま持ち去ったりする。

 

 それに準じて、私の魔眼が捉えた違和感、あの花は宿主であるティラノもどきとは異なる場所に(・・・・・・)死の線がつらなっている。

 

 ここから導き出される答えは、あの花は宿主を別に持ち尚且つ、あの力の塊のようなティラノもどきを使役する力を持ち、更にはその宿主はあのティラノをも超える上位の存在である可能性があるという事である。 

 

 ハサン「考えすぎかもしれませんが、常に最悪は想定したほうが宜しいですね。警戒するに越したことはないかと……」

 

 

 私は二人への説明にそう締めくくった。

 

 

 ハジメ「なるほどなぁ〜、よしっ取り敢えず殺るか」

 

 南雲君がそう言ってドンナーを抜こうとして、………

 

 

 ハサン「いえ、ここは私がやりましょう……」

 

 私がそれを制する。そろそろちゃんと働かなきゃと思っていたし、体も慣れてきたことだ、動かさなければ訛ってしまう。

 

 

 私は音もなく岩陰から飛び出す。今回、私は魔眼を使わない。

油断をするつもりではないが、今は一人ではないし、無理して効率良くする理由もそんなにはない。

 

 故に、今の私が魔眼無しでどこまでやれるか試すには、あの魔物は丁度いい相手だった。

 

 ティラノサウルスの足元まで来た私は南雲君作のシュタル鉱石製の短刀を構えるが、そこでティラノもどきは私の存在に気づいてしまう。

 我々山の翁の隠密術は強力だが、一つだけ弱点がある。それは攻撃の瞬間跳ね上がった殺気がどうしても隠せず、最後にはターゲットに気取られてしまうことだ。

 

 だが━━

 

 ザシュッ!!

 

 それだけだ(・・・・・)

 

 

 たとえ気取られたとしても、彼らにとってはその次の瞬間、それが最期に見た光景になるだけなのだ。

 

 私は気取られたことも気にせずに、ティラノもどきの足の腱を切断する。巨体を支える二本の支柱(あし)のうち一本を失った奴は自重耐えきれずに倒れる、

 何が起こったのか解らずにキョロキョロする間抜け面の横、太い血管の通った首に短刀を深く突き立て斬り上げる。

 

 滝のような血潮が溢れ出し、痙攣したティラノもどきは瞳をグルンと上へ放って絶命する。これでティラノもどきは終わりだが次、突き立てた短刀を足蹴に頭部に登る、そして最後は予備の短刀でそこに咲いていた花を根本の肉ごと粉々に切り刻んだ。

 

 ハサン「フーッ」

 

 

 もう危険はないことを確認した私は一息ついて、袖で顔に付いた血糊を拭い二人の元へ足を進める。勿論、ティラノもどきの首に刺さった短刀は回収してからだ。

 

 ハサン「ん?」

 

 ハジメ「………」

 

 ユエ「ム〜〜〜」

 

 

 するとどうだろう。南雲君は苦笑い、ユエさんはほっぺをぷくぅと膨らませて唸っている。

 

 ハサン「あのぉ……何か?」

 

 私がこう聞くと南雲君が口を開いた。

 

 ハジメ「あぁ〜…いや、頼もしいことこの上ないんだが……近接戦でこうも無双されると、俺の立つ瀬がないと言うか……」

 

 南雲君の言はこうだ。最近、援護の範疇を超えて対抗するように魔法で魔物を瞬殺するユエさんに対して、己が役立たずなのではないかという劣等感を感じ、そこで無理矢理、近接戦に己の価値を見出そうとしたその時、私の戦闘を目の当たりにして、さらなる劣等感に苛まれたそうだ。

 

 対するユエさんは…

 

 ユエ「私がやりたかった」と拗ねているだけだった。

 

 

 ハサン「こんな時に何を言ってるんですか」

 

 

 なにかと思えばと、私は呆れた視線を彼等に向ける。私も彼等も人数が増えて余裕ができたとはいえ、ここは未だに死地の真っ只中である。

 

 戦場では、いかに我を捨てられるかが重要だ。自分が、自分がと身勝手に振る舞おうものなら、今は大丈夫でもいつか取り返しのつかない間違いを犯すかもしれないのだ。

 

 

 ハサン「適材適所って言葉があるでしょう、私は暗殺者ですから、錬成師の南雲君よりも近接戦闘が得意なのは当たり前です。」

 

 むむむ〜と首を傾げて未だに不満な態度が見え隠れする南雲くんに「それに、」と言葉を続ける。

 

 ハサン「南雲君は役立たずではないでしょう。ベヒモスとの戦いのときもそうでしたが、あなたは状況を正確に見て冷静に判断できる目が、つまり指令塔としての才があります。あの65階層で、あなたの的確な策ががなければ私達はあの場で全滅していました。………かなり遅くなってしまいましたが改めて、あの時はありがとうございました。南雲君、そしてごめんなさい。貴方を助けられなくて……。」

 

 私はそう言って、深く彼に頭を下げた。南雲君は少し呆然とした後クスッと笑みを溢す。

 

 ハジメ「いや、あれはアンタのせいじゃねぇしそこまで気にすることじゃねぇよ……それに、落ちた事で得たものもあるからな」

 

 南雲君は隣りにいるユエさんの頭を撫でながら続ける。

 

 ハジメ「そのなんてーの?指揮官?としての俺を認めてくれるってのは純粋にありがてーけどよ、こういうのは頭ではわかっていても納得できないってもんがある。ユエやハサンばっかりに任せっきりってのもな、なんか申し訳ないっていうか……。やっぱり分担って大事だって思ってよ、たまには俺にも手伝わせてくれよ。俺達は仲間何だからよ」

 

 南雲君は「ユエもなッ」とそう締めくくった。ユエさんは未だにご不満のようで先程よりもぷくぅと膨れた頬袋が大きくなっている。しかし南雲君に頼りにされ、頭を撫でられているこの状況にはご満悦らしく、その顔を朱色に染めていた。

 

 それにしても、仲間、ですか………。

 

 私はかつては暗殺教団の教祖として同じ教義に準じる同胞はいても、今まで真に気のおける仲間というのはいなかったのかった。

 そもそも私は上辺だけで教団が崇める神なんてクソ喰らえと心の奥底で思っていたから同胞ですらなかったのだが、

そんな私に仲間……か

 

 悪い気はしませんね。

 

 それはそうと

 

 ハサン「近いですね、接触も多い気がします」

 

 ハジメ「いやいや気にし過ぎだろッ!こんぐらい普通だ!!」

 

 そうやって狼狽する南雲君に対して、ユエさんはただなにも言わず私を睨みつけるだけだった。

 

 

 それからか、私はユエさんにちょっかいを掛けられるようになった。

 以降ユエさんは私が魔物を攻撃しようとしたタイミングで、示し合わせたかのように魔法をねじ込み私に戦わせないようにしていた。最初は偶然とも思ったが、あれから私は戦えていない。それもただ戦えていないのではなく、私が魔物と接敵し攻勢に転じようとした瞬間、私の戦闘を妨害する形でユエさんが魔法で魔物を撃破するのだ。こんな事をされれば私は気が休まらないし、無駄にストレスが貯まる。そうしてユエさんの方に顔を向ければ……

 

 ユエ「……フンッ」

 

 これだ。

 ここまで態度があからさまだと私も流石に気づく。正直鼻につく彼女の態度に、らしくもなく私もムキになってしまったのは無理もない話だろう。

 

 

 ズドドドドッッッ

 

 ユエ「あっ!」

 

 今しがたユエさんが私にやったように、彼女が魔法を放とうとした魔物に投げナイフを突き刺す。無論すべて即死だ。 

 

 ハサン「…………」

 

 ユエ「ムゥウウッ!」

 

 ハサン「何か?」

 

 しばらく私達は睨み合ってその場には静寂が訪れた。

 

 

 ハジメ「お、おい……お前ら?」

 

 南雲君がそう声をかけた次の瞬間、

 

 ガサッ

 

 「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」

 

 

 近くの藪の中から魔物がひょこっと顔を出す。先程のティラノもどきと同型の頭に花を生やした恐竜型魔物、しかし今回のは体長およそ二メートルの小型種、さしずめラプトルもどきだ。それも十体以上の数。

 

 無論“気配感知”で敵性生物の接近は把握してあったので驚くことはなかったのだが、……どいつもこいつも、その頭に間抜けに生やした花をヒラヒラさせていた。この戦場とは違った理由で緊迫した空気の中、このバカにいたような見た目の闖入者の乱入は、ただ火に油を注ぐに等しい行為だった。

 

 ビキッ……という音と共に張り詰めた空気が一気に爆発する

 

 ハサン、ユエ『うるさいッ!!』

 

 

 同時だった……。私はナイフを、ユエさんは魔法を放った

 

 私とユエさんはそう吠えてすぐ、その場にいたラプトルもどきを蹂躙した。数にして数十体、それらすべてが一瞬でこの世から消えた。

 

 ハジメ「えぇぇ……」

 

 

 南雲君が引きつった顔でそう洩らすのもつかの間、先程よりも多い量のラプトルもどきが姿を現す、勿論頭から花をはやして……

 

 

 「シャァアアアアアアア」

 

 ハサン「…………」

 

 ユエ「…………」

 

 お互いに視線を交わした私達、もはや言葉は不要だった。

 

 そこからは一方的な蹂躙劇、お互いを尊重した連携などではなく、まるで競い合うような戦い。ナイフと魔法が戦場に飛び交う。

 入り乱れる攻防の中、二人の殺気が交差する。

 私のナイフがユエさんの魔法が、お互いのこめかみをギリギリかすめない位置を通り過ぎ背後の敵を穿つ。

 

 再び二人の視線が交わる。

 

 ユエ『礼は……言わない…………』

 

 ハサン『えぇ私も……』

 

 言葉はない……視線と戦意で私達は語り合った。

だがこれだけ長時間乱戦が続けば

 

 「「「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

 

 流石に集中力も切れてくる

 

 ユエ「……!」

 

 ハサン「しまっ!?」

 

 ドパパパンッ

 

 警戒を切らせた私達の横合いからラプトルもどきが数体飛び出してきたのもつかの間、まるで一発に聞こえる銃声が複数轟く。誰の仕業かは言うまでもない。

 

 ハジメ「バァーカッ深追いしすぎた二人共」

 

 南雲君は先程とは違った意味で呆れた視線を私達に向けて言い放つ。

 

 ユエ・ハサン「ごめん(なさい)ハジメ(南雲君)………」

 

 南雲君のごもっともな指摘、ついムキになっていたとはいえ何をやっているんだ私は……!

そう思い謝罪を返すと奇しくもユエさんと同じタイミングで言葉を発した。

 

 ユエ「フンッ……!」

 

 ハサン「なっ!?……ふ、フンッ!」

 

 しばしユエさんと目があったが彼女は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。一瞬呆けた私も対抗するように反対の方へ顔を逸らす。

 

 

 

 ……なんだこの感じは……

 

 ……今まで喧嘩や苛立つ事なんていくらでもあった。それこそ教団の長老共や天之河、檜山達なんかもそうだ。

 

 でもこれは香織と雫の二人と仲違いした時の感じに似ている━━━

 

 

 何なんだ……この気持ちは………っ!!

 

 

 ハジメ「お前らなぁ〜」

 

 そんな私達を見て南雲君はドンナーを持った手で頭をかきながら特大のため息を付いていた。

 

 暫くしてその後も増え続けるラプトルもどきに埒が明かないと一時退却することにした私達3人。

 しかし奴らは私達を囲い込む様に組織的動きを見せ始める。前の階層へ逃げるのを断念した私達は、大本を絶とうと寄生花の本体、本来の宿主の捜索を開始した。

 

 しかし、先程の乱闘でかなり魔力と体力を消耗してしまったユエさん、そんなユエさんに南雲君が神水を与えようとしたが他ならない彼女がそれを拒む。

 

 何かと思い訝しむ私と南雲君に対して彼女は南雲君に両手を伸ばし一言

 

 ユエ「………だっこぉ………」

 

 ハサン「ブフッ!!」

 

 ハジメ「お前はいくつだ! ってまさか吸血しながら行く気か!?」

 

 唐突な行動に私は吹き出し、南雲君はツッコミながらも推測する。彼の推測にユエさんは「正解!」というようにコクンと頷く。確かに、神水ではユエさんの魔力回復が遅い、不測の事態に備えてはやめに回復はさせておくのは私も賛成だ。何なら神水の節約にもなる。

 しかし、南雲君が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に南雲君の負担や、香織が見ていない場所で頭の悪いカップルのような所業を見逃すことは憚られない私は、非合理的だとは思いながらも無理やりユエさんに神水を飲ませようとした時だった。

 

 ハサン・ハジメ「「ッ!!」」

 

 先程とは比べ物にならない気配の量を察知した私達は急いでその場から飛び出した。

 

 故に結局、南雲君とユエさんの密着移動吸血を許してしまったのは無念と言わざる負えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 長くはなってしまったが、ここで時は現在に戻る〜

 

 ユエさんがご満悦に南雲君の血を啜り、

 

 私が現実逃避気味に呑気に自分の容姿を確認し、

 

 混沌とした状況に南雲君が嘆くその背後から、今も尚数を増やしながら私達を追いかけるラプトル集団が、

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

 と、地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果とラプトル達の気配の動きから一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆ける私達。

 奴らの気配の動き、私達を追い込む傍ら一定の方向へと向かおうとすると、その先を通せんぼする様に集まる気配、恐らくはその先に敵の本体が潜んでいるのだろう。ユエさんも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

 カプッ、チュー

 

 私達が睨んだのは樹海を抜けた先、今通っている草むらの向こう側にみえる迷宮の壁、その中央付近にある縦割れの洞窟らしき場所だ。ある程度近づいてみてその奥に一つ敵性の気配を感じ取ったため間違いはないだろう。

 

 カプッ、チュー

 

 気配を消せる私で先行しようとも考えたが、今ギリギリで保っている均衡を崩してしまう危険性を考え、単独での行動は断念する。

 そもそも四方八方から襲われることから隠れることが意味をなさないこの状況。”空力“、”縮地“を駆使して目的の場所まで一気に駆け抜ける。

 

 

 カプッ、チュー

 

 ハジメ「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」

 

 ユエ「……不可抗力」

 

 ハサン「嘘ですね、顔が二ヤけています」

 

 ハジメ「ていうかッほとんど消耗してないだろ!」

 

 ユエ「……ヤツの花が……私にも……くっ」

 

 ハジメ「何がくっ……だよッわざとらしく呻きやがって。ヤツのせいにするなバカヤロー。ていうか余裕だな、おい」

 

 こんな状況にもかかわらず、南雲君の血に夢中のユエさん。元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではないらしい。そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、私達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んむ。

 

 縦割れの洞窟は大の大人が二人並べば窮屈さを感じる狭さだ。ティラノは当然通れず、ラプトルでも一体ずつしか侵入できないようだ。何とか私達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの一体が無理やりカギ爪を伸ばすが、その前に南雲君のドンナーが火を噴きラプトルを吹き飛ばす。そして、すかさず錬成し新たな岩壁で割れ目を塞ぐ。

 

 しかし━━

 

 ハジメ「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」

 

 ユエ「……お疲れさま」

 

 ハサン「いえ、どうやら安心するのは早いかも知れませんよ」

 

 ハジメ「何ッ?」

 

 

ドンッ

ビギッ

 

 

 南雲君がそう言うと同時、先程南雲君が塞いだ岩壁に大きな衝撃と一筋のヒビが入る。それを見た南雲君は驚愕はするもすかさず新しい壁を作るが、間を置くことなくその新しい壁にもヒビと衝撃が走る。

 

 ドンッという衝撃音の他にドシャッという肉が潰れるような音とヒビの隙間から垂れる液体で、ラプトル達が己の命を無視して体当たりをしているのだということがわかる。

 

 ハジメ「おいおい、冗談だろ……」

 

 ユエ「ん……しつこ過ぎる……」

 

 ハサン「ですが、この洞窟の奥に本体がいる証明になりました。せっかく蓄えた兵士を使い捨ててまで意地でも私達をこの先に行かせたくないのでしょう……」

 

 こうなったらラプトル達が洞窟に入ってくるまでに奥にいる本体を叩くしか無い、そうすればひとまずはラプトル達の猛攻は収まるでしょう。だが正気になったラプトル達が逆恨みをしてこちらにヘイトが向かないとも限らない。

 

 ………仕方がありませんね。

 

 ハサン「お二人は先に行ってください、足止めは私にお任せを」

 

 ハジメ「ハサン正気か?」

 

 ユエ「無茶……いくらなんでも!」

 

 ハサン「正直分散はあまりしたくありませんが……ここで3人無理に籠城してもどうにもなりません。私達がラプトルに気を取られてる隙に奥の本体がなにかしてこないとも限らない、それにこのペースで壁を作っていけば、ただでさえユエさんに魔力を補給している南雲君の魔力も保たないでしょう。」

 

 ドガッバキッ

 

 私達がこう話してる間にも岩壁は少しずつ崩壊を続けている。私は岩壁の向うに迫っているであろうラプトルに指を指す。

 

 ハサン「いち早く本体を倒すのが第一ですが、誰かがコイツラの足止めをしなければなりません、こんな狭い通路で何人もいては邪魔でしょうがない。ならば単独での戦闘が得意な私が残り、未知数である本体への対応を2人にさせたほうがいい。」

 

 

 ハジメ「いや、確かにそうだが……」

 

 ユエ「………………。」

 

 決断を渋る南雲くんと、私の顔をじっと見てくるユエさん。ユエさんの視線はまるで私の心の底を見透かしているような。そんな、ルビー色の瞳を見開きこちらに向けてける。

 

 ハサン「ハァ……確かに、ここに一人残すというだけなら南雲君にはここで壁を作ってもらいラプトル達の猛攻を耐えて、その間に私とユエさんで本体を叩くという案もあります。でも……それは難しいでしょう。」

 

 ユエ「……なぜ?」

 

 ハサン「私は連携が苦手です。ことさら今の私ではあなたとは特に連携は難しくなるでしょう。」

 

 そうだ、なんだかんだ理屈をこねたが、私は彼女を……ユエさんを信用し切れていない。

 聡明な人物ではあるのだろう。魔法の才、元女王としての経験値ゆえの土壇場での強さ。彼女自身が語るの経歴に嘘偽りはないのだろう。

 

 しかしそれは、今この場において彼女に100%信頼をおいてもいい理由としては弱い。

 

 彼女は何百年もこの地下に閉じ込められている。外に出られるのなら同行者は何人だろうが、()だろうがお構い無しということだ。

 つまり彼女としては、私と南雲君どっちが死んだとしても痛手は少ない。私が放置されるのはまだいい、最悪一人でもココからの脱出はなんとかなる。ユエさんもその戦闘スタイルから次々と敵が襲ってくるこのオルクス大迷宮では南雲君との同行が不可欠、見捨てられることはないだろう。

 彼への好意も彼を誑し込むための見せかけの可能性がある。

 

 しかし、もしもこれが逆で私がユエさんに同行してしまったら、このまま南雲君が見捨てられてしまうかもしれない。

そうなってしまったら、誰が南雲君を香織の元へ送り届けるのか。

 流石にそこまでするとは思ってはいないが最悪は想定すべきだ。それに……

 

 ハサン「あなたと私が連携するより、南雲君とあなたが連携する方が効率がいいし確実だ。」

 

 実際そうだ。私が本格的に戦闘に参加する前、途中ユエさんの先行もあったが、それを抜きにして二人の連携は素晴らしいものだった。

 適材適所、やむを得ないがこうする他ないだろう。

 

 ユエ「ねぇ……ハサン………少しいい?」

 

 考え込む私に、いつの間にか南雲君から離れ私の側まで来ていたユエさんが語りかける。

 

 ユエ「私は………あなたのことを………信用していない」

 

 ハジメ「ユエ!?」

 

 ハサン「………………。」

 

 

 ユエさんの一言に南雲君は驚き、私は黙って先を促す。

 

 ユエ「私はあの時………あなたの話が嘘でないこともわかってるし…同情も……した……でも今……この場においてあなたを信用するかは別の話……」

 

 ハサン「………………でしょうね。」

 

 彼女も、結論は私と同じだろうと、視線をそらした時だった

 

 

ユエ「ハサン……あなたは………ハジメを助けに来たんじゃない……でしょ?」

 

 ハサン「!?ッ」

 

 ハジメ「どういうことだユエ?」

 

 ユエ「あなたはハジメを通して………別の誰かを助けようとしている。……最初は別に……それでも良かった。」

 

 まさか……確かに私は香織の為にここにいる。そこまでお見通しなのかと、驚愕する私を無視してユエさんは続ける

 

 ユエ「正直、……その誰かのために……ここまで来たあなたの覚悟を疑うのは……私でも……気が引ける。それだけでも……とても……尊い気持ちなのだから……だけどあなたの中でハジメが……一番でないのなら、最悪あなたは私達を見捨てる可能性がある。」

 

 ドンッドカッドシャッ!!

 

 張り詰めた空気の中、肉弾音が木霊する

 

 ユエ「ハサン……私があなたを信用しきれないのと同じ様に……あなたも……イマイチ、私を信用し切れないのも分かる……だから……ここでハッキリさせよう」

 

 この時私は初めてユエさんの顔をしっかりと見たんだと思う。

 

 ブラッドルビーの瞳が私を射る

 

 ユエ「私はハジメが好き!この初めて感じる、胸の温もりに誓って、ハジメを裏切ることも害することもしない。私が絶対にハジメを守る……!

 

 

 

 あぁ、眩しいなぁ、元女王として国の汚いものを沢山の

見てきたであろう筈なのに、

 

 純粋で、真っ直ぐで、キラキラしてて、

 

 いや、これも南雲君の影響だろうか……。

 

 そんなユエさんの姿を私はかつて親友だった少女と重ねる。

 

 なんて愚かだったんだろう。私はこんな綺麗な娘を疑っていたのか……

 

 ますます自分が惨めになっていく。 

 

 でも、腐ってる暇はない。私だって大事な気持ち(モノ)がある。

 ユエさんはそれを示した、ならば私も示さなければ……!

 

 

 

 ハサン「……えぇ、私も譲れない気持ちが……友との約束があります。2人に誓って……私はあなた方を絶対に裏切らないと約束します。」

 

 ユエ「………んッ」

 

 

 私の宣誓を聞いて、ユエさんは初めて私に対して朗らかに微笑んだ。

 

 ユエ「ここ……任せてもいい?」

 

 ハサン「はいッ…、もちろんです!」

 

 その笑顔に私も不器用ながらに同じ笑顔を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハジメ「このやり取りを横で見させられている今の俺の気持ちを答えよ」

 





 なんと!!新ハサンが出ましたね!!

サイコォー!!もっと増えてもいいよ〜!!

 輝星くん、じいじにビクビクなのかわいいッ!!♥
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。