ありふれない暗殺者は世界最強と共に……   作:翁月 多々良

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 さぁ〜て今回も張り切っていっくぞぉ~!

 ユエ「おい

 ぴゃいぃッッ!!

 ユエ「何普通に始めようとしている……逃げられると思うてか……

 すいませんすいませんッ!今回はちゃんとイチャイチャさせるんで、助けてくだ━━━━

 ユエ「壊劫(えこう)!!

 ぐぶぇえッ━━━━━━


 ハジメ「翁月が死んだッ!!」

 ハサン「この人でなしぃー!!」



 ハジメ「なぁ、これいつまでやんだ?」



第14話:黄金(せんれい)〘上〙〜超越者(ぼうかんしゃ)と奪われた瞳〜

 

 

 ハサンside〜

 

 

 時間稼ぎのために南雲君によって何重にも新しく重ねられた岩壁も、死兵たるラプトルもどき集団によって数分が限界だった。

 

 せき止められていた壁がなくなったことで濁流のように押し寄せるラプトル、ただでさえ狭い通路を同族のことを考慮せず無理やり侵攻してくるものだから、その鋭い爪と牙でお互いを傷つけ、転けたりぶつかったり、仲間を踏みつけたりと散々な有り様だった。

 

 どうやらこれは、想定よりも簡単な作業のようで、這々の体で迫るラプトルを私は魔眼を用いて処理していくだけでいい。

 

 そうしていること数分後、突如侵攻が激しくなったと思った瞬間、彼らの頭に生えてる花が一斉に枯れだした。

 

 ハサン「やりましたか、ユエさん、南雲君……!」

 

 一瞬、痙攣したあと瞳をパチクリさせ呆けたラプトル達は、案の定私に気づくと襲いかかってくる。しかしすべての個体ではない。何体かは撤退する個体もいた。

 

 ハサン「さて……後もう一息だ」

 

 「「「シャアアアアアアアアアアアアアッッッ」」」

 

 私は両手のナイフを握りしめ、ラプトルの群れへと飛びかかる。

 

 

 

 

 

 ハサン「で………なんですかこれ………」

 

 ユエ「うぅ~ひっく……ハサンん“~~」

 

 ハジメ「あぁ~これはだなぁ〜」

 

 

 ある程度ラプトルを退け、戦意喪失した個体が遠くに撤退していくのを見届けてから私は洞窟の奥へと向かう。

 

 そこにいたのは頭部を破裂させた女性型の植物の体を持つ魔物、エセアルウラネの死骸の傍らで、困り顔で突っ立っている南雲君と膨れ面で南雲君にぽかぽかやっているユエさんの姿だった。

 

 私を目にしたユエさんは泣きながら私に抱きついてきた。取り敢えず私はユエさんを慰めつつ南雲君に事の顛末を聞く。

 

 まず寄生花の本体であるエセアルウラネの住処に着いたはいいが、ユエさんが花に操らてエセアルウラネの支配下に入ってしまったらしい。

耐性がある南雲君には効果は無かったが、ユエさんはエセアルウラネの手駒兼人質にされてしまう。

 

 流石にエセアルウラネにはユエさんの上級魔法は手に余るらしく、ランクの低い魔法のみの攻撃で対処は難しくなかったが、ここで人質としての効果を発揮し、南雲君は手をこまねいていた。

 

 己の不甲斐なさと悔しさでたまらなくなったユエさんは何やら覚悟を決めて南雲君に、自分に構わずエセアルウラネを攻撃するように頼んだそうだ。

 憎からず想い合う二人だ。「そんなこと出来るはずないだろう! 必ず助けてみせる!」な〜んて普通はそんな熱いセリフが飛び出て来てロマンチックに二人の絆を確かめ合う流れなのだろうが……。

 

 ハジメ「え、いいのか? 助かるわぁ〜!」

 

 ドパンッ!!

 

あろう事か南雲君は、なんの躊躇もなく引き金を引いてみせたのだ。

 

 結果的に、その銃弾はユエさんの頭の花を刈り取りエセアルウラネからユエさんを開放することに成功する。

 

 肉の盾を失ったエセアルウラネは無惨に南雲君に頭部を吹き飛ばされ絶命した………。

 

 えぇと、なんというか

 

 

 ハサン「無いわぁ~」

 

 ハジメ「いやいや、敵は倒したしユエは……ちょっと頭皮を削ったけどすぐ再生するから無事!何の問題もないだろぉ!!」

 

 ハサン「は?いや無いわぁ~」

 

 ユエ「ひっく…………」

 

 確かにそれが今回の最善手で仕方の無かったことだっただろう。ユエさんも覚悟を決めてそれを促したのだ。生死を分ける状況での犠牲者0、この結果は本来はなんの文句もない大団円の筈なのだが……。

 

 なんの躊躇もなくッと言うのはあんまりではなかろうか。同じ状況で人質との関係性を考えたら流石の私でも熟考する。まぁ最終的には私も撃つが……。

 

 私は胸に飛び込んできたユエさんを南雲君から隠す様に抱きかかえ、南雲君に付けられた頭頂部の傷(再生で今は完治している)を優しく擦りながら、一方で南雲君に蔑んだ視線を向ける。

今回ばかりはユエさんが可哀想だ。

 

 ユエ「ハサン……ごめん…ひっく……」

 

 ハサン「ユエ、さん?」

 

 しばらく撫でていると唐突にユエさんから謝罪される。そういえば、ユエさんは南雲君にぽかぽかしてるときは膨れ面ではあったが泣いてはいなかった。私が来た途端に泣き出したのだ。彼女の涙の理由は別にあるのか?

 思考する私をよそにユエさんは続ける。

 

 ユエ「ハサンは……ひっく……約束……果たしてくれたのに……ひっく……私は……操られて……ハジメに……ひっく……」

 

 ハサン「あ……」

 

 そうか、先程の宣誓の事か……。

 

 今回ユエさんは敵に操られて南雲君を攻撃してしまったことをとても悔いている。正直、私の中にユエさんへの不信感はもう無い。彼女の想いは香織並みに本物で、強い気持ちだ。

 そもそも、今回の事は不可抗力でユエさんの落ち度はない。しかし彼女はそれで納得はしないだろう。

 

 ならば……

 

 ハサン「私の方こそ……ごめんなさいユエさん」

 

 ユエ「……なんで……ハサンが謝るの?」

 

 ハサン「私があなたにムキになって敵視してしまっていたことです……。私は暗殺者でありながら……最近心が揺らぎっぱなしで…、慣れない感情が溢れてくるときがあります。

 

 それを抑えられなくて……あなたに当たってしまった。それがこの場において危うい事だと分かっているはずなのに、衝動のままにあなたを傷つけた……本当にごめんなさい」

 

 ユエ「…………」

 

 この謝罪で、ユエさんが納得するかはわからない。だがせめて、私達はお互い様なのだと……それを理解してほしい。これで彼女の気が晴れるのなら。

 

 ユエ「それは……私も同じ……私とハジメの間を邪魔する嫌なやつだって思って嫌がらせをした……ごめんなさい」

 

 ハサン「実際そうなのですから、気になさらないでください。……ですが諸事情あってまた邪魔はするかもしれませんが♪」

 

 ユエ「ッ!もうッ……プフッ」

 

 ハサン「フフフッ」

 

 謝罪の応酬から一転、いつの間にか私達は笑い合っていた。

 

 ここにようやく、私とユエさんの蟠りはなくなったのだ。

 

 ハジメ「やれやれ、ようやく仲直りしたかよ、良かった良かった〜」

 

 ハサン「あなたにも迷惑をおかけしましたねゲスモ君(・・・・)本当にすいません」

 

 ユエ「クズメ(・・・)心配かけた……ごめん」

 

 ハジメ「いやいや良いってこと……

 ちょっと待たんかいぃッ!!聞き間違えか?!今若干知らん名前がしたぞ!」

 

 ハサン「いかがしましたかカスモ君(・・・・)?」

 

 ユエ「アホメ(・・・)大丈夫?」

 

 ハジメ「だぁああああッ!わかった!わかったッ!わかりました!!俺が悪ぅ〜ござんした!!ごめんなさぁぁぁぁいッ!!」

 

 そうやってデリカシーを奈落に置き忘れた南雲君をおちょくる事でユエさんは機嫌を直し、私達は再び迷宮攻略を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私達が合流した階層から数えて五十、つまりは南雲君曰く此処“真のオルクス大迷宮”百階層の目の前まで来た。

 

 此処に来るまでに南雲君とユエさんの仲はかなり進展しているように思える。

 先刻の発言の通り、イチャつき始めたらユエさんを私の膝に乗せるという手段で消極的だが妨害はしている。だが、ユエさんもただでは諦めないらしく私が目を離した隙に密着したり、添い寝したりと油断も隙もない。南雲君もされるがままでそれを受け入れている節がある。

 

 もっとしっかりと妨害したほうがいいのだろうが、道中ユエさんにもそれなりに情が湧いてしまった今の私では非常に難しい。

 

 香織、優柔不断な私を許して……。

 

 ユエ「ハジメ……いつもより慎重……」

 

 ハジメ「うん? ああ、次で百階だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百階だと言われていたから……まぁ念のためだ」

 

 ハサン「準備はいくらやるに越した事はありません。ですが状況次第では魔眼(・・)の使用も視野に入れておきます。」

 

 ハジメ「できるだけ頼りたくないが……まぁ万が一のときは頼む」

 

 ユエ「ん……お願いッ……」

 

 今私は魔眼の使用を控えるように言われている。ここまで来る道中、いつものように魔物を処理した後、南雲君にこんなことを言われた。

 

 ハジメ「チートじゃね?」

 

 ユエ「うんうん……」

 

 ハサン「………そうでしょうか?」

 

 私が魔物からナイフを抜いている後ろで、南雲君とユエさんが、二人共同じポーズで顎に手を当て頭を傾けている。

 

 ハジメ「だってそうだろ、万物の死を視認し干渉できる目なんて最強すぎんだろ!?おまけに唯一で最大の弱点である脳と眼球の負荷もご先祖様の脳を介して補ってんだろ?まごうことなきチートじゃねか」

 

 ユエ「うんうん……」

 

 最強……か…私にとってはこの目は呪いだ、死が見える。なんて恐怖以外の何物でもない。この目を手に入れた経緯だって血なまぐさいものだ。

 だが今は感謝しよう。皆が言う最強のこの目で大事なものが守れるのなら━━━

 ハジメ「ハサンその目、有事以外使用禁止してもらっていいか?」

 

 いきなり私の決意を否定された……

 理由を聞いてみると、魔眼に頼り切りだと戦闘が楽になってしまってステータスが伸びないかもしれないという事らしいのだ。

 

 ハジメ「俺達は地上に出たら面倒事が多くなる事は確実だ。ファンタジーの世界に存在しない重火器を扱う俺、記録にも残ってない大迷宮の奥地にこれみよがしに封印されていた吸血鬼族最後の生き残りユエ、現在全国指名手配中の犯罪者ハサン、

 ハサン「言い方なんとかなりませんか?」こんなメンツだ敵も多くなることは必至だろう。こんな地下に長居するのはゴメンだが幸か不幸か、ここは天然の訓練場だ。出るまでの道中は極力レベルアップを視野に入れたい。」

 

 正直私としてはこれ以上南雲君とユエさんの仲が深まる前に地上に戻り香織と合流を急ぎたいのだが……まぁ彼の言うことも一理ある訳で〜むむむ〜ッ

 

 ハサン「わかり……ました……ッ」

 

 その意見に私は渋々だが了承した。

 

 そうやって準備と鍛錬を重ねた私と南雲君の今のステータスはこんな感じだ。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

 

天職:錬成師

 

筋力:1980

 

体力:2090

 

耐性:2070

 

敏捷:2450

 

魔力:1780

 

魔耐:1780

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・赤き加護・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

 

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遠藤 霞 

 

(ハサン サッバーハ)17歳 女 レベル:73

 

天職:暗殺者          職業∶教祖

 

筋力:1850

 

体力:2900

 

耐性:2160

 

敏捷:5010

 

魔力:690

 

魔耐:1600

 

技能:・山翁寵愛(ザバーニーヤ)(己を含めた歴代十八の翁の御業の劣化版を扱え、死を理解する)、[+並列思考]

 

・天使降臨(己を含め、初代を抜いたた歴代の翁の首を一つ捧げるにつき初代様が降臨なさる)

 

      〘18/18〙

 

・天性の肉体・直死の魔眼・遠視・縮地[+爆縮地]・隠形・気配遮断EX[+気配操作][+デコイ]・気配感知・先読み・状態異常無効・精神干渉無効・偽装・薬品調合[+薬草鑑定]・人体改造[+自己解析]・限界突破・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・天歩[+空力]・夜目・熱源感知・魔力感知・念話・言語理解

 

状態異常)) 薬物中毒X ※この症状は状態異常無効がつく前に発生したもの

====================================

 

 

 ステータスは、初めての魔物を食えば上昇し続けている。しかし、固有魔法はそれほど増えなくなった。

 主級の魔物なら取得することもあるが、その階層の通常の魔物ではもう増えないらしい。魔物同士が喰い合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 

 私は戦闘前の腹ごしらえに南雲君が準備する傍らで南雲君用に残しておいた戦場用食(・・・・)に齧りついている。

 

 そう、私は率先して魔物の肉を口にはしない。南雲君が食して私に有用そうな固有魔法をもつ個体のみ食している。

よってレベルもステータスも今では南雲君に抜かされている。

まぁまだ私が勝っているステータスはあるが……特に敏捷とか。

 

 ユエ「ハサン……またそれ食べてる。」

 

 ハジメ「魔物の肉も本来食えたもんじゃないが、それもあんまり美味くないだろ?」

 

 ハサン「栄養第一に考えてるってのもありまずが、何より勿体無いですしね。せっかく持ってきたのに食べないのは、食材に失礼です。それに私、味覚がほぼ死んでる(・・・・・・・・・)ので味の方は大丈夫ですよ?まぁ魔物肉を食べたときは久しぶりに不味いって感覚を味わいましたが……いやぁ〜強烈ですねアレ」

 

 ユエ「えっ………」

 

 ハジメ「………………」

 

 ハサン「あっ……」

 

 

 しまった……自然な流れだったのでつい口走ってしまいました。私は油の切れた人形のようにギギギッと2人に視線を向けると、案の定、二人共戸惑いと悲痛な表情を浮かべてしまっていました。

 

 

 ハサン「な、なぁ〜んちゃってぇ〜

 

 ハジメ「いや無理だろ流石に」

 

 ですよねー!誤魔化せないですよねぇー!!

苦笑する私にユエさんが近づいて上目遣いで服の裾を掴む。

 

 ユエさんは何か言いたげな視線で口をパクパクさせるが、何も言わず口を噤み顔を下に向けてしまう。が、キリッと表情を変えると私にしゃがむように促してくる。

 理由もわからないまま私はしゃがむと、

 

ガバッとユエさんに抱きしめられた……。

 

 温かい……  そう感じた。標準よりも低い体温のはずなのに、私は温かいと感じていた。

 平たくも柔らかい胸に顔を抱えられ、やさしい手つきで頭を撫でつけられる。

 

 ユエ「今は……どうすることもできない……だからせめて……」

 

 頭上に?が飛び交う中、ようやく口を開いたユエさんはただそれだけを口にした。

 無意識に自然と抱き返そうと手を伸ばすが、上げた手を私は下におろす、

 触れてはいけない、こんな綺麗なモノに汚い私の手で……。

そう思っていながら、私はユエさんの抱擁から逃れずにいた。

 

 ………本当に……汚い………。

 

 ハジメ「ゴホンッ そろそろいいか?」

 

 ハサン「あ……はぃ……///」

 

 

 ワンクッショントラブルを挟んで、すべての準備を終えた私達は、階下へと続く階段へと向かった。

 

 その階層は、無数の強大な柱に支えられた広大な空間でした。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうです。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なもので、どこか荘厳さを感じさせる空間でした。装飾こそ教会で見たものより質素に感じるが、教会でのまるで何かを覆い隠すような欺瞞塗れの飾りよりもずっと良い。

 

 しばしその光景に見惚れつつ足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。ハッと我を取り戻し警戒する。私達を起点に奥の方へ順次輝いていく。

 

 ユエさんが手をかざし、南雲君がドンナーを、私がナイフを構え警戒するが、特に何も起こらないので先へ進むことにする。感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だった。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

 ハジメ「……これはまた凄いな。もしかして……」

 

 ユエ「……反逆者の住処?」

 

 いかにもな門構え、感知系の技能をフル稼働させても敵の気配は一切ないが、長年の経験で培われた勘がこの場所はヤバいと告げていた。南雲君とユエさんもそれを感じるのか、二人共表情がこわばりユエさんは額から薄っすら汗が滲んでいる。

 

 

 ハジメ「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

 南雲君はを恐怖が混じった表情を無理やり消して不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようとやるしかない。

 

 ユエ「……んっ!」

 

 ユエさんも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

 ハサン「当然、私も覚悟はできてます。何が来ようと殺してみせましょう」

 

 三人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えた。

 

 

 その瞬間、扉と私達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

 ハサン「これは……!」

 

 私と南雲君は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、南雲君が奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

 ハジメ「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

 

 ユエ「……大丈夫……私達は、負けない……ッ!」

 

 南雲君が流石に引きつった笑みを私が驚愕の表情を浮かべるが、ユエさんは決然とした表情を崩さず南雲君と

 

 ()の腕をギュッと掴んだ。

 

 ユエさんの言葉に南雲君が頷き、私は笑みを返す。苦笑いを浮かべながら私達も魔法陣を睨みつける。どうやらこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする私達三人。光が収まった時、そこに現れたのは……

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、ギリシャ神話に伝わる怪物ヒュドラのようだった。

 

 

「「「「「「クルゥァァアアアアアアアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が私達を射貫く。まるで身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が叩きつけられた。

 

 同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

 私達は三人同時にその場を別方向に飛び退き反撃を開始する。南雲君のドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

 私はヒュドラの死角に入り隙を伺う。魔眼を開き、こいつが一体の魔物なのか、頭それぞれが1個体なのかを確認しようとする。

 

 ハサン「ザバー

 

          ブツンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

      “汝の力の代償を知れ”

 

 

 

 

 ハサン「初代……様……?」

 

 

 背後に初代様の気配を感じた瞬間

 

          “ドックン”

 

 ぶちッブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチッ

 

 

 ハサン「アガッあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!?

 

 

 痛みが弾けた……

 

 

 

 

 

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 sideout

 

 

 

 灰色の世界、霧が立ち込める灰の草原に揺れる朱色の焔。タバコを咥えその焚き火を覗き込む金髪の男は、突如己の背後に現れた存在に驚くこともなく、ニヒルな笑みを浮かべた口を開く。

 

 お兄さん「よぉ、悪いねぇ。お願い聞いてくれちゃって」

 

 そう言って男が振り返ると、そこに立っていたのは捻れた杖をつき、闇色のボロ衣をまとったしわがれた老人、袖から見える手は枯れ枝のように細く歪、フードから覗く鋼色の長い頭髪とヒゲは不健康に乱れている。その様はまるで浮浪者のように見える。

 だが縮れた髪から覗く瞳は浮浪者の老人とは思えないほど鋭く、獰猛な獣か死神のように青白く光っている。

 

 老人「気に負う必要はなし、我は契約に従ったまでのこと……」

 

 お兄さん「契約……ねぇ……確かに、俺がアンタに南雲ハジメの情報を提供するのに対して、アンタは俺の指定したタイミングで言峰……いやハサン・サッバーハとの脳幹のパスを一時的に切断してほしいって話だったなぁ。」

 

 老人「あの者に己の力に潜む危機を理解させるには、ちょうど良かったまでよ……」

 

 老人の言葉を聞いて男は珍しいものを見る視線を向ける。

 

 お兄さん「ほう、ずいぶん甘やかすんだなぁ。アンタらしくもない」

 

 老人「………………………。」

 

 男の質問に老人は答えない。その様子を見てサングラス越しに愉快そうに笑う男。

 

 お兄さん「まぁいい、俺が見たいのは南雲ハジメの必死の闘争だ。あんな直死の魔眼(つまらないもの)が出てきては興醒めだからなぁ」

 

 そう言うと視線を焚き火に戻し、ソコを通して戦場を観覧する。

 

 お兄さん「せいぜいかわいい孫娘(・・)が大事に至る前に南雲ハジメ達が勝利するのを祈っておくこったなぁ〜

 この、自称“神殺し育成の大迷宮”最後の守護者相手に……」

 

 二人の超越者が傍観する中、最後の試練が始まろうとしていた………。

 

 

 

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 ハジメside〜

 

 

 ヒュドラの赤頭倒し、まずは一つと内心ガッツポーズを取る俺。だがその時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻りやがった。どうやら白頭は回復魔法を使えるらしいな面倒くせぇ。

 

 少し遅れてユエも氷弾を発射して緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

 

 ハジメ「チッ」

 

 俺は舌打ちをしつつ〝念話〟で二人に伝える。

 

 

 

 ハジメ|〝ユエ!ハサン! あの白頭を狙うぞ! キリがない!〟

 

 ユエ|〝んっ!〟

 

 

 不思議なことに、ユエからの応答はあったがハサンからの返事がない

 

 ハジメ|〝ハサンっ!どうした!?〟

 

 俺が聞き返した次の瞬間

 

 ハサン「アガッあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!?

 

 

 ユエ「ハサンッ!?」

 

 

 突然ハサンから絶叫が発せられる。視線を向ければハサンが両手で目を押さえて地面をのたうち回っている。錯乱しているからなのか、”気配遮断“も発動できてねぇ。

 

 さっきの絶叫に反応したヒュドラもどきがハサンの方へと顔を向けた。

 

 ハジメ|〝ユエ頼むッ!〟

 

 ユエ|〝んっ!任せて!〟

 

 マズイと思った俺はユエをハサンの元へと向かわせる。詳細を言わんでも俺の意図を汲んでくれたユエを頼もしく思いながらも冷や汗が止まらねぇ

 

 おいおい、いきなり幸先が悪ぃーぞッ!一人でこのデカブツの相手は流石にキツイ。取り敢えずユエとハサンが来るまで時間稼ぎをしなきゃならねぇな。

 

 ハジメ「こっちに来いや化け物ヤロウ!!」

 

 ドパンッドパンッ!

 

 「クルゥアン!」

 

 俺がヒュドラもどきの注意を引こうと適当に連発すると、青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出してくる。

 どうやら誘導は成功したらしい。俺はそのまま攻撃を回避しつつ、ユエとハサンから離れるように距離を開けていく。その最中誘導のために攻撃は欠かさない無論狙うのは、当初の予定通り白頭だ。

 

 俺の放った閃光が直撃したかと思ったが、次の瞬間黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬でコブラのような形に肥大化させた。そして淡く黄色に輝いて俺のレールガンを受け止めやがった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいて俺を睥睨している。

 

 ハジメ「ちっ! 盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスのいいことだな!」

 

 こっちはソロ、あっちは実質パーティーを組んでいる状態。不公平にもほどがある。

 

 ハジメ「なるたけ急いでくれよ!ユエ、ハサン」

 

 俺は再びドンナーを構える。

 

 

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 ユエside〜

 

 

 私は戦線を一時離脱してハサンのもとに向かう。

 

 

 ハサン「うぐぅぅッあぁッ!?」

 

 ユエ「ハサン!……どうした……のッ!?」

 

 顔を抑えて蹲るハサンを覗き込むと、顔の下の地面に大きな血溜まりができていたッ!

 

 ユエ「ハサン…ごめん……!」

 

 辛そうにしているが、私は無理やり顔を起こして状態を確認する。そこにあるハサンの顔は………血まみれだった。

 

 両目は失明を疑うほどに白目が真っ赤に染まり涙腺から大量に血涙が流れている。更には鼻血もひどく、血飛沫が上がるほど滝のように流れている。

 顔を近づけたから分かったが、眼球からブチブチッと生々しい音も聞こえる。その様は本当に痛々しい……。

 

 あの魔物の仕業かと思い、痛みで悶えるハサンの代わりに私の神水をハサンに無理やり飲ませてやる。

 

 だが……。

 

 ユエ「な……なんで…?」

 

 神水を飲ませれば一瞬流血は止まるが、すぐに流血は再開してしまう。

 

 ユエ「なんで……なんでなんで……!?止まって……止まってよぉ!!」

 

 私は飲ますだけでなく直接顔に神水をかけたりもするけど、止まる気配は全く無い。

 

 最後の一本を使おうとした時、

 

 ハサン「だめ……です………ユエさ……ん」

 

 神水を持つ私の手に重ねるように弱々しく手を重ねて抑えてくるハサン。

 

 ユエ「でもッ……!!」

 

 食い下がろうとする私に、ハサンは苦悶の表情に無理やり笑みを浮かべて顔を左右に揺らす。

 

 ハサン「これは……多分…神水じゃ、……治ら、ないッだからッ……これ以上…ぐぅッ……無駄使いは……ダメ…です……!」

 

 そう言いながら立ち上がろうとするハサン、私は慌ててハサンを抑えようとする。

 

 ユエ「ダメ!!……動いちゃ」

 

 そう言う私にハサンはとある方向に指を指す。その先に視線を向けると、そこにはあの強大な魔物に孤軍奮闘するハジメの姿があった。

 

 ハサン「私は…、ぐぅッ……大丈夫…です……。だから南雲……君の援護へ……私も後から…行きますから…」

 

 ハサンの言う通り早くハジメの援護にも行かないと行けない。

でもこんな状態のハサンを置いていくなんていうのもできない。

 

 

 どうすれば……! 

 

 決断しきれず震える私の手に、大量になにかが入ったハサンの小さなバックパックが渡される。

 

 ユエ「!ッコレ……」

 

 そこにはハサンの分の神水がこれでもかと入っていた。そしてハサンが口を開く

 

 ハサン「やっと……ここまで、来たん…だから……走り抜けようよ……最後まで!」

 

 ユエ「……!」

 

 そこにいつもの取り繕った敬語はなくて、笑顔の質も、凛々しく大人びたものではなく、血みどろだけど、快活とした無邪気な子どものような笑顔を私に向けてくる。

 これが、余裕のない彼女が初めて……うんん、久々に見せた本当の笑顔なんだろう。

 

 ユエ「うんッ!」

 

 こんな顔を見せられては、彼女の気持ちを無下にはできない。いや、絶対にしない!

 私はハサンから渡されたバックパックの持ち手をギュッと握りしめ、強気に頷く。

 

 ハサン「あと……ユエさん…、南雲君…にも……伝えてください……ッ」

 

 ユエ「何?……」

 

 立ち上がろうとした私の腕を掴みハサンがそう言う。私は今も痛みに悶えながら何かを伝えようとするハサンの口元に耳を近づける。

 

 ハサン「ーーーーーーーーーーーーーー。」

 

 ユエ「ッ!!………わかった気を付ける(・・・・・)……ハジメにも、伝える……。」

 

 

 私はハサンから聞かされた情報に驚愕しながらも心に留めておく。私の言葉に納得したようにハサンも強く頷いた。

そして今度こそハジメの元へ向かう。

 

 絶対にこいつを倒して地上に出る!だからハサン……あなたも無理はしないで……。

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 ハサンside〜

 

 

 (なんだコレ)(わからない)(なんだコレ)(わからない)(なんだコレ)(わからない)(なんだコレ)(わからない)(なんだコレ)(わからない)(痛い)(怖い)(辛い)(気持ち悪い)(訳が分からない)!!

 

 唐突に流れ込む情報の濁流と共に頭と眼球が破裂するんじゃないかと思う程の強烈な痛み、今までもたくさんの痛みを経験した。

 

 破爪、麻酔ナシのオペ、刀傷、銃傷、殴打、骨折、毒、爪剥ぎ、鞭打ち、今は無事くっ付いてはいるが両手足の指をすべて落とされた事もある。

 

 しかし……これは、今までに感じたどの痛みよりも強烈で、筆舌に尽くしがたい。

 目と鼻から信じられない量の血が溢れ出している。

 

 ユエさんにはあぁは言ったが、これはかなりマズイ立つ事すらままならない。

 

 ハサン「ぐぅぅッ!」

 

 再び目を手で抑え、私は先程の初代様の言葉を思い出す。

 

 

 『“汝の力の代償を知れ”』

 

 恐らくこれは初代様からの接続を一方的に絶たれた事により、この直死の魔眼が暴走しているのだろう。

 

 この目はまさに呪いだ、これ程までの爆弾を抱えていたというのだから……。

 

 

 何故初代様は急にこんなことを?理由は決まっている。ここまで来るに至るまで、初代様から見て、私は山の翁として愚かで未熟だったと言うことだろう。

 

 つまりこれは初代様からの罰。初代様を由来に持ち、私の根幹から作用するこの眼の疾患だ。神水だろうと治すことは不可能だろう。

 

 だが、良い気付けにはなった!

 

 自分が何者で、何を成すために今も未練がましく息をしているのか……。

 

ようやくここまで辿り着いたんだ、3人でここを超えて、南雲君を香織の元へ送り届ける。それから━━━━━━━

 

 

 

 それから…………私は、私はどうすれば良いんだろう?……。

 

 

 ユエ「イヤアアアアアアアアアアッ」

 

 

 ハサン「ユエ……さん……ッ」

 

 遠くからユエさんの悲鳴が聞こえる。私は唐突に浮かんだ思考を振り払い、悲鳴の方へ痛む視線を向ける。

 

 南雲君と合流したユエさんは、南雲君と連携してヒュドラもどきとの戦闘に入る。

 ヒュドラは6つの頭それぞれが特徴があるらしく、攻撃、防御、回復と一個のパーティーのような構成となっていて、いちばん厄介な回復役の白頭へと攻撃を集中していた。

 

 南雲君達に千載一遇のチャンスが舞い込んだその時、先程ユエさんが突如として悲鳴を上げたのだ。

 

 何が起きたかなんて考えてる暇はない。なにかに怯えるような様子のユエさんは自分に降りかかろうとしている攻撃に気づかない。

 

 うまく立ち上がれない今の私では、〝縮地〟を使えない。

 

 かくなる上は………

 

 ハサン「無想駆体(ザバーニーヤ)ッ!!」

 

 私はまた一つ先代翁の一人の御業を一部借り受ける。これは、全く0の状態からどんな体勢でも私のマックススピードで飛び出す力。オリジナルと違い制御も効かないし、10秒以上の使用は命に関わるデメリットも引き継いでいるため、使いづらい力だ。

 

 だが、真っ直ぐ飛び出すだけなら問題はない。私は膝まづいた状態でヒュドラもどきの懐に一瞬で滑り込む。

 

 このとき余裕のない私は気づかなかったが、私は通常よりも速いスピードが出ており、体からエメラルド色の淡い光を放っていた。

 切羽詰まった状況の中、ただ以外にもヒュドラもどきとの距離が近かったな……くらいの違和感しか感じなかった。

 

 そのまま私は次の御業を発動する。

 

 ハサン「妄想心音(ザバーニーヤ)ッ!!」

 

 そう言うと私は、赤褐色に発光する右腕をヒュドラもどきに叩きつける。

 この腕は正真正銘私の腕だ。悪魔(シャイタン)のものではない。だが“山翁寵愛(ザバーニーヤ)”の影響でその呪いの一部を反映できる。

 

 オリジナルと違って自在に伸びたり、疑似心臓を召喚することはできない。だが対象の心臓を一瞬麻痺させることはできる。

 

 「クルゥ”ア”ァ”ッ!?」

 

 一瞬とはいえ心臓が止まるのだ。その苦痛は計り知れないだろう。6つの頭それぞれが苦悶の雄叫びを上げる。

 私の時間稼ぎが功を奏し、南雲君はユエさんを無事回収することに成功した。

 

 だが、二人が待ち直すにはまだしばらく時間がかかるだろう。

 

 私は獣のように地べたを這いずり回る。”無想駆体“と“妄想心音”を無理なく使い、気配遮断を駆使してヒットアンドアウェイを繰り返す。どこから来るともわからない私に度々心臓を止められるヒュドラもどきは血反吐を吐くが倒れはしない。

 

 並みの生き物ならこれだけ心臓を止められれば余裕で死ねるのだが、流石は最後の守護者(ガーディアン)といったところか。

 攻防はしばらく続き遂に……

 

 ブシャッ!!

 

 ハサン「あぐぁぁッ!!」

 

 私の方が先に限界が来た。ただでさえ激しい激痛に苛まれた中で戦っていたのだ。こうなるのも時間の問題だっただろう。

 

 より一層血を吹き出し、痛みに悶えた私はスピードの勢いで近くの瓦礫に激突する。

 

 集中が切れたことで気配遮断も解けてしまう。

 

 足元で転げる私を発見したヒュドラもどきは6つの顔すべてが忌々しげに歪み私を睨みつける。

 

先程まで自分を苦しめた下手人を見つけたのだ。当然の反応だろう。

 私は目の痛みが限界を超え、強くまぶたを瞑ってしまう。だが鍛えられた聴覚が周りの様子をはっきりと伝えてくる。

 

 うまく体が動かせない私にヒュドラもどき達の顎が迫る。私のようなちっぽけな相手に散々痛めつけられたんだ、その怒りは相当だ、直接噛み砕いて殺したいのだろう。

 

 私がそのうち迫るだろう死の痛みに体をこわばらせた次の瞬間。

 

 ハジメ

うぉらあぁぁぁぁぁぁッ!!!!!

 

 

 

 

 南雲君が雄叫びを上げながら猛スピードで私のもとに滑り込み━━━

 

 

 ハジメ「うぉっしゃぁあッ!!ギリギリッ!!」 

 

 私の腰に手を添えて抱えあげる。片腕なため随分不細工だが、お姫様抱っこのように見える。 

 

 そして直ぐ様その場から走り去り後方へと声を張り上げる。

 

 ハジメ「今だぁ!!ユエぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 ユエ「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

 矢継ぎ早に引かれた魔法のトリガー。有り得ない速度で魔法が構築され、炎の槍と螺旋に渦巻く真空刃を伴った竜巻と鋭い針のような氷の雨が一斉にヒュドラもどきを襲う。

 

 奇しくも、6つの首全部が私を殺そうと躍起になり一塊になっている。

 だが、それはいい的であると同時に……

 

 「クルゥアン!」

 

 守りやすいと同義、黄頭がユエさんの前に割り込み頭部を変形させ防御体勢を取る。

 

 だが、攻撃を防がれたというのにユエさんはニヤリと笑ってみせる。まるでいたずらが成功した子どものように。

 

 何を?と黄頭が不意に視線を動かす。すると、ヒュドラの巨体を挟んでユエさんとは反対側。私を傍らで寝かせ、不敵に笑う南雲君が脇で抱えた対物ライフル∶シュラーゲンに紅いスパークを迸らせていた。

 

 ハジメ「引っ掛かったなぁ間抜けがぁアアア!!」

 

 

 「クルゥアアアアッ!!」

 

 しかし、流石は最後の守護者、簡単にやられるものかと言うように黄頭が一鳴きすると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となり南雲君の射線を遮る。どうららこの黄頭は南雲君の錬成のようなことができるらしい。

 

 

 だがそれも━━ッ

 

 ハジメ「まとめて砕くッ!」

 

 

 ただの悪足掻きに過ぎなかった。

 

 南雲君が〝纏雷〟を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く〝纏雷〟にもよく馴染んだそれは、通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

 

 

ドガァァァンッ!!

 

 

 

 大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。

 

 発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のようでかつて、勇者の天之河がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭の作った盾を破砕し、その先にいるヒュドラ達の首に直撃する。

 

 すべての頭が何かしようとするも、そのまま何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

 後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える六つの頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 残った胴体は力なく崩れ落ちるが、私達は未だに警戒を解かない(・・・・・・・・・・)

 

 すると頭のなくなった胴体から7つ目の銀色の頭が現れる。

しかし、南雲君は全く驚く様子もなくシュラーゲンを地面に置くと唐突に語りだす。

 

 ハジメ「悪りぃなサプライズのつもりだったんだろうが……]

 

 南雲君を睥睨する銀頭に南雲君はゆっくりと拳を突き出し、親指を上へ人差し指を前へ突き出す。

 

 そしてまるでピストルを撃つみたいに腕を揺らして告げる。

 

 ハジメ「ネタ(・・)は割れてんだよ」

 

 ユエ「〝天灼〟」

 

 今まで息を潜めていたユエさんが詠唱する。生意気に挑発してみせる南雲君に気を取られて気配を潜めたユエさんに気づかなかった銀頭にもうこれを退ける余裕はなかった。

 

 そう私はユエさんを通して南雲君に伝えていた。

 

 ハサン『奴には7つ目の首があります。』と……。

 

 私は魔眼が暴走する寸前ヒュドラもどきの死の起点が7つ(・・)あることを確認していた。

 これが首なのかもわからなかったが体の奥に何か隠しているのは確かだったため、2人に伝えたのだ。

 

 かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在。その力が、己と敵対した事への天罰だとでも言うかのようにヒュドラへと降り注ぐ。

 

 銀頭の周囲を囲むように六つの放電する雷球が空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

 

  ズガガガガガガガガガッ!!

 

 中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。ヒュドラが逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、ヒュドラは断末魔の悲鳴を上げながら遂には丸焦げになり崩れ落ちた。

 

 いつもの如くユエさんがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、私達に向けてサムズアップした。南雲君も頬を緩めながらサムズアップで返す。シュラーゲンを担ぎ直し、一緒に私の肩も抱えあげる。

 

 ハサン「あっ大丈夫です…、一人で歩けッ!ぐぅ!!」

 

 ハジメ「いいから、無理せず大人しくしとけ…。」

 

 ユエ「ハサンッ……大丈夫?…無茶し過ぎッ……!」

 

 ハサン「……お二人も言えた義理じゃないでしょう」

 

 

 二人は私を気遣うが、私から言わせれば二人もだいぶ無茶をしたと思う。南雲君は死地に捨て身で滑り込み、ユエさんは魔力枯渇に陥る程に魔力を酷使した。アレで決められなかったらいちばん危険なのはユエさんだ。

 考えれば小言なんていくらでも思いつくが、私は未だに痛む目を手で抑えているため、無抵抗にされるがまま南雲君に支えられ、ユエさんの下へと歩み寄る。

 

 しかし、これで長くキツくも、……どこか楽しかった迷宮攻略もこれで終わった。

 まだまだ問題は山積みだけど、ようやく地上に━━━━

 

 

 ユエ「ハジメッハサンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 sideout

 

 

 パチ、パチ、パチ

 

 と、乾いた拍手を鳴らす金髪のサングラスの男。

 

 お兄さん「いやぁ~実に良き闘争、見事だ。南雲ハジメ。

そしてそこに(はべ)る二輪の花よ。お前達の必死の戦いは実に俺を満足させてくれた………」

 

 明るい声音でそう言う男、だが顔は全く笑っていない。

 

 お兄さん「だが……それに引き換え、お前たちにはガッカリしたぞ解放者共(・・・・)。これが神を殺すための最後の刺客だと?巫山戯るな!」 

 

 男が眉間にシワを寄せてそう叫ぶ。すると後ろにいた浮浪者の老人が口を開く。

 

 老人「ここはかの偽神(・・)を討つべく設けられた試練の間。刺客の脅威がこの程度なのは無理もない話よ……」

 

 諭すように言う老人の言葉に男が反論する。

 

 お兄さん「あぁ、あの野郎を殺るだけならこの程度でも問題ないだろう。だがな、奴らは仮にもここを()を殺すためと銘打っていやがる。この迷宮を超えたやつが、()をこの程度で殺れると勘違いされちゃあ溜まったもんじゃない!!」

 

 男は理不尽に元も子もない事で激怒している。そして次の瞬間、ここに来てから表情一つ動かさない老人に目を見開かせる程のことを口にした。

 

 お兄さん「まぁ仕方ない、ここは一つ本物の神の力の一端(・・・・・・・・・)を見せつけてやるとしようか。」

 

 この男は、あろう事か今しがた死闘を終えた者たちに、本来必要の無い、更なる追い打ちをかけようというのだ。

 その酷い仕打ちに、いかなる朴念仁であろうとも驚愕……いやドン引きは不可避だろう。

 

 

 老人「……狂っておるな、戦場の守護聖人(・・・・・・・)が聞いて呆れる。

 否、今宵の汝はまさしく狂人であったな、煙る鏡(けむるかがみ)よ」

 

 お兄さん「心外だなぁ(おきな)さんよぉ。俺はただ、せっかく目をかけた若人が、調子付き、増長し、勘違いして腐っていく。そんな目も当てられん程につまらん事にならないよう、俺直々に指導してやろうってだけさ。

 ま、俺が今回狂戦士(バーサーカー)であることは否定しないが……。」

 

 老人「………。」

 

 そう言うと男は視線を老人から焚き火……ハジメ達の方へと移す。

 

 お兄さん「さぁ〜てぇ、チャレンジクエストだ南雲ハジメェ!!

 心配する必要はない。これ(・・)に勝てずとも、お前達の迷宮攻略はすでに完了している。試練は不合格になることはない。」

 

 男は聞こえるはずも無い相手に興奮気味に長い金髪を振り乱し、両腕を天に掲げて声溌剌に語りかける。

 

 お兄さん「だがまぁ……勝てなければ………”死ぬだけだがな“

 

 サングラスのレンズ越しに邪悪な笑みを浮かべ、

 

 アステカの黒き太陽にして戦神。テスカトリポカは、フィンガースナップを打ち鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

  






 2日連続で投稿したんだから許してぇ〜〜!!

 ユエ「何をぬるいことを言ってる……?」

 へっ?

 ユエ「3日連続……」

 あぁ~う”ぇしぃッ!!

 ハジメ「翁月が死んだッ!!」

 ハサン「この人でなしぃー!!」


 

 ハジメ「………まだ続きそうだな……」
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