翁月は死なないッ何度でも蘇るさ!
そしてぇ〜やってやったぜ3日連続ぅ!!
この話は本当は前回に入れたかったんだけど長くなたちったからね
ではどうぞ
“パチンッ”
そのときハジメには確かにその音が聞こえた。だが見たところユエとハサンは気づいていない。
何かがヤバい……。理由は分からないが、いい知れぬ不安がハジメの胸中を埋め尽くす。
肩には目から血を流すハサン、正面は魔力枯渇で座り込むユエ。ハジメの本能は、この状況を危険と判断し、歩みを早めようとする。
その直後、
ユエ「ハジメッハサン!!」
ユエの切羽詰まった声が響き渡る。ハジメは分かっていた、ユエの視線の先、己の背後に先程のヒュドラなんてかわいく思える程の化け物がいると、ハサンも振り向き驚愕に目を皿にしている。
ハジメの本能は気にせず急いで逃げろと告げていた。だが振り向かずにはいられなかった。そこに何故か、ハジメには引き寄せられるものがあったからだ。強制力か何なのか、誘われるようにハジメも後へと視線を向けた。
炭になったヒュドラの頭部が縦に裂ける。そこから黄金の光が溢れ出す。
裂け目から這い出てる様は蛹から羽化する蝶のようだ。だがそこにいたのは蝶なんて可憐なものでは断じて無い。
現れたのは”異形の人型“その体躯は2メートルを優に超え、頭の先から足の指先まで黄金一色、よく見れば爬虫類の鱗のようなもので全身を覆われている。
そして体の至る場所、顔、胸、背中、両手、両足に蛇の顔が彫られた装飾がされ、それぞれの目の色が、先程のヒュドラもどき達と同色だ。
そうやって完全に羽化した人型ヒュドラとでも言うようなそいつは、凝り固まった体を解すように身を捩ると、体中にあるヒュドラの目がハジメたち3人を睥睨する。
まるでそこには先ほど殺された恨みがにじみ出ているように感じる。その圧倒的な憤怒の圧にハジメたちは思わず硬直する。
次の瞬間
『『『『『『『キュウルアアアァァァッッ!!!』』』』』』
それは最初のヒュドラの咆哮を彷彿とさせる……いやそれ以上の威圧を孕んで放たれた雄叫びだった。
雄叫びを放つと同時、人型ヒュドラの背後に後光のように魔法陣が展開する。
背中を覆うほどの大きさの銀の魔法陣、それを囲うように一回り小さな魔法陣が赤、青、黄色、緑、白、黒と順に展開し、最後に人型ヒュドラの全身から眩い黄金の光が放たれる。
すると、人型ヒュドラはハジメ達に視線を戻すと、
ガコンッ
と音をたてて背中の魔法陣が少し回転する。直後、銀の魔法陣が光り、銀の目を持つ胸の顔が口をガバっと開かせる。
人型ヒュドラが動き出した瞬間から、全身を悪寒に襲われたハジメは同時に飛び出していた。
肩に担ぐハサンをなるべく遠くへ行くよう右側へ力いっぱい投げ飛ばす。その後目の前に座り込むユエへと走り出す。
人型ヒュドラの胸の口から放たれたのは、先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという銀色の極光。
瞬く間にユエへと迫る極光がユエを丸ごと消し飛ばす前に、再び立ち塞がることに成功したハジメ。
だが、その結果は全く違ったものだった。
極光がハジメを飲み込む。後ろのユエも直撃は受けなかったものの余波により体を強かに打ちぬかれ吹き飛ばされた。
極光が収まり、ユエが全身に走る痛みに呻き声を上げながら体を起こす。極光に飲まれる前にハジメが割って入った光景に焦りを浮かべながらその姿を探す。
極光に巻き込まれないよう、射線の外に投げ飛ばされたハサンも同様にハジメを探し視線を動かす。
ハジメは最初に立ち塞がった場所から動いていなかった。仁王立ちしたまま全身から煙を吹き上げている。地面には融解したシュラーゲンの残骸が転がっていた。
ユエ「ハ、ハジメ?」
ハサン「南雲……君?」
ハジメ「………」
ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。
ユエ、ハサン「ハジメ(南雲君)!!」
ユエが焦燥に駆られるまま痛む体を無視して駆け寄ろうとする。しかし、魔力枯渇で力が入らず転倒してしまった。もどかしい気持ちを押し殺して、ハサンから渡された神水を取り出すと一気に飲み干す。少し活力が戻り、立ち上がってハジメの下へ今度こそ駆け寄った。
それから少し遅れてハサンもハジメの下へ辿り着く。ハサンは神水を持っていないが、ユエとは違い頑丈で尚且つ受け身を取っていたため、投げ出されたことへのダメージは無かった。ただ元々蓄積したダメージでまともに立ち上がることができず、這々の体で駆け寄っている。
うつ伏せに倒れこむハジメの下からジワッと血が流れ出してくる。ハジメの〝金剛〟を突き抜けダメージを与えたのだろう。もし、封印の間にて、ユエの〝蒼天〟にもある程度は耐えた五十階層の守護者、サソリモドキの外殻で作ったシュラーゲンを咄嗟に盾にしなければ即死していたかもしれない。
仰向けにしたハジメの容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼け
ハサン「あぁッ……そんなぁ…」
ハジメの状態にハサンが悲痛な声を漏らす。対してユエは急いで神水を飲ませようとするが、そんな時間を人型ヒュドラが待つはずもない。今度は直径十センチ程の光弾を無数に撃ちだしてきた。まるでガトリングの掃射のような激しさだ。
ユエとハサンがハジメの両側を支え、力を振り絞ってその場を離脱し柱の影に隠れる。柱を削るように光弾が次々と撃ち込まれていく。一分も持たないだろう。光弾の一つ一つに恐ろしい程のエネルギーが込められている。
ハサンが柱の影から敵の様子を窺う中、ユエはハジメの救命措置を開始する。
急いで神水をハジメの傷口に降り掛け、もう一本も飲ませようとする。しかし、飲み込む力も残っていないのか、ハジメはむせて吐き出してしまう。ユエは自分の口に神水を含むと、そのままハジメに口付けをし、むせるハジメを押さえつけて無理やり飲ませた。
普段ならハサンが小言を言いそうな光景だが、今は緊急事態、ハサンも何も言わなかった。
驚いて二度見はしていたが…。
しかし、
ユエ「どうして!」
神水は止血の効果はあったものの、中々傷を修復してくれない。いつもなら直ぐに修復が始まるのに、何かに阻害されているかの様に遅々としている。
ユエは半ばパニックになりながら、手持ちの神水をありったけ取り出した。
実は、ヒュドラのあの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれていたのだ。普通は為す術もなく溶かされて終わりである。しかし、神水の回復力が凄まじく、溶解速度を上回って修復しており、速度は遅いものの、ハジメの魔物の血肉を取り込んだ強靭な肉体とも相まって時間をかければ治りそうである。もっとも、右目に関しては極光の光で蒸発してしまい、神水では欠損は再生できない以上治らないのだが。
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ハサンside〜
チュドドドドドッと人型ヒュドラが発せられる銀の閃光が私達が隠れる柱を削り続けている。
ハサン「もう保たないッ……!」
私はユエさんと南雲君を見る。何故か神水をありったけ浴びても再生が遅い南雲君。彼が全快するまでこの場所は持たないだろう。
一か八か私が飛び出そうとしたとき、ユエさんが決然とした表情で、南雲君を見つめるとそっと口付けをする。これだけでも驚いたが、そこから彼女は更に南雲君のドンナーを手に取ると立ち上がってこう言った。
ユエ「……今度は私が助ける……」
ハサン「なっ!?無茶ですユエさッ…、ぐぅッ」
ユエさんの言葉に私が声を張り上げる。彼女はこの状況で自分自身が前に出ると言っているのだ。無茶だ止めないと!
でも…私は目の激痛に加え、ここまでに負ってきた傷が疼き足に力が入らない。
そんな私を尻目にユエさんが口を開く
ユエ「ハサンこそ……そんな傷で飛び出そうとしてた……無茶はそっち━━」
ハサン「私は良いんですよ!!」
ユエ「ッ!」
ユエさんの言葉を遮るように私は叫ぶ。
ハサン「私みたいなクズの人殺しは、どうなってもいい!でも、あなた達は違う…、悲しむ人がいる……。南雲君も、勿論ユエさんもッ!
ユエさんに何かあったら……私は、南雲君に顔向けできない……ッ」
そうだ、私がどうなろうと、ここで死のうが関係ない。このような状況になってしまった以上、二人を無事に地上へ送り届ける事が、すでに死に体の私にできる最低限最後の奉公、そうする事が薄汚い私の命の唯一の使い道だから……でないと
ハサン「それしか……私にッ価値なんて……無い」
いつの間にか声に出していた私は激情を吐露し、震えて蹲っていた。
ユエ「…………ハサン」
ユエさんが私の名前を呼ぶと同時、私の頬が小さく柔らかな物で包まれたかと思うと、ガバっと顔を無理やり上げさせられる。
そこにあったのはユエさんの決然とした眼差し、私の顔を覆うのはユエさんの白くきれいな手だった。
ユエ「ハサンが死んだら……私が悲しい……」
ハサン「え……」
その時私は、鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな面をしていたのだろう。そんな私をおいてユエさんは続ける。
ユエさ「きっと……ハジメだって悲しむし……他にも……あなたを思ってくれる人が絶対にいる。……価値が無いなんて……悲しいことを言わないで……」
ハサン「あ……」
その言葉に私は脳裏にある二人の言葉を思い出していた。
雫『生きて、帰ってきなさいよね!!………でないと、
絶対に、せぇぇぇええったいに、許さないからぁ!!』
浩介『俺に対してあんな目してくれるの、世界にただ一人しかいないんだよ』
浩介少年『お姉ちゃぁあんッ!!』
しばらく呆然とする私にユエさんは優しい笑顔で語りかける。
ユエ「ハサンはここで待ってて、……ハジメをお願い」
そう言うとユエさんは柱の影から出る。
ハサン「ッ!待って、ユエさん!!」
私の静止を振り切りユエさんは人型ヒュドラの前へと躍り出た。
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ユエside〜
私は柱から飛び出す。ハジメとハサンを守るために……。
でもいざ敵を前にすると……やっぱり怖い……
先程のヒュドラよりも体は小さいはずなのに、そこから発せられる圧はとても強大で押しつぶされそうになる。
ふと私は自らの唇に触れる。合計3度、ハジメと口づけを交わした。
一度目はハジメから、ファーストキスだった。
私がヒュドラの黒頭の幻惑の魔法で悪夢を見せられ絶望したとき、私を救い出してくれた大切な口づけ。
二度目は救命措置、いつかハジメがハサンにしたような、ただ純粋に助けたいという気持ちで交わした口づけ。
そして三度目は、誓い……。これまでたくさん守られてきた。
私を封印から開放してくれた……。
少し乱暴だったけど、魔物に操られた私を救ってくれた。
絶望に落ちかけた私に勇気をくれた。
だから今度は……私の番。
守られるだけじゃない、私もハジメを守る!その誓いの口づけ。
正直最初の2つは気持ちがいっぱいいっぱいであまり自覚は無かったのだけど、3度目のキスはキスをしたんだという実感があって、状況を考えず幸せな気持ちでいっぱいになった。
魔力は僅か、神水は既に使い切り、頼れるのは身体強化を施した吸血鬼としての肉体と、心もとない〝自動再生〟の固有魔法、そしてハジメの武器、ドンナーだけ……。
手足が震える、でも……私は戦える!ハジメがくれたこの気持ち……そして
ハサン「待って、ユエさん!!」
後ろから聞こえる大切な
大人ぶってて、虚勢を張って、でもその心は道を見失った子どものようで何処か放っておけない、うんと年下の女の子。
ハサン……貴方の過去を言葉でしか聞いてない私は貴方の苦痛を理解しきれてやれない、でもこれ以上つらい思いをしてほしくない。
大好きな人と、大事な友達、あなた達を思えばどんなに怖くても……。
私は戦える!!
柱から飛び出した私を人型ヒュドラは7対の眼で睥睨する。
ガコンッ
と音をたて背中の魔法陣が回転、赤、青、黄色の魔法陣が光ると、右手の蛇と左手の蛇が口をガパッと同時に開き、火炎放射と氷の礫を放つ。その威力は六つ首ヒュドラのときよりも上がっている。
私は今魔力が少ない、ここで魔法を使えば動けなくなって蜂の巣だ。だからと言ってハジメみたいに撃ち落とすなんて出来ない。
私にできることはひたすら走ってかわすしか無い。だけど
ザシュッ
ユエ「あぐっ!?」
私は脇腹に氷の礫が直撃、
痛みに呻き声を上げながら、吹き飛ぶ勢いそのままに立ち上がり再び駆ける。止まっちゃダメ、痛みで立ち止まればたちどころにたたみ込まれる。
私の脇腹の怪我は〝自動再生〟が何とかしてくれる。
私の再生するさまを見て人型ヒュドラは忌々しげに目を細め、再び魔法陣を回転させる。
光るのは再び銀の魔法陣、そして胸の口から無数の銀閃が放たれる。
突然攻撃のパターンが変わり対応が遅れる。
ザシュッザシュッ
ユエ「い”っ!?」
腕と太ももを撃ち抜かれる。だが今回の傷は何故か〝自動再生〟がいつもより遅い、ハジメのときと同じこの銀の光線は回復を阻害する効果があるのかもしれない。
腕の傷は良い、でも太ももの傷がダメ、足に力が入らず動けない私に人型ヒュドラは容赦なく光弾を浴びせてくる。
苦し紛れではあるがドンナーの引き金を引いた。この状況をなんとかしないとジリ貧だったからだ。ハジメの〝纏雷〟は使えない。だけど私は雷系の魔法は使えるから何とか電磁加速というのをさせることができた。そして、奇跡的に、弾丸は弾幕の隙間を縫うように人型ヒュドラはのこめかみ辺りに着弾した。
一泡吹かせてやったことに内心喜ぶのもつかの間
ユエ「えっ……」
思わず私は声を漏らす。確かに電磁加速させた不十分とは言えそれなりの威力を持った一撃だったはずなのに、人型ヒュドラは浅く傷ついただけで大したダメージを受けた様子がなかったのだ。
何かしたか?とでも言うように小首をかしげてくる。
絶望の影が差す。しかし、私の敗北はすなわちハジメとハサンの死を意味するのだ。私は歯を食いしばって再び回避に徹する。
しかし、そんなワンパターンがいつまでも続くはずがなかった。人型ヒュドラの胸の眼がギラリと光ると二度目の極光が空間を軋ませながら撃ち放たれた。光弾の影響で回避ルートが限られていた私は、自ら光弾に飛び込み吹き飛ばされることで、どうにか極光のもたらす破滅から身を守る。
しかし、その代償に腹部に光弾をまともに喰らって地面に叩きつけられた。
ユエ「うぅ……うぅ……」
体が動かない。直ぐさま動かなければ光弾に蹂躙される。わかっていて必死にもがくが、体は言うことを聞いてくれない。やっぱり〝自動再生〟が遅いからだ。私はいつしか涙を流していた。悔しくて悔しくて仕方ない。私ではハジメを、ハサンを守れないッ。
ガコンッ
と人型ヒュドラは再び魔法陣を回転させる緑、白、黒の魔法陣が光ると左足の蛇が白い目を輝かせた。
すると私がやっとの思いで付けた傷も回復されてしまう。
勝利を確信した人型ヒュドラは一度「キュルゥアアアッ」と叫ぶと右足を振りかぶり風の刃を飛ばす。
風刃が私に迫る直前、
ハサン「うがぁああああああああああああああッ!!」
目、口、鼻から血を吹き出させ体をエメラルドグリーンに輝かせながらハサンが私に突っ込んできた。
私に抱きついたハサンは勢いそのままに風刃を躱すと、私を抱きしめたまま己の背中で受け身を取った。
ハサン「うぐぅッ!」
ユエ「なっ…ハサンッ!!なんで来たの!!」
私は怒鳴った。もうハサンは動いていい体じゃない。それなのにこんなボロボロの体を押してここまで来てしまった。
守りたいうちの一人が、命をなげうって来て怒鳴らないほうがおかしい。
ユエ「待っててって……言ったのに……ッ」
私は再び涙を流す。そんな私をハサンがガバっと抱きしめてきた。
ハサン「私も!私も……ユエさんが死んだら……悲しいよぉ…」
それは、先程私がかけた言葉への返事。
「キュルゥアアア!!」
そんな私達の会合を邪魔するように放たれた咆哮。止めを邪魔されたことにより人型ヒュドラはハサンを睨みつけている。
ガコンッと魔法陣を回転させ銀の魔法陣が光る。そして再び極光が私達に迫る。私とハサンは目を閉じず人型ヒュドラをきっと睨みつける。せめて……心は負けない!
光弾が迫り視界が閃光に満たされる。直撃する。死ぬ。守れなかったこと、先に逝く事を、一緒に逝く事を、私はハジメとハサンに対し心の中で謝罪しようとした。
刹那……一陣の風が吹いた。
ユエ「えっ?」
ハサン「うっ…」
気がつけば、私は抱き上げられ光弾が脇を通り過ぎていくのを見ていた。そして、自分を支える人物を信じられない思いで見上げる。それは、紛れもなくハジメだった。満身創痍のまま荒い息を吐き、片目をきつく閉じて私を抱きしめ、ハサンを背負っている。
ハジメ「泣くんじゃねぇよ、ユエ。 お前らの勝ちだ。」
ユエ「ハジメ!」
つい感極まった私はハジメに抱きつく。そして気づく、怪我はほとんど治っていない。実際、ハジメは気力だけで立っているようなものだった。
ハジメは人型ヒュドラを見やる。周囲に光弾を浮かべながら余裕の表情で睥睨し、今更死にぞこないが何だと問答無用で光弾を放った。
ハジメ「遅ぇな」
ハジメはギリギリまで動かず、光弾が直撃する寸前でふらりと倒れるように動き回避する。
人型ヒュドラの眼が細められ、無数の光弾が一気に襲ってきた。
ユエ「ハジメ、逃げて!」
ハサン「な"ぐ、も"…君……!」
私が必死に、ハサンが掠れた声でハジメに言うけど、ハジメはどこ吹く風だ。私を抱き、ハサンを背負ったままダンスでも踊るようにくるりくるりと回り、あるいはフラフラと倒れるように動いて光弾をやり過ごしてしまう。まるで光弾の方がハジメを避けていると勘違いしそうだ。
私は目を丸くする。
ハジメ「ユエ、血を吸え」
静かな目、静かな声で促す。ハジメは今ただでさえ血を失っている。私は躊躇ためらうが、ひらりひらりと光弾を交わしながら、ハジメは私をきつく抱きしめ首元に持ち上げる。
ハジメ「最後はお前の魔法が頼みの綱だ。……やるぞ、ユエ。俺達が勝つ!」
ユエ「……んっ!」
ハジメの強烈な意志の宿った言葉に、私もまた力強く頷いた。ハジメを信じて首元に顔を埋め牙を立てる。ハジメの力が直接流れ込むかのように私の体を急速に癒していく。私達
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sideout
ハジメの目には今、世界が色あせて見えていた。モノクロームの世界で、全てのモノがゆっくり動く。その中で、ハジメだけは普段通り動けるのだ。
ハジメは見ていた。揺らぐ意識を必死に繋ぎ留めながらユエが一人戦っている光景を。ハジメの銃を片手に必死に戦い、嬲られるように追い詰められていく姿を。そんなユエを救うべく、すでに血まみれの死に体の体を押して飛び出すハサンの姿を、そして、極光が放たれ地面に倒れ伏している二人が止めを刺されそうな瞬間を……。
ハジメの胸中に激烈な怒りが満ちた。自分は何をしている? いつまで寝ていれば気が済む? こんな所でパートナーと仲間を奪われる理不尽を許容するのか? あんな化物如きに屈するのか?
否! 断じて否だ! 自分の、自分達の生存を脅かすものは敵だ! 敵は、
ハジメ「殺す!」
その瞬間、頭のなかにスパークが走ったような気がし、ハジメは一つの技能に目覚めた。〝天歩〟の最終派生技能[+瞬光]。知覚機能を拡大し、合わせて〝天歩〟の各技能を格段に上昇させる。ハジメはまた一つ、〝壁を超えた〟のだ。
この技能でハジメは一瞬でユエとハサンの元にたどり着き、緩やかに飛んでくる光弾をギリギリでかわしているのである。
やがて、ユエが吸血を終え完全に力を取り戻した。
ハジメ「ユエ、合図をしたら〝蒼天〟を頼む。それまで、回避に徹しろ」
ユエ「ん……ハジメは?」
ハジメ「
ハジメはそう言うとユエを柱の陰に降ろし、人型ヒュドラの方へ駆けていった。
迫り来る光弾の弾幕を紙一重でかわしていくハジメは、〝縮地〟で場所を移動しながらドンナーを発砲する。人型ヒュドラは先ほどのユエの銃撃で全くの無傷と行かなかったのが気に食わないのか、ホバーする様に回避した。銃弾は外れ明後日の方向へ飛んでいき天井に穴を開けるに終わる。
ハジメは気にした様子もなく次々と場所を変え銃撃するが、やはり弾丸は外れて虚しく天井に穴を開けるだけだった。人型ヒュドラの目に嘲りの色が宿る。ユエも普段ならありえないハジメの射撃に一瞬不安になるがハジメを信じて待つ。
ハジメはドンナーを撃ち尽くすと〝空力〟で宙へ跳躍する。今までの比でないくらい細やかなステップが可能になっており、天井付近の空中を泳ぐように跳躍し光弾をかわす。
いい加減苛立ったのか人型ヒュドラが闇雲に極光を放った。当然あっさりかわしたハジメはニヤリと笑う。ハジメは看破していた。人型ヒュドラが極光を放っている間は硬直していることを。そして背後の魔法陣、回転するたびに攻撃パターンが変化するが、そのときに応じた攻撃しかできないということ、
赤青黄、緑白黒、銀、パターンはこの3種類のみで、パターン変換時にもラグがあるということを、そして、リロードしたドンナーを再び六箇所に向かって狙い撃った。
すると、突然天井に強烈な爆発と衝撃が発生し、一瞬の静寂の後、一気に崩壊を始めた。その範囲は直径十メートル、重さ数十トン。大質量が崩落する。しかし、それがどうしたと言うように余裕の雰囲気で天井を見据える人型ヒュドラ。鈍重なヒュドラもどきだった頃はいざ知らず今は身軽な人型、このくらいなら容易に回避されてしまうだろう。
なんの邪魔さえ入らねば……
ハサン「
『ギュルア"ッ!?』
人型ヒュドラは全く気づいていなかった。自分の懐まで迫っていた暗殺者の存在を、
そう、ハサンは気配を最大限殺し、隙を伺っていた。
ハジメの作戦の最後のピースとして。
ヒュドラもどきだった頃に何度も食らった心臓を一瞬止める攻撃、覚えのある苦痛に一瞬人型ヒュドラの動きが止まる。
たった一瞬、しかしその一瞬が命取りとなった。
崩落した瓦礫に、人型ヒュドラが押し潰される。ハサンは巻き込まれないように“無想駆体”で安全圏へ避難済みである。
さて、この崩落だがハジメが天井にドンナーで穴を開け、空中で光弾をかわしながら手榴弾を仕込みつつ、錬成で天井の各部位を脆くしておいたのである。そして、六箇所をほぼ同時に撃ち抜き爆破したのだ。
ハジメは攻撃の手を緩めない。ただの質量で倒せたら苦労しないのだ。〝縮地〟で押しつぶされ身動きが取れない人型ヒュドラに接近し、錬成で崩落した岩盤の上を駆け回りそのまま拘束具に変える。同時に、人型ヒュドラの周囲を囲み即席の溶鉱炉を作り出した。その場を離脱しながら焼夷手榴弾などが入ったポーチごと溶鉱炉の中に放り込み、叫ぶ。
ハジメ「ユエ!」
ユエ「んっ! 〝蒼天〟!」
青白い太陽が即席の溶鉱炉の中に出現し、身動きの取れない銀頭を融解させていく。中に放り込まれた爆薬の類も連鎖して爆発し、防御力を突破して人型ヒュドラに少なくないダメージを与えていった。
「ギゥルアアアア!!!」
人型ヒュドラが断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れ、光弾を乱れ撃ちにする。壁が撃ち崩されるが、ハジメが錬成で片っ端から修復していくので逃げ出せない。魔法陣を回転させる余裕もなく、極光も撃ったばかりなので直ぐには撃てず人型ヒュドラは為す術なく高熱に融かされていった。
感知系技能からヒュドラの反応が消える。今度こそヒュドラの死を確信したハジメとハサンは、それぞれそのまま後ろにぶっ倒れた。
ユエ「ハジメ!ハサン!」
ユエが慌ててハジメ達のもとへ行こうと力の入らない体に鞭打って這いずる。
ハサン「ゲッホッ……疲れ…ました……」
ハジメ「流石に……もうムリ……」
何とかハジメ達のもとへたどり着いたユエが両手でハジメとハサンの手を握る。
ユエ「お疲れ様でした」
そのユエの言葉を聞いてハジメもハサンもゆっくり意識を手放し━━━━━━━━━━
『『『『『『『キュウルアアアァァァッッ!!!』』』』』』』
三人「「「……は!?」」」
三人は自分たちの目を疑った。つい先程、みんなで力を合わせ、死にものぐるいで打ち倒した人型ヒュドラ。
それが……何事も無かったかのように……
ユエ「………嘘…」
ハジメ「どうなって……やがる……てめぇは、ぶち殺した……筈だろ……がよ……」
ハサン「………。」
そんな三人を嘲るように人型ヒュドラは7対の目を爛々と輝かせる。
ハジメ「上……等だ…ゴラァ!もッぺん……殺して、やるよぉッ!」
ユエ「んっ!」
ハジメとユエは強気に人型ヒュドラを睨み返す。だがハサンは見抜いていた。自分も含めて三人共、すでに限界であると。魔力も体力も底をつき、ただ絶対に折れないという気力しか残っていない。
すでに
ハサン「スゥ~ッハァ〜〜……」
ハサンは深呼吸をする。
これから自分が行う行為への恐怖を紛らわすために。
ずっと怖くて触れてこなかった己が技能へと手をかける為に。
ハサン「………南雲君……ユエさん……ここは私に任せていただけませんか?」
ユエ「ハサン?」
そう言ったハサンは立ち上がり、前へ出る。震える足取りで、人型ヒュドラに立ちふさがる。
ハジメ「……何をするつもりだ?」
ハジメの質問にハサンは振り返る
ハサン「お祈り……ですかね……」
貼り付けた歪な笑みをたたえたその顔には、
もう、
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ここは超越者の観覧席、灰色の世界。
テスカトリポカ「ハッハッハッハッハッハッハッハ!!」
そこで男、戦神、テスカトリポカは高らかに笑う。喜悦の表情を浮かべて、実に気持ちよく笑う。
テスカトリポカ「マジか!?まさか倒してしまうとは!それでこそだ南雲ハジメェ!!」
男は今この瞬間だけは自分の立場を忘れ楽しんでいた。まるで子供が新しいおもちゃを与えられたときのように。
テスカトリポカ「だがまだだ!そいつはいくら殺しても死なんっ!俺の気が済むまでもっと、もっと魅せろ!!━━━━━」
キンッ
と、その時テスカトリポカの首筋に冷たい鉄の感触が走る。
テスカトリポカ「何のつもりだ?翁さんよぉ」
老人「これ以上は不毛であろう……」
それは浮浪者の老人だった。手に持っていたねじれた杖はいつの間にか無骨な剣に姿を変え、テスカトリポカの首筋にその切っ先が添えられていた。
テスカトリポカ「やるってのかい?一応俺はアンタの排除を依頼されてる。俺はここで始めても構わんのだがねぇ」
老人「………。」
テスカトリポカの殺気が膨れ上がるそれだけで空間が悲鳴を上げるように引き攣る。
そのさまを老人はただ、涼しい顔で見据えている。
テスカトリポカ「………………。」
老人「………………。」
テスカトリポカ「やぁ~めだ!」
老人「………良いのか?」
テスカトリポカ「あぁ、まだ時期じゃないしな」
張り詰めた空気が一気に霧散し再び凪のような世界に戻る。
すると老人は、踵を返しテスカトリポカから離れていく。
テスカトリポカ「行くのかい?」
戦神は老人に問う。
老人「すでに契約は完遂している。であれば長居は無用である。我は我のあるべき場所へと戻るのみ……。」
そう言って去ろうとする老人に戦神は引き止める。
テスカトリポカ「ならあんたが帰るべきは
老人は足を止めず続ける。
老人「知れたこと……好機故よ……」
テスカトリポカ「好機?」
老人「然り、本来我々では干渉し得ぬはずであったこの世界、そこに巣食う悪辣なる悪神が、いずれ我らの世界へ牙を剥くは必定……
であるならば、偶然とはいえ我が依代となっているあの娘に肖ったほうが後手に回ることはない……無駄な犠牲も減らせよう。」
老人の語る話は確かに一般的に見れば正論だ。だが彼らの役職上そう簡単な話ではない。
納得がいかなかった戦神は再び問う。
テスカトリポカ「それは越権行為だろう。俺達は事態が起こったときにのみ作動する粛清装置、抑止の上役様から指示がなければ動いちゃならねぇし出来ねぇ……。
なぁ、誤魔化すなよ益々らしくないぜ翁さんよぉ
血が繋がってようがアレも翁だ。なのに他の翁と明らかに違う扱いじゃねぇか。あの娘に拘る理由はなんだ?」
言い訳は許さないそういった感情を乗せて放たれた戦神の問いに老人の答えは━━━━
老人「その問いに答える解は……今の我の中には無い……」
テスカトリポカ「は?」
意外なものだった。あまりにも意外すぎて戦神は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をさらす。なんせ、あらゆる事象を千里眼レベルで見通し、答えを導き出すこの老人が、あろう事か自分の気持ちがを分からないとそう宣ったのだ。呆気にとられるのも無理もない話だ。
そんなテスカトリポカに老人は立ち止まり振り返る。
老人「その問いの解ではないが……我があの場へと行かねばならぬ理由はある。」
テスカトリポカ「そりゃぁ一体……?」
テスカトリポカが聞いたその時、老人の体から蒼白い焔が爆ぜる。焔が晴れてその場に立っていたのは……死神だった。
2メートル越えの体躯に猛々しい二本の黒い角を生やした髑髏の面、全身を覆う生々しい装飾、骸骨の意匠が入ったの漆黒の鎧と、闇色の外套。地面に突き立てるのは先程の無骨な大剣。
原初の暗殺者、“山の翁”その人だった。
その眼窩の蒼い炎を揺らめかせ、”山の翁“は口を開く。
“山の翁”『 ”鳴ったのだ……鐘の音が……“ 』
人の身でありながら、
“山の翁”『 ”汝に歪められ、死を忘れたあの蛇人は、晩鐘の示すまま我の手により輪廻へ帰す。それが今、我が成さねばならぬ理……妨げるか?煙る鏡よ……“ 』
有無も言わせぬ態度でそう言い放つ“山の翁”それに対し、テスカトリポカはニヤついた顔で両手を上げてひらひらと翻す。
テスカトリポカ「ま〜さかぁッ存分にやるといい”山の翁“だが……次会うときは敵だな抑止の使いよ……。」
テスカトリポカの言葉に何も返さぬまま、“山の翁”はその空間から姿を消した……。
テスカトリポカ「全く、素直じゃないねぇ~。あんたも、
あの娘も……。」
次回は遂に……遂に待ちに待ったあの人の登場!!
いやぁ~ここまで長かったなぁ~
ユエ「そうか……そんなに書きたい話なのか……」
へ?
ユエ「4日連続……行けるよな?」
ひでぶぅッ!!
ハジメ「翁月が
ハサン「こぉの人でなしぃー!」