ありふれない暗殺者は世界最強と共に……   作:翁月 多々良

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 もうすぐ、物語が動き出します。

問答は不要!ではどうぞっ!~⁠(⁠ ˆ⁠Д⁠ˆ⁠)⁠つ⁠。⁠☆


第4話:奈落失墜 〘上〙 〜魔眼とオルクス大迷宮〜

 

 

 雫side〜

 

【オルクス大迷宮】

 

 

 

 それは、全百階層からなると言われている大迷宮である。七大迷宮の一つで、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する。

 

 にもかかわらず、この迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気がある。それは、階層により魔物の強さを測りやすいからということと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を体内に抱えているからだ。

 

 魔石とは、魔物を魔物たらしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、この魔石は魔法陣を作成する際の原料となる。魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末にし、刻み込むなり染料として使うなりした場合と比較すると、その効果は三分の一程度にまで減退する。

 

 要するに魔石を使う方が魔力の通りがよく効率的ということだ。その他にも、日常生活用の魔法具などには魔石が原動力として使われる。魔石は軍関係だけでなく、日常生活にも必要な大変需要の高い品なのである。

 

 ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

 私達は、メルド団長率いる騎士団員複数名と共に、

【オルクス大迷宮】へ挑戦する冒険者達のための宿場町【ホルアド】に到着した。新兵訓練によく利用するようで王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

 私と香織は久々の一般的な室内に気を緩める。

私達は全員二人部屋を充てがわれたが、私達のクラスは男子奇数と女子奇数と二人組を作りにくい組み合わせになっている。

 

こういう場合はいつも、男子は南雲君が孤立し、女子は、ハンナを含むて私と香織の三人組を無理矢理作る形にしているのだが、今の私達じゃそれをする気は起きなかった。

まぁどっちみちハンナは薬を理由に別室を取ると思っていたけど……。

 

 

 明日から早速、迷宮に挑戦する。恐怖と緊張のせいか私達の間に会話は無い。メルド団長が言うには明日は行っても二十階層までらしく、騎士の人たちでも十分カバーに入れるらしい。

 

それでも怖いものは怖くて、不安で私は眠れずにいると一足先に眠っていた香織が飛び上がるように目を冷ます、どうやら怖い夢を見たらしくその表情には恐怖と不安の色があり、香織はトイレに行くと言いトイレとは真逆の男子たちの部屋のある方へとネグリジェにカーディガンとなんとも危なげな格好で歩いていった。

 

 意図したものではないだろうが、これからその被害を被るであろう彼、香織の想い人の南雲君に黙祷を捧げる。

 

 

 雫「私もちょっと出歩こうかしら……」

 

 

どうしても落ち着かない私は、最低限の装備を整えて外へと気晴らしに散歩にでかけた。ここは異世界、治安の良い日本でも深夜の出歩きは危険だ、そのために備えは忘れない

 

私は剣を手に取るとかつて彼女に問われた質問を思い出す

 

 

 ハンナ『ねぇ、なんで剣なんか振ってるの?』

 

 

結局私はあの質問には答えられてない、才能があったから?家族が喜んでくれるから?思いつく理由は幾つもあったが、その場で答えを出すことはできなかった。

 

 

 雫「なんで………なんでしょうね……………。」

 

 

私は夜の街を歩きながら呟く

その後彼女と沢山の言葉をかわして私達は親友になったのだが

 

 

 雫「アレも…………あのとき私に…優しく胸を貸してくれたのも全部………全部…………嘘だったの?」

 

 

 私はあの日私達に泣きそう(・・・・)な顔で罵詈雑言を放つ彼女の顔を思い出していた。この一年間短い時間だけどそれなりに濃い時間を過ごしたと思っていた、沢山話して、沢山遊んで、沢山泣いた、それらがすべて嘘だったのか?

 

でもあの顔(・・・)と蔑みの言葉のチグハグさが、私を悩ませる。

 

 

 雫「どっちがホントの貴方なの?」

 

 

 その問いに答える者はなく、溜息は虚空を舞う。

あのときの彼女を嘘だと信じたい、でもそれを嘘と断じるほどの根拠を私は持てなかった。それはひとえに、私達の関係の浅さを表しているようで…………。

月明かりしか光のない町並み、その暗がりも相まって私の考えはどんどん暗い底に落ちていった。そんなとき、

 

 

 雫「っ━━━━━━!?」

 

 

道端の公園からとてつもなく大きな気配を感じた、その本能に訴えかける恐怖に硬直し、その気配の方に目をやると………

 

 ハンナ「━━━━━っ━━━━━━っ………」

 

 公園の隅の月明かりの影になっている場所でで腕立て伏せをしている“ハンナ”を見つけた、

 

 

 雫「はぁ?…………」

 

 

突然のことに絶句する、彼女はこんなとこで何をしているのだ?いや、見たとおり腕立て伏せなのだがそういうことではなく、何故このような場所で腕立て伏せをしているのか?疑問は尽きないがその疑問を吹き飛ばすほど衝撃的なものを私は見ることになる。

 

それは彼女の体だった、服装はノースリーブの背中の開いたシャツにダボッたいズボンとこれまた見る人が見たら危ない格好なのだが、私が驚いたのはそこではなく彼女の肉体自身、

細身ながらも遠目で見てもわかる筋肉凹凸、普通の女子高生がどんな鍛え方をしたらあのような漫画で見るような筋肉になるのか、そして開かれた背中や肩といった普段服で隠れている部分の肌にはいつ付いたのか生々しい多くの傷跡があった。

 

 私はこの間の彼女の言葉を思い出す

 

 ハンナ『戦場もろくに知らないガキ共がっ━━━』

 

 

 ホントに今更ながら彼女のその言葉に、もしや彼女は戦場を知っている人種なのかと驚愕の事実を目の当たりにする、そして私は唖然とした、彼女の肉体にではない、彼女のことを何も知らずにいた自分に対して、どうしょうもなく呆れたのだ。

 

思えば今までも彼女は自分の裸を他人に晒すことはなかった。体育の水泳の時間とかも一人で隠れて着替えていたほどだ。本人は恥ずかしいからと言っていたが、アレも体のいい言い訳だろう。

 

全く、良くこんなことでのうのうと“親友”などと嘯けたものだと私は呆れた、勝手に彼女という存在を決めつけ、私の都合のいいように見ていた事に………。

だがその時、私が感じたのは呆れだけではなく、何処か希望のようなものだった。

 

 そう、私はまだ(・・)彼女のことを何も知らない、知らないのならばこれから知っていけばいい(・・・・・・・・・・・・)のだと、そもそもの話、私はなぜこうも彼女との関係を悩んでいたのか、簡単な話だ、

私は香織と同じくらい彼女、言峰ハンナのことが好きなのだ。でなければ喧嘩したことを、彼女について何も知らなかったことを、今までで疎遠になっていたことを、ここまで悩むことはないのだ。

 

知らないのならばこれから知ればいい、開き直りだろうか?、だがそれがどうしたっ!私は彼女と友達でいたいのだ、ならば恐れず彼女に近付く努力をしようっ例え彼女からどう思われようとも。

 

 私は決意を瞳に宿し、彼女のいる()へと足を踏み入れる、

気づけば恐怖は消えていて(・・・・・・・・・・・・)そして一言、いつもそうしていたように気さくに声をかける。

 

 

 雫「それくらいにしときなさいっ明日に響くわよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンナside〜

 

 

 明日から大迷宮への突入、本来なら英気を養う為しっかりと休息を取らねばならないが、無論落ち着けるはずがない、緊張か、それもと恐怖か、はたまた興奮か、初めて赴く戦場逸る気持ちを抑えに夜風に当たりに外へと出ていた。

 

 情けない、どのような状況でも落ち着いて対処するのが我ら暗殺者の鉄則。クソみたいな教団で学んだ話だが理には適っている。

私は外に出てしばらく歩いていると公園を見つけたのでそこの影になっているベンチに座ったが、それでも落ち着けなかったので運動をすることにした。そこで腕立て伏せを選んだのには特に理由はない。

 

 あれからメルド団長にパーティー再編の旨を伝えたところ団長はもちろん周りの騎士たちも、何処かの王女と同じような生暖かい視線と笑みを向け了承したが、私の単独行動だけは許されず、勇者パーティーとは離れた位置の前線で複数の騎士たちと行動することとなった。

 

 そうやってしばらく500くらいカウントしたところで、突如として初代様が私のそばへと現れ、こう言い放つ…

 

 

 初代様『 “ 弛んでおるな…… ” 』

 

 

 

 ハンナ「……っ!?…………どういうことでしょうか?」

 

 

意味が分からなかった私はそう聞き返すが初代様は冷たく返す

 

 

 初代様『 “ それが分からぬ時点で汝は堕落しておるっ!……よく周りに目を向けるがよい…………。 ” 』

 

 

そう言い残すと初代様は一瞬で気配を掻き消した。次の瞬間━━━

 

 

 

「それくらいにしときなさいっ明日に響くわよ!!」

 

 ハンナ「っ━━━━雫………!?」

 

 

 雫が私に声をかけてきた、その顔には何処か呆れたような笑顔を浮かべていた。

 

 

 雫「全く……落ち着かないのは分かるけどこんな夜中の公園で腕立て伏せって、身体動かすにしてもせっかく外に出たならそれらしい運動があるでしょう(´Д`)ハァ…」

 

 雫はまるでここ数週間のことがなかったかのように、友人にそうするように振る舞う。そして優しい笑みを称えて、そのまま私に近づいてくる

 

 やめて………

 

 ゆっくりと一歩一歩踏みしめながら近づいてくる。冗談交じりの軽口をたたきながら

 

 やめて………やめてよ………

 

 せっかく割り切ったのに、せっかく諦めたのに、そんな顔されたら…………………期待………しちゃうから………

 

また…………甘い夢を……………………見ちゃうからっ!!

 

 

 ハンナ「━━━━━━━っ!」

 

私は幻想を振り払うように雫の横を走り去ろうとする、すると雫を通り過ぎた次の瞬間

 

 

 雫「私!!━━━━っ」  ハンナ「っ!?」

 

突如雫が大きな声を上げる。それはまるで私を引き止めるように、雫の声は街中に響いた、こんな真夜中に普通は近所迷惑だが、私を含め、それを咎めるものは誰もいなかった。

彼女はこちらを振り向かずただ前を見据えて続ける。

 

 

 雫「私っ………今は何も聞かない……きっとそれを聞けるほど私達の仲は深くなかったんだと思う………。」

 

 

次第に弱まる声、だが次の瞬間再び声に覇気が戻り、彼女はこちらをバッと振り向く。その顔は、とてもにこやかに微笑みながらも私を真っ直ぐに射貫いた真剣な眼差しだった。

 

 

 雫「だからっ私は踏み込むわっ!私は貴方と友達でいたいもの

だから貴方も遠慮せず私達に踏み込んで来てっ!!

私、ううん、私達、待ってるからっ!!」

 

 

 そんなことを高らかと宣言する雫に、私は終始一瞥もすることなくその場から逃げるように立ち去る。

 

 

 

 

 無理だよ雫、何もかも無駄なんですよ王女殿下、私達が幾ら仲直りをしたところでその分、別れが辛くなるだけ………でも…せめて、あなた達が無事に地球に帰れるよう最善は尽くす、だから、私達はずっとこのまま………………………………。

 

 

 “山の翁”

『……………………………………………………………。』

 

 

 そうやって悲痛な顔で街道を走るハンナを“山の翁”は眼窩に宿る青白い炎を揺らめかせながら、黙って見つめていた………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、私達は【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた。

 

 私としては薄暗い陰気な入口を想像していたんだけど、まるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

 

 なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。どうやら公共機関でも偽造は見破られることは無いことを確認できて安堵する。

 

 入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

 

 浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

 

 私を除いたクラスメイト達は、お上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルド団長の後をカルガモのヒナのように付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁だった。

 

 

 縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能だ。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

 

 一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

 

 と、その時、最前線を歩く私の気配感知が複数の小さな気配を捉えた。私はそのことを後方のメルド団長に伝えた。

 

 

 ハンナ「メルド団長っ何やら小さな気配が複数近付いてきます。」

 

 メルド「うむ、この辺りだとおそらくラットマンだ、すばしっこいがたいした敵ではない、冷静に行けばお前たちなら十分対処できる。

よしっ光輝達が前に出ろっ!言峰殿と他の者は下がれっ!」

 

 

メルド団長から的確な指示が出され各々が配置につく、その直後壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

 次の瞬間、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

 灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

 

 

 正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いみたいだ。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織とメガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。やはりこのあたりは私が抜けて正解だったようで、訓練以上の堅実なフォーメーションを組めていた。

 

 

 彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには“実に忌々しい”性能を誇っている。

 

 

 龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また驚いたことに決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようで脳筋にはお似合いである。

 

 

 雫は、サムライガールらしく、刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。今までで避けていたから彼女の訓練模様を見ることがなかったので、この世界に来て彼女の戦闘は初めて見るが、その動きは更に洗練されていて、つい私は騎士たちと一緒に感嘆の声を上げる。

 

 

 クラスメイト達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

 

 三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。私は気配の消失、いや焼失を確認すると数人の騎士達とともに最前線へと戻る。

 

 

 一瞬の殲滅劇、他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

 

 メルド「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

 

 メルド「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 そこからは特に問題も、迂回することもなく、交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

 そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着く。

 現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

 クラスメイト達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

 

 もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。こればっかりは私の気配感知でも捉えることはできず、場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要になる。

 

従って、私達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

 

 メルド「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

 

 メルド団長のかけ声がよく響く。

 

 小休止に入り、ふと私はクラスメイト達に目を向ける、すると最後尾にて、それなりに健闘していた南雲君に熱い視線を送る香織が目に留まる。南雲君は気恥ずかしそうに目を逸らし、若干、香織が拗ねたような表情になる。おや?どうやら私が避けている間に何かしら進展があったのだろうか?

袂を分かったとはいえかつての親友が恋を実らせようとしているさまはとても微笑ましいものだが………状況は考えてほしいものである。それを横目で見ていた雫が苦笑いし、小声で話しかけた。

 

 

 雫「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ? 迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

 

 からかうような口調に思わず顔を赤らめる香織。怒ったように雫に反論する。

 

 

 香織「もう、雫ちゃん! 変なこと言わないで! 私はただ、南雲くん大丈夫かなって、それだけだよ!」

 

 

 なんとなく二人の話が耳に入った私は「それがラブコメしてるって事でしょ?」と、思ったが、雫もこれ以上言うと本格的に拗ねそうと感じたのか口を閉じる。だが、目が笑っていることは隠せず、それを見た香織が「もうっ」と呟いてやはり拗ねてしまっていた。

 

 

 ハンナ「……………………………………………………。」

 

 

 楽しそうに話す二人を私は未練がましく見つめていた。自分から捨てておきながら尚も求める、私はそんな自分にほんとに嫌気が差す、そんな私にメルド団長がこれまたニヤニヤしながら近づいてくる。

 

 

 メルド「気になるのなら話しかけて来ればいいだろうに…」

 

 ハンナ「団長………何のことですか………。」

 

 

私はわかりきったことをとぼけて見せる。そんな私を見てメルド団長は微笑ましいものを見る目でこう告げてくる。

 

 

 メルド「言峰殿、老婆心ながら言わせてもらうが、こんないつ死ぬかもわからない状況だ、“隣の戦友が明日も一緒にいるとは限らない”、決して悔いの残らないように過ごした方がいい。」

 

そう言うとメルド団長は元の配置に戻って行く。

 

悔いの残らないように………かぁ、私の人生、悔いしかないってのに…………。

 

私は内心そんなことを考えながら迷宮に挑む。

しかし、このとき私は気づかなかった。私のこの思考(怠惰)が決して見逃してはいけなかった悪意を見逃していたことに………。

 

 

 

 ハジメside〜

 

 

 小休止の最中香織と目が合い気まずい雰囲気になっていたときだ。ふと嫌な視線を感じて思わず背筋を伸ばす。ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だ。今までも教室などで感じていた類の視線だが、それとは比べ物にならないくらい深く重い。

 

 その視線は今が初めてというわけではなかった。今日の朝から度々感じていたものだ。視線の主を探そうと視線を巡らせると途端に霧散する。朝から何度もそれを繰り返しており、ハジメはいい加減うんざりしていた。

 

(なんなのかな……僕、何かしたかな? ……むしろ無能なりに頑張っている方だと思うんだけど……もしかしてそれが原因かな? 調子乗ってんじゃねぇぞ! 的な? ……はぁ~)

 

 深々と溜息を吐くハジメ。香織の言っていた嫌な予感(・・・・)というものを、ハジメもまた感じ始めていた。

 

 

 

 時は昨晩に遡る〜

 

 【ホアルド】の宿屋の一室でハジメがウトウトとまどろみ始めた時のこと、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。

 

 

 香織「南雲くん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 

 なんですと? と、一瞬硬直するも、ハジメは慌てて扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

 

 ハジメ「……なんでやねん」

 

 香織「えっ?」

 

 

 ある意味、衝撃的な光景に思わず関西弁でツッコミを入れてしまうハジメ。よく聞こえなかったのか香織はキョトンとしている。

 ハジメは、慌てて気を取り直すと、なるべく香織を見ないように用件を聞く。いくらリアルに興味が薄いとはいえ、ハジメも立派な思春期男子。今の香織の格好は少々刺激が強すぎる。

 

 

 ハジメ「あ~いや、なんでもないよ。えっと、どうしたのかな? 何か連絡事項でも?」

 

 香織「ううん。その、少し南雲くんと話したくて……やっぱり迷惑だったかな?」

 

 ハジメ「…………どうぞ」

 

 

 最も有り得そうな用件を予想して尋ねるが、香織は、あっさり否定して弾丸を撃ち込んでくる。しかも上目遣いという炸薬付き。効果は抜群だ! 気がつけば扉を開け部屋の中に招き入れていた。

 

 

 香織「うん!」

 

 

 なんの警戒心もなく嬉しそうに部屋に入り、香織は、窓際に設置されたテーブルセットに座った

 若干混乱しながらも、ハジメは無意識にお茶の準備をする。といっても、ただ水差しに入れたティーパックのようなものから抽出した水出しの紅茶モドキだが。香織と自分の分を用意して香織に差し出す。そして、向かいの席に座った。

 

 

 香織「ありがとう」

 

 

 やっぱり嬉しそうに紅茶モドキを受け取り口を付ける香織。窓から月明かりが差し込み純白の彼女を照らす。黒髪にはエンジェルリングが浮かび、まるで本当の天使のようだ。

 ハジメは、欲情することもなく純粋に神秘に彩られた香織に見蕩れた。香織がカップを置く「カチャ」という音に我を取り戻し、気を落ち着かせるために自分の紅茶モドキを一気に飲み干す。ちょっと気管に入ってむせた。恥ずかしい。

 

 香織がその様子を見てくすくすと笑う。ハジメは恥ずかしさを誤魔化すために、少々、早口で話を促した。

 

 

 ハジメ「それで、話したいって何かな。明日のこと?」

 

 

 ハジメの質問に「うん」と頷き、香織はさっきまでの笑顔が嘘のように思いつめた様な表情になった。

 

 

 香織「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

 

 話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。ハジメは困惑する。ただハジメが足手まといだからというには少々必死過ぎないかな? と。

 

 

 ハジメ「えっと……確かに僕は足手まといとだは思うけど……流石にここまで来て待っているっていうのは認められないんじゃ……」

 

 香織「違うの! 足手まといだとかそういうことじゃないの!」

 

 

 香織は、ハジメの誤解に慌てて弁明する。自分でも性急過ぎたと思ったのか、手を胸に当てて深呼吸する。少し、落ち着いたようで「いきなり、ゴメンね」と謝り静かに話し出した。

 

 

 

 香織「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……南雲くんの目の前にその……なんというか、靄をまとった大きい黒い猫のような魔物(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が出てきて、南雲くんを連れて………何処かへ行っちゃうの……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

 

 その先を口に出すことを恐れるように押し黙る香織。ハジメは、落ち着いた気持ちで続きを聞く。

 

 

 ハジメ「最後は?」

 

 

 香織はグッと唇を噛むと泣きそうな表情で顔を上げた。

 

 

 香織「……消えてしまうの……」

 

 ハジメ「……そっか」

 

 

 しばらく静寂が包む。

 

 

 再び俯く香織を見つめるハジメ。

 

 確かに不吉な夢だ。特に黒猫は不吉の吉兆とよく言われているが………しかし、所詮夢である。そんな理由で待機が許可されるとは思えないし、許された場合はクラスメイトから批難の嵐だろう。いずれにしろ本格的に居場所を失う。故に、ハジメに行かないという選択肢はない。

 

 

 ハジメは、香織を安心させるよう、なるべく優しい声音を心掛けながら話しかけた。

 

 

 ハジメ「夢は夢だよ、白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員がついているし、天之河君みたいな強い奴も沢山いる。むしろ、うちのクラス全員チートだし。敵が可哀想なくらいだよ。僕は弱いし、実際に弱いところを沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」

 

 語りかけるハジメの言葉に耳を傾けながら、なお、香織は、不安そうな表情でハジメを見つめる。

 

 

 ハジメ「それでも……それでも、不安だというのなら……」

 

 香織「……なら?」

 

 

 ハジメは若干恥ずかしそうに、しかし真っ直ぐに香織と目を合わせた。

 

 

 ハジメ「守ってくれないかな?」

 

 香織「え?」

 

 

 自分の言っていることが男としては相当恥ずかしいという自覚があるのだろう。既にハジメは羞恥で真っ赤になっている。月明かりで室内は明るく、香織からもその様子がよくわかった。

 

 

 ハジメ「白崎さんは〝治癒師〟だよね? 治癒系魔法に天性の才を示す天職。何があってもさ……たとえ、僕が大怪我することがあっても、白崎さんなら治せるよね。その力で守ってもらえるかな? それなら、絶対僕は大丈夫だよ」

 

 

 しばらく、香織は、ジーとハジメを見つめる。ここは目を逸らしたらいけない場面だと羞恥に身悶えそうになりながらハジメは必死に耐える。

 

 ハジメは、人が不安を感じる最大の原因は未知であると何かで聞いたことがあった。香織は今、ハジメを襲うかもしれない未知に不安を感じているのだろう。ならば、気休めかもしれないが、どんな未知が襲い来ても自分には対処する術があるのだと自信を持たせたかった。

 

 しばらく見つめ合っていた香織とハジメだが、沈黙は香織の微笑と共に破られた。

 

 

 香織「変わらないね。南雲くんは」

 

 ハジメ「?」

 

 

 香織の言葉に訝しそうな表情になるハジメ。その様子に香織はくすくすと笑う。

 

 

 香織「南雲くんは、私と会ったのは高校に入ってからだと思ってるよね? でもね、私は、中学二年の時から知ってたよ」

 

 

 その意外な告白に、ハジメは目を丸くする。必死に記憶を探るが全く覚えていない。

 

 う~んと唸るハジメに、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

 

 香織「私が一方的に知ってるだけだよ。……私が最初に見た南雲くんは土下座してたから私のことが見えていたわけないしね」

 

 ハジメ「ど、土下座!?」

 

 

 ハジメは、なんて格好悪い所を見られていたんだ! と今度は違う意味で身悶えしそうになる。そして、人目につくところで土下座っていつ、どこでだ!? と必死に記憶を探る。一人、百面相するハジメに香織が話を続ける。

 

 

 香織「うん。不良っぽい人達に囲まれて土下座してた。唾吐きかけられても、飲み物かけられても……踏まれても止めなかったね。その内、不良っぽい人達、呆れて帰っちゃった」

 

 ハジメ「そ、それはまたお見苦しいところを……」

 

 

 ハジメは軽く死にたい気分だ。厨二病を患っていた時の黒歴史とタメを張るくらい最悪のシーンを見られていたらしい。もう、乾いた笑みしか出てこない。隠しておいたエロ同人誌を母親が綺麗に整理して本棚に並べ直していた時と同じくらい乾いた笑みだ。

 

 しかし、香織は優しげな眼差しをしており、その表情には侮蔑も嘲笑もなかった。

 

 

 

 香織「ううん。見苦しくなんてないよ。むしろ、私はあれを見て南雲くんのこと凄く強くて優しい人だって思ったもの」

 

 ハジメ「……は?」

 

 

 ハジメは耳を疑った。そんなシーンを見て抱く感想ではない。もしや、白崎には特殊な性癖が!? と途轍もなく失礼なことを想像するハジメ。

 

 

 香織「だって、南雲くん。小さな男の子とおばあさんのために頭を下げてたんだもの」

 

 

 その言葉に、ハジメは、ようやく思い当たった。確かに、中学生の頃、そんなことがあったと思い出す。

 

 男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だった

 

 偶然通りかかったハジメもスルーするつもりだったのだが、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう――お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が、更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。

 

 といっても喧嘩など無縁の生活だ。厨二的な必殺技など家の中でしか出せない。仕方なく相手が引くくらいの土下座をしてやったのだ。公衆の面前での土下座は、する方は当然だが、される方も意外に恥ずかしい。というか居た堪れない。目論見通り不良は帰っていった。

 

 

 香織「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。光輝くんとかよくトラブルに飛び込んでいって相手の人を倒してるし……でも、弱くても立ち向かえる人や他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。……実際、あの時、私は怖くて……自分は雫ちゃん達みたいに強くないからって言い訳して、誰か助けてあげてって思うばかりで何もしなかった……ホントに自分一人では何もできない、強い人についていくだけの金魚のフン、こんなんだから大事な友達ともろくに仲直りできないんだよね…………。」

 

 ハジメ「白崎さん……」

 

 香織「だから、私の中で一番強い人は南雲くんなんだ。高校に入って南雲くんを見つけたときは嬉しかった。……南雲くんみたいになりたくて、もっと知りたくて色々話し掛けたりしてたんだよ。南雲くん直ぐに寝ちゃうけど……」

 

 ハジメ「あはは、ごめんなさい」

 

 香織が自分を構う理由が分かったハジメは、香織の予想外の高評価に恥ずかしいやら照れくさいやらで苦笑いする。

 

 

 香織「だからかな、不安になったのかも。迷宮でも南雲くんが何か無茶するんじゃないかって。不良に立ち向かった時みたいに……でも、うん」

 

 

 香織は決然とした眼差しでハジメを見つめた。

 

 

 香織「私が南雲くんを守るよ」

 

 

 ハジメはその決意を受け取る。真っ直ぐ見返し、そして頷いた。

 

 

 ハジメ「ありがとう」

 

 

 それから直ぐハジメは苦笑いした。これでは役者が男女あべこべである。今夜のイケメン賞は間違いなく香織だ。だとすれば、さながら自分はヒロインかと、男としてはなんとも納得し難い気持ちに笑うしかなかったのだ。だから、せめてもの抵抗と二重の意味でのお返しにこんなことを言ってみる。

 

 ハジメ「この調子で言峰さんとも仲直りできるといいねっ」

 

 香織「…………出来るかなぁ〜」

 

 ハジメ「それは、白崎さん次第だからなんとも言えないけど、僕は白崎さんならなんとかなるって、そう思うよ。」

 

 

 香織はハジメのその言葉に嬉しそうに微笑むと

 

 

 香織「うんっありがとう南雲くん………私、頑張るよっ!」

 

 

 それからしばらく雑談した後、香織は部屋に帰っていった。

 

 

 

 〜そして時は現在へ

 

 ああは言ったものの、昨日のことを思い出すと先が思いやられる。ハジメはまた一度深々と溜息を吐いた………(´Д`)ハァ…。

 

 

 

 

 

 

 ハンナside〜

 

 

 

 一行は二十階層を探索する。

 

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。

 現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

 二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

 

 そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

 すると、先頭のハンナが停止のハンドシグナルをする、それを見て全員が立ち止まり、メルド団長がハンナに状況を確認する、その後訝しそうなクラスメイトを尻目に団長とハンナは光輝達と共に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

 

 メルド「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」

 

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。

 

 

 その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

 

 メルド「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

 

 メルド団長の声が響く。光輝達とハンナが相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。

 

 

 龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

 

 

 直後、

 

 

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

 

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

 

 龍太郎「ぐっ!?」

 

 光輝「うわっ!?」

 

 雫「きゃあ!?」

 

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

 

 まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

 ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで! 咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が香織達へと迫る。

 

 香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

 

 

 

 しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

 メルド「なっ!?、戦闘中に何やってる!」

 

 

 

 対処が遅れ、慌ててメルド団長が叫んだ次の瞬間………

 

 

 ハンナ「 〝ザバーニーヤ〟 」

 

 万が一のときに後衛に控えていたハンナが短文詠唱と共に短刀をロックマウントに投擲、一発で絶命し、その体は力なく地に落ちる。そして彼女の瞳は揺らめく炎のように青白く発光していた。

 

 

 香織「あっ……ありがとうっ!」

 

 恵里「ありがとうっ言峰さん!」

 

 鈴「ママァアアアアンっ!!ありがとでちゅゥゥウウウッ!!」

 

 

 未だ気持ち悪さで震える後衛組は口々にハンナに感謝を伝え、おギャり信者の鈴に至っては赤ちゃん語で飛びついている始末だ。

そしてそんな彼女たちの様子を見て、キレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者天之河光輝である。

 

 

 光輝「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 

 どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする光輝。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

 

 

 光輝「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

 

 メルド「あっ、こら、馬鹿者!」

 

 

 メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

 

 

 その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

 

 

 パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ! と声を掛けようとして、笑顔で迫っていたメルド団長の拳骨を食らった。

 

 

 光輝「へぶぅ!?」

 

 メルド「こんのっ馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

 

 メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰め、呆れたようにハンナは溜め息を吐く。

 そしてメルド団長はハンナに向き直る。

 

 

 メルド「いやぁ~助かった言峰殿、それにしても相変わらず凄まじいな貴殿の魔眼(・・)は、陣と長い詠唱も必要とせずあれ程とは………」

 

 ハンナ「いえ、私のこれはあくまで敵の急所を見つけるもの、そこに攻撃を当てられるかは五分五分ですので……。」

 

 

 魔眼、本来は“直死の魔眼”のことなのだか、偽造により詳細は隠しているため、魔眼と呼称している。

 

 仮の原理として、こちらの世界の魔法と照らし合わせるなら、生まれつき眼球に陣が刻まれているため、陣は必要とせず、己の一部であるため、長ったらしい詠唱を必要としない、相手の急所を正確に見抜く上級の探知系魔法、といったところだろうか……。

 

 

 メルド団長に最初にこの眼の話をしたのは正解だった、仮の原理とその機能を説明したところ、その需要は魔法などの超常が存在するこの世界でも破格のものらしく、その価値を知れば無理に抉り出し我がものとしようとするものも出てくるかもしれない、とのことだそうだ。

 

そのため彼も気を使って魔眼の詳細については騎士たちの間で情報規制を敷いてくれている。 

 

 

 ハンナは思う、偽造している身としては実に申し訳ないが、私のこれは本来そんな都合のいいものではない。

 

 そもそもの話、この眼はそれ単体では己の身を滅ぼす危険なもので、私の使用するもう一つの異能“山翁寵愛(ザバーニーヤ)”によって成り立っているものだ。

 

 死とは、常人の脳で処理できる情報じゃない。その為この異能は死を理解している初代様と脳の情報処理機関を接続するものでもある。

 

 先程の詠唱?もこれを発動させるものであり、そして先程、急所を見抜くといったが、ハンナが見て、ハンナが攻撃するからこそ、その場所はその者にとっての急所となる為、その場所を他に共有したところで他の者の攻撃では、決して致命傷を与えることはできないのだ………。

 

しかしそこんところを説明するとなると、“山の翁”などのハンナの素性の話をすることになるため、誤魔化すのも一苦労である。

 

 投擲師の少女、園部さんには実に申し訳ないが、“私レベルの投擲技術がないと成り立たない”ということにいているため、この件に関して彼女は随時涙目である。

 

 雑談もそこそこに、ふと香織が崩れた壁の方に視線を向けた。

 

 

 香織「……あれ、何かな? キラキラしてる……」

 

 

 その言葉に、全員が香織の指差す方へ目を向けた。

 

 そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。ハンナを除いた女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

 

 メルド「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

 

 グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

 

 香織「素敵……」

 

 

 香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫とハンナ、そしてもう一人だけは気がついていたが……

 

 

 檜山「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

 

 そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。

 

 

 メルド「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」

 

 

 しかし、檜山は聞こえないふりをして、とうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

 メルド団長は、止めようと檜山を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

 

 騎士「団長! トラップです!」

 

 メルド「ッ!?」

 

 ハンナ「チィッ!!」

 

 その言葉にハンナは檜山へ駆け出す。しかし、ハンナもメルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。

 

 

 檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

 

 

 メルド「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

 

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが、間に合わないと瞬時に理解したハンナは………

 

 

 

 

 無意識に……雫と香織、そして浩介を抱き寄せた………

 

 

 部屋の中に光が満ち、クラスメイト達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

 

 彼達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

 ハンナは必死の形相で自らが抱き寄せた三人の内二人に声をかけ、強く抱きしめる。

 

 

 ハンナ「雫っ!香織っ!無事!?怪我はないっ!?」

 

 香織「わわわっ!はっハンナちゃん///」

 

 雫「ちょっちょっと落ち着きなさい大丈夫だから///」

 

 

「良かった良かった」と今にも泣き出しそうな声で二人の胸に擦り寄る彼女の普段は見せない態度に驚きつつも少し嬉しそうな二人、その様子を傍から見ていたハジメやメルド団長などの一部の者たちは密かに和むが状況はそれを許してはくれない。

 

 どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

 クラスメイト達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

 橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

 

 

 それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

 

 メルド「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

 

 雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達、ハンナもようやく我に返り、己の行動を顧みて必死に取り繕うも直ぐに冷静になり臨戦態勢へと移る。

 

 しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

 その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

 

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

 

 ハンナ「チィッ!!」

 

 その名を聞いた瞬間ハンナはまた一際大きい舌打ちをした……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




  



 まだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜落ちませぇーん!!
フォオオオ\(^o^)/

…………………………………………………………………………
……………………………………………………すいませんm(_ _)m

まじで、思ったより長くなる、まぁタイトル見たとき気づいた人いると思いますが、次回はちゃんと落とします!!

そして必然的に次回は短くなると思うので、次回はイラスト2枚載せまーす!!

楽しみにしててください!☆ミ(⌒▽⌒)



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