ありふれない暗殺者は世界最強と共に……   作:翁月 多々良

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 前回話した通りここから中間が大分オリジナル展開になってきますよ。でも安心して事の顛末だけは原作通りよ♡





 あ~早くじいじの活躍を書きたいし、描きたいッ!!

 あと最近くまクマ熊ベアー見て、主人公ちゃんの声
CV:河瀬茉希さんもアリな気がしてきた





第8話:愛瞳の翁(あいどう おきな)〜決別と濛雨〜

 

 

 〜ハンナside

 

 ハイリヒ王国王城内、私は未だに眠る友人の部屋の前で立ち尽くす。入室することはしない、できない。

 

 何をするでも、できるわけでもないのに、

 騎士達の監視の中、ただ立ち尽くす。そうしてしばらくしていると王城内の使用人や“クラスメイト”が通りかかり私に敵意(・・)の目を向けてくるので私は自室か中庭へと足を向ける、私に対する陰口(・・)を背に………

 

 ここ数日で私がしたことと言えばはただそれだけだった。あの日、迷宮で死闘と喪失を味わった日から城内の様子が何かおかしい。理由は明白、城の使用人や王族達はともかく、一部の人を除きクラスメイトまでも私に敵意を向けているからだ。

 

 まずは、この間の事の顛末から説明しようと思う、

 

 あの後、宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って私達は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いだったとは言え勇者の同胞が……南雲君が死んだ以上、前日に先んじて早馬を向かわせたとしてもどっちみち責任者であるメルド団長が国王にも教会にも直接報告が必要ということだそうだ。

 

もっと言うと彼ら的には私達には早々に折れてもらっては困るのだろう。大変気に食わない事だが、致命的な障害が発生する前に、勇者一行のケアが必要だという判断もあった。

 

 城に帰った後、南雲君を無能扱いしていた者たちによる、死人に鞭打つような醜悪な論争が起こるであろうことを予想するだけで、私はふつふつと怒りが込み上げてくる。

 しかし、王城に着いた私に待っていたのは予想の斜め下を直進するような出来事だった。

 

 

 エリヒド「衛兵っ!!その異教徒を拘束しろ!!」

 

 ハンナ「………………は?」

 

 

 入城直後、私から間の抜けた声が飛び出る。エリヒド国王の怒声が響いたと思ったら、たくさんの武装した騎士たちが私達、いや()の周りを囲むように剣を突きつけてきた。

 

 鈴「………えっ何?…これ?」

 

 光輝「へっ陛下に皆さんっ!!ハンナに何するんですか!!」

 

 愛子「なっ!?……やめてくださいっ!!なぜこんなことを!?」

 

王族達の脇から無理矢理這い出てきた愛子先生も加わり、騎士達の円陣の外で各々が騒ぎ立てる中、驚愕しつつも冷静に対処しようとする者がいた。

 

 

 メルド「陛下、何故このようなことを?

彼女は十分我々に貢献してくれています。

国と教会の方針としては

 

 『異教徒といえど神の使徒、彼女が明確に敵対しない限り静観』

 

の運びではなかったのですか!?」

 

 

 イシュタル「君が寄越してくれた早馬のおかげで、事情が変わったのだよメルド・ロギンス騎士団長殿」

 

 

メルド団長の問に答えたのは国王ではなく隣に立っていたイシュタルだった。

 

 イシュタル「その女は魔人族の内通者の疑いがある、勇者一行に紛れ込み訓練時の騒動を利用し戦力を削るのが目的であろう。

情けないことに我々はまんまと罠にハマってしまったわけだよ。お陰で、勇者様の御同胞を二人(・・)も無力化されてしまった」

 

 雫「なっ……!そんなデタラメなぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 なるほど……

 

 

 奴らの狙いは私の排除だ、(神の使徒)を自由に扱うために私のようなストッパーを排除するつもりなんだろう。そのために南雲君の死と香織の現状を利用し、クラスの皆の中で私を明確な悪に仕立て上げるつもりなのだ。

 

 まぁそれだけじゃないだろうが(笑)

 

 しかし妙だ、手口があまりにも大雑把で大胆すぎる、こんないきあたりばったりな糾弾劇、まともに取り合うほうが馬鹿だろう。だが私の予想はまたしても大きく外れることになる。

 

 

 「えっじゃあ白崎さんを眠らせたのってそういうことなの!?」

 

 

 誰かがそう声を発したのを皮切りに状況が一変する。

 

 

 「おいおい冗談だろ!?」

 

 

 「じゃあ、あの転移のトラップも言峰さんの仕業ってこと!?」

 

 

 「魔眼だったっけ?あれも魔人族から……!」

 

 

 「信じられないっ」

 

 

 「俺は前からの怪しいと思ってたんだ!!」

 

 

 「あの異常な強さも魔人族の……」

 

 

 まるでたった一手で一気に裏返るオセロ版のように、訓練に参加していた騎士や、大半のクラスメイト達の私への態度も一気に裏返った!

 

 

 雫「えっ?嘘……、でしょ?何、真に受けてるのよあんた達っ!!」

 

 愛子「おっ落ち着いてください皆さん!!」

 

 

 浩介「一体なにが!?」

 

 

 クラスの大半が私に非ぬ企みをでっち上げ罵詈雑言を浴びせる中で一部、この状況に困惑するメンツもいる、混沌を様する現状一体何が起きているのか?イシュタルの方へと視線を向けると……

 

 その嗄れた老人の顔は卑しい笑みを浮かべ勝ち誇ったようにこちらを見下していた。

状況的にも怨敵を追い詰めて勇む様にも見え、周りから見れば不自然ではないが、私を含めた一部の者はこれだけで理解した

 

 『嵌められた』と、

 

 おそらくは暗示の類だろう、しかし範囲が広く、神の使徒を洗脳できるほど強力にも関わらず、一部とはいえ効果の現れない取りこぼしを出している杜撰さ

 

 見たところ正気なメンツは眠っている香織を除外して、

 

雫、天之河、恵理と私と関わりの深い人が効果対象外かと思ったが、コウちゃん、愛子先生、園部さん、メルド団長など、

“言峰ハンナ”とは特段関わりを持たないメンツが正気であったり、鈴、龍太郎、などの意外なメンツが私に敵意マシマシだったりと法則性が見えない。ステータスに寄るものでも無さそうだ。

 

 

 光輝「皆っ!!ハンナが俺達を裏切るわけがないだろ!落ち着くんだ」

 

 「じゃあ、未だに白崎が起きないのはどう説明するんだよ!!」

 

 天ノ河のカリスマをもはねのけるほどの暗示だ、これほどの規模の術、その起点、つまり魔法陣は目立つはずだが一向に見当たらない、今は探せる状況じゃない、………ならば

 

 スッ

 

 一同「「「なっ!!?」」」

 

 イシュタル「………ほう」 

 

 雫「何を……何をしてるのよハンナ!!」

 

 

 私は静かに両の掌を上へ掲げる、正直言って降参だ

 

 ハンナ「雫、皆も落ち着いて、こんな状況じゃマトモに話し合いもできないでしょ?ここで私が何を話しても、誰も冷静に話を聞けないもの。」

 

 雫「そんな…それじゃああなたはっ━━━」

 

 ハンナ「大丈夫、私がここで降伏するのは、私に反抗の意思がないことと、私の身の潔白を表明すことだから。

そういうわけですから陛下(・・)、私はこの通り反抗するつもりはありませんのでお互いが冷静に話し合える場を求めます。」

 

 私はあえて先程まで会話を進めていたイシュタルではなくエリヒド国王に声をかけた

 

 エリヒド「………連れて行け」

 

 雫「嘘っ……!いやよ……待って!!ハンナ!」

 

 光輝「ハンナ!!」

 

 愛子「こんなの横暴ですっ!やめさせてください!!」

 

 エリヒド国王の号令を合図に私を取り囲んでいた騎士達が一斉に群がり私の手、足、首それぞれ鎖で繋がれた金属の錠をハメられ、首の錠の反対側の数本の鎖を騎士達が持ち引っ張るようにして私を城の奥に連行する。

 

 いくらコチラが抵抗しないと言っても、腐っても神の使徒ということで無数の騎士たちは長物の切っ先を私に向けて警戒していた。

 

 静かに連行される私とは対象的に後方から雫の悲痛な叫びや天之河、愛子先生の講義の声が飛び交っていた。

 

 雫「ハンナっ!!ハンナアアァァァァァっっ!!

 

 メルド「雫っ落ち着くんだっ!!」

 

 雫のあまりに大きな叫びについ振り向いた私、槍を交差させて道を閉ざしている騎士たちを無理矢理どかそうと暴れる雫を後ろからメルド団長が羽交い締めにしている。その光景に私は申し訳なくてすぐに前を向いた。

 

 

 それから私は武装をすべて取り上げられ、牢屋へと監禁、拷問でもなんでも受けるものかと思ったが、

 

 思いの外早く開放された。

 聞くところによると、雫を始めとしたあの場で正気だったメンツが必死に国王とイシュタルに言明したかららしい、しかし、まぁ当然であるが最初はイシュタル達も聞く耳は持たず追い返される寸前で愛子先生が

 

 

 愛子「これ以上彼女に不等な扱いをするのならっ拷問されようが何されようが私はあなた方に協力しません!!」

 

そう宣言したそうだ。

 

戦時中において、兵糧は勿論、国民の食料も重要になることは明白、見た通りの食料チートな愛子先生の協力は不可欠なのだ。無論無視して暴力で支配させることも可能だっただろうが、それでは勇者の心象を悪くするのと小柄な愛子先生では万が一がある可能性を鑑みて、イシュタル達は交渉に乗ることにしたようだ。

 

 交渉の末、私の処遇は、執行猶予付き要警戒並びに観察と相成った。尋問は時折するが拷問はせず、戦闘訓連並びに城外への外出を禁止し、城内を歩き回るにも手枷をはめて複数の騎士の同伴がなければならず、室内にいるときは、扉の前、中庭から、窓の外を見張られる状態となる。こういった事情は後ほど愛子先生に面会時に説明された。

 

 ハンナ「ごめんなさい、私のせいで…」

 

 愛子「言峰さんが謝ることなんてひとっっっつもないんです!!だって生徒を守るのが先生の役目なんですからっ

待っててください、絶対に私達が何とかして助けてみせますから!!」

 

そう言って愛子先生は私の部屋に面会に来てその小さな体を目一杯動かして力説してみせた。

 

 

 

 そうして今に至るわけだが

 

 国家反逆を疑われてる身でかなりの温情だろう。しかしそれでも納得しない者は両サイド(・・・・)からそれなりにいて、私に敵意を向けることは別に問題ないのだが、問題なのは天之河である、奴は今の状況でも十分な私の待遇の改善をお偉方に打診し、私に敵意を向けるものへ説得を行っているのだ。

 

 光輝「皆っ誤解してるんだっ!話し合えばわかるよっ!!」

 

 奴のこの行為が、『言峰ハンナが、優しく清廉な勇者様を騙して利用している』と解釈し私への心象を更に貶めている。このままでは私の待遇が悪くなりかねんので雫が止めてくれたが、

 

 〜あの野郎、もうまじでホント余計なことするな!!〜

 

 と切実に思った。

 まぁいざとなればこんな手枷余裕でぶち壊せるのだが、ひとまずは、自由にならなければどうすることもできない、愛子先生がいるとはいえ、ストッパー要因の半減で生徒が暴走し、教会と国に良いように利用されてしまう、なんとかしてみんなを守らないと………………………

 

 ……みんな?

 

 

 

 既に一人、守れていないではないか……親友の想い人を……

 

 目を冷ました彼女がこのことを知ったら?

 

 彼女の……香織の心は?………

 

 

 

 守れていないじゃないか……何も……

 

 

 そうして通路で自室に帰る途中に自問自答していると、聞こえてくる

 

 

 

 「ねぇ聞いた?また香織ちゃんの部屋の前に居たらしいわよ?」

 

 「えぇ~自分でやっておいて白々しいぃ〜」

 

 「心配してますよアピールでしょ〜」

 

 「そういえば訓練前も喧嘩してたしぃ〜その恨みじゃなぁい?」

 

 「ひやぁーこわぁ〜いぃぃっ」

 

 「地球でも風紀委員してたとき逆らうやつは毒盛ってたかもなぁ~」

 

 「ヒィッオッソロしィー」

 

 

 「全部嘘だったのよね~今まで私達を騙しててホント最低ね」

 

 

 暗示を受けてるとはいえ好き放題言うものだ。まぁ最後の方はあながち間違えではないのだが……

 

 まぁ……そうだよな元々喧嘩してたんだ、潮時かもな、大勢の命を奪った私には十分すぎたのだ。最後は、嫌われて終わったほうが後腐れ無いってもんだ。

 そのまま私は自室に戻り、その日はただボーッとして過ごし、そのまま眠りについた………

 

 

 

 

 

 “山の翁”『 “ 無様なものだな……ハンナ ” 』

 

 

 ハンナ「初代……様……?」

 

 気がつくと私は寝間着に手枷をはめた姿で、不思議な空間にいて、目の前に初代様が佇んでいた。

 

 一面の黒い空間、真っ暗っというわけではなくそれなりに明るいが一面黒で上も下も、どこまで続いてるのかもわからない、

 

 何もない伽藍堂、そんな空間……空っぽだった

 

 

 

 ハンナ「ここは……夢……ですか?」

 

 “山の翁”『 “ 如何にも、今現在、現し世にて貴様の前には出られぬ上な ” 』

 

 ハンナ「そう……ですか」

 

 今の見張られている現状、扉の前の騎士に話し声を聞かれてしまうからと、私は納得し、片膝をついて臣下の礼をとる。

 

 ハンナ「それで、今宵はどの様なご要件で参られたのですか?」

 

 私が聞くと初代様の眼窩の炎が揺らめく

 

 

 “山の翁”『 “ 首を出せ ” 』 

 

 

 あぁ、なんとなく……そんな気はしてた……これでやっと終われる……

 

 私は姿勢をそのままに首だけを項垂れさせる、一年前にそうしたように、そうすると初代様は剣をゆっくりと持ち上げながら語りだす。

 

 

 “山の翁”『 “ どこまでも、

 愚かな娘だ……この様では、あの戦場で、貴様に背中を任せ、今もなお賢明に生きる(・・・・・・・・・・)あの少年、南雲ハジメも泛ばれなかろう…… ” 』 

 

 

 

 

 

 ハンナ「………………………………………………………は?」

 

 今のは……聞き間違えか?……生きてる?……誰が………

 

    南雲君が……!!?

 

  私はガバっと顔を勢いよく初代様に向ける

 

 ハンナ「初代様っ!!それはどういうことですか!!」

 

 

 “山の翁”『 “ これから死に行く貴様に、関わりのあることか? ” 』

 

 ハンナ「ッ!!?……………」

 

 私の問に初代様は冷たく返し剣を振り下ろす、そうだ沙汰は既に下された、今の私にはなんの関わりも━━━━

 

 

 雫『決まってるじゃないっ親友を一人にしないためよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫の声が聞こえた気がした━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハンナ「ッ!」

 

 

 バキィッィィィィイン

 

 

 “山の翁”『………………………………………………。』

 

 ハンナ「えっ………???」

 

 自分でも一瞬何をしたのか分からなかった、完全な無意識、今の私は腕にはめられた枷の鎖で初代様の剣をいなした。そう捉えるしかない状況で、さっきの大きな音は、その勢いで鎖が千切れ飛んで私の両手が自由になった音だった。

 私は時間差でそれを理解し一気に血の気が引くっ━━━

 

 “山の翁”『 “ ………何故、汝は抗った……… ” 』

 

 

 初代様の言葉に私は震え上がり即座に土下座する

 

 ハンナ「もっもももっも申し訳ございませんッ!!

 

 今まで感じたことのないほどの強烈な恐怖に震えて顔もあげられない私の頭上から、予想外に柔らかい声音で話しかけられる

 

 

 “山の翁”『 “ 否、我が求むるは謝罪に非ず、先程、汝にかけた問の応えである ” 』

 

 ハンナ「へっ?」

 

 あまりに間抜けな音が出たが、気にせず初代様は続けた

 

 

 “山の翁”『 “ 今一度問う………何故、汝は抗った……… ” 』

 

 ハンナ「……………わ…私は………私は………」

 

 答えなんて出ない、だって無意識だったから、咄嗟に出た行動に理由も何もあったものじゃない、なぜ、何故、ナゼ、

 

  ……………いや、わかっている。やらなければならないことができたからだ。

 

 ハンナ「初代様……私は……私はまだ死ねません(・・・・・)私は今一度自分の使命を見つけました。ソレを全うできてない今、私は死ぬに死にきれないのです、故に初代様の沙汰を遮りました。

 

 度重なる我が儘、誠に申し訳ございません」

 

 そうだまだ救える、初代様の話が本当なら、南雲君も香織の心もまだ救えるっ!

 

 私の心に再び温もりをともしてくれた人たちを、この命に変えても絶対に救うッ……ならまだ私は死んでいられない。

 その気持を胸に私は初代様に深く深く頭を下げで助命を請うた。

 

 “山の翁”『……………………………………………………。』

 

 初代様の眼窩の炎が揺れる

 

 “山の翁”『 “ 成すべきことがあるのなら、汝の天命はここに非ず、今一度沙汰を保留とする。 ” 』

 

 

 ハンナ「ハッ…ありがとうございますッ!!」

 

 “山の翁”『 “ 山の翁に連なるものとして、今度こそ妥協は許さぬッ

 愛瞳の翁(・・・・)よ……彼の者、南雲ハジメは“奈落”に囚われ、抗っている。汝の成すべき天命、正しき終わりへ奔るが良い ” 』

 

 

 

 

 初代様の言葉を最後に夢の世界は崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますとまだ日の出には遠い時間、部屋の外にも見張りの気配がある。だが、私はその事に気にもとめず、今は気配を感じない初代様へと宣言する。

 

 

 ハサン(・・・)「この愛瞳のハサン、我が名に賭けて使命を果たしますッ」

 

 

 己の怠惰(日常)への決別を込めて……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜雫side

 

 目を覚ますと、まだ辺は仄暗かった。

 

みんなが失意に暮れ、おかしくなったあの騒動から数日、訓練や入浴のとき以外、食事も香織が眠るこの部屋で食べている。どうやら今も香織の手を握ったまま眠ってしまったようだ。そしてふと、私の肩に毛布がかけられていたことに気づく、

 

 雫「誰が掛けてくれたんだろう?」

 

 鈴や恵理なら後でお礼を言おう、光輝か龍太郎ならお礼を言った後ぶっ飛ばす、乙女の部屋に勝手に入ってくるな!

今の私に、このようなことをしてくれるであろう人物たちに思いを馳せる……

 

 雫「……………ハンナ」

 

 あの日……………

 

南雲君の死も、香織の昏睡状態も、すべてハンナのせいにされた。どうやったのかは知らないが、あの髭面、イシュタル教皇が何かやったに決まってる、あの人は前々からハンナを目の敵にしていた。体の良い厄介払いにもう一人の親友とその想い人の不幸をも利用するなんてっ!!

 彼女の不当な扱いに、メルド団長、愛子先生、光輝を筆頭に説得した結果、何とかぎりぎり人権が守られるかどうかという所に落ち着いた、国の騎士団長であるメルド団長はこれ以上どうすることもできないことに心を痛めていたし、同じく王族側で正気だったリリィも、

 

 リリアーナ「このような事態になってしまい、申し訳ありません……!!」

 

と、謝罪してくれた。

それでもまた光輝は暴走しようとしていたので止めたが今回ばかりは気持ちがわかる。無論、私も怒りを抑えるだけで精一杯だが……

 

 

 雫「あなたが知ったら……もっと怒るのでしょうね?」

 

 

 あの日から事のダシに使われ、一度も目を覚ましていない香織の手を取り、私はそう呟く。

 

 医者の診断では、体に異常はなく、おそらく精神的ショックから心を守るため防衛措置として深い眠りについているのだろうということだった。故に、時が経てば自然と目を覚ますと。

 だが、こんな診察結果が出ているにも関わらず、未だに香織の昏睡はハンナの仕業にされている。医者も権力が怖いのか、それとも教会が怖いのか、診察時その場にいた私と愛子先生に診察結果を話して以降、口を閉ざしている。

 

 しばらくそうしていて意識が覚醒しだした私は城内が何やら騒がしいことに気づく。

 

 雫「……?どうしたんだろう…」

 

 不思議に思い部屋の扉に近づいた瞬間

 

 バンッ

と、突如扉が開き愛子先生が鬼気迫る表情で入ってきた

 

 愛子「八重樫さんッ大変です!!言峰さ、ワプッ」

 

 愛子先生が何事か叫ぼうとするも扉に挟まっていたのか、突如彼女の頭上からひらひらと落ちてきた一枚の紙に邪魔をされる。申し訳ないが、一枚の紙に視界を遮られ慌てる様は可愛かったがいい加減助けてやろう。

 

 雫「あ、あの〜先生?大丈夫ですかぁ〜?」

 

私は愛子先生の顔に被さる1枚の紙を取り除く━━

 

 

 愛子「プハ〜〜ッありがとうございます八重樫さん」

 

 雫「いえいえ、所でこんな早朝にどうしたのですか?そんなに慌ててどうやら城内も騒がしいようですが?」

 

 私は先生に本題を促す、すると、思い出したように慌てて先生は語りだす

 

 愛子「そーだったぁ!!八重樫さん大変なんですっ言峰さんが言峰さんがっ!!━━━━━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 雫「……………………………………………………………え?」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 メルド「本当に扉が開く瞬間も、誰かが出てくるところも、何も見ていなかったということかっ!?」

 

 見張り騎士A「はッはいぃっ!間違いございません!!私は一切目を放していませんでした!!なのに気づけばこのようなことに……………」

 

 メルド「そんな…………そんな馬鹿な話があるか……」

 

 

 今現在、王城でハンナが投獄されていた部屋の前にて、騒ぎが起きていた。今現在ここの警備は厳重で、24時間、一時間おきに内と外から複数の騎士達が、交代制で見張っていて、室内で物音がすればすぐに分かる仕様になっていた。その間、騎士達は決して、扉と窓から目を離すことはなかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)にも関わらず、信じられないことに、騎士の目の前で自然と扉は開き、言峰ハンナはまんまと逃亡してみせたのだ……

 

 勿論こんな話信じるほうがおかしく、見張りが見逃した以外に説明がつかない状況、しかし、見張りの騎士達が嘘を言っているようにも見えなかった。

 メルド等が思案していると、更に報告が来る。

 

 見回り騎士「大変ですッ!メルド団長!!」

 

 メルド「今度はなんだっ!!」

 

 見回り騎士「先程宝物庫から言峰ハンナの武装一式に加え、短刀型の武装を複数が消失しましたっ!!」

 

 メルド「宝物庫が!?間違いなくハンナだろうが……一体どうやって宝物庫の扉を破られた?」

 

 見回り騎士「そっ……それがぁ……………」

 

 メルドの問いにその騎士は渋い顔で言い淀んでいた。何か言いにくいことがあるのかもしれない。

 

 

 メルド「どうしたっ早く言え!」

 

しかしそんな事を考慮してやるほど今は悠長にしてられない。メルドに両肩を掴まれ急かされた騎士は渋々答える

 

 見回り騎士「じっ……………実は、()を使って普通に開けられてしまいました。」

 

 メルド「…………………………は?」

 

 本来宝物庫の鍵は、また別の見張り付き倉庫で管理されているのだが今回は事が事、万が一持ち出されないために城中を巡回する騎士達がすれ違い様にバトンのように交代で持ち運んでいるのだ。

 ソレをあろうことか、普通に鍵を奪われ、使われた挙げ句、律儀なのか嫌味なのか、気づかぬ間に返されていたのだ。

何故ソレが判明したかというと、単純に扉に破壊や工作がされた形跡がなく、騎士の持つ鍵の留め具がいじられた形跡があったからだ。

 

 

 見張り騎士B「これが、……神の使徒の暗殺者の実力……」

 

 その場にいた騎士達が各々ハンナの実力の一端を目の当たりにして戦慄している、今回は脱出のための工作しかしなかったが

眼の前にいるにも関わらず感知することができない隠密術、場合によっては騎士達を戦わせることなく敵の中枢に一人、潜り込ませるだけでこの戦争を集結し得るのだから。

そんな中、メルド団長は苦い顔をする、力の問題ではなく、神の使徒の中でもずば抜けた技能を持つ少女を自分たち自らが手放してしまったことに。

 

 

 雫「メルドさん!!」

 

 メルド「おぉ、雫に愛子、それに光輝も!

すまないな、こんなに早朝に……………。」

 

 時間的にもまだ眠っているだろう時間に騒ぎ立て、起こしてしまったことに騒ぎを聞きつけ、寝間着のまま駆けつけた三人に謝罪するメルド団長、

 

 光輝「いえ、それよりもハンナが逃げたって本当なんですか!?」

 

 メルド「……あぁ、部屋は見ての通りもぬけの殻、まるで霧か霞のように姿を消しおった」

 

 光輝「そんな……どうして?……………」

 

 雫「どうして?そんなの決まってるじゃないッ!!」

 

 一同「「「ッッッ!!?」」」

 

 メルド団長が規格外なハンナの実力に驚愕し、光輝は清廉な彼女がなぜこの様な行動に及んだのが理解に苦しむ中、

 

 ただ一人、雫は怒りを発露させた

 

 雫「この世界に来てからずっと、あの子はずっと酷い仕打ちを受けてきたッ!!それでも、教皇との取引を反故にしないために文句一つ言わずに頑張ってきた!!なのに、皆、南雲君の死への重荷を投げやるみたいに掌返して、これで愛想尽きないほうが可笑しいでしょ!!」

 

 握りしめた掌から血が滴り、地団駄を踏み締めながら雫は叫んだ。そんなかつて見ない幼馴染の取り乱した姿を見て光輝は驚愕する

 

 

 光輝「雫っ落ち着くんだ、今回は別に誰かが悪いってわけじゃないだろ?イシュタルさんも皆もただ不安なだけなんだ。ちゃんと話し合って分かってもらえれば━━━━」

 

 雫「話し合えば、話し合えばって!!あんたそれしか言えないの!?」

 

 

 もうすぐなにか、きっかけがあれば、殴り合いに発展しそうな一触触発の状況、愛子先生が「ふたりとも落ち着いてぇ〜〜〜」と宥めようとするが、元々迫力が乏しい愛子だ、こんなこと言ってもどうしょうもなく、愛子は、見事無視されてしまう。

 

なのでここは迫力なある人からの喝が必要だった

 

 

 メルド「やめんかっ二人共!!

 

 

 メルドの一吠えに二人はビクッと体を震わせメルドの方へと向き直る、その様子を見てメルドはその表情を厳かなものから穏やかながらも疲れたもの戻し、雫を諭す様に声をかける

 

 メルド「すまない………雫、こうなってしまった以上、我々は王国の騎士としてハンナを捕らえざる負えない立場になった。

 俺からもできる限り王や教皇に進言する、絶対に悪いようにしないと約束する

 

 ……………我々を信じて待っていてくれないか?」

 

 雫「……………分かり……ましたッ……」

 

 

 雫は不満を噛み締め渋々答えた

 

 

 メルド「すまない、感謝するッ!」

 

雫の煮えきらない答えに快く答えたメルドは他の騎士達に指示を飛ばす

 

 

 メルド「いいかお前達ッ!!まだ城内に気配を消して潜んでいるかもしれないッ探知系のアーティファクトを用いて城内、外共に虱潰しに捜索に当たれ!!城門、塀付近の見張りは徹底させろッ総員散開!!」

 

 騎士達「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 

 メルドの号令に騎士達が一斉に応え散った後メルドは雫たちへ向けて告げた

 

 

 メルド「すまないお前達、俺も出る、他の生徒達に事の次第の説明を頼む、それと、本日の訓練は中止、全員部屋で待機していくれ」

 

 愛子「わかりました!!」

 

 代表で愛子が応えるとメルドは雫にすれ違いざまに「傷の手当をしておけ」と告げ、そのまま駆け足で捜索隊と合流していった。

 

 

 

 

 

 

 

 〜雫side

 

 

 

 

 あの後、愛子先生に手当てしてもらってから暗い空気のまま解散した私達は時間も時間ということで他の皆が起きてくるまで説明は後回しにすることになった。

今は香織の部屋に戻ってきている

 バタンッ と、扉を締めそのまま扉に背中を預けずりずりと力なく座り込んだ。

 

 

 雫「……………………………………………………………。」

 

香織は未だ起きる気配はなく、部屋を沈黙が支配する。私は膝を抱えて縮こまる。

 

 雫「香織……………ハンナ……………」

 

 この世界に来てからこんなんばっかだ、勝手に呼び出されて、光輝が戦うって言い出したとき、いつものお節介の延長線と、軽く考えていなかったといえば嘘になる。

 ハンナに事の重大さを指摘され、実感したつもりでいた。でも、知らない場所で多くの敵意に晒されるなか、気丈に振る舞うハンナを見て、私達ならなんとかなる、切り抜けられるって……そう高を括っていた。物語の1ページみたいで正直浮かれていたんだと思う。

 

 だからかな、最近は悪いことしか起きない、ハンナと喧嘩して、南雲君が死んで、香織が目を覚まさなくて、ハンナが捕まって、逃げて…………………………もう……ろうんざりだ………

 

 雫「もう………嫌だ………帰りたい」

 

 

 

 

  カサッ

 

 

 

 

ふと、物音がした方を見やるとそこには、先程愛子先生にかぶさった一枚の紙があった。さっきの騒動のとき、愛子先生からハンナの失踪が伝えられてから勢いで飛び出したもんだから放り投げてそのままだったらしい、

 よく見ると紙には何か書かれていて━━━━━━━━

 

 それはハンナの筆跡(・・・・・・)のように見えた

 

 

 雫「ッ!!これはまさか、ハンナの!?」

 

 紙の正体は一通の手紙だった。慌てて手紙の内容を確認する

 

 

 

 {  雫と香織へ〜              }

 {  ━━━━━━              }

 {                      }     

 { この間は、酷いことを言ってしまって本当に }

 { ごめんなさい。              }

 { こうして、手紙に残したのは、私達は、   } 

 { もう二度と会うことはないと思ったからです。}       

 {                      }

 { 私はとある伝で南雲君が生きていることを知 }

 { りました。                }

 { だから、南雲君を助け出すために私は脱走し }

 { ます。                  }

 { そして必ず南雲君を生きて送り届けます   }

 {                      }              

 { だから香織は安心して待ってて       }

 {                      }

 { そしてその後は私一人で魔人族の王を暗殺し }

 { してくるから、雫もこれ以上無理しなくて  }

 { 大丈夫だからね              }

 {                      }

 {  香織   雫              }

 { 私にとって二人は、かがえのない、    }

 { 大事な 親友です             }

 { 二人と過ごしの一年間はどんな宝より }

 { キレイな物です             }

 { 二人傷つけしまって       }

 { めてごんなさい            }

 {                      }

 { 後に こな私に            }

 { たさんのをくれて         }

 {                      }

 {         ありがう        }   

 {                      }

 {                      }

 {               〜ハンナ   }

 {                      }

 

 

 

 クシャ

 

 

 

 読み終えた私は、気づいたら部屋を飛び出していた

 

 濡れて(・・・)ふやけた手紙を握りしめて━━━━━  

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

しばらく時間が経って愛子から城の食堂へ招集がかかる、そんな中、光輝は香織の部屋にいる雫を呼びに行っていた。

 

 

 光輝「雫〜ッ先生からの招集の時間だぁ、開けるぞ〜」

 

 

 ここでノックをしないのが天之河クオリティである、そんなノーデリカシーな彼に天罰が下る

 

  ファンッ(バン)

 

 

 光輝「ゴッホ!!?

 

 突如勢いよく開け放たれた扉に光輝は顔面を強打し鼻血を吹き出し倒れた………配慮の足りない者にはお似合いの末路である。

 

 

 光輝「フィ……フィンセン………トォ

 

 扉から飛び出したのは雫だった、何言か宣い、意識を落とした光輝には目もくれず城外へと走る。

 

 城内を必死の形相で駆ける雫を城の者たちは驚愕の目で追う、視線に晒されながらも雫は息を切らせて走り城外を出た。

 

 

 

 

 

 

 外は雨が降り始めていた━━━━━

 

 

 

 

 

 

 雫がまず向かったのは乗馬訓練で使う馬が飼育されている馬屋だ。しかしそこにはハンナを捜索する騎士達の見張りがっあった。

 

 騎士C「使徒殿?」

 

 騎士D「雫殿いかがなされましたか?」

 

 本来城内で待機命令が出ている神の使徒がこの場にいることに疑問を持ち二人の騎士は雫に質問する。しかし雫はそんな騎士達は目に入っていないというように、血走った目で馬屋へ入りうとする。

それを見て騎士たちは異変を感じ雫を抑えにかかる

 

 騎士E「使徒様ッ!!なんのつもりですか!?」

 

 騎士D「城へお戻りくださいッ!!」

 

 雫「ッッ!!お願いッ行かせてぇええええええええッ!!

 

 雫はそんな彼らを神の使徒のチートパワーで振りほどき、自分が訓練時に愛用している栗色の毛に海のように深い蒼の瞳を持つ馬の元へ向かう

 

 雫「お願いマリーン!ハンナのところに行かなきゃいけないの力を貸してッ!!」

 

 雫に懇願に駿馬マリーンはヒヒィンと嘶き、雫を乗せ馬屋を飛び出し、雨の中を走り出したッ!

 

 

 騎士D「まっ待てぇぇえええええ!!!」

 

 

 

 メルド「どうしたッ!!何があった!!?」

 

 騎士C「あっ!メルド団長ッ一大事です!!」

 

 

 騒ぎを聞きつけたメルドが馬屋を見張っていた騎士達から雫が無断で馬に乗って城外へと飛び出していったことを聞く

 

 メルド「なっなんだとぉーーぅ!!??」

 

 ここ数日で色々なことが起きすぎて王国最強たるメルドさえ、その胃は限界を迎えようとしていた。

 

 メルド「グゥ〜ッお前達!!すぐに馬で追いかけるぞ、こんな悪路の中をたとえ神の使徒とはいえ、馬に乗りなれない者なら万が一もあるかもしれないッ!!総員馬に乗り雫の後を追う、いいか!!」

 

 騎士達「ハッ!!!!!!!」

 

 

 メルドの号令を期にその場にいた騎士達は一斉に馬に乗り雫たちを追いかけていった。

 

 

 一方、雫の方では最初はポツポツだった雨も大降りとなっていた。その雨に打たれてマトモに前も見えない状態で振り落とされないようマリーンにしがみつき、宿場町【ホルアド】に向かっていた。馬屋から出てくる時、マリーン以外の他の馬はすべて置いてあることは確認してきた、つまりハンナは自らの足で出発したのだ。

クラス最速のハンナならありえない話ではない。

だが、

 いくらクラスで最速でも体力が持たず、長距離を馬より早く踏破することは困難だ。手紙の通りハジメを助けに行くなら迷宮に向かうはず、なら十中八九ハンナの目的地も必然的にホルアドになる。雫はマリーンに無理させてでも最速でホルアドに向かって先回りをするつもりだった。

 

 しかし、ここで誤算があり、雫の知るハンナのステータスは偽装されたもので、本来のハンナのポテンシャルは雫の想像するそれとは比べ物にならない。雫が王都を出た頃、ハンナは王都とホルアドの丁度中間辺りを走っていた。本来であれば、休憩を挟んでもこのまま行けばホルアドまでもう数時間で着くことだろう。

 

 

 そう、本来であれば、

 

 今尚、降り続けている雨の影響で道の状態はとても悪く、たとへ歩きといえども慎重に進まなけりばならない、しかしそれでも雫がハンナに追いつくことは不可能だろう。だが、問題はホルアドに到着した後だ、ハンナは気配遮断で武器等を奪ってから出発したが、食料の調達までは余裕がなかった。なのでホルアドにて購入する予定だった。

 

 しかし、

 

 ハサン「流石に………この雨じゃね………」

 

 そこに以前の祭りのような賑わいはなく、突然の豪雨により、露店なども店終いをしている。いくら少ない食事で何日も生きられるよう訓練した彼女でも限度というものがある。更に今回はハジメ救出が目的であることを考えれば、彼女の分の食料だけでは全く足りない。城からの追手のことを考えると早く迷宮に向かったほうがいいのだが、それではハジメを助けるどころか二重遭難になる可能性が高い。

 

 

 ハサン「仕方ない………かな」

 

 しばらく考えた末、己の身の危険より、ハジメの安全を選んだハンナはこの雨が止むのを待つことに決め、どこかテキトーな宿屋に宿泊する手続きをしようと、ずぶ濡れになりながら街を歩いていると

 

 

 パカラッパカラッパカラッパカラッ

 「ハンナァァァァァァァァァァァッ」

 

 雨の音に紛れて聞こえにくいが微かに聞こえた。蹄音とすでに捨てた名を呼ぶ親友の声にハサンは思わず振り向く、まさかこんなにも早く追いつかれるとは思っていなかったのだ。その事で気を抜いていた事もあったのだろう。

 とある学者が提唱した、

『人間の脳が一番反応する瞬間は、己の名前を呼ばれたとき』

 そんな話がある。

 

 つまり、愛瞳の翁、彼女にとって“言峰ハンナ”という名前はこのたった一年で彼女の中でかなり定着してしまっていたようだ。雨の中でも数人の町民が街を歩いている。しかし今の声に反応したのはたった一人、それを雫の気配感知は見逃さなかった。

 

 ハサン「ッッッ!!」

 

 雫「ッ!?待ってぇ!!」

 

 すぐに気配を遮断するハサン、ハサンの気配が霧散したことで焦ってしまう雫。マリーンを急停止させた弾みでぎりぎりしがみついていた体は濡れた地面に投げ出され、転がり、泥だらけになる。

 

 雫「ガッ、………ありがとうっマリーン!!」

 

 雫は無理をさせ、ヘトヘトに息を切らし項垂れる愛馬への感謝しつつも、前を向いて走り出す。気配感知を最大限に研ぎ澄ませ消えた気配をたどる。だが、雫とハサンではそもそもの実力の差がありすぎる。ハサンが本気で気配を殺せば、初代山の翁以外、見つけ出すことは不可能だ。

 

 雫「ハンナアアアァァァァァァァッ!!どこに行ったの!!」

 

 いくら気配を研ぎ澄ませても見つけ出せることができず、答えることはないとわかっていながらも、雫は叫ばずにはいられなかった。

 

 雫「ハンナアアアアアァァァァァッ!!待ってぇえええ!!」

 

 走り回り雨と泥に濡れながら叫ぶ、街を歩く人から忌避の目を向けられる。それでも雫は叫ぶのをやめなかった。

 

 ハサンは本来、気配を本気で殺せば、例え眼の前にいたとしても気づかれることはない。無視して宿探しの続きをすればいい、だが彼女はなぜかそれをしなかった。路地裏に隠れ、目を強く瞑り、両手で耳を抑え、丸まっていた。まるで何かを圧し殺す様に………………。

 

 雫「ハンナアア━━━ あっ!!? 」

 

 ハサン「しずっ………………!!?ッ」

 

 ただでさえ視界が悪く、拙い技量で馬に乗り……イヤ、しがみついていたのだ。既に体力は限界、覚束ない足を地面の窪みに引っ掛けて派手に転ぶ雫。それを見てつい叫びそうになるも、やはり隠れるのをやめないハサン………………。

 

 雫の叫び声が止み、ザアアアアアアアアアアアアアアッと雨の降る音だけが世界に響き渡る。

 

雫は静かにしかし強く大地を掴み、か細い声で吐露する

 

 雫「おね……がい、……一人に………しないで……行か………ないで………………

 

 二人の親友を同時に失った少女の懇願。

いくら雨音が強かろうが、いくら耳を強く抑えようが、憎たらしいことに鍛えられ、研ぎ澄まされた聴覚は、その小さな叫びが聞こえてしまう………

 

 ハサン「ッ━━━━━━━━━」

 

 更に縮こまるハサン、大事な人たちのために己を殺す。冷静に冷酷に冷徹に………

 

 雫「………………ない………

 

 ふと、さっきまでとは毛色の違う声が聞こえた。か細いがどこか厳かな、そんな声がしたと思った瞬間

 

 雫「許さないッ!!許せるわけ無いでしょ!!この馬鹿ァ!!

 

 

とてつもなく大きな叫び、つい強張った体が緩むハサン

 

 雫「アンタッ!私達に散々あんな事言った癖にッこんな紙切れ一枚の謝罪で、納得できるわけ無いでしょッ!!!あの日、私も香織もどんだけ泣いたと思ってんのよッどれだけ辛かったと思ってんのよ!!」 

 

 今まで溜め込んだものを吐き出すように雫の声は激しさを増す。その手にはくしゃくしゃになった手紙が強く握りしめられていて、いつしか雫の声は雨の音を凌駕していた。

 

 雫「私言ったわよね?踏み込むって!だから貴方も踏み込んでってッ!何、なんでもかんでも、一人で背負い込もうとしてんのよッ!!律儀に布団掛けに来る(・・・・・・・)暇があんなら少しは私達を頼りにしなさいよ………このぉ……馬鹿ァ、アホ、不器用、おっぱいお化け!!

 

 ハサン「おっぱ………///!!?」

 

 最初の真面目さから一転、急に子供っぽい物言いに物陰からつい雫の方へと顔を向けるハサン、

 

 ハサン「っ━━━━━!」

 

 ハサンの目に写ったのは、雨とは違う水滴が頬を伝う雫の姿、だがその表情は悲しみでも怒りでもなく………………

 

 笑顔だった

 

 雫「許さないからッ………………」

 

物騒な物言いとは全く対極な表情と声質でそう言葉を紡ぐ、一拍おいて雫はまた大きな声で叫ぶ

 

 雫「私達二人の前で直接謝らないと絶対に許さないからぁ!!南雲君と二人で、生きて、帰ってきなさいよね!!………でないと、

 

絶対に、せぇぇぇええったいに、許さないからぁ!!

 

 

 

 雫は結局ハサンを見つけることはできなかった━━━

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その直後、雫を追っていたメルドら数人の騎士団員が雫に追いつき、雫に事情を聞いたあと何人かの騎士をホルアド捜索隊として残し、残りは雫を連れて王城へと帰還した。

 

 空は雫の表情のように、いつの間にか晴れ晴れとした青空をのぞかせていたのに、ハサンの足元の水たまりは未だにいくつもの波紋を広げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ハサンside

 

 

 ヒュンッヒュンッ

 

 「グギャっ!?」

 

 「オゴぉっ!?」

 

 

 私と南雲君、二人分の食料を購入し、迷宮に突入してから数時間、どうやら前回のトラップは破壊された岩肌が元通りになっていて、どこにあるのか分からなくなっていたため、仕方なく普通に正規ルートを渡り、今私がいる場所は六十階層、因縁の地まであと五階層ほどで到着する。ここまでの道のりで私は苦戦という苦戦と遭遇してはいない。なんせ私に襲いかかった魔物はすべて一撃で沈んでいるのだから。

 戦闘に一段落が付き、倒した魔物から律儀に短刀を回収した。

教団の頃からの癖だが、貧乏だった教団は武器を手に入れるのにも一苦労、だから回収できる武器はこうしてできるだけ回収するようにしている。

その後、周囲を警戒しつつ小休止を取ることにした私は、改めて己の本来(・・)のステータスを確認する。

 

 

============================

 

 

 

=====

 

遠藤 霞(えんどう かすみ)

 

(ハサン・サッバーハ) 17歳  女  レベル : 2

 

 

 

天職:暗殺者          職業:教祖

 

 

 

 

 

筋力 : 862

 

体力 : 1375

 

耐性 : 952

 

敏捷 : 2697

 

魔力 : 11

 

魔耐 : 702

 

 

 

技能: ・山翁寵愛(ザバーニーヤ)[+並列思考]

 

   ・天使降臨〘18/18〙

 

 

 

   ・天性の肉体・直死の魔眼・遠視・縮地・隠形・

 

気配遮断EX[+気配操作][+デコイ]・気配感知・先読み・状態異常無効・精神干渉無効、偽装・薬品調合[+薬草鑑定]・人体改造・限界突破・言語理解

 

 

 

状態異常)) 薬物中毒X ※この症状は状態異常無効がつく前に発生したもの 

 

=============================

 

 

 

====

 

 

 そう、偽装後のステータスはそれなりに上がったふうに見せていたのだが、こちらは全く上がっていなかった。

 

 まぁ当然だろう、今までの訓練でもクラスメイトを含め、格下としか戦わず、あの因縁の日ですら手を抜いていたし、ここ最近では、ろくに訓練も受けさせてもらえなかったのだ。

ここまで怠惰にしていれば上がるものも上がらんだろう。それに私の場合、直死の魔眼と初代様のバックアップがあるため、ほとんどの戦闘が一撃で終わってしまう。

 

 

 ハサン「こんなんでどうやって成長しろって言うんですか…」

 

 そんな愚痴を零し、休憩もそこそこに順調に迷宮を進み………………

 

 遂に因縁の地六十五階層にたどり着く。やはり先程と同じで崩落した石橋も元通りになっていた。ということは………

 

 私は気を引き締めて橋の中央まで渡る。次の瞬間━━━ッ!

前回と同じ、正面にベヒモス、背面にトラウムソルジャーの大群が現れた。あのときは、私が一方的にベヒモスを見ていたから私とベヒモスは対峙しなかったので、ある意味ではこれが両者の初対面かもしれない。

 

 その形相はなかなかの迫力で、獰猛に光るその赤い目は唸りながらこちらを警戒している。

 

 ベヒモス「グルルルルルルッ」

 

 

 そんなベヒモスに、私は堂々と歩み寄る、ただ普通に登下校をする様な感覚で………………

 

 ベヒモス「ッッッ!!??グルァァァァァアアアアア!!

 

 気づけばすぐ目の前にいた私にベヒモスは驚愕の咆哮を挙げる、それと同時に後方からトラウムソルジャーの波が押し寄せる。

 

 ハサン「お久しぶり、それとも、あなた達とははじめましてかしら?」

 

 

 大迷宮における魔物の出現の法則性は未だに解明されていない。ひょっとしたら彼らはかつて私達が倒した個体と同一のものかもしれないし、全くの別物かもしれない。

 

 

 ハサン「まぁ………そんなことは別にどうでもいい」

 

 

 彼らの後ろに何百、何千体控えていようと、私が殺すのはベヒモスではない(・・・・・・・・)。元々私は合理主義だ、とばせる工程はすべてとばす。あのときは橋の上に人がいたからできなかったが、一人の今なら可能だ。

 ベヒモスは衝動のままに爪を振り上げ、ソルジャー達は雪崩のごとく押し寄せてくる。

 

 

 ハサン「今回はバカ正直に付き合う時間も余裕もないからね」

 

 

 遍くモノには終わりがある。それは動物、植物だけではない、武器や道具、家にだって、森羅万象、形あるものはいずれオワル……

 

 終わりがあるのなら、私に殺せないモノはない(・・・・・・・・・)

私は、瞼を閉じ、持っている短刀を切っ先を下にして振り上げる

 

えっ?モノなんてどうやって殺すのかって?聞かれてないけど答えてあげる、いや、見せてあげる

 

 そうこれが━━━━━━

 

 ハサン「モノを殺すということだ

 

 

 見開いたその瞳は青白く燃えて、振り下ろした短刀を視えた(・・・)橋の起点()を突き殺す

瞬間、そこを始めとし橋に亀裂が入る、一気に脆くなった(死んだ)橋は最も重い、ベヒモスの足元から崩れていく

 

 ベヒモス「グウァアアア!?」

 

 あの日と全く同じ悲鳴を上げたベヒモス、しかし今度は引っ掻く石畳すら粉微塵、縋るものなく落ちてゆく、ソルジャーの雪崩は放物線を描いて滝のように奈落の底へ雪崩れ込む。

 

 その後を岩壁に掴まって見送った私は、素早く、だが安全に降りて行く………。

 

 

 

 

 

 

 

 






 ハサン(・・・)「この愛瞳の〜〜」

 ⬆これがやりたかったから台本形式にしたのさッ(≧∇≦)b

 えっ?親切心でやったんじゃないのかって?
 フンッあれは嘘さ( ー`дー´)キリッ

 ベヒモス対峙時の主人公ちゃん、暗殺教室の渚くんを参考にさせてもらいました~ 

あと、2話目の主人公ちゃんの初期ステータスもちょっと書き直してます。

一章終了後、主人公ちゃんの設定をまとめる予定です

〜FGO小話コーナー〜

 おいッ皆見たかよ!?FGOクラス別CMをよぉ〜!!

まさかまさかの“山の翁”だったよヒャッハー!!!
いやね、アサシンめっちゃ焦らすやん、
バーサーカー先に来ちゃいましたやん、
期待してないと言ったら嘘なるけど来ると思わんやん、
で、
来たやんッッ!!
最高やんッッ!!
もうムービーもかっこよすぎぃーー!!じいじ本人もそうなんだけどその周りを囲む暗殺者達が居ることで

 頂点ッ!!

って感じで最高すぎたろっ!

 いやあ~流石グランドアサシンっすわぁ~~~


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