ハリー・ポッターと薩摩の意思 作:グイシーマンズ
〝薩摩藩!!!!!〟
叫ぶ組分け帽子の下、ハリー・ポッターは白目を剥いた。スリザリンは嫌だと願った手前、見苦しいと理解しているがやり直しを要求したいと切実に思っていた。
彼がそう思うのも、無理はない。
少年が此処〝ホグワーツ〟にくる前の話だ。
非魔法族、即ちマグルの元を離れて此方側にやってくる彼は、道中にロン・ウィーズリーからホグワーツの持つ
勇気あるグリフィンドール。
賢きレイヴンクロー。
博愛のハッフルパフ。
狡猾たるスリザリン。
そして凄絶なりし薩摩藩。
最初、それを耳にしたハリーは聞き間違いかと思った。なぜ、五寮の最後にいきなりジャパニーズな発音?
なんで勇気、知識、博愛、狡猾と来て最後に『凄絶』の二文字が出たのだ?
その疑問に、魔法族のロンはこう返す。
〝───薩英戦争、知ってるかい?〟
それは生麦事件を単に発する、
その戦いには日本の魔法省も関与しており、イギリスの魔法省も同じであった。
双方の目的は「戦争の穏便な終結」だ。
とはいってもその「穏便」の意味は全く異なるが。
ともかく、双方は己の利のため活動を始めた。
…ただ誤算である。
薩摩藩にいた者達は、マグルではなかった。
派遣され、熱い友情を結ぶ羽目になった日英の魔法省生存者はそう語る。
名誉魔法族、薩摩隼人。彼等は死を恐れない者の群れ。死喰い人ならぬ、死を喰らわせる者。
彼等は日英の魔法使いを敵と定め、切り殺しまくったのだ。
「呪文より早く間合いを詰めて切りに来る。
〝エンキョウ〟って魔法で死を恐れずにかっ飛んでくるし、味方が死んでも物怖じしないで大量にやってくる。
退却する時は敵の本拠地に突っ込むし、寝ても覚めてもこっちの首を狙ってくる。
それが薩摩隼人なんだって」
「??????????」
そして明治維新。薩長は中央を取得した。
さらに魔法処には魔法を使える薩摩隼人が参入。
日本とイギリスとの外交が進むうちに、やがてホグワーツは留学生を受け入れる羽目となる。
その苛烈さゆえに魔法処は、薩摩隼人を留学という体で海外へ放逐。ホグワーツはマジか貴様らとブチギレながら、急遽『留学生用の特別寮こと薩摩藩』を留学生らと共に設立したのである。
…ホグワーツに在籍する彼等の衝撃的な行いは、事欠かない。
スリザリン生に馬鹿にされればタコ殴り。
挑戦的なグリフィンドール生には文字通り「あらゆる手段」を講じた決闘で立ち向かう。
こんなのはまだいい方である。
明かりを灯すルーモスを閃光よろしくバチバチに唸らせ、決闘相手が怯めばやたらと長い杖で頭へ一撃。
エクスペリアームスで杖を封じたと油断すれば、次の瞬間には拳や足、果てには石や短刀が飛んで来る。
ディフィンドを真っ先に取得しては嬉々として首を取れる良い呪文だと大はしゃぎ。
「…凄絶じゃなくて野蛮じゃない?」
「僕もそう思う」
年若い子どもたちでも辟易とする。
ただ、そんなかつての留学生達は闇の帝王───ヴォルデモートが現れた時、学びという恩義を返すためにイギリスへ馳せ参じては彼へ立ち向かった。
噂では、多大な犠牲を惜しみなく払いながらも、かの帝王の左腕を切り落としたとも、ヴォルデモート勢力の半数を削ったとも言われている。
「……それ、本当なの?」
「わかんない、あくまで噂だしね」
「…本当だったら、凄いなぁ…怖いけど」
───学びという恩義のため、闇の帝王へ恐れ知らずに立ち向かう。故にこそ、今では薩摩藩に『凄絶』の二文字が与えられている。
ハリーはまだ見ぬ彼等に畏敬を抱いたが、それはそれとしてシンプルに「そんなやべぇ奴らとは近づきたくねぇな」と生存本能が叫んだ。当たり前である。
「安心しなよ、薩摩藩はあくまで留学生と、そのまま転入した生徒用の寮らしいから。
まぁ、留学前とか転入後に希望すれば四寮の組分けに参加出来るけど…記録的に、薩摩隼人がそうしたことはないみたいだし」
「そうなんだ! 良かったぁ…」
「あー…でも、極たまに薩摩藩に組分けられたホグワーツ生もいたみたい…大丈夫だとは思うけど…」
「えっ」
だがハリーの本能も虚しく、組分け帽子はハリー・ポッターを「薩摩藩」へと振り分けたのだった。
◆
薩摩藩のテーブルにおっかなびっくりで来たハリーが、まず最初に受けた洗礼は肩組みであった。
自分より背丈の大きい黒髪黒目、黄色の肌を持つ彼はハリーと肩を組んでは髪をぐっしゃぐっしゃと撫でまくる。
だがその力が凄まじい。ハリーの視界はぐわんぐわんに揺れまくった。
「ほぎゃあああああああ!?」
「よかにせじゃあ! よかにせじゃあ!!」
「おい馬鹿! ハリーが怯えんだろうがキタミカド!」
「おお、すまんのぅ」
小柄な少女が言うと、キタミカドと呼ばれた男はあっさりとハリーを床に立たせた。
ハリーはヨロヨロとしながらも席に座る。
それを見てから、少女は頭を下げた。
「ごめんな、ハリー。
「ヒサユキ・キタミカド、よろしゅ」
「よ、よろしく…その、君たちは〝薩摩隼人〟なの?」
「そんた俺んこっだ」
キタミカドと呼ばれた揉みくちゃ男が言う。
補足するようにハルカは続けて言った。
「鹿児島…じゃねぇや、近年は薩摩からくる奴はあんまいないんだよ。知ってるとは思うけど、ヴォルデモートのハゲとの戦いで大分死んだからね。
あの狂人ども鍛え直すぞってんで、薩摩出身の魔法族は殆ど薩摩で修行してるよ。留学生になるには、よほど優秀かイカれじゃなきゃ無理なのさ」
あっさりと「例のあの人」を名前で呼ぶ。
しかも丁寧に侮辱まで添えて。
その名前を口にするなと、言われてきたが、彼等にそれは通用しないようだった。
「ぬしゃ、ゔぉるずぇもんの首級ば取ったよかにせじゃ。どげん理由があっちも、そいはかわらん。
じゃっどん、ぬしゃ怯えちょる。ないがあったら、頼ったもんせ」
「…えっと?」
「あんたが闇の帝王を討ち取った良い男なのは確か。だから会えて嬉しいと思うことは絶対です。
でもなんか不安そうですね、なんかあったら頼ってくださいって感じかな。
ごめんね、こいつ訛りすごいんだわ。あたしが通訳すっから、困ったら言ってよ」
ネビル・ロングボトム!と呼ぶ教師の声が響く。その最中で、ハリーはキタミカドに対して驚きをもった。
当初は列車でイメージした通りの「凄いけどアレな人」だったかと思えば、不安を見抜いたようなことを言う。
グリフィンドール!!と組分け帽子の声が響く。
それがぼやけて聞こえるほど、ハリーは驚きと謎の安堵の中にあった。もしかしたら、この人は思っているよりも怖い人じゃないのかもしれない。
「その…僕は日本のこともよくわからないし、なんで此処に割り振られたかもわからないけど…ええっと、改めてよろしく!」
「おうよろしく! まぁそんな気負わないで良いよ? 同じ単なる学生同士なんだし」
「よか! 此処にはぬしゃ以外のほぐわぅつ生もおっ、困っちゅうならそいつにも言えばよか!」
きん! と三つのグラスがぶつかる。
それは歓迎の合図であり、始まりの知らせでもあった。
そしてハリーは、やはりこの寮に割り振られたことを後悔するようになる。
朝っぱらからキタミカドの朝稽古という名の木をめった打にする慣習に「うるせぇ!」と悩まされたり、挑発する他寮とのトラブルなどの仲裁、あわやスネイプという教師をぶん殴る問題にも関与する羽目になるのだから。
…しかし、組分け帽子はこう歌った。
グリフィンドールに行くならば、
勇気のある者が住まう寮。
勇猛果敢な騎士道で、他とは違うグリフィンドール。
ハッフルパフに行くならば、
君は正しく忠実で、忍耐強く誠実で、
苦労を苦労と思わない。
古く賢きレイブンクロー。
君に意欲があるならば、
機知と学びの友人を、ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして、
君はまことの友を得る。
どんな手段を使っても、目的遂げる狡猾さ
凄絶極まる薩摩藩。
最も新しき第五の寮、恩義を忘れぬ戦士達。
それ故君の背中には、多くの人が集うだろう。
かの帽子の通り、ハリー・ポッターは多くの人を背負うに足る、恩義を忘れぬ戦士となるだろう。
以下蛇足
闇の帝王とその部下達…多分最大の被害者。なんか異国からめっちゃ来たし、手下がめっちゃ殺された。
魔法処…マホウトコロ。七歳で入学し、十一歳で入寮する。国がガタガタしてたら薩摩隼人の教えがインストールされてしまった。こうなるから色々誤魔化してたのに…でもなんかホグワーツとは良い関係なったからヨシ。
ヒサユキ・キタミカド…11歳なので一年生。あまりにもアレだったんで魔法処から入寮前に留学という名の追放を食らう。常識を学んでこい。
四寮は「ホグワーツ生がいくべき所」と考えて薩摩寮を希望。そのため組分けの必要なく、ダンブルドアの話が終わった時には薩摩寮のテーブルにいた(事前に先生達には話してある)。
三年次にホグワーツに転入。
ハリーへの態度が気に入らずスネイプをぶん殴ったり、マルフォイをぶん殴ったり、トロールと殺し合ったり、死喰い人の首を取ったりしていた。
卒業後は魔法処の教師となる。終わりだ。
フカミ・ハルカ…11歳なので一年生。留学は自己志願。鹿児島出身。キタミカドと同じく組分けの必要なく、早々にテーブルについた。
三年次にホグワーツに転入。
キタミカドとは旧知の仲ではあるが、常識人寄り。ハリーと一緒にキタミカドや先輩達を鎮圧するが、やっぱり薩摩の血が流れているのでスリザリン生やロックハートをぶん殴ったり、死喰い人の首を取ったりしていた。
卒業後は苗字がキタミカドに変わる。
ハリー・ポッター…我らが主人公。最初は薩摩寮に対し恐怖を抱いていたが、思ったほどの物じゃないと知り、早々に打ち解けていく。
だが猿叫を挙げて行われる朝の稽古やらなんやらに次第にフラストレーションを溜め込み、最終的には彼もまた薩摩隼人となった。知恵を捨てた彼は一夜にして薩摩寮の頂点に立ち、安眠を得たという。
ヴォルデモートの首を二度取った『偉大なるぼっけもん』として語り継がれる。ジニー・ウィーズリーと結婚後、子ども達が薩摩寮に組み分けられないか不安に駆られる、