ハリー・ポッターと薩摩の意思   作:グイシーマンズ

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なんかもう馬鹿!

 

 ───薩摩隼人の朝は早い。

 

 早朝五時、彼らは談話室横の道場へ入る。

 そして猿にも似た叫び声───〝猿叫〟を上げながら、親の仇のように棒杭を特注の杖で打つ。

 その数、五百回。棒を打つ音と叫び声は、談話室のみならず寮全体へ響き渡る。

 

 少し前の世代では全員参加だったが、勉学に打ち込みたいもののことも鑑みて今では自由参加だ。

 薩摩寮生の総数は二十。その内、一年生は三名。

 朝の打ち込み稽古をこなしている一年は一人のみ。

 

きぃいええええああああああああ!!!

 

 他の学年や、同じ一年は慣れているのか、そんな騒音の中でもすやすやと眠っていた。

 ただ、ホグワーツ生でありながら、なぜか薩摩寮に組分けられたハリー・ポッターはそうではない。

 彼は初めて聞く猿叫と木を何度も打つけたたましい音に飛び起きる羽目となる。

 

「うわああああ!? なんっ、…なにっ!?!!」

 

 東洋の〝タタミ〟と〝フトン〟を合わせたベッドから転げ落ちる少年。彼を迎える床もまたタタミであった。

 そんな彼を見て、高い声のルームメイトが声を放つ。

 

「おはようハリー。でもってこれは朝の打ち込み稽古、キタミカドと先輩達がやってるみたいだ。

 起こしてごめんね、代わりに謝っておくよ」

 

 未だ響く怪音を耳に、新聞とコーヒーを楽しむそのルームメイトはハリーと同じくメガネを身につけていた。

 彼の名はハルミチ・ナガオ。例に漏れず日本出身の転入生であり、極めて文明的な三年生である。

 

「う、打ち込み稽古って…?」

「薩摩に伝わる剣術の特訓さ。消音なりして欲しいよね、ボクはそうしてるのに」

「君もやってるのこれ!?」

「二時に起きちゃって眠れなかったからつい」

 

 ケロリとした顔で言うハルミチに、ハリーは思わず目を剥いた。どうやら彼は過去に薩摩ナイズドされたらしい。

 しかし、根っこまではそうじゃないのか、顔を顰めているハリーを見てこう言った。

 

「…うるさい?」

「え、あ、まぁうん…」

「よしきた、まっかせとけ。交渉してやるよ」

 

 後輩にいい顔をしようとか、颯爽と出ていく少年。ハリーはそれを不安そうに見送る。

 そして体感で三十秒ほど経過した時、談話室の方向から「黙れ(シレンシオ)ぉおおおおお!!!!!」と大声が聞こえた。

 その後すぐ、先輩は帰ってくる。うるさかった猿叫と打ち込みの音はすっかり止んでいた。

 

「よし!!」

「思いっきり魔法使わなかった今!?」

「気のせいじゃないかな」

 

 ハリーの指摘にしれっと返す先輩。

 さぁ静かになったし、二度寝でもどうかな?そう進められたハリーはすごすごとベッドに入り直す。

 しかし次の瞬間、ドアが開いてキタミカドが鬼の形相でやってきた。

 

「なんち!?」

「くそっ五年のバカ共に治療されたか」

「ないごて止めっと!?」

 

 露骨に舌打ちをする三年。

 彼はキタミカドに対し毅然と言う。

 

「苦情が出てるの。君たち伝統を大事にするのは良いけど少しは自重しなよ。僕らは慣れてるけど、そうじゃない人もいるんだ。今度やる時は音を消すこと、良いね?」

「ハリー! 早よ覚めやいもしたな!!」

「ほぎゃああああああ!?」

「話聞けやコラ」

 

 しかし無視である。未熟な薩摩隼人である証左だ。彼はハリーが起きてると知るや否や、ほぼ強制的に談話室横の道場に引っ張った。

 道中、五年生たちがハリーを見た途端クソデカボイスで朝の挨拶をするもんだから、ハリーは「礼儀でぶん殴られた」と思った。

 

 そして道場。冷えた空気が圧を放つ。あれよこれよ、と道着に着替えさせられたハリーはキタミカドから「薩摩隼人の杖」を渡された。

 ハリーは彼から杖について聞く。

 素材は黒檀。芯は東洋の狒々色金と鬼の角…うん? 今おかしい素材あったな? というかこの杖、やたらと長くないだろうか?

 

 それは杖というにはあまりにも長く、あまりにも重く、つーかもうぶっちゃけ木刀(ウッド・ソード)であった。

 待たされたハリーの腕は瞬く間に悲鳴を上げる。

 

「おっも!? 何これ!?」

「杖じゃが」

「どう見ても杖じゃないよこれ!! 頑張って見ても棒だよ棒!!」

「よか、よう見れ」

 

 ハリーの抗議を受けたキタミカドは、杖を構えた。両手でしっかりと持ち手を握り、その手を顔の横へ。

 そして一呼吸。すぅ、と静かな息が道場の中へ染み入り───

 

裂けよ(ディフィンド)ぉおおおおおおああああ!!

 

 バカみてえにでかい雄叫びと同時、その辺にあった杭に一撃が放たれた。唱えたのは対象を切り裂く呪文。棒はしっかりと杖の役割を果たしたのか、木刀で打たれたはずの杭は綺麗に切断されている。

 キタミカドはどんなもんだとドヤ顔をハリーに向けるが、ハリーは頭を抱えた。

 

「うそでしょ…」

「気にせんでよか、最初は打ち込みのみが多か」

「いや、そうじゃなくて…」

「手始めん、三十回じゃな」

「話聞いてよ!?」

「考えてもそん不安ば消えん、じゃいば体ば動かせば晴れっど。おいも緊張ばする、不安ば尽きん」

「───っ…!」

 

 まただ。また見透かしたような発言。確かに緊張も不安もある。というか不安の原因の八割はここへの配属だ。

 あと微かにフラストレーションも溜まっている。

 …ともかくとして、ハリーの前にいる男は、少なくとも気遣いのつもりでこれを提案したらしい。

 

「……軽めの木刀、ないかな」

「…!」

 

 なので、不承不承にうなづいた。途端に顔を明るくしたキタミカドは、嬉々として軽い木刀を渡す。

 それでも重い。だけど後ろ向きな気持ちはない。というか怒りが込み上げて来た。

 朝からうるせぇわ気遣いがなーんかズレてるわでもありがたいと思う自分もいるわで、自分がわけわからないのだ。その苛立ちなのだ。

 

「腹から声ば張り上げぇい!」

「……───…っ」

 

 大きく息を吸い、大声と共に杭を打つ。

 なぜだか、晴れやかな気分になる。

 一撃で腕が痛む、けど気づけば二撃目を放っている。

 心の中にあった澱みのようなものが晴れていく。

 三撃目でふらつく、四撃目には肩が痛む。

 しかし、不安や緊張も解けていく。

 

 ───なんでこんなことをしてるんだろう、そう思いつつも、ハリーはいつの間にか三十回の打ち込みを終えていた。

 それが朝のことである。このあと授業があるとかそんなことを考える暇もなくやったもんだから、この先で彼は地獄を見る羽目になるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 セブルス・スネイプ。彼はホグワーツの魔法薬学の教授である。彼が今日教えを振るうのは、三つの寮生。

 スリザリン、グリフィンドール、薩摩藩。

 薩摩藩の生徒数は毎年最少であるため、三つの寮を取り扱っても問題はないのである。

 

 ハリー・ポッター。

 ハルカ・フカミ。

 ヒサユキ・キタミカド。

 彼ら三人の中で、ハリーだけが疲労困憊の有様だった。先んじて彼と面識を持つロン・ウィーズリーは同情といたわりの言葉を彼に贈る。

 

「その、大丈夫?」

「…ありがとう…話が通じるっていい事だね…」

「ハリー、今からでも先生達に抗議しないか?」

 

 〝生き残った子〟に対する仕打ちとは思えねえ。そう考えるロンだが、教師達(特にダンブルドア)は心の底から「申し訳ない」と思っているのでその気持ちは汲んで欲しい。だが組分け帽子、テメーは駄目だ。

 

 しかし、とにかくセブルスからの点呼が始まった。その最中、ハリーの名前が回ってくる。

 彼は一度、少し嫌味っぽい声色で話す。

 

「ハリー・ポッター、我らが新しい───…顔色がすぐれないようだが…」

「…へぇ…はぃ…」

 

 だがそれもすぐさま霧散する。

 何故なら屍蝋のような顔色をしたハリーがそこにいたからだ。今にも死にそうな顔というかもう今際の際だった。

 ニヤついた顔でハリーの方を見ようとしたスリザリン生、ドラコ・マルフォイもそれを目の当たりにした途端にフリーズする。

 

「あー…よほど寮生活が堪えてると見える。

 ……まぁ、わからなくもない…が…」

 

 セブルスは顎元を抑えながら言う。

 歯切れの悪い言葉だ。皮肉も上手く決まってない。

 

「…薩摩藩寮の人とぉ…知り合いだったんですかぁ…?」

 

 死霊みたいな声だった。

 眠気と疲労とフラストレーションで煮込まれたハリーの体は割と限界に来ている。

 そして彼の質問がスネイプの持つ()()()()()()()を踏んだのか、彼はため息を吐いて語り出す。

 

「…薩摩藩の人々には世話になったとも。野蛮極まる者達だったが、紛れもなく義人だった。潔癖のきらいがあったかもしれんがね。

 吾輩の額も、一度はかち割られたものだ。極東は何事にも全力らしい…キタミカド、フカミなぜ得意げな顔をする?」

 

 ───瞬間、スネイプの脳内に溢れ出した、

    過去に体験した数々の記憶。

 

 〝ジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター!!

  こん、ばかすったんが!!〟

 ───ああ、実に胸が空く思いだ。

 

 〝スネイプ!! ないしちょっと!?

  こん、ばかすったん!!〟

 ───待て?これ殺す気で殴ってないか?

 

 〝よそでやれこん阿呆ゥ!!〟

 ───骨が折れたんだが? ジェームズも意識が飛んでるんだが? ノータイムで顎とは恐れ入ったぞ? というか首とりに来なかったか?

 

 〝友達(どし)間違ったことを(まっげ)した、そいなら友達(どし)が殴る〟

 ───…………ふむ?

 

 〝じゃっどん貴様(きさん)らのそん面ァ揃って殴る〟

 ───えっ、まっ、あああああああ!?

 

 

「………実に、顎の痛くなる思い出だとも」

(顎?)

(頭じゃないの?)

(首じゃなか?)

(顎なのか…)

「さて、余計な時間を取った。話を戻そう。魔法薬学では魔法薬調剤の微妙な科学と厳密な芸術を───」

 

 この後、スネイプはハリーに理不尽な減点を喰らわせるが、そのせいでキタミカドからぶん殴られるのはまた別の話。

 

 





スネイプ…悪戯四人組がある薩摩寮生に殴られてるのを見て笑っていた。しかし闇の魔術に傾倒していたことがバレてぶん殴られた。
 「このままじゃ死ぬ」と思い最終的にはジェームズと手を組み、その薩摩寮生に立ち向かったという。
 結果、薩摩寮生から一方的極まる友情を手に入れた。

ジェームズ…悪戯してたら薩摩寮生に殴られるのが日常茶飯事だった。学生時代はレベリオがトラウマになったとか。「このままじゃ殺される」と思い最終的にはスネイプと手を組み、その薩摩寮生に立ち向かったという。
 結果、薩摩寮生とは親友になる。

親世代の薩摩寮生…レベリオで人をサーチして殺すぼっけもん。家系図に古代魔術を使える外国人がいたとか。
 留学後は帰国。第一次魔法戦争に参戦した者の一人。死喰い人の軍勢を前に飛び込み、生還と鏖殺を繰り返した。
 ヴォルデモートの消息不明後、帝王の右腕を討ち取ったと噂されている。しかし本人がそれを語りたがらず、流布も嫌悪したため詳細は不明
 悪戯4人組、スネイプとトラブルが絶えなかった留学生。ジェームズとスネイプを友人と思っている。



 ───アズカバン付近で出待ち中。
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