折原臨也と実力至上主義の教室   作:あいうえお

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昨日デュラララのアニメ見返したんですけど、くっそおもろくて一気に12話くらい見ちゃった。

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第七話:裏切りの勉強会Ⅰ

 

「──全体的にさぁ、アレは考え得る中で最もつまらない結末だったと思うんだよね」

 

 臨也は昨晩の出来事を思い出しながら語る。

 

 少年の想定では、人死にが出るシナリオだって存在していた。

 神室の暴走は多少楽しめたが、坂柳の対応が完璧すぎた。それはある意味、最も危惧していた想定外であり想像外だったのだ。

 もう少し人間の深淵を観測する予定だったというのに、結果はただ少女らが抱き合ってハッピーエンド。

 はっきり言ってしまえば、全てが拍子抜けである。

 

「ま、俺にとってはそんな結末だって愛の対象ではあるわけだから、愛に優劣をつけるべきではないという意味では、不満を垂れる筋合いはないとも言える。

 ──あの人間(喜劇)を通して人間(愛憎)を観測し、人間(誰か)人間(悦び)だとか人間(悲嘆)だとか見られたら、俺はそれだけで良かったんだ。つまるところは及第点なんて存在せず、何点であろうと彼女たちの満点ではあったわけ。ただ、時期尚早だった感も否めないけどね」

「うるせぇクソが」

 

 滔々と言葉を並べる臨也を龍園が蹴りつけた。

 彼の額には大きな痣が出来ており、痛々しげに氷水で冷やしている。その痣を作った元凶──昨晩遭遇した半裸の変態のことを思い浮かべるたびに、龍園は臨也で怒りを発散しようとしていた。

 

「Aクラスの女どもでテメェが遊んでた件についてはどうでもいい。俺がムカついてんのはあの変態野郎のことだ。テメェがアイツを俺たちに押し付けたせいで、とんでもねぇ痛手を喰らっちまった」

「怒るなよ。そこについては、俺にとっても喜ばしい意味での予想外だったんだよ」

 

 龍園がここまで憤っているのには理由がある。

 すべての発端は、臨也がセッティングした人間観察の舞台に、金髪半裸の男──高円寺六助が乱入してきたことだった。

 超然とした高円寺に興味を抱いた臨也は、隠しナイフを用いて高円寺の人間性を試すことにした。窮地の時にこそ、人間の神髄は現れる。しかし、高円寺がそれを意にも介さず交戦に応じてしまったため、二人は数十分にも及ぶ殺し合いの喧嘩を繰り広げることに。

 

「……いやぁ、彼は本当に強かったなぁ。とても強い“人間”だった」

 

 臨也は隠しナイフを取り出し、切っ先に染みついた血痕を見やると、楽しげに頬を歪める。

 彼と高円寺の喧嘩はやがて路上にまで舞台が広がり、そこにたまたまカラオケからの帰路に着いていた龍園たち一向が通りすがった。

 

「マジでビビったぜ。いきなりテメェと半裸の変態が上から現れてよ」

「俺は五点着地で無傷だったけど、高円寺くんは完全にヒーロー着地だったよねアレ。どんな鍛え方したらあんな足腰が出来るんだろうね」

「……ったく」

 

 ──そして、決着の兆しが見えないと判断した臨也は、完全闘争モードの変態を龍園たちに押し付け、スタコラサッサと逃げ帰ったのだった。

 ちなみに二人の喧嘩の最中に坂柳と神室は逃走していたらしく、臨也が屋上に迎えにいった際にはもう姿を消していた。

 

「見ろ! テメェが高円寺を俺たちにぶつけたせいで、金田にトラウマが出来ちまった!!」

「ひぃぃぃ! その名前を言わらいでくらひゃい!! おちっこもれりゅううううう!!」

「完全に頭が緩んじまってるぜ……クソが」

「ぅぅ……!」

「どんだけ恐ろしかったのさ」

 

 半狂乱で咽び泣く眼鏡のCクラス男子──金田に近付くと、彼はその振るえる背中をそっと叩いた。

 気持ちを宥めるためなどではなく、他人の怯える様を近くで観察したいというだけの最低の動機ではあったが、おかげで金田の気持ちも静まったようだ。

 

「ここって龍園くんの部屋だっけ?」

「あぁ? だったらどうした」

「いや、別に……」

 

 臨也は首だけで部屋を見回して、龍園に向き直る。

 なんてことはない、平凡な内装だ。最低限の家具に、最低限の食料。適当に散らかった床。どれもこれもが平凡に尽きる。

 龍園の人間としての性質は、生活の中ではなく混沌の中でこそ現れるものである。

 

「……テメェにとっては俺すらも観察対象ってわけか」  

「まぁね」

 

 高円寺との相乗効果も面白おかしく観察することが出来た。

 昨晩のことは、予期せぬイベントも含めれば、かなり上々に終わったと言えるだろう。

 

「一応聞いておくが、もう今月は変なことしねぇだろうな?」

「元々変なことをしているなんて自覚はないけれど、テストが終わるまでは大人しくしようと考えているよ。テストの邪魔をするのは忍びないし」

「……分かった。なら何もせず見てろ、情報屋」

「……()()()、だって?」

 

 臨也がニマリと微笑む。

 龍園が応えた。

 

「──“あのあと”すぐに、橋本から連絡があった。

  葛城主催のAD合同勉強会に、“偽の過去問”を流して欲しいとな」

 

 

 そして臨也は考える。

 偽の過去問による影響。

 それにともなう危険性。

 坂柳が何を考えているのか。

 

 臨也が最も嫌がるのは、自分の知らない所で誰かが退学してしまう展開だ。

 

 少し考えると──それはないと結論に到着する。

 

 ──いいや、それどころか……。

 

 

「……面白いね、それ」

 

 

 

 × × × × ×

 

 

 臨也と高円寺が衝突した夜から数日が経ち──中間テスト3週間前のとある放課後。

 

 

 俺──葛城康平は頭を悩ませていた。

 現在、ADでの勉強会が開かれていた。人数の多さから、会場は図書館ではなく、特別に閉館された食堂を使用させてもらっている。

 先生方の計らいには、もはや感謝の言葉もない。

 

 俺は自分に寄せられている期待を感じていた。

 

 先生方からも、仲間たちからも、Dクラスの生徒たちからも。

 だが、AクラスとDクラスでは根本的に違うのだ。

 

 俺は彼らを、志を共にする、同じ高校生だと思っていた。

 しかし、まさかこんなにも早く失望するハメになるとは……。

 

 

 

「オイそこ! うるさいっつってんだろうが!」

 

「あぁ!? うるせぇのはそっちだろうが!?」

 

「ねぇ……一々そんな問題聞いてこないでよ」

 

「わ、分からないんだから、仕方ないじゃん……」

 

「少しは自分たちで考えたらどうだ、不良品のDクラス?」

 

「誰だ飲食してる奴! 臭いんだよ!!」

 

 

 

 ──いいや、違うというよりもむしろ、どっちもどっちといった感じか。

 

 Dクラスのリーダーも何とか皆を落ち着けようと必死になっているが、個々の我が強すぎるせいであまり良い抑制になっているようには見えない。

 正直に言おう。俺はしくじったとすら感じている。

 こんな連中と、一時でも協力しようと考えた俺が、いかに愚かだったか。

 

「ゴメンね葛城くん。折角、一緒に勉強会を開いてくれたって言うのに、こんな有様で……」

「……はぁ。何を言っている。まだ勉強会は始まったばかりではないか」

 

 俺は立ち上がると、全員の注目を集めるように食堂の中央に移動した。

 二回手を叩き、大きく咳払いする。

 微かに喧噪が収まったその瞬間、言葉を挟んだ。

 

「──皆、聞いてくれ。俺たちは無益な諍いのためにこの場を設けたのではない。共に協力し、中間テストを乗り切るために集まったんだ」

 

 ある者は頷きながら、ある者は反発するように、ある者は興味なさげに俺に耳を傾ける。

 今はこれでもいい。

 まずは全員の心を一つにする所から始めなければ。

 

「少し、俺の昔話も交えて、感じていることを話そう」

 

 全員の意識を繋げるように、俺は過去の記憶を掘り起こす。

 

「この俺──葛城康平は、中学の頃、学年で一番の成績を目指して躍起になっていた時期があった。授業や部活動のスキマ時間、家庭での娯楽時間、あらゆる時間を勉強に費やし、やがては成績上位陣の常連となった」

「……自慢かよ」

「驕っているように聞こえたならすまない。だが聞いてほしい。俺はある時、俺以外の成績が良い者たちに通じる“共通点”を発見したのだ。それは、ほぼ全員が『塾に通っていた』ということ」

 

 人によっては、当然のことのように感じるだろう。

 塾に通っていれば成績がいいのは当たり前だと。

 だが、俺が着目したのは逆の視点だ。

 

 ──塾に通っている者が成績が良かったのではなく、成績が良い者のほとんどが塾に通っていたのだ。

 

 つまり、自力の自主学習で成績をキープしていた者がほとんどいなかったのである。

 

「塾とは、学校外での勉強時間と環境を、金銭により強制的に確保するためのものだ。そして、この勉強会にも同じ価値がある。勉強をするための時間に、別の行為を当ててしまうのは勿体がない。

 はっきり言おう。ここで真面目に学習できない者は、自分の部屋に帰っても学習することはない! だからこそ、ここでの時間を有効に活用するべきだ!!」

 

 はっと目が覚めたように、数人の俺の見る目が変わる。

 多くの者が、『あとで勉強すればいい』『帰ってから勉強すればいい』と学校での学習時間を放棄してしまう。だが、それは大きな間違いだ。

 誘惑の多い自分の部屋が、最も勉強に適していない。

 

「発言、いいかしら?」

 

 静まり返った食堂に、黒髪の少女の声が響く。

 Aクラスの生徒ではないな。

 

「勿論だ。お前は確か……」

「堀北鈴音よ。別に覚える必要はないわ。葛城くん、あなたの言葉はご尤もよ。勉強会は『勉強をしなければならない』という空気感が大事ということね」

「その通りだ。分かってくれたか」

 

 堀北鈴音……本当にDクラスか。

 声の落ち着きようといい、俺の発言の意図を飲み込む理解力といい、とても優秀な生徒のように見える。

 

「そこで、私から提案があるわ。全員の携帯と飲食品を一時的に没収するというのはどうかしら? 勉強以外にすることがない状況を作り出せば、全員、自ずとやる気にもなると思うの」

「……ふむ。良いアイデアだ」

 

 携帯があると、ついつい弄りたくなるものだ。勉強会の弊害に他ならない。飲食品も咀嚼の音や匂いなどで他人の集中力を損なってしまう。持ち込みを禁止にするべきだろう。

 

「異論のある者はいるか?」

 

 手は上がらない。

 

「よし、ならば全員──」

「待ってよ葛城くん。それはちょっと乱暴すぎないかな?」

 

 Dクラスのリーダーを張っている平田が声を上げた。

 誰も異論を唱えていないというのに、この男だけが反論するというのか。

 民主的なリーダーとは言えないな……。

 

「どうやら、お前以外に反対者はいないようだぞ?」

「それはこの場の雰囲気が、手を挙げづらくしているだけだよ。君は決を出すのが早すぎる。まるで、初めから自分の意見が正しいと確信しているみたいだ」

「……なんだと?」

「ぶ、侮辱したわけじゃないよ。でも、もっと慎重にみんなの意見も聞いてみようよ」

「携帯と飲食品を取り上げるだけだ。慎重になる必要もないだろう」

 

 この軟弱な考え方が、集団を衰退させていく。

 確かに全体の意見を引き出すことは重要だ。しかし、それはある程度のリーダーシップが欠落するリスクを孕んでいる。

 個々人の我が強くなりすぎた集団は、絶対に瓦解する。

 この平田洋介は総意を引き出すことを得意としているのだろう。だからこそ、確固たる意志で自分の意見を言えない。司会としては優秀だが、リーダーとしては落第だ。

 ……やはり、所詮はDクラスということだな。

 

「お前、葛城さんの言うことが間違ってるっていうのか!?」

「そうは言っていないよ。少し支配的な言い方に感じてしまっただけで……」 

「ちょっとアンタ! 平田くんに向かって“お前”って何よ!!」

「お前たちなんて“お前”で十分だろうが!!」

 

「……もういい。静かにしろ」

 

 俺を庇うようにDクラスの女子に突っかかる弥彦を引っ張り、鎮めさせる。

 

「分かった。確かに没収はやりすぎかもしれないな。では間を取って、希望者の携帯だけをこちらで預かる、というのはどうだ? 自分で管理しようとすると、誘惑に負けて甘えが出てしまうものだからな」

「……うん。それなら反対はしないよ」

「では決まりだ」

 

 そして、勉強会が再開するなり、俺の元には30台ほどの携帯が集まった。

 Aクラスは全員渡してくれたが、Dクラスの参加者で携帯の一時預かりに応じた者は半分程度である。自分で所持している者は案の定、すぐに携帯でゲームをしたり動画を見たりしだしていた。

 

「……」

 

 つくづく、失敗だな。

 しかし一度手を取った以上、逃げることは許されない。

 俺はこのメンバーで中間テストを乗り切ることを、心に決めるのだった。

 

 

 

 × × × × ×

 

 

 

「さっきの時間を利用して、勉強会参加者の名簿を作成してみたわ」

「おぉ、助かるぞ。そういえば作っていなかったな」

 

 勉強会が終了しても、数人の生徒だけは食堂に残り続けていた。勉強会の在り様や運営の仕方について議論する主催者たちや、その主催者たちに意見のある者たちだ。

 堀北からルーズリーフで名簿を作った名簿を受け取ると、葛城はその内容を吟味していく。

 

「……池寛治……須藤健……竹本茂……綾小路清隆……む、数名、赤文字で線が引かれているな。これは何だ?」

「私語や居眠りが多く、積極的に学習する姿勢の見られなかった愚か者の印よ」

「オイ。オレは真面目にしてたろ」

「あら綾小路くん、いたのね」

「お前が残れって言ったんだろ……」

「いやはや、本当に助かる。こういった名簿の必要性をちょうど感じていた所だった」

 

 葛城は再度堀北への評価を高めた。

 彼は優秀なリーダーリップを発揮しているあまり、忌憚なく対等に意見を身内が少ない。葛城を信頼するAクラスメンバーは全員が彼のイエスマンのようなものだ。

 堀北のように、独立して物事を思考する人間は、丁度葛城が必要としていた人材である。

 

「別にあなたたちのためではないわ。そちらと違って、Dクラスはほとんど強制参加のようなものだもの。あまりに葛城くんの進行が雑だったものだから、進言したくなっただけよ」

「手厳しいな」

 

 この合同勉強会に際して、Aクラスには大きなメリットがない。勉強する習慣が身についている成績優秀者が多いためだ。そのため、全く平等な状況での勉強会を開催するには、Aクラス内での反発が予想された。

 それを避けるためには、Aクラス側に有利な条件を付与し、全員の納得を得る必要がある。

 そこで持ち出されたのが、『Aクラスは希望者のみが参加可能』『Dクラスは原則全員参加』という二つの条件だった。これにより、あくまでAクラスは“参加してやっている”という体裁が保たれた。

 

「──だが、Dクラスの高円寺六助という生徒が不参加だったようだが?」

「それについては目を瞑って欲しいかな。高円寺くんって、どう説得しても動いてくれない人なの。参加したらしたで、絶対に邪魔にしかならないと思うし、むしろ不参加のほうが都合が良いと思うよっ!」

「意外に辛辣だな……櫛田……」

「……そういうことならばやむを得んな」

 

 Dクラスの参加者は39名。Aクラスの参加者は17名。合計で56人である。

 

「ちょうど偶数人だし、席順とかを考えてみないかい?」

「ああ、丁度俺もAクラスの人間を散らしたいを思っていた所だ」

 

 Aクラスは人数が少ないため、自由席になるとどうしても仲の良い者同士で固まってしまう。私語などが生まれる状況的要因だ。葛城は先程の時間で、それをAクラス側の問題点として発見していた。

 彼は勉強会の進行係でありつつも、やはり根はAクラスのリーダーなのだ。どうすれば自分のクラスの仲間が、より熱心に、より効果的に勉強を行えるかを優先的に考えてしまう。

 

「不真面目な人と真面目な人を隣り合わせるとか、男女を隣り合わせるとか、全員にとって、いい意味で居心地の悪い席順にしてみたいね。そうすれば、勉強以外への逃げ道も減りそう」

「そうだね。無断で決めると反発する人も出そうだけど、こればっかりは第三者が決めるしかないし」

「席順で不満を言う人間なんて、最初から勉強する気のないバカに決まっているわ。考慮の必要性は皆無よ」

 

 勉強会に積極的な小数人だけでの話し合いだからか、要点を突く鋭い意見が飛び交う。

 葛城もこの状況を有意義に感じつつ、随所随所で相槌を打っていた。

 

 その時──ガラガラッ、と、食堂の扉が荒々しく開け放たれる。

 

「よぉ、お前ら、調子はどうだ?」

 

 その男の顔は葛城にとって、悪い意味でよく知ったものだった。

 こちらを馬鹿にするかのように、ポケットに両手を隠して顎を突き上げる傲岸不遜な態度。決して友好的とは思わせない男の表情を見るたびに、葛城は不快感を感じずにはいられない。

 

「……何の用だ──龍園」

「ククク、そう邪険にすんなって」

 

 龍園は五人のクラスメイトを引き連れて、づけづけと食堂に入ってくる。

 

「現在は食堂の営業時間外だ。立ち入りは許可されない。今すぐに出ていけ」

「お前らは入ってんじゃねぇかよ」

「我々は先生方からの許可を得ている」

「自分たちは特別ってか? 俺たちも仲間に入れてくれよ」

「仲間に、だと?」

「おう」

「……」

 

 ──この男、何を考えている……?

 

 龍園翔の邪悪な笑みが視界に映るたびに、葛城は勘繰らずにはいられない。

 

「ええっと、どちら様かな?」

「コイツはCクラスを纏めている龍園翔という男だ。あまり良い噂は聞かない」

「噂は噂だろ。偏見で他人を嫌うより、新しい仲間が増えることを喜んだらどうだ」

「……お前たちも、勉強会に参加したいということか?」

「別の意味に聞こえるのか?」

 

 質問で質問で返すあたり、龍園という男の性質がよく表れている。

 

「……理由を聞こう」

「お前らとの友情に目覚めた──なんて冗談はさておき、真面目に言うと、背水の陣を回避するためだ。お前らAとDが組むのは結構だが、うちはBクラスと仲が悪くてな。仮にお前らがBクラスとも協力する関係になると、Cクラスは孤立無援だ。そんな状況になるくらいなら、お前らとは早めに仲良くしとこうって考えたわけさ」

「なるほどな」

 

 噂に聞く龍園翔らしい考えだった。

 もしここで、純粋な学力向上のためとでも言われていたら、誰も彼の言葉を信じられなかっただろう。だが、正味の所を語られたおかげで妙に納得できた。

 Cクラスはメリットがあってこの勉強会に近付いたわけだ。

 

 ──もしもここで、Cクラスが勉強会を荒すようなことでもあれば、AとDを同時に敵に回すことになる。

 ──そうなれば、本当にCクラスは孤立無援だ。絶対にどのクラスも龍園たちと協調することはなくなるだろう。

 

 だからこそ、葛城は確信する──彼らは裏切らないと。

 

「だが……駄目だな」

「何故だ」

「人数を増やすメリットがない。それはAクラスにも、Dクラスにも言えることだ。我々はお前と違い、裏表のない学力向上のために努めている」

「そうだね。僕も今の話を聞いて、龍園くん……君を受け入れることが、少し怖いと感じたよ」

「ハ、排他主義者どもが。だったらメリットを提示してやろう」

「メリット……だって?」

「あぁ。この中間テストには必勝法がある」

 

 そうして、龍園は手の内にある武器を晒した。

 先月行われた小テストの出題内容から、『過去問が使える』という意味合いが読み取れること。

 そして、それは今回の中間テストにも引き継がれており、Cクラスはその過去問を既に入手していることを。

 

 その過去問を共有することが、彼らが提供できるAD側へのメリットだった。

 

 葛城が、平田が、櫛田が顔を見合わせどうするかを協議する。

 三者とも前向きな意見を出していた。

 その傍らで、ふと綾小路清隆が視界の違和感に気が付く。

 

「…………ん?」

「どうしたのかしら、綾小路くん」 

「いや、今──」

 

 少年の視線は、龍園たちが通って来た食堂の入り口に向いている。

 

「誰かあそこでこっちを見てたような気がしてな」

「………………こ、怖い話で脅かそうとしたって、そうはいかないわ」

「安心しな。俺たちの後を付いてきていた奴はいねぇよ」

「……あぁ。みたいだな」

 

 

 

 

 

 

「勘の良いやつがいるね」

 

 ──食堂を出た先の廊下。

 すんでの所で綾小路の視線を躱した折原臨也は、知人たちの知らない人間としての部分の発見を喜んでいた。

 自己を確立している堀北鈴音に、相変わらず八方美人の櫛田桔梗。

 そして、周囲の集合値を演じる平田洋介。

 それから……、

 

「──綾小路清隆、か」

 

 ああいった地味な人間ほど、底知れない人間性を持っていたりするものだ。

 臨也は中学時代に出来た“たった一人の友人”を思い出して、ふっとはにかんだ。

 

 

今後の臨也の観察対象は?(参考までに)

  • 戸塚弥彦
  • 山内春樹
  • 山田アルベルト
  • 石崎大地
  • 家電量販店の店員
  • 神室真澄
  • 坂柳有栖
  • 葛城康平
  • 橋本正義
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