【未完】超古代生物(地球産)で異世界蹂躙する系ダンジョンマスター   作:忍法ウミウシの舞

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非掲示板回です。
ヒロノムスはポンコツ系ヒロイン。


外に出てみよう!

「【ダンジョン開放】……!」

 

 ダンジョンコアに手をかざしながら、指定の機能を開放する。その瞬間、ずずずと大きな質量が()()()音が正面から発せられた。さらに同時に、強すぎる光が部屋の内部を満たす。今まで薄暗い部屋の仄かなコアの光を頼りにしていた俺にとってはまぶしすぎる光だった。

 暖かな日の光。心地よい風の動き。太陽が2つあるとか、空が紫なんてことはない。そこは異世界とは思えないほど、ある種日常的な風景であった。

 

 異質なのはむしろ、俺たちの方であった。慣れない女体とどこぞのものとも知れない制服。岩山をくりぬいてできた、不自然に整っている長方形の洞窟。そして極めつけは……彼ら、地球の古代種たちだろう。あまりにも遠い時代で完成した造形には、ゲームや漫画に出てくるようなモンスターとはまた違った方向性の異様さが感じられた。というか、図鑑やネットでしか復元図を見たことない俺も実物を目の前にして少しビビっている。なんかやたらデカくなっているし。

 だが、戦闘になればこの図体の大きさは頼りになると言わざるを得ない。少し運動させてみたが、ことさらに鈍いわけでもなさそうだった。これなら少なくとも日本の成人男性程度なら楽々ボコせることだろう。

 留守番させるのはヨルギア2体、メタルデテス2体、カルニオディスクス1体、アノマロカリス1体。

 

「君たちはお留守番ね」

 

 返事はなかった(発声器官がないからだろう)が、それでもダンジョンコアを守るという彼らの意気込みは伝わってきた。彼らの動き自体は感情のない機械的な生物のそれだが、なぜか感情のようなものは伝わってくるのはダンジョンマスターの基礎性能なのだろうか。

 連れて行くのはヨルギア2体、トリブラキディウム1体、ハルキゲニア1体、ウィワクシア1体。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 さあ、踏み出そう。異世界への一歩を。

 

 

 セィジアは裸足で森を駆けていた。

 裸足なのは何も履かせてもらえなかったから。森にいるのは命からがら逃げだしてきたから。そして、駆けているのは……その命が狙われているから。

 どうしてこうなってしまったのか。何が悪かったのか。なんども、なんども考えてもわからなかった。

 

 始まりは親の言いつけを破り、村を出て少し野を散歩したことだった。よほど遠くに行くわけじゃないし、このあたりは魔角ウサギや斑オオカミしか出てこない。それぐらいなら覚えたての風魔法で撃退できるし、幼馴染のディンスやエバも野の散歩程度いくらでもやっている。ちょっと近くの、お花がたくさん咲いている場所で花冠を作ろうと、そしてそれをエバに贈ろうとしただけなのだ。そしてその花畑についた瞬間、セィジアの意識は途切れた。

 気が付けば、後ろ手と足に錠をかけられたまま見知らぬ馬車で運ばれていた。自慢の刺繍が入ったお気に入りの服ではなく無地の貫頭衣に変えられていた。靴に至っては取り上げられたままであり、自らの裸足が晒されていた。

 見渡せば同じような被害に遭ったのであろう、虚ろな目をした同年代の少年少女がいた。ディンスやエバ、見知った子供がいないのは不幸中の幸いであったが、しかし自分のたどる末路を想像し身震いした。

 

 そして、一番驚くべきは馬車内で睨みを利かせる男性の存在だった。いや、脅し役なのはわかる。鞭を持っているし、落ち着いてみれば隣の少年に痛々しい痕が残っているのが見える。問題はそこではなく……彼の腕が、4本もあったことだ。

 二手族(デュアル)ならともかく、()()四手族(クアッド)による奴隷狩りに遭遇するなんて思ってもみなかった。二手族(デュアル)の脅威に対抗するために、私たち四手族(クアッド)は団結して協力し合わなければならないと母に教わってきたセィジアにとって、同胞が自らを害しようとしている事実は耐えられないものだった。

 

「ど、どうして……同じ四手族(クアッド)が……」

「黙れ」

 

 なんとか搾りだした声も一蹴される。

 

「お前は……さっきまで寝てた奴か。いいか、騒いだり暴れたりしたらこの鞭で何度もお前を打つ。目的地に着くまで黙って待っていろ」

 

 質問は一切受け付けそうになかった。いや、実際これから先は少しでも言葉を発すればこの男の仕置きが待っているのだろう。そこに両親や村の親戚のような温かさや気遣いと言ったものはなかった。

 だからセィジアは、機を待った。日に一度しかない食事に明らかに男の食べ残した野菜クズが配られようと、馬車の振動に耐え兼ね幼い子が泣きだし鞭で何度も打たれようと、彼女はじっと耐えて待った。

 

 待って待って待って待って4日目の夜。森林での睡眠休憩中。ついに"機"は訪れた。子供たちは学び、あの幼い子に至っては涙も枯らし切って眠っている。あの監視役の男もさすがにまとまった睡眠が欲しいのだろう。今日はしっかりと寝息を立てて眠っていた。

 それでも細心の注意を払い、聞こえぬように小声で……彼女は呪文を詠唱した。

 

「風の精霊よ 現れよ」

 

 自身の体に渦巻く魔力が、指向性を持って形を変えていくのがわかる。彼女の魔力は風、空気の流れに適性があった。

 

「悪しきもの 断ち切るため」

 

 そしてその魔力を指先に集める。まだ幼い少女の身では集められる魔力はそれほど多いものではないが……この場を脱するには十分な量であった。 

 

「縛り付けるもの 切り裂く刃を」

 

 今度は集めた魔力を決めた形に成型する。今回は刃、小さな刃でいい。錠を切れるものなら、何でも。

 

「この手に宿し 力を授けよ……!」

 

 音も光もない。が、確かにここにあるのがセィジアには感じられた。刃の形に固められた魔力が周辺の空気を凄まじい速度で回転させ、普通のナイフなどよりはるかに高い切断力を誇る。

 風刃(エッジ)と端的に名付けられたそれは、彼女が一番得意としている魔法だった。

 彼女はそれを使い、恐ろしく神経を払いながらも慎重に手と足の錠を切り、そして馬車の戸の錠をも切りひとりで脱出したのだ。

 

 他の子供を助けず、ひとりで逃げたことに罪悪感が無かったわけではない。「風刃(エッジ)はこの緊張感の中で長時間維持できる魔法ではない」「あまり時間をかけると錠を切る音で男が起きるかもしれない」など理屈はいくらでも並べられたが、結局は一刻も早く逃げたかった。それに尽きるのだろうと思った。

 実際、この奴隷狩りらはまさか攫った子供たちのうちに「魔法持ち」がいることなど全く考慮に入れてなかった。また、彼らはプロでもない。生活に困窮したところを、ある筋のものから斡旋されてこの仕事に取り組んでいるだけだったのだ。だから「不寝番を立てて子の脱走や獣に備える」という知識はあっても、人間はどれくらいの睡眠時間が必要でどういうローテーションを組めばいいかというノウハウが全くなかった。これらがうまく噛み合ってセィジアは脱走できたが、しかしその直後に御者役の1人が目を覚ましていた。幸いにも錠や馬車内部の異変に気付くことはなかったが、タイミングを逃していたら彼女は再び捕まっていたことだろう。

 

 そうやって彼女は逃げ出し、森の中を走った。どこまでも走った。少しでも奴隷狩りから離れられるように。そして、いち早く故郷の村に戻りたいと願った。それで、「馬車の跡を逆戻りすれば良いのではないか」と思い付いたところまでは良かったのだが。

 

 「もう、馬の足跡が……ない……!」

 

 彼女の誤算は「馬車が数日間で走れる距離」を全くもって見誤っていたことだった。馬の足跡自体はそう簡単に消えるものではないが、数多の砂利道なども経由したためにとうとうセィジアも足跡と轍を見失ってしまったのだ。

 村からほとんど出たことのない彼女にとってはここはまさに未知の世界。獣も彼女が知っているものが闊歩しているとは限らない。どこに行けば帰れるかなどわからない。さらに、むやみに動けば奴隷狩りと再会する恐れすらあった。裸足で駆けていたため、木の根や葉、砂利が足へ与える痛みや傷も無視できない。

 が、そんな彼女の絶望的なサバイバルは始まる前から終わっていた。

 

 とてつもなく巨大なヘビが、自らを見ていることに気が付いたから。ひっと音を出す間もなく、セィジアは本能的に飛び出した。瞬間、さっきまで彼女がいた場所を牙と質量が覆い潰した。

 

 『Shrrrrrrrr』

 

 「はっ、はっ、はっ……!」

 

 村の外にもヘビはいたが、あれほど大きくはなかった。しかしあの蛇は自分より少しだけ高いように見えたし、胸のあたりが不自然に膨らんでいるように思える。真っ黒な体表も非常に不気味であった。

 息が声にならない。あれが何かはわからないが、少なくとも今この場で命を狙ってくる時点であの奴隷狩りよりもはるかにタチの悪いものだった。疲労で痺れた足に無理やり鞭打って走り出す。彼女にできるのはそれだけであった。

 魔法には詠唱が必要であり、身体的にも精神的にもそんなことをする余裕はない。「詠唱短縮」「無詠唱」といった技術自体も存在するが、彼女は全く知らないし第一そこまでの練度があるわけでもない。

 彼女は魔法が少しできる以外はどこにでもいるような、ごく普通の四手族(クアッド)であった。

 

 時には岩を登り、草をかき分けて巨大ヘビから逃げる。腕が多いことを除いても身体的な性能は二手族(デュアル)なぞよりはるかに高く、それによって命を拾った場面は多々存在した。

 だがしかし、彼女には体力が足りなかった。それは数日間虐待のような食事によるものであったし、またさらに脱走後孤独に森の中をさまよっていた疲労感によるものでもあった。そんな状態では魔力を身体性能にすべて費やしているようなヘビを振り切れるわけがなかった。

 もう本当に体力は尽きていた。今走れているのは火事場の馬鹿力か。未来の体力を前借りしているのか、それとも生存に必要な、手を付けてはいけないようなエネルギーを使っているのか。とにかく彼女は気力だけで走っていた。

 

 ヘビはまだ幼い少女の捕食を諦めていない。"追いかけっこ"は多少長かったが、それでもヘビにとっては許容範囲内。小さい魔獣に一目散に逃げられて完全に見失うより、強力な魔獣を狙って手痛い反撃を受けるよりもはるかに楽で安全であったからだ。

 だから、その後に"ダンジョンマスター"と呼ばれる未知なる人型に遭遇したのは完全にヘビの不幸であり、セィジアの掴んだ幸運だった。

 

「た、カヒュ……助けて……!」

「あ……?」

 

 掠れながらもセィジアは声を絞り出し。それを聞いた人型は少女と追いかけるヘビを視認した。

 そしてヘビもまた彼女を認識した。その人型は何故か腕が2本しかなく、森に自生している青い実をしげしげと眺めている。疲れ果てた様子は見えないが、しかし華奢な見た目から自身を害すほどの能力は無いと判断。呆けている今がチャンスと判断し、標的を変更した。まずはこの2本腕の人型を仕留め、次いで散々追い回していた少女を捕食する。完璧な作戦であった。

 

 重ねて言うが、この人型との遭遇はヘビにとって完全なる不幸であった。

 

「状況はC-2。フォーメーションは"スタンダード"」

 

 人型はボソボソとそうつぶやくと、草陰から奇妙な物体が飛び出してくる。赤くて平坦な、ワラジムシのような2体の生物だった。そしてそれらは、息を合わせたように全く同じタイミングでこちらに飛びかかってきた。

 牙も爪も質量もない虫が飛びかかってきたところでせいぜい嫌がらせにしかならない。適当に振り払い、すぐさまこの人型に突進してやろう。そのヘビの安易な目論見は瞬く間に崩れ去った。

 なぜなら、この2体の奇怪な赤虫はそもそも()()()()()()()()()()()()()からだ。見間違いだったのかと違和感を覚える間もなく、赤虫はすぐさま下から突進してきた。

 

『Ggrr……!』

「こっちへ!」

 

 見た目よりはるかに衝撃を伴う赤虫の攻撃に、ヘビの姿勢が大きくよろめく。よろめいて──止まる。ヘビはなぜか不安定な姿勢のまま、完全に停止していた。ここまでくるともうヘビの理解の外であった。人型のもとに少女が向かったことなど気にしていられない。このままでは……死ぬ。ヘビは赤虫と人型に対する評価を改め、目標を捕食から逃走へと変更した。体は大きくは動かないが頭部周辺は比較的自由に動かせることに気づき、自らの内臓で精製した秘蔵の毒ガスをばら撒く。

 さすがにこれは予想外だったのか、人型は少女を抱きかかえて大きく後退する。魔獣には特殊な能力を持つものも多く、この"位置の固定"もその一環に思えた。だが、そのような能力は魔獣本体から離れれば離れるほどその効果も減退することをヘビは経験則として知っていた。周辺を毒ガスで満たし距離を離せば自然とこの異常な能力も解ける、そう考えての行動だった。

 

「ウィワクシアちゃん、いける?」

「……?」

「そう、じゃあ行っておいで」

 

 そのとき、ヘビを隕石が襲った。いや正しくは隕石とでもいうべき衝撃か。毒ガスをものともせず鱗に覆われた虹色の巨体が完全にヘビを圧し潰していた。位置が固定されていたのもヘビにとっては不幸であった。そのせいで彼は吹っ飛ばされることもできずに、その巨体の運動エネルギーをあろうことか全て受け止め切ってしまった。受け止めるしかなかったがゆえに、皮はひしゃげ、骨は粉砕され、臓物は潰された。

 そういうわけで魔獣【枝垂れる黒コブラ】の生命は、ウィワクシアの突進によってあっけなく事切れた。彼は人型を目撃した時点で、直ちに踵を返して逃げるべきであった。彼女がそのまま逃がしてくれたかどうかは……定かではないが。

 




評価なんですけど、評価した人数でゲージが延びてく仕様っぽいのでマジでお願いします!!!!

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