【未完】超古代生物(地球産)で異世界蹂躙する系ダンジョンマスター   作:忍法ウミウシの舞

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対人戦をしよう!

 時は……夕方前、ぐらいだと思う。場所は森。正確な位置までは不明。

 ともかく、俺とセィジアはとうとう探していた男たちを見つけた。

 

 敵は馬車に乗った2人以上の人間。セィジアを攫った張本人だが……こちらには強力な古代生物が5体いる。相手にとって不足は、ない。

 古代生物たちに指令を伝え、ゆっくりと前に出る。目の前には馬車があるが、轢かれることはない。

 

()()()

「ヒ……!」

「ブラララゥル……!」

 

 参点円盤(トリブラキディウム)の力で、馬を2頭とも固定したためだ。自身の意思に反し脚が急に運動をやめたこと、そしてその慣性を殺し切れずに客車の部分が馬本体に衝突したこと。

 どちらも彼らを困惑させるには十分な事態であった。

 

「さぁ、こんにちは奴隷狩り」

「なんだテメェはあああああ!」

 

 声がデカい。いや、声だけでなく体もデカいな。スキンヘッドも相まって相当いかつい容姿をしている。腕が4つあるのはセィジアと同じだ。

 そして相当鍛えているようで、馬が急停止してもうまくしがみついて投げ出されるのを防いでいる。生前の俺が同じことをやっても多分間に合わずに体が放物線を描いてしまうだろう。

 

「うちの連れが大層世話になったようでね。お礼をしに来たところなんだよ」

「知らねえが死ねええええ!」

 

 話をする気が無いのはお互い様か。一瞬で体勢を立て直し、こちらに飛びだしてきた。右手にはナイフを持っており、そのままこちらに突き出してくる。狙いは顔……いや、目か。この思考の速さはよほど対人慣れしてると思われる。

 対して俺は武道など全くやったことのないズブのド素人。女神魔改造によって精神こそ研ぎ澄まされているが、戦闘技術は全く追いついていない。

 この差はもちろん……古代生物で埋めるしかない。

 

「なんだこの魔物はああああ! 乱入しやがってええええ!」

 

 俺と奴隷狩りの間に入り込んだのは反転する角虫(ハルキゲニア)であった。体格は比較的小さく、こぶしほどの大きさしかない(それでもオリジナルのハルキゲニアと比べると十分大きいが)。恐るべきはそのスピードで、あの巨体でコブラを蹂躙した玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)と比べてもなお速い。

 コブラ戦ではスピードよりパワーの方が大事だったため活躍の場は他の子に奪われてしまったが。人間程度の皮膚なら余裕で貫通できるらしく、ナイフを突き出した右手に痛々しく反転する角虫(ハルキゲニア)の角がぶっ刺さっている。

 

「いってええええええええ!」

「落ち着け」

 

 で、その反転する角虫(ハルキゲニア)はスキンヘッドに投げ飛ばされてこちらに帰ってきてしまった。あわよくば反撃のつもりだったのかもしれないが、古代生物がダンジョンマスターである俺に危害を加えることはない。空中でうまく姿勢を制御し、勢いを殺して俺の体に着地してきた。

 事態を把握したのか、もう一人の方も馬車から出てくる。この様子だと他に人員はいないように見えた。……ふむ、スキンヘッドほどゴツくはないが普通に強そうだし、殺気が鋭すぎる。そして剣を2本も腰に携えている。ちょうど日本の侍のような出で立ちであった。

 剣は2本で、腕は4本……もしかして、二刀流か? 四手族(クアッド)の間ではこれが標準なのかもしれない。

 

「よく周りを見ろ。奇怪な虫どもが湧いている。恐らく獣調教師(ビーストテイマー)だろう。馬車が止まったのは……その魔獣のうちどれかの能力じゃないか」

「虫を従えるなんて俺は聞いたことないけどなあ!」

「そして奥には逃がしたあの女子がいる。復讐か……いや、他の子供を取り返すつもりか?」

 

 あら。隠れてるようにいったはずだけど、勘が鋭い男だな。

 

「んー。後者といったところかな」

「なら諦めることだ。今頃彼らは隷従の刻印を授かっていることだろう。じきに手遅れになる」

「あ、そ!」

 

 言いながら俺はサムライ風の奴隷狩りに玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)をけしかける。巨体で、剣という武器に対抗できるのは今の手持ちだとこの子だけだ。

 だが、あろうことかこのサムライは真っ正面からウィワクシアに斬りかかってきた! 二刀流ではない……が、これは。

 

「むうん!」

 

 金属同士がぶつかりあう、固有の甲高い音が響き渡る。玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)も予想以上に堅いが、しかしあの剣が折れないのも相当だぞ! が、さすがに力勝負ではウィワクシアに分があったらしい。サムライは余った2本の腕でウィワクシアを掴み、そのまま押し出した反動で突進を回避することに成功した。

 

「もしかして俺たち、やべえかあああ!?」

「ただでさえ数的不利を取っている。死角を作るな。目を光らせろ。隙ができ次第、術師本体を狙え」

「わかったぜええええ!」

 

 そう言うと彼らはこちらに背を向けぬように、適切な距離を取って陣形を築き始めた。どちらも単体戦力は高そうで、崩すのに苦労しそうだ。片方を崩そうとすればもう1人がこっちに向かって殺意をむき出しに突進してくるだろう。

 

「……玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)はサムライの方を監視してて」

 

 むう。さすがにコブラのように簡単にはいかないか。予想より大きく粘られてしまっている。

 いや、参点円盤(トリブラキディウム)で固定すれば多分楽勝なんだけどさあ。馬を2体とも止めるのに使っているんだよね。この広そ~な森の中、まともに歩くより楽だろうと思って確保したいんだけど……どうしよっか。

 

虚ろへ飛ぶ平虫(ヨルギア)!」

 

 呼べば、2匹のヨルギアがそれぞれの奴隷狩りへと跳躍して()()()()()。スキル【幻想跳躍】の力で、彼らにはまさにヨルギアが跳躍したように見えたはずだ。

 

「なにいいいああああ!」

「速い! いや、幻覚か……!」

 

 案の定、彼らはありもしない幻影に向かい攻撃をし始め、そして空振りをする。明白な隙だが、それは彼らも理解しているようで周囲の動向を目敏く観察している。これに付け入ることはできない。

 だからさらに揺さぶりをかけるのだ。反転する角虫(ハルキゲニア)ちゃんよ、リベンジの時間だ。

 

 今は飛び交う虚ろへ飛ぶ平虫(ヨルギア)が奴隷狩りの気を引いている。彼らのスキルの強みは「本物レベルの幻覚」そのものではなく、「実体か幻覚かの駆け引きを強制させる」点にある。

 別にスキルは毎回発動させなきゃいけないわけじゃない。跳んだと思ったら跳んでいない。跳んでいないと思ったら跳んでいる。その二択を強制して翻弄することこそ【幻想跳躍】の本質なのだ。

 

「行っておいで」

 

 俺の手を離れた反転する角虫(ハルキゲニア)は、自分の足で歩きだす。今度はスピードに任せた体当たりではなく、本当にそのまま歩いているだけだ。ちょこちょこと地面を拙く歩くそのあどけない姿は、大きさこそ違えど5億年前の地球でもよく見られた光景なのだろう。かわいいね……いや、今はそれどころじゃないって。

 そう、ただ歩いているだけなのだ。奇妙な虫が、ただただ無防備に歩いてるだけ。そこに何の危険も感じないだろう。

 

「あ……」

「おい! 戻れ!」

 

 だというのに。その様子を見たスキンヘッドはふらりと歩き出してしまう。サムライによる制止の声や虚ろへ飛ぶ平虫(ヨルギア)さえも無視し、反転する角虫(ハルキゲニア)に引き寄せられていく。そして虚ろな表情で、ナイフを構えて──

 

「いや、させないが?」

「ゴホォァッ!?」

 

 無防備な脇腹を俺に殴りつけられる。サムライは虚ろへ飛ぶ平虫(ヨルギア)に阻まれて迂闊に動けないし、さらに玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)に監視させていた。ふらふらと前に出たスキンヘッドは、孤立してしまったのだ。

 いやあ、出る前にとってて良かった【攻撃上昇】。スキンヘッドの鍛え上げた肉体もかたなしだ。1段階目だけでもここまで火力出るようになるんだね。たとえ効かなくてもどうせ反転する角虫(ハルキゲニア)が攻撃するからテストの意味合いが強かったが、これほどのパワーが出るなら俺も攻撃に参加して良さそうだ。

 

「クソ……なぜ前に出た!」

「お……ゲホッ! だって、だってよお!」

 

 さすがにこればかりはサムライの方も声を上げずにはいられなかったようだ。各個撃破だけは絶対に許してはならないと、作戦を共有していたはずなんだから当然だ。

 だが、うずくまるスキンヘッドの弁解はとても珍妙なものであった。

 

「あの、あの虫……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!」

「は……?」

 

 ふふふ。いやあ、女神による魔改造の結果か、ダンジョンマスターはその効果をなんとなく把握してるんだけど。実際に見てみると、かなり面白い結果だったな。

 反転する角虫(ハルキゲニア)のスキル【惑わすもの】はその第一の効果として、自身の前後を逆に見せる。どうやらそこに強い誘引効果が付与されているようなのだ。

 

 ……いや、確かに思ったよ? 反転して見せかけるだけのスキルって意味ねーって。でももうちょっと明示的に書いてくれてもいいんじゃないかな、女神さん。

 それを理解していたから、この作戦に踏み切ったけど。だけどやっぱり自信はないじゃん。

 全然効果が無かった場合、馬車を諦めて参点円盤(トリブラキディウム)を使っていた。だから勝てないことはなかったが、その中でも上々の成果に終わって何よりだった。

 

「……さて」

 

 スキンヘッドの上に玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)がのしかかる。特に脚部に負荷をかけているようで、ダメージを受けたスキンヘッドの力では押し退けることはかなわない。……折らないか心配だ。

 それで、サムライの方をみやる。その瞳はまだ諦めてないように見える。タネがわかれば【惑わすもの】は耐えられなくもない(らしい)し、ウィワクシアは拘束に使っちゃってるから勝ちの目がまだあるように考えているのだろう。

 

「残念だが、もう勝負は終わり」

「何……」

 

 反転する角虫(ハルキゲニア)が今度はサムライの前に立つ。すると、サムライはひとりでにバランスを崩し、その現象を理解できないままのたうちまわってしまう。

 【惑わすもの】の第二の効果は、「自身の上下を逆に見せる」こと。ハルキゲニアが上下逆に見えるということは、それすなわち自身の上下が逆に感じられるということ。平衡感覚を乱された対象はもはや立っていられなくなる……ということらしい。

 

 うん、これもちゃんと書いてほしかったかな!

 

 

「セィジアちゃん、終わったよー」

「は、はい!」

 

 武力衝突は完全に終わったのでセィジアちゃんを呼び出す。結構苦戦したから、離れたところに逃しててよかった。最悪の場合人質にされていたかもしれん。

 ところでこの奴隷狩りの2人組を一応【鑑定】してみた。ちなみにスキンヘッドが「クジカ」で、サムライは「イサルラーク」らしい。

 

▼クジカ

身体状態:疲労困憊・負傷

精神状態:恐怖

適性:武闘家・盾騎士・斥候

 

四手族(クアッド)イサルラークの死体

潜在DP:25

概要:頭部の損傷が大きい。

 

 25DPはすごいね。コブラ以上ということは単体でそれくらいの魔力だったってことだ。ダンジョン内に入れて殺す余裕がなかったのが惜しい。

 なんでサムライ殺しちゃったかって? 正直2人も不安要素抱えたくないし、セィジアを呼ぶ前になんか聞いてもずーっとだんまり。反転する角虫(ハルキゲニア)のスキルも永続ってわけじゃないから、喋りそうだし御者としても起用できるスキンヘッドの方を残したのだ。あの大声はどこへ行ってしまったのか、今ではずいぶんと大人しくなっている。

 

「どう、見覚えある?」

「確か……御者をしてた人です。もう1人、鞭を持っていた髭の生えた男の人がいたはずですが……」

「そいつは殺した」

「殺し……え?」

 

 吸収しちゃえば死体は残らないから、セィジアちゃんにもショッキングな光景を見せつけなくて済んだぜ!

 生き残ったスキンヘッドは今も玉虫色の鱗獣(ウィワクシア)にのしかかられている。だが、その表情は暗い。いいなあ、俺もウィワクシアちゃんにのしかかられたいなあ。

 

「なんだよ、その目はよお」

 

 そう思ってたら変な雰囲気を察せられてしまったのか、文句をつけられた。こいつ自分の立場わかってんのかな。

 

二手族(デュアル)がよお、俺たちの邪魔してんじゃねえよお……」

「あ、あの! どうして、どうしてあんなことをしたんですか……! 答えてください、同じ四手族(クアッド)でしょう!」

 

 声を張り上げたのはセィジアだった。が、別にスキンヘッドに当惑する様子はない。

 

「そんなの金になるからに決まってるだろうがよお。二手族(デュアル)だの四手族(クアッド)だのは関係ねえ。俺が生きるためにやってんだよお」

「そんな……!」

「イサルラークも同じだったと思うぜえ。全然しゃべらなかったがなあ、どうせギルドでなんかやらかしたんだろなあ。そういう目をしてたぜえ」

 

 要するに、ならず者が金を掴まされて奴隷拉致の実行犯をさせられてたってところか。まあいいや。セィジアと違って俺はあんまりそっちには興味ないし。

 セィジアに「今度は自分が質問する」とアイコンタクトをとり、スキンヘッドの方を見て言う。

 

「子どもの居場所と、『隷従の首輪』について。知ってることを全て教えろ」




2023/3/01:「生きてるか死んでるかわかりづらい」とのご意見があったため、イサルラークの生存時の【鑑定】情報を削除しました。死んでます。

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