異世界の神達が作ったカードゲームがクソゲーすぎる   作:山かけうどん

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転生した理由が酷すぎる件について

 目を覚ますと、そこには果てのない白い空間。

 起き上がる。

 俺の目の前には、5本の柱が聳え立っていた。

 否が応でも目に入るそれは、見た感じどれも5メートル程であろうか。

 赤、青、緑、黒、白の5色の柱。

 俺はその上にそれぞれ存在している、柱の色に対応した「光」を見上げる。

 

「起きたかァ、人の子」

 

 赤い光……「炎神フレクシル」

 

「あれから5年が経ちました、どうですかリク? 我々の住む世界の感想は」

 

 青い光……「蒼神ポセイダム」

 

「戸惑ったでしょう?困惑したでしょう?それもそうよね、元の世界とは全ての理が違うのだから」

 

 緑の光……「地神ネイチアス」

 

「魔法がファンタジー、空想、幻想などと扱われていた世界に元々住んでいたとなればナ……全く、相変わらず我々には想像し得ない世界ダ」

 

 黒の光……「冥神ネクロシス」

 

 それぞれの神が脳内に直接語りかけてくるこの状況。

 俺にはこの状況に覚えがあった。

 5年前、ちょうど俺がこの異世界「アクティナ」に転生させられた時の事を、俺は思い出す。

 

ーーー

 

「しゃあ!『ヒラメキシステム』の枠なしホイルキタぁ!」

 

 友人の言葉に、俺はため息を吐く。

 

「糞が」

「なんだよ、祝福してくれてもいいだろうが」

「こちとら5箱以上爆死してんのよ、そんな心理状態じゃあねえんだ」

 

 俺はテーブルの上にある空になった箱と、破れたカードパックの殻を見つめる。

 パッケージには白いドラゴンと、拡張パックのエキスパンション名、そして『バトル・マスターズ』というタイトルロゴが描かれていた。

 

 TCG『バトル・マスターズ』……通称『BM』

 開発はウィザード&ゴースト、販売元はテクラトミー。

 ウィザード社が手掛け全世界で大ヒットし、深い歴史を持つ、TCGの始祖、『マジック・ザ・ブレイク(MtB)』。

 それを改良し、低年齢でも遊べるよう設計されたのが本作『BM』である。

 奥深いゲーム性はそのままに、前作よりもわかりやすくシンプルになった 『BM』はそのとっつきやすさから小学生だけでなく、中高生、大人をも巻き込む人気を得ることに成功したのだった。

 

 『BM』は今年でサービスが開始してから、15年が経つ、海外人気はあまりないものの、日本においては、国内3大TCGとして名を轟かせている大人気TCGの1つだ。

 そんな『BM』に、俺と友人達は熱中していた。

 

「そんなにアド損したくないんだったらパック剥かないでシングルで買えよ」

「いや、パックを剥く瞬間の昂揚感は何者にも変え難いものがあるだろうが」

「ギャンブラーこえ〜」

 

 TCGには様々な楽しみ方がある。

 その一つが、カードの収集。

 TCGには基本的に、数ヶ月に一度発売される、拡張パックというものがある。

 拡張パックは何枚かのランダムなカードが入っている商品となっており、これまで発売されているカードと組み合わせて遊ぶ事ができるというものだ。

 自らの大枚をはたいてパックを購入し、お目当てのカードを引き当てられるのかという不安と期待を胸に、ハラハラドキドキしながらパックを剥いている瞬間はまさに至福である。

 ……まあ、大体後で後悔するのだが。

 

「しかし、ただのRの枠なしホイルが今回のトップレアとはねえ、VRとSRのカードの産廃具合が凄いとはいえ……」

 

 そして、拡張パックから出てくるカードはゲームで遊ぶ以外にも役割がある。

 それこそズバリ、現金との兌換性があるという事。

 TCGには多くの場合、カードの珍しさの指標である、レアリティというものが存在しており、これによってカードの封入率が決まる。

 『BM』の場合はC、UC、R、VR、SR。

 右にいくにつれて封入率が低くなってくる。

 さらに全てのカードに、イラスト枠なしホイル加工版というものが存在しているのだ。プレイヤー達はこれを枠なしホイルと呼んでいる。

 基本的にカードのレアリティが高ければ高いほど、封入率が低く珍しいものほど希少価値は高くなり、高くで売ることができる。

 

 ……と、普通ならばそうなるだろう。

 しかし、TCGの市場において物事はそう単純ではない。

 レアリティが高いカードより、低いカードの方が価値が高くなる事が稀によくある。

 その理由は様々だが、多くの場合が需要と供給のバランスが悪い、という一言で落ち着く。

 今回のパックもその例に漏れず、とある理由からそのトップレア、今回発売の拡張パックの中で1番価値の高いカードの通常版、枠なしホイル版、共に需要が爆発していた。

 

 原因は三つ。

 

 一つ、友人がさっき言っていたように、そのカードより上のレアリティのカードが軒並み弱く、需要が一点集中した事。

 

 二つ、レアリティが低いとはいえ、みんなそのカードを複数枚欲しがっているという事。

 

 そして三つ。

 

「まあ、『ヒラメキシステム』はあの伝説のやらかしカード『転生システム』のリメイクカードだしな」

 

 話題性と強さである。

 かつて、『BM』のゲーム性を崩壊させたカードがあった。

 その名も『転生システム』。

 その凄まじさは細かく語るとキリがないが、当時このカードに心を折られ引退したプレイヤーらはこう語っている。

 

【欠陥システム乙】

【歴代でも最高レベルのクソゲー】

【今回ばかりはサ終】

 

 言葉を聞けば、このゲームに触れた事がなくともその恐ろしさが少しわかると思う。

 

 結果、『転生システム』は大暴れの後、制限カードに指定、その3ヶ月後に禁止カードリストという名の監獄にぶち込まれたのだった。

 

 ちなみに制限カードというのはゲームで一枚しか使えないカード、そして禁止カードというのはゲームで一枚も使えなくなってしまったカードの事を指す。

 

 制限カードはともかく禁止カードに関しては、なんで刷ったのとプレイヤーなら一度は疑問に思ってしまうカードばかりである、ほんとなんで刷ったんだよ。

 

 そんな禁止カードのだめな部分を調整し、ゲーム性を損なわない程度に強く、みんなが楽しく使えるよう、再カード化する試みがある。

 

 それこそがリメイクカードである。

 

 15年の歴史を持つ『BM』開発チームは、この試みを日夜続けていた。

 

 今回、リメイクカードとして生まれ変わるべく白羽の矢がたったのは、件のカード『転生システム』。

 

 『転生システム』は再デザインされ、『ヒラメキシステム』という名で生まれ変わった。

 

 プレイヤー達は最初、これに歓喜した、前世の罪を悔い改めて、更生した姿で帰ってきてくれると信じて疑わなかった。

 

 しかし、現実は違った。

 

【1番ダメなとこ変わってなくて草】

【悲報:クソゲー帰還】

【ウィザードとテクラゴミーは何をヒラメキながらこのカード作ったの?】

 

 調整されたものの、その強さは未だ健在であった。

 致命的なバグが発生し、アップデートで不具合修正されたシステムは、新たなバグを抱えて舞い戻ってきたのだ。

 

 話題に上がるのも必然、そしてその本質的な強さは歴史が証明しているのだから、疑う余地はない。

 

 以上のことから、レアリティが低いはずの『ヒラメキシステム』のホイル版は同じパックに入っている全てのカードを差し置いて、堂々のトップレアに躍り出たのだった。

 

「いいなぁ〜、通常版も5箱で3枚しかでてこなかったし、ちょっと買い足すかな、パックを」

「シングルで買った方が」

「黙れよ、男の決心に口を挟むんじゃねえ」

 

 友人に大口を叩き、テーブルを立つ。

 そのままレジに向かい、パックを購入し、テーブルへと帰った。

 

「お前、あんだけ言っといて5パックしか買ってきてないのかよ」

「なんか、場の雰囲気につられてああ言ったけど、途中で冷静になっちゃった」

 

 財布の中身空っぽで草。いや、今ある手持ちのカード売りに出せばなんとかなるけど。

 やはりトレカショップは怖い、カードを売るのも買うのもできてしまうせいで、想定外の収支が絡む。

 そして、場の雰囲気や気の緩みにより浮き足立つ。

 

「まあ、これでヒラメキの枠なしホイル自引きするから見てろ」

「いや無理だろ」

 

 1パックずつら丁寧に梱包材を破り、中のカードを1枚1枚見ていく。

 可能性はゼロじゃない筈だ。

 パックを買うとき、基本的にどう買うかは二つに分かれる。

 まとめ買いかバラ買いか。

 まとめ買い、パックをまとめて買う事である、基本的にカードゲーマー間においてそれはボックス買い、カートン買い、という意味を指す。

 まとめ買いには利点がある、物によっては特典などがつくし、ある程度、どのレアリティが何枚出るか保証されている。

 とどのつまり、まとめ買いの方がリスクは低い。

 バラ買いは何が出るか、基本的にわからないし保証されていない。

 初心者がどちらの買い方がいいか尋ねたとき、カードゲーマーの大半はこう答えるであろう、拡張パックは箱買いがマスト、と。

 

 しかし、中には狂気に身を投じる人間も居る。

 バラ買いにあって、まとめ買いにないもの。

 それは無限の可能性である。

 

 箱買いには限界がある。

 ある程度の枚数レアが出ると、残りの中身に何が入っているか気がついてしまう。もう望みのカードは出ないなと気がついてしまう。

 そこからは消化試合、なんの面白みもなく、自らのパックが無価値になっていく様を見なければならない。

 

 しかしバラ買いはどうだ。

 保証はない、しかし可能性だけは無限。

 それに、少ない金額で大きい当たりを引いたときのカタルシスは、箱買いでは得る事ができない。

 ───これは持論なんだが。

 バラ買いに身を投じる覚悟がなければ、真のカードゲーマーにはなれない、俺はそう思っている。

 

 さあ、ラストのパックだ。

 中身の5枚のカードを見ていく。

 

 1枚目、叛逆龍ホムラ、C。

 社会人として社会に出て数年経ち、生活において幸福を得にくくなっているのを実感する。

 

 2枚目、ニュー天パロボダム、C。

 年を重ね、肉体は疲労を蓄積し回復が遅くなり、精神は摩耗していく日々。

 

 3枚目、サイレント・サウンド、UC。

 来る日も来る日も同じ事の繰り返し、会社勤め、こんなものかと覚悟はしていたが、それは悟りではなく悟ったフリをしていただけ。

 

 4枚目、地獄のチンチロ魂、UC。

 人は経験によって、初めて本当の絶望を知るのだ。

 しかし、そんな絶望を捲れるものがあるとするならば。

 

 5枚目。

 

「お、おい!これって……まじか!!」

 

 驚愕する友人の声。

 震える手。

 眼前にあったもの、それは……「当たり」の文字が入った、『転生システム』だった。

 

「初期ロット生産分限定で封入される、当たり券……世界で100枚しか存在しない15周年メモリアル版『転生システム』の引き換え券……!」

 

 そういえば、そんなキャンペーンをやっていたな、と引き当てた瞬間、思い出した。

 

「やったなリク! 今までのキャンペーンで出たメモリアル版は全部50万超え、物によっては100万超えもザラにある!」

 

 ……ああ、やった、やったぞ

 

「うおおおおおお……って、リク?」

 

 無限の可能性を俺は掴んだんだ。

 ……この時、俺はそう思っていた。

 

「リク! おい! 大丈夫か!? リク!?」

 

 そう思い、カタルシスが脳を刺激し、脳汁が大量分泌され。

 一種のトランス状態となり。

 

「リク────! 死ぬなリクゥ────!!」

 

 耐えられなくなった俺は意識を手放し。

 そのまま、現代に帰ることはなかった。

 

ーーー

 

 俺はこの後、目の前の5柱の神達に出会い、自らが所謂、異世界転生したのだと理解した。

 「転生システム」

 まさか、カードゲームの中だけではなく、現実の俺をも転生させてくるとは。

 

 これは一生禁止カード牢獄行きですね、間違いない。

 

「────静粛に」

 

 白の光……「聖神ホワイティス」は煌めき、そして俺に問いかけてきた。

 

「汝、リクには5年前、こちらの世界、アクティナで生まれ変わるにあたって重大な使命を与えた、覚えているかね?」

 

 使命……使命か。

 ああ、覚えてるさ。

 そんな事のために、俺はこちらに呼ばれたのかと頭を覆いたくなった事を覚えている。

 

「重大な使命、ええ、覚えております、確か……アクティナで神々が創造した遊戯についての見解を聞きたいと」

「ああ……知っての通り、我が世界、アクティナは騒乱の歴史、争いが絶えない世界だった、しかし、つい200年前、我々は一つとなり、皆で手を取り笑い合う平和を実現することに成功したのだ」

 

 あの時は大変だった……としみじみとした雰囲気を醸し出す5柱の神々。

 だが、俺は知っている、騒乱の歴史はほとんど、こいつらが発端になっているという事を。

 こっちにきていろいろ歴史についての勉強したが、間違いない。

 こいつらはろくでなし共だ。

 

「しかし平和ってのはよォ」

「つまらん、やる事がない」

「生命が震えないわよね」

「無論、冥界の仕事も減っタ」

「────静粛に」

 

 白の光、ホワイティスはわがままな神を取り纏め、こう言った。

 

「つまりは、我々は暇している、そこで、極上の娯楽が必要となったわけだ───しかし、我々は娯楽についてあまりにも無知」

「そこで───様々な世界から此方へと魂を転生させ、各世界の文化、娯楽を聞き回った」

「本来で有れバ、他の世界に干渉する事は禁忌とさレ、最悪、世界の崩壊を招クが……神である我々にかかれバ、他の世界の一般人の魂を此方に招く事など造作も無イ」

 

 そういえば、此方に来た時、招いたのなら元の世界に帰してくれよと聞いたっけ。

 その結果返ってきた答えがこれだった、『やってる事は人攫いみたいなものだし、証拠隠滅のため輪廻の枠に魂を無理やり押し込んだから、帰るのは無理だぞ』

 

 ……なんとも迷惑な話である、やはり、どこの世界も神は身勝手なのだろうか。

 ホワイティスは続ける。

 

「その結果我々は一つの遊戯を見つけるに至った────それすなわちTCG、君たちの世界で発展している遊戯、我々はこの遊戯に深く魅入られた」

「分かってますから、前置きはもういいです」

 

 聞こえていなかったのだろうか、覚えてるよ、あんたらが俺に託した使命とやらは。

 

「そうか……ならば単刀直入に聞こう、我々が運営・開発するTCG……いや、我がアクティナにおいて全ての理を決める指標となりつつある神儀であり、遊戯。『アクティナ・アリーナ』は、汝から見てどうだった?」

 

 ああ、洗いざらい全て吐き出してやる。

 こんな、ホビーアニメじみた世界作りやがって。

 

「結論から申し上げて『アクティナ・アリーナ』はクソゲーですね」

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