泥沼の騎士 〜TSルディ子を救いたい〜   作:つばゆき

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渡航と代価(後)

 

 

 翌朝、ルディアは朝食の席で、席を立とうとするルイジェルドを呼び止めた。

 

「ルイジェルドさん、渡航のお金の都合がつきました」

「……なんだと?」

 

 眉を顰めてそう聞き返すルイジェルドに対し、ルディアは手元に用意してあった革製の袋を、テーブルの上に置く。

 その紐を解くと、大量の緑鉱銭が口から覗いた。

 

「これは……」

「緑鉱銭、二〇〇枚です」

 

 ルイジェルドは喜ぶでもなく、口元を引き結んだまま、険しい表情で緑鉱銭の詰まった袋を見ていた。

 構わずに、続ける。

 

「出航の予定日は一週間後です。それまでは簡単な依頼を受けて、逗留分くらいは稼ぎましょう」

「これだけの金を、どうやって手に入れた?」

 

 その詰問に、ルディアは口をつぐんだ。

 想定していた質問だった。だが躊躇ってしまった。

 ルイジェルドは周囲を見回して、ルディアの傲慢なる水竜王(アクアハーティア)が見当たらないことを確認し、愕然とした声で問いただした。

 

「杖を、売ったのか」

「……はい」

「何故だ。あれはお前の大切なもののはずだっただろう」

 

 押し殺した声で詰問するルイジェルドに、ルディアは心が痛んだ。だが、全ては過ぎたこと。ルイジェルドの主義を尊重するか否か──ルディアとエリオットは是と選択した。これ以上は彼のお守りにおんぶにだっこではいられないのだ。

 

「はい。でも、これで全員が揃ってミリス大陸に渡れます」

 

 そう聞いた彼は一瞬、顔を憤怒の形相に染め──しかし何を言うこともなく、力なく「そうか」とだけ呟いた。

 白い短槍の柄が軋むほどに握られ、ふっと力が緩む。

 

「ルディア」

「……はい」

 

 名を呼ばれてもなお、ルディアは顔を伏せたままだった。ただその声音が力なく沈んでいることに、内心で微かな衝撃を受ける。

 

「……俺はまだ、お前たちの信頼を得られていないのだな」

「え……」

 

 溢されたその台詞の意味を判じかねて、ルディアが顔を上げたときには、ルイジェルドは既に席を立っていた。

 

「ルイジェルドさん、」

 

 なにか言わなければならない。だが何を言えばいいのかわからずに、上げようとした声はそのまま尻すぼみとなって消えていく。

 呼び止めようとしたその声はルイジェルドに届くことはなく、彼は槍を手に部屋を出ていってしまった。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 まさかこの世界に、ここまでひどい場所があろうとは、エリオット・ボレアス・グレイラットにはまるで想像がつかなかった。

 空は雲一つない晴天。夏も終わりに差しかかっているというのに、以前太陽は衰えることなく地面を照らし上げている。

 魔大陸にて冒険者として旗を上げ、『デッドエンド』を結成してから既に一年以上。荒れ果てた大地も、凶暴な魔物が闊歩する渓谷も、既に飽きるほどに見慣れた彼ではあったが、こと船上というのは初めての経験であった。

 そう、船──エリオットたち『デッドエンド』一行は、白い帆を張ったキャラベル船に揺られている。

 燦々と日光が降り注ぎ、かもめの群れがマストの上で鳴いている。だがそれらの明るい甲板の上の出来事など知らぬとばかりに、エリオットは客室で横になっていた。

 小さな採光窓の他にはろくな光源の存在しない客室は薄暗く、彼以外に人影はない。

 腹に小さな薄手の毛布をかけ、頭を荷物に預けた彼は、船室を揺らす波に顔を青ざめさせ、喉奥に呻き声を噛み締めると寝返りを打った。

 

「うぅ……ぉえ、」

 

 端的に言うと、エリオットは船酔いに苦しんでいた。

 日頃のふてぶてしさなど見る影もないエリオットの姿に、ルディアは驚きと同時にどこか釈然としない表情をしていたが、気だるげな表情で臥せっていると、心配そうな顔で「なにかあったらすぐに声をかけてください」と甲板まで上がっていった。

 エリオットとしても自身の情けない醜態をルディアに見せるのは抵抗があったため、心配しながらも席を外した彼女の気遣いには感謝していた。

 

「ぐ……くそ……」

 

 込み上げてきた嘔吐感に、エリオットは顔を青ざめさせて身を起こした。

 よろよろと壁に手をついて立ち上がり、そのまま体を支えつつトイレを目指す。

 おええ、と吐瀉物を吐き散らしたあとも、まるで気分は回復せずに、エリオットは辛うじてトイレから出るとそのまま座り込んでしまった。

 深呼吸し息を整えると、水筒の水で口をすすぐ。この数日、胃液の味に慣れ切ってしまっていたが、それはそれとして不快なものである。

 

 エリオットとて、まさか自分がここまで船の揺れに耐性がないとは想像もつかなかった。そもそも、船酔いというものの存在さえろくに知らなかったのだ。

 船旅を始めた一日目は、大地に足をつけた感覚とはまるで違う、船舶での旅というものに心躍らせていた。

 だが、重く湿った潮風、陽光を反射する波、船の舳先が切って進む海面──その光景を、エリオットは半日もしないうちに楽しむことが出来なくなった。

 はじめは軽い吐き気と眩暈だった。それが倦怠感を伴うようになり、やがて頭痛を併発し、血色の良かった顔が蒼白になるころには、ルディアの診断によって客室へとエリオットは移送され、一日のほとんどをそこで過ごしている。

 

 重い手を頭にあて、治癒魔術を行使する。

 淡い光がエリオットの頭部を包むと、僅かに気分が楽になる。だが、倦怠感が強くなり、目眩と同時に虚脱感が体を襲ってきたのを確認すると、エリオットは苦虫を噛み潰したような表情で壁に背を預けた。

 魔力枯渇の症状である。

 治癒魔術を頭部に使用すると、船酔いの症状を緩和させることができるというのは、初日の段階で判明していた。

 だが、エリオットの魔力は有限である。初級治癒でも二〇回も使用すれば、魔力の底が見え始めるのだ。これ以上を望むなら、ルディアに泣きつくより他にない。

 彼女の魔力総量は無尽蔵といっても差し支えないほどだ。丸一日エリオットにかけ続けても、一割と減らすことはできないだろう。

 だがエリオットは、ルディアに頼ることに抵抗感を抱いていた。それはこれ以上情けない姿を見せたくはないという見栄であり、それゆえに治癒魔術をセーブしながら使用していたのだが──いよいよこの船酔いにも耐え難い。

 どうやら今日の痩せ我慢もここいらが限界らしい──とエリオットは観念し、萎えた脚に力を込めた。

 

 

 

 

 

「ルディア……ここか……?」

 

 潮風に栗色の髪を吹き煽られながら、ルディアは自分を呼ぶ少年の声を聞き咎めた。

 首を巡らせて声の主を探すと、客室から出てきたエリオットが、体をふらつかせながら寄ってくる。

 ルディアは身を預けていた欄干から体を離し、エリオットに駆け寄った。

 

「エリオット、客室から出てこなくても、声をかけてくれれば私の方から行ったのに」

 

 肩を貸そうとすると、エリオットは青ざめた表情のまま首を振る。だが胃から込み上げるものがあったのか、すぐにうぷ、と口元を抑えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 すぐに手元に魔術で小さな桶を作り出す。エチケット袋──もどきだ。

 この数日エリオットの惨状を見ていたルディアは、咄嗟の対応もこなれていた。

 エリオットは可能な限りルディアに頼るまいとしているようで、己が弱っている姿を見せたがらなかったが、生憎この船旅は彼には荷が勝ちすぎているようだった。

 込み上げてきたものを飲み下し、ふう、と息をついたエリオットは、疲労を滲ませた低い声で言う。

 

「大きな声は自分の声でも頭に響くんだよ……」

「だからわざわざ甲板まで出てきたんですか?」

 

 変なところで意地を張りますね、と無理やり脇の下に腕を通すと、エリオットは僅かに抵抗したが、観念したように体を預けた。

 そのまま肩を貸して客室に戻り、うめくエリオットを寝かしつけ、毛布を被せる。頭を膝に乗せようとすると、毎度抵抗されるが、今のエリオットはいつにも増して弱々しく、結局ルディアに押し切られるかたちで身を預けることになる。

 

「治癒魔術……かけてくれ……」

「はいはい」

「毛布はいい……」

「寝ちゃったほうが楽だと思いますよ」

「膝枕はやめてくれ……」

「いいじゃないですか減るもんじゃなし」

 

 唸るエリオットの頭を抱え上げる。

 ろくに抵抗の出来ない彼の面倒を見ていると、そこはかとなく母性のような、優越感に近い感覚が湧いてくる。

 あまり構ってやれなかったが、ノルンやアイシャもこうして面倒をみてやったものだ。

 ノルンは立ち上がるのが早く、アイシャは話し始めるのが早かった。どちらも可愛い妹である。もう二年近くも会えていないが……

 

「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん──ヒーリング」

 

 エリオットの頭に手を当て、詠唱すると、眉間に刻まれていた皺が薄くなった。

 艶やかだった深紅の髪は、潮風を浴びて微かにがさついている。普段は自分で毎日頭を洗っているようだが、船旅の間はほとんどの魔力を治癒魔術に充てているのだろう。

 そこまでするなら最初から自分を頼ればいいのにと思うのだが、この少年は痩せ我慢をして、本当に辛くなるまでは声をかけない悪癖があった。

 

「撫でるな……」

「注文が多いですねー」

 

 ぐったりとしたエリオットが、抗議するような視線で見上げてくる。普段は見下ろされる立場だったばかりに、ルディアは仄暗い喜びのような、悪戯心をくすぐられて、その頭をがっしりと掴んで抵抗を封殺した。

 

「……覚えてろよ」

「いいんですかそんなこと言って。エリオットには魔力がもう残ってないでしょ?」

 

 言外に治癒魔術を人質に取られ、エリオットはぐぬ、と歯噛みした。

 ここで痩せ我慢できるなら、エリオットはルディアを頼ったりはしない。ザントポートまで残り一日。それをエリオットの魔力総量のみで凌ぎ切れるかと言われれば、まずもって無理な話である。

 そもそも魔力が枯渇寸前で泣きついたのだから、今夜一晩を耐えられるかすら怪しいのだ。

 

「……頼む」

「頼まれました」

 

 屈辱を顔に滲ませながら頼み込まれ、ルディアは口角を上げてにんまりとした表情を浮かべた。その笑顔の鬱陶しさに舌打ちし、エリオットは顔を背ける。

 四年付き合って初めてエリオットが見せた明確な弱みである。

 港に着くまでのあと一日、その姿を楽しませて貰ってもばちは当たらないだろう。少なくともその間は、他の問題から目を逸らしていられるのだから。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 種族の検査を受け、スペルド族という申告に偽りがないことを確認した役人は、恐怖と戦慄の眼差しでルイジェルドを見送った。

 帆船に揺られている間も、恐怖に腰の引けた役人に関所を通される間も、港を出て街で宿を探している間も──ルイジェルドは難しい表情をしたままだった。

 いや、そう感じるのはルディアに後ろめたい気持ちがあるからだろう。ルイジェルドとの会話がどこかぎこちなく感じるのも、きっとそのせいだ。

 宿に着いたルイジェルドは、荷物を置く暇もあればこそ、険しい声でルディアたちに切り出した。

 

「──船の中に、子供たちが囚われていた」

 

 荷解きの手を止めて、ルディアはルイジェルドを見る。

 

「夜に船倉の奥の扉から、子供たちの啜り泣く声が聞こえた。出来るなら助け出したい」

 

 唐突な話の流れにルディアは面食らいながら、ともかく最初に思い当たった疑問を口にした。

 

「だとしたら、きっと子供達は運び出されています。今から探すんですか?」

「問題ない。俺の目なら追うのは容易い」

 

 力強く断言するルイジェルドを前に、ルディアはエリオットをちらりと見遣った。頷いて了承の意を示すのを確認すると、まずは救出の可否を推し量る。

 子供を拐い、大陸を跨ぎ、売り払う──まず密輸組織の関与は間違いないだろう。

 子供が何人いるかはわからないが、密輸組織の規模はそれなりに大きいはずだ。子供達は船から降ろされたあと、一度同じ場所に集められるだろう。

 問題は警備が厳重だろうということくらいだが、ルイジェルドにかかれば物の数ではない。なにより、スペルド族の名誉を回復させるための良い機会ではないか。

 

「わかりました。最低限準備をしたら、すぐにでもいきましょう」

 

 子供達を見つけ、警備を蹴散らし、解放する──極めてわかりやすい手順である。悩む必要はない。

 

「ルディア。助かる」

 

 ルディアの即断にルイジェルドが礼を言う。

 それにお互い様です、と返し、ルディアは準備にとりかかった。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 ルイジェルドの眼にかかれば、子供の痕跡を追うのはさほど難しい話ではなかった。

 船から痕跡を辿り、それが波止場の大きな木造の倉庫に消えていることを確認すると、人気が少なくなるまでじっと身を伏せて待つ。

 物資を──密輸品(攫った子供たち)を移送するとなれば、それは人目につきにくい夜のはずだ。ならば少なくとも夜までは時間に余裕がある。

 短慮は禁物だった。攫われた子供たちが集め切られる前に襲撃をかけてしまえば、取りこぼしが出てくる。それは避けなくてはならない。

 三人で時折り見張りを交代し、時がくるのをじっと待つ。夜も更け始めたころに、ルイジェルドが口を開いた。

 

「そろそろ行くぞ」

「わかった」

「了解です」

 

 最後に倉庫に積荷が運び込まれてから小一時間。波止場から人は消え、閑散とし始めた頃合いである。

 ルイジェルドの号令に、月明かりが照らし始めた港を駆け抜ける。

 夜廻の衛兵たちの姿は港にはなく、代わりに人相の悪い男たちが衛兵よろしく見回っていたが、隠密行動はルイジェルドの十八番である。ラプラス戦役にて奇襲専門の強襲部隊を率いていたスペルド族の手腕は伊達ではない。

 大型の木造倉庫に忍び込むと、清掃員と思しき男が、漫然と虚空を眺めながら煙草の煙を吹かしている。ソフトモヒカンに浅黒い肌。目付きは悪く、まさにチンピラといった風情である。

 

「……殺すんですか?」

「気絶させるだけでは足りんだろう」

 

 小声でルイジェルドに囁きかける。

 ルイジェルドの目は既に慈悲の色を失っていた。船倉の子供の扱いがどれほどのものだったのか、間近で聞いていたわけではないルディアにはわからないが、密輸組織に身をやつしている時点であの男も同罪ということなのだろうか。

 

「情報を聞き出さなくてもいいんですか?」

「構わん。目で追える」

 

 そこまで言うのなら、とルディアは食い下がらず、ルイジェルドに任せる。

 頷いたルイジェルドは、整然と積み上げられた積荷の群れに飛び乗ると、ほとんど音を立てないままに男の背後に着地し、延髄に短槍の切先を突き立てた。

 声も立てず一瞬のうちに絶命した男は、指先に煙草を挟んだまま力なく地面にくずおれる。

 その体を伝って地面に大きな血溜まりができる前に、男の骸を抱え上げ、適当な積荷の中に放り込んだ。血臭に吐き気を催しながら、ルディアはルイジェルドの背中を追った。

 

「流石ルイジェルドだな」

「この程度、俺の戦士団の者なら誰でもできた」

 

 曲剣の柄に手をかけていたエリオットは、出番がなくなり手を離す。エリオットはルイジェルドの戦闘力に全幅の信頼を置いている。

 ルイジェルドが動いた時点で己の出番がないことは察していたが、万が一の備えについての重要性もルイジェルドから教えを受けていたのだ。もし仮に男を仕留め損ねていたなら、エリオットの踏み込みと抜き打ちの一撃が、男の首を刎ねていたはずである。

 

「ここだな」

 

 ルイジェルドが足を止めたのは、小さな荷馬車一台分もあろうかという大きな木箱の前だった。

 中は空で、枠組みに頼りない板を貼っただけにも見えるそれをずらす。すると、下に階段が現れた。

 

「暗いな……ルイジェルドは目があるからいいけど」

「私が明かりをつけます」

 

 明かりをつけて、慎重に階段へと踏み入る。

 中は暗い洞窟めいた空間で、重く湿った空気がひんやりと頬を濡らす。音が微かに反響し、明かりに照らされた岩壁はごつごつとしており、刺々しい。

 

「ルイジェルドさん、先頭をお願いします」

「わかった」

 

 最も目が利き、明かりに頼らずとも動けるルイジェルドは先頭。そしてルディアを挟むようにエリオットが殿(しんがり)に立つ。それぞれに一定間隔を置き咄嗟の襲撃で詰まらないように配慮する。

 依頼を受けて探索に出ているときの基本的なフォーメーションでもあった。特にルイジェルドは最も索敵能力が有り、優秀な野伏(レンジャー)としての側面も備えている。

 

 小一時間ほど歩き続け、洞窟を抜けると、そこは鬱蒼とした森の中であった。

 丈のある木々と密度の高い草が視界を覆っている。

 

「ここに足跡がある。隠されているがやり方が杜撰だ」

「ルイジェルド、よく見つけるよな……」

「俺には目があるが……多少コツもある」

 

 エリオットが感嘆の息を吐いたが、ルイジェルドは事もなげに言った。指された地面をよくよく見れば、確かに土がかけられた跡があったが、そうとわかってみなければまるでわからない痕跡である。

 ルディアもエリオットと同じ感想を抱いていた。

 

 痕跡を追い続けること更に小一時間、不意に視界が開け、一軒の民家が現れる。

 それなりの大きさの宿屋のような規模だが、遠目から見れば木々に紛れて発見するのは困難だろう。

 

「歩哨が立っているな……俺が処理しよう」

「ルイジェルドさん、待ってください」

 

 槍を手に飛び出そうとするルイジェルドを制する。

 

「まずは計画というか……段取りを決めましょう。襲う以上、一人でも逃げられたらまずいわけで」

「大丈夫だ。俺の目から逃れられる者などいない」

「まあ確かにそうかもしれませんけど」

 

 やたらとかっこいい台詞を吐くね、と内心で思いつつ、エリオットも交え三人で相談の体勢をとる。

 

「ルイジェルドさんはなるべく大立ち回りを演じて、目を引いてください。その間に、私とエリオットが子供達を解放してまわります」

「いいだろう。森に逃げ出した者がいれば優先して追うが、構わないな」

「大丈夫です。エリオットもそこらのごろつきには遅れは取りませんし」

 

 そもそもルイジェルドが敵を取り逃すというビジョンがルディアには見えなかった。

 

「まずは歩哨だな。エリオット、付いてこい。処理したらルディアと合流しろ」

「わかった」

 

 頷きあうと、ルイジェルドはエリオットを伴い、木立に消えた。

 倉庫の入り口であくびを噛み殺す歩哨たちは、すぐそばに迫った凶刃の存在に、最後まで気がつくことはなかった。

 

 




ルディア
 杖を売るならエリオットだけでなくルイジェルドにも相談すべきだった。
 気まずさを紛わすために船の中ではエリオット介護マシーンをしていたかったけど、当のエリオットは意地っ張りなので魔力が尽きるまで頼ってこない。ままならぬ。

エリオット
 男になってもやっぱり船酔いに苦しめられた。
 痩せ我慢を発動し、船では毎日枯渇するまで治癒魔術を使っていたので魔力総量がちょっと増えた。
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