泥沼の騎士 〜TSルディ子を救いたい〜   作:つばゆき

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やはりTSはマイナージャンルなのだろうか



ドルディア集落編
直面


 

 

 それはまだ陽の差さぬ、夜更けのうちの出来事だった。夜明けは遠く、時刻はいまだ深夜である。

 街では楚々とした月明かりが照らしていたが、一度森に踏み入ると、背の高い木々と密度の高い葉たちが月光を遮り、視界を濃い闇に塗り込めている。

 だがドルディアの戦士長ギュエス、そしてその後を追う聖獣は木々の合間に差し込む僅かな明かりだけで、苦もなく樹間を走破する。

 よほどに己を鍛え上げているのだろう、足場の悪い森をギュエスはまるで庭の如く駆け、数時間と経つにも拘らず息を切らす様子を見せない。

 

 鬱蒼とした木々から、不意に視界が開けた。見えてきたドルディアの集落は、森の中にあるという点は一致していても、その雰囲気は草木も花もそれぞれが伸び放題で雑然としたものではない。

 木々の密度は減り、開けた視界で梢を見上げると、忽然と頭上に集落が現れる。獣族は地上にではなく、木の枝の上にそれぞれの家を造り、そこに住むのだ。そして木々の間や幹の周りに橋を設けてそれぞれ家屋を繋ぐ。

 見上げんばかりの巨木たちは榕樹(ガジュマル)めいており、少なくとも地上から十数メートルは離れているだろう。

 それぞれの榕樹は幹の直径が既に人族の平均的な一軒家と同等の太さを誇り、その上に木造の建築が数軒たったところでびくともしない。その根本には集落に上がる為の階段や梯子が設けられ、これもまたしなやかかつ頑強な造りであることを窺わせる。

 

 ギュエスに集落の一画まで運び込まれたルディアは、一個の木造の小屋にて下ろされた。

 とはいえそれが小屋と評するべきかは疑問が残る。

 何故ならそこは他の家屋のように、榕樹に隣接し頑強に補強されたものではなく、頭上に伸びた太い枝から吊り下げられるような形で造られているからだ。ささくれだった板張りの床の他には壁らしいものはなく、子供の腕ほどもある太い蔦で構成された鳥籠(・・)と評するほうが相応しい。およそ居住性に重きをおいた造りではなく、雨を防ぐ屋根もなければ、吹きさらしのままである。

 

(なんだ、これ……マジで牢じゃん。入れられてた子供を助けたら、今度はぶち込まれる側に回るとは……)

 

 ささくれの目立つ床に無造作に落とされたルディアは、乱暴な扱いに抗議の目を向ける。だがギュエスはその視線を気にも止めず、ルディアの拘束を解くや否や、荒々しい手つきで衣服を剥ぎ取り始めた。

 

(な、……っ!?)

 

 驚愕に身を竦ませる。

 手早く外套を脱がされて、その下のシャツやショートパンツに手が伸び、慌てて身を捩る。

 そこで初めて、己の体に自由が戻り始めたことを悟った。ギュエスの手を振り解き、着崩れた服をかき抱く。

 

「もう動けるのか……抵抗するな!」

 

 無理やりに押さえつけられて、ささくれだった床に組み伏せられる。

 鍛え上げられた戦士の膂力に対し、非力なルディアではまるで抗し得ない。比べるべくもない体格差であるが、それは抵抗しない理由にはならなかった。

 

「や、やめ……やめろっ!」

 

 ようやく呂律が回り始める。身を捩り全身で抵抗しながら、組み伏せてくる太い前腕に爪を立てる。

 体に力は入るが、その動きはどこか鈍く、重い。文字通り少女がただ闇雲に抗う程度のことしか出来ずに歯噛みする。だが仮にルディアが万全であっても、優れた戦士であるギュエスから逃れられたかどうか。

 顔の近くに伸びていた指にルディアが噛み付くと、さしものギュエスも突然の痛みに耐えかねて手を引いた。

 

「ち……おい! 誰か!」

 

 数人の戦士が、ギュエスの呼び掛けに応じて檻の中まで入ってくる。集落に詰めていた防人たちであった。その戦士たちは指示に従って次々とルディアに覆い被さり、彼女の細い手を脚を床に押し付ける。

 ギュエスは血の滲んだ指を苛立ち交じりに服の裾で拭うと、ルディアの顔面を容赦のない平手で打ち据えた。

 ぱん、と乾いた破裂音とともに衝撃に襲われて、ルディアの頬が痛々しい赤に染まる。

 

「ぅぅっ……! ああああっ!」

 

 久方振りに振るわれた暴力に身を竦ませたのもほんの数瞬だけだった。それ以上にここで抵抗しなければどうなるかわからないといった恐怖が勝った。

 憎々しげに下手人を睨め付けて、ルディアは今度こそ全力で身を捩り、拘束から逃れようともがく。

 

「く、戦士長……! こいつ、抵抗を……!」

「気をつけろ、子供の割に力があるぞ!」

 

 四肢に込められる力がいっそう強くなった。まるで抵抗を許さない膂力の差が、己が非力な少女であることを否応なしに突きつけてくる。

 その握力に腕や脚は軋んで痛み、どれほどもがこうとも離すまいとする意志を感じさせる。

 

「放してッ……放せ! 私は、密輸人じゃない! 何もしてない!」

 

 次に顔面に感じた衝撃は、先の比ではなかった。

 不意に腕を振り上げたギュエスが、その節くれだった拳を固め、ルディアの顔面を殴りつけたのである。

 ルディアの身体が一際大きく震え、恐怖に竦む。

 それは再びの暴力に対してでも、口の中に走った鉄の味に対してのものでもなかった。ただ眼前のギュエスの憤怒に染まった表情に対してのものであった。

 

「何もしていない、だと? 聖獣様に手を出しておきながら、そのような言い分が通るか!!」

 

 ギュエスの剣幕と、聖獣という単語に反応してか、ルディアを組み伏せていた戦士たちの手つきから容赦が消えた。

 僅かに身体が竦んだ隙を見計らい、びりびりと衣服を破り始める。

 

「……ひっ」

 

 知らず、喉から引き攣ったような声が漏れた。

 いつかアスラの王都で、ごろつきに襲われたときのことを思い出す。あのときは、逃れられた。

 相手が一人なのもあった。そして油断していた。

 だが今回はそうはいかない。手練の戦士が複数人──すでに押さえつけられている状況から、一体どうしたら抜け出せる? だが、抜け出せねば待っているのは、想像もしたくない最後だ。

 怒りの形相のままに手を伸ばしてくるギュエスと、記憶の中のごろつきの獣欲に染まった顔が、ルディアの中で重なった。

 

「……っ!」

 

 魔術を放ったのはもはや無意識下での行動だった。

 幸いにして手のひらは上を向いており、両腕を押さえていた戦士が吹き飛ばされる。

 

「何ッ──!?」

「押さえつけろ!」

 

 次いで手のひらを眼前のギュエスに向ける。だがギュエスの反応速度はルディアを上回っていた。

 突風が吹き荒れる直前にルディアの手首を掴み、そのままねじり上げたのである。

 

「今だ、もう一度拘束しろ!」

「こいつ、今無詠唱で……?」

「底が知れん。気をつけろ!」

 

 なおも手に魔力を込めるも、発動の直前に察知した戦士に鳩尾を殴打された。横隔膜がせり上がり、かひゅ、と肺の空気が漏れ出る。

 肌着までが力任せに引き毟られて、ふくらみ始めた乳房が露わになった。自身の肌が異性(・・)に晒されているという事実に、恐怖と、自分でも信じられないほどの嫌悪感が湧き出てくる。

 

「ぃ、いやだ……!」

 

 嫌だ、と叫ぶ。

 虚空に向けた手から滅多矢鱈に魔術が放たれ、獣のような唸り声をあげてなおももがき続ける。

 

「くそ、こいつ暴れて……!」

「牢が壊れるぞ!」

「……仕方ない、気絶させろ」

 

 両腕がひとまとめに捻りあげられ、同様にルディアの矮躯が容易く持ち上げられる。

 体を押さえつけていた戦士のうち一人がルディアの背後に周り、太い両腕をルディアの細い首筋に巻き付けた。

 

「ぁ……がっ……」

 

 頸動脈が圧迫され、血流が寸断される。

 もう一度、助けを乞うように叫びを上げる。だが口からその声が発されることはなく、ものの数秒でルディアの視界は暗転した。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

「凄まじい抵抗でしたな、戦士長」

「ああ」

 

 ぐったりと力なく横たわる少女を見て、ギュエスは大きく嘆息した。

 集落の戦士たちの手によって服を剥かれた少女は、顔色を失い瞼を閉じている。歳の頃を見るに、娘たちとはそう変わるまい。そんなまだ子供とも言って良い年齢の少女が人攫いに加担していた事に、やるせなさと同時に怒りが湧いてくる。

 

「このような子供までが……」

「戦士長、いかが致しますか」

「うむ……まずは牢を移動せねばならんな」

 

 ギュエスの言葉に戦士もまた重々しく頷く。

 ルディアの抵抗により、今いる檻は天井に穴が空き、格子代わりの蔦は千切れかけている。唯一金属製の扉は無事だが、先程の魔術を受ければどうなるか。

 

「よもや無詠唱魔術とはな……」

「口枷だけでは足りますまい。集落の防人たち複数人に四六時中見張らせるわけにも……」

「致し方あるまい。霊薬を使うか……在庫は?」

「確認しておりませんが、それなりに残っているかと」

「飲ませろ。一日置きにな」

 

 魔術殺しの霊薬──魔術師の体内の魔力を乱し、発動を阻害する秘薬である。それなりに値が張るが、しかるべきコネと調達ルートさえ心得ていれば誰でも手に入るものだ。

 ある程度の規模を持つ組織では常備されていることは珍しくない。

 それは攫った奴隷を輸送する密輸組織が最たるものであり、それと提携する野盗団がそうであり、後ろ暗い魔術師を捕らえた国では多くがそうである。

 尋問予定の魔術師が、見張りが目を離した隙に口枷を噛み切り、脱獄や自害をする例は少なくない。看守の数に余裕がない今のドルディアの集落では、当然の用心と言えた。

 

「暴れぬよう縛りつけておけ」

 

 締め落とされた少女の姿に、何も思わないという訳ではない。しかし聖獣を襲い、発情の匂いを漂わせていたという時点でかけるべき情けは既にない。

 

「幸いにも聖獣様は奪還できた。俺は子供達を追った父上との合流を急ぐ。お前たちには引き続き集落の防衛を任せる」

「は」

 

 檻から飛び降り空中に身を踊らせ、地表へと着地する。

 人攫いの手にかかり、未だ戻らぬ我が子……その顔を思い返しながら、ギュエスは一路、森を駆けた。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 ザントポートを出航せんとするキャラベル船──ルイジェルドが指示したそれを襲撃し、護衛のごろつき共を叩き伏せたエリオットは、あまりの防備の薄さに拍子抜けしていた。

 合流した獣族の面々と、エリオットの「都市内での殺人は忌避した方がいい」という提言により、船舶にいた護衛は多くが半殺しで捕らえられた。

 そうして制圧した船舶から解放された子供の総数は、実に五〇人を越えた。その多くが獣族であり、同じ大森林に集落を持つ長耳族(エルフ)炭鉱族(ドワーフ)小人族(ホビット)も少数ながら保護された。

 襲撃の結果としては最良である。

 だがエリオットは、妙な胸騒ぎが抑えられなかった。

 

 最後の一人を殴り伏せるその瞬間、ごろつきは叫んでいた。「ガルスの野郎、なんで応援に来やがらねえ──」。

 密輸組織、その拠点は壊滅させたはずである。また別に拠点が存在するのだろうか。ごろつきの言うガルスとやらが、先ほどエリオットたちが襲撃した拠点に居なかったのだとしたら、それなりの数の残党が残っている可能性があった。

 しかし今のエリオットとルイジェルドは多勢である。

 老戦士ギュスターヴと、それに率られた獣族の戦士団は質、数ともに侮り難い戦力である。

 獣神ギーガーの直系たるドルディア族が擁する戦士団は、獣族の中でも最精鋭と名高い。まともに目端の利く者ならば、襲撃しようとは考えにくいだろう。更に言えば獣族は鼻が効く。スペルド族のルイジェルドほどではないにせよ、奇襲には敏感だった。

 

「お兄さん、助けてくれてありがとう……」

「ああ。怪我はこれで全部か?」

「うん……」

「じゃあ、戦士団に保護してもらえ」

 

 狐耳の少女の痣を治癒したエリオットは、まだ恐怖が残るのか名残惜しく縋り付いてくる手をゆっくりと外し、諭した。

 人族の密輸人に攫われ、虐待同然の扱いを受けたのである。ならば自分よりも、同じ獣族に保護してもらった方が安心できるだろうという、エリオットなりの気配りだった。

 目尻に滲んでいた涙を拭った少女は、エリオットの言葉に小さく頷き、何度も振り返りながら戦士団の元へ歩いていく。そうして少女が視界から消えたのを確認すると、エリオットは防波堤に背を預けて長く息をついた。

 倦怠感とともに、眩暈がする。

 魔力枯渇寸前であったのに、更に治癒魔術を行使した反動だった。

 

「エリオット、辛いなら休んでいろ」

「わかってる。でも、治癒魔術を使えるのは俺しかいないだろ」

「子供のために骨を折るのは戦士の務めだ。だが無理はするな」

 

 ルイジェルドの諫言に頷く。

 指摘は最もだった。急遽編成されたという獣族の戦士団には、治癒魔術を使える者がおらず、暴行を受けた子供たちの治癒が出来るのはエリオットしかいない。

 だが、だからといってエリオットが無理をして倒れれば、それはそれでルイジェルドの負担になるのである。

 それに治療手段を魔術に限定する必要はない。なんなら打撲や切り傷は清潔な布と水があれば事足りるのだ。

 それなのに無理を押して治癒魔術を行使したのは、獣族に対して思うところが──依怙贔屓をしたくなる気持ちがあるからだった。

 

「ルディアがいれば全員治しても余裕があるんだけどな……」

 

 彼女は、たかが初級魔術二、三〇回程度の行使で息切れしている己とは違う。それこそ一〇〇や二〇〇ではきかない数の魔術を発動しても、涼しい顔をしているのだ。

 

「ルイジェルド殿。エリオット殿。此度の件、お力添えに深く感謝する」

「子供たちのためだ。気にすることではない」

 

 エリオットとルイジェルドは、獣族の戦士団とともに占拠した波止場の倉庫に滞在していた。

 夜明けごろにそう声をかけてきたのは、獣族の老戦士ギュスターヴである。髪も白み始め、老境に差し掛かった戦士だが、その筋張った腕や今なお頑健な体格は、往年の鍛錬のほどを窺わせる。

 彼と出会ったのはつい数時間前の事である。

 聞けば囚われていた聖獣や、攫われた子供達の痕跡を追ってきたのだと言う。初めはエリオットと、少女の遺体を抱えたルイジェルドに対し一触即発の事態となったが、そのとき連れていたミニトーナのとりなしによって事なきを得たのだ。

 

「否、ルイジェルド殿のお力が無くば、子供たちの詰め込まれた船を突き止めることは出来なんだ。重ねて礼を言わせてもらおう」

 

 出航直前の船舶、その急襲を提案したのはルイジェルドである。獣族の状況を知った義憤によるものだった。

 

「そしてエリオット殿も。よくぞ孫娘を助けてくださった」

「うにゃ。正直結構おっかなかったニャ」

 

 そういってぶるりと身を震わせたのはミニトーナである。エリオットよりも二、三歳ほど年下に見える彼女は、だが獣族らしく発育が良い。反抗していたにも関わらず性的な暴行を受けずに済んだのは、手を出したら商品価値が下がるといった打算の他にも、運が絡んでいたからかもしれない。

 

「まあ……間に合ってよかったよ」

 

 言ってから、エリオットはしまったとばかりに顔を顰めた。

 間に合ってなどいない。間に合っていたなら、全員を救えていたのだ。

 失言にミニトーナは悲しげな表情で俯いたが、すぐに顔を上げた。

 

「……ごめん」

「気にしなくていいニャ。お兄さんたちが見つけてくれなければ、きっとそれだけじゃ済まなかったニャ」

 

 なんと返したものか返答に窮して、エリオットは無言でミニトーナの頭に手を乗せた。そのまま手癖で猫耳に指を這わせると、ミニトーナはびくりと背筋を伸ばした。

 

「にゃっ! ……止めるニャ! なんかお兄さんに触られると変な感じがするにゃあ」

「それで、話はそれだけではないだろう」

 

 ルイジェルドに促されて、ギュスターヴは続ける。

 

「うむ。ザントポートの役人が出張ってきおったのだ。ふざけた話ではあるが、今回の事で抗議してきておる」

「なんだよそれ。抗議するのはむしろこっちの方だろ?」

 

 眉を顰めるエリオットに、ギュスターヴもまた不快げに顔を歪ませる。

 

「そうだ。五〇人もの子供を攫い、魔大陸へと移送するなど、一組織のみでは不可能だ。間違いなく役人は賄賂を受け取っておる。これは我ら獣族とミリス神聖国との明確な条約違反だ」

 

 獣族を代表して抗議するという。

 ギュスターヴは戦士であるが、同時にドルディア族の族長である。すなわち一国家元首と立場では同等なのだ。

 

「ここからが本題なのだが」

 

 と、そうギュスターヴは前置いた。

 

「ミリスも騎士団を動かしている。無論こちらも集落より追加の戦士団を呼び寄せるつもりだ。ぶつかりあうことはないが、睨み合いとなるだろう。

 そなたたちに矢面に立っていただくわけにはいかない。──そこで、落ち着くまでの間子供たちの護衛を請け負って欲しいのだ」

 

 人族のエリオットが間に入れば話がややこしくなるだろうし、スペルド族のルイジェルドの関与が明るみに出れば、ミリス神聖国もやすやすと己の非を認めず態度が強硬化するかもしれない。

 

「俺は問題ない」

 

 即答したのはルイジェルドだった。

 彼の子供に対するスタンスは、頑なでさえある。だが口ぶりから察するに、決定権はエリオットに委ねられたようだった。

 

「俺は……」

 

 エリオットとしては、感情面では受けたいという気持ちがあった。だがこれ以上諍いに巻き込まれると、足止めを食らいすぎてしまうのではないかという懸念があった。

 二、三週間や一ヶ月程度なら、冒険者として依頼を受け、路銀を稼ぐのとそう変わらないだろう。しかし、今の大森林には雨季が迫ってきているのだ。雨季がやってくる前にミリシオンまで辿り着けなければ、雨季が終わるまでの約三ヶ月、ザントポートで足止めを食らうことになる。

 

「無論、獣族として十分な謝礼を用意させていただこう」

「……わかった」

「感謝致す」

 

 そこまで言い募られればエリオットとしても断り辛かった。謝礼を幾らほど貰えるのかはわからないが、額によってはそのままミリシオンで稼がなくとも、そのまま中央大陸に渡れるかもしれない。

 仮に雨季に間に合わなかったとしても、実際のタイムロスはそこまでにはならないだろう。

 

 

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