泥沼の騎士 〜TSルディ子を救いたい〜   作:つばゆき

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親として

 

 

 

 窓から差し込んでくる陽光を、ルディアは家事の手伝いをしながら漫然と眺めていた。

 メイドのリーリャは勤勉だった。家事を手伝いたいとねだったときは随分と渋られたものだが、淑女として一通り家事は覚えておいて損はないとのゼニスのとりなしで、時折こうして手伝わせてくれる。

 窓に歩み寄り、庭を見ると父のパウロが鍛錬をしている。

 非番の日の日課のようなものなのだろう。

 正直上裸で剣を振り回すのはどうかと思うが。だがその筋肉も、剣神流らしい型も美しいとは思う。村の若い婦女子もたまに見学にきては黄色い悲鳴を上げている。どうやら彼はモテるらしい。

 それを見たゼニスは頬を膨らませているが。

 

 ふと、髪に手をやっていることに気がついた。

 無意識のうちにポニーテールの結び目に手をやってしまっている。

 白いシンプルな髪飾りだ。

 誕生日にパウロから贈られたものである。

 

「お嬢様、お似合いですよ」

 

 声に振り返ると、リーリャとゼニスが微笑んでいた。

 それに急に気恥ずかしくなり、髪飾りを外そうとすると、ゼニスに止められる。

 

「なにも外さなくてもいいじゃないの、こんなに可愛いのに」

「だって母様、恥ずかしいんです」

「パウロも喜ぶわよ?」

「尚更恥ずかしい……」

 

 ゼニスがルディアを抱き上げて膝に乗せた。

 七歳も間近となり、随分と体重も重くなったが、抱き上げてみればまだまだ子供である。親に甘える年頃だ。

 父親似の明るい茶髪を手櫛で梳く。

 

「実はね、ちょっとだけ安心したのよ」

「なにがですか?」

 

 首を傾げるルディアにゼニスが微笑む。

 

「ルディは実は女の子らしい格好、そんなに好きじゃないでしょう?」

「う……それは」

「髪を伸ばすのも、スカートを履くのも実は嫌だったんじゃない?」

 

 ルディアは図星をつかれたとばかりに黙り込んだ。

 当然だ。今でこそいたいけな女児だが、前世は男である。三四年も男として過ごしてきたのだから、七年やそこらで切り替えられるはずもない。

 だがそう開き直るのも少しばかり辛かった。

 女の子らしくあってほしいという、母の期待に添えないようで。だから気は向かなくとも髪を結びたいと言われれば好きにさせたし、スカートを出されれば渋々ながらも履いていた。

 態度に出していたつもりは無かったが、見抜かれていたのか。

 

「母様、ごめんなさい……」

「ううん、謝らなくていいのよ。あまり無理強いするつもりはないもの」

 

 ゼニスがルディアと目を合わせた。こうして見ると顔立ちは実によく似ている。

 リーリャも親子の時間を邪魔すまいと控えている。

 

「パウロもあれで気にしていたのよ?」

「父様が?」

 

 父親の名前が出たことにルディアは目を瞬かせた。

 ゼニスはそれに少し苦笑する。どうにも娘は父親のことをデリカシーのない情けない男だと思っている節がある。その通りなのだが、あれはあれでたまには気が利くのだ。

 不器用なだけで。

 

「剣を習いたがったりとか、ルディは昔からどこか男の子っぽいところがあったから、女の子らしい格好の一つでもしてほしかったんじゃない? だから髪留めをくれたのよ」

「そうだったんですか……」

「だからね、今日ルディがつけてくれてて、ちょっと上機嫌なの」

 

 窓の外に視線をやると、話に混ぜてもらいたそうなパウロがちらちらとこちらを見ていた。

 ゼニスが手を振ると、鍛錬をやめて剣を小脇に駆け寄ってくる。

 

「何の話をしてたんだ?」

「ほらパウロ、今日のルディに何か言うことはないの?」

「男としての甲斐性が試される時ですね」

 

 妻とメイドからの言葉にたじろいだパウロだったが、気を取り直してゼニスに抱かれたルディアを見下ろした。

 髪と目の色以外は愛妻をそのままそっくり小さくしたかのような、まだまだ小さな我が子。不安そうな翡翠の瞳がこちらを見上げてくる。

 その己と同じ色の髪が、見覚えのある髪飾りで括られているのを見て自然と口元が緩む。

 

「ルディ、似合ってるぞ」

「……!」

 

 パウロからにやけ顔で褒められたルディアは、百面相をしたあとにどんな顔を向けたら良いのか分からず、ぱくぱくと口を開閉させた後、そのまま俯いてしまった。

 それが無性にかわいらしく思えて、パウロはゼニスの腕からルディアを抱き上げる。

 

「ルディは可愛い奴だなぁ」

「んなっ……やめ、やめてください! ぶっとばしますよ!?」

「物騒だな!?」

 

 それが照れ隠しだとわかっているが故に、下ろさない。赤くなった顔をどうにか隠そうとしているのがいじらしい。

 対するルディアも、己の感情に戸惑っていた。

 父親に褒められただけなのに、それが妙に小っ恥ずかしい。ゼニスもリーリャも見ているというのに、ついにやついてしまう。

 

(ちくしょう、野郎の腕に抱かれる趣味なんてないってのに)

 

 なのに、だらしなく頬がゆるむのが止められない。

 抱き上げられ、あやすように揺らされる。

 

「父様、下ろしてください! 父様! ……もう!」

「ははは、いやだね」

「いいじゃないのルディ。たまには父親らしいことをさせてあげて」

 

 そうなのだ。

 いくら大人ぶってもルディアは七歳。まだまだ両親に甘えるべき年頃なのだ。勤勉で、水聖級魔術師という肩書きが彼女を大きく見せがちだが。本来なら村の子供たちと遊び、日々の出来事を報告しながら親と戯れるのが普通なのである──丁度、今のように。

 そう言われてみれば、彼らも親としての責務を果たせているのか不安だったのかもしれない。

 

(でも、幾らなんでも恥ずかしすぎる……! 俺ってばこんなにちょろい奴だったか?)

 

 思えば、前世を含めほとんど初めての家族団欒だった。

 無条件に愛を注がれていた乳幼児の頃と違う、自分もその輪の中にいるのだという安心感。それがどうにも心地よく、口角が自然と上がってしまう。

 水聖級魔術を覚えたときよりも、礼儀作法を完璧にやってのけたときよりも、両親が無邪気に喜んでくれているような気がして──嬉しくて、少しだけ泣きそうになった。

 

「ルディは笑った顔がゼニスそっくりだな」

「そう? 目元はあなたによく似てるわよ」

「いいや、このにんまりとした笑い方はお前譲りだ」

「本当ですね。奥様も時折こんな笑顔をなされます」

「なによ、リーリャも。もう」

 

 ルディアを中心に笑いが広がっていく。

 パウロも、ゼニスも、リーリャも笑っていた。

 それが迷惑や心労しかかけることが出来なかった前世では、ついぞ得られなかったものだと気付き、ルディアは少しだけ自分が報われた気がした。

 

(なんだよ、いいもんじゃないか、女の子だって)

 

 少なくとも、毛嫌いしなくたっていいじゃないか、という気持ちにはなった。

 まだまだスカートには抵抗はあるが。

 たまにはこういう格好をしたっていいのかもしれない。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 七歳になった。

 この一年は色々とあった。

 シルフィとの仲が進展したり、パウロが前よりも気安くなったり、ゼニスやリーリャと前よりも距離が縮んだり。

 

 そういえば、妹が産まれた。この一年間で最も大きなイベントだった。

 もうすぐで半年ほど経つ、すくすくと大きくなっている妹たち。

 なんとゼニスとリーリャの子は二人とも女の子だったのである。良かった、男じゃなくて。と、ちょっとほっとしたのは内緒だ。

 ゼニスの子はノルン、リーリャの子はアイシャという名が付けられた。

 二人は同じ日に産まれた。ノルンは逆子、アイシャは早産だったが、それでも今は極めて健康に育っている。

 

「ノルンー、アイシャー。パパでちゅよー」

「うあー!」

「うきゃあー!」

 

 同じベビーベッドに入れられた姉妹を、パウロが変顔であやしている。なんとも見覚えのある光景だ。

 普通に面白いからやめて欲しい。ゼニスとリーリャもくすくすと笑っている。

 ノルンはゼニスに似た金髪、アイシャはリーリャ似のボルドーのような茶髪だ。そしてどちらもパウロそっくりのエメラルドグリーンの瞳である。

 両親の血をしっかり引き継いでいるようだ。性格だけはパウロに似ないで欲しいものだが。

 

 ちなみにゼニスとリーリャが妊娠中の家事は、俺が率先して行った。なんならたまにシルフィも手伝ってくれた。

 じわじわと家事スキルが上がっているのが実感できるぜ。炊事洗濯なんでもござれだ。得意げにしていたら微笑ましいものを見る目を向けられた。解せぬ。

 

 ……とはいえ、だ。

 

「よしよし、ノルンもアイシャもかわいいでちゅねー。将来は母さま達に似て美人になりますよー」

「うーあー?」

「きゃあうー!」

 

 うりうりうり、と頬をつつく。

 なんて愛らしいんだ。ぷにぷにの桜色のほっぺだ。自分にもこんな時期があったのかと思うと感慨深い。

 二人とも首が据わって、アイシャはハイハイができるようになった。ノルンはまだ苦手なようだが、まあ個人差だ。優劣なんてつけんよ。

 

「かわいいいい」

「あっルディずるいぞ! 俺にも抱かせろよ!」

「だめです! この子達は私の子です!」

「俺の子だよ!」

 

 きゃいきゃいとパウロと戯れる。

 ノルン、アイシャ、親権は俺が取って見せるからな。

 だが抵抗虚しくパウロの腕にはノルンが抱かれ、俺の手元にはアイシャだけが残された。なんということだ。

 

「そういやルディ、お前今年で七歳だったよな」

「そうですが?」

 

 ノルンを抱き上げながらだらしなく顔を歪めていたパウロが、ふと思い出したようにこちらに水を向けた。

 

「お前、学校って……必要ないか。うむ、なんでもない」

「……なんです? 学校って」

 

 何事もなかったかのようにノルンと向き直ったパウロだが、俺は聞き逃さなかった。

 指にしゃぶりつこうとするアイシャの頬をむにむにと伸ばしながら反駁する。

 

「あん? 学校ってのはな、城塞都市ロアにある教育機関だ。読み書きだの、算術、歴史、礼儀作法とか教えてくれるんだが……必要ないだろ?」

「まあ、確かに」

 

 読み書き算術は問題ないし、歴史も困らない範囲では知っている。礼儀作法の先生は元近衛侍女のリーリャだ。このまま家に居ても十分な教育は受けているつもりである。

 

「しかし、学校ですか……」

 

 あまりいい思い出はない。

 が、入学するのも悪くないだろう。勉学に不安はないし、人間関係も一から作れる。なにより、学校生活という単語は青春を予感させる。

 今のところ友達も一人しかいないしな。

 

「けっ、やめとけやめとけ。絶対いじめられるぜ?

 なまじお前は優秀だから、能力ないくせにプライドの高い貴族の坊ちゃんから間違いなく絡まれる」

 

 口元をへの字に曲げたパウロは唾でも吐きそうな表情だった。

 きっとパウロにも似たような経験があるのだろう。不良達の番長とかやってそうだしな。

 それに、そうか。貴族だの身分だのあるって事を失念していた。

 きっと自分より家格の高いとこの坊ちゃんより良い成績を取ったらいけなかったりするんだろう。上手いこと機嫌をとりながら、グループのリーダーよりギリギリ下の成績を維持する……うわあ考えただけでめんどくさいぞ。

 

「残念です。可愛い貴族のお嬢様でもいるかと期待したんですが」

「んな期待するような子はほとんどいないぞ。貴族の嬢ちゃんってーのはな、ゴッテゴテに化粧して、ガッチガチに髪固めて、甘ったるい香水ぷんぷんさせてるようなのばっかだからな。

 中にはいい体してるのもいないこたないが、大体はコルセットで誤魔化してるから、父さんも何度か騙されたもんだ……」

「娘にいったいなにを吹き込んでるんでしょうかねこの父は」

 

 しみじみ呟いているが、話している内容は最低だ。

 世間一般の父娘の会話じゃないぞ全く。

 パウロは最近俺にそういうシモの話も構わずするようになった。ゼニスやリーリャには聞かせられないだろうし、野郎とそういう話をする機会に飢えていたのだろう。俺相手だとなんだかシモの話もしやすいらしい。

 まあいいがね。そういう話題は嫌いじゃないし。

 

「てなわけで、学校行くくらいなら冒険者やれ、冒険者。冒険者はいいぞ。迷宮潜ってまで化粧するような女はいないからな。美人かそうでないか一発でわかる。それに大体引き締まった良い体してるから、これと思った相手にハズレは少ない」

「なるほどぉ……つまり、父さまが私に剣術を教えてくれる理由ってもしかして」

「違う! 元々はお前が頼み込んできたんだろうが! そういうのはあと一〇年経ってから出直してきなさい」

 

 ゼニスも冒険者をやっていて出会ったという話だし、パウロの話は実体験からくるものが多い。

 好みドストライクだったようだしな。そら俺に薦めるわけだ。

 

「ちょっとパウロ!? 一体ルディになんの話を聞かせてるのよ!」

「うげっゼニス! 違うぞ、ルディには俺の人生の教訓をだな……」

「アイシャは父さまみたいな人に引っかからないようにしましょうねー」

「んう?」

「おいそりゃどういう意味だ!」

「浮気して家庭崩壊を招くような男に引っかかるなって事ですよ」

「ぐぬぅ」

 

 ゼニスに捕まったままパウロは渋い顔をした。

 どうもあの一件以来パウロの家庭内カーストは明確にゼニス、リーリャ以下となってしまい、父親の威厳がヤバイ。将来的には俺以下になりそうだ。

 ノルン、アイシャも産まれたことで、一〇年後には情けないお父さんの地位を不動のものとするだろう。

 ふむ。俺はこのパウロを反面教師としてカッコイイお姉ちゃんを目指そう。

 

「ルディも! パウロに下品な話されたら言いなさいって言ったでしょ!」

「わわわ、父さま! 今日は剣術の稽古まだでしたよね!? 先に庭に行ってますから!」

 

 アイシャをベビーベッドに戻すと一目散に逃げる。こうなったゼニスはめんどくさいのだ。

 庭で木剣を枕に寝転がっていると、上手いことノルンをゼニスに押し付けたのだろうパウロが逃げてきた。憮然とした表情で木剣を携えている。

 いかんな、雑に扱いすぎたか。

 

「いやーノルンもアイシャも可愛いですね、将来は父さまに似て凛々しい感じの女の子になるかな?」

「持ち上げても厳しくするのは変わらないぞ」

「横暴だ!」

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 とりあえず学校には行かないとパウロには言ったものの。

 魔術が行き詰まっているのは確かなんだよなあ。

 実際問題俺の魔術の腕は、ロキシーの卒業試験を受けた二年前から然程上達していない。

 いやもちろん、何もしていないと言うわけではない。

 戦闘用の魔術のバリエーションも増やしている。咄嗟に放てる魔術の幅も増えた。五年……いや八年以内のパウロ打倒を目指してな。

 そりゃ日々の訓練の甲斐あって魔力総量も増えたし、魔力制御もどんどん素早く精密に出来るようにはなったが、その成長速度は以前よりは確実に緩やかだ。

 考えてみれば確かに、自分で四苦八苦するよりも他者に教えを乞う方が早く成長できる、というのは理に適っている。

 

 ただ、学校かあ、と上の空でぼやいたのをシルフィに聞かれてしまった。

 ルディ、学校に行くの? という問いに、

 

「最近行き詰まってるからね。学校じゃなくても、冒険者になるか……」

 

 と、返答の途中に抱きつかれた。

 そしてそのまま泣かれてしまった。

 こんな可愛い子に離れたくないと言われるなんて、なんて罪な女なのかしら。

 私はどこにも行かないよ、と言いながら背中に手を回す。

 まあいっか。これ以上成長したところでなんになるんだ。今の所生活するのに困ってないしな。

 このままブエナ村でシルフィと居ればいい。

 互いに属性の違う美少女に育って、末永く百合百合して暮らすのだ。

 

 

 

 そう決意した晩、ロキシーから手紙が届いた。

「おおいルディ、ロキシーちゃんから手紙が届いたぞぉ」というパウロの言葉に俺のテンションが振り切れてしまったのは想像に難くないだろう。

 開封するなり手紙に鼻を押し付けて深呼吸したのはやり過ぎだったかもしれない。

 

 円筒状の書簡に入れられた手紙は、彼女らしく几帳面な時候の挨拶から始まり、その後幾分砕けた文体で近況が綴られていた。

 

 彼女は現在シーローン王国におり、迷宮を単独踏破した後、それで名が売れて期間限定で王子の家庭教師として招かれているそうだ。

 王子が俺ほどではないが優秀なこと、俺と同じくらいスケベなこと、俺と違ってやたら偉そうにしていることが書かれている。

 おのれ。我が神に手を出すとはふてえ野郎だ。もしロキシーを手籠にしようもんなら去勢してやる、と意気込みつつ読み進める。

 そして俺は頭を抱えた。

 ロキシーが水王級魔術を習得したこと、ルディは今頃水帝級魔術師にでもなっていますか? あるいは治癒魔術や召喚魔術に手を出しているのでしょうか、という文面が綴られていた。

 

 ……昼間の決意に釘を刺されたような気分だった。

 このままじゃ、いかんというのですね、師匠!

 

『前にも言いましたが、魔術の事で行き詰まったのなら、ラノア魔法大学の門を叩いてください。

 紹介状がないなら入学試験が有りますが、貴女なら問題なくパスできるでしょう』

 

 と、彼女は進むべき道も示してくれている。

 となれば迷う理由もない。

 いざラノア魔法大学へ!

 

 ……シルフィはどうしよう。

 

 

 

 

 

     ×××

 

 

 

 

 

 剣術の稽古を終え、シルフィとの待ち合わせに行ったルディを送り出して、居間の椅子に座る。

 考えるのは、先日のことだ。

 

 家族が全員揃った朝食の場で、ルディは一つわがままを言ってもいいですか? と突然言い出した。

 嫌な予感に思わずダメだ、と切って捨てたが、流石にゼニスとリーリャの援護が入った。一応聞くだけ聞いてみれば、なんとラノア魔法大学に入学したいとのことだ。しかも、シルフィと二人で。ついては二人分の学費を払って欲しい、とも。

 急に言い出したので面食らったが、思い返せばここ最近、ルディは魔術が行き詰まっていると何度か口にしていた。この間ロキシーちゃんから届いた手紙も関係しているかもしれない。

 無論、ダメだ。そうはっきりと告げた俺を今度は妻達も咎めなかった。

 

 理由は多々あった。

 まず一つめに剣術が途中。

 半端に習ったあとに放り出せば、身体の成長につれ余計な癖が染み付いたりして、剣士として致命的なレベルのハンディを背負うことになる。二度と剣が持てないとは言わないが、長い長いリハビリを必要とするだろう。

 二つ、即物的な話だが金銭問題だ。

 うちは仮にも貴族だがあくまで下級騎士。収入は安定しているが限度はある。ルディだけならともかく、ノルンとアイシャも産まれたのに二人分の学費を支払うだけの余裕はない。ゼニスも治療院で手伝いをしているがそれを当てにするのもお門違いだ。

 三つめは年齢的な話だ。

 妙に早熟してはいるものの、ルディはまだ七歳。口減らしに奉公に出すというならともかく、まだまだ親といるべき歳である。

 

 そう理由をこんこんと列挙した結果、学費は自分で稼ぐから仕事を斡旋してくれと言い出した。こうなることを見越していたんだろう。

 一応前向きに返答したものの、やはり親としては反対する気持ちの方が大きい。

 それに、ロールズにも相談はされていたのだ。最近のシルフィはルディにずっとついて周り、何をするにも一緒だ。もちろん二人の仲が良いのもあるのだろうが、それ以上にシルフィがルディに依存している節があった。

 このままでは、シルフィはルディなしでは生きられなくなってしまうのではないか、という危惧だ。操り人形のように育って、もしルディがシルフィから離れたら、シルフィの将来は決して明るくはないだろう。

 一度引き離すべきだ。

 そう思えば、仕事を斡旋するというのも吝かでもない。無論、ブエナ村から離れてもらうが。

 

 手紙も書けた。

 奴は古馴染みだ。下げた頭をもう一度下げ直さなければならないと思うと気が進まないが、これも愛娘の未来のためか。構うまい。

 

 




ルディ子幼年編終了
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