??? side
「ハア……ハア……」
私はどこで間違えたのだろう。あの日、“ツヴァイウィング”のライブに行ったのがそもそもの間違いだった? それとも、こうして生き残った事自体が間違いだった?
ツヴァイウィングのライブで起きた惨劇。それに伴った生存者へのバッシングが始まってから、私の日常は大きく変わった。
どれだけ酷い目にあっても、誰も助けてくれない。唯一私を庇ってくれた親友も、何処かへ引っ越してしまった。
(何であの人が死んで、貴女なんかが生き残っているのよ! この人殺し!)
「人殺し……か……」
そういう言葉を投げつけられるのも一度や二度じゃない。
私への迫害は家族にも及び、お父さんもそれに耐えきれず、とうとう家を出ていってしまった。
……私の家も誰かに火を付けられたらしく、焼けてしまった。あの時のお母さんとおばあちゃんの疲弊しきった顔はとても辛かった。
だから逃げた。力の限り、走り続けた。でも、もういいかな……。
世界が私の死を望んでいる。私という壊れた人間の死を、みんなが臨んでいる気がした。
「……ん?」
ふと、私の目の前に変な鞄が置いてあるのが見えた。鞄には妙な髪が挟まっている。
「……まきますか……? まきませんか……?」
どういう意味だろう? 人の鞄を勝手に開けるなんて、間違ってるということはわかっている。────でも、不思議と開けなければという感情が湧き上がってくる。
私は覚悟を決め、鞄を開いた。
「────綺麗」
そこにあったのは白銀の髪が綺麗な人形だ。ゴシックロリータ調のドレスを着ており、足元は黒のブーツを履いている。
「この薇を巻けばいいのかな?」
私はその人形の薇を巻いてみた。すると、人形はカタカタと動き出し、黒い翼を羽ばたかせた。
「……なに? 貴女が私の薇を巻いたの? 何だかつまらないカンジぃ……」
黒い羽をばら撒きながら、人形はまるで嘲るように笑う。これ、夢? 私、夢を見ているのかな?
「貴女は何?」
「フン、何だっていいじゃない? これから死ぬ貴女には関係ないんだから。さっさとこの指輪を嵌めてもらうわよ」
「……死?」
「そうよ。貴女はねぇ、私の糧となるの。────アリスゲームを制するためのね」
「……アリスゲーム?」
「そう。私は他の姉妹みたいに選ばれるのを待つなんてしないの。私が選び、私が決める。私は姉妹の中でも特別すごいのよ。契約しようとしまいと人間の力を奪うことができる。だぁれも私からは逃げられない。契約を結んだら、それこそ人間の力を根こそぎ奪えるのよ。そうすれば、貴女は死んじゃうかもねぇ?」
死ぬ……。そうか。やっと私、死ねるんだ……。
「……貴女、何笑ってるの?」
「え?」
眼の前の人形さんは困惑した様子で私のことを見ている。どうやら私は自分でも気づかない内に笑っていたみたいだ。
「……私みたいなのは、生きてても死んでても関係ない……むしろ、死んだほうがいいって、ずっと思われていたから……」
「はあ?」
「……私ね、壊れた子なの。折角治ったと思ってたら、家族をバラバラに引き裂いちゃったの」
私は眼の前の人形さんに話した。
“ツヴァイウィング”のライブに行ったこと。ノイズに襲われたということ。生き残って、リハビリを頑張って、家に帰ったら、生き残りに対する迫害が始まったこと。唯一心の支えとなっていた親友が引っ越してしまったこと。人形さんはそれらのことを静かに聞いていた。
「────それでね、その迫害が辛かったんだと思う。お父さんが、私達を置いて、何処かに行っちゃったんだ……」
「……お父様が?」
人形さんは何やら驚いたようで、紅い瞳を大きく見開いていた。
「うん。そして、最後は家に火をつけられて……それでやっとわかったんだ。私は生きてちゃ駄目な存在だったんだって……そんな壊れた子が死んでも、誰も何も言わないよ……」
「────フフフ、そうね。確かにその通りだわ! お父様に棄てられるほどの
人形さんはそういいながら、笑い出す。その笑顔はゾッとするほどの威圧感を放っていた。
人形さんは紅い瞳を私に向ける。何もかも見据えるような、鋭い瞳に睨まれて、少しだけ怖いと感じた。
「いいわ。貴女、気に入ったわ。…………まだ他の姉妹は目覚めていないようだし、アリスゲームが始まるまでの暇潰しに、貴女を観察するのも面白そうね」
人形さんはそう言うと、私の側に座り込んだ。底から感じる温度はとても暖かく思えた。
「……私、立花響。人形さんは何ていうの?」
私の言葉に人形さんは立ち上がり、綺麗なお辞儀をする。
「私は水銀燈。誇り高きローゼンメイデンの第1ドール。よろしくね、父に捨てられた憐れな
人形さん────水銀燈は嘲るような────でも、どことなく憐憫と同情を込めたような声音でそう言った。
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「あら、また不快な雑音が現れたわね。────で、貴女は相も変わらずそれを潰すわけ? 意味あるの、それ?」
「意味なんてないよ。壊れたものは戻らない。だからこれは、ただの八つ当たり」
あれから二年が経った。私は一度も家に帰らず、ずっと戦い続けてる。
私を
「あらそう。まあ、私も暇していたわけだし、アリスゲームが始まる前に感が鈍るのも良くないしね……暇潰しに手伝ってあげる」
「……ありがとう。水銀燈」
「やぁねお礼なんて気持ち悪い。言ったでしょ? これはただの暇潰しよ」
私は少し照れたようにそっぽを向く水銀燈に少し微笑ましさを感じ、戦うための唄を紡ぐ。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
唄を紡いだ瞬間、私の背中から機械と歯車で構成された翼のような何かが幾つも生えては心臓の鼓動に合わせ、私の身体に纏わりつく。
それらは眩い光となり、やがて全身にあの時の“ツヴァイウィング”と同じプロテクターのようなものが展開された。
私はそれを確認し、眼の前のノイズを見据える。
「……行こう。水銀燈」
「ちょっと。命令しないでよね」
私は拳を。水銀燈を翼を構え、私達はノイズ達に向かって駆け出した。
続かない!
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