三人称side
「我らは機械。心なき道具。
それはまさしく世界の終わりと呼ぶにふさわしい光景だった。
永い永い時を隔てた大戦を終わらせるための策。
星をも滅ぼす力の奔流は世界に穴を開け、一機────否、一人の
「【疑問】ここは一体……?」
機凱種の少女はつぶさに周囲を観察、解析を開始する。
解析を始めた次の瞬間に気づいた。天から降り注ぐ恵みの光に。
「【推測】恐らく、アレが太陽」
ならば、これが本来の空の風景だというのか……否、それにしては少し歪さを感じる。
何せ、太陽の光のすぐ隣では、通常ではありえない軌道で曲がる竜巻……そして、天から降り注ぐ“飴”の雨が垣間見えるのだから。
「【解析】飴玉と推定……何故、空から?」
天から落ちた飴玉を解析した少女は摩訶不思議な現象に首を傾げる。
天から食物が降ってくるなど、“人類種”や“
「カロロロロ…………」
「────っ!?」
瞬間、地面が裂ける!
異変を察知した少女はブースターを駆使し、跳躍することで難を逃れる。
少女は真っ直ぐと自らを捕食しようと目論んだ生命体を無機質な瞳で見据えた。
「【疑問】精霊反応なし……つまり、魔法ではないにも関わらず、“
事実である以上認めざるを得ないが、“心”を得た機械は信じられない気持ちを抱えながら、眼前の脅威を見つめる。この場に来てから、“
にも関わらず、眼前の生命体は自分の眼を欺いたことになる。それも、地面を越え、山すらも人撫でで裂くほどの凶獣がだ。
そして────
「【驚愕】やはり、精霊の反応は存在しない。ここは精霊そのものが存在していない?」
周囲の精霊反応は一切見られない。まるで、自分の住んでいた場所とは法則そのものが異なっているかのように。
「【推察】ここは……私たちがいた世界とは全くの別世界?」
もしそうであれば、精霊がいないことにも説明がつく。
それと同時に、ピンチであるということも認識できた。
「【確認】貯蔵していた残存の精霊、許容量の52%。これでやるしかないか」
少女はまず逃走を考える。しかし、すぐさまその考えを却下する。何せ、あれほどの気配遮断能力に速度を誇る怪物だ。むやみに背を向けたり、転移のために立ち止まったりしていては一瞬で殺されるだろう。
ならばやるべきは戦闘だ。
もしも精霊が尽きれば自らは攻撃手段を失い、成す術なく殺される。それでも、やるしかない。
絶望的な状況を戦い抜いた“
「【
少女が選択したのは龍精種最強の一角『焉龍』アランレイヴ。その“
「────っ【驚愕】あの直撃を受けて、その程度の損傷!?」
ダメージはある。だが、致命傷には至ってない。
獣は今の一撃を受けて頭にきたようで、怒りを込めた瞳で少女を睨みつけていた。
「【観測】傷の修復する様子はなし。どうやら、修復機能はなさそう。でも」
だからなんだというのだ。眼前の存在から放たれる威圧感は、それこそ”天翼種“にだって引けを取らない圧倒的存在感だ。
それを肯定するかのように、獣は筋肉を肥大化させ、一瞬で跳躍し、上空にいた自分の元に迫ってきた!
「【典開】【
咄嗟に防御不可能と判断し、少女は“防ぐ”ではなく“逸らす”ことを目的とされた武装を発動する。
神撃をも逸らしたその力は牙を剥く獣の攻撃を逸らすことは容易いこと。それでも、獣は怒りに身を任せ、即座に軌道を修正し、何度も何度も攻撃を仕掛けてきた!
「【把握】かなりマズイ。もう精霊が尽きかけている……」
このままではなぶり殺しにされるのは目に見えている。
これは“龍精種”────いや、“神霊種”にも匹敵しかねない真性のバケモノであると認識できる。
少女は思う。精霊ももうすぐ尽きる現状、当機の生存確率はほぼゼロであろう。
おそらく、心を得る前ならば何もかも諦めて勝負を投げだしていたのかもしれない。
「【奮起】
あの人のために死ぬのならば構わない。だが、こんな訳の分からない状況で死ぬのはまっぴら御免だ。
彼女は再度武装を展開し、玉砕覚悟で眼前の脅威を取り払おうとした────その時だった。
「美味そうな“グラスサーベル”だな。二狼も三虎も喜びそうだ」
突如、誰かの声が耳に入る。声の下方向に視線を向けると、宙に浮く何かが此方に構えていた!
「千切箸」
ズバァァァンッ!
瞬間、獣が両断される!
少女は驚愕の瞳で現れた新たなる存在に目を向ける。
筋肉質ながらも、見覚えのある姿形。それは紛れもない、彼女の知る“人類種”の姿だった。
「大丈夫か、お前さん? ピンチのようだったが、怪我とかないか?」
「……【疑問】人類種? どうして空を飛んでるの?」
「ん? そりゃ、俺の能力の応用……というか、なんだお前? 機械でできた女の子? こんな種族いたのか? どこの大陸の文明だ? ここ……“エリア5”の住人か?」
人類種(?)らしき色黒の青年は静かに此方に近づきながら、自らを観察しだした。
殺意や敵意は感じられないが、いつ状況が変わってもおかしくない。
先ほどの獣を殺したのは間違いなく眼前の人類種だ。それほどの力を持つ人類種がいるという事実に、やはり自分の仮説は間違っていなかったと少女は確信するのだった。
「【否定】私はこの“エリア5”とやらの住人ではない。そして、この世界の住人でもない」
「は? この世界の住人じゃない?」
少し困惑した表情の青年。表情豊かな様子から、少し毒気を抜かれつつも少女は続ける。
「【肯定】私、多分こことは法則の異なる異世界から来た」
「……マジカ、そんなことあるのか? あ、でもアカシア先生が以前別の宇宙がどうたのって話してたし、それに近いのか……?」
青年は二十メートル以上の巨大を誇る獣を片手で抱えながら、考え込むような素振りを見せている。
その力に少女のほうが疑問を持った。
「【質問】貴殿は人間?」
「俺? ああ、人間だが?」
「【懐疑】人間にこれほどの力はないはず?
「嘘なんかつかねえよ。まあ、俺の場合特別なんだよ」
「【疑問】特別?」
「ああ。俺にはグルメ細胞っていう、普通の人間より強くなれる細胞があるからな」
グルメ細胞……聞いたことのない単語だ。
それに興味を持った少女はそれが何かを問おうとする。だが、その前に青年の言葉に遮られた。
「まあ、そんなことはどうでもいい。コイツ、一緒に食わないか?」
「……? 【疑問】なぜ?」
「何故って……そんなの、誰かと一緒に食べたほうが上手いに決まってるからだろ。あ、アンタ機械だけど物食べられるよな?」
「【肯定】食物の摂取は問題ない。しかし、必要もない」
「必要ないて……まあ、食べてみな。コイツの肉はうまいからさ」
そう言いながら、指パッチンで火を起こした青年は獣から肉を切り取り、それを炙り出す。
肉汁とともにいい匂いが漂ってきたのを感知した少女は驚愕とともに肉を見つめる。
「ほれ、熱いうちに食べようぜ。あ、弟達に残さないとだから全部は食うなよ。では、いただきます」
「【疑問】“いただきます”? それはなに?」
青年は少女の言葉に信じられないと行ったふうに驚愕の瞳を向ける。
「“いただきます”は食事の前の感謝の言葉だよ。アンタの世界にはないのか?」
「【肯定】聞いたこともない」
「なら教えてやる。“いただきます”ってのは、命をいただくこと────しいてはこの世のすべての恵みに感謝するための言葉さ」
「────“感謝”?」
「ああ。海に大地、俺達は星に生かされている。だからこそ、その恵みを頂くときは感謝の言葉を述べなくちゃならん。命を頂き自らの血肉となってくれた生き物に感謝しなくちゃならん。だから、感謝を込めて“いただきます”を紡ぐんだ」
「命を……いただく……」
少女は青年の言葉を聞き入れ、手を合わせて青年の真似をする。
自分を食おうとした存在に感謝する。矛盾してるように感じるが、それでも青年の言葉には不思議な魅力を感じた。
「【感謝】いただきます」
そう言いながら、少女は肉を口にする。
────っ!?
瞬間、肉が一気に弾けた! 口の中で溢れる旨味はセンサーを駆け抜け、一気に心に響いた!
美味い! ナニコレ!?
気づけば少女は一気に肉にがっつく! 今まで、食事に意味など感じてすらいなかったはずなのに、今は手が、口が、止まろうとしてくれない!
どうやら、
「お、いい食いっぷりだな」
「【驚愕】こんな美味しいの初めて食べた!」
「そうか、でもフローゼ様の料理はこれよりも美味いんだぜ」
これより美味い!? そんな物がそもそもこの世にあるの!?
少女は目を見開きながら、青年を見つめる。嘘をついた反応は一切ない。つまり、この青年は事実を在るが儘にいっているだけなのだ!
「あ、そういえばアンタ、名前は?」
「【解答】当機は個体識別番号Cc294Ak59O48d6」
「なにそれ名前!? シーしかわかんなかったぞ!?」
「【肯定】」
マジカ……と何やら可哀想なものを見る目で見つめられる少女。
そんな同情的な視線に少し腹が立ってきた。何がそんなに不思議なのやら。
「【提案】そんなに変だと思うなら、貴方がつけて」
「俺? ドンスラについで二人目だな名前つけるの……」
う〜んと唸りながら考え込む青年。そんな青年に気にせず、少女は黙々と手を進める。
「ん〜じゃあ、“四花”なんてどうだ。俺達三兄弟なんだけど、シーで丁度四だし、女の子っぽく花とかつけてみた! どうだ!」
四花……なるほど、悪くない。
「【満足】気に入った」
「よし!」
少女の言葉に青年は嬉しそうにガッツポーズを取る。
その様子からは、先ほどの恐ろしさすら感じる強さは一切感じられない。
そのギャップに少女は少しおかしさを感じ、自分でも気づかないうちに笑みを浮かべていた。
「【疑問】そういえば、貴方の名前は?」
「あ、そういえば言ってないわな」
ハッとした青年は改めて四花と向かい合い、正面から名を名乗る。
「俺は一龍。美食屋だ! よろしくな、四花」
そう言って差し伸べられた手を四花は迷わず取った。
これが若き清らかなる龍と機械の花のファーストコンタクトであった。
オリジナル猛獣
グラスサーベル
爬虫哺乳獣類
捕獲レベル1950
カメレオンとサーベルタイガーの特性を併せ持つ獰猛な獣。
体色の変化で透明化し、気配を完全に遮断することで音もなく獲物を狩る狩人。
現在の一龍はまだ八王には及ばないものの、捕獲レベル3000程度の猛獣とならば互角に戦えるレベル。少なくとも、2000以下の猛獣は歯牙にかけない。
連載してほしいのは?
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機凱種と龍のグルメロード
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俺はキャロル。獅子座のキャロルだっ!
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シャンフロ〜配信者、神ゲーに挑まんとす〜
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翳り裂く戦姫と黒薔薇と
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魔法霊媒シャーマン☆マギカ