はんたーの読切集   作:はんたー

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デート・ア・オレカ(デート・ア・ライブ×オレカバトル)

 ??? side

 

 

 

 

「はあ……はあ……」

 

「いたぞ! あそこだ!」

 

「くそっ! 一体なんなんだよぉ!?」

 

 蛙のような鳴き声の不思議なフォルムのトカゲを抱えながら、五河士道は走っていた。彼の背後には『黒き鎧の騎士』『赤い暴れ牛』『三ツ首の犬』が迫っている。

 

「逃がさんぞ! ケロゴンを渡してもらおうか!」

 

「ぐっ!」

 

「ケロ……」

 

「大丈夫だ! もうすぐで山を降りられるはずだ。そうすれば……」

 

 五河士道がここに来たのはただの偶然。たまたま森で迷子になり、たまたま謎の生き物たちの邂逅を見てしまっただけ。

 謎の存在はこれまた謎の存在であるケロゴンと呼ばれたオレンジ色の蛙トカゲを今にも打ちのめさんと剣を、牙を、角を突きつけていた。

 それを見た士道は自然と体が動いた。怯えながらも三体を睨みつけていたケロゴンを助けんと動き出したのだ。

 そして現在、士道は走って町まで逃げようとしていた。

 

「いっ!?」

 

 ズシャッ! 

 

 士道はぬかるみに足を取られ、大きく転倒する。

 

「ふん……運の悪いことだな……」

 

「はあ……はあ……くそっ!」

 

 その隙を逃すはずもなく、黒き鎧の騎士はその巨大な斧を士道の脳天に振り下ろさんとする。

 士道は眼前に死が迫るのを肌で感じ、恐怖する。

 

「恨むのなら、己の不幸を恨むことだ! 死ね!」

 

「うわあああああああっ!」

 

「ケロッ!」

 

 ドンッ! 

 

 その時、ケロゴンは黒い鎧の騎士に体当たりをし、軌道をずらす。斧は士道の服をかすめ、地面に深い傷跡を立てた! 

 

「ケロッ!」

 

「お前……」

 

 闘志を燃やすケロゴンは士道を守らんと三体の怪物の前に立ちふさがる。

 それを見た黒騎士は鼻で笑うかのように再び斧を構える。

 

「愚かな。大人しくしていれば楽に死ねたものを……」

 

 殺意を放つ黒騎士。だが、ケロゴンは尚も相手を睨みつけている。

 それを見た士道も覚悟決めた。こんな小さいやつが自分を守ろうとしてるのに、ビビってどうする? 

 こんなところで死んだら、家で待ってる可愛い妹はどうなる? 

 

「そうだ。こんなところで死ぬわけにはいかねえ……」

 

『その意気やヨシだぜ〜!』

 

「「「っ!?」」」

 

 

 瞬間、ケロゴンの持つ玉が光り輝く! 

 

「な、なんだ!?」

 

 眩い光に士道は目が眩む。その閃光は徐々に落ち着いていき、再び士道が目を開けると────

 

「……た、宝……箱?」

 

 目の前には不思議な赤い宝箱が鎮座していた。

 

「き、貴様は!?」

 

 その赤い宝箱を見て狼狽える黒騎士。だが、宝箱は彼には目もくれず、士道と向かい合っている。

 

『よお〜俺はパンドラ。この世界とは別の世界から来たカッコいい宝箱だぜ〜』

 

「ぱ、パンドラ……?」

 

『細けえことは後回しだ。お前、オレカバトルに興味ねえか〜?』

 

「お、オレカバトル?」

 

『ああ。まあ、興味があろうがなかろうが、今オレカバトルをしねえと死んじまうかもだぜ〜』

 

 聞いたこともない単語に士道は困惑する。だが、黒騎士達が警戒するようにこちらを見ていることから、この宝箱は自分が助かるための何かしらの鍵を握っているのだと士道は直感した。

 

「よくわからないけど、それをすれば俺達は助かるのか?」

 

『さあな。それはお前と()()()()()()()()()()()()()()()だな。まあ、安心しろよ〜初心者サービスってことで、ちゃんとお前の仲間を用意してやるからよ〜』

 

 仲間がどうとかわけの分からないことばかりだが、士道は生き残るために覚悟を決める。

 

「わかった。いや、わかってないけど、やる!」

 

『いい返事だ。じゃあ、早速カードを取ってくれよな〜!』

 

「!? させるか!」

 

 パンドラの言葉を聞いた黒騎士は焦ったように攻撃をする。だが、その攻撃は不思議な壁に遮られてしまう! 

 その隙にパンドラは口(?)から三枚のカードを士道に渡した。

 

「さあ……カードをスキャンしてくれよな〜!」

 

「わ、わかった! こうか!」

 

 カッ! 

 

 士道は三枚のカードをパンドラの鍵穴にスキャンする。すると、眩い光とともに魔法陣が現れた。

 これが、五河士道に訪れた一つ目の運命の分岐点だった。

 

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 士道side

 

 

 

 

「あー……」

 

 寝起きの気分は最悪だ。

 考えても見ろ。起きたとき自分の腹やら胸やら頭やらを踏みつけながら、妹が情熱的にサンバのリズムを刻んでいたら、そりゃ一部の特殊な人間以外は皆不快に思うだろう。

 俺は目をこすりながら、低くうなるような声で言う。

 

「あー、琴里よ。俺の可愛い妹よ」

 

「おお? なんだ? 私の可愛いお兄ちゃんよ!」

 

 琴里は足をどける様子もなく答える。朝っぱらから人を踏みつけにしてる割には後ろ暗さも見受けられない。なんて奴だ。

 

「いや、降りろよ。重いよ」

 

 琴里は大仰に頷くとベッドから飛び降りた。士道の腹をおもいっきり踏みつけボディブローのような衝撃を残して。

 

「ぐふっ!」

 

「あははは、ぐふだって! 陸戦用だー! あと二体でジェットでストリームなアタックができるぞー! あはははは!」

 

 痛え……俺は腹を擦りながら時計を見て、改めて布団を被りなおした。

 

「あー! こらー! なんでまた寝るんだー!」

 

「あと10分……」

 

「だーめー! ちゃんと起きるのー!」

 

 琴里が声を張り上げて、俺をゆっさゆっさと揺する。

 ただでさえ、起き抜けのぼうっとした頭がシェイクされるかのような感覚だ。少し気持ち悪い。

 俺ももう少し寝ていたいし、仕方がない。ここはこの手で行くか……。

 

「に、逃げろ……」

 

「え?」

 

 突然の俺の言葉に琴里は呆然とする。それに構わず、俺は言葉を続ける。

 

「……実は俺は『とりあえずあと一〇分寝ていないと妹をくすぐり地獄の刑に処してしまうウィルス』、略してT–ウィルスに感染しているんだ……」

 

「な、なんだってー!」

 

 琴里が、なんか宇宙人の隠されたメッセージを知った人のように驚く。

 

「逃げろ……俺の意識があるうちに……」

 

「で、でも、おにーちゃんはどーなるんだ!?」

 

「俺のことはいい……おまえさえ助かってくれれば……」

 

「そんな! おにーちゃん!」

 

「がーっ!」

 

「ギャ──────っ!」

 

 俺は布団を吹き飛ばして両手をわきわきさせながら叫ぶ。

 すると、琴里は凄まじい悲鳴を上げて逃げていった。

 

「……ったく」

 

 息を吐き、再び布団を被り直す。時計を見てみると、まだ六時前であることがわかった。

 

「なんて時間に起こしやがる……」

 

 そこまで言って俺は思い出す。

 

「……あ、そういえば父さんと母さん出張に行ってるのか」

 

 それでしばらくの間俺が朝飯作ることになってて、寝起き悪いから琴里に朝起こしてくれるように頼んで……ああ、少し悪いことしたな。

 取り敢えず、俺は起き上がって机の上に飾ってあるケロゴンに挨拶する。

 

「おはよう、ケロゴン」

 

「ケロ」

 

 ケロゴンは普段はぬいぐるみに偽装して俺の机の上にいる。一年もの間琴里達にもバレておらず、偽装は完璧と言っていいだろう。

 

「お前たちもおはよう」

 

 そして俺は十数枚のカードに挨拶する。カードに挨拶するところとか、琴里に見られたら白けた目で見られる────というか、実際見られたこともある。

 それを思い出して苦笑しながらも俺はカードをしまい、リビングに向かう。

 リビングではテーブルが倒されてバリケードができてる。どんだけビビってんだか。

 取り敢えず、俺は琴里をなだめながら朝飯の用意をする。

 琴里は日課の占いを見ており、俺はそれを眺めながら卵を取り出す。

 

『──今日未明、天宮市近郊の──』

 

「ん?」

 

 いつもはBGMくらいの役割しか果たさないニュースの内容に、眉を跳ね上げる。 理由は単純。明瞭なアナウンサーの声で、聞き慣れた街の名前が発せられたからだ。

 

「うん? なんだ、こっから結構近いな。何かあったのか?」

 

 カウンターテーブルに身を乗り出すようにしながら目を細め、画面に視線を放る。 画面には、滅茶苦茶に破壊された街の様子が映し出されていた。 建造物や道路が崩落し、瓦礫の山と化している。 まるで隕石の衝突か空襲でもあったのかと疑いたくなるような惨状だった。

 

「ああ……“空間震”か」

 

 空間震とは空間の地震と称される、広域震動現象だ。

 発生原因不明、発生時期不定期、被害規模不確定の爆発、震動、消失、その他諸々の現象の総称である。

 まるで大怪獣が気まぐれに現れ、街を破壊していくかのような理不尽極まりない現象だ。

 まあ、今では空間震の兆候を事前に察知することもできるようになってるし、地下シェルターも充実してる。

 極めつけとして自衛隊の災害復興部隊なんてものもある。

 被災地に赴き、崩落した施設、道路などを再建することを目的に組織された部隊らしいけど、滅茶苦茶に破壊された街をわずかな期間で直してしまうのだから、その仕事ぶりはまさに魔法としか言いようがない。

 まあ、街の修復が早いからといって空間震の脅威が薄れるわけでもないけど。

 

「……なんだか、ここら辺一帯妙に空間震が多くないか? 去年くらいから特に……」

 

 まさか、空間震も奴らの仕業……ってことはないよな? ありえない話でもなさそうなのが怖いな。もし、そんなヤツと戦う日が来るとしたら、覚悟決めないといけないかもしれない。

 

「うーん、そうだね。ちょっと予定より早いかなー」

 

「早い? 何がだ?」

 

「あんでもない」

 

 少し気になるが、それよりも気になるのが琴里の食べてるものだ。コイツ、朝メシの前なのにチュッパチャプス食べてる。

 

「飯の前にお菓子は食べるなって言ってるだろ……ちゃんと飯も食うんだぞ」

 

「おー」

 

 琴里の返事を聞いた俺は朝食を机に並べ、いただきますをしてから口に運ぶ。

 

「お兄ちゃん、準備は完了したか??」

 

「ちょっと待て」

 

 朝食を終えた琴里は中学校の、俺は高校の始業式に行こうとして、制服に着替えた。

 俺はケロゴンをカバンに入れ、いそいそとカードを持ってることを確認して扉を開ける。

 

「そのカード、お兄ちゃん本当に大切にしてるわよね。ぬいぐるみもわざわざ始業式に持ってく? 普通?」 

 

「まあ……でも、このカードもぬいぐるみも大切なものだからな。肌見放さず持ち歩きたいんだよ」

 

 実際、いつ魔王軍が襲ってくるかわからないし、ケロゴンも寂しがるからな。

 

「全く、この間はカードに語りかけてたし、いつからそんなふうになってしまったんだか……」

 

 う、見られてたか……。まあ、カードの状態だとアイツラの言葉は俺にしか聞こえないわけだし、傍から見ればやばいやつだもんな……。

 

「そういえば、今日はお互い始業式だし早めに終わるよな……折角だし昼は外で食べるか」

 

「おぉっ! 気が利いているなお兄ちゃん!」

 

「何かリクエストとかあるか?」

 

 琴里は思案するように頭を揺らしてから、シャキッと姿勢を正して。

 

「デラックスキッズプレート!」

 

 いつも行ってるファミレスで出しているお子様ランチか。ブレないな。

 

「んじゃ学校終わったらいつものファミレスで待ち合わせな」

 

 俺がそう言うと、琴里は興奮した様子で手をブンブン降っている。

 

「絶対だぞ! 絶対約束だぞ! 地震が起きても火事が起きても空間震が起きてもファミレスがテロリストに占拠されても絶対だぞ!」

 

「いや占拠されてちゃ飯食えねえだろ」

 

「絶対だぞー!」

 

「はいはいわかったわかった」

 

 我ながら少し甘いと思いながらも、今晩からしばらく自分が台所に立つことになるしな。これくらいはいいだろう。

 俺自身、いつ来るかわからない敵と戦ってるわけだし、少しくらいは楽したいものだしな。

 

『デラックスキッズプレートか……』

 

『私……食べてみたい……』

 

『グルルッ』

 

「我慢してくれよ……向こうに行ったら少しくらいなら作ってやるからさ」

 

『やった! シドーの料理はうまいからな!』

 

『次は何時……こっちにくるの……?』

 

「行くのも、呼び出すのもわからないよ」

 

 少なくとも、琴里を一人にするのは不安だから当分は向こうの世界に行けないだろうし、先ほども言ったように敵も何時来るかはわからないからな。

 そういえば、あのファミレスは珍しく持ち帰りができたんだったか……。少しくらい買ってもいいかもな。

 そう考えながら、俺は学校へと向かった。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

「二年四組、か」

 

 張り出されてるクラス表を確認した俺は教室に入る。

 ホームルームまでは少し時間があったが、すでに多くのクラスメート達が同じクラスになった事を喜びあったり、一人机についてつまらなそうにしていたり、さまざまな反応をしている。

 

「────五河士道」

 

「ん?」

 

 後方から聴こえた抑揚のない声。

 振り向くと、そこには細身の女の子が立っていた。

 肩口をくすぐるくらいの銀色の髪。人形のような端正な顔立ち。それでいて、表情がまるでない。本当に人形みたいだ。

 確か……鳶一折紙という名前だったはず。学年で首席の成績を修める才女、運動神経も抜群で、その美貌も相まった文武両道の完璧超人。

 特に接点が無いはずだけど、なんだろう? 

 

「 えっと、鳶一さん? なんで俺の名前知ってるんだ……?」

 

 話したこともないクラスメートのことなんか覚えてないと思ってたんだけど……俺がそう訊くと、鳶一さんは不思議そうに首を傾げた。

 

「覚えていないの?」

 

「……えっと?」

 

「そう」

 

 俺が言い淀んでいると、鳶一折紙は特に落胆することもせず、短く言って窓際の席まで歩き、そのまま椅子に座ると机から分厚い技術書のようなものを取り出し読み始めた。

 

「なんなんだ……?」

 

 あの反応……何処かであったことあるのか? そんなこと考えてると────

 

「とうッ!」

 

「げふっ」

 

 ぱちーん! と、見事な平手打ちが背中に叩き込まれた。

 

「ってぇ、何しやがる殿町!」

 

 軽く涙目になる俺。犯人は既に分かっているので背をさすりながら叫ぶ。

 

「おう、元気そうだなセクシャルビースト五河」

 

 こいつは殿町宏人。俺の友人で俺と秘密を共有している数少ない仲間の一人。同じクラスになった喜びよりも先にワックスで逆立てられた髪と筋肉質の身体を誇示するように、腕を組み軽く身を反らしながら笑った。

 

「……セク……なんだって?」

 

「セクシャルビーストだ、この淫獣め。いつの間に鳶一と仲良くなったんだ、ええ?」

 

 言って殿町が俺の首に腕を回し、ニヤニヤしながら訊きながら顎をしゃくって窓際の鳶一さんの席を示し、俺も鳶一さんの席を見る。

 ふと、士道の視線に気づいたのか、鳶一さんが目を書面から外しこちらを見る。

 

「……っ」

 

 俺は息を詰まらせ、気まずそうに目を背けた。

 反して殿町は馴れ馴れしく笑って手を振る。

 

「…………」

 

 鳶一さんは別段殿町に何も反応を示さないまま、手元の本に視線を戻した。

 

「ほら見ろあの調子だ。うちの女子の中でも最高最善最大難度、永久凍土とか米ソ冷戦とかマヒャデドスとか天の道を行く美少女とまで呼ばれてんだぞ。一体どうやって取り入った」

 

「イヤ取り入ってなんかねえよ……」

 

 特に接点とかはないし、俺自身去年落としたカードを拾ってもらうという機会がなければ多分名前すら知らなかっただろうしな。

 

「しかもだぞ。鳶一折紙は去年の『恋人にしたい女子ランキング』で第3位になったんだぜ」

 

「そうなのかよ」

 

「ついでに『恋人にしたい男子』もあってな、五河は52位だったからな」

 

「全然嬉しくねぇぞそれ!」

 

「匿名希望さんから一票入っての52位だがな」

 

「なんのフォローにもなってねぇよ!」

 

「まぁ五河は『女の子に興味無さそう』『ぶっちゃけホモっぽい』とコメントがあったがな」

 

「謂われ無き中傷と失礼の極みに死の鉄槌を!」

 

 誰だよそんな事言った奴!? 絶対許さんからな! 

 

『……お兄ちゃん……女の子に興味ないの?』

 

『あ〜ら? そうなの? いい趣味してるのね、シドー』

 

 俺の頭の中で女性陣が驚愕したり面白がったりと様々な反応をしている。

 いや、そんな趣味ねえよ! ちなみに腐女子が選んだベストカップルとやらでは殿町とペアでランクインしてるんだとか……ふざけんな! 

 

「そう言うなよ。一票も入らなくて358位の俺やその他の皆さんからすればうらやましい限りだぜ」

 

「お前358位かよ! なんだその自傷行為!!」

 

「ちなみにコメントでは『愛が重そう』『毛深そう』『足の親指の爪の間が臭そう』でした」

 

「そのランキングってただのワーストランキングじゃねぇか!」

 

「あーあ、俺も彼女できないかな〜」

 

 全くもってバカバカしい。これであの風の魔王様に認められたってんだからビックリだぜ。

 俺は白けた目で殿町を観ながら席に着く。

 

「あっ……」

 

 そこで俺は気づく。何の因果か、件の鳶一さんが俺の隣の席だった。

 

「………………」

 

 鳶一さんは予鈴が鳴り終わる前に本を閉じて机にしまい込んだ。そして視線をまっすぐ前に向けて定規で計ったかのような美しい姿勢を作る。

 ……なんだろう、すごく気まずい感じがする。

 取り敢えず、俺はと同じように視線を黒板の方へやると、教室の扉が開き、そこから縁の細い眼鏡をかけた小柄な女性が現れて教卓についた。

 

「はい皆さんおはよぉございます。これから一年、皆さんの担任を勤めさせていただきます、岡峰珠恵です」

 

 そう言いながら、岡峰珠恵・通称タマちゃんが頭を下げる。

 彼女は社会科担当の教諭でサイズが合っていないのか眼鏡がずり落ち慌てて両手で押さえている。

 贔屓目に見ても生徒と同年代くらいに見える童顔と小柄な体躯とのんびりとした性格で、生徒達から絶大な人気を誇り“タマちゃん”と好意的なあだ名で呼ばれている。

 その証拠に生徒達は小さくざわめきながらも、「タマちゃんだ」「マジで、やったー」と好意的なコメントを出していた。

 

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 それからおよそ三時間が経った。

 

「なあ、五河。飯いかねー?」

 

 始業式も終わったので取り敢えず帰り支度をしていると、殿町が話しかけてきた。

 

「悪い。琴里と行く約束してんだわ」

 

「琴里ちゃんなら問題ねーだろ。俺も一緒に行っていい?」

 

「ん? ああ、別にいいけど」

 

 俺がそう言うと、殿町は俺の方に肘を乗せ、声を潜める。

 

「なあなあ、琴里ちゃんって彼氏いるの?」

 

「いやさ、他意はねえんだが。琴里ちゃん、三つ年上の彼氏とかどうかなって思ってさ」

 

「やっぱり却下だ。来るなお前」

 

「そんな! お義兄様!」

 

「お義兄様言うな気色悪い」

 

「本当よ。まじ引くわー」

 

 そういいながら、誰かがジト目で俺たちを見ていることに気づいた。クラスメートの藤袴美衣。彼女もまた、俺達の秘密を知る仲間の一人である。

 

「ふ、藤……」

 

「三つも年下の子に言い寄るとかまじ引くわ。本当サイテー」

 

「ぐふっ!?」

 

 藤袴の言葉に崩れ落ちる殿町。何ていうか、相変わらずだな。

 美衣は学校では亜衣、麻衣という似た名前の友人とトリオでいることが多いんだが、一人だけとは珍しい。

 

「別に、私達だっていつも一緒ってわけじゃないし、亜衣と麻衣はこの後家族とご飯食べるんだって。だから、あぶれた私がわざわざこっちに来てあげたのよ」

 

 美衣はふんぞり返りながらそう言う。美衣はそういう予定は立ててなかったため、今暇してるそうだ。

 

「というわけで、あんたらについて行ってあげるわ。感謝しなさい」

 

「いや……」

 

「俺的には琴里ちゃんだけでよかったんだけどな……」

 

「なんか言ったかしら?」

 

 美衣が黒い笑顔で殿町に聞き返す。それを見た殿町はサッと顔を横に背けた。

 ────その瞬間。

 

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥ──────────────

 

「………………っ!? 」

 

 街中に不快なサイレンが鳴り響く。

 見ると、殿町と美衣も驚いたように窓際を見ている。

 

「────空間震警報」

 

 誰かがポツリとつぶやく。それと同時に言葉を一拍ずつ区切るようにした機械越しの避難勧告が鳴り響く。

 

「こんな時に付いてないわね」

 

 美衣の言葉に頷きながら、俺達もシェルターに向かう。

 この街は30年前の空間震によって深刻な被害が起こった為に、幼稚園の頃からしつこいほどの避難訓練をしてきた。故に恐慌状態に陥ることもなく、避難することができるわけだ。

 取り敢えず俺達は避難する為に地下シェルターに向かおうとする。すると、逆方向から一人の女子生徒が走って出てきた。

 

「鳶一……?」

 

 スカートをはためかせながら学校から離れようとするのは、鳶一折紙だった。

 あまりにも突然のことのため、俺はさん付けすることも忘れて叫ぶ。

 

「おい! 何してんだ鳶一折! そっちにはシェルターなんて────」

 

「大丈夫」

 

 折紙は一瞬足を止め、それだけ言って再び駆け出した。

 

「大丈夫って……何が?」

 

 気にはなるけど、忘れ物でもしたのか? 取り敢えず、俺達は避難用のシェルターに向かう。鳶一も流石にすぐ戻ってくるだろうしな。

 生徒を誘導しているタマちゃんは結構混乱してるらしく、わけわからないことを言っている。

 自分たち以上に焦ってる人を見ると、なぜか落ち着くな。

 あ、そういえば琴里はどうしてるだろうか。流石に避難してると思うが、念の為確認すべきか。

 俺は携帯の端末を確認し、電話をかける。

 

「……駄目か」

 

 出ない。大丈夫だよな……アイツ。いや、あの近くにも公共のシェルターがあるはずだし、問題ないはずなんだが。

 

「いやいやまさか、さすがにそこまで馬鹿では……っと、そうだ、あれがあった」

 

 琴里の携帯にGPS機能があったんだった。

 俺は位置確認サービスを使って琴里の場所を調べる。

 すると────琴里の居場所は、約束のファミレスの位置で表示されていた。

 

「あんの、馬鹿……ッ」

 

 それを見た俺はすぐさま列から抜けて琴里の元へと駆け出す! 

 

「おい、どこに行くんだ五河!」

 

 すぐさま殿町が俺の方を掴む。俺は端末のGPSを見せて言う。

 

「琴里だ! アイツ、ファミレスにいやがる!」

 

「はあ!?」

 

 俺の言葉を聞いた殿町は驚き、肩をつかむ手の力を緩める。俺はその隙をついて猛ダッシュで駆け出した! 

 

「おい、待て! 俺も行くぞ!」

 

「なっ、危険だ!」

 

 殿町はそう言いながら、俺に付いていく。だが、殿町は少し冷や汗こそかいてるものの素敵な笑みを見せている。

 

「大丈夫だって。いざとなれば、コイツ等がいるからな」

 

 殿町は懐から数枚のカードを取り出す。そして、もう一人カードを片手に持ちながら俺たちについてくる一つの影。美衣もまた、カード片手に俺たちに着いてきていた。

 

「まあ、琴里ちゃんも馬鹿じゃないと思うし、大丈夫だと思うけど念の為ね。私も付いてってあげる。殿町よりかは頼もしいでしょ?」

 

「どういう意味だよ!」

 

 美衣の言葉に憤慨する殿町。俺は苦笑しつつも頼もしい友達と一緒にファミレスに向かう。

 何が起きてもいいように、“記録の鍵”と呼ばれるカードを握りしめながら……。

 

 

 

 

 ****************************

 

 

 

 

 

 俺達は琴里にデコピン乱舞の刑に処す事を決意しながら走る。すると────

 

「うわ……ッ!?」

 

「きゃっ!?」

 

「うおっ!?」

 

 突然進行方向の街並が、まばゆい光に包まれ、次いで耳をつんざく爆音と凄まじい衝撃波が襲いかかった! 

 大型台風もかくやというほどの風圧により土煙が舞い、俺達の視界を塞ぐ! 

 

「────は────?」

 

 ようやく土煙が晴れて、視界に広がる光景を見て、ぼうぜんとする。

 今の今までにあった街並みが、跡形もなく“無くなって”いたからだ。

 何の比喩でも冗談ではなく、まるで隕石でも落ちたかのように。否、どちらかと言えば、地面が丸ごと消し去ったかのように、街の風景が浅いすり鉢状に削り取られていた。

 

「ま、まじか……」

 

「これが……空間震……」

 

「こんなにひどい被害になるのかよ……」

 

 これが空間震。こんなのが頻繁にこの街に起きてるのかよ。よく街が壊滅しないもんだな。

 俺達は取り敢えずクレーターのようになった街の一角の中心に向かう。

 

「……ねえ、五河。殿町。あそこになんか見えなかった?」

 

 美衣の指さす方向を見る。すると、土煙で欲は見えないが、何やら金属の塊のようなものが聳えていたのを見た。

 

「やっぱり、モンスターの仕業……なのか?」

 

「わからない……けど、これだけの被害が出るとなると間違いなく“12ドラゴン”か“魔王”級以上だ。警戒していくぞ」

 

「あぁ……」

 

 土煙が晴れてきた。俺達は警戒しながら中心部を見つめる。細かい形状は見とれないが、ロールプレイングゲームの王様が座っている玉座のようなフォルムをしているのが見えたが、重要なのはそこではない。

 その玉座の肘掛けに足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏った少女が一人立っていた。

 

「……女の子?」

 

「あの子────なんであんなところに」

 

 朧気にしか見えないが、長い黒髪と不思議な輝きを放つスカートだけは見て取れた。女の子である事は間違いないだろう。

 と、少女は気怠そうに首を回し、ふと俺達の方に顔を向けた。

 

「ん……?」

 

 俺達に気づいた……のだろうか。遠すぎてわからない。

 モンスターかもしれない。そう思った俺達は記録の鍵を何時でも使えるように構える。

 少女はさらに動きを続けた。ゆらりとした動作で玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ったかと思うとゆっくりとそれを引き抜いた。

 それは、幅広の刃を持った巨大な剣。虹のようであり、星のような幻想的な輝きを放つ不思議な刃。

 少女が剣を振りかぶると、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いていった。そして────。

 

「うおっ!?」

 

 咄嗟に頭を下げる! 

 少女が俺達の方へ向けて剣を横凪ぎにブン、と振り抜くと、今まで俺の頭があった位置を刃の軌跡が通り抜いて、俺の後方にあった家屋や店舗、街路樹や道路標識などが一瞬の内にみんな同じ高さに切り揃えられていた! 

 一拍遅れて、遠雷のような崩落音が響いた! 

 

「な、なんだ今の!?」

 

 危なっ!? 警戒しててよかった! 見ると殿町と美衣も大丈夫そうだ! 

 

「なに!? やっぱりモンスターなの!?」

 

『ううん……あの子から……モンスターの気配がしない』

 

「え!? じゃあ、モンスターじゃない!?」

 

 懐に入れているカードの声を聞いて俺は思わず叫ぶ! それを聞いた殿町と美衣も驚いている様子だ! 

 

「────お前も……か」

 

「は?」

 

 ひどく疲れたような声が頭の上から響いた。視覚が一拍遅れて思考に追いつく。目の前に、一瞬前まで存在しなかった少女が立っていた。今の今までクレーターの中心にいた少女が。

 

「あ────」

 

 意図せず声が漏れた。その少女は歳の位は俺と同じ頃か少し下。膝まであろうかという長い黒髪、愛らしさと凛々しさが兼ね備えられた貌。その中心には水晶に様々な色の光を多方向から当てているかのような不思議な輝きを放つ双眸が鎮座していた。装いは布なのか金属なのかよくわからない素材が、まるでお姫様のドレスに騎士の鎧の一部を付けたかのようなフォルムを形作り、さらにその継ぎ目やインナー部分、スカートなどに至っては物質ですらない不思議な光の膜で構成されていた。そして手には身の丈ほどあるであろう巨大な剣が握られていた。

 

「────、────」

 

 俺はその姫騎士のような少女の姿に目が釘付けになっていた。

 警戒することや恐怖すること……どころか、呼吸をすることすら忘れているのかもしれない。

 それらを忘れてしまうほどに、暴力的なまでに美しいと感じた。

 

「────君、は……」

 

 呆然となりながらも、声を発する。少女がゆっくりと視線を下ろしてくる。

 

「……名、か」

 

 心地良い調べのごとき声音に空気が震える。しかし……。

 

「────そんなものは、ない」

 

「────っ」

 

 その時、俺の目と少女の目が、初めて交わった。

 それと同時に“名無しの少女”が酷く憂鬱そうな────まるで今にも泣き出してしまいそうな表情を作りながら、カチャリと音を鳴らして剣を握り直す。

 

「ちょっ……、待った待った!」

 

「……なんだ?」

 

 少女はそんな士道に不思議そうな目を向ける。

 

「な、何しようとしてるんだよ……っ!」

 

「それはもちろん────早めに殺しておこうと」

 

 さも当然のごとく言った少女の言葉に呆然としていた殿町と美衣は記録の鍵を取り出す。

 だが、俺はそれすらも忘れ、疑問を彼女に投げつけた。

 

「な、何でだよ……っ!」

 

「なんで……? 当然ではないか」

 

 少女は物憂れげな顔になり続けた。

 

「────だってお前も、私を殺しに来たのだろう」

 

「「「────は?」」」

 

 少女の言葉に俺達は顔を見合わせる。

 これが、俺たちの運命を変える2つ目の出会いだった。




デアラは実は小説四巻とアニメ1期しか見てないにわか。
小説は今買い集めてて、アニメはサブスクにないからTSUTAYAで借りてみようかなと思ってる。
取り敢えず、連載する可能性的には20%くらいかな?

あと、アンケートありがとうございます。
今のところ、トリコ×ノゲノラのss連載しようかな思ってて書き進めてます(確定ではない)
プロットも作ってる最中のためなんとも言えないけど、出すとしたら来年かな?

連載してほしいのは?

  • 機凱種と龍のグルメロード
  • 俺はキャロル。獅子座のキャロルだっ!
  • シャンフロ〜配信者、神ゲーに挑まんとす〜
  • 翳り裂く戦姫と黒薔薇と
  • 魔法霊媒シャーマン☆マギカ
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