パーティメンバー♀とズッ友のつもりのTS転生者   作:雄跡

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つまりこれ解釈発表会ってワケ

 友達、家族との関係を大切にする。

 そのために懸念している事項が一つある。死別である。

 

 家族の会話などでこの世界では死が身近であると幼い頃から分かっていた。前世は死によって友達とも家族とも関係を断たれた俺である。完全に関係の外からの要因によって大切な人達を失うのは何としても避けたかった。それは病気によって、他者の悪意によって、弱肉強食といった自然の摂理によって、または──偶然の事故によって。

 どれだけ俺がそれらを避けたくとも、全てを事前に予測することも防ぐことも困難極まる。

 

 なので俺は魔術に頼ることにした。

 人間一人の力でなんとかなる問題でもない。せっかくこんな世界に転生したのだから元々魔術(こいつ)を利用するつもりではあった。

 なら回復魔法だ。事前に防ぎようがないなら何があっても死なせなければと思った。死にさえしなければ、俺さえ近くにいれば元通りにできるようになればいい。ベストは蘇生魔法だが存在からして怪しく、一般人が扱えるとも思えなかったのでちょっと調べてすぐ諦めた。

 

 肝心の回復魔法だが──そんなものはなかった。

 いや代替魔術はあった。俺が想像したような便利な回復魔法なんてものがなかった。

 

 この世界の魔術は神様にお願いして発動させるものらしい。火を扱う魔術であれば火を司る神様に、水なら水の神様に、といった具合だ。

 神様は全人類から願いを聞き入れ、その願いを叶えるために最適な方法を思考し、その結果をこの世界に出力している。しかし、神様とて思考力や体力は有限で疲れだって感じる。まあ人間の願いをただ受け入れ叶えるだけの存在はもはやそういうシステムだろ疲れとかあるのかと思いたくもなるが、実際この街には定期的に人間ぽい神様が降臨している。

 さておき、全人類が「このコップに水を満たしてください」と同時に願っても余裕かもしれないが、全人類が「私の頭の中の理想の伴侶を氷像としてここに建ててスケベに動かしてください。あ、私が怪我しない程度でお願いします」なんて同時に願ったらきっと神様だってパンクする。神様のキャパなんて知らんけど。

 

 そこで神様は通信量をセーブするべく制限をいくつかかけている。

 一つは詠唱である。複雑な願いほど長い詠唱を要する。要は人間側で指定できるところは指定しろということだ。さっきの例で言えば水をコップに満たす程度であれば一言唱える程度で済むが、氷像を理想通りの姿にして自由に操るとなると造形や行動の細かさに応じて人間が指定すればするほど詠唱は長くなる。ポンポンと連発出来なくなるわけだ。一応、大まかな指定で詠唱を抑える方法もあるがその分精度は落ち、神様が思考する分魔力も多く消費する必要がある。

 そう、ここで二つ目、詠唱には魔力が必要になる。願いの規模に応じて必要魔力量は大きくなる。とにかくデカい火の玉を出現させる、めちゃくちゃ遠くに火の玉を発生させるなんて願い自体は単純でも規模が大きいものにはそれだけ魔力が必要となる。神様だって力をデリバリーする距離や物が大きけりゃ運賃上げるのは当然の権利である。また詠唱すればするだけ魔力を消費し続ける。人には体力の上限と同様、魔力にも上限があるため気軽にポンポン魔術を使えなくなるわけである。

 ちなみに神様が気に入った人間は「詠唱なくてもやってあげるよ」とか「足りない分の魔力はこっちで持つよ」とかいった加護が付与されめでたく天才と呼ばれることとなる。

 

 そんな魔術で回復魔法を扱いたいとなれば回復の神様に願うことになるわけだが、その回復の神様というのが存在しなかったのである。

 回復を司る神様がいない理由は未だに分からない。この世界の人たちにとっては最初からそういうもので、疑問に思うことを疑問に思われる始末である。

 思うに、火や水、風、土魔術などは形ある物質や現象を操作するのに対して、回復という概念には形もなく回復そのものは操作するものではないからなのではないだろうか。大事なのは人体が損傷する前と同じ状態になるという結果である。俺はそう思うことにした。どんな理由でもいいから自分を納得させなければこの先の勉強がやってらんなかった。

 

 この世界で人体を治療するための魔術として一般的に用いられているのは時間と空間の複合魔術だ。

 もう形があるだの回復そのものはだのといった理由は崩壊していたがそこを再思考する頭の余裕はなかった。この治療魔術、破茶滅茶に面倒でコスパが悪すぎた。

 

 切り傷なんかを治す場合を考えよう。患部のみに範囲を絞り時間魔術を行使し時を加速させる。つまり自然治癒速度の上昇を狙うわけだがここで問題が発生する。

 加速するのは患部のみだ。そこ以外は通常通りの速度だから、治癒に必要なリソースの供給速度が治癒についていけなくなるのである。そこで空間魔術によってリソースを患部に転移させる。これが四肢の欠損などの規模になると患者本人のリソースでは当然足りなくなり、別に用意する必要がある。時間を止めて細胞が生きたままの生き物の血肉、骨であったり、治療魔術用にサプリのようなものが販売されていたり、最悪術者の身体を使用する。

 

 二つの魔術を並行して行使し、空間の神様には「ちょっと何が治癒に必要か分かんないんで調べて足りない分だけ転移してください」なんて内容を願うわけである。まずここで、めっちゃ複雑もうやってらんね、という問題が発生する。

 さらに、時間魔術、空間魔術は規模の大きさの定義が他よりキツい。「既に存在するものを操作する魔術」として見たとき、この世界の水の量とこの世界の空間の大きさを比べたらそら空間のがはるかに大きい。そのクソ広い中から神様は指定された座標をどうこう操作するわけである。

 したがって人間一人分まるごとの範囲ですら、時間を操作とか空間を圧縮とかワープさせるには膨大な魔力が必要となる。というか無理。できるやつはぶっとんだバカか神様のお気に入りどっちかだ。つまり擦り傷だけでもまあまあな規模と見なされるわけだ。

 そして、術者と患者の距離が離れればそれだけ魔力を食うこととなる。治療魔術ではなく時間魔術、空間魔術それぞれを専門に扱うプロだって自身の半径2m程度が範囲の限界らしい。つまり戦闘中に後方から治療魔術をかけることは難しい。

 やるなら戦闘後、安全を確認した上で可能な限り患者と術者は近づくのがよい。

 

 というのが治療魔術に対する俺なりの理解である。

 つまりこれ解釈発表会ってワケ。

 いや、なんか他の魔術の参考書に比べて治療魔術言い回しが古臭いのしかなくて。この世界の人間、身近である死に対して「そら死ぬ時は死ぬでしょ(喰われながら)」「死にたくないなら死ななければいいのでは?(神回避)」と覚悟をキメている連中があまりにも多くて、敗北した上で生き残るという発想が少数派なんだよ。だから戦闘後にかけざるを得ない治療魔術より戦闘中に使える他の魔術の方が需要がバカ高い。だからそんなに治療魔術の専門書も出てなくて分かりづらい古めの文体ばっかで勉強したんだよよくやった方だろこれ。もう家族も友達もあの思想だったらこれ意味ねーじゃんって不安の中よくやったって。

 

 ──とにかく、治療魔術は複雑、魔力消費が激しい、範囲が狭い、と無類のコスパの悪さを誇り、その技術の習得、性能の向上にはとにかく時間を要した。

 その間俺は家に引きこもり続けたが、それを許しあまつさえ食事に風呂にと面倒を見てくれた家族には本当に感謝しかない。全員にハグして回った。さすがに体を洗ったり歯磨きまで姉妹の手を借りることになるとは思わなかったが、甘えられるときに甘えておかないとね。というかそれを拒む時間すら惜しかった。

 俺が時間か空間どちらかの魔術を担当しもう一方を誰かに任せる、なんて案も浮かんだがこれは俺のわがままなので一人でやり切ることとした。

 

 そうして俺は「まあ人並み以上には治療魔術の腕あるんじゃない?そもそも治療魔術使う人がそんなにいないけど」程度の治療術士となり、家族の壮絶な反対もなんとか納得させ、この街にやってきた。

 その程度でいい。世界中の人々を救おうってわけじゃない。身近な人さえ無事ならそれでいい。

 

 ──まあ、引きこもって友達ほとんどできなかった上にそういや引っ越しで家族とも物理的に距離ができてしまったのは誤算だったが。

 

 ススキがいるから……ドレミちゃんとマノさんとも仲良くなってきたから……実家そんなに遠くないし定期的に顔出すから……。

 

 

●●●

 

 

 この街に住むことにした理由はススキがいるからだ。

 彼女は俺が引きこもってもなお友達のままでいてくれた唯一の存在。しかも知らないうちに冒険者となり一人で危険な依頼も受けるような生活をしていた。彼女は体質的に簡単な依頼でも、いや依頼を受けてなくたって怪我しやすいのだ。俺の身体能力的に現場で彼女を守ることはできなくとも、せめて常に万全の状態で依頼に向かえるよう、何があっても街に帰りさえすれば復帰できるよう彼女をサポートしたかった。

 そのために思想について確認したところ案の定キマっていた(覚悟が)ので何が何でも俺のところまで帰ってくるように釘を刺しておいた。ススキの覚悟を曲げるつもりはないがどうせ覚悟するならどんなにボロボロでも必ず最期は俺に顔を見せるくらいの覚悟を約束しろ、と。当時は家族以外にはススキしかいなかった俺の必死さは正直言って滑稽なほどだっただろう。

 実際彼女には笑われたが、約束させたのでこっちの勝ちだ。

 

 その後は飲食店のキッチンで働きつつ彼女とシェアハウスを始めた。一々うちを覗きに来るより効率的でしょ、と彼女からの提案だったため喜んで、本当に喜んで受け入れた。

 そこから今に至るまでは随分とシンプルだ。ススキを探しに冒険者の集会所に行ったらマノさんにパーティに勧誘された。俺よりも、と(ススキの生存率向上のためにも)ススキを紹介し、なぜかススキに首根っこ掴まれて俺もパーティに入ることとなった。俺がお荷物になるのは目に見えていたが現場でススキをサポートできる誘惑には勝てなかった。そして何度目かの依頼中にドレミちゃんを拾い今に至る。

 

 最近は治療魔術分の魔力は残せる程度に支援ができる魔術はないだろうかと模索している。魔術関係の本を見ると勉強どころか一種の修行だろとトラウマ気味の七年間を思い出す。しかし意外と苦にはならない。

 全てはこのパーティメンバーとズッ友でいるために、だ。

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