パーティメンバー♀とズッ友のつもりのTS転生者   作:雄跡

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その認識で正解よ

「ナオ〜ン」

 

 タツネコモドキ。タツネコと呼ばれる生き物とは大きさも姿も全く異なるけれど唯一、鳴き声の大きさだけは引けをとらない。この時期は人間に限らず大体の生き物に己の下半身事情を晒し忌み嫌われ──いや流石にもう、この程度の雑魚であれば一々生態を確認するまでもない。

 私とドレミ以外は初遭遇のようだけれど。この二人が万全ならまず大丈夫だ。

 

「いつもの配置で、初手ドレミちゃんお願いね」

 

「周りに危険なのナシ。アレに集中してヨシ。リーダー、半ドンて何?」

 

 周囲に他の危険はないそうだ。とりあえず、一安心だ。

 

 このパーティはドレミが斥候とタンクを兼任、マノは魔力を操作する魔術や土魔術で敵の隙を作るなどの形で支援を担当する。そしてその後ろにダメージソースたる私と、戦闘後の治療を担当するシオリが配置される。

 

 シオリ──私の親友、運命の人。

 特に恋愛感情があるわけではない。

 この人がいなければ今の私は絶対になかった、私の運命を決定づけた要因の一つという意味で、きっともうこれ以上ない運命の人だ。

 

 この娘に戦闘経験なんてない。

 冒険者として討伐依頼の類に連れ回すなどもっての外。今日までこうして怯えもせず着いてこられるのは、ドレミの異常な探知の才能のおかげだ。

 本当は家で私の帰りを待っていてくれるのが一番安心できるけれど、私は私のわがままのためではなくシオリのために生きると決めている。通すわがままといえば"離れたくない"というだけだ。

 

 とはいえ削れる危険は削るべきだ。なんの偶然かシオリの要望と私の要望が重なり、このパーティは難易度の高い依頼は受けない方針をとっている。今日の依頼も大した危険のないこの一匹を仕留めればそれで達成だ。

 当然依頼中に依頼内容外の危険に遭遇する可能性はあり、警戒を解くことはできない。それでも、隠れた脅威はないとドレミ(あの子)が言うのなら、少し、ほんの一安心はできるというものだ。シオリの身にも関わることであの子が手を抜くはずもない。

 

 ドレミがたった一踏みで標的にすっ飛んで行った。ああ、魔力障壁は張ってもらったのね。今日はもう特に温存する必要もない。彼女が一発殴っただけで絶命するとはいえ、全く脅威のない相手ではない。こちらにも一安心。

 

「…………あの子私と二つしか違わないじゃん……」

 

「……特殊だったんじゃない?環境。ほら、そんな子じゃない?」

 

 実際、五年近く家で引きこもりじみたことをした上でさらに七年間がっつり引きこもった特殊環境産魔術師は──

 

「マノさん、半ドンってなんですか?」

 

 この通りだ。

 

「あんたは私より二つも上でしょうが!!」

 

 あ、マズいかも。

 

「あ、やべ」

 

 ドレミの突撃は奇襲を前提としていた。突撃対象はマノの声で敵の存在に気づいてしまったらしく、仕損じた。

 

 奴は既に発射体勢にあるがせいぜい爪ほどの鱗を吐き出すだけ。マノの魔力障壁は破れないしそもそもドレミにはたき落とされるのがオチだ。

 吐き出した後の隙を狙って確実に仕留めれば──

 

「猫が毛玉吐くときのやつ!!ペットシーツ持って来て!!」

 

 ──なんだろう。

 

「間に合わないんで第一発見者がトイレットペーパーで処理してください」

 

 奴が開けた口の奥に──馴染みのある、嫌な気配を感じた。

 

「バカ!!各自回避とりなさい!!」

 

 もう全員守るのは無理だ。

 大丈夫。ドレミなら避けられる。

 マノが狙われていたなら、きっと彼女の実力では回避も詠唱も間に合わないけれど、大丈夫。奴の向きからしてマノに被害はないはず。

 大丈夫。シオリを助けることだけに専念できる。

 そう自分を一安心させて、何としてもシオリだけは守り抜こうと、彼女に飛びついて地に伏せた。

 

 ──聞こえた音は一つだけ。

 きっと、人の肉が弾けるような音ではなかったはず。

 今一番大きく聞こえるのは飛びついた相手の心音。つまりシオリは生きている。そのことに一安心を覚える。

 

 忘れていた。忘れていた。()()()()()()()()と忘れていた。

 よりによって彼女がいる時に。こうである私を救ってくれた彼女が隣にいる時こそ忘れてはいけなかったのに。隣にいられる幸せに押しのけられて、そのことが頭の中から抜けていた。

 確かに最近はこういうことが起きていなかった。溜まっていた分大きいのが来ると、いつもなら警戒していたはずだ。シオリとの同棲開始に浮かれていたのか、いや言い訳は後だ。とにかく態勢を整えなければ。

 

 彼女と離れ離れになるなんて、もう二度とごめんだ。離れたくない──

 

 いや、今はちょっと離れるべきだ。

 心音を確認できる位置──そう、私はシオリの胸の中に顔を埋めていた。

 顔一面に彼女の温もりが伝わって、表情筋が強制的に緩めさせられていた。

 いい加減目視で現状を確認すべきなのだけど。ここで警戒を怠って現状を悪化させるわけにはいかないのだけど。顔を上げれば確実にこの緩んだ表情を見られる。

 戦闘中に人の胸に顔を突っ込んだ挙句こんな顔をしているというのは、ちょっと知られたくない。

 

「ススキとどめの準備!逃すかぁ!クソトカゲ!」

 

「!」

 

 マノの指示()でめちゃくちゃだった脳内が規律を取り戻しだす。

 そうだ。大丈夫。特に恋愛感情があるわけではないので顔を引き締めることができる。特に恋愛感情があるわけではないのですぐに立ち上がることができる。

 そして気付く。特に恋愛感情があるわけではないので気付くことができた。シオリの左腕に短く赤い一本の線。本人も自覚していないようだが、あのクソトカゲの攻撃が掠っていたということ。

 

 自分の力不足に泣きそうになるがそれは後でもできる。今はアレにどうケジメをつけさせるか考える。

 

 ──十秒ほど考えた。内側から少しずつ削るとか、いやそもそも削られていることをアレが認識できなければ苦しみには繋がらないのでは?とか。

 

「何!!なんなの!怖いって!!詠唱の内容も訳わかんないし!!」

 

 気づけば思考を口から垂れ流しにしていたようだ。

 トカゲは固定済み。パーティメンバーは安全圏にいる。

 ちょうどいい。前々から気になっていたことがある。

 

 めちゃめちゃな詠唱(指示)を投げて方向性だけ神様に伝えたらどうなるのだろう。

 

「"複合魔術(できる限り苦しめるようお願いいたします)"」

 

 ──結果、アレに何が起きたのかは最後までこの目で見ることはできなかった。

 

「えぇ……?エグい音が聞こえて来る……」

 

「ススキ……?一体これは……」

 

「知らなぁい。何アレ、こわ」

 

 何が起きるか分からないから試したのだけど。

 

 その後、アレは爆散した。

 

 アレの末路を確認して、怒りが治まって、ようやくシオリの安全を確保できたと気が緩んで、彼女が当たり前のように隣にいることに安心して、その当たり前に感謝して──

 

 なんで二十年も連れ添った自分の体質のことを忘れていたのかと再び怒りを覚えて、せめて彼女の身を完璧に守り通すことすらできなかった自分が情けなくなって、また、頭の中がぐちゃぐちゃになって。

 

 泣いてしまいそうだった。

 

「何、これ……本当に何…………なんで……?」

 

「私にも分かんないわよ。適当にそれっぽい言葉並べて最後になるべく苦しめてってお願いした(放り投げた)だけ」

 

「なんでそんなことしたって聞いてんのよ!なんの説明もなしに長々詠唱されてこんなん見せられたら誰だっておしっこ漏らすわぁ!!」

 

 ごめんなさい。表情を取り繕うのに精一杯で、震えそうな声を抑えるのに必死で。上手く受け答えができている自信がありません。

 

 考えたくもないけれど。もしシオリにあのまま命中していたら──やっぱり考えられない。

 きっと目を背けるべきではない。向き合わなければ彼女を守れない、彼女を守るために費やした半生が無駄になる。この世界で当たり前に蔓延る死から彼女を守るためには当然その死を直視する必要がある。

 考えたくもないことだけれど、考えなければいけないことだ。

 自分の死であれば、問題なく目に浮かべそれを避けることができる。

 だけど、シオリの死は、ちょっと無理だ。

 

 こんなに良い娘から。

 説得のために捻り出した言葉ではなく、理屈ではなく、当たり前のようになんとなくで自然にこぼした言葉で私を吹っ切れさせてくれたこの娘から。数年ぶりに再開して今までの時間を取り戻そうと常に一緒にすることにしたこの娘から。

 

 ずっと離れることになるとかちょっと考えられない。

 

 

●●●

 

 

「そういやあのトカゲなんだったんですか?危険ではありましたけど。一体狩ってあんなにもらえるの割に合わないように感じたんですけど」

 

 冒険者として初めて命に関わる危機に遭遇したにも関わらず、彼女はケロッとした顔で怯えもせず、しかも報酬が多すぎるとまで言う余裕があった。

 まあ、死が隣り合わせのこの世界では死を恐怖する人間の方が少ない。私もシオリ以外の死に対してはさっきほど過敏にはならない。

 

 ただ、シオリが死に過敏でないことか意外に感じた。

 彼女はよく家族にはもっと死を避けてほしいと愚痴をこぼしていたし、私ともそういった約束をしている。

 そんな彼女なら自分の死にも過敏なのだと思っていた。

 

「あいつら今が繁殖期で、危険を減らそうってのは当然なのだけどとにかくうるさいのよ。雌を取り合う喧嘩でも交尾でも猫を十倍にしたくらい。軽い討伐依頼っていうより重大な街の環境整備依頼って認識ね」

 

 彼女の死についての思想がどうであれ、彼女が弱い(死に近い)ことに変わりはない。私のすべきことは変わらない。

 ひとまずは久しぶりのシオリとのゆっくりとした時間を堪能することとした。

 

「へーあいつらは雄が雌を取り合うんですねえ」

 

「男がいない分あっちは増えてるってのもあながち間違ってないのかしらねぇ」

 

「まあ私達は取り合うどころか諦めてますけどね」

 

「……そう、ね」

 

 へぇ〜……諦めてるの、男。

 ……そうなの、そうなのね……へぇ〜〜そうなんだ〜〜。

 

 ちゃっかり私も諦めてることにされてるけど、その認識で正解よ。私、あなた以外にこの人生を分けたげるつもりなんてないもの。

 ただ、離れたくないとは思いつつも。あなたが相手を連れてきたらあなたの幸せが一番と思って、少しだけ離れるつもりではあったのだけど。

 

 ふ〜ん……へぇ〜…… そうなのね〜……。

 

「そ、そういえば。二人きりでゆっくりできるのも久しぶりですね」

 

 そう、だから私は浮き足立っていたのかもしれない。

 別に彼女と二人きりである必要性はないはずだ。離れなければそれでいいのだから。

 「離れたくない」は「近づきたい」ではない。

 近づこうとしてこれまでの関係を壊してしまったらそれは「離れたくない」から最も遠い結果を生み出す。

 私は臆病なのだ。

 今まで私から関係を進めたことは一度もない。常に、シオリとの関係は維持だけをしてきた。

 

 ただ、考えてみれば。彼女から歩み寄られても拒否をしなかったり、数年ぶりの再会で興奮してうっかり同棲を提案したりしてしまったあたり、近づきたいという気持ちがないわけではないのかもしれない。

 

 だから、久しぶりにあなたと二人きりなことがこんなにも嬉しいのだろうか。

 

 ──それでも私が臆病であることに変わりはない。「近づきたい」よりはやっぱり「離れたくない」。

 

「そうねぇ。ドレミもやっとまともに生活できそうだし……」

 

「あはは……。その度はご迷惑おかけしまして……本当にありがとうございました。ススキ、何かしてほしいことがあったら言ってくださいね」

 

 だから、いつも通り。シオリについて踏み込んだ会話はせず、私が彼女の内面について確認するのはいつも通り一つだけ。

 

「好きなら好きって言って」

 

 嫌われても離れたくはないけど、彼女の気持ちが最優先なので、その時は潔く身を引くつもりだ。

 だから、これは彼女への確認。私が離れるべきかどうかの確認。

 

 臆病を通り越している。関係を進めるどころか終わらせることすら自分ではできない。

 

 そもそも嫌いと返せる質問ではない、気がする。

 卑怯だ。

 彼女の気持ちが優先と言いつつ、結局は自分の気持ち(離れたくない)を優先している。

 返答の分かり切った確認。

 

 だからきっと、彼女はいつも通り、少し恥ずかしながらも「好きですよ」と一言返して──

 

「好きですよ!好き好き!私はススキが大好きです!!」

 

「…………あり、がと。……いつもよりお返事がやけに元気なのが気になるけれど」

 

 スゥー……いつもの七倍の濃度(大好きは5好き換算)の返事を唐突に食らったにしては平静を装えた方じゃない?

 

「そりゃあ久しぶりの二人きりの休日ですから!」

 

 …………ねえ、もしかしてなんだけど。

 

「さっきから二人きり二人きりって……何?二人きりだと何か違うの?」

 

「……そりゃ、ススキとの時間はっ……。特別ぅ?ですから……?」

 

 (待って)

 辛い。心が辛い。

 

 そんな表情で、照れながら、顔をこちらに向けつつ目は逸らしながら、いつも照れ隠しの笑顔もなしに、かわいい口を尖らせて。

 そんな声で、少し震えながら、でもこちらにはっきりと聞こえるように、頑張って、伝えようと必死で。

 そんなことを言われたら。

 

 (臆病)だって近づきたくなってしまう。

 私にとって何よりも特別なあなたに、一緒の時間が特別だなんて言われて。しかもこんなに必死に。

 私は何かを返したくなってしまう。あなたに近づいて、あなたへの感謝とか気持ちとか、近くで伝えたくなってしまう。抱きしめたい。

 

 胸が締め付けられる。この娘の言葉によって増大した気持ち(近づきたい)と、これまでの私に染みついた臆病(離れたくない)がせめぎ合っている。

 

 ──今、決着をつけられるような話では、ちょっとない。一旦話を変えさせてほしい。

 

「……そう…………そういえばあなた。昔に比べて随分とどもらなくなったわよね」

 

「あっ、あれはっ……その……あっ……」

 

 あら、久しぶりのどもり。

 最近は口をつまづかせながらも最後まで伝えられることがほとんどだったけど。懐かしい。

 いつもどもっていたわけではない。

 時々、こうしてどもることがあった。

 でも私は彼女に何を伝えたかったのか追求したことはなかった。

 

 今回もそうする。

 

「そうそう。そんな感じ」

 

「…………ったんです」

 

「懐かしいわぁ。調子、戻ってきたわね。ふふっ」

 

 逆だ。

 昔のような彼女を見て、調子が戻ってきたのは私の方。

 いつも通り、シオリから離れたくたくない臆病でどんな言葉にも動じない風を装える私が戻って──

 

「恥ずかしかったんです!」

 

「……」

 

「……」

 

「……そう。何が?」

 

 初めて、はぐらかさなかった。

 彼女に続きを聞いた。お互いの認識を擦り合わせようと。

 

 きっとこれ以上は、私の方が止まれない。

 今日はただでさえ彼女を失いかけたことに頭がめちゃくちゃにされたのに。

 その整理もつかないまま「大好き」だとか「一緒にいる時間が特別」だとか言われて今まで通りの私でいられる自信がないのに。

 

 でも、自分が止まれないからと、彼女の言葉を遮るのは、一番私じゃない。

 

「昔から伝えたかったんですよ、ススキには」

 

 へぇ〜?

 

「でも恥ずかしくて。いつも言えなかったんです」

 

 ふ〜ん?

 

「大好きとも」

 

 は?

 

「ありがとうとも」

 

 は??

 

「一緒にいて楽しいとも……」

 

 は???

 

「去年、『嫌いなら嫌いって言って』って言われちゃいましたよね。それで私、吹っ切れたんです」

 

 ふぅ〜〜〜〜〜〜ん?へぇえ〜〜〜〜〜〜??

 

 ………………。

 

 じゃあ何!?!?ちっさい頃のどもり全部それだったの!?!?!?

 あんなちっさい頃から私のこと大好きだったのこの(むすめ)!!!!!!ねぇ!!

 ねえ!!結構な数よ!?だってある程度仲良くなってからは会った日必ず一回はどもってたわよ!?!?

 

 いやちょっと待って。そんなに好きだったらなんで引きこもる時に「しばらく会えないかもです」ってなんであんな軽く言ったの?ねえ七年よ七年。大好きな人に向かって期間も伝えずそんな軽く言う?ねえこれって私がおかしいのかしら?理想高すぎって笑われるべき?

 違うわよねえ!?こちとらそんな軽くいうもんだから一、二週間程度と思って会うの我慢してたら一ヶ月半年と会えなくてもう無理!!会いに行くって思ってもよく考えたらいつもあなたから遊びに来てくれてたから住所も連絡先も分かんなくてしばらく泣き散らしたのよ!?

 

 あー腹立ってきた。やめやめ。やーめた。

 もう「離れたくない」やーめた。

 

 ……いややっぱやめない。それは無理。今だけ「離れたくない」やーめた。

 なんなのよ。なんなのよ。なんなのよ、その目。

 そうね、悲しいとか楽しいとかに限らず気持ちが昂り切ると泣いちゃう子だったわよね。

 私にそこまでの感情持ってくれてるのって嬉しくなっちゃうからやめてほしいわ。

 

「だからススキには感謝してもし足りないんです。ただでさえ七年も引きこもってた私を友達と言ってくれたことに感謝してもし切れなかったのに。──これ以上この気持ちが溢れたらどうしようって、私、困ってるんですからね」

 

「…………」

 

 …………この娘、恋愛物とか読んだことないのかしら。

 読んだことないでしょうねぇ!!魔術の本ばっかりだったもの!

 それ完全にヒロインのセリフよ!しかも絶対二人の関係が進む重要なシーンのやーつー!!

 

「ねえ、だから言ってください。私にできることならなんだってしたいんです。()()()()()言ってください。ススキのそばで()()()、大好きなあなたに報い続けたいんです」

 

「……っ」

 

 この娘に対して恋愛感情なんてないって言い聞かせ続けてきたけどお!!

 実際のところそんな感情があるのかどうか分かんないのよ!!考えたことないもの!逃げ続けて来たから!!

 でもこの娘今とんでもないこと言ったわよ!何!?一生一緒ってこと!?いや別に恋愛どうこう関わらずでもこのセリフ成立するけど!するけども!!言い方が問題なのよ!!「ねえ」って何!?その懇願する感じ!!「離れたくない」やーめたっつったのに追撃が濃すぎて攻めに転じれないんだけど!!

 

「……もちろん、あなたが許してくれるなら、ですけど。あの、私ススキの迷惑にはなりたくないんです。こんなわがまま言ってますけどあなたの幸せがそれでも一番だと思いたいんです。────だから。いやならいやって言──」

 

「それをあなたに言わせたら私、自分が情けなくて泣いてしまうかもよ」

 

 嘘でーす。今日の依頼の件も相まって今一瞬どばってもう溢れさせちゃいましたー。

 二十年も被り続けた鉄仮面は伊達じゃないのよ。

 

「あはは!ススキが泣いたことなんてないじゃないですか。でも、そうですね。さっきのはちょっと勢いが過ぎました。反省します」

 

「ふふっ。どこからが勢いだったのかしら」

 

 ……。

 …………あれ、もしかして私。ぬか喜び、してしまったのかしら。

 

「はずかったってとこから全部ですよー。あーこれこそ恥ずいったらありゃしない」

 

「あら残念。せっかく本音が聞けたと思ったのに」

 

 ……そう。そうね。

 そう、ちょっと、残念なだけ──

 

「本音は本音ですよー」

 

 あ、あれ?あら?

 

「それを整理しきれずにぶちまけてしまったのが恥ずかしかったのであって……。あー!こんなのススキの前だけなんですからね。勘違いしないでくださいよー?」

 

「シオリ。本当にあなたそれ素で言うの危ないわよ」

 

「え?」

 

「私ね、あなたがね……その……そのぉ……好きよ?一緒にいたいって気持ちもあなたとおんなじ」

 

 あーやだやだ。直球には直球で応えなきゃ嘘ってものだけど。

 自分から好意を確かめることはあっても自分から好意を伝えるなんてこと初めてなんだから。恥ずかしいったらありゃしない。

 

 けど。「離れたくない」を「近づきたい」が上回っている今だけは。

 これは本当にちょっとだけど、ちょっと臆病でいられなかった。

 

「だ、だからねっ?私、その、いやっ今まで通りでいいのだけどね?ただ()()()()お願いがあって……いや、さっきほらっ。言ってたじゃない……なんでも言ってって……」

 

「!!もちろん!ススキがわがまま言うなんて今までなかったじゃないですか!!こっちが嬉しいくらいですよ!!」

 

 もうなんか。全然言葉が頭の中でまとまってないのだけど。

 言っちゃえ。

 

「あの……その、ね……?二人きりでいられるときはね?あの、えっとぉ……」

 

「なんですかー?私よりどもっちゃって珍しい。いえ、珍しいどころか初めてじゃないですか。そんなに言い淀むことあります?私、なんだってする覚悟って言ったじゃないですかー」

 

「……もっ、もっとぉ……あの。く、くっついて、たい……」

 

「今よりもですか?既にだいぶ近くありません?もはや抱っこレベルでないとこれ以上くっつくって難しくありませんか?」

 

 そう……この娘は異様に距離が近い。隣り合って腰掛けている今だってほとんど、ももとももが触れ合っているくらい。

 でも、もっと。物理的に触れ合う距離でくっついて、離れないことを実感したい。

 

「そ、そう!抱かせて!」

 

「!?」

 

 ちっちちち違う!!間違えた間違えた間違えた。これだから慣れないことなんてするもんじゃないのよ!

 

「…………え、いやなんでもするって言ったけどマジ?やっぱこの世界同性同士普通にアリなの?いやでもあんだけ言い淀んだんならアブノーマル側?いやノーマルだろうと抱かせろは言い淀むか。てか……」

 

 シオリが小声でブツブツと真剣に何かを悩み始めた。

 違う!!違うのぉ!!

 

「シオリっ!ちがっ!ごめ、間違え──」

 

「いい……ですよ…………?」

 

 ────なんて?

 

「私……ススキの、その、好きなようにされるのも全然……アリでは、ある……ので…………」

 

 ──彼女のその、伏せ気味で、潤んでいて、顔はそっぽを向いてるのにしっかりとこちらを見つめている瞳を見て。

 

 正直言って襲いたくなった。

 いや、彼女はそれをアリと言ったのだからそれが正解の行動のはずだ。

 もう心臓がバクバクいって苦しいくらい。

 

 彼女は待っている。

 今までと逆。私が進める側。

 

 それを自覚すると急に二十年も染みついたあれが戻ってきて。

 

 私は日和った。

 

「シ、シオリ!!本当にごめんなさい!!!!あの、間違えただけなの!!抱っこさせてほしいって、ふ、二人きりでっ!その!いるときはだ、抱っこさせてほしいって!そう言いたかったの!!あなたに恥をかかせる気は全然なくて!あの!本当に──」

 

「なんだ、それならほら!……ほら、抱っこ!」

 

 彼女はニコニコしながら手を広げ、こちらを待っている。

 き……切り替えが早い……こっちが着いて行けない……。

 

「あっこれ私からな感じですか?すみません。じゃ、失礼して」

 

 私たちが座るソファが軋む音。

 さっき、そっち系の話題が出たこともあって脳内のマノがこう囁く。

 対面座位じゃん。

 

「あの、シオリ。さっきは本当にごめんなさい……私あなたにお願いするだなんて初めてで。言いたいことが上手く整理できなくて……」

 

 あの時みたいに、完全に彼女の胸に顔が埋まっている形での抱っこ。

 もう完全に頭は茹で上がって、身体を動かすことは放棄している。

 彼女に頭を胸に寄せられながら、頭を撫でられながら、ただ絞り出すように謝る。

 

「いえいえ。こちらこそテンパって申し訳ないです。急だったので、びっくりしちゃっただけです。ススキって動揺するとあんな感じになるんですね。私、あなたの新しい一面が見られてとっても嬉しいです」

 

「ごめんなさい……ほんと……ごめんなさい……」

 

 赤面して謝るだけの機械と化している。

 ちょっと、いろんなことがありすぎて。

 つかれたってのも、ある。

 

「だから気にしなくていいですってばーもう。私はススキに感謝しっきりなんですから。迷惑かけたり無茶なお願いするくらいでようやくトントンですよ、トントン。まあ、そもそもさっきのを私は迷惑とも無茶振りとも思ってませんけどね?」

 

「そんな……わたしのほうこそ……あなた、からは。もらってばっかりで……」

 

 しおりのねつで、わたしもあったかくなって、ちょっと、ねむい。

 

「残念ながら私はあなたに何かをあげられた自負ってのがないんですよねー。そこらへんもおいおい、一緒に話しましょうね」

 

「…………」

 

「……眠たいならこのまま寝ちゃいましょ?今日は魔力もたくさん使いましたし、しっかり休んでくださいね」

 

 そういえば、そうだった。けっこうアレ(神様への無茶振り)、まりょくくうみたいね……。

 

「私、なんでも話せる関係だけが良い関係とは思いませんけど。それでも一番の友達とこうやって色々話せるのは嬉しいなって思うんです。……本当にありがとうございますね、ススキ。私に出会っ──」

 

 かのじょのかんしゃのことばをさいごに。

 いしきはとぎれて。

 そのまま

 ねむりに

 おちた。

 

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