雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

10 / 115
三人称での話になります。



第10話 USJ襲撃事件(3)

―――side:教師陣

 ()()害や()故ルームに駆け付けた教師陣は速やかにヴィランの確保に入ると同時に、1-Aの生徒たちの救出と保護にあたっていた。

 

「なんてこった」

「これだけ派手に侵入された挙句、逃げられちゃうなんて」

 

 見晴らしのいいエントランスから、逃げようとするヴィランを狙撃していたスナイプと、出番なしとみて生徒の保護及び根津校長の護衛についたミッドナイト。

 ヴィランにここまでやられたことは、雄英の歴史において初の事態。

 それだけに屈辱と感じるが、それでも生徒に死者が出なかったことには胸をなでおろしている。

 

「完全に虚を突かれたね。それよりも優先するべきは生徒たちの安否さ」

 

 幸いに火災エリアで戦い続けていた尾白はパワーローダーにより保護。

 暴風・大雨エリアにいた常闇、口田はプレゼントマイクが無事に保護している。

 

 戦闘時所在不明だった葉隠は妙に縁でもあるのか、轟と共に土砂ゾーンに飛ばされていた。

 持ち前の隠密性と、戦闘訓練で氷漬けになって痛い目を見たことから轟から即距離をとっていたため、巻き込まれて氷漬けになる事態は避けられた。

 

 青山も似たようなもので、こちらは火災ゾーンだったが運悪く、火に囲まれた要救助者用エリアに転移するという不運に見舞われた。よく探せば配置用の出入り口があるのだが、落ち着いて探せる状況でもなく結局は脱出も出来ない代わりに襲われることもないという、運がいいのか悪いのかわからない状態で発見された。

 もちろん、それを知るのは教師陣のみ。

 本人も語るタイミングを逃してからは「秘密さ!」と黙して語らなかったという。

 

「ところで、あのヴィラン……」

「あの脳無、とか言うヴィランかい?」

 

 ミッドナイトの問いに判っているという雰囲気で答える根津。

 

「生徒たちが見なくてよかったが、凍って砕けた手足が自動で再生。しかもうめき声ひとつあげないなんて」

「私としては、そのような威力の攻撃をした轟を注意するべきか、オールマイトの状態からそこまでするしかなかったと思うべきか、複雑です」

 

 1-Bの担任であるブラドキングが苦虫を噛み潰したように言う。

 そもそも入学して1週間もたっていない状態で、いきなり本物のヴィランと戦闘になった。その状況下で冷静にヴィランを返り討ちにして、拷問まがいの尋問まで行っている。

 結果、逮捕したヴィランにも凍傷になっている者がかなりいる。

 そして窮地のオールマイトを救うために行った、強力かつ緻密に制御された個性の行使。

 天賦の才で済まされない、義務教育を終えたばかりの少年と思えない完成度。躊躇なくそのような攻撃を行える精神性。早熟と言うよりも異常とすら言ってよいと思えた。

 

「まぁ、エンデヴァーのご子息ですし、英才教育の賜物でしょう」

「かもね。味方なら頼もしい限りさ」

「爆豪といい、躊躇がなさ過ぎて怖いくらいですよ」

 

 HAHAHAとあまりに軽い笑いを聞き流し、イレイザーヘッドが復帰次第、指導方針をすり合わせるべきだなと、決意するブラドキングだった。

 

 それ以外にも、生徒の安全と次世代のヒーロー育成のため、やらないといけないことが多すぎた。

 

「まずは校内セキュリティの大幅見直しだね」

「はい」

「それにしてもワープなんて希少な個性。なんだってヴィランなんて」

 

 ミッドナイトの心底惜しそうな呟きに応えるものはいなかった。

 

 

―――Side:死柄木弔

 帰還直後、雷撃による火傷以外は目立った外傷はなかったため、実のところ治療の必要性すらほとんどなかった。

 ヴィラン連合のリーダーである死柄木弔、彼はアジトとしているバーで意識を取り戻してから荒れに荒れていた。

 

「あぁ、クソ!あと一歩のところで気絶なんてシケた真似させられて全部がご破算だ!」

 

 黒霧から奪い取ったバーボンを乱暴にグラスに注ぎ、ストレートで煽る。

 表情が全くうかがえない黒霧だが、その仕草でどうしたらいいか狼狽えているようにも見えた。

 

「脳無だってやられっぱなしだ。手下どもは瞬殺された!子供も強かった!!……平和の象徴は健在だった。話が違うぞ!先生!!」

 

 カウンターの奥に置かれているモニターに鬱憤をぶつけるように怒鳴る。

 モニターでもしていたのだろうか。

 『SOUND ONLY』の文字が表示されると男性の声が流れてくる。

 

『違わないよ。ただ見通しが甘かったね』

『うむ。舐めすぎたな。ヴィラン連合なんてチープな団体名でよかったわい』

 

 声の主は2名。どちらも聞くものが聞けば、少なくとも初老と言うべき年齢に達した男性の声だと想像はつくだろう。

 

『ところで、儂と先生の共作、脳無は?』

『回収していないのかい?』

 

「死柄木弔が生徒によるものと思われる不意打ちで意識喪失。最優先で回収すべきと判断し、脳無には手が回りませんでした」

 

 黒霧の報告に、モニターの向こうにわずかな空白が生まれた。

 次の瞬間、聞こえてくるのはかすかに笑い声を含む明らかな嘲笑だった。

 

『それはドクターの言うとおりだね、弔。いくらなんでも油断しすぎだ。まぁ、コレも経験だ』

『然り。次は耐電性を高めておくがよいな』

『しかしあの脳無はオールマイト並みのパワーにしておいたというのに、いささか惜しい』

『まぁ、仕方ないか。残念』

 

 オールマイトの名に、自分が受けた屈辱と、いくら親愛や敬意といった感情を持っている相手であろうと己を嗤われたら屈辱を感じざるを得ない。

 その屈辱で1つ思い出したことがあった。

 

「オールマイト……そうだ、1人、オールマイト並みの速さで動く子供がいたな」

『……へぇぇ』

 

 これまでとは違う、明らかに興味をひかれた反応だったが己の憤怒に捕らわれた死柄木弔は気づかない。

 

「あの邪魔がなければ、雷のガキがいなければ、オールマイトを殺せたたもしれない……ガキが……餓鬼どもがぁ」

 

 イライラと首筋を掻く爪がはがれかかっているが、その痛みにも気づかない。

 いつの間にか空になったバーボンを再び注ぐと、一息で飲み干し、新たな酒を注ぐことなくグラスをモニターに向けて投げつける。

 勢いが良すぎてモニターには当たらず、その上に破かれたままになっているオールマイトのポスターに当たる。

 

『おお怖い。呑みすぎは体に悪いよ、弔。

 悔やんでも仕方ない。今回だって、決して無駄ではなかったはずだ。

 精鋭を集めよう。じっくり時間をかけて。我々は自由に動けない。

 だから、君のようなシンボルが必要なんだ』

 

 アルコールによる酩酊感はイラつきを抑える役に立たず、視線で人が殺せるなら成しえるぐらいの強さでにらみつける。

 

『死柄木弔!次こそ、君という恐怖を世に知らしめろ』

 

 

―――Side:雄英高校

 死柄木弔が極めて不健康ながらも精神的再建を成し遂げたころ、USJには多数の護送車両と警察が周囲を固めていた。

 

「18、19……と、生徒は指骨折の1名以外は重症者なし。全員無事か」

 

 USJの外で警察、塚内警部による点呼を受けて、ほんのわずかな間だが、それぞれの状況を話し合っていた。

 同じ土砂エリアにいた葉隠を、轟が知らずに氷漬けにしてしまうところで、内心冷や汗を流していたりするが、概ね、襲ってきたのはいわば雑魚という見解で一致していた。

 

 

「とりあえず生徒たちには教室に戻ってもらおう。すぐに事情聴取ってわけにはいかないだろう」

「刑事さん、相澤先生は?」

 

 蛙吹(あすい)の問いかけに、携帯電話をスピーカーにして病院からの報告を聞かせる。

 通常なら、いくら居合わせたととは言え、身内ですらない学生に伝えるべき内容ではない。だが相手はヒーロー科に所属するヒーローの卵たち。

 これも将来のための経験の一つと、求められたら情報の開示をしてもよいと、搬送中に一時的に意識を取り戻した本人直々(・・・・)の許可が下りていた。

 ヴィランと戦うというのは、いつこうなってもおかしくない。だから、これで怯むならヒーローになどならないほうがいい、と言いたいのだろう。

 

『両腕粉砕骨折。顔面骨折。幸い、脳系の損傷は認められません。ただ、眼架底骨が粉々になっておりまして……目に何かしらの障害が残る可能性があります』

 

「……だ、そうだ」

「ケロ……」

「そ、そんな……」

 

 あまりの状況に声が出ない。

 

「13号先生は?」

「治療は終わっている。ただ背中から右上腕にかけての裂傷が酷いそうだが、命に別状はなし」

 

 その言葉に芦戸、八百万など居合わせた者たちの顔に安堵の色が浮かぶ。

 

「オールマイトも命に別状はなし。リカバリーガールの処置で十分、治癒可能とのこと」

 

 

 そのオールマイトは緑谷とともに雄英高校内の保健室にいた。

 幸い、指の骨折だけで済んだ緑谷だが、これまでの数回の骨折により蓄積した疲労もあるため、念のためにと栄養剤の点滴を受けている。

 

「今回は事情が事情だけに、小言も言えないね」

 

 ベッドに横たわるオールマイトは点滴こそ受けていないものの、己のパワーダウンが確かなものとなり、少々の焦りも感じていた。

 

「多分だが、私また活動限界早まったかな」

「……え」

「幸い、撤退が早かったおかげで無理も最小限で済んだ。もう暫くは誤魔化せるさ」

 

 本来ありえた世界であれば、今回の無茶で活動時間は1時間を割り込むこととなる。

 2時間前後の活動時間を維持できる現状はまだ恵まれているのだが、本人はあずかり知らぬことだ。

 

「オールマイト……」

 

 かける言葉が見つからないという風情の緑谷。

 パワーダウンはそもそも自分がオールマイトの個性を受け継いだからなのだから、罪悪感を感じざるを得ない。

 沈痛な空気を吹き飛ばすように、ノックの返事待たずに保健室に入ってきたのは塚内警部。

 彼はオールマイトから状況の聞き取りに来たのだが、求められるままにイレイザーヘッドに13号、生徒たちの安否について答える。

 

「意外と先生してるようで安心したよ。まぁ、これからは通勤はその格好でやることだ」

「……考えておくよ」

 

 そもそも予定通り、最初からオールマイトがいれば、生徒の被害はもっと少ないだろう。自身も活動時間を大幅に削ることはなかったかもしれない。

 旧知の仲だからこそ、言いにくいことを言ってくれたのだ。感謝はすれど、怒る道理はない。

 そこはしっかり反省して今後に活かさなければいけないと、オールマイトは自分に言い聞かせる。

 ただそれでも、次世代のヒーローたちが早期に実戦を経験したことは大きいと、オールマイトは思う。

 

「こんなに早く実戦を経験し、恐怖を知り、生き残った1年生などこれまであっただろうか。

 ヴィランも馬鹿なことをした。

 このクラスは強い。強いヒーローになるぞ」

 




原作沿いというか、改変による影響はこうしてみるとまだ小さいですね。
とりあえず、上鳴兄妹のどちらかか特定されていませんが、オリ主と上鳴電気は死柄木弔の恨みを高く買った模様。
見せ場の途中で強制退場させたんだし、当然だけど。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。