雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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第97話 決戦準備(1)

―――Side:ホークス

 超常解放戦線、最高指導者となった死柄木弔。奴は就任演説が終わった翌日から姿を消していた。

 公安からは死柄木弔には旧異能解放軍とは別の後ろ盾がある、と言う話があったが「病院」と言うヒントだけ。その先にあるものがまだ見えない。

 警察の方でも身元が判明した脳無の生前の足取りを追ってはいるが、こちらからの方がおそらく早い。

 あちこち調べて回り、旧異能解放軍の把握には成功した。

 だが連中は死柄木の居場所を知らないし、知らされていない。となれば旧ヴィラン連合の連中となるのだが、こっちは曲者だった。

 

 まず、俺が潜入の伝手に使った荼毘。奴は福岡の件から、妙な苛立ちを隠そうともしない。わずかな独り言をつなぎ合わせる限りでは、エンデヴァーさんに強い恨みがあるようだが……まさか、な。

 公的には死亡している轟燈矢。声や歩き方から推察できる年齢は、生きていたとすれば同年代だ。火傷で爛れた肌で年齢が分かりづらいが、そういう部分は隠しきれない。

 それに炎の強力な個性もだ。髪の毛の1本も手に入れば確認できるのだが、優先度的には後回しだ。

 今の奴を下手に刺激すると、黒焦げだ。実際、何人か焼かれている。

 旧解放軍の一部からは排斥論も上がってる。スピナーは無関心。リ・デストロは死柄木弔が戻るまで待てとなだめている。

 

 

 次にスピナー。公安が調査した限りでは、元引き籠りで個性も弱く、ステインの動画に触発されてヴィラン堕ちしたミーハーだった。

 そのはずだったが、並みのプロヒーローでは太刀打ちできないほどの身体能力をいつの間にか身に着けていた。

 対空の訓練がしたいと一戦付き合ったが、正直、無力化するには苦労する。

 それにまだ知識は浅いが、知恵が回る。

 俺に対しても全く油断する素振りがなく、会話するのも気を遣う。

 日の半分は再編された超常解放戦線、開闢行動支援連隊『BROWN』の隊長として、自らの部下になった異形型連中との戦闘訓練に明け暮れている。残りの時間も勉強をしたり、リ・デストロたちとの会議に費やしている。

 経験と環境を得て、目覚めてほしくなかった才能が急成長しているさまを見せつけられている。

 正直、いつ寝てるのかと思うくらいのタフネスと行動力だ。そのせいか、旧異能解放軍の連中から最も認められ、信頼されている死柄木の側近だろう。

 ただ、別の意味ではこいつは一番期待がある。強烈なステイン信奉者なのは変わらない。そしてステインの望む社会に死柄木が不要であることも認識している。死柄木の望む世界と、己の望む世界が違うことを承知の上で奴と共にいる。すべて破壊した後に己が望む社会を本気で作り出す気でいる。

 そのために今は雌伏の時と、力をつけ、頭を鍛えている。追い求めるステインの理想が借り物、矛盾をはらむものだとわかっていてなお、その理想に近づける手段を探している。

 奴は理想と現実の折り合いをつけられる男だ。できれば、こちら(公安)側に引き込みたい。

 

 

「おい、ホークス。ちょっといいか?」

「やぁ、マスタード君。なんです?」

「マスタードさん、だろ。一応、俺の方が上なんだからな。ナンバーツー」

「はい、マスタードさん、それで、なんの用です?」

 

 正直、旧ヴィラン連合の中ではコイツが一番小物で扱いやすい。

 開闢行動人海戦術隊『BLACK』の隊長、ってことになっているが、多分、コイツの言うことは誰も聞かない。

 

「あぁ、サンクタムの野郎が置物でも行動理念ぐらい示せって五月蠅くてよ。面倒だからなんか考えてくんねぇ?」

「ははは、お安い御用ですよ。それにしても、ちょっと太りました?」

 

「うるせえ。いいんだよ、今までが酷すぎたんだ。何日も飲まず食わずでマキアと戦うのが当たり前とか、死柄木もスピナーもイカレてら」

 

 どうやら、異能解放軍との戦い以前に酷い生活をしていたらしい。その反動か、与えられた環境で気ままに贅沢を貪ってる。最近じゃ、酒と女にも手を出してるとか。君、確かまだ高校生にもなってないよね?

 人権派のやり手弁護士と高額の保釈金で外に出たが、その実家から金を持ち出して再度家出。周囲の目に負けて親はどこかへ逃げてしまったというのに。

 悪い意味でヴィランらしい、刹那的な生き方だ。正直、反吐が出る。

 荼毘と同じく排斥論が上がっているが、気付いているのかな?

 

「ん~、個の自由を至上として既存の仕組みを打ち滅ぼす、とかでいいんじゃないですか?後は、リ・デストロへの忠心は必要でしょう」

「あ゛ん?死柄木に負けた負け犬の事なんかいいだろ」

 

 それを元解放軍の連中に囲まれた、この群訝山荘で言える蛮勇は凄いけどね。

 

「まぁまぁ、お互い融合したってことで、相手への配慮を見せるのも勝者の義務ってやつですよ」

「……そうか、そうだな。僕は連中に慈悲を示してやればいいんだな!」

「ええ、そうです。流石はマスタードさん。姿が見えない死柄木さんもきっと喜んでくれますよ。彼、今どうしてるんです?俺も一度、ちゃんと挨拶したいんですよね」

 

 こんな直球で答えてくれたら苦労しない。そう思っていたんだけど、思わぬ反応があった。

 

「あぁ……知らね」

 

 何を思ったか、マスタードは言葉少なげに背中を向けて歩き始めると、ジェスチャーでついてくるように促してくる。

 何処へ行くつもりかと思ったが行き先は自室。何も言わずついて入ると、厳重にロックをして何かしらのデバイスを操作している。

 

「さてと、これで陰険愚痴オヤジの目も耳もねぇ」

「……へぇ、いいんです?」

「スケプの野郎、なんか忙しくしてっから、奴の仕事増やしたらワリィよなぁ」

 

 ニヤニヤとゲスな笑顔で手にしたデバイスを弄ぶ。俺につけられてるマイクロデバイスを含め、監視を無効化する装置らしい。

 

「デトネラット社の試作アイテム流出事件ですか。彼が役員を務めるFeel Good社も関連してるから、表の立場もあって忙しいんでしょう」

 

 昨今の社会不安。脳無だけじゃなく、ヴィラン犯罪の過激化があった。異能解放軍が決起に備えて武器を蓄える過程で、自社製アイテムの性能テストにブラックマーケットを使っていたらしい。

 確か、宮下と言う秘書が主犯格らしいが、ことが発覚した時には彼は自殺していた……おそらくはスケープゴートにされたのだろう。

 

「あぁ、それな。いい気味だ。だから、ナンバーツー風情に構ってる余裕は奴らにゃねぇんだ。それに、ここで何人も犯ってたからな。一応はこっちが上なんだ、グダグダ抜かすならってんで見えねーようにさせてる」

 

 うん、解放軍の金で風俗呼んだり好き勝手してるからね。

 最近はそれも渋られて、数人、ガスで眠らせては……ってやってるみたいだしな。で、連中の金で監視を無効化するデバイスも、か。ホント、腐ってるね、君。

 アレ?そうすると俺って、連中からこのガキにヤられてるって思われてるの?勘弁して?

 

「さて、取引だ。ホークス」

「……いやだなぁ、俺、何も金目のものないっすよ。サイドキックの給料や装備代でカツカツですわ」

 

 冗談はさておき、何を言ってくるかな?

 

「惚けんなよ。コッチについたのってどうせフリだけだろ」

「仮にそうだとして、何が目的だ?」

「けっ、やっぱそっちが本性じゃねーか。クソヒーロー」

 

 俺、演技下手なのかなぁ、落ち込むわー

 

「オーケー、取引だ。対価は現実的なモノなら可能な範囲で応じるよ。こっちは死柄木弔の居場所と、奴のバックが知りたい」

 

 そっちが何を要求するかな?まぁ、大体想像つくけど。

 

「あぁ、それか。オール・フォー・ワンの元側近、デブメガネのヤブ医者とよろしくやってんだろ。ギガントマキアを従えたら力を渡すって、ロープレかよ。氏子達磨なんて適当な偽名使いやがって。場所は知らねぇぞ。あのジジイ、用心とか抜かして転移でしか居場所に行けねぇし」

 

 ある程度の容姿が分かったのは大きい。転移はあの異臭がする転移だろう。黒霧とは別の転移個性。あのタイプの個性は条件はともかく効果範囲は概ね円状に限界距離が現れる。

 神野はオール・フォー・ワンによる転移の可能性があるから除外。

 九州、それに黒霧の逮捕場所、スピナーの携帯履歴がロストした新潟、それに泥花市。ここに直接、跳んだとは思えないが、戦闘の経緯を聞く限り、泥花市から徒歩数十分圏内。

 スピナーの身体能力を踏まえれば、一般人より広いエリアだがそれは誤差レベルだ。

 これらを踏まえれば、怪しいエリアはこの群訝山荘を含む近畿エリアと濃尾の一部に絞られる。

 後はスピナーとマスタードの携帯履歴の位置情報でも追えばある程度特定できるだろう。

 

 距離の限界がさらに長い可能性は否定できないが、捜索の優先度を上げるには十分だ。

 まだ範囲は広いが、その上で「デブ眼鏡」の「ジジイ」医師なら初老以上の男性。マスタードなら50代ぐらいまでは「オッサン」だ。

 その上で、ヴィランや脳無を隠匿・製造できる規模の設備を持つ病院。これだけあれば、警察と公安で十分調べられる。

 

 それにしても、ここまでの情報をあっさり渡す。心底ヴィランに堕ちたと言ってもまだ子供か。甘いね。

 

「へぇ、極秘でしょ?いいんです?」

 

「いいよ。スピナーの野郎はちょっと強くなったからって、僕のことは未だクソガキ呼ばわりだ。奴も死柄木も、荼毘だって誰のおかげで解放軍を押さえられたか、わかっちゃいない。お前が何考えるかも含めて、僕には関係ない。僕は今の状況を使って、あのクソエリート女をグチャグチャにできればそれでいいんだ」

 

 その視線の先には雄英体育祭の切り抜きと、解放軍にとって躓きとなった通称仮免事件。焦凍君が仮免取得早々に大活躍した後のインタビューからプリントした写真。

 写真がぐちゃぐちゃに汚されている。その様は憎悪と言うより悪質なストーカーを思わせる。なんでこう、エンデヴァーさんの周りには厄介ファンと厄介ファンを引き付けるヒーローが多いんだろう。やっぱ類友って奴か?

 

「ブルーアンバーとか言う変な名前の女ヒーローだ」

「あぁ、なんか宝石らしいですね。割とレアな」

「あぁそうなん……って、ンなことはいいんだよ!」

 

 あぁ、やっぱりこの話か。正直、頭痛いなぁ

 気は進まないけど、一人ぐらい女をよこせってぐらいならどうにかした。

 けど、その子は無理。

 エンデヴァーさんと一緒にいた雄英の子じゃない。なーんか、俺のことを警戒していた子。羽根で盗聴した限り、監視に気付いてたみたいなんで話しなくて良かった。

 おかげでエンデヴァーさんに暗号も伝わったみたいだし。そんなことなくとも大丈夫やったと思うが、確率上げてくれたんは確か。

 警戒しても口にしないあたり、こっち向きの判断も出来るあたりが頼もしい。

 そう言えば、そのアイテム流出の証拠品、あの子が押さえたんだっけ。ほんと、今年の雄英生は強いよね。

 

「ンなことはどうでもいいんだよ。連れてこいとは言わねぇ、居場所を見つけろ。いや、フリーだったらお前が雇って連れてこい」

 

 さて、どうするかなぁ

 連れてこいって言われても無理よ?俺、この子については何もしたくない。俺だって死に方ぐらい選びたいよ。

 だってこの子、現ナンバーワンとその息子ががっちりガードしてるんだよ?どこのお姫様だよ。あの様子じゃ、焦凍君の彼女なんだろうし。

 俺やだよ、焼き鳥は好きだけど、焼き鳥にはなりたくない。

 

「雄英生は今、インターンで全国に散ってますからね、決起の時に見つかったら教えますよ」

 

「あぁ、頼む、ホークス。僕をコケにしたこと、アイツに後悔させてから殺さなきゃ、気が済まない」

 

 本心はそうじゃないだろうに。何とも厄介な。

 あーあー、興奮しちゃって。まーた、1人無駄に泣かされることになるな。それを見逃さにゃならん自分に反吐ば出る。

 

 けど、これで全てが繋る。あとちょっと、あとちょっとだ。

 一歩間違えれば日本が滅びる。気合を入れろ、ホークス!

 

 

―――Side:リ・デストロ

 あぁ、イライラする。私の個性「ストレス」にはちょうどいいが、何とも度し難い。

 決起に備えてのサポートアイテム開発と実戦テスト。

 我らの同士、鍛錬を重ねた解放戦士をつまらぬヴィランにするわけにいかないから、そこらの木っ端ヴィラン達にブースト薬とセットで廉価販売を行っていた。

 

「スケプティック、君にしてはつまらないミスだったね。しかもそのダメージはバカにならない」

 

「私のミスではないのです。私が失敗したのはただの一度だけ、そう何度も申し上げたはず。あのような木っ端にデバイスを売り渡した荼毘と、現着が遅れたスライディン・ゴーの不手際だ。奴は常に衛星でロックしている。奴の近くに弊社のデバイスがあれば感知して報告が上がる仕組みに不手際など無い。現着が遅れたやつと、充電ひとつ満足にできない知能指数の持ち主に売り渡した荼毘の責任なのです、リ・デストロ」

 

 おぉ、素晴らしい愚痴の嵐だよ。スケプティック。だが、それを聞かされる私の頭皮とストレスの心配もしてほしいね。

 

「幸い。最近、不幸にも亡くなった私の秘書がいる。彼が尊い犠牲になってくれた……」

 

 宮下。君が解放思想を理解できなかったことは心底残念だ。だからこそ、君の死は無駄にしない。君の死は汚名によって彩られ、解放軍本体への追及を止めた英雄として讃えられるだろう!

 

「しかしその代償は大きい。荼毘、スピナー、君らの見解も聞きたい」

 

「あ゛?知るかよ。客を選んだのはオメェらだ。それも引き渡し日のやらかしだ。充電?製造元でやっとけよ。やってあったなら不良品ってことだろうが」

 

「同感だ。それよりも解放戦線用のアイテム製造はどうなんだ?支障が出るなら、義爛から組合に繋がせるが」

 

 荼毘の態度は不遜極まりない。あぁ、本当に良いストレス源だよ。今なら死柄木弔と再戦してもいい勝負が出来そうだ。

 免許停止と再審査で半年は派手に動けない。株式市場での評価はダダ下がりだ。資金面でも厳しいものがある。泥花市の復興と装備の拡充に資金が必要と、株の売却をしたのは失敗だった。このままいくと、来期は経営から追い出されかねない。

 だが、死柄木弔の帰還に合わせて決起するなら、背に腹は代えられない。どうせそうなったら株も現金も紙切れ同然なのだ。

 

「よいだろう。スピナー、君に任せるので手配を頼む」

「わかった。予算の手配頼む。相手の心象はすこぶる悪いから、そのつもりでな」

「……わかってる」

 

 死柄木弔の側近、ヴィラン名、いや、解放コード・スピナー。

 元底辺引き籠りなのに、何とも頼もしい。しかし、ちゃっかり私腹を肥やす腹積もりが見え隠れするコイツもやはりヴィラン。死柄木弔を最高指導者に迎えてからと言うもの、あぁ、ストレスが溜まる。

 早いお戻りを、死柄木弔!私は!あなたの忠実な部下!リ・デストロのストレスはいつでもMAXです!!




うっかり口を滑らせる気のいいトゥワイスおじさんの代わりに、とてもゲスいマスタード君が情報を漏らしました。
いや他に方法が思いつかなくて。トゥワイス削るとこういう部分で困りますね。

真面目に考えれば、捕獲済み脳無や白雲朧の死亡現場から病院への搬送、葬儀等の流れを追えばどこかで必ず蛇腔病院系に引っかかります。なので、リークがなくてもリアルに考えれば時間の問題です。

脳無は基本、ヴィランが素体ですけど白脳無含めれば蛇腔病院系ですり替えたりしたのは多いと思うので。特に保須の翼脳無とか。

かなり長くなったので一旦分割。
次回はヒーロー側の準備状況を。

そしてホークス、自分の事は高度1万ftぐらいのものすごーく、高い棚の上に置いてます。<厄介ファン
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