現実の方でどれだけ時間がたったかわからない。ただ、個性のみで構成された世界でありながら疲労を感じるのに十分な時間が過ぎた。にもかかわらず、オール・フォー・ワンはいまだ健在で一進一退という状況が続いていた。
「はぁっ、はぁっ、クソったれが……やっぱ、外で殺しときゃよかったかもな」
「流石にそれは困るね、ミルコ。もっとも、時すでに遅しだ。君たちはもう、ここで私の一部になるか、私を倒して勝利のトロフィーを手に凱旋するかの択しか残されていない」
ワン・フォー・オール歴代たちもそれぞれの個性も駆使して戦っているが、オールマイト基準で強化された身体能力をもってしても状況が一進一退だった。
正直、おかしい、と思ってしまう。オール・フォー・ワンが持つ個性の内、超再生は確かに強力だが、脳無と同じなら限界はあるし、そもそも効きが悪いと言っていた。
「怖い目だね、大事に守られているお嬢さん。君のことは知っているよ。
弔が一時期ずいぶんと恨んでいたからね。電子操作などと言う小さな個性をよくぞここまで鍛え上げた。
その努力!精神力!尊敬に値するよ。
こういう個性は僕が奪っても使い勝手が悪い。しかし本人の手にある限りオンリーワンの輝きを見せる。どうだい?愛しの彼氏共々、僕の下へ。君なら、雑然とした僕の
多分、本気の勧誘。それにしても、ヒヨコと言ってもヒーロー相手に随分とくだらないことを言う。
「遠慮しておきますよ。生憎と、ヒーローの端くれやってますんで」
「
オールマイトがこちらに押し寄せる軍勢を薙ぎ払う。ただやっぱり疲労の色が濃い。
「と言うか、何で知ってるんです?私、友達少ないんですけどね」
「おやおや、それだけ攻勢に長けてそうなエンデヴァーの息子君を傍に侍らせて言う事かね?それに僕は友達が多いんだ。なんでも知ってるよ、お嬢さん」
ヴィラン連合以外に情報提供をする手足になる人がいる、ってことか。そして、その長い手は雄英にも伸びている。イレイザーヘッドとプレゼントマイクに緊張が走ったから、いるのだろう、内通者。
それを考えるのは後だ。志村さんからの叱咤が飛ぶ。
「オールマイトの言うとおりだ、相手にするんじゃないよ!
「あぁ、なんだ、志村じゃないか。生前は私から逃げ回るのがやっとだったのに、ずいぶんと大きな口を叩くようになった。しかも血の繋がっていない相手を娘?君の孫はいいのかい?随分と薄情じゃぁないか。僕を殺せば、彼もただでは済まないよ?」
「くっ、貴様!どの口でぬけぬけと!!」
「見ての通りこの口さ。君の後継者があまりにしぶとかったからね。オールマイトの嫌がることが何かと考えたのさ。我ながら、よい手段を思いついたと思っているよ。
死柄木弔、類稀な悪の天才児。破壊の化身。彼は実にいい仕事をしてくれた。彼を生んだ血を残してくれてありがとう、志村奈菜」
志村さんがオール・フォー・ワンに勝てなかったのは聞くまでもない。そうでなければ、オールマイトも、デクも、私だってこの場にはいないのだから。
とはいえ、自分の憧れを罵倒されるのはやはり腹が立つ。
「つまらんね。オールマイトも志村も、ほら、笑顔はどうしたんだい?さて、そろそろネタ切れかな?発想は良かったが、ここまで私を弱体化してなお、君らは弱い。拍子抜けだよ。僕の個性達。イレイザーヘッドをしばらく足止めしてくれよ」
「ちっ!マイク!!」
「まっーかーせーろーーーーーーぉ!!」
何かしらの個性によるものか、煙幕のようなものがイレイザーヘッドとオール・フォー・ワンの間を隔てる。そうなれば、自由に動けてしまう。
「気をつけろ!ブルーアンバー、奴の狙いは―――」
「そう、もちろん君だ」
「っ゛あ゛っ!」
万力で頭を鷲掴みにされたような痛み。クラストとショートは一撃で吹き飛ばされた。マズイ、孤立した。
「安心しなさい。君は殺しはしない。君を倒せば、この状態は途切れるんだろう?それで万が一、ワン・フォー・オールの入手に失敗したら面倒だしね。しかし、ここで私の個性で、君を奪ったら……どうなるんだろうね?」
ゾっとした。使いこなせないと言ったものを入手してどうするのか。
「試してみよう。君が消えるか。君を支配できるか」
「茉芭から、離れやがれ!赫灼熱拳!」
「おお、こわい」
神野で見たのと同じように腕が変形すると、空気の圧力でショートを吹き飛ばす。
「ショー……ト、にげ……がぁっ!こ、のぉっ!」
体格差もあって地に足がついてない。腰の入ってないパンチや蹴りじゃ何のダメージにもなっていない。
ショートや勿論、オールマイトもデクも、ダイナマイトも皆、目の前の敵に阻まれ、すぐにこちらに来れない。それどころか、私が揺らいでいるからか、思うように動けなくなってダメージを受けてしまっている。
私がみんなの足を引っ張る……そんなのは、嫌だ。
私だって、みんなを守る、ヒーローになる……いま、この場にいる私は、ヒーロー、なんだから。
無理でも笑え!あの日、なりたいと思った自分に、今こそなれ!!
だから……もっと力を出せ!使いこなしてやるから、限界を超えなさい!もっと、いや、全部よこしなさい!
その刹那、ドクン、と衝撃を伴って心臓が鳴った、気がした。
「む?……ふむ、この場で個性を奪うというのは、難しいか。意志が邪魔だ。弔の体が目覚めていないのがつくづく惜しい。しかしイレイザーの抹消が金縛りになるのだ……別の手段……奪う、そうだ……ぬぉっ!?」
オール・フォー・ワンの口元が下衆な弧を描くのと、私がキレて言葉を遮るのは同時だった。
「さ、せ……る、かぁ!」
「ぬっ!?転移!?いや、今のはなんだ!?」
「ブルー!?」
後先考えず、オール・フォー・ワンの電子を乱し、その手を逃れるとショートの所まで飛ぶ。次の瞬間には、ショートの隣に立っていた。
思い切り乱したから、右手は暫く使い物にならないだろう。
ショートは何か大技のために集中をしていたが、私を見て止めてしまった。
その大きすぎる隙に、何かしらの個性が襲い掛かってきたのを、私が前に立ち、手を伸ばす。
「
思うがままにつぶやいた言葉は、電子の壁となって、私とショートを攻撃から守った。現れ方が焦凍の氷結に似ているのは、まぁご愛敬ってことで。
窮地を脱したこともあり、私の口元は笑みを描いているのがわかった。
「盾……いや、ちがう……この場で覚醒、か?」
「さぁ?どうだろうね」
常識って怖いよね。肉体に合わせる必要なんて、今はないってってだけ。電子を操作する私が、電子より遅いなんてあっちゃいけない。
ブチ切れた今だからできるのか、土壇場で成長したのかは知らない。そんなの今はどうでもいい。今やるべきはオール・フォー・ワンの打倒、ただ一つ。
「オール・フォー・ワン、確かに笑顔は大事だよね。一番大事なこと、忘れかけたよ!
この世の全て、個性因子にすら電子は宿る。私はそれを知覚し操作する。故に、私はすべてに干渉しうる。物理に見えてもこの場全て個性がかたどる世界。
それらへの干渉は、容易。繋ぐだけで限界と思っていた。自分の限界を自分で決めてた。それじゃだめだ。
「オールマイトが言っていた。怖いとき、不安なときこそ笑えって」
「懐かしいな。そのセリフ」
「ははっ、俊典、いや、オールマイト、いい先生してるじゃない」
「……お師匠の、お言葉です。確かに、ピンチであるほどに忘れがちなことだぜ!礼を言う、ブルーアンバー!テキサス・スマーーーシュ!!」
話しながらも攻撃の手を緩めないオールマイトを遠目に、改めてこの個性のみで構成された世界を”見た”。
桁違いの情報量が流れ込んでくるが、今この場の私も個性そのもの。
肉体の枷がなければ、頭痛は起きない……ちょっと、後が怖いけど、今はそれも考えない。
「なるほど、これが……オール・フォー・ワン、いや、死柄木弔」
個性でできた世界。そこを介して死柄木弔の体を流れる電子が見える。
脳無と同じ、歪でありながらどこか不思議な調和のとれた流れ。この差が通常の脳無と、超脳無、マスターピースと呼ばれた死柄木の差、なのだろう。
行動に移すのが遅すぎたのは反省だけど、いくつかの個性が死柄木弔の固有のものになっていて、オール・フォー・ワンの制御の外にあることだけはわかる。特に超再生は完全に外付けだ。
多分、常時発動と成長の限界を取っ払うために、肉体改造と直結させたのだろう。
オール・フォー・ワンとその配下をいくら叩いても再生の底が見えないのはそのせいだ。世界の外から直されていたら、中に入り込んだ私たちでは気付けない。
外から見ても分からない。中から見ないとこれは判別できない。けど、気付けたならどうにかできる。死柄木の意識がなく、肉体が仮死の今、制御はとても緩い。
「要は、私の方が強い!
反応を得た感触はあった。
「くぅ!私としたことが……これだから手負いのヒーローは恐ろしい。今回は無理だ!あの小娘、ブルーアンバーを殺せ!そうすれば目覚めた僕と弔がすべてを破壊する!」
「させん!!クラスト!立て直せ!!赫灼熱拳!プロミネンス・バーンッ!」
折よく、エンデヴァーの技がこちらに来ていた個性の軍勢を焼く。そして、再生しなくなった。オール・フォー・ワン自身は超再生を保有していない。なら勝ち筋が見えてきた。
「よしっ!ショート!行って!!エンデヴァーの支援!クラスト!頼みます!」
「わかった!」
「おう!先の失態、取り返してみせよう!」
ここが攻め時と、ショートをエンデヴァーの下に向かわせる。熱もだいぶ籠っているはずだから、冷却が必要だ。
超再生が眠っている間に今度こそ倒す。
そのためには倒すより、無力化、あるいはこちらの味方につけたほうが良い。将棋だよね。駒を奪って戦力にしてやる。
「プレゼントマイク!無理やり従わされている個性達を起こせますか!」
「奴は俺が止めておく!試したいことがあるならやってみろ、ブルー!」
細かい理由を聞かずに支援をしてくれるイレイザーヘッド、とてもありがたいです。その信頼には勝利で応えないと。
「はぁ!?……いや、いいぜ、そういうリスナーの無茶振りに答えるのが、プロのMCってもんだ!テッメェラ!そんなシケた野郎に押さえつけられて、無様晒してんじゃねぇYo!目ぇ醒ませぇぇぇぇっ!!YEAAAAAAAAAH!!!」
流石に音響攻撃では間違いなくトップレベルのプロヒーロー。
全身全霊のシャウトに確実に揺さぶられた、個性達の存在があった。支配が緩んだ個性達、アナタたちの力、使わせてください。
上手くいけば、出来上がれば、おそらくこの状況を打開するカギになる。何もせず直接殴り続けても、今なら倒せるかもしれない。けど、倒しきるには、足らないと思えた。
この場にあるすべて、オール・フォー・ワンに従わない全てを動員して、奴を倒す。
その決意と共に、私は言葉を紡ぎ、この場、私が知覚するすべて、つまりこの世界全てに命令する。
「
そして……うん、ちょっと、自分のイメージが貧弱とは思うけど、1本の指揮棒が眼前にあった。
プリエアの変身スティックでないだけマシと思おう……ってこら、姿を変えようとするな。そのままでいいから!
「あぶな、っと。今だけ、皆さんの力をお借りします」
「貴様、それは私のものだ!返せぇぇl!!」
物理的な距離を無視して、跳んできたオール・フォー・ワン。個性のみの世界なのに鼻が曲がりそうなほどに臭い。何というか、下水でクソを煮込んだような……それはどっかのダイナマイトの性格だっけ?
異臭と言うわかりやすい予兆と共に現れたオール・フォー・ワンだけど、先ほどのようにはならず、クラストが私を守り切ってくれた。
「させぬわ!このクラスト、護りに関してはアイギスにも劣りはせん!」
「ブルーアンバーにオマエごときが触れるなぁ!」
一度エンデヴァーの所に向かったショートが、支援としての氷壁を作ってくれた。イレイザーヘッドは一瞬のインターバルの隙を突かれたみたい。
そして氷壁を破って、私に迫る。
「ぬぅっ、ぬぉぉぉぉぉっ!!」
「
作り出した個性武器を振るい、電子の壁を作る。材料はもちろんこの世界。つまりオール・フォー・ワン自身。精々自傷に励んでください。ともあれ上手く行った。
「赫灼熱拳・燐。これ以上は好きにさせねぇ!」
焦凍の半身がそれぞれ炎と氷で覆われる。まさに個性の化身と化した姿。その拳がオール・フォー・ワンを殴り飛ばすと、その体は炎のような氷、あるいは氷のような炎に包まれた。
「ブルー!下がるぞ!!」
追撃をするかと思ったが、私を抱えて距離を取る。クラストもそれについてきて、楯を数枚飛ばしている。
不格好ではあるけど、私はショートに担がれたまま作り出した指揮棒を振るい、オール・フォー・ワンが持つ個性達の制御を奪い、姿を変えていく。
「続けていきます!
プレゼントマイクが作ってくれた支配の揺らぎで、操作系個性の力を根こそぎ持って来た。
それを取り込めば大幅にパワーアップもするだろうけど、そこにオール・フォー・ワンの因子がひと欠片でもあれば奴は生き残る。
他ならぬオール・フォー・ワンがくれたヒント、「勝利のトロフィー」は多分、それを狙っての罠でもあっただろう。
そこまで考えていなかったとしても、私に期待するものがあったのは事実のようだ。
身に宿す数多の個性、おそらく、オール・フォー・ワン自身、そのすべてを把握できていない。覚えているもの、使いやすいものをピックアップして使っているに過ぎない。
簡単に分類しきれない雑多な個性。キメラの様に絡み合い、変質した物も含めれば、どれだけの可能性を奪ってきたのだろうか、この外道は。
プレゼントマイクの魂のシャウトに揺さぶられた個性達。系統別にまとめ、それをそのまま使うのではなく、武器として形作る。
それぞれの武器はダイナマイト、エンデヴァー、増幅系は割と多かったので、細切れにして全員に渡した。
「消える前にそれで足止めを!デク!オールマイト!志村さん!!全力攻撃をお願いします!!ショートも行って!」
「おう!」
「今度こそ決めろよ!デク!!終わったら、俺と白黒つけっぞ!!」
ちゃっかりと決闘の約束取り付けてない?除籍されても知らないよ?
「うん!任せて!!ワン・フォー・オール!フルフォルム!150%!!さらに発勁!!フルパワー!
「面白れぇ!他人の個性そのものを武器にってイカレてんな、ブルー!!気に入った!終わったらアタシんところに来い!!鍛えちゃる!」
「やらんと言っている!!」
「手ぇ動かせよ!
「確かに外だと臭うわな!見とけよ、ブルー!コイツが本家本元ぉ!
「やかましいわ!!」
ダイナマイトの攻撃で生じた爆炎を切り裂き、ミルコの必殺技がオール・フォー・ワンに叩きこまれる。
流石に効いたのか、反撃にすぐに移れなかったところを、エンデヴァーとショートの追撃が入る。
「赫灼熱拳!バニシングフィストォォッ!!」
「赫灼熱拳!冷炎白刃!」
それぞれの破損した装備に似せて形成した個性武器は、オール・フォー・ワンにダメージを与えるには十分な威力があった。
どこまでもオール・フォー・ワンに従おうという個性達が盾になったけど、それらも強力な攻撃に消し飛んだ。
今のオール・フォー・ワンは文字通り、裸の王様だ。
「くはーっ!こんなイカしたHAGEのスピーカー、現実でも欲しいぜ!YEAAAAAAAAAH!!!」
プレゼントマイクとイレイザーヘッドを拘束していたも軍勢も、主たるオール・フォー・ワンの救助を優先した結果、プレゼントマイクの必殺技、ラウドボイスに吹き飛ばされ、消えた。
イレイザーヘッドの抹消によって、オール・フォー・ワンの動きが止まる。
これが最後の攻撃になる。そう思った。
「うう、護衛の身でなくば、オールマイトのために道を開くものを」
それは申し訳ないです、クラスト。
「さぁて、これが最後だ、オール・フォー・ワン!行くぞ、緑谷少年。いや、デク!」
「はい!オールマイト!!」
満身創痍ながらも頼もしい笑みを浮かべるオールマイトとデク、そして歴代継承者の皆さんが、それぞれの必殺技に力を込めていく。
「「「今だ!」」」
「「「「PLUS ULTRA!SMAAAASH!!」」」」
トップヒーローたちの攻撃をさらに増幅し、挙句にワン・フォー・オール歴代がオールマイト級、いや、それをさらに超えたデクの力をまとめて叩き込んだ。
これで滅びないヴィランが居たら、それはまさに魔王そのものだ。
「ぉぉおおおおおお!まだ、だ、まだ、おわら、せない!」
驚くべきことにまだオール・フォー・ワンは生きていた。
オール・フォー・ワンの領域はボロボロで、私が奪った個性達は武器の姿を崩しながら消えていく。最後まで付き従っていた個性も力尽き、消えていく。
幻聴や思い込みではなく、消えゆく彼らから「ありがとう」「奴を倒せ」とか聞こえるのが切ない。
仮にこのまま接続を切っても大幅弱体化は間違いない。
全身もボロボロで、両足も腕もすべて砕けてまともに歩くこともできないはずなのに、個性で形作られた世界と言う出鱈目ゆえか、魔王の矜持か、崩れ落ちながらも、立って、倒れることを拒否していた。
「そうだ、まだだ、まだ、弔がいる。アレは私とドクターの最高作!
「邪魔だよ、先生。俺は俺だ。アンタの力は欲しかったけど。俺を乗っ取ろうってのはいただけないなぁ」
「と、む……ら?はは……そうだったね。君は、僕もキラ……い――――」
精神世界で目覚めた死柄木弔は実にあっさりと、最後まで足掻いていたオール・フォー・ワンを塵に変えた。
「さぁて、コンティニューだ。ヒーロー共。俺は先生のようにはいかせないぜ」
この精神世界において、意外な作用を見せたのはイレイザーヘッドの消失。個性の働きを止める個性はこの世界では金縛りとして作用する。
死柄木弔はその動きが全く取れなくなった。
「くそっ、何だこれ。動きゃしない!」
「悪いが、好きにはさせん。ブルー、やれ」
「はい。これで終わらせる!
まだ手元に操作系の個性武器は残っていた。最大限の気力をこめて、死柄木に突き立てた。
「……あぁ、つまんねぇなぁ……ねる……かぁ……」
目を閉じた死柄木は白黒反転して動かなくなり、それと同時に武器は砕けた。力を貸してくれた皆さん、ありがとうございました。
精神世界でも個性発動を止められるイレイザーヘッド。
個性への干渉、この場合、この世界そのものを操る
「あれ、反転が広がる……全員、ワン・フォー・オールまで退避!」
急いでオール・フォー・ワンと死柄木弔から距離を取る。
制御を失った崩壊の影響なのか、本当にオール・フォー・ワンが滅んだゆえか、接続した世界が崩れて消えていく。
あっという間に、ワン・フォー・オールの廃墟と玉座がある空間だけになる。辛うじて存在する大きな人影は、眠りについた死柄木弔の個性だろう。
外部からの
そうは思うけど、もしこれが本当に永続したら、私自身の危険度が跳ね上がるのだけども。私、医者になる未来が残ってるかな?
ちょっと現実逃避していたら、初代が私に話しかけてきた。
「……ありがとう、ブルーアンバー。これで、オール・フォー・ワンは終わった」
「ホントかよ。正直、勝った気しねぇぞ。とどめだって、死柄木だしな」
「けっ!ナンバーファイブのくせに情けねぇ、俺はきっちり、ぶちのめしたぜ」
「あ゛?何言ってんだダイナマ?思ったよりはやるけどよ、足止めが精いっぱいじゃねーか。それに、その貧相な体でその名はねぇだろ。ダイナマイトってーのは、アタシみたいな完璧わがままボディに相応しいんだぞ。テメェ、改名しろ、な?ダセェし」
「ざっけんな、このイカレ兎!女ヒーローは色ボケばかりか!」
そこでさらっと人を同じカテゴリーに放り込まないで欲しい。思ったより相性はいいようなので、夫婦喧嘩は放っておこう。
「テメェ!聞こえてんぞ!誰がこんな暴力女!」
「そうだぞ、コイツじゃまだ弱い。お前の
「うえっ、ぼ、ぼくっ!?」
グダグダの方は置いといて、現実に戻れば、塚内警部あたりから連絡があるだろう。
「ワン・フォー・オールの使命、紡がれてきた想いはこれで完遂された。僕たちに思い残すものはない。おそらく自然に消えていくだろう。
緑谷出久、君にも感謝を。君のおかげだ。これからの活躍を祈るよ」
「はい!ありがとうございます!!……けど、残念です。もっと、いろいろ教わりたかった」
それは同感。折角、志村さんともお話しできたのに。もっといろいろ話をできたら、って思うんだけど、無理か。
「お嬢ちゃんが気に病むことはねぇ、俺らは所詮は死人で、残留思念だ。むしろ、オール・フォー・ワンに最後のとどめが出来て、向こうで待ってる連中にいい土産話ができる」
「そうだね、茉芭、その、なんだ……最後に……」
「はい、
「元気でね。私みたいな失敗するんじゃないよ。子を産んで守れるぐらい、強くなっておくれ」
「……はい」
抱きしめてくれた志村さんのぬくもりを感じながら、私は最後まで接続を維持できたことに安堵の息を吐きながら個性を止めた。
「お、ととと」
「大丈夫か、ブルー」
「ん、大丈夫……けど、久々に、これは……きっつ~」
現実に戻ると、向こうでは志村さんに体を預けていたから少しよろけてしまった。
途端に押し寄せる強烈な頭痛に、正直、寝てしまいたいぐらいなんだけど。
「ブルーアンバー、疲れていると思うが、死柄木を目覚めさせるので、もう少し付き合って欲しい」
「わかりました」
暫く待つと、再びホワイトマウスと塚内さんが施設に入ってきた。何故か殻木もセットだけど。
「朗報だ。タルタロスから連絡があって、オール・フォー・ワンが突如として衰弱したそうだ。個性数値がなんとほぼゼロになったらしい」
「おぉぉぉぉ、なんと、なんという事じゃ、儂の、儂と先生の夢がぁぁ」
なんともファンタジーだけど、本当に倒せたんだなぁ
「デク、オールマイト、まずはおめでとうございます。それで、皆さんは……」
「……うん、今は声は聞こえない。消えたというか、眠った感じかも」
「個性の方は……?」
「フルカウルや黒鞭を使うのは出来たから、多分、大丈夫」
それくらいなら、初代が言っていたようにヒーロー活動を続けるのに支障はないだろう。勝ちました、無個性に逆戻りです、では哀れすぎるしね。
「死柄木弔の覚醒プロセス、完了しました。警戒を」
「了解した」
目覚めた死柄木弔だが、やり取りはちゃんと記憶にあるようで、意外にさばさばした様子だった。
「やられた。好きにやった結果、負けただけだ。後はそっちの好きにしてくれ」
あちこちペタペタ触っては何も起きないのを見て、残念がるよりも面白がっている様子なのがむしろ奇妙な感じだった。
USJ襲撃から始まって、林間合宿の襲撃、保須、神野事件、泥花事件、様々な事件を引き起こした稀代のヴィランとしては実にあっさりとした幕切れだった。
―――Side:スピナー
包囲網は抜けた。ギガントマキアの野郎は目が覚める前にヒーロー共が捕獲……捕獲でいいよな?ヘリで吊ってどこかに移送していった。多分、眠らされてるな。
ことが済んだせいか、マスコミのヘリが大量に飛んでいる。
「ふぅ、包囲を突破できたのはこれだけか」
「はい、あの、スピナー様、我々はこれからどうしたら……」
「言っただろう。潜伏して解放思想を守りたいならそうしろ。単に暴れたいなら好きにやれ。ただし、信念なき暴力は俺も敵に回ると思えよ?俺はとりあえず死柄木の安否を確認する。後のことはその時考える」
ヴィラン連合としてずっとそばで見てきていたイカレ野郎。長いようで短い付き合いだったが、アイツのおかげで俺は強くなれた。信念を持てるようになった。理想を、そして目標が持てた。だからこそ、出来る限りアイツを助けたい。
何よりアイツは俺のダチだ。アイツ自身がどう思っているか知らんが、俺に取っちゃ大事なダチだ。ダチを助ける、それはヒーローでもヴィランでも関係ないだろ。
「じゃあな。ここからは分かれて移動しろ。捕まるなよ」
返事は聞かない。一緒にいた方がいろいろ楽だろうけど、変に祭り上げられたら調子が狂う。
多分、行っても無駄だと確信しながら、俺は死柄木が居た病院へ向かって森を駆けた。
―――Side:エンデヴァー
塚内から荼毘が死亡したと聞かされた。
「……なに、燈矢、が?」
「ご存じだったのですか?」
「オール・フォー・ワンが、荼毘が……燈矢、だ、と……」
「そう、でしたか……遺書と遺伝子情報で確定しました。ヴィラン名荼毘は戸籍上、死亡していた轟燈矢です」
犯罪者の戯言と思いたかった。そう自分に言い聞かせて戦った……何という事だ。こんなこと、冷や冬美、夏雄に何と伝えれば……
「その、残念なことですが、彼はメイデンに収納した直後に……」
「何故だ!どういう事なんだ!」
「遺体から遺書が見つかりました。こちらを」
貪るように読んだが、要は体質に合わぬ個性使用や死亡したと思われた際の火傷などもあり、もともと長くなかったらしい。
それでも俺や焦凍に負けぬレベルで鍛えた……すべては復讐のために……しかしその炎を俺に向ける事も出来ず……最後の嫌がらせにと、名乗り、自らの中身を焼き尽くした。
「なぜ……俺は、あのと、き……ぐぅっ」
いや、ブルーアンバーは悪くない。あの場での最善だった。凶悪なヴィランを無力化し制圧する。俺が指示し、彼女はそれを正しく行った。そのおかげで、息子と殺し合わずに済んだ。
「俺が、焦凍や冷、冬美、夏雄のためにしたことが、お前の、燈矢の復讐の機会を奪った……だと」
ナンバーワンの座を、トップヒーローの威光を貶める、それだけを望みに生き抜いた。それが出来ぬなら、あとは超常解放戦線、死柄木やリ・デストロの望むようにすべてを破壊する。
しかし、その望みは潰え、最後の嫌がらせに俺を殺すか、殺されて息子殺しの汚名を着せるつもりだった、らしい。
「バカ、者が……生きて、おれば、あの娘が、どうにか、して、くれたかもしれぬのに……」
都合の良すぎる願いだったし、生きていると思わなかった。都合よく使おうとすれば焦凍が黙ってはいないだろうが、体質を緩和する望みはあったというのに……なぜ、戻らなかった……いや、すべてはあの日、燈矢に向き合わず逃げた俺の罪。
「このことは……公表、されるのか?」
「検死の必要はありますが……その、おそらくですが脳無と同じ扱いになるかと。いくらか通常の外科手術と異なる痕跡も見られるとか。素性については……その、
「……そうか。礼を言う」
本来なら俺に対して伝えるのも禁止だったろう。あえてそれを破ってでも教えてくれたことには感謝する。
焦凍と彼女には要らぬ重荷を背負わせてしまった。詳細は……話さぬわけにはいかんな。
彼女は聡い。俺が何も言わなければ、勝手に罪を感じかねない。その罪は背負う必要はないものだ。俺と燈矢の罪……お前の罪は俺が背負い未来に償おう。
地獄で待っていろ、燈矢。
―――Side:オールマイト
あぁ、終わった。
一度は果たしたと思った、ワン・フォー・オール継承者としての責務。まだ終わっていないと知った時の絶望、無力感、そうした物からも解放された。
私の存在意義、平和の象徴としての役割はとうに終わっていた。
そして最後の役目、緑谷少年を1人前に育てるという役目もほぼ終わっただろう。
彼はワン・フォー・オールを完全に使いこなし、その使命を完遂した。
ヒーローとしての心構えもしっかり持っている。後は女性に対して無駄に硬くなるのをどうにかしないといけないが、それは別に私がどうにかすることではないだろう。
……困ったな。もう、やり残したことが私にはないようだ。後は静かに老兵は去り行くのみ……か。それはそれで、悪くないね。
「オールマイト!」
「何かな?緑谷少年」
「その……志村さんから、一言あるみたいでして」
はて、お師匠から?
オール・フォー・ワンと戦って後は消えると聞いていたが、まだ残れそうなのだろうか?頻繁にお願いすることは無理だが、茉芭少女にお願いすればまたお会いすることもかなうかもしれない。
「えっと、そのまま、伝えます。『勝手に身を引こうとするんじゃないよ。しっかり、9代目と
「あぁ、本当に、凄い人だよ」
でもね、お師匠。孫って茉芭少女と轟少年の子供の事と思いますが、割とすぐに見られそうなんですけどね。
エンデヴァーがものすごい後押ししてるみたいだし。
緑谷少年の子供の事だとしたら……その、祈っててください。
それはともかくとして、平和の象徴、そして悪の帝王なき時代をしっかり、報告させていただきます。
最後に放つスマッシュはこの名にしたかった。
そしてある意味原作と真逆に、荼毘死亡のトガ&トゥワイス、ついでにマグネ生存。もっとも生存組は原作ほどに満足を得てたりはしていませんが。
荼毘は裁判になったらどのみち、死刑しかありえませんので。
次回最終話(一応)