―――Side:轟焦凍
「なー、轟、お前、上鳴さんとまだ付き合ってるんだよな?」
「あぁ、まだって何だ?別れるつもりはないぞ」
ある日、昼休みに瀬呂がそんな妙なことを聞いてきた。
視線を向けると、
「あぁ、もう。ごっそさん。いやさ、その割に何もなくね?って思って」
「何もって、何がだ?」
何を言いたいのかわからない。一緒にいないとか、仲が悪そうにでも見えるのだろうか?
「いやさ、食事を一緒にしてる回数は増えたけど、それだけだよな?」
「あぁ……そうだな」
そういうことか。インターンの間はずっと一緒にいるから、それでいいと思っていた。
いつでも傍に居たいが、拘束しすぎもよくないだろうと思って気にしないようにしていたのだが。上鳴からも拘束しすぎるな、とは言われたし。
「たまには休日に遊びに行くとかしねーの?」
「……なるほど」
最近はずっと詰めっぱなしもよくないと、インターン活動がない週末もある。確かに二人で遊びに行くのは楽しそうだ。
「そうか……そういうのも悪くねぇな」
「だろ?」
「でも、遊びって、何すりゃいいんだ?」
ぴしりと、瀬呂が切島のように硬くなった。硬化をテープで再現できるようになったのか?
「やべえ……天然すぎる……えっと、あちこち店を冷やしまわったり、映画見たり、ゲーセン行ったり?」
「あぁ……そういえば漫画でもそんなことしてたな」
「そういうマンガも読むんだ。今度貸して」
「あぁ、わかった」
夏兄が送ってきてくれたマンガ。参考になったようなならないような。面白くはあったけど。一緒に買い物してなんかよくわからないことで喧嘩したりしてた。なるほど、と思ったのは、他の女に目移りするのはダメってことだけど、それは当たり前だろう。
「で、ちょっと待って。放課後、作戦会議しようぜ」
瀬呂が何か携帯を操作すると、放課後に改めて話そうと言う。
授業が終わり、瀬呂に引きずられるまま、ロビーで話をすることに。
「内緒話するなら、俺の部屋の方がよくねぇか?」
「大丈夫だろ。上鳴さん、いつものルーティンみたいだし」
寮暮らしをしてれば、みんなの生活リズムも分かる。
今日はトレーニングルームで夕方まで体を動かした後、拳藤に麗日を加えて格闘訓練と言っていた。
「それに……アドバイザー、俺だけじゃねーし」
「そーゆーこと。一応、マッハがいつ戻ってきてもいいように警戒しておくから、ウチと障子が」
「そこまでしないでも」
別に悪いことしてるわけじゃねぇしな。
「いや、せっかくのデートだろ?ばっちり作戦とプラン立てて、エスコート決めて惚れ直してもらおうぜ、な」
「……ぉぅ」
それは魅力的な提案だ。茉芭と麗日を除く女子全員と、上鳴もいるな。どういう基準だろう?
「それでそれで!デートだって!?」
「あ、あぁ、たまには街に行くのもいいんじゃねぇか、って」
「……そうですわね。2年になっても相変わらず、トレーニングルームの主ですし」
「アレでも以前より減ったぜ?」
文化祭を機にトレーニングの休養日を増やしたらしい。最近はその空いた時間を拳藤と立ち上げた二輪愛好会に使っているみたいだけど。
「それは置いておきましょう。まず、場所ですわね。外出制限は緩和されましたがあまり長距離は無理ですし」
「そこは木椰区ショッピングモールでいいんじゃね?」
「あそこかぁ、まぁ、無難よね。ちょっといい思い出ないけど」
「あぁ、緑谷と死柄木が遭遇したとかって」
みんなで買い物に出かけて、茉芭もモールにいたらしい。俺はあの日はお母さんの見舞いに行っていた日だったな。
「まぁ、モールに罪はない!映画館とかもあったはずだろ?」
「問題は、やっている映画なんだけど……」
「上鳴ぃ、マッハが好きな映画のジャンル!」
それは気になる。映画のタイトル……映画版「いけいけ僕らのマイト君(リマスター版)」にホラー、と他に何作かあるけどタイトル見てもよくわからないな。みんなも微妙な顔をしているから、時期的にメジャーな作品がないんだろう。
目立つのは、経営科のヒーロープロデュースで見た芦戸のコスに似てるから、ヤンキーものか?バイクってことで興味持つかもしれねぇけど。
「わかんね!アニメは全般的に好きだから、アニメなら外さないと思うけど」
「……やってるのマイト君じゃん。これ喜ぶの緑谷だけだって」
緑谷か。オールマイトの後継者ってだけじゃなく、ヒーロー大好きだもんな。エンデヴァーのノート、俺も知らないような情報ばかりで驚いた。
「映画はナシかもな。まぁ、一応、行って確認、でいいと思うぞ。ノープランも楽しいって」
ただそこで何か思い出したらしい。
「あ、ただゲーセンはやめとけ。鬼門つーか、イージーすぎてつまんないみたいだし」
「わかった。覚えとく」
こういう時、身内情報はありがたいな。
「反射神経いいからねー。なら、ウィンドウショッピングぐらいか……って、轟、お小遣いに余裕ある?」
「インターンの給料もあるから、無理しなければ」
耳郎は何か思いついたらしい。
茉芭と一緒に楽しめればと、オートバイを買うために貯めてるからそんなに余裕はないが。
「折角のショッピングモールだし、時期的にちょうど夏物出るころだし。轟の趣味でマッハを着飾ろう」
「まぁ!それは素敵ですわね!!」
「私服か、そういえばほとんど見たことないな」
どうも女子的にも思うところはあるらしく、葉隠が怒っていた。
「事務所への移動は制服。学校内じゃほとんどジャージにTシャツ。たまに違うの着てたら最近はツナギ!バイク用の服はヒーローコスチュームっぽいし、オシャレしなさすぎ!」
「バイクは仕方ねぇだろ。アレはアレで似合うし」
「さらりと惚気やがった。あとはお昼はスマートにやるには予約ぐらいしてもいいけど……好物は?」
「……特に好き嫌いはねぇ!ってか、親がアレだから、ワリぃ」
上鳴が静かに落ち込んだ。上鳴の好みが優先で、茉芭自身のことはわからないんだろうな。特に嫌がるものがないというのは普段の食事を見ていてもわかる。
「ランチバイキングとか?アレなら外れないよね」
「初デートで別行動になりがちなのはどうかなー」
「こちらのお店は?ランチコースが素敵ですけど」
「いや、ちょっとインターンの給料があるっつっても値段……」
八百万が見つけた店はショッピングモール内では一番の高級店らしい。ちょっと学生には敷居が高そうな店構えだ。あとは安いイタリアンチェーンが学生の財布には優しいらしいが、混むし、子供連れで騒がしいらしい。
「学生らしくフードコートでもよいよね」
「マックとかもあるしね」
「……うまいのか?」
「値段相応だよー、でも友達とワイワイ話しながら食べるポテトとドリンクは至高!」
「最後、溶けて薄くなったジュースとガリガリ氷齧るのがまたなー」
「せこいけどわかる」
結局のところ、デート経験者というのがいないため、みんなマンガや小説をもとに自分が行きたい場所の話になってしまった。
決まったこととしては、映画は反応次第。夏服コーディネート、食事はやっぱり流れで決める。
こういうのを何て言ったか。船頭多くして船山に上るか。
ほとんどノープランだけど、構わないだろ、多分。
早速、ということで、夕方の食事で提案をしてみることにした。
「なぁ、茉芭。明日の休み、一緒に遊びに行かねーか?」
「あ、いいね。どこ行く?」
「木椰のショッピングモールでどうだ?」
「おっけ。そういえば、こんな風に出かけるの初めてだね。楽しみ」
正直、この笑顔だけで十分な気がしたが、喜んでくれるといいな。
―――Side:上鳴茉芭
そういえば、普通の高校生カップルらしいことなんて皆無だったしねー
焦凍からのお誘いというのがまたうれしいな。
むしろ中間すっ飛ばしてやることやってるあたり、どんだけーってなるわ。さて、どんな格好していこう。
「うーん、手持ちだとこんなもんか」
帆布のショルダーバックに、デニムのジャンパースカートとボーダーシャツ。平凡ではあるけど、奇をてらっても仕方ないし。
あとは忘れずに、外出許可申請。オールマイト先生だから大体通ると思うけど。
しっかり許可は取れたので後は楽しみすぎて眠れない、なんて子供みたいなことがないように気を付けよう。
朝食を済ませたら、開店に間に合う時間を見計らって、外出する。
三奈ちゃんや響香がこっちの様子をうかがっているね。土産話を楽しみにしててください。と言うか、デートと知ってて揶揄ってこないのは珍しい。
途中、ものすごい勢いで駆ける緑谷君に追い抜かれたけど、何かあったのだろうか。もうあの速度だと、個性の不正利用で怒られるレベルだと思うけど。
木椰区のショッピングモールは電車で数駅ほど離れたところにある。
駅まではパトロールの時と違って気を張らずにのんびり歩く。駅には電車を待つ雄英生らしい姿もちらほら。
見渡すと、緑谷君は1本前の電車に間に合ったようだ。
「おう、上鳴に轟。デートか?」
「はい。たまには外に遊びに行こうって話で」
「なる。轟、悪いな、邪魔した。んじゃ、楽しんで来いよ」
「はい」
トレーニングでよく話す3年生と軽く挨拶をかわす。先輩は逆方向の電車に乗った。実家への帰省かな?同時に到着した列車に乗ってショッピングモールに向かう。
「ちょっと混むね」
「あぁ、大丈夫か?」
雄英高校を有すると言っても垢離里は所詮は地方の小都市で、通っている列車も車両数の少ないローカル線。つまり時間帯によってはとても混む。
モールの開店に合わせて寮を出たのが仇になり、買い物客で座れないほどだった。
幸いというか、焦凍が体でスペースを作ってくれているので、私はそこまで窮屈な思いをせずにすんだ。
「助けてくれたのはありがと。疲れなかった?」
「あぁ、大丈夫。それで、映画でもどうかと思ったんだが……」
デートとしては鉄板だよね。後は少し気取って美術館とか博物館。体験系なら水族館、遊園地とかの箱物系。
こんなに混むと思わなかったな。何かイベントでもやっているんだろうか。そう思ったら、モールに長蛇の列。
「こちら、整理券配布中でーす!」
持っている看板を見ると、映画の特典狙いなのか。
「マイト君リマスター版のフィルム配布と舞台挨拶……へー、サーの舞台挨拶があるのか。そりゃ集まるね」
「そうだな……見るか?」
この行列に並んでまで映画館に入る気はないなぁ。他のタイトルも特に見たいってものでもないし。
「ちょっとパスかな。混みそうだし。他は微妙そうなアクションコメディと、こっちもヒーローのリバイバルものか」
「こっちは切島が好きそうだな」
「
見るとしても人が減ってからか、部屋で配信で見た方が楽そう。紅のは、タイトルの割にラブロマンスとか……?流石に古いヒーローだからよくわからない。
とはいえ、確実に緑谷君と切島君がいる気がするし、今日はパスで。
「うぁーーーんっ、ママー!どこー!!」
ありゃ、迷子かな?見つけて迷子センターか親御さんを探してあげないと。
そう思ったら、私と焦凍が動く前に、誰かが肩車してあげたみたい。障子君っぽいけど、買い物かな?
「うぉー、すげぇ、たけー!あ、ママー!ここー!!」
途端にはしゃいで、母親と無事に合流も出来たらしい。
「すぐ見つかってよかった。ざっくりお店でも見て回るか、お茶でもしようか」
「見て回ろう。それで……よかったら、俺に服を選ばせて欲しい」
なるほどそう来たか。
ううむ、焦凍が私に持つイメージってどんなのだろう。けど、お互い稼いでるし、貰いっぱなしもどうかと思う。
「じゃあ、お返しに私も一式、焦凍のコーディネートさせてほしいかな」
「なるほど、面白そうだ」
折角だから先手は譲るとして、どうしようかな。スタイルはいいし、元々シンプル系が好きっぽいから、ここは柄物に挑戦してみるべきか。外出用で攻めるか、部屋着か、悩む。
「よし、まずは色々見て行こう」
「うん。どんなコーデになるかなー?」
最初に焦凍が向かったのは、いかにもオンナノコしています、というフリルだらけのお店。色々なジャンルが揃っているのはいいけど、初手がゴスかー
「これとか……どうだ?」
「いらっしゃいませー、彼氏からのプレゼントですかー、ソレ、新作の一点ものなんですよ。お客様だったら似合うと思うんで是非!」
食い気味の店員さんに押されて、試着室に。
服としては黒のミニスカワンピースをベースに、薄いレースを重ねてスカートのふくらみを出しているもの。手袋とかタイツもレースだから洗濯とか考えると絶対買いたくない代物だ。
「とりあえず、着たよー」
「……いいな。今日の服とかとも違って、何というか……」
「うわー、折角だから髪とメイクやって写真撮らせてくれません!?着て帰ってくれるなら7……いえ、6掛けしますから!」
いやいやいや、流石にそれは。私自身は余りこういうの好きじゃないんだけど。
「あぁ、この病み系もいいけど、ミリロリも着せてみたい!いい感じにデコった軍服風とかあるんで、是非!」
「茉芭は余り好みじゃないか?」
「コスプレとしてはいいけど、街中で着て歩くには勇気がいるよね。着ていく場も少ないし」
「えー?似合いますよー」
ぐいぐい来る店員さんはとりあえず無視。誰にでも言うでしょう?
せめてもう少し普通のスカート風ならまだよかったけど。
「で、焦凍、なぜ写真を……」
「ダメか?他も見るし、参考用に……」
あぁ、もう、その目は反則ぅ!
どうせ消してと言っても隠すだろうし、もう好きにしてー。焦凍が満足するまで付き合うこと暫し、店員さんの方は顔出しはNGです。ヒヨコと言ってもヒーローを勝手に商材にすると後が怖いですよ?
なんか、遠巻きに撮影されてる気もするが、もう気にしないでおこう。
「もう少し、他も見るか」
「うん、ちょっと待って、着替える」
名残惜しそうな店員さんに見送られて店外に。少し区画を移動すると、ブレ幅が凄いけどスーツ系の店舗が連なってる。
「こっちの店は少し違う感じだな」
「もうちょっと大人向けと言うか、ビジネス用だね」
雄英に落ちてたり、ヒーロー科を落ちてサポート科だったら就職用にスーツ、とかもあったろうけど。
この辺りを着る機会は少なそう。
んー、こういう服は百ちゃんなら問題なく着こなしそう。別に老けてるとかじゃなくて、上背もあってメリハリもあるから、スーツ系は間違いなく似合う。そこの女性みたいに颯爽と……ん?
百ちゃんがいたような……焦凍は気づいた風はない。偶然か、このデート自体が仕込みでみんな見ているか……どっちでもいいか。
「どうした?」
「いや、なんでも……そも、どういうときに着るかもあるなって」
「そうだな……夏にデートする時に着る服、でどうだ?」
「時間が取れるかは別だけど、それもいいね」
去年の夏は遊びとは無縁だった。今年も合宿はあるだろうけど、どうなるかな。
安全に配慮すればグラウンドΩで合宿モドキ。あるいはインターン先に詰めっぱなしかもしれないけど。
「じゃあ、今度はこの店でどうだろう」
今度の店はごく普通のカジュアル系……だと思いました。試着するまでは。焦凍のコーデはゆったりとしたパンツにサンダル、上がどっちかと言えば三奈ちゃんが好きそうなタイトなTシャツの組み合わせ。
三奈ちゃんと透ちゃんだと、このシャツに合わせるボトムはショートパンツになるかな。あの二人は元気印が似合うし。
「……うん、動きやすい」
布が薄いって訳じゃないけど、密着してるから夏服だと段差で目立つしね。
さっきと同じで動きながら焦凍が写真を撮っていたのだけど、途中で手が止まった。
「……ワリィ、それ、なし。似合うけど」
「え?……あぁ、彼氏さん、ウブですねー……かわいい~」
いや、むしろ逆。焦凍がウブなら全人類が奥手だわ。峰田は除く。
この服、ちょっと動くとお腹がチラチラ見えるので、着るのはちょっと開き直りがいる。これ、絶対狙ってサイズ調整してる。ワンサイズ上だと全身ぶかぶかでだらしなく見えるし。なんでこう、チラリズム信奉者って多いんだろう。
ボトムももう少しゆとり感を広げるとアラビアンナイトになりそうだけど、そこまで行くとやりすぎになる。普通に着られるけど、どことなく目を引く非日常感。
日常と非日常の境目みたいで、こだわりが無駄に詰まってる。
凄いんだけど、なんだろうこの隠しきれないHENTAI的こだわりは……なんか、デジャブ……
「って……このデザイナー……」
「あれ、ご存じですか?最近、ある若手ヒーローのコスチューム手掛けてた、とかで人気出てきてまして」
その若手ヒーローの名前は是非聞きたくないです。
「……男性人気、高いんですよ?いかがです?」
「いえ、今日は彼の見立てなんで。着替えますね」
ヒーローコスチュームの時と髪形は同じなんだけど、バイザーの有無でだいぶ印象変わるのかな。目元の変更って、正体隠すのにかなり有効らしい。
知ってて惚けてくれている可能性は否定しないけど。
それにしてもヒーローコスチューム、学生相手なのに結構ちゃんとしたデザイナーついてるんだね。
爆豪君とお茶子ちゃんのコスとかも弐丸サソリデザインらしいし。私のは一応、電気や響香とデザイナーが同じと聞いた。電気の分は男だから、チラリはないけど。
響香のは希望デザインが決まってから弄れなかったかな?私、機能面の要望だけ書いて後はお任せだったし。
着せ替え人形を連続して、少し喉も乾いた。
ちょっと早いけどお昼にしようと、フードコートに向かったけどみんなが同じことを考えるのか、早くも混雑のピークになっていた。人気のランチバイキングも行列。
どうやら、映画の最初の上映を見終わった人達が飲食店になだれ込んでいるらしい。
「凄いな……何か買ってくるから席を頼む」
「いや、それならちょっと外に出よう?」
モールに来るまでにもお店はあったし。多分空いてそうなお店もあったからそっちにしてもいいだろう。モールで遊ぶからずっといなきゃいけない、って決まりはないし。
むしろ他の人も諦めて外のお店に行くだろうから、早めに移動したほうがよさそう。
そんな訳て、モールの出口に向かっていたら、聞き覚えのある声がした。
「あれ、とどろ――――――」
「今、緑谷の声しなかったか?」
「……かもね」
これは確定かな。個性は使ってないから人数はわからないけど、緑谷君を見つけて、阻止したとか。
バカばっか、というか、心配されてるのか単に楽しんでるのか。全部かな。
コレで外のお店にまでついてくるなら、ちょっと尾行をまいてみようと思ったがそんな様子もない。
気を取り直して、モールにすぐ隣接する飲食店街にあるこぢんまりとしたお蕎麦屋さんへ。混雑と言うほどでは無いけど、席はそこそこ埋まっていて、昼から飲んでいる人もいた。呑兵衛がいるなら当たりかな?
「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」
「……いいのか?無理に合わせなくても」
「そんなつもりはないから、気にしないで」
飲んでいる人たちからは離れた席に2人で向き合って座る。
メニューを見ると、サイドメニューも蕎麦屋としては割と多め。お酒飲む人が多いのだろう。
「ご注文は」
「もりそばを大で」
「並のもりで。あと、むきそばを1つ」
「取り皿は使われます?」
「お願いします」
説明書きを読んでちょっと面白うそうだったので頼んでみた。ゆであがりを待つ間のオードブル代わりになるでしょ、多分。
「こちら、むきそばです。御好みで葉ワサビをのせて食べてください」
焦凍と取り分けて食べてみると、独特の食感にそばの香りが面白い。
「旨いな……知ってたのか?」
「ううん。初チャレンジ。気に入ったみたいでよかった」
お蕎麦ってこんな食べ方もあるのか。面白いね。
「お待たせしました。もりそばです。ワサビはお好みで擦ってお使いください」
意外に本格的で、小さい店だから粉ワサビと思ったらまさかの本わさび。大当たりなんじゃないだろうか、このお店。
「んー、美味しい」
「あぁ、いいな、ここ」
その後はお互い言葉も少なく、美味しい所を逃さず蕎麦を啜り、蕎麦湯も堪能。美味しかった。
会計は焦凍が持ってくれた。そのうち別の形でお返ししよう。放っておいても徴収されると言ったらその通りだけど。
「さてと、戻るか」
「うん。私が焦凍の服を選ぶ時間も残してよね?」
「……そうだった。出る前に気になった店があるから、そこで決めたい」
さて、焦凍はどんな服を選ぶのか、楽しみ。
「なるほど、こう来たか」
「さっきのもよかったけどな。どうだ?」
「うん、いいね。何気に焦凍の色だし」
青をベースに赤チェックのスカート、上はノースリーブの白いパイロットシャツ。アクセントにネックレスかネクタイしてもいいかな。ネクタイ代わりにサングラスかけておいてもいいか。
「そういうつもりじゃ、なかったんだけどな」
「ふふ、分ってる。でもありがと」
さて、次は私のターンだ。とは言っても、ざっくりと決めてある。門限に余裕はあるけど、電車が混む前に帰りたい。帰りは座りたいし。早めに済まそう。
イメージ通りの服がある店を探すだけだから、すぐ決まるだろう。
「うん、なかなか良い感じ」
「そうか……これは茉芭の色か?」
「折角だし、お揃いよりも面白いでしょ?」
「あぁ……いいな」
カーキのショートパンツにブルーのシャツとパンツと同色の麻のジャケット。柄物にしようかと思ったけど、それはまたじっくり探せる時に。
アクセントに中折れ帽をセットにすれば、なかなか良いのではないだろうか。
一応は記念もかねてと、散々撮られたし、ポーズを取らせて写真を一枚。うん、だから人が集まってくるのは……まぁ、仕方ないか。
ただね、まだ会計も済んでない服をなんか微妙なタッチで撫でまわすのやめなさい。なんかムカつ……いや、自分が選んだ服を気に入ってくれたんだからよしとしよう。なんだ自分で選んだ服に嫉妬するって。バカみたい。
でも、その表情と仕草に店員さんがウットリしてるんですけど。
「あの、スイマセン、会計を」
「あっ、はいっ!す、すいません。つい、みとれ、あ、いえ、お詫びに引くんで、写真、いいです?」
「……なしで。マネキンに使うのはご自由に」
下手にキャラクター安売りすると、後でエンデヴァー辺りに怒られそうだし。
首から下なら問題はないと思うけど、なんか嫌。
「よかったのか?別に写真ぐらい」
「いーの。節約は大事だけど、譲れないとこでは惜しまないよ」
「……そうか」
なんか見透かされてるな。焦凍がものすごく嬉しそうにしてるんですけど。
「さ、早く帰ろう。電車混みそうだし」
焦凍の手を取って駅に足を向ける。お互いの片手にはそれぞれが選んで贈った服。
夕食後に部屋に来た女子陣にお披露目したコーデは焦凍の分を含めて中々に評判がよかった。
んーで、なんで没った服を三奈ちゃんと透ちゃんが買ってるのかは……問わずにおくか。
これを着ていくデートか、楽しみだな。
よく考えるまでもなく、交際してからやることの順番間違っているw
そんなわけで健全なデートの日。
夏のデートの定番は花火でしょうけども、参加するより警備する側になりそう。
コーデの衣装は色々ググって調べた物を適当に。書いてる人のセンスは平凡以下なので、オサレのハードルが高いです。
念のため、電気と耳郎のコスのデザイナーについては明確な描写がないので捏造です。
裏については、本日18時に予約投稿入れました。
二輪愛好会のお話は次の後日談で。