雷速少女のヒーローアカデミア   作:K鶏

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スピナー:ライジング(前編)

―――Side:スピナー

 夢を見ていた。ごく最近のことなのに、遠い昔のような。

 大事なダチだと思ってたイカレ野郎、死柄木弔を助けられなかった日だった。

 

 

 群訝山荘から蛇腔へ駆け、街が平穏なままだったことで荼毘はもちろん、死柄木とドクターは敗れたのだとわかった。

 それも圧倒的敗北。アイツが暴れて、建物一つ崩れてないなんてありえない。

 

 平和そのものの風景に納得させられた。何も起きてないことに恐怖した。

 

 上空にはマスコミのヘリ。遠くには街に近づく大量のバス。

 隙あらば救出・奪還を、と言いたいが、流石に厳しすぎた。

 

 直に見たくはあるが、そのためにここで捕まっては意味がない。

 結局、ヴィラン連合で逮捕されていないのは俺一人。

 全ての破壊を望んだ死柄木弔、その後ろにいたドクター……俺たちを含め、すべてを操っていたオール・フォー・ワンが何を望んでいたのかはよくわからん。だがどうせろくな事じゃない。

 ステインの熱に当てられてから、ずっと見ていた夢が終わった、と思った。だからこそ、現実を受け止めて動かなければならない。

 

「なら精々、有効活用させてもらう」

 

 そもそもドクターは全面的に俺たちの味方、と言うわけじゃない。

 だが、万が一に備えての潜伏拠点をいくつか確保していて、いくつかは俺達にも場所を知らせてくれていた。

 改造が上手く行けば決起の予定だった。万が一の場合の備えとしての隠れ家の情報、必死に頭に詰め込んだ。

 

 死柄木もドクターも捕まったのだから、それらはもう使い道がない。

 警察とヒーローが押さえる前に、貰うもの貰って活動資金にするつもりだったんだが、そこでヤバいものとヤバい情報を見つけてしまった。

 

「コイツは……マジか」

 

 ドクターから主であるオール・フォー・ワンへ向けたラブレター。

 聞いてて気分が良いものじゃないけど、それはいい。ブツは世の中に出しちゃいけねぇと、処分した。それらを見て、聞いて、オール・フォー・ワンとドクターが何を考えていたかは大体わかった。

 

「死柄木……お前、これ知ってたのか……?」

 

 全てを知ってはいなかったろうな。ふざけやがって。

 そしてもう一つの厄介ごと。これに関しちゃ、情報が欲しい。まずは義爛に繋ぎを取って……場合によっては、泥を飲む覚悟がいるな。

 

 

―――Side:ホークス

 あー、割とガチで死にかけたってのに、人使いが荒いったらない。

 リカバリーガールに治癒をしてもらったのは助かるけど、福岡からさほど間を開けず羽根が焼かれ、しばらく静養しないと使えない羽が出そうとか言われたんだけど。

 物は試しと言うか、実験台を兼ねてブルーアンバーの個性マッサージを受けた。リカバリーガールの様に一気に治すような個性じゃない。

 本人曰く「凝りを解しただけ」らしい。その大したことだと思っていない行為は、本人の評価とは裏腹に大したものだった。

 後遺症が残るかもと言われたはずの剛翼が、自然すぎて違和感を覚えるレベルで、前と同じかそれ以上に滑らかに動いた。

 

 そんなわけで、休暇もなしに残党の追跡で飛び回る羽目になった。ヒーローが暇を持て余す世の中になる前に、俺が過労死しそう。

 けど、接触の機会を持てたおかげで、念のための捜索依頼もできた。

 

 死柄木との戦いにおけるMVPってのは、あのインタビューで明らかだ。少なからず興味をそそるはず。撒き餌にはなってくれれば御の字。

 そう思ったんだけど、ダメ元でも餌は撒いとくもんだ。

 解放軍潜入用の番号、荼毘しか知らない番号にかけてこられるのは今やただ一人。

 

「やぁ、伊口君。何の御用かな?」

『俺に用があったのはお前だろうが。ヒーローと言っても子供を使い走りにするな』

 

 おや、大分オコ。しかしまぁ、あの子を相手によく逃げ切れたな。

 

「ははは、悪いね。気付いたらでいいって程度のお願いだったのよ。しかしよく見逃してもらえたね」

『仏さんの前だったからな。騒ぐのを嫌ったんだろ』

 

 なるほどね。荼毘の墓か。流石に常時監視するには人手が足らんしね。

 

『そっちの用件はどうせ裏稼業を手伝え、だろ?やってもいいが条件がある』

「話が早いね。条件って?」

『3-4カ月程度でいい、個性を失った連中を洗い直せ』

 

 今更、個性消失事件を追う?スピナーが?

 個性破壊薬は八斎會の事件の時には完成品が出来上がったばかり。

 サンプルにばらまいた試作品しか流通は確認されていない。

 その頃ならオール・フォー・ワンはタルタロスだ。死柄木弔も改造中の時期……いや待て、俺はいまなんて考えた?

 サンプル、試作品……まさか!?

 

「おい、それって……ヤツが、オール・フォー・ワンがまだ残っていると?」

『わからん。ドクターが死柄木に施した個性強化の実験体(モルモット)が所在不明だ』

「……」

 

 ……ドクターの残した施設、蛇腔病院から押収した資料からすべて潰したはず。

 それと別の隠し施設は本人の供述から徐々にと思っていたが、先んじて荒らしてたか。ドクターの遺産がスピナーに渡ったとなれば厄介なことになる。まさかと思うが、コイツも複数の個性を入手したか?

 

『安心しろ。金目のモン貰っただけだ』

「……君ね、俺が誰かわかっとう?ヒーローばい?盗みば偉そーに話すんじゃなか」

『お前の事務所あてに奴と手下の資料を送っておいた。探せ』

 

 こいつが自分で?オール・フォー・ワンの協力者ではあるが、共闘する意思がないと言うことか。

 

「どんな奴だ?」

 

『さぁな。知らん。だから見極める。真の敵(ヴィラン)か、クズか、な。そっちが早かったらそれはそれで構わん』

 

 それだけ言って、電話が切られた。

 逆探知と言いたいけれど、デトネラットの技術が無駄に詰まった暗号通信端末。探しだしたころには移動されてる。

 

「さぁて、急いで事務所戻ろうか」

 

 スピナーがヒーローに借りを作ってでも探そうって相手だ。かなり厄介な相手だろう。

 ここで繋がれた縁、何とか維持しておきたいところだ。

 

「彼にはこっちに来てもらいたいしね」

 

 使えるんだよ。

 しっかりとした理想と覚悟が決まっていて、裏表も少ない。判断が読みやすい割に割に清濁併せ呑めるタイプってのは。

 先代みたいに理想と現実のギャップに負けるでなし、俺の様にそういう風に育ったわけでもない。ただのミーハーだったのに、現実を見て、心を決めて己を鍛え上げた。

 このまま埋もれさすのは惜しい。

 

「すぐには難しいかな。あぁ、俺です。スピナーと接触が取れました。それで相談なんですが――――」

 

 もちろん、提案自体は正気を疑われた。けれど上手く行けば、割と全て綺麗に収まる。

 一番の問題はほかならぬスピナーの説得なのだけど。

 

 

 

―――Side:???

 超常以降の日本は人口は都市部に集中し、廃墟となり見捨てられた集落やかつてリゾートであった場所は珍しくない。

 そうした場所は犯罪者がよく潜む。

 もちろん、ヒーローによる巡回も行われるが、昨今の状勢が人気のない廃墟へのパトロールを行う余裕を奪っていた。

 

「……誰か来る」

 

 全身を包帯で覆った風体の男が、武器を構え様子を伺う。あらかじめ決めてあった符丁通りのノックに少しだけ警戒を緩めた。

 

「入れ」

「マミー、戻ったわ。ナインは?」

 

 マミー、と呼ばれた男は指で後ろを指し示す。

 そこには床に直接敷いたマットレスの上で、荒い呼吸を繰り返している男がいた。それを見て、もうひとり、オオカミの様な頭を持つ男が入って来た。

 

「はぁっ、はぁっ……くそ、忌々しい」

「ナイン、具合はどう?」

「薬を手に入れてきた。無調整だが、ないよりマシだろう」

「すまん……スライス、キメラ。マミーも少し休んでくれ」

 

 近隣の中規模病院を一つ、廃墟に変えてクスリと金を手に入れた。

 特殊な外科手術に使用する麻酔薬で、一時的に個性の働きを極度に低下させる。

 本来は対象に合わせた成分調整が必要だが、それができる闇医者を探す時間もない。アンプルから吸い上げた薬液を注射すると、ナインと呼ばれた男はほっと息をつく。

 

「すまん……こんなことでは理想は……折角、力を手に入れたのに」

「ドクターの誘い。乗ったのは失敗だったな」

「いや……我々の悲願のためには必要だった。だが、死柄木弔が蛇腔で敗れ……異変は、その時期だ」

 

 オール・フォー・ワンの側近であるドクターこと殻木球大。

 彼が死柄木弔に施した強化改造。

 理論は完成していても、実際に施術を行うには事前にテストを行い、問題の洗い出しを行いたいのは当然の事。

 

 その実験台としてナインは志願。結果として力を得た。

 当初の予定よりも時間がかかったのだが、それでもその身を委ねたことに不満はない。

 最大8個と制限はあれど、オール・フォー・ワンと同様に個性を奪う力を得た。元々の個性であった気象操作と合わせて、最大9個の個性を宿す事が出来るのがナインだ。

 そしてその強力な個性に見合う身体能力も与えられた。

 

 だが、力とは常に代償を伴う。本人の努力ではなく、外部からの力で限界を飛び越えた結果はあまりに重かった。

 個性を多用すると細胞組織が死滅するようになってしまった。そしてオール・フォー・ワンの個性を奪う力、複数の個性を身に宿すことも負担となっている。

 もはや何かを成すよりも先に、己の身を保つ方法を考えるのが先。それがナインの現状だ。

 

「奪った個性も、鈍い……今が好機だと言うのに」

「裏の噂……オール・フォー・ワンがその個性を壊されたというけど、本当なのかも」

「アレは公安が流したデマだろう」

 

 闇の帝王オール・フォー・ワン、その後継者たる死柄木弔は破れた。

 死柄木弔が残した超常解放戦線はその大戦力をほぼそのまま残している。頭を失った烏合の衆を乗っ取り、理想の世界を作り出す。

 そんな絵図面を描いていたが、現実は無常だった。

 

「真偽はともかく、感覚でわかる。早く完成させねば、持たない。そして個性の副作用を抑えるには、再生系個性が必要だ……探索系も……」

 

 高位以上の脳無に搭載されていた超再生が理想だったが、討伐と同時にすべての脳無は押収された。現存している脳無はすべて、タルタロスで「証拠品」として保管されている。

 

 プロヒーローの再生個性持ちを襲いたいところだが、そもそも希少性が高いのでガードが堅い。タルタロス級の防御を誇る雄英に守られているリカバリーガールがその筆頭になるが、他の再生個性も常時ヒーローが張り付き、厳重に保護されている。

 大幅に戦闘力を上げたナインとその仲間であっても簡単に襲える相手ではない。そうなればヒーロー以外、在野の個性から使えるものを探さねばならない。だがそれは広大な砂漠で砂粒サイズの宝石、それも原石を探すようなものだ。

 

「情報屋は何と言っている?」

「随分と足元を見られたけど……何とか」

 

 本来なら、自分達だけで探し出したかった。だが、ナインをドクターの秘匿施設から回収……いや、正しくは奪取して目覚めさせる。そこから体調の回復を待ち、試運転を兼ねた個性の奪取と、やることが多くて調査は手付かずだった。

 仕方なく、裏の情報屋に頼ったが、役所の個性登録データと言うのは情報精度が高い分、値段も相応にかかる。

 その費用がまた足かせだ。

 指名手配を受けているヴィランなのだ。普通に働くことはできない。金を得る手段は当然非合法なものになり、強盗など働けばヒーローとの戦いが必須。

 超常解放戦線討伐の隙をついて、必要な資金を得た物の、マミー、キメラ、スライス共に相当の消耗があった。

 それだけの手間と代償によって手に入れたリストだが、再生系と探知系という、特に希少な個性の情報は高い。個性名と概略だけがリスト化された雑な代物だった。

 

「植物の再生個性など使えん……高い金ふんだくってこれか」

「仕方ないわよ……再生……名前だけで、行動や記憶のリピートじゃない」

 

 言葉というのは意外に不便だと、イライラしながらもリストを眺めていくと、やがてよさそうな個性を見つけた。

 

「これは?……細胞活性と言うものだが」

「使えそうだな。問題は、今のナインでそれが奪えるか、だ」

「ドクターは何で、これを放置したのかしら」

 

 個性「超再生」よりは弱いが、再生系個性の予備にはなる。ましてオール・フォー・ワンなら他の個性と掛け合わせて強化することも可能だろう。

 

「使い物にならないと判断したか。超再生があれば十分と思ったのだろう」

 

 スライス、キメラ、マミー。ナインにとって同胞である3人の議論が一区切りつく。どちらにしても行くしかない。彼らの期待を背負うナインは、崩壊しつつある悲願成就への道へ、最後の賭けに出ることにした。

 

「南へ向かう。狙うは細胞活性」

 

 

 ヒーロー公安委員会本部ビル。超常解放戦線の討伐以降、政治的主張を持つテロ系ヴィランによる襲撃が予想されたため、警戒レベルを上げて要塞の様な鉄壁の守備力を誇る。

 その委員長室に、公安委員長、部長、そしてホークスの姿があった。

 

「本気でスピナーを使う気?」

 

「できるなら、って感じですね。主義者だけど、根は素直。情報を適度に与えれば、自分で裏を取って動くでしょ」

 

「私としては賛同しません。ヒーローだって人。間違うこともある、と言ったのはあなただったわね、ホークス」

「そんなこと言わされましたねー、それここで使いますか」

 

 エンデヴァーがその過去を暴露した後、彼のフォローのために発したセリフだ。

 もちろん公安の仕込みだったが、ホークスの本音でもある。

 オールマイトほど絶対的な信頼があるわけではない。だが適度に人間臭く、ヒーローでも間違いを犯すと自ら証明してのけた。

 あの告白は短期的には不利益だった。ヒーローへの信頼が揺らいでいる時期には間違いなく暴挙。だが、情勢が落ち着くと評価が変わる。

 ヒーローは完璧超人でなければならないと言う幻想を維持するより、はるかに管理が楽になると言う意見が出てきていた。汚職ヒーローを大っぴらに処分するのに、これ以上適したナンバーワンはいないと言える。

 

「だから、これから少しずつ、あなたの仕事も変わっていく。後ろ暗い仕事はなくらないけど」

「それはそれは。まぁ、ぼちぼちやりますよ」

 

「そうしなさい。スピナーは……そうね、死ぬようなことがあったら考えるわ。解放戦線の幹部としてならともかく、単独ではね」

 

 意味するところは真っ黒なので、ホークスとしてはその真意を問いただすことは避けた。

 

「それでオール・フォー・ワンの遺産については?」

 

 話が本題に入ると、全員の表情が引き締まる。

 

「結論として、個性を失っていますが個性破壊薬ではないようです」

「つまり……例の実験体、と。所在は?」

 

 殻木球大が世に残した実験体。収監されている本人からも、オール・フォー・ワンの限定譲渡と個性強化を行ったという証言も取れていた。

 

「幸いなのが、放っておいても長くないことと、容量制限があることね」

「荼毘の例があります。長くないという見込みは甘いっすよ」

 

 ホークスが茶化して言うが、殻木の見立てでは半年も持たないだろうと思われた荼毘は10数年を執念だけで生き抜いた。人の持つ執念と言うものを軽視する殻木の証言を信じるのは危険だった。

 

「殻木は他に何と?」

「まだ生きているなら、再生系個性を欲するだろうと、あと、妙なことを」

 

 殻木球大については、未だ取り調べ中で裁判が始まっていない。多数の脳無を製造しており、その身元確認に手間取っていた。

 研究施設内に蓄えられた無数の個性サンプル、それらの入手方法も確認せねばならない。

 

「何かしら?」

「『儂が愛しいオール・フォー・ワンをそのまま、赤の他人に渡すと思うか?アレは埋まれば変容し、生まれ変わる。オリジナルが滅んだ今、時が来て朽ち果てるのが早いか、仕上がるのが早いか、楽しみだ』、と」

 

 ナインに付与されたオール・フォー・ワンは要するに有効期限付きの回数券らしい。

 チケットを使い切ると、オール・フォー・ワン要素は消失し、残された個性が交じり合う。

 

「……悪趣味ね」

「そっすね。けど、それでもし成功したら、どんな怪物になるか……彼女は?」

「所在も分からないうちに動かせないわ。濫用すると、エンデヴァーが五月蠅いし……一応は、備えとして余裕を持った運用をするようにお願いしているわ」

 

 他にも自我を持つハイエンド脳無の内、ヒーロー側の人間を素体としている黒霧について、復元研究への協力要請もある。これに関しては、研究に着手したばかりなのでセントラルの判断待ちだ。

 

「他にもタルタロスの無期収容者対策も試してもらいたいし……本当に、公安(こっち)に来てくれたらよかったのだけど」

「まぁまぁ、協力してくれるだけいいじゃないですか」

「わかっているわよ。言ってみただけ」

 

 9割は本音だろうと、思うが口には出さないだけの分別はホークスにもある。トップヒーローたちは相応の管理体制が敷かれているが、権利と報酬に対する義務でもある。

 仮免の学生なのに、トップヒーロー級の管理体制下にあるのは割に合わないよなぁ、と心から同情するホークスだった。

 

「現在位置は掴めてる?」

 

「もともと指名手配犯です。最新の姿についてはスピナーの情報、と言うのが業腹ですが、沖縄に向かっているようです。詳細位置はロストしてますが船でしょう」

 

「情報は?」

「流してあります。現地のヒーローだけだと心もとないんで、自分も明日には向かいます」

 

 超常解放戦線の資金を支えたデトネラット社、その潤沢な資金を使い、専用の人工衛星まで保有していた。

 現在はテロ組織としての指定と解散命令を受けて、倒産。その衛星も所有権が文字通り宙に浮いている状態だ。

 とはいえ、当面の管理権は差し押さえた政府にあるので、員数外の機材として公安が運用していた。

 そこから最重要ヴィランとして捜索を行って、居場所のトレースが出来ていた。

 

 後はトップヒーローの誰かを差し向けるだけ、なのだが生憎とすぐに動けるものが居ない。

 

 

 警察と公安がその動向を見守る中、ナインたちは沖縄本島に上陸していた。

 情報屋から追加で情報を買い、個性「細胞活性」の持ち主が沖縄本島で出稼ぎ労働者をしていることを掴んだためだ。

 夜、同僚たちとの食事を終えて、軽トラで仮住まいへ戻ろうとしていた標的を襲うことに成功した。

 

「ぐ……なにを……」

「安心しろ、殺しはしない……貴様の個性、細胞活性で間違いないな?」

 

 個性を奪える枠はまだあるとはいえ、無駄遣いはできない。相手がヒーローなら、どんな個性でもヒーロー活動ができるレベルなので安心だが、一般人の個性では慎重にならざるを得ない。

 

「……こ、せい?……なに、お、がふっ」

「いいから答えろよオッサン。ついうっかり殺しちまうかもしれねぇ」

 

 苛立ちと共に破損していた軽トラのドアがもぎ取られ、更に損傷する。

 

「抑えろ、キメラ。もう一度だけ聞く。個性は?」

 

 恐怖と緩和、飴と鞭の格好となり、戦闘訓練を受けているわけでもない男はあっさりと答えを口にする。

 

「さ、細胞、活せ、ぃ……」

 

 答える中でも、乗っていた軽トラを壊された際に負った小さい傷が癒えていくのが見える。確かに欲した個性だった。

 

「そうか。ならば……その個性をもらう」

 

 ナインの手が男の頭に添えられる。だが、それで何か起きた様子はなく、ナインの表情に苛立ちが募る。

 

 

「何故だ……ドクターめ……いや、それな、ぐっ!」

「げほっ、げほっ」

 

 突如として飛来したナイフがナインの背に突き刺さっていた。

 ほぼ同時にマミー、スライス、キメラにもナイフが突き刺さる。

 痛みで男性を取り落とす。再度つかみかかろうとしたが、さらにナイフが数本。距離を取ったところに一人の男性が下りたって、ナインとの間で盾となる。

 

「無事だな?車は運がなかったと思ってあきらめろ。思い切り走れ」

「あ、あの……」

「いいからいけ!死にてぇか!」

「逃がすと思うか!」

 

 駆け出す背中にマミーが包帯を投げつけるが、受けた傷もあり動きに精彩を欠く。その包帯に今度は何かの液体がかかると瞬く間に火がついて、包帯を伝ってマミーを焼こうとする。

 咄嗟に個性で切り払おうとしたスライスだが、その判断は悪手だった。

 

「ついでだ」

 

 手にしたペットボトルをマミーに投げつける。

 スライスがその個性でボトルを切り裂くが飛び散った液体がマミーともどもスライスの髪を焼き、炎に気を取られたその刹那、さらに追い打ちの黒く塗られたナイフが2人に突き刺さる。

 重い音が2つ、路地に響き渡る。

 

 思わず足を止めた男性だが、自分を救ってくれた男が邪魔で倒れた2人を見ないで済んだのは幸いだった。

 

「行け」

 

 短い言葉に促され、足が動き始めた。

 逃げる男性には、どこのヒーローだかわからない。だが助けてくれたのだからと、その異形らしいシルエットに向かって、感謝とエールを送った。

 

「あぁ、あり、がとう!ヒーロー!すぐ、ほかのヒーローを呼んでくる!」

 

 答えはない。だがその背中は頼るに足る力強さに満ちていた。

 

 

―――Side:スピナー

 ありがた迷惑なんでやめてくれ!

 って言いたいけど、そんな悠長なやり取りをさせてくれそうもない。個性「気象操作」に「限定版オール・フォー・ワン」。後は襲ったヒーローの個性以外を持っているか。

 こいつが襲ったらしいヒーローに治癒や解毒個性がいないのは確認済み。

 さっきのオッサンを狙ったてことは、アレが回復系個性持ちなんだろう。

 

「お前がナインだな?」

「その姿……貴様、スピナーか」

「そうだ」

 

 初手で二人を完全に無力化できたのは大きい。

 こいつら、一般人への狩りってんで油断しまくってたからな。しかしナインを守るようにジリジリと立ち位置を変えていくキメラ、こいつは面倒くさそうだ。

 

「邪魔はしたが、ここですぐ殺し合うつもりはねぇ……と言っても信じねぇよな?」

 

 手傷を負った分、不利だとわかっているのだろう。ナインは話に乗ってきた。

 

「仲間を二人、不意打ちで殺しておいて何を……」

「まだ死んでねぇよ。まぁ、放っておいたら知らんが」

 

 義爛に調達してもらった特製痺れ薬をたっぷり塗り付けてある。

 最低でも1~2時間程度は動けないはずだ。適切に処置しないと死ぬが、それは知らん。生かす価値があろうとなかろうとヴィランはヴィランだ。

 俺達、法の外に飛び出したヴィランは所詮、真のヒーロー社会において、糧か試練となる存在だ。

 

「……用件を言え」

「なに、ドクターの改造を受けてまでお前がやりたいことってなんだろうな、って思ってよ」

 

 その答え次第では殺す。

 そうわかるように、僅かにスタンスを広げて数ミリ程度、腰を落とす。

 

「強き者が弱き者を支配する理想郷(ユートピア)の実現」

「……はぁ?」

「ヴィランもヒーローも関係ない。すべては力で決まる。それこそが、真の超人社会のあるべき姿」

 

 超人社会、ね。言っていることは異能解放軍と大して変わらない。

 個性の強弱のみを法とする世界、そんなにいいもんかねぇ?

 

「お前の言う、”力”とはなんだ?」

「……力は力だろう。あぁ、心の強さだとか信念だとか、そんなものは弱き者の負け惜しみだろう?」

 

 一瞬、本当に一瞬、コイツと死柄木が重なった。だが、全然違う。

 ステイン、死柄木には信念があった。リ・デストロや解放軍にもな。それはどうしようもなくイカレてたけど、ただ強けりゃいいってのは違う。

 

「そうか、よくわかった―――死ね」

 

 踏み込んで一気にトップギア。ヤモリだって鍛えりゃ速いんだよっ!

 

「無駄だ」

「んがっ!っと!」

 

 バリアに爪を飛ばす個性、しっかり使いこなしてやがる!

 飛ばした爪を操作までは出来ねぇみたいだが、速度だけでも苦労する。

 飛びのいて避けた先で、牽制に投げたナイフを回収。無駄遣い、よくない。

 

「速い、手が足らんな」

 

 その言葉と合わせて背中から巨大な生き物が現れる。奪取した個性にあった使い魔だろう。プロヒーローの個性、突っ込んできたそれが襲われた男の軽トラを完全な鉄くずに変えた。

 

「羨ましいパワーだなっ、と!」

「ふん!ならナインの配下に加われ!トカゲ野郎!」

 

 避けた先にキメラ。これは回避できない!

 

「がっ!こ、のっ!」

「うぉっ!」

 

 ガードした骨が逝ったな。無理やり握って、痺れ薬付きのナイフで引っ掻いたが、皮一枚。大して効かないだろう。くっそー、痛ぇ……ここはいったん引くか?いや、ここで一気に仕留めないと厄介だ。

 

「ん……がぁぁっ!」

 

 ヤモリの再生は逃亡用に切り離した尻尾を再生する物。こういう風に無理やり骨をつなぐのは本来の使い方じゃない。ついでにスゲェ、体力使う。

 

「貴様……ふふふふ、その個性、奪う価値がありそうだ……ぐぅっ」

 

 あ、やべ。そう言えばコイツ再生系個性探してたんだった。ま、まぁ!一般人守ったと思えば……って俺はヒーローじゃねぇ!いや別に勝手するのがヴィランだからいいけど!

 

「そこまでだ!ヴィランども!!」

 

 さっきのオッサンが呼んだヒーローが来ちまったか。

 

「……邪魔だ」

「何を……ぎゃぁっ!!」

 

 ナインが手を掲げると、唐突に発生した雷がヒーローを焼いた。

 

「2人が心配だ、この場は引く……次はその個性を頂く。首を洗って待っていろ」

 

 キメラがマミーとスライスの二人を担ぎ上げ、ナインと共に引いていく。俺はそれとは別方向に逃げ、この場は痛み分けとなった。




リクエスト頂いた「スピナーのヴィラン奮闘記」として、映画2作目のストーリーを改変してスピナーを放り込む暴挙。

一応、ノベライズ版を読んでの記述になっていますが、素材とキャラとして使ったという感じに近いです。
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