雄英体育祭は警備体制強化の上で、例年通り開催する。
この発表は世間の反応は賛否両論、有識者とか著名人の意見という、小綺麗なラッピングを施した無責任な意見の品評会をマスコミたちが連日楽しく電波に乗せて垂れ流している。
そして、世間の注目を例年以上に集める切っ掛けとなったUSJ襲撃事件、その当事者、正しくは被害者である1-Aに、物見高い連中が殺到することになった。
「なな、なななな、何事だぁぁーーー!」
「君たち、A組に何か用か?」
「出れねーじゃん、何しに来たんだよ!」
教室を出ようとしたお茶子ちゃんと、目的を誰何する飯田君。
今回ばかりは至極もっともな文句を言う峰田。エロが絡まなければ、意外と常識人だったらしい。
「敵情視察だろ、雑魚。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中、だもんな。体育祭の前に見ておきたいんだろ」
峰田に答える爆豪君。
そうだろうね。顔を見るだけで何がわかるか知らないけど。
解析能力の個性持ちとかが居れば別だけど。
「そんなことして意味ねーから、どけ、モブども」
「知らない人のこと、とりあえずモブって呼ぶのはやめようか!」
B組の人はないみたいだし、普通科やサポート科の人たちだろう。
確かに教室にいるだけの私たちを見て「敵情視察」なら、ランニングの一つもしたほうが有益なのは間違いない。
「噂のA組、どんなもんかと見に来たが、ずいぶんと偉そうだな」
人ごみをかき分けて、1人の男子生徒が爆豪君の前に立つ。
かなり強引な動きだけど、文句が出ないあたり、一目置かれているのかもしれない。
「ヒーロー科に在籍している奴はみんなこんななのかい?こーゆーの見ちゃうと、幻滅するなぁ」
その一言に、後ろにいた皆が「心外です」と言わんばかりに否定のゼスチャーをする。
まともに相手しなくていいと思う。どう見ても挑発に来ただけだし。
「普通科とか他の科ってさ、ヒーロー科に落ちたから入ったってやつが結構いるんだ。知ってた?」
知ってるよ。むしろ推薦組や一部の自信家、具体的には爆豪君とかを除けば、みんな併願はしてたんじゃないかな?
その言葉に爆豪君がわずかに身構える。
挑戦、下剋上の宣言と取ったのだろう。やっぱ、センスがある努力家って怖いわ。
「そんな俺らに学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科への転入も検討してくれるんだって。もちろん、その逆も然りらしいよ」
その言葉に皆の顔に緊張が走る。
コレ、相澤先生とは限らないけど、学校側が普通科を煽ってないかなぁ?間接的に私たちヒーロー科の危機感を煽ろう、とか。
「敵情視察?少なくとも俺は、いい気になってっと、ごっそり足元掬っちゃうぞって宣戦布告に来たつもり」
どんな個性持ちか知らないけど、大口をたたくだけの自信はあるらしい。
彼の発言からして、一般試験で落ちる程度の戦闘能力。だとすれば、少なくとも増強系の個性ではない。移動系や空間作用系はそれこそ工夫次第で仮想ヴィランを倒せるだろう。
ありそうなのは、対機械に不向きな対人、対生物の個性持ちだろう。さほど鍛えているわけでもないのに、挑発に来られるだけの自信の源は、対人個性かな。
A組には口田君って、生き物がいないと鍛えた一般人と変わらない人もいるのだけど。
戦闘能力中心の試験だし、それ以外の取りこぼしを拾うための転入制度なんだろうけど……初めから、個性の傾向で試験を分けた方が良くない?
早くトレーニング室行きたいんだけどー、早く帰ってくれないかなぁ、と思っていたら、さらに変な生き物……いや、B組の鉄哲君だったかな?が割り込んできた。
「おうおうおう!隣のB組のモンだけどよぉ!ヴィランと戦ったっつーから話聞きに来たんだけどよぉ!偉く調子ついてくれちゃってんなぁ、オィ!」
漂う三下臭にもう相手をするのも馬鹿馬鹿しくなったのか、爆豪君は無視して人ごみを進む。
あ、通れるんだ。なら私も行こう。
「オイこら!爆豪!お前のせいでヘイト集まりまくりってんじゃねーかよ!」
「関係ぇーねーよ」
「あぁ!?」
「上にあがりゃ、カンケーねー」
呆気にとられる野次馬とクラスメイトをよそに、さっさと帰る爆豪君。
電気はちょっとばかり慌てているけど。
「上か、一理ある」
「ちょっと待て!何納得してるんだ!無駄に敵を増やしただけだろ!」
「クラス対抗戦じゃないんだし、別にいいでしょ。落ち着いたほうがいいよ、電気」
「ちょ、マッハ!おい!」
「んじゃ、私もお先ー」
まったく通路が通れないと思ったが、さっきの爆豪君に気圧されたか、皆が親切にも道を開けてくれる。さて、今日もトレーニング室を使わせてもらおうかな。
やっぱり自宅の簡易設備より、学校のほうが設備がいいからね。
とりあえずマシンを使ったトレーニングをやる前に柔軟でしっかり汗をかこう。そう思って体をほぐしていたら、障子君と葉隠さんの姿が。
「茉芭ちゃんだー、帰ってなかったんだねー」
「葉隠さんと障子君も自主トレ?」
「あぁ、ああも露骨に挑戦されたら、熱くもなる」
「いいね。時間も限られているし、少しでも鍛えないとね」
トレーニングでは筋力を鍛えるのはもちろん、個性も積極的に使う。
個性「電子操作」は様々なところに存在する電子に干渉可能。実力さえ伴えば、原子崩壊も可能だろうけど、そこまではまだ無理だ。
今の自分に扱える、扱いやすいのは自由電子の集まりと言うべき電気が一番。次いで己自身の神経を伝わる電気信号。
あいにくと自分を操作して筋力10倍!とかは出来ないけど、自分に適切な負荷をかけることはたやすい。
「それはいいが、その異常な汗はどうした?」
「んー、今、ちょーっと動きを確認してて」
ストレッチで動かす筋肉一つ一つ、その際に筋肉に伝わる信号を把握して動かしていく。
全身を掌握するという工程は地味ながら、自分の個性と肉体を同時に鍛えられる。知らない人が見れば、ゆっくりとした型稽古か、ちょっと変わったストレッチに見えるだろう。
実際のところは個性とそれに繋がる全身すべての神経を鍛える作業。それが私のストレッチだ。
「ふーっ……今日は時間ないし、後は軽くマシントレーニングでいいか」
さっきの普通科連中が発破をかけてくれたから、しばらくは皆も体育祭まで放課後の自主トレに励むだろう。今度、時間があれば障子君や葉隠さんとの組手もいいかもしれない。
「おー、やっぱりみんな考えることは一緒だね」
一区切りつけて、汗をぬぐっていたらB組の……確か拳藤さんがいた。
「B組の拳藤さん、だよね?」
「そう。よかった。A組の上鳴さんだよね。さっき、ウチのクラスの
「あぁ、鉄哲君、だっけ。いや全然」
むしろアレで野次馬の気持ちがしらけ気味なってたし、ちょうどよかった。
「ならよかった。で、なんかすごい綺麗な型稽古してたけど、何か格闘やってた?」
「残念ながら、動画とか見て独学」
ヒーローになるための運動教室、とかは電気が通っていたことがある。
あまり面白くなったようで長続きしなかったが。
そのテキスト類は私がありがたく糧にした。
「それにしちゃ、イイ感じだったけど」
「そう?ありがとう」
「で、よかったらちょっと組手、しない?」
何が彼女の興味を引いたのかわからない。
けれど経験を積む機会を逃すのは惜しい。
「立ち合いの先生居ないで平気かな?」
「知らないの?端末で申請出して、審判ロボ置けば平気」
「相澤先生は必要なものは自分で調べろってタイプみたいだからね」
訓練施設の利用が一巡したあたりで、組手とか実戦形式の自主訓練を求めていくつもりだった。
担任によって随分と指導方針が違う。
『雄英は自由な個性が売り文句。そしてそれは先生方も然り』
相澤先生の言っていたセリフがのしかかってくる。
わずか数日、それでもこれだけの情報差。すべての情報を開示し、そこから何を選択するかを生徒の自主性に任せているらしいのがB組のブラドキング先生。
一方、無駄な背伸びをさせないためか、自らに必要なものは自ら考え求めろと言わんばかりに何もしない相澤先生。同じ1年でも大分扱いが違うなぁ。
「ふぅん。で、どうする?」
「やろうか。でも防具類装着の個性無し、なら」
「お互い、体育祭前に手札は晒したくないよね。いいよ」
いや単に先生が見てないところで怪我をしたくないだけなんだけど、まぁいいか。
トレーニングルームには、クッション性の床で作られた格闘訓練が行えるスペースがある。
今回は基本的に打撃戦での訓練ということで頭を覆うガードと、胴と脛に防具、拳にはグローブがある。ダメージは出にくいが、ヒットは審判ロボが正確に記録してくれる。
『ハジメ!』
「やぁっ!」
初手は拳藤さん。左のジャブから右ストレートと思わせて、ハイキック。
私はそれをガードしながら、懐に飛び込んで右の膝蹴り。
ただ距離の詰め方が甘かったか、ガードされたと同時に右フックをもらってダウン。
『ダウン』
「やるね。躊躇のなさはやっぱり実戦経験?」
「あっさりダウンとっておいて、言う事じゃないで……しょ!」
今度は私の番と、飛び込んで右ストレート。
初手にビックパンチを入れてもガードされるか、最悪カウンターを食らうのはわかっている。
予想通り狙いすましたカウンターがヘッドギアをかすめる感触を感じながら、柔道で言う内股狩りの要領でこちらがダウンを取り、続けざまに胴のあたりを狙って足を踏み込む。
格闘技ならもちろん反則。だが、これはあくまでヒーローとしての格闘戦訓練。
相手はヴィランだ。その行動を止める意味で、内臓へのダメージは有効。
だが、踏み込みをガードされた瞬間、飛びのいて距離をとる。
「うっわ、容赦ない。かわいい顔して、やることエグイ」
「よっく言うわ。あのまま押し込んでたら、足掴んで投げ飛ばされてない?」
「素手なら折ってるね」
笑いながらいう事ではないが、やはり格闘戦において彼女ははるかに格上だ。
あそこで足をつかまれたら終わっていた。
「イイね。何で素人レベルに付き合ってくれてるのかわからないけど」
「動きたい時ってあるじゃん。もうちょっと楽しもうよ!」
そうは言いながら素人に毛が生えたレベルの格闘に、わざわざレベルを合わせてくれているのはありがたい。そこから数分、初手のラフプレイが嘘のように、適度に距離をとってのパンチとキックの応酬が続いた。
私のパンチやキックが如何に身体能力任せの雑なものだったか、拳藤さんのそれと見比べるとよくわかる。その分、ボコボコにされているけど。
お互い、だいぶ汗をかいたがまだまだいける。さぁ、もっと学ばせて、もっと見せてと思ったところで、拳藤さんからストップが入った。
「大分、温まってきたー、って言いたいけど、今日はここまでにしようか」
「え?」
「いや、あまり本気になると、個性使いたくなるし」
言って、グローブを外した途端、私の半身ぐらいの大きさになる右拳。
「何でもアリの人に、正統派の格闘技だけだと辛いわー」
「A組で正統派なら多分、尾白君だと思う。爆豪君も格闘は得意みたいだけど、彼も自己流だね。個性ありなら爆豪君がトップかな。轟君も苦手ではなさそうだけど、中距離戦の方が好みみたいね。それで私は、真っ当な訓練する機会がなかったから、どうしても雑になるね」
「惜しいねー、でもお世辞でなく筋はいいよ」
「ありがとう」
「道場誘っても通える距離じゃないし時間もない。今度、ウチの指導用動画あげるわ」
思わぬ申し出だがありがたくはある。
「いいの?」
「参考にはなるでしょ。一応の基礎はあるみたいだし」
「お礼はする」
「んー、A組の情報は貰ったから、足らないと思ったら、この後ジュース奢ってよ。後、たまに組み手に付き合ってくれたらもっと嬉しい」
クラスメイトの女子には格闘に傾注している子がいないらしい。組手の相手に飢えているそうな。
鍛えていくにはちょうどいい。私は喜んで彼女の求める対価を差し出すことにした。
この日から体育祭までの2週間、自主トレーニングについても密度を上げていく。
まずやったことは住んでいる女子専用アパートに居る波動先輩以外の雄英生たちとの接触を持つことだった。良くも悪くも、新しく入居した新入生を揉んでやるぜー、と楽しみに待ち構えていたらしい。
ただ、上級生からの過干渉はやはり実力差の面で控えるべきという感じで、声をかけてくるのを首を長くして待っていたそうな。ランニングの最中にも様々な話を聞かせてもらったり、上級生用の訓練室での組手に誘ってもらったりもした。
正直言って、よい経験にはなったが、失敗したー、とも思った。
クラスメイトが学校っぽいものに飢えているように、どうやら先輩風を吹かす機会、と言うのに上級生は大層飢えているらしい。片手間に相手されているにもかかわらず、こちらの限界ギリギリを見極める的確過ぎる手加減をしながらも組手では殴る蹴るの嵐。
自主トレに励むクラスメイトを巻き込むのもいささか躊躇われたので、3日目から拳藤さんを巻き込んだことは許してほしい。
「はー、今年の一年はイキがいいなぁ~」
「若いって羨ましいわ~」
「いやいや、アタシらもまだ10代!たった2歳差だからね!?」
正直、息を整えるのが精いっぱいで、返事も出来ない。
防具無しの寸止め、個性ありでの模擬戦をたっぷり2時間。正直、立つのもつらい。
「体育祭本番は明日だし、今日は軽く済ませておこう」
「そーね、
「体育祭、頑張ってねー」
「いや、お前も頑張れよ?」
「録画しとくから。あんま不甲斐ない戦いすんなよー」
「「お、おつかれ、さまでした」」
2年の経験と肉体的成長による差を痛感しつつ、2人でその場にへたり込んだ。
しばらくたってやっと動けるようになってから、シャワーで汗を流す。
「いや~、先輩方が揉んでくれるって聞いて飛びついたけどさ、やっぱ差があるねー」
「まったくね~、あーでもマッハのおかげで明日に疲れ残らないのありがたいわー」
「電気マッサージ代はシャワー上がりのスポドリでお願い」
電子操作の簡単な応用で、対象内の電子を動かして、要は筋肉に働きかけてのマッサージ。
直前まで追い込みをかける事が出来たのはこれのおかげと言っていい。
「実際、どんな内容だろうね。毎年、変わるから先輩方もわからないって言ってるし」
すべての競技において個性の利用は自由。
ただし、公平性確保のためヒーロー科のコスチューム着用やサポートアイテムは原則禁止。サポート科は自作したサポートアイテムに限り持ち込み可。
状況的に一番不利なのは普通科と経営科。もっとも経営科はほぼ全員が不参加か即リタイヤ。売店をやって儲けたり、参加者の品定めをして将来の起業に向けたシミュレーションをするんだとか。
有利なのは、フィジカル、個性でトップレベルのヒーロー科、アイテムが状況にマッチすればサポート科。普通科は入試以降、どれだけ自分で鍛錬をしたか、だろう。
「折角のお祭り。力を出し尽くそう!マッハ」
「そうだね、一佳」
一緒に訓練をするようになり、名前で呼び合うくらいには親しくなったけど勝負は別。
プルスウルトラー、とお互い手を合わせ、明日の健闘を誓い合った。
雄英体育祭の前のワンシーン。
審判ロボと拳藤一佳の実家(道場)は、一応捏造です。
上級生とのコネづくりついでに、B組拳藤一佳と知り合いになってもらいました。
いや、外に交遊広げる前に緑谷、と思うんですが……キャラ的に緑谷を見るのは「気持ち悪い」から避けたいオリ主に、そもそも女性と話すだけでキョドる緑谷が接点を持てるはずもなく……
まぁ、緑谷との絡みはボチボチ発生していきます。