「あー、お腹すいた。席戻る前に、屋台でオヤツ買ってくるねー」
「俺も行く」
次の出番まで時間はあるだろうし、エネルギー補給もありか。
特に何かお互い話すわけでもなく、人気がない通路にはお互いの足音のみ。スタジアムから伝わる騒めきはまだ次の試合が始まっていないことを教えてくれる。
そして、試合中になにやら喚いていた
「何の用だ、親父」
「邪魔だ、とは今日は言わんのか?左のコントロール、べた踏みでまだまだ危なっかしいもんだ」
いきなりのダメ出しとは言え、表情にはかなり笑みがある。
エンデヴァーガチ勢が見たら、とりあえず眼科に行くだろうな、この笑顔。
とはいえ、この場にいるのも気まずいし、お邪魔だろう。
「あー、お邪魔になりそうだから、私は先に行くね」
「む、君は上鳴
いやあの、テストベッドて。もうちょっと言葉を飾りませんかね?
上機嫌っぽいし、暴言は謝っておこう。
「は、はぁ。試合中の暴言、失礼いたしました」
「……あ、あぁ、いや、構わん。それにしても素晴らしい練度と応用力だった。よければ卒業後はうちに来るといい。焦凍のよいサイドキックになれそうだ」
「やめろ。俺もこいつも、お前の都合のいい道具じゃねえ」
「ふん。子供じみた駄々をやっと捨て、ようやくお前は俺の完全な上位互換となった。卒業後を楽しみにしておけ。俺が覇道を歩ませてやる」
あーもー、完全に置き去りなんだけど、ここから動くに動けない。
親子喧嘩は他人がいないところでお願いしたいんですけどねぇ
「……簡単に捨てられるわけねえだろ」
「うん?」
「ずっと右だけでやってきた。それでいいと思ってた……ただ、あの時、あの一瞬だけは……お前を、忘れた」
息をのむエンデヴァー。
その脇を抜けて歩き出す轟君なんだけど、こら、手を引くな。見られたらなんか絶対からからかわれる。
「それがいいことなのか悪いことなのか、少し……考える」
声を出すのも空気を台無しにしそうなので、会釈だけして手を引かれるままに後をついていく。
それにしても試合中にも思ったが、
轟君の言動からして、やっぱり個性婚なのだろうね。
「すまん、迷惑かけた。親父の寝言は無視してくれ」
もちろん、本気にはしませんよ。ただ、あの人、冗談って言葉知ってるか不安だけど。
「いいけど。とりあえず、そろそろ手を放してくれると嬉しいかなー」
「あ、わりぃ、つい」
割と天然だよね、轟君って。
いやもう、男の子と手をつなぐって、中学のダンス以来だわ。
「珍しく口数が多いと思ったらろくなこと言わねぇ」
「轟君が炎を使ったのが嬉しかったみたいだね」
「戦闘では使わないつもりだったんだけどな。それも含めて、考えるさ」
「それがいいね。試合中の発言だけでも、親としてはどうかと思ったよ。うちの親が可愛く見えたわ」
「上鳴、あぁ、兄貴の方な。あいつと仲、悪いわけじゃなさそうだし、普通の家族と思ってたが……違うのか?」
「あ、それ聞いちゃう?まぁ、大した話じゃないけどね」
いわゆる個性婚というのは、個人の相性なんてガン無視で競走馬のように個性の組み合わせだけで子供を作る。生まれた子供に対して期待通りではないとしての虐待など当たり前。逆襲され一家もろとも、なんてのも珍しくなかったらしい。
今でこそ、禁忌の扱いだが、結婚、出産にお互いの個性の相性を考慮する人は多い。個性も体の一部。ならその体の相性は大事、という言い訳だ。そして生まれた子供が弱個性、最悪は無個性で産まれて虐待される話は今でも珍しくない。
「そんな訳で、全く期待されずに育ったのよね。電気がそれをおかしいと思う感性持ってて助かったし、今は一応は和解済み」
「どこの家も、色々あるんだな。というか、お前が弱個性?見る目なさ過ぎるだろ、それ」
「ありがと。でも
だからこそ、工夫を凝らす。できることを吟味し、それを鍛え、土台となる体を研ぎ澄ます。
そうして今の
「期待が重すぎるのも厄介よね。あぁ、そうだ。詳細は知らないし正直知りたくもないけど、轟君がプロになってビルボードを意識し始めるぐらいになる前、できれば今のうちに、その面倒な事情、全部、
「……なんでだ。そんなことしたら冬姉や夏兄が」
「兄弟いるんだ。プロとしての活躍を聞かないってことは、そういうことでしょ?轟君が活躍し始めると、マスコミが騒ぎ出すよ。いや、今日の迂闊な発言があるから、もう動き出してもおかしくない。証拠もなしに好き勝手書き立てるでしょ」
『俺の血を以って』だっけ。あれは迂闊に過ぎる。
エンデヴァーの個性「ヘルフレイム」に轟君の個性「半冷半燃」。正直、これだけでも何があったかわかるのだ。普段は愛想もないエンデヴァーがああも感情を剥き出しにしたんだ。鼻が利くマスコミは、きっと発言の内容に注目して動き出す。
「なるほど……冬姉に相談してみる」
「それがいいね。よし、つまらない話は終わりー、おやつーー」
幸い、休憩にスタジアムの外に出てた人はだいぶ減っている。
握手を求められたりもしたけど、屋台での買い物はオマケしてもらったりとずいぶんお得だった。
それに加えて、大量のベビーカステラを「凄かったぜ!敢闘賞だ!持ってけ!」と言われたので有難く頂いておいたけど、売れ残り処分かもしれない。B組にも配れば消費できるだろう。
運ぶのは轟君にも手伝ってもらって、スタジアムのクラス席に戻った。
幸いと言っていいのか、まだスタジアムの修復は終わっていなかった。セメントス先生、本当にお疲れ様です。私のせいでもあるけれど。
「お疲れ様。茉芭ちゃん。惜しかったわね」
「おっつかれー!すごかったよー」
「ありがとー、これ、屋台のおじさんからのプレゼント、みんなで分けて。あ、一佳、いるー?」
クラス席の仕切りに向かって声をかける。
声が聞こえたのか、一佳が顔を出した。
「や、お疲れ。何か用?」
「おすそ分け。たくさん貰ったから、みんなで食べて」
「お、サンキュー」
差し出した袋を受け取ると、B組席のほうから「ありがとー」とか聞こえてきた。
うんうん、甘いものは正義だよね。
あたりを見渡すと、縁日とかにはあまり縁がなかったのか、庶民の甘味に目を輝かせる八百万さん。
自分の分を確保すると、空いている席に腰かけた。
「やー、茉芭ちゃん惜しかったね」
「ありがと、お茶子ちゃんもお疲れ様」
多分、沢山泣いたのだろう。爆豪君の方はといえば、やや苦々しい顔。きっと彼としても薄氷の勝利だったのだろう。
「相手が爆豪君だし、一緒に強くなろう」
「うん!」
「ケッ!次も勝つのは俺だ」
爆豪君ならそう言うだろう。言動のわりに努力家だし。
「ところで、茉芭さん。B組の拳藤さんとは仲がよろしいようでしたけど」
「あぁ、うん。ちょっと前に組手してね」
「その縁で、一緒に先輩方に揉んでもらったんだよ。私はあまり結果が振るわなかったから、後が怖いけど」
ひょっこり顔を出して、おすそ分けのお礼にと、スポーツドリンクのペットボトルを投げ渡してきた。
彼女の言動は明るく癖がない。A組のみんなともうまくやっていけると思う。
「あれあれあれ~?A組はこんなチープなもので僕たちB組を懐柔できると思っているのかい?僕らも安く見られたヘブッ」
「悪いね。みんな。コイツ、ちょっとアレでさ」
そう言って引っ込んでいった一佳。うん、B組もいろいろ癖がある人が多そうだ。
委員長は一佳だったけ。今度、八百万さんとは改めて引き合わせておこう。
席に戻ると、轟君に負けた同士となる、瀬呂君が話しかけてきた。
「しかしすっげぇな、上鳴さん。俺なんか瞬殺だぜ?」
「個性の相性だね。私としては瀬呂君が上がってきた方がやりにくかったよ」
「またまたお世辞はいいって」
「……爆豪君ならわかるんじゃない?」
自分で解説しても信じなそうだし、A組最強の一角に答えてもらおう。
「あぁん?そりゃそうだろ。その貧弱女じゃ、テープに捕まったら逃げようがねぇ」
「と、いう訳」
「な、なるほど。よくわかった」
初動が分かりやすいので、近づければまだチャンスはあるかもしれないけど、それが難しいのが対瀬呂君なんだよねぇ
セメントス先生の作業はまだもう少しかな。
「あ、あの、上鳴さん」
「あぁ、緑谷君。腕折っちゃってごめんね」
「あぁ、うん、それは大丈夫。治してもらえたし」
お互い、リカバリーガールには頭が上がらないね。
それで話は終わったかと思ったが、次の瞬間には目を輝かせてものすごい勢いで話し始めた。
「それで聞きたいんだけど、あの体術はどこで身に着けたの?凄いよね。一瞬で折られたしそのあと連携は食らった側としては反撃の余地すらなかったもの。リカバリーガールは人体の壊し方を知っているなんて言っていたけど、その辺は個性も影響している?それともただの知識なのかな?あぁ、あと轟君の氷結の防ぎ方は僕には予想もできなかった。いや僕も対策は考えていたんだけど、最小限の自爆覚悟で行くしかないと思ってたんだ。それにあの氷を浮かせた攻撃。相澤先生が言っていたけど本当にレールガン?それに少しだけど空も飛んだよね。あぁぁ、それに加えて最後の攻撃あれはプラズマ化した電気なのかな。オールマイトの話の件とかアレどこから聞い、いやごめんそれはまた今度、それよりも上鳴さんの憧れてるとかいうヒーローのことも教えてほしいな。コスチュームはその人のリスペクトとか?ヒーローネームは?どんなスーツでいつ頃活動してたのかな、それに……ブツブツブツブツブツブツブツ」
「お、おぉ」
質問というか立て板に水というか、オタが自分の趣味について語りまくっているというべきか、早口すぎて答える暇もないけど、異様な圧がすごいなこれ。
「デク君、すとーっぷ!」
お茶子ちゃんが軽いチョップを入れると、ブツブツと完全にイっちゃってた目が一応普通に戻った。さすが、お茶子ちゃん。
「はっ!うわわわわわっ、ご、ごめんなさい!ぼ、僕、昔からいろいろなヒーローのこと調べるのが趣味で、入学してからはみんなの個性についても少しずつまとめてて、それで、僕の予想なんかはるかに超えてきたから、どんな風に訓練したらあんなふうになれるのかな、って」
「ぁあ゛!?そんなんだからテメェはデクなんだ!隣の丸顔の爪の垢でも飲んで死ね!」
「意訳すると、お茶子ちゃんみたいに、全力を振り絞ってさらに力を絞り出せってこと」
「勝手な翻訳してんじゃねぇ!!」
「いやいやいや、けど結局届かなかったし」
「オメェも照れんな!当然だ!!」
いや、ホント、緑谷君が絡むとより短気になるね。爆豪君は。
あのパワーに嫉妬しているって風でもないけど、妙に気にかけている。幼馴染らしいから、何かあるだろうけど。踏み込みすぎもよくないか。
それにしても全力を出すと体が壊れるってのはねぇ、正直、体ができてから、大学生くらいでヒーロー免許を取った方が緑谷君のためだったんじゃないですかね?オールマイト先生?
緑谷君のブツブツ攻撃が収まったのを見計らって、梅雨ちゃんに透ちゃん、それに八百万さんが席を移って隣に座ってきた。
響香はどうしたかと思ったら、さすがに試合が迫っているので控室に向かっていた。
「それで拳藤さんが仰っていた、先輩方との訓練とは?」
「どうせなら、誘ってほしかったワ」
知ればそうなるよね。
「うん、ちゃんと説明するね。まず、一佳がB組クラス委員長だから、改めて紹介はいる?」
「お願いします。授業や訓練など、お互い協力もできるでしょうし」
「オッケー、今度、場を設けるね。で、最初は、訓練見てくれるって言うから、せっかくのご厚意だし誘ってもいいかな、と思ったんだけど……」
ヒーロー科は自主訓練や勉強時間の確保で、高校生らしい部活動とは縁がない。
ヒーロー志望者って中学までは体育会系で体を鍛える人が多いから、後輩との触れ合いに飢えに飢えた先輩方の張り切りっぷりが予想以上過ぎて。
「正直、2日で音を上げた。見てもらってた重点メニューが格闘系だったから、近接特化の一佳を誘ったの。主にイケニエに」
皆がやっている自主トレの邪魔しても悪いし、無理無茶が過ぎると誘うのやめました。
特に3年生は、仮免取得後のインターンシップで現場を経験している。私たちより経験も豊富。何より訓練時間の貴重さを知っているから、訓練の密度が半端ない。
もちろん、地獄の道づれにしたことは一佳は知っている。
それでずいぶんと力をつけたはずなのに、騎馬戦敗退は正直解せなかった。これは後日、反省戦やろう。
「A組女子で近接格闘必須はお茶子ちゃんだったけど、個性の訓練を重点的にやっていたからね。多分誘っても来ないと決めつけた。ごめんね」
「いやいや、確かに断ってたと思うわー」
「えー、私はー?」
「透ちゃんは基礎体力がちょっと足らないかなぁ、最低でも今の2割り増しぐらいないと。響香、三奈ちゃん、梅雨ちゃんは体力より、基本が私向けメニューで合わなそうだったからだね」
「えー」
「あの、わたくしは?」
「体力の程度がわからなったので誘えませんでした。御免なさい」
だって放課後の自主練してる姿見てないし。
女子の中では体力ある方だと自負してるけど、それでも泣きが入ったんですが、それもよければどうぞ?
「3年生は体育祭後は本免許取得と就職、進学で忙しくなるから、2年生は仮免取得が終われば少し余裕があるらしいから、その時にでも紹介するよ」
2年生って、去年、相澤先生がごっそり除籍させているから、残っている人の結束力がすごいんだよね。
幸い、今の1-Aに思うところはないらしいが、今のところ除籍者ゼロってことには驚いていた。
さて、セメントス先生の作業も終わった。
治療を受けている間に行われた引き分け再試合では、電気と切島君が勝ち上がりだったらしい。
つまり次の戦いは電気と飯田君か。どうなるか、楽しみだ。
閑話というか、会話で終わってしまった。
ヒロアカ2次でちょくちょく見かける、轟家の闇、先行公開。すっぱ抜かれるよりダメージは少ないので、やるべきとは思うので、使い古されたネタと承知で手を付けました。
上級生とのコネについては、合宿後まで引っ張るつもりでしたが、ここでクラスメイトに開示。
そういえば、2年生って在籍してたっけ?とちょっといくつかのエピソードを見直しましたが、復籍含めて1クラス分ぐらいは残っているっぽいので、本作では居るものとして扱ってます。