「さて、方針としては、明日以降、常に”見る”ようにしながら行動してください。午前中に事務作業代わりに医学に関する基礎勉強、午後はチームの介護士と共にリハビリの補助と子供たちの面倒を見てもらいます。インゲニウムの朝夕の診察と介助には毎日同行してもらいます」
スケジュール的には一般の介護実習の類とそう変わらないのだろう。
「夕食後は基本的に自由時間になりますが、現在、保須市ではヒーロー殺しが活動中と思われますので夜間の外出は自粛してください」
「はい。わかりました」
「インゲニウムへの紹介は明日の朝の診察で。明朝は8時に今日と同じ会議室に。以上だよ」
「はい。ありがとうございました」
それで今日は終わり、と思ったのだけど、ホワイトマウス先生からはさらに続きがあった。
「さて、今日はずっとじっとしていてたから、少し動きたいんじゃないかい?気晴らしに組手とかどうかな?」
思わぬセリフと共に案内されたのは、フロアを上がったところにある運動スペース。
「日中はリハビリやご婦人方相手のヨガなんかにも使うんだが、時間外は僕らの訓練スペースに借りているんだ。医療ヒーローだからって戦えないなんてことはないからね」
曰く、被災地で医薬品に水や食料を奪おうとするヴィランなんて珍しくないそうだ。
海外の紛争地帯に派遣されるチームなどは、軍隊すら時に敵に回すことがある。医薬品と言うのはちょっと手を加えたり用量を変えるだけで依存性の高い危険な代物と化ける。
「手口の容赦のなさで言えば、国内のヴィランなんてカワイイ物さ。と言うことで遠慮はいらない。先手は譲るから好きにかかっておいで」
「行きます!」
ベルトの充電は満タン。グローブは装着済み。
軽いジャブから踏み込んで左の膝蹴り。
「おぉ、やるね」
「どうもっ」
ガードではなく回避を選択したホワイトマウス先生に左足で踏み込んで右のアッパー気味のフック。
「なかなか。弱い電気を乗せて運動阻害か」
「本来はっ、それくらいが、限界、なんです、よっ!」
投げに持ちこむにも相手のほうが早いし、何より重い。異形型は総じて重くなるから、自重で自滅してもらうのが一番なんだけど。
「上に意識を持って行って、いきなりのロー、中学時代、実は結構
「まさかっ!」
まったくもって余裕綽々すぎて、プロとの差が大きすぎる。
空振りしたローを軸に回転してエルボーを撃ち込もうとしたら、体に巻き付く包帯にあっという間に拘束された。
「よし、ここまで」
「捕縛布、ですか?」
「あぁ、イレイザーヘッドが使う拘束具だったね。発想は近いけど別物。性能的には簡易版みたいなものかな。変形型にも使える特殊繊維製の包帯を応用した捕縛術。興味あるなら、基礎の基礎ぐらいまでは教えてあげよう」
「是非ともお願いします!」
「これについては僕よりドールマウス、僕のサイドキックの方が得意だから、彼女に話をしておくよ」
捕縛布よりも軽く取り回しがしやすく携帯にも便利。
腰のベルトのバッテリーを1、2個減らしてファーストエイドキットと共に携行すれば選択の幅が広がりそうだ。
快く了承してくれるとともに、手のひらにある肉球でポンポンと頭を撫でる。おぉ、これは良い肉球。
「おかげで小さいお子さんにも怖がられずに済んでるよ。食事はIDカードを使えば職員食堂で3食取れるからね。あぁ、忘れてた。病院内での医療行為、自衛行為に限り、個性の自由利用をホワイトマウスの名で許可するよ」
「はい。お疲れ様でした。ホワイトマウス先生……自衛?」
「患者さんってね、意外と元気が余ってるのが多いからね。特に君みたいに綺麗な子は気を付けないと。おっと、今はこういうのもダメなんだっけ?」
「いえ、ご忠告ありがとうございます。ホワイトマウス先生に迷惑をかけないよう、留意します」
「うん。じゃ、改めてお疲れ様」
ともあれ、初日から結構つかれる羽目になった。
出来る限り電子を「見る」ように心がけながら、割り当てられた部屋へ向かいすぐ眠ることにした。
2日目、ホワイトマウス先生のサイドキックにも挨拶をさせていただいた。プロ免許持ちはドールマウスさんと、ヘッジホッグさんの2人。他は医師や看護師免許を持っているけど、ヒーロー資格はないそうだ。
二人とも異形型の個性で共にげっ歯類になる。近い種族の動物系個性でサイドキックをまとめたのは、個性で人語を使わないやり取りが便利だから、とかの基準で選んでそうだ。目の前で内緒話し放題だし。
保須市総合病院所属の看護師さんたちにも挨拶を済ませて、午前の通常業務に。即勉強、と言わけではなく、インゲニウムこと飯田天晴さんの病室に。
「お加減はいかがですか。無理に喋らないでいいですからね」
ホワイトマウス先生が看護師さんにいくつかの指示を出している。
「それで、紹介したい人がいるんです」
「雄英高校ヒーロー科1年上鳴
「そうか……職場、体験……」
「ええ、とりあえず今日は挨拶までで。また後程」
それ以上は会話をせず、マウス先生に流されて病室を出た。
アクスレピオスに割り当てられたオフィスに戻り、聞かれるままに現状での所感を報告する。
「どう見えた?」
「少なくとも脚部への伝達は確かに途切れているようです。ただ、全身良く鍛えられていて全体の神経網は素晴らしい水準と言うぐらいです」
「なるほどね。とりあえず午後は予定通りで頼むよ」
午前中の残り時間は座学。体は楽だが、頭はフル回転する羽目に。これガチの医学部の教科書では。
わからない場所はテキストと共に貸してもらった辞書と参考書を引きまくる。まったく理解できないなら字面眺めて終わるのに、中途半端に理解できるから調べないと気持ち悪いというか、なんでこう、ヒーロー関係の人たちは私の限界をきっちり見極めて、頑張れば登れる壁を作るのか。
お昼休み、食事をしながら気晴らしに携帯を見る。皆もだいぶ頑張っているらしい。
『フォースカインドさん、めっちゃ厳しいー』
『僕はいつも通り、エレガントにやってるよ』
『うわぁぁぁ、もう帰りてぇぇぇ、掃除は嫌だぁぁぁ』
『自業自得よ、グレープジュース。午後から海に出るの。以降は連絡できないわ』
『お気をつけて。私はバトルフィストとたいへん有意義な経験をさせていただいて……ます』
『ウチは半日訓練からパトロール、社長、タフすぎ』
『頑張れ』
さて、面倒なのはここから、なんだろうなぁ
イレイザーヘッド、相澤先生がドライアイなのって体質より個性使いすぎたんじゃないか。現実逃避気味な考えを振り払いつつ、意識して目に力を入れて、多数の神経標本が合成された人物が動き回っているような姿に耐えるように気合を入れた。
午後は主にリハビリの補助、一般のボランティア活動などでも経験したことがある人はいるかもしれない。経験者はわかるだろうが、主に外科で入院している人たちは怪我をしている部位以外はものすごく元気なのだ。
「おー、職場体験かぁ、若い子がいてくれるなら、おっちゃん頑張るわー」
「あはは。ありがとうございます。はい。お手はこっちにお願いしますねー」
「つれねぇなぁ、何なら、おっちゃん……あたっ」
「今日は乾燥してるかもしれませんねー、はい、次のメニュー行きましょうか」
まぁ、胸や腰に良く手が伸びる伸びる。
こういう時には個性の外部出力が弱いことに感謝する。強めの静電気でちょっと動きを止めてもらうくらい簡単なことだ。
「あー、つかれたのー、看護婦さん、マッサージぐらいしほしいがー」
「はいはい。
「いえいえ、構いませんよー。じゃあ、かるーく、
肩に軽く手を当てて、見ながら全身の神経に沿って少しだけ強めに刺激を受けるように電子を動かし、すぐさまその流れを意図的に弱める。
「おぉ、なんじゃぁ、こりゃあ天国がぁ……ぐぅ」
「な、何をしたの?」
「私の個性で全身の神経を伝わる信号の活性化と非活性を極端にやって、強制的に寝てもらった感じですね。ついでにマッサージ効果もあるので、ちゃんと疲れも取れてると思います」
「す、すごい!この患者さん、困ってたのよ。またお願い!と言うか、ヒーロー辞めたらウチに就職して!」
「そのマッサージ、私たちもお願いしたいくらいよ」
「え?まぁ、時間外なら……たぶん」
話がホワイトマウス先生に伝わって、訓練内容が増えたよ。ものすごくいい自己鍛錬になるからスタッフへの施術はもちろん、今後も続けなさいってさ。
特に特定部位が豊かな女性看護師さんには肩こりが消えたと、大変好評でした。まる。
『男性患者さんが全員がグレープジュースに見えてきた。責任取って死んで?』
『ひでぇ!風評被害だ!』
『詳しく』
『いやもう、リハビリ補助してると年齢関係なく偶然を装って触りたがるんよ』
『うっわ、最低。死ねよグレープジュース』
『俺じゃねぇ!』
『哀しきは男のサガよ』
『いや、それダメな奴じゃあ』
『セクハラはんたーーい!』
『どう対応されているんですの?』
『吹っ飛ばすなよ?除籍になるぞ、ブルー』
『やるかバーカズマ。マッサージで(翌朝まで)永い眠りについてもらってる(-ノ-)/Ωチーン』
『葬るな』
夜の自由時間はもちろん、ドールマウスさん、ヘッジホッグさんに稽古をつけていただいた。
包帯捕縛術はヒーローではないスタッフの方も修めており、彼らも加わった乱取りでは何度包帯まみれになったかわからない。
皆さんにお礼のマッサージを施してから、泥のように寝た。
3日目、朝の回診時にインゲニウムさんの清拭、つまり体を拭く際に補助をした。
昨日のマッサージの話から、直接接触して内部電子の通りを見てほしいという話になったのだ。
「足に触りますね。もし熱かったら言ってください」
もちろん感覚がないことは聞いているが。言って刺激を与えるのも必要なことらしい。
なるほど確かに電子の通りが詰まる。左足に移ってもあまり変わらない。
このままだと頸椎損傷による下半身不随が治る前にそもそも足の神経が刺激がない状態に慣れて終わってしまいかねないとのホワイトマウス先生の指示もあり、下半身中心に刺激を多く与え神経と筋肉をできるだけ保持できるように強めの刺激を与えておいた。
そのうえで、両腕に移ったのだが、インゲニウムは飯田君と違いエンジンが両肘についている。
同じ個性「エンジン」でも随分違うと思いながら見ていると、ちょっと目に違和感を感じた。
「―――っ」
「どうかしたかな?ブルーアンバー」
「いえ、ちょっと目に埃が」
とりあえず患者の前でアレコレ考察をしていても仕方ない。
とっさに誤魔化して話はいったんそこで終わった。
「さて、詳しく聞こう」
「指示の通り、ずっと”見て”いたんですが、両肘の「エンジン」部分で少し違和感と言うか、目に痛みを感じまして」
「他に所感はあるかな?」
「足の神経自体は正常と思います。確かに腰で電子の通りが悪いです。ただ神経が壊れて通っていない、というより別の何かと言う気がします」
そこで考え込む。その何かがわかれば治療の道は開けるが、たった2~3日の特訓でどうにかなるなら、世の中みんなオールマイトになれる。
「判った。焦ってどうなるものでもない。今日もいつも通りでお願いね」
「はい」
そして何事もなく、と思っていた3日目。包帯捕縛術も拙いながらも最初の一歩が形になって、とりあえず今日はお開きとなったところで唐突に病院全体が修羅場となった。
保須市内に突如として脳無が複数出現。
そしてそれに便乗するかのように火事場泥棒的なヴィラン犯罪も各所で勃発。ちょうどよくと言えばいいのか、エンデヴァーを筆頭に複数のヒーローが保須市に入っており、交戦中とのこと。それ以外にも市街に関連事故による火災や便乗犯罪で大きな被害が出ている。
緊急と言うことで渡された無線から聞こえる情報だと、どうもヒーロー殺しの姿も確認されているとか。
この状況下、ヒーロー見習いでしかない自分にできる事は病院に避難を求めて訪れる一般市民の誘導や、病院に駆けつける緊急車両の交通整理ぐらい。
「ブルーアンバーからホワイトマウス。新たにケガ人3名。イエロー1グリーン2です」
『了解。エントランスに誘導して引継ぎを』
「了解。続いて緊急車両1台。はい、お待たせしました、もう少し頑張ってください、こちらです」
足を折って歩けなかったらしい人をピストン輸送状態のストレッチャーに抱え上げ、慌てずゆっくりしかし急いで院内へ。
「こちらイエロー、脚部骨折、脈拍正常範囲。後をお願いします。お二人はそちらの待合室で待機をお願いします」
「おい!俺らだってケガ人だぞ!」
「重症の方から順番に処置しています。申し訳ありませんがしばらくお待ち下さい」
頭を下げると返事を待たず、空のストレッチャーを押して外に。
ふと嫌な感じがして上空を見ると、そこには翼を広げた異形のヴィラン。慌てて進行方向から見えないように壁に身を隠す。
「アレも……脳無?」
怪我の状態を見るのにも使えるかと、事態が始まってからずっと”見っぱなし”だったので脳無についても”見る”事が出来たが、相変わらずまともな人間とは思えない。よくあれで動けるものだ。
どちらにしても、良く先に気付いて隠れることが出来たものだと、自分の幸運に感謝した。
とにかく今は少しでもやれることと任されたことをこなそうと、視線を再び訪れる避難者や車両誘導に戻す。
「緊急車両がとおりまーーす!すいませんがお待ちください!!」
とにかく我先にと病院に押し掛ける元気な自称「ケガ人」を捌くのに一番疲れた夜だった。
『ブルーアンバー返事ないね』
『なんか、デクから変な通知来てる』
『ニュース見てみ』
『ヒーロー殺し?え?エンデヴァー?ショートは?ブルーアンバーも保須だよね?無事!?』
それらのメッセージ気付いたのは次の日の昼だった。
保須市襲撃事件、とりあえずオリ主は裏方というか、病院で患者に忙殺されてただけです。なお飛行型の脳無、気付いて隠れなかったら拉致&脳無素材でデッドエンドでしたねw
インゲニウムの方を解決させて、祝杯で外に―そしてヒーロー殺し―、とかやろうと思ったんですが、3日目ちょうど、ってのは余りにご都合主義すぎて取りやめ。
まぁ、1週間足らずでどうにかする時点で十分チートと言うことで、救済の道筋は次回に持ち越しです。
オリキャラ
ヒーロー名:ドールマウス
本名:
ホワイトマウスのサイドキック、女性。看護師。捕縛術が得意。
個性「ヤマネ」
ヤマネにできる事ならほとんどできる。
ヒーロー名:ヘッジホック
本名:
ホワイトマウスのサイドキック、女性。医師。
個性「ハリネズミ」
ハリネズミネにできる事ならハリネズミ以上にできる。