「ふわぁ……」
「昨日は大変だったね。はい、コーヒー」
差し出されたコーヒーをありがたく受け取る。ほぼ徹夜なのにピンピンしてるのは流石と言うべきか。
「ありがとうございます」
「うん。そっちの具合はどう?」
「騒動が始まってから仮眠をとるまで、ぶっ続けで”見る”ことを続けても平気になったのは褒めてほしいです」
「それは凄い」
ポンポンと肉球で撫でてくる。いや、癒されるからありがたいけど。
「じゃあ、眠いだろうけど、朝の回診に行こうか」
「ふぁい……」
医者の体力スゲー、と寝ぼけ気味の頭に早くカフェイン回れと祈りつつ、甘ったるいコーヒーを飲みほした。
そして今日も昨日と同じく、触れて、電子を流す。
やはり感じる違和感。ただ昨日のような痛みは感じないので、慣れたのだろう。
何か見落としている。何か忘れている。奥歯の奥に物が挟まったような感じがする。
「何か見落としてる気がするんですよね。ただそれが何なのか……」
「まぁ、元がダメ元だから、あまり気に病まないように。それとだ」
聞けば、昨日の事件に巻き込まれ、クラスメイトが3人、入院しているとのこと。
なんて嫌な偶然もあるものだと思うが、休憩を兼ねて午前中は休みをもらえたので見舞うことにした。
休憩中なので白衣は脱いでいる。ただ名札だけは腰のところに付けておく。
「クラスメイトが入院したって言うからお見舞いに来てみたら、意外なメンツだね」
「「「上鳴」さん」」
おお、ハモってる。飯田君が一番重症で両手にギプス。轟君も包帯の箇所は多いが致命傷ではないようだ。緑谷君は左足と右腕。折れてはいないようだし、制御に成功した?のだろう。
「職場体験先のチームがこの病院に間借りしてて。いや、偶然ってすごいね」
すっかり習慣になってしまったのでそのまま「見て」居たのが、緑谷君に視線を向けたのは失敗、と思った時はもう遅かった。また吐くかなー、と思ったのだが個性を使っていなければ平気だった。
そして何やら感じる前とは違う強烈な違和感。ただこれは緑谷君に対して、と言うわけではない。頭の中でモヤがかかっているものが晴れそうで晴れないもどかしい気分。
「あれ、上鳴さん、何か雰囲気が」
「緑谷もそう思うか?何か、変わった感じがするが」
轟君と緑谷君が私を見ながら何かを話しているが、私は私で、3人の各部位特に飯田君との比較であちこちに目をやるのが忙しく、話を全く聞いていなかった。
そんな状態を心配したか、轟君に肩をゆすられて正気に戻る。
「上鳴?」
「あぁ、ごめんね。昨日の騒ぎのおかげで睡眠1時間で。立ったまま寝てたかも」
「だ、大丈夫なの?」
「入院する大けがに比べたら、ノーダメだよ」
そして改めて飯田君、轟君、緑谷君の順に”見て”、自分の中で完成図の無かったパズルのピースがカチリと嵌った音がした。
「あ、そっか」
「上鳴さん?」
「あーそうだよねー、日常的に”見て”なかったから気付かなったというか、いっくらサンプルを増やしてもフォーマットが違うものばかり同士で比較検討しててもそりゃ何もわからないよね。いくら似ててもサルと人類は別種族だし。あれそうなると今の人類って良く繁殖できてるね?共通フォーマットはあっても生まれた以降は違うって?オブジェクト化言語っぽくて考え方としては面白いけども、それって……」
「本当に大丈夫か?緑谷がうつってるぞ」
「病気扱い!?酷くないっ!?」
肩を強くつかまれ、その痛みで我に返った。
「あぁ、ごめん。つい」
あぁ、驚いた。ちょっと寝不足でテンションおかしいかも。
「疲れててつい口に。いや、うん、3人のおかげで疑問が解けた。ありがとう」
「なんのことか判らねぇが、おう」
「事情はさっぱりだが、助けになったのならよかったよ」
「うん……どういたしまして、かな?」
お礼は素直に受け取っておいてください。
「うん。ところで緑谷君……制御が少し上達した?」
「え?あ、あぁ、うん。ちょっと失敗ちゃったけど」
ちょうど話の区切りがいいところで、ノック共に犬頭の男性と、ヒーローコスチュームの男性に老人が病室に入ってきた。
「うん?君は誰だワン?」
あー、ものすごく犬。子供に人気ありそうだなぁ
「彼らのクラスメイトで上鳴
「ご丁寧にどうも。保須警察署長の
「そこの緑谷の担当で、グラントリノじゃ」
「僕はノーマルヒーロー・マニュアル。飯田君の担当だね」
「初めまして。ブルーアンバーです」
それにしてもまさかの犬のおまわりさん。ぜひ制服着て写真撮らせてほしい。って、そうじゃない。どうもやっぱり頭が寝てる。話があるのは明らかだし、部外者はお邪魔しよう。
「お邪魔のようなので、私はこれで。じゃ、またお見舞いに来るね」
「気を遣わせてしまってすまないワン」
グラントリノさんとマニュアルさんの2人からは色々お話を伺いたいが仕方ない。
それに状況からして昨晩、なにかあったかやらかしたんだろうし。
「それに、もっと急がないといけないこともある」
ホワイトマウス先生が寝ていないことを祈り、私は事務室へと足早に戻っていった。
「……というわけで、飯田天哉君と飯田天晴さん両名の神経網の比較、個性による肉体の変異が少ない発動型の2名や患者さん、病院スタッフとの比較をした結果、サンプル数の少なさや第三者による検証が難しいのを承知のうえでの結論、いえ、暴論となりますが―――」
「個性、いや、いわゆる個性因子が回復した神経網に紛れ込んで伝達を阻害している、と」
少なくともそうとしか思えない、と付け加える。
再生自体は上手く行っているのに、神経信号が通らないと言うのが機械的な診断結果。私の目で見る限り、流れをせき止めるナニカがある様な感じだった。
「正直、乱暴な意見であることは承知です」
「まぁ、元々、人に異形や特殊能力を含む”何か”をもたらした物を総称して、個性因子、加わった結果を個性と呼んでいる訳だが、異物と言う考え方はないわけではない。
習っていると思うけど、異能排斥論者などは、個性を人類が罹患した病とまで言っているからね」
異形型、発動型、変形型、どんな個性を持つ者同士の組み合わせでも子供は生まれる。基盤としての人類と、形質・性質としての個性を分離するのは、考え方としては本来おかしい。個性は体の一部、それは間違いがない。
「進化としての個性ではなく、共存・共生のほうが近いもしれませんね」
「新生児の個性事故などもないではないが、基本的に一定年齢まで個性が現れない。出産時の母体の安全と土台となる本人の安全のため発現せず、己を制御できるようになったら発現する。現象から見れば共生関係と言うのも成立はするね。
余計な誤解を生むから、ヒーローを目指すならあまり言わないほうが良い意見ではある。
話がそれたね。つまり個性を取り去らない限り、再手術を行っても見込みがない、となるが」
話がこれより深い方向に行く前に修正してくれて助かった。社会的にも危ないし、医学の専門分野レベルに行かれたらついていけません。
「そうなんですが、ここで試す価値のある方法と言うか、人材がおりまして」
ええ、とても身近に重要なキーパーソンが居ました。本人、絶対嫌がりますけど。
「抹消ヒーロー・イレイザーヘッド。雄英高校ヒーロー科1-A担任相澤先生の個性「抹消」。個性を”消す”と言われる個性ですが、実際は一時的に個性発動を”止める”個性のようです」
「なるほど。個性が止められている間に施術をすれば余計な因子は入らない、と」
「さらにリカバリーガールが居れば、阻害要因が侵入する前に治癒が可能です。あと、対象に関する影響度から考えれば、洗脳系や金縛りなどの非接触拘束系でも可能性はあると思います。要は対象の個性因子を阻害できればよい訳ですし」
今の自分にできないなら、代わりの手段を持ってくる。思いつく限りでの最善としては、こうなる。
「電子操作で個性因子、存在が不確かなものながら、どうやら認識できているソレを動かせる可能性もありますが、物質と紐づいている電子を動かすのは今の自分には無理で、到達できるかもわかりません。現在できるベストな方法だと思います」
「判った。リカバリーガールにも相談してみよう。それと”見る”のはいったん終えていいよ」
「はい。と言いますか、見てるのわかるんですね。睨んでるつもりはなかったんですが」
眉間にしわでもついてないだろうか。思わす触って確認すると、ホワイトマウス先生が笑いながら鏡を差し出してくる。
「気づいてなかったのか。昨日ぐらいからかな。見てる時の目の色が違うんだ」
私の眼の色は電気と同じ
それが今は思わず見惚れてしまうほどに深い青に染まっていた。
「名は体を表す。まさに
その後は概ね通常に戻った感。そういえば、夕方にドールマウスさんのお使いで医局に書類を届けに行った帰り、グラントリノさんにお会いして少し話をさせてもらった。
職場体験で医療系ヒーローのところ、と言うのは珍しいのか、どんなヒーローに成りたいのかとかも聞かれた。つい、
グラントリノさんの年齢で知らないということは、よほどのマイナーヒーローか活動期間が短かったのだろう。「良いヒーローになれ」と最後に激励の言葉を頂いた。
夜の訓練では、4日目にして包帯捕縛術の基礎は一通りできたとドールマウスさんにお墨付きをもらった。そのまま流れるように応用編に入って、ガチ凹みしたけれど。
基礎もまだまだ付け焼刃なので、しっかり練習しなさいともいわれた。
そして職場体験最終日。建前上の移動日になる翌日も午前中ぐらいは拘束されると思うのだが。
朝の回診はいつも通り。インゲニウム、飯田さんはどうやら昨日のうちに事情を聴いたのだろう。まだ喋るのもおっくうそうな状況ながらも感謝の言葉を頂いた。
正直、頑張った甲斐があったと思った。
午後は午後とてリハビリの老人たちのセクハラをかわしたり、やたら元気なお子様たちの玩具になったり。
ただ、ヒーロー科の人間にステイン役を求めるのは勘弁してください。
幸い、ヒーロー殺しが逮捕され、まだ事後の警戒にあたるヒーローたちが多く街中を巡回している。街中にはまだ多少の影響はあるようだが、それも数日で収まるだろう。
そんなわけで、当面の危険は去ったということで、最終日の夜くらいとホワイトマウス先生が食事に招待してくれた。
「いやぁ、ほんと。期待以上の結果だったよ」
「実際の結果は出てませんので、期待外れにならないことを祈るばかりです」
流石にドレスコードがあるようなお店ではないものの、学生の身分では立ち入ろうと思わないレベルのお店。
初めての懐石料理は緊張はするが実に素晴らしいお味だった。
「とはいえ、色々大変だったろう」
「そうですね。ですが薦めてくださったリカバリーガルはもちろん、マウス先生にも感謝しています。自分の
いや本当に。戦闘以外の道と言うのは割と意図的に目を背けていた。
そのくせ、戦闘での能力が弱いと嘆き僻み、それらも糧に努力を積み上げてきた。もちろん、何をするにもヒーローには強さは必須。鍛えることは怠らないが、もっと手を広げていかないと。
「いやぁ、そう言ってもらえると嬉しいよ。ウチはインターンだと本格的に医療資格が必要だから、雄英在学中に来てもらうことは厳しいけれど、ぜひ、こちら側も検討してほしいね」
「医療資格についてはハードルは高いですが、積極的に検討することはお約束します」
「職場体験での実績は報告しておくので、進路選択の助けにもなると思うよ」
「ありがとうございます」
そのためにはここから1年、しっかり鍛えて来年の仮免取得を頑張らないと。
あわよくば、来年の体育祭でリベン……ジは、無理だろうなぁ
「どうかしたかい?」
「いえ、来年の仮免に向けて頑張ろうとか、体育祭でリベンジとか思ってそのハードルの高さに」
「あぁ、今年の1年は凄かったね」
そこからは学生時代の四方山話や、雄英から医学部へ進む際の大学選びのアドバイスまで、さまざま話を聞かせていただき、実に楽しい夜になった。
そして最終日。午前中の業務はあるかと思ったがそれもなし。
医局とアクスレピオスの皆さんに挨拶をして、行きとは違い在来線で東京へ。事務局で職場体験終了の書類をもらってから、ご褒美なのだろうか、グリーン車のチケットと、アクスレピオスで使う戦闘携行用ファーストエイドキットに強化包帯を1箱頂いた。
どちらもそう高くないので、補充含めてコスチュームに組み込むのはすぐに申請通るだろうとのこと。とてもありがたい。
そして1時間ちょっとの電車の旅を快適に過ごし、雄英に戻ってきた。
コスチュームを返却に学校に一度行かないといけないのが面倒だが、こればかりは文句を言えない。そして学校についたとたん、待ち構えていた相澤先生に問答無用で保健室へ連行された。
「お疲れさん。随分な活躍だったようだね」
「ありがとうございます。助言を頂いたこと感謝します。とても良い経験が出来ました」
「そうかい。そりゃよかった」
褒められたのは実はここまで。後はどちらかと言うと恨み節だった。
「しかし結構な面倒事を持ち込んでくれたな」
「ホワイトマウス先生、連絡早すぎませんかっ!」
「善は急げと言うからね。まぁ、別に責めとりゃせん」
じゃあ何かと思えば、要するに口止め。本人の了解を得られれば治験を兼ねての治療行為が行われる。
ただ複数回長期の施術になる可能性があるため、雄英近くの病院に転院するという。
「飯田にも話すなよ。ことと次第によっちゃ、かなり大騒ぎになりかねん」
「はい。判りました」
そこに巻き込まれたくない、と思って無理だろうなぁ
保須市襲撃事件、終了です。次は第3者視点で改変を受けたメンバーについてかな。
グラントリノとの会話もそこで描写しようかと。
初代インゲニウムはしばらくフェードアウトです。
さて、微妙に性能が上がったオリ主。
目の色が変化したのは、書いてて筆が滑ったというか、調子に乗りましたw