林間合宿初日、A組全員、学校に集合していた。
「この林間合宿でさらなる高みへ。Plus Ultraを目指してもらう!」
「「「はい!」」」
出発前の皆のテンションはやや浮かれ気味。
お茶子ちゃんがものすごく輝く笑顔で緑谷君に話しかけに行って、緑谷君の顔が赤いけど、アレはまだ、単に女子が近くて照れているだけだろうなぁ
と思ったら、釣られてお茶子ちゃんも真っ赤に。「合宿♪合宿♪」と奇妙なダンスを披露してる。
うーん、興味深い。そして三奈ちゃん、一緒になってはしゃがない。
「え?何々、A組補習いるの?つまり期末で赤点とった人がいるってこと?えー?おかしくない?おかしくない?A組はB組よりもずっと優秀なはずなのにー?あれれれれれれ――――」
「あ、ごめんねー」
アレは浮かれていると思っていいのだろうか?
物間君がテンション高く煽ってきたが、確か物間君も赤点だったはずなんだけど?
「ほら、バス乗るよー」
「はーい」
一佳の仕切りでバスに向かう後ろ姿を、異質な視線で凝視するのが峰田。
「A組だけじゃなく、B組の女子まで。より取り見取りかよ!」
「お前ダメだぞ、そろそろ」
全くねー、その態度がモテから自分を遠ざけていると理解できないのだろうか。理解してもああだろうとは思うけど。
バスが動き始めてすぐ、相澤先生が何か言いかけたけれど、周りが騒がしく聞き取る事が出来なかった。気にはなったけれど、静かにさせないあたり大したことではないだろう。今は、三奈ちゃんたちのとおしゃべりに花を咲かすことにした。
どうせ到着したら地獄が待っている。とか考えていたのは、まだ随分と甘かった。
1時間強でバスは峠道の途中にある待機場所のような場所に停車し、全員、バスを降りるように指示された。
なにか、口田君の様子が怯えているように見えるのだけど、大丈夫かな?
「あれ?ここ、パーキングじゃなくね?」
「あれ?B組のバスもいない」
「何の目的もなく、では意味が薄いからな」
その瞬間、嫌な予感がゲージを振り切った。こういうのを時すでに遅しとか、後の祭りと言うのだろうね。
無関係と思ったセダンから人が出てきたとき、追い打ちとばかりに口田君の怯えが頂点に達した。
「よう、イレイザーと、口田ぁ」
「ご無沙汰してます」
その姿から、プロヒーローだとわかる人たちは、自らの名乗りを上げてくれた。これ、プロは全員履修しなきゃいけない、とか、無い……よ、ね?
「煌めく
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「ワイルド・ワイルドぉ~プッシーキャッツ!!!」」
何というか、効果音とエフェクトがあるテレビって偉大だってわかるよね。目の前で、いきなり、素でやられると、きっつい。
それを冷めた目で見ているお子さんがいるのがもっとキツイ。
「口田は職場体験でお世話になったから知っているな。今回の合宿もお手伝い頂けることになったプロヒーロー・プッシーキャッツの皆さんだ」
「連名事務所を構える4名1組のヒーロー集団!山岳救助などを得意とするベテランチームだよ!」
流石ヒーローオタク。緑谷君、解説ありがとうございます。
「キャリアは今年で12年になる―――」
「ココロは18ぃぃ!!」
おぉ、速い。さすがにプロのおば……いえ、お姉さま。
「ココロはぁ?」
「18ぃ!」
そう思わないとあのコスチュームは厳しいよねぇ
しかしそれを思うと、10数年たったら、自分もあのコスチュームはきついだろうなぁ
ひとまず挨拶をして、プッシーキャッツの1人、マンダレイさんが眼下に広がる森林の奥を指さす。
「ここいら一帯はワタシらの私有地なんだけどね、アンタらの泊まる場所はあの山の麓ね」
「え?じゃあどうしてこんな中途半端なところに?」
「これって、もしかしして……」
「たぶん、そのもしかして、だと思う」
装備無しでの山中移動訓練ですか。個々に分断されていないだけマシ、だと思うようにしよう。せめて体操服に着替える時間位……無理か。
「今は午前9時30分、速ければぁ……12時前後かしら?」
「ば、ばすに、もどろっか!」
「ダメだ!もどれー!」
一斉に駆け出すけど、無駄だと思うんだよねぇ
「12時半までかかった
「悪いな諸君、合宿はもう、始まっている」
その言葉と共にピクシーボブさんがあたりの足場を崩して全員を崖の下に。
「おーい、私有地につき個性の使用は自由だよ。自分の足で施設までおいでませ。この!魔獣の森を抜けて!」
「魔獣の森!?」
「なんだそのドラクエめいた名称は!」
「雄英、こういうの多すぎだろ」
さて、プッシーキャッツのところで職場体験したらしい、口田君に話を聞かないと。
あの怯えようからして、相当鍛えられたんだろうし。
「ま、魔獣だ!!」
「アレは動物じゃないから逃げて!」
ただ話を聞く前に、森に駆け込んだ峰田が魔獣?と遭遇したようだ。そして意外にもきちんと通る声で口田君がみんなに警告を発してくれた。
それを聞いて緑谷君が飛び出し、潰される直前の峰田を救出。轟君が凍らせ、爆豪君、飯田君、緑谷君の連続攻撃で魔獣、というかゴーレムのようなものは倒された。
「流石だぜ!爆豪」
「まだだ!」
警戒を解かない爆豪君に呼応するように、次々と現れる魔獣。
「おいおい、いったい何体いるんだよ」
「どうする?逃げる?」
「逃がしてくれないだろうし、突破一択だと思うよ、ここは」
「なら!ここを突破して最短ルートで施設を目指すしかありません!行きましょう!A組!!」
「「「おう!」」」
百ちゃんの号令の下、魔獣を排除しながら森の中を進む事になった。
戦闘面では爆豪君、轟君、緑谷君とそれに続いて常闇君と飯田君、切島君が直接攻撃に優れる。お茶子ちゃんが相手を浮かせて梅雨ちゃんが飛ばして落下ダメージで壊す。
障子君、響香は索敵。
私は精々、透ちゃんと一緒に囮になるぐらいしかできないかなぁ、格闘にはちょっと自信はあってもあれは基本的に対人、それもあまり変異の少ない異形型ぐらいまでが限界だし。
正直、自分が一番の足手まといと思ったのだが、整地されていない森の中の移動と言うのはかなり全身に負担がかかる。1時間程度で小休止をとることとなり、そこで全員のマッサージを行うことにした。
「緑谷君は余り負担がないみたいだけど、どう?」
「ありがとう。でも足とかずいぶん楽になったよ」
大体の人は足に結構、負担が来ていた。特にひどかったのが爆豪君と飯田君。
「んで爆豪君は……うわ、コレかなり痛くない?」
「うっせえ……なんかくすぐってぇぞ、何やってやがる」
「私の個性でマッサージ。少しは痛みが良くなるよ。飯田君も……これでどうかな?」
「あぁ、楽になるよ、ありがとう」
爆破はその衝撃が自分に返ってくることもあってか、腕の負担がかなり大きい。可能な限りほぐしたが、長期戦には意外と向かないようだ。
「マッハ、サンキュー、やっぱ効くなぁ、楽になるわ」
「体力そのものは回復してないから、動けるだけだからね?」
「それでも助かりますわ。皆さん、これならもう動けますよね?」
疲労困憊で動けなくなる事態、と言うのだけは避ける事が出来た。峰田?仕方ないからちゃんとマッサージはしたよ。なんかアレが恍惚としてるのは人類としてやっちゃいけない行為をした気分だったけど。
それでも昼食時間のリミットには間に合わせることは無理だった。日の高いうちにたどり着けただけで上出来だろう。
その場でへたり込むほどでは無いが、全員の顔には疲れがある。
「時刻は15時40分、意外に早かったにゃー」
「もっとかかると思ったけど、イレイザー、アンタの教え子優秀ねー?」
「……恐縮です」
「何が3時間ですかぁ~」
「それ、私たちなら、って意味。悪いね」
「あ゛~、腹減ったぁぁ」
うん、正直、かなりお腹減った。途中、川で魚とか探したかったが、あいにくと川も見当たらなかった。山菜とかキノコ類は知識がないから危ないので、うかつに手を出せない。
「でも正直、もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃって。特にそこの4人!躊躇の無さは経験値によるものかしら―?」
轟君、爆豪君、飯田君、緑谷君は戦闘能力と言う点では1歩抜きんでているからねぇ
「3年後が楽しみ!唾つけとこー!!」
そして襲い掛かるピクシーボブさん。あの、それってわりと犯罪的な年齢差じゃあ……デビュー12年にこっちは1年生、14,5歳差は流石に……
「マンダレイ、彼女、あんなんでしたっけ?」
「彼女、焦ってるの。適齢期的なアレで」
それが気になるのは理解するんですけどね。10数年後にああはなるまいとは思うけど、実際どうなることやら。
ピクシーボブさんのスキンシップ?から逃れるためか、緑谷君がプッシーキャッツと一緒に居る子供のことを聞くが、マンダレイさんの従兄弟のお子さんとのこと。
「ほら、洸汰、あいさつしな。1週間一緒に過ごすんだし」
「……なぁ、口田の兄ちゃん、アレキサンダーは?」
「が、合宿だからペットホテルで預かってもらってる」
「ちっ、つまんねーの」
それだけ言うとさっさと宿舎に入って行ってしまった。人見知りってわけではなさそうだけどね。
「ところで相澤先生、お願いが1つと質問が2つほど」
「言ってみろ」
とりあえず、お子様のことは後回し。優先すべきはこのまま夕食までの時間の過ごし方。自主訓練には残りの体力が心もとないし。休むにしてもこのままはちょっと。
「はい、昼食抜きは仕方ないのですが、時間が半端なので、できれば食材を融通いただけないかと言うのが1つ目、2つ目は我々全員、ご覧の有様ですので夕食前に入浴は可能でしょうか。3点目は食事そのものの支度はどうなっておりますでしょうか?」
言うだけ言うと、相澤先生とマンダレイさんが目配せを交わし合う。
「飯は自分たちでやるならイモでも蒸かして適当に喰え。風呂は……30、いや40分ほど待て」
「食事は今日
「ありがとうございます」
とりあえず、汗まみれ泥まみれで食事をすることだけは避けられそうだ。軽食だけはそうなるんだけど。
「とりあえずバスから荷物を降ろして部屋に入れ。後は順番が入れ替わったが風呂まで好きにしろ」
「「「はい!」」」
最初は食事が先のつもりって、到着予想は夕方か夜でしたか。多少は予測を上回る事が出来たのなら、それは成長と思っていいだろう。
「んじゃ、手早くお芋蒸かそうか。お茶子ちゃん……は無理そうだから、梅雨ちゃん、動けそうなら手伝って―」
「わかったワ」
余裕がまだいくらかあって、料理経験がありそうなのは他に居るかなぁ?
電気は過放電で使えそうもないし、軽く小腹押さえでいいから1人2個ぐらいで大雑把にやってしまおう。
「あぁ、マヨとバターが染み渡るぅぅ」
「芋ってこんなに美味しかったんだなぁ」
幸い、業務用の高出力電子レンジがあったので、短時間で欠食児童全員に行き渡るだけのジャガイモを蒸す事が出来た。
「1人2個までねー、夕飯、入らなくなっても知らないよー」
「大丈夫!メシは別腹だ!」
自分は小腹押さえに1個あればいいな。それ以上は本当に夕飯が入らなくなりそう。
ともあれ、お昼ごはん抜きという調味料はただのジャガイモをとても美味しくしてくれた。
さて、時間もちょうどいいし、お風呂に入ったらご飯を食べて、後は泥のように眠りたい。
お風呂はありがたいことに温泉。しかも露天風呂まであった。割と本格的に宿泊業もやってるみたい。訓練施設として他のヒーローが使ったりするのかな。
「あー、温泉があるのはありがたいねー」
「さっぱりしたら、後はお夕飯だけですね。楽しみです」
「ねーねー、寝る前に男子の部屋とか遊び行ってみようよ?」
いや、それは流石に。というか、今だって大分、眠気が勝ってきてるのに、ここで食事したらもう起きていられない気がする。
「いや~、ゆったりしてもう大分眠いよ~」
「あー、そうだね~、このまま寝たら朝まで寝られそう」
「いやいや、お芋1,2個じゃ夜に目が覚めるから、もうちょっと頑張って!……と」
ひと心地ついたところで、響香が不穏な会話をキャッチした。いつもありがとうございます、いやホント。お風呂の心地よさに落ちかけてたけど、意識を何とかつなぎとめる。
そしてまぁ、なんというか、もう人としてダメじゃない?と思うセリフが駄々洩れしていた。
「まぁ、ぶっちゃけ、メシとかどうでもいいんですよ。求められているのはそこじゃないんですよ。求められてんのはこの壁の向こう何スよ」
それに対して飯田君が当然のように制止に入るが、アレはその程度では止まらない。
「五月蠅いっスよ。壁は……超えるためにある!プルスウルトラアァァァァァ!!」
「ヒーロー以前に、ヒトのアレコレから学びなおせ」
あらかじめ待機していたのだろう。洸汰君に阻止されて落下する覗き未遂犯。
「やっぱり峰田ちゃん最低ネ」
「ありがとー、洸汰くーん、うぇい、うぇーいっ!」
「ちょ、流石に隠そうっ!?」
「そー言ってるアンタが見えそうっ!マッハ!」
こちらの声にうっかり女湯を覗いてしまった洸汰君はびっくりして男湯側に落下。
「うわぁぁぁ!」
「危ないっ!!大丈夫、気絶してるからプッシーキャッツの皆さんに診てもらってくる」
緑谷君の声が聞こえたから、とりあえず怪我はないのだろう。
とりあえず、手早く身支度整えたら様子を見に行っておこう。
林間合宿初日、森の移動に関してはオリ主はほぼ空気です。
だってレールガンは装備がないから使えないし、上鳴電気を使うとしても上限はあるし。
なので、マッサージがあるからそれで疲労を減らしてもらおう、と言うことで、ほんのり到着が早くなりました。
食事とお風呂の順番が入れ替わっただけで話は大差ないですが。
実はあの泥まみれ汗まみれの姿のまま、食事をさせたくなかっただけだったりしますw