目覚ましはバイブレーション設定で5時ちょっとに起床。
周りを見渡すと、枕元に散らかったお菓子の食べ残しと紙コップ。幸いこぼれたりはしてないから、そのまま、出来るだけ静かに布団を畳んで、周りを起こさないように部屋を出る。
どうせ今日もがっつり動くことになるから朝のストレッチは簡単に済ませ、早起きの特典で朝風呂を使わせてもらってから初日の夕食を食べた食堂へ。
「おはようございます。マンダレイさん」
「あら、おはよう。早いのね」
とりあえず、キッチンを使っていいかと聞けば、とりあえずのOKはもらえた。
「自分用だけってつもりじゃないよね?何を作るつもり?」
「どこまで材料を使っていいかによりますが、カレーの材料が余ってれば、豚汁とご飯だけでも用意しようかと」
あとは卵か納豆でもあれば、みんな適当に食べられるだろう。
朝はブリティッシュブレックファーストで、とか青山君がぶつくさ言っていた気がするが、知らない。食べたかったら自分で用意してほしい。
さすがに手伝ってはくれないが、キッチンと食堂の利用許可はもらえた。
人数分の食器を外に出すのも重労働なので、正直助かります。
ご飯は業務用の洗米機と炊飯器があるので、ざっくり説明を読んでそれにお任せ。
さすがに40人分の米研ぎを1人でやっていたら死ねる。
野菜はさすがに手作業になるけど、こだわりなど特にないし、手早さ優先でピーラーとスライサーに大活躍してもらえば、割と短時間でどうにかなる。
「おはよう、
「ありがと。先に顔洗ってきて。髪もはねてるし」
あとは少し野菜を煮込んで柔らかくなったら、インスタントの出汁と味噌を適当に突っ込めばいいだろう。雑だけど量があるから、まぁ、そんなひどい味にはならないはず。
「おはようございます……昨日はちょっとはしゃぎすぎて、寝不足ですわ~」
「百ちゃんおはよー、熱いお茶入れとくから、顔洗ってきなー」
時計を見るともう6時を回ってる。男子もそろそろ起きてくるだろう。
豚汁を仕上げて、ちょっと味見。
ラグドールさんたちプッシーキャッツの皆さんにもおすそ分けして、代わりに人数分以上の卵と納豆が冷蔵庫にあるから使っていいとのこと。
あとは張り紙の一つもしておこう。勝手にやったことだけど、文句言われたくないし。
『食器は自分で洗ってください。生卵が嫌な人は自分で調理。早い者勝ち。文句があるなら防災用保存食齧ってください』
とりあえず起きてきた皆に、濃いめのお茶を淹れておいて、自分の分の朝食を確保した。
中身がカレーと一緒だ、とか文句を言う電気がいたけど知らない。手抜き豚汁とカレーの差はお味噌とカレールゥの差ぐらいなんだから、仕方ないでしょう。
まぁ、とりあえず、急ごしらえの豚汁は皆に好評ではあった。明日の朝食は誰か余裕があれば手伝ってほしいものだけど……無理かな。みんな割とギリギリまで追い込んでるし。
さて、適度にお腹も膨れて今日も個性伸ばし訓練。目隠しすると同時に意識的に広がる360度の視野はちょっと酔いそうでもある。
補習組の電気と切島君、瀬呂君はマッサージではどうにもできない寝不足もあってちょっとフラフラしていた。エナドリをキめてシャキッと、って訳にいかないのが気の毒すぎる。
「個性の強化だけじゃない。何より期末で露呈した立ち回りの脆弱さ。お前たちが他のクラスメイトよりもなぜ疲れているか、その意味をしっかり考えて動け!」
「「「は、はい!」」」
そして実は赤点ギリギリだったらしいお茶子ちゃんと青山君。そうなると自分の評価がどれくらいだったのか気になってしまう。
「気を抜くなよ。皆もダラダラやるな。なにをやるにも常に原点を意識しておけ。向上って言うのはそういうもんだ。何のために汗かいて、何のためにこうしてグチグチ言われるのか、常に頭においておけ」
その立ち姿に憧れた。笑みを浮かべ颯爽と、危機を解決する己を夢見た。
私の小さな個性はどこまで伸ばすことができるだろうか。少なくとも、いま、こうしてヒーローを目指す場に立つ事が出来ている。
今の視界を制限した先に何があるか、正直、相澤先生が見据えている未来の自分の姿がどんなのものか、よくわからないのだけど。
けど、歴戦のプロが出来ると考えた知覚の強化。これを土台として、その先にある物をつかみ取るには、疑うより先に踏み出したほうが良いに決まってる。
「それよりみんな!今日の晩はクラス対抗肝試しを決行するよ!しっかり訓練した後は、しっかり楽しいことがある!今はしっかり励むのだー!!」
「「「イエッサー」」」
ええと、サー、でいいのか、な?女性の場合ってイエスマムで、ってまぁいいや。
うん、まぁ、レクリエーションは大事ですよね。ただまぁ、今やってる訓練の性格上、私はただの散歩にしかならないのですけど。まぁ、響香とか苦手っぽいし、さっそくお返しができるかも?
「ラグドールさん」
「んー?何かにゃー?」
ひたすら甘味を食べて何かを作り続ける百ちゃんと、糖分を摂取しながら筋トレというメニューをするB組砂藤君のそばで、追加のお菓子を出す係と化しているラグドールさんに話しかける。
「だいぶ慣れてきたので森に入ってみていいですか?」
「……はっや。いいけど、感知圏外に出る前にマンダレイが止めるから、それには従ってね」
「はい」
さて、そんなわけで魔獣のいない魔獣の森再び。ピクシーボブさんは他の人の訓練環境の作成保守に忙しいから、魔獣を出してこちらにけしかけたりはできないはず。
そして魔獣や大型の野生動物の心配がない管理された森というのは、程よく涼しく、訓練ついでであっても開放的な気分がいくらか味わえる。
まぁ、その森を今は直接見られないのだけど。
『その先50mでB組のグラウンドスペースだから迂回しなさい』
森に入ってしばらく、開けた場所と複数の見覚えのある電子の流れを感知したので向かっていたら止められた。一方通行のテレパスなので返事をすることはせず、方向を変えてペースを少しずつ上げる。最終的には木々を縫うように飛び跳ねるまで試した。
まぁ、目測?をしくじって何度か正面衝突したり、転んだりもしたけど。誰も見てないからセーフ、と言うことで。
「だんだん馴染んできたけど、これに馴染むと日常生活に困りそうで怖い」
モノクロのフレームワークと、荒いテクスチャで再現された人体の中を詳細に光る神経網。それだけしか見ることができない世界はさすがに怖いな、と思う。
次は目視と併せてこの視界を維持する訓練になるのかな?と思うが使い分けが難しくて脳がバグりそうな予感がする。考えながらもランダムに現れる枝や、足元の根っこなど、歩きにくい要素はきちんと把握できているあたりは、我ながら習得が早いと喜んでいいだろう。
『そろそろ戻りなさい。圏外に出るわ』
ずいぶんと調子に乗って進んでこれたようだ。少し迂回しつつ戻ろうかと思ったところで何か違和感。
「うん……?いや、気のせいかな」
ラグドールさんのではなく、私の知覚範囲内に何か引っかかった。できるだけ平静を装って声に出しておく。そして、これ以上は拙いと警告する本能に従い、全力で森を戻ることにした。
「はぁっ、はぁっ……これ、ちょっとまずい、よ、ね」
とりあえず、プッシーキャッツの皆さんか相澤先生、この際ブラド先生でもいいから大人に報告をしなければ。幸い、ラグドールさんはさっきと同じ場所にいた。
「ラグドールさん!」
「およ?どしたん?そんな慌てて」
「すいません、ちょっと個性訓練で相談したいことがあって」
さすがに他の人がいるところで憶測の報告は避けたい。思いが通じたか、2人にお菓子は自分で補充するように指示を出して少し距離を取る。
「それで本題は?別に名目通りのことでも構わないけど」
「えっと、念のため確認ですが、敷地内にいる人たちって、ここにいる人で全部ですか?」
「うん?向こうの広場にB組がいて、施設の方には洸汰がいるけど?」
なら、ギリギリで私には運があった、そう思おう。
「では、たぶん、なのですが、侵入者がいます」
「はい?」
「先ほど、探知圏ギリギリまで行った際に、私の知覚範囲に何かいました。気のせいかもしれませんが、念のため報告を、と」
「……ちょっとついてきて、マンダレイ、イレイザーを呼び出して。状況イエロー」
装備のインカムに向かってイレイザーヘッド、相澤先生を呼び出すコールを聞きながら、これが勘違いであることを祈った。
「それで、確かなんだな?」
「訓練を始めてから野生動物を見ていないので、誤認の可能性はあります。ですが、植物ではない何かがいたことは確実です」
「その場を捜索したか?」
「いえ、ものすごく嫌な予感がしたので、気のせいかな?と言ってその場を去りました」
「……上出来だ。午前中の訓練は早めに切り上げる。ゆっくり飯でも食わせておけ」
ラグドールさんとマンダレイさん、相澤先生私が引き返した場所を中心とした捜索に向かい、ブラドキング先生と残りのプッシーキャッツの皆さんが生徒の護衛につく形になった。
これに関しては厳重に口止めされ、そのままお昼ごはんの支度をするように言われてしまった。
さて、疲れた皆でも食べやすく、時間稼ぎになる食べ物……ねぇ?なら、この季節ならではの、楽しめる食事にしよう。実は一度やってみたかっただけなのだけど。
「虎さん、お聞きしたいことがあります」
「うむ?なにかな?」
「このあたりって、竹は自生してます?ゆっくり食事、ならちょっとエンタメしてみたくて」
「……なるほど、よい考えである」
どうやら食材も素材も豊富にあるとのこと。施設近くの森から素材を調達して設置までやってくれると言うからありがたい。
その傍らで、私はお昼の支度にとりかかることにした。
予定時刻よりいくらか早く、午前中の訓練終了がマンダレイさんのテレパスで告げられ、さらに食事の支度もあると聞けば、皆は足取りも軽く……はないが、施設前の炊事場に戻ってくる。
「おい、アレ……もしかして」
「あぁ、幻覚、かな?」
「いや、あれは……!」
「「流しそうめんじゃねーか!」」
竹を切り出して、虎さんが素早く割って節を取り除き、それこそ目に留まらぬ速さで設営してくれました。ちなみに肝心のそうめんはまもなく大量に茹で上がる。
なにしろ、ベテランプロヒーロー。あちこちに付き合いがあり、こうした田舎暮らしだと今でもお中元やお歳暮という習慣が色濃く残る。そしてこの季節の定番の贈答品にして持て余す大量のそうめん。
普段は福祉施設などへ寄付したりして消費するらしいが、その一部を使わせていただいた。
「うん、竹の器もあるからねー。あ、轟君、そうめん冷やすから氷お願い」
「「先にその目隠し取ろうね!」」
「おっと、ついつい」
外せと言われなかったし、不自由ないのでつい。
「ここに作っておけばいいか?上鳴」
うあ、至近距離はご勘弁を。通常視界に戻してすぐこれは刺激が強い。
「あ、う、うん。適当に冷やせる程度にお願い」
「わかった」
こら、なにニマニマしてる三奈ちゃん、お茶子ちゃん……だけじゃないな。女子一同がなんかイイモノミタワー、って顔してる。くそう、油断した。
そうめんを流す役は虎さんとピクシーボブさんが担当してくれるというので、マッサージで全員を軽く回った後に、私もみんなと一緒に食べることに。
なにやら、緑谷君と口田君が洸汰君を誘って、一緒に食事をとっている。まぁ、あの子は2人に任せておけばいいか。何か、ヒーロー嫌いみたいだし。
「くぁーっ!暑い中で流しそうめんって最高じゃね?」
「あぁ、こらっ!それは俺んだ!」
下流の男子の方では醜い奪い合いが起きてるけど、まぁ、いいでしょ、うん。
「で、マッハ、目隠ししたまま料理してたの?茹でるだけって言ってもよく見えるね」
「んー、思ったよりすぐ慣れた。次は目隠しなしで視界の切り替えか混在させろって言われそうだけど」
氷で程よく締まったそうめんをすする。薬味はミョウガとネギは用意したけど、物足りない人は自分で作るか茹でてください。あ、そうだ。
施設にいったん戻って、キッチンからチーズその他をもらってくる。あとフライパン。
まだ火は残っているので、薪を追加して火力を上げる。フライパンを温めたら、そうめんに刻んだチーズとバジルを和えてからフライパンへ。溶けたチーズがそうめんと絡まり始めたら形を整えて、焦げ目がついたらピザのようにカット。
「はい、百ちゃんには物足りないだろうから、カロリー満載のおつまみそうめん」
「えっと……その、ありがとうございます?」
疑問を浮かべながらも、一口食べたら目が輝いているので、一応は気に入ったのだろう。
実家にいたころ、やはり持て余したそうめんの消費に作った料理。とある小説(*1)のレシピで、父さんはビールに合うと結構喜んだが、ひと夏で3kg太った禁断のレシピでもある。なお、太ったのは父さんだけである。私は運動頑張った。
「あ、ずりぃ、俺も食いたい!」
「材料はあるから自分でどうぞ」
これで目先が変われば、さらにもうちょっとぐらい時間稼ぎになるだろう。
あきれ半分ながら、自分も食べてみたいと目で訴える虎さんとピクシーボブさんには1枚焼いてあげた。「ビールが欲しぃー」というのはうれしい評価だけど、本当にカロリー爆弾なんで太りますからね、コレ。炭水化物と脂質が手に手を取ってタンゴを踊り回っているようなレシピなんで。
流しそうめんとかまどで順番待ちと、騒がしく食事をする私たちに戻ってきた相澤先生は少々呆れ気味ながら、片づけを含めて30分遅れで訓練を再開する旨を告げる。
「それと、午後の訓練では森に入ることは禁止だ。いいな!」
「「はい!!」」
捜索の結果がどうだったか気にはなるが知る必要はない。
さて、午後の訓練では虎さんのところに加わって、視界を制限したままでどこまで動けるかでも試せばいいかと目隠しをつけながら考えていた。
現在は削除され商業ベースでしか読めません。
オリ主、ギリギリで死亡フラグ回避。なお、あのまま突っ込んでいたり周辺を捜索したら、よくて拉致。悪くて死亡してたでしょうw
正直、ラグドールの拉致って油断しすぎでしょう。
情報漏洩のリスクを承知で合宿実施、迄はいいとしても、肝試しといういくらでも回避できるイベントをわざわざ実施。しかも護衛を兼ねているプッシーキャッツと教師陣は補習で別れて戦力を分散。もうこの時点で雄英無能すぎw
しかも前日の夜には開闢行動隊の過半数が現地入りしているのに、周辺の哨戒をしている気配もない。正直、かなり警戒が甘いだろうと。
折り返し地点にラグドールを置いたのは警戒のためかもしれませんが、そもそも見ないとサーチの対象にならないのだから、むしろマンダレイかピクシーボブの方が適任です。
で、炭鉱のカナリア代わりにオリ主放り込みましたw
なお、おつまみそうめんはおいしいですが、マジで太りますのでご注意を。