―――Side:イレイザーヘッド
今回の林間合宿、ヴィラン連合の襲撃が起きたという事実は重い。
情報は可能な限り隠した。にもかかわらず、襲撃を受けた。
こうなればどこからか情報が洩れていることは確実。しかしその漏れ口がまだ想像もつかない。
ともあれ、雄英に提出する報告書は仕上げねばならない。
通常の指導に対するものと、今回の事件での生徒たちの動き。それらに対する今後の指導方針。それを実践するのは他のヒーローになる可能性は高い。
ならばこそ、しっかりと記載をしておかなければ。
まず爆豪勝己。
襲撃事件に関しては、拉致未遂のターゲット。
体育祭などでの粗暴な振る舞いがヴィラン向きと思われた可能性は高い。もっとも本人のヒーローへの憧れは本物で、言動は矯正の必要があるがヴィランへ堕ちる心配はない。言動は……ベストジーニストが匙を投げたという1点だけでどうにもできないと理解してくれ。
個性伸ばしについては、まず量の増加に注力。本人が見据える成長の方向性は意外に堅実……と言えなくもないが、多少背伸びが過ぎる。
「量を増やすのは構わねぇ、けど、質のあげ方も教えろ、教えてくれ」
思わずどういうことかと聞けば、爆煙を抑えるために爆発の質を上げたいという。なるほどと思うが、そこに更に頭の痛いセリフも飛び出てきた。
「あと、ヤれるなら、足からも爆破がしてぇ。そうすりゃ、もっと楽に飛べる。択が増える」
理解はできるが、そこまで行くと個性の成長どころか進化と言うべき段階に踏み入る。己の成長に確たるイメージがあることは素晴らしいが、段階を踏み越えすぎる傾向に注意が必要。
最も一足飛びにできるとは本人も思っていないようで、まずは量を増やすことに注力しろと言う指示には素直に従っていた。
次に緑谷出久。マスキュラーの証言を信用すれば、ヴィラン連合からは重要な殺害目標の1人。USJやショッピングモールで死柄木弔との接触もあり、それが遠因と思われる。
個性については超パワー、と言うもので単純な増強系個性として届けが出ていたが、実際は異なることが判明した。正直、オールマイト並みに非常識で頭が痛い。
「ちょっとまて……なんだ、
「は、はい。えっと、僕の個性”超パワー”を全身に纏う、フルフォルムという技で、これで、体を守りながらパワーを引き出そうと」
緑雷を纏うヒーロースーツ姿の緑谷がそこに居た。もちろん、装備は林間合宿には持ち込ませていない。
「お前の個性は筋力増幅系の超パワーと届けが出ていたが……」
「どうも違うんじゃないかって……その、すいません」
「届けの修正は合宿後でいい、なんでそんな風に思うようになった」
これを見逃すのは今後の指導にも響く。新しい発見があってそれを報告してない緑谷も注意が必要だが、情報の共有がおろそかなオールマイトにも文句の一つも言いたいところだ。
「その、か、あ、いえ、オールマイトから、の、アドバイス、で、して」
「そうか。判った」
一瞬言い澱んだが、これで繋がった。期末前にオールマイトと緑谷、上鳴
その成果がこれなのだろう。
とりあえず緑谷には、フルフォルムの習熟が不十分と言う申告なのでその訓練と、虎のブートキャンプとの両立を指示しておく。どちらにしても筋トレが必要なのは本人も納得していた。
かなり厳しくなるが、それぐらいで潰れることはないだろう。
(詳細は、上鳴本人に……いや無駄だな。外堀を埋めなければ合理的じゃない)
A組20人のうち、最も順法意識が高い。と言うよりも、法や契約を便利な道具として認識している節がある。ヒーロー法律学の成績はクラスでもトップだ。
おそらく、守秘義務を盾にオールマイトの開示許可がなければ何も話さないだろう。仮に除籍をちらつかせても、脅迫で被害届を出される。仮に除籍を強行しても民事で法廷闘争に持ち込まれかねない。
上鳴関係では、芦戸三奈もおかしなことを言っていた。
「酸に強くなるのもいいんですけど、もっと形を変えたり粘度を弄ってトリモチにしたりとかも試してみたいです!」
そもそも個性が酸なのだから、爆豪と同じ基礎を伸ばし、そういう応用は基礎を積み上げた先にしろと、仮免試験前の必殺技開発に含みを持たせるにとどめ置いた。
改めて聞いてみれば、爆豪と芦戸はとくに口止めされていないのか、あっさり上鳴茉芭の名を挙げた。芦戸に関しては期末試験のアドバイスから、自分で発展させたというからまだ許容範囲だ。
爆豪へのアドバイスにしても、上級生とのコネクションでこの先のカリキュラムを知っているからこそのアドバイスだろう。当人の個性や雄英の育成方針とも的確にマッチしている。いや、マッチしすぎていて、そこに自身の個性での観測結果があると、思えてならなかった。
直接に個性に干渉しているかは不明だが、個性を使ったマッサージでの疲労軽減はそれ以上の効果があるようだ。B組も含めて全体の伸びも想定より良い。
保須で見せた解析能力、いや、個性の観測と干渉系への派生。
これが明らかになったらその価値は跳ね上がる。そもそも緑谷と同じく、ヴィラン連合の殺害対象リストに名が乗っているらしい。兄の電気もそうなのだろうが、これについては執拗に狙っていたマスタードから証言が引き出せることを期待するしかない。
森で潜伏していた連合を発見したのも上鳴だ。
見ようによっては上鳴兄妹が内通者で、自らの疑いを晴らすために狙わせた、とも取れる。だがそのためにマスタード、強力な広範囲制圧が可能な個性持ちを使い潰すのはいささか割に合わない。
そう思わせておいて実は、とも思えるが、そこまで言うと俺自身を含めた全員が疑わしい。
とは言え、伸びが良いのはいいことだ。今回、独断は咎めねばならないが、轟との連携で
ヒーローとして一線で活躍させるには、この方向で伸ばしたほうが良い。次の段階へ進ませるとともに、自らの価値を自覚させることが絶対に必要だった。
轟、常闇、切島、障子そして、鉄哲は緊急事態に良く動けた。民間人保護と言う大原則をしっかり守った口田、八百万も上出来と言っていい。
今のところ、連中はこのままの方向性でよいだろう。
まだまだ書くべきことは多い。
朝までに仕上げなければならないと、目薬に手が伸びた。
―――Side:ヴィラン連合
「あ?失敗した?」
ニュースを眺めながらバーボンを呷る死柄木弔。
興味半分、不機嫌半分で逃げ帰ってきた開闢行動隊の指揮を任せた荼毘に報告を促す。
「あぁ、爆豪の拉致は失敗。肝試しがあるという話だったが、こちらが気づかれたのか、中止。夜に強攻をかけたが、ご覧の有様だ」
悪びれた様子もなく、話を続ける。
「ガキどもの中に探知系個性持ちが居るなんて聞いてないぞ。随分ご立派な情報源だ」
つまり不十分な情報で行動を指示した死柄木弔が悪い、荼毘はそう言っている。
「へぇ、探知、ね」
「潜伏場所に近づいたガキがいた。その後にプロが捜索に来たからな」
「お前らがヘボ過ぎて、見られたか物音でも聞かれんたんじゃねえの?」
「顔半分を覆う目隠しをしてか?」
「それが本当に目隠しかどうかも判んないだろ?ヒーロー殺しのフォロワーかもしれない」
ヒーロー科の学生でステインに感化されているようなのがいるなら、それはそれで朗報だ。きっと良い味方になってくれるだろうと、冗談まで口にしている。
何が楽しいのか、含み笑いを漏らしながらナッツを口に入れてじっくりと味わっている。その姿は、多少は虚勢の色が見え隠れするが、組織の頭としての忍耐を身に着け始めていると思わせた。
「まぁ、今回は顔見せみたいなもんだ。捕まった連中は残念だがな」
死柄木弔の本音としては、比較的扱いやすそうだったマグネは帰ってきてくれた方がよかった。マスキュラー、ムーンフィッシュは所詮鉄砲玉以外での使い道がない。
使い捨てるには高い駒だが、物惜しみをしてかえって不満を持たれても意味がない。強力だが使い勝手が悪いマスタード共々、帰ってこないならそれでいいというメンバーだった。
故に、それ以上は荼毘を責めるようなセリフは出るはずもない。
拍子抜けした荼毘は自らの隠れ家に戻ろうとバーを出て行こうとする。スピナーとトゥワイス、トガはまだ居座る様子だった。
「拠点を変える可能性がある。連絡はつくようにしておけ」
「……わかった」
逃げ帰ったメンバーのうち、荼毘とトゥワイス以外はラグドールに姿を見られている。アジトにしているこのバーを発見できるとは思わないが、用心は必要だった。
「……だそうだよ、先生?残念だったなぁ?」
『ラグドールの個性は欲しかったんだけどね。まぁ、仕方ないさ』
「ガキの探索持ちはどうする?代用品になるんじゃないか?」
『無理だね。おそらく弱い個性から育て上げた応用技だ。そういう個性は奪っても本人以外が使いこなすのは難しい』
『儂としては興味があるがね。それだけの逸材ならいい素材になる』
『それもどうかな?知性が減じれば落ちる個性もあるものさ』
楽しそうに議論をする2人を放置して、死柄木弔は次の手を考える。元々が今回の襲撃は保須事件、ステインのおかげで高まったヴィラン連合の存在を高めるためのもの。
そのために集めた精鋭の過半数をいきなり失ったのは痛手だが、相当な実力者が加わっていると表裏問わず、社会にアピールが出来た。
目的は達したのだ。後はヴィラン連合と言う虚名に引き寄せられて集まる悪を束ねていけばいい。
「ヒーローかぶれじゃ、こっち側にスカウトしたって来ないだろ。機会があれば殺す」
『まぁ、仕方ないね』
それで話は終わり、モニターは一般のニュースを映し始めた。
一晩経って、プッシーキャッツの拠点に警察や消防が入って事件の検証が行われている姿が映し出されている。
学生たちはすでに病院に搬送されたとかで、その病院前にはマスコミが集まっていた。
―――Side:爆豪勝己
彼の心中を一言で言い表そうとすれば、「畜生!」で埋め尽くされていた。
訓練で手ごたえをつかみ始めていた量による威力の増大は確かに強い。だが、脳無の防御を抜いてもすぐに再生されたのでは意味がない。
Mr.コンプレスに加えて、共同とは言えムーンフィッシュを捕らえた轟、切島、障子に鉄哲、マスキュラーを単独撃破した
『はい。こちら病院前です。先日のUSJ襲撃に続き、またしてもヴィラン連合の襲撃。そして今回はとうとう、生徒に31名もの被害者が出る事態となりました。警察の発表では、ヴィラン名マスタードによる毒ガスにより22名が意識不明で入院。銃により1名が負傷、これを取り押さえる際に別の生徒が足を骨折し全治3週間の怪我。そして2名がマスキュラーおよび改人・脳無と呼称されるヴィランとの戦闘で複数個所を骨折する重傷とのことです。他5名が脱獄死刑囚ムーンフィッシュを取り押さえる際に負傷しております。無事な生徒もメンタルケアおよび保護のため検査入院となっており、病院には今も続々とご家族が駆けつけて―――』
「なんだい、もう見ないのかい?」
「見たってしょうがねえだろ。それよか、仕事はいいのかよ、ババア」
「ガキがナマ言ってんじゃないよ。親に甘えられるの何て今のうちだけなんだよ」
よく見れば普段よりも化粧が濃い。きっと心配をかけたのだろうとはわかっている。
子供のように頭を撫でられるのは面白くないが、僅かに震えているのもわかると邪険に撥ね退けるのも躊躇われる。
「けっ!俺はナンバーワンになるんだ。こんなのこれからもっと増えるぞ」
「はんっ!ガキが一丁前に。そんな風にならずに強くなって見せろってんだ」
怪我自体は急遽駆け付けたリカバリーガールの手で粗方治療済みだから、さほど痛みはない。後は自身の体力などと相談だが、自己治癒でもそうかからないだろう。
「……なあ、勝己?」
「ンだよ?」
「雄英はどうだい?アンタの友達はみんな凄いだろ」
轟に勝てないと思ったことは1度や2度ではない。平然と自分をからかうのは気に入らないがやれることをしっかりとやってのける
女子にしても体育祭で対戦した
そして何より
「アンタはそんな連中にも一目置かれてるだろ?もっとしっかり、足元踏ん張って胸を張りな。オールマイトみたいに」
「……わーってらぁ」
戦果には不満がある。だが、次々と見舞いに訪れた両クラスの連中。脳無という圧倒的暴力を凌ぎ、クラスメイトを守れた。やっとそう思えたことで、爆豪勝己は己が笑みを浮かべていたことに気付き、「次こそは完璧に勝つ!」と慌てて表情を引き締めた。
視点をあれこれ動かして書いてみましたが、蛇足だったかも。