22名が意識不明、重軽傷が9名の31名の被害者。
さらに大規模な森林火災の発生となれば林間合宿を続けることも出来ず、3日で中止となってしまった。
ニュースが相変わらず勝手なことをあれこれ垂れ流すのを聞き流しながら、病院の外に居る人の山を眺めていると、電気が私を呼びに来てくれた。
「マッハ。バス来たぜ」
「うん、いま行く」
「すぐ治ってよかったな」
「リカバリーガールに感謝だよ。無茶するなって怒られたけど。緑谷君と爆豪君は明日まで入院だっけ」
こればかりは仕方ない。意外だったのは物間君。撃たれたことに関しては割とケロッとしており、対処できなかったのだから仕方ないと割り切っていたらしい。ちょっと見直した。
合宿が中止になってしまったので、意識が戻った生徒や無事なメンバーは一足先に学校に戻って解散となった。マスコミもいくらか来ていたが、流石に今日のところは遠巻きに撮影をするだけだった。
部屋に戻ってすぐに、近くのスーパーへ。気は乗らないが、合宿に合わせて冷蔵庫を空にしていたから食べるものがない。
缶詰使ってありあわせでもいいけど、ちょっといいものを食べて気分を上げたい。
かと言って、今日は本格的な調理もしたくない。我ながら面倒なことを考えているなと思うけど。手軽に総菜のアジフライと、安かったキャベツも買って、たっぷり千切りにドレッシングで頂こう。
お買い得品情報は普段ならお茶子ちゃんにも伝えるのだけど、今日はまだ入院中。命に別状はないと言っても、心配だった。
部屋に戻って、お風呂を済ませてから温めなおしたフライを定食風に盛り付けてテレビを見ながらの食事。合宿中はずっとジャガイモと玉ねぎ、人参にお肉だったから、魚料理は久しぶりな気がする。
「昨日までは賑やかに食べていたから、寂しい感じがあるなぁ」
ニュースのほうは相変わらずなのだけど、19時からのニュースに合わせ、雄英が今回の一件で謝罪会見をやるというので、食器を片付けたら会見を見ることに。
『この度、我々の不備からヒーロー科1年生31名に被害が及んでしまったこと、ヒーロー育成の場でありながら、敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えたこと。謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした』
髭をそって髪を整えた相澤先生はまるで別人だけど、それを笑える気分じゃないなぁ
『NHAです。雄英高校は今年に入って4回、生徒がヴィランと接触していますね。今回、生徒に被害が出るまで各家庭にはどのような説明をされていたのか。また、具体的な対策についてお聞かせください』
煽るなぁ。USJと保須、あとはショッピングモールの死柄木の件、それと今回で4回か。今回は被害規模が大きいから、批判も仕方ない面もあるけど。
『周辺地域の警備強化、防犯システムの再検討、強い姿勢で生徒の安全を保障する、と説明しておりました』
もっとも、今回襲われたのは校外。合宿を学校内で行っていればよかったのかもしれないけど、それは結果論だしね。
『生徒の安全、と仰りましたが、イレイザーヘッドさん。事件の最中、生徒たちに戦うよう促したそうですね?意図をお聞かせください』
『私共がヴィラン連合による襲撃を防ぎきれず、また襲撃規模が不明であっため、状況判断の遅れによる最悪の事態を避けるべく、自衛のために必要と判断しました』
『最悪の事態とは?命を取り留めたとはいえ、重軽傷合わせて31名の被害は最悪と言えませんか?』
失言狙いか煽ってきてるなぁ
『私があの場で想定した最悪とは、生徒がなすすべなく殺害されることでした』
『被害の大半を占めるガス攻撃、敵の個性から催眠ガスの類だと判明しております。素早く、勇敢に対処してくれた生徒達のおかげでヴィランによる拉致も防ぐ事が出来き、全員、命に別状はありません。また生徒達のメンタルケアも実施しておりますが、深刻な精神的外傷は今のところ見受けられません』
『不幸中の幸いだとでも?』
『未来を侵されることが最悪だと考えております』
当事者的には死ななかったからそれでよし、と言うのは納得できる。こっちからヴィランを逮捕に動いたわけではないし、自衛と言うにもちょっと派手な結果だけど。
『警察発表によれば、襲撃の目的は爆豪君の拉致と生徒の殺害とのこと。爆豪君、彼についても同じことを言えますか?
雄英高校に優秀な成績で入学。体育祭優勝、また入学前のヘドロ事件にて強力なヴィランに単身抵抗。経歴こそタフなヒーロー性を感じさせますが、反面、選手宣誓での挑発行為やその後の粗野な言動など、精神面の不安定さも散見されております。
もしそこに目をつけての拉致未遂だとしたら、言葉巧みに彼をかどわかし、悪の道に染まってしまったら、未来があると仰る根拠をお聞かせ願いたい』
んー、本題からそれてるなぁ、それって今回の事件と関係ないよね?そもそもあの
『仮定の話であって答える必要性はありません……むしろその発言は爆豪勝己がヒーローに相応しくないと仰っているようにも取れますが?』
あーあー、相澤先生怒ってるよ。
この返しに記者席の側からは失笑も浮かんでいる。
『ですが、あえてお答えするとすれば……爆豪勝己程に真摯に頂点を目指している者はおりません。もちろん、彼の粗暴な言動に関しては教育者として、私の不徳の致すところです。同時に、誰よりもトップヒーローを追い求めもがいている。アレを見て、つけ入る隙があると判断したのであれば、ヴィランは浅はかであると、断言します』
爆豪君、これ見てるかなぁ?見ていたらきっと嬉しいんじゃないかと思うけど。露骨に粗暴な行動と言われたのは、もうちょっと、どうにかしようって思うといいけど……無理だろうなぁ、
爆豪君のお母さんですら諦めてるみたいだし。そもそも大人しい爆豪君って、チャラい緑谷君と同じぐらいに想像できない。
『中継の途中ですが、緊急のニュースが入りました。神奈川県神野区において、ヴィラン連合の拠点に対して、警察とヒーロー共同による強制捜査が行われ、現在、大規模な戦闘に発展しております。お近くの方は落ち着いて警察およびヒーローの避難誘導に従ってください。現場の様子が伝わり次第お送りいたします。繰り返します―――』
慌ててテレビはそのままスマホでSNSの情報を拾ってみる。
最新情報はテレビよりネットが圧倒的に速い。ただ情報の精査が必要になるので、どちらも一長一短だが。どうやら戦闘が行われているのは2カ所。
一つは繁華街の一角で、こちらは脳無が主で、エンデヴァーやシンリンカムイの姿見える。
もう一つは繁華街からやや離れたビジネス街……ただ、流石に避難したらしく周辺の避難状況の情報ぐらいで新しい情報がない。映像越しに見ているだけの今がもどかしい。
しばらくするとTV局がヘリを出したのだろう。街の一帯が廃墟と化しその中心で男性と思しきヴィランとオールマイト先生が戦う姿をカメラがとらえていた。
周辺に人の姿はないが、崩れた建物にはまだ生存者がいる可能性がある。相手のヴィランが放つ強力な衝撃波と思われる攻撃をうかつにかわす事が出来ず、どんどんダメージが蓄積されていく。
そして限界が訪れたのか、オールマイト先生の姿がこれまでに見たことのない、弱々しい姿に変わり果てていた。
『え、ええと……なにが……オールマイト、氏が、ち、萎んで、しまっていま、す』
望遠の荒い映像だけど、頬はこけ、筋骨隆々と言う言葉が何より似合う腕や背中も、ごく普通の太さに。右腕のみを元の姿にして最後の勝負をかけようとしたその時、増援のヒーローたちが到着した。
エンデヴァーにエッジショット、シンリンカムイが現れ、オールマイトの前に現場で交戦していたらしいベストジーニストやMt.レディを救助した。
よく見ると、この任務に参加していたらしいプッシーキャッツの虎さんが一般人の救助にとりかかっている。
最後の一撃、衝撃波では倒しきれないか、倒せるとしても時間がかかると踏んだらしいヴィランはこれまでになく肥大化させた腕での直接攻撃を選択。
真っ向勝負の結果、勝利したのはオールマイト先生だった。
『ヴィランは……動かず!お、オールマイト……勝利の、スタンディングです!』
尤も現場はまさに大規模災害というありさま。これを生身の人間がやったというのが何より凄まじい。この後の救助活動含めて大変な事態が続くのは間違いないだろう。
「はぁ……凄い、けど、それ以上に悔しい、なぁ」
あの場に居ても戦闘では足手まといだったろう。事後の救助にしても見習いでしかなく、鍛え始めた広域探査能力もまだまだ不十分。それでも、自分たちが取り逃がした結果を、尻拭いしてもらったと、その結果、オールマイト先生に無理をさせたことを悔しいと思ってしまう。
「平和の象徴が不在となる日本、かぁ……」
すでにネットではそんな声が上がり始めている。
確かに、詳細は判らないけれど、オールマイト先生はもう限界を迎えたと思っていいだろう。
エンデヴァーを中心とした次世代が今後の社会を担うということになるが、不安に思う人もいるだろうし。
「特に、エンデヴァーは轟君とかの家族関係が不穏だし。まぁ、言っても仕方ないけど」
中継をずっと見続けていたら、時間はもう日付が変わる時間帯だ。衝撃的な戦闘を見続けたせいか、どうにも意識がネガティブに寄る。
色々と気になることは多いが、これ以上考えていてもろくな考えにならないので今日はもう眠ることにした。
考え事は、食べて、お風呂入って、寝てからでいい。
テレビを切って寝ようと思った時、個性犯罪者専用の移動牢「メイデン」にオールマイト先生を追い詰めたヴィランが搬入されるのを、オールマイト先生やエンデヴァーが警戒している様子をカメラがとらえていた。
カメラに気付いたらしいオールマイト先生は疲労もあってか震える手でカメラを指をさす。
『次は……君だ』
字面だけを拾えば、トップヒーローたちによる包囲網から逃げ延びたヴィラン連合をはじめとする犯罪者への警鐘。
実際は弟子である緑谷君に次世代を託した、と言う意味だろう。
それに対しては特に思うところはない。いや、羨ましいという思いはある。そこまで見込まれる強さを持つ、そこまで至れると思われているのだから。
私自身がその高みにどこまでついていけるのか……いや、少しでも悔しいと思うなら、越えるぐらいのつもりでこれからに挑んでいこう。
そう言えば、爆豪君とかは普段から「ナンバーワンをも超える」と言っていたっけ。なるほど。言い方は悪いけど、こういう心境か。
正直、あまり快適な目覚めではないが、普段よりもいくらか遅く目が覚めた。
合宿の襲撃から神野区の事件まで立て続けで、正直、気疲れしていたのだと思う。テレビをつけると、昨日の事件についての報道がまだ続いていた。
日が明けて救助活動が本格的に始まったようで、レスキュー活動が得意なヒーローが大勢、現地入りして消防などと手分けして捜索救助に当たっている。
その中には、職場体験で一佳と百ちゃんにスカウトを出していたウワバミの姿もあった。本当に、災害救助特化のヒーローと言うのは暇なほうが良いのだなと思うと、不謹慎だが少し笑ってしまった。
スマホの方には学校からの連絡が来ていた。
皆も意識も戻って、緑谷君や爆轟君といった重傷者も退院。今日は改めて学校で事後について説明がある、らしい。
当然だけど校門はマスコミで埋め尽くされていた。体育祭で顔が割れているからマスコミの対応が面倒そう。
「襲撃事件に関して一言いただけますか!?」
「オールマイトの事は知っていましたか!?」
「申し訳ありませんが急ぎますので」
流石にまともに相手する気になれず。スルーして校内に。流石に雄英バリアを超えてくるようなことはもうない。
「さて、ご覧の有様だ。暫くは身辺が騒がしくなるので、単独行動や繁華街への外出は注意するように」
その上で、予定されていた合宿の残り分と襲撃事件を受けた対応について説明があった。
「まず途中で終わった個性伸ばしだが、校内施設での実施は各自の裁量に任せる。
そしてこれが本題だが、今回の件を受け、雄英高校は全寮制への移行を決定した。すでにご家族には通知が行っている。これまでの事件もある。他校のヒーロー科への転出希望者は出来る限り希望に沿うように努力する。遠方のものも多いが、家族とよく話し合って今後の進路を決めろ。以上だ」
今度は生徒が直接、自宅を襲われかねないと思っているのか、一つどころに集めて監視したいのか。どちらもありそうだから困る。
対面での話し合いが必要なら、日程の調整が必要だがプロによる護衛付きで帰省させることまでしてくれるらしい。
「マッハ、お前どうする?」
「ん?別にどうもしない。寮の部屋が資料だと今の所より狭いから、家具処分しないといけないのが面倒かなぁ」
折角、気合い入れてコーディネートしたのに。それと自宅とトレーニング設備。あの環境とお別れするのは少々痛い。
通学時間もトレーニングに回せると思えば悪くはないか、な?
けど学校側の都合なんだし、補償があるかどうか部屋に戻って資料を熟読しよう。それにしても全寮制かぁ、中型免許取りに行きたかったけど、中止かな。いや、取るだけ取っておこう。
「親父と母さんには電話するか?」
「流石に何もなしは拙いでしょ。一応は連絡しておくよ」
「わーった。んじゃ、寮になってもよろしくな」
そういうセリフが出るってことは、電気も残留希望と。他所に移って今よりいい環境になるかと言われたら考えるよね。
全員そろっての寮生活になるとよいけど。
オールマイトvsAFOについては、戦闘の経緯含めて大きな変更はありませんので雑にカット。
爆豪がいない分、遠慮なく戦えるかと聞かれれば、ベストジーニストやMt.レディ、逃げられなかった建物内の一般人などいるので、全力を出し切れない時間があることは変わらないと思うので。