―――Side:上鳴電気
あー、めんどくせー
親父と母さんに関していえば、マッハは役に立たねぇし。「話はした」とだけラインが来たけど、どうせ「そのまま通うから。文句言うなら金出せ」「ぐぬぬ」で終わりだろう。そう返してやったら「ぐぬぬ」ってスタンプが来た。って当たりかよ!
実家の番号を鳴らすと、ワンコールで出るあたり、だいぶキレてるな、こりゃ
「おぅ、親父。オレオレ、久しぶりー」
『……あぁ、電気か』
「マッハから連絡あったろー?俺もそのまま通うから」
『アレのことは言うな!もう知らん!!』
おーおー、機嫌悪そうだなぁ
まぁ、親の立場全否定されてるもんな。これに関しちゃ慰める気ないけど。
『ヴィランに襲われるような学校でいいのか』
「あー?ヴィラン相手なんていつかやるんだから、早いか遅いかの差だぜ、親父」
そうは言っても、ビビるけどな。
嬉々として襲い掛かる爆豪とか、とうとう変身ヒーローになりやがった緑谷とかがおかしいんだよ。
全方位を見られるようになったとか言うマッハも十分異常だけど。けど、ここでイモ引いて、負けてらんねぇよなぁ
『電気……お前、マッハに変なこと吹きこまれてないだろうな?』
「あ?何がだよ。アイツはヒーローを目指す仲間で俺の自慢の妹だ。変なこと言うと、親父でもタダじゃおかねぇぞ」
右手で家具にダメージが行かない程度に放電。親父ならコレでどれだけの電力が発生したかわかるはず。襲撃の時にはエンプティ寸前だったから動けなかった。あんな風に役に立てないなんてもう御免だ。
スタンガンヒーロー・チャージズマは、
「最高の環境でヒーロー目指してるんだ。オールマイトが教師って世界最強だろ。俺もマッハも、他所に移る気はねーから」
『……わかった』
「許可が取れたらそのうち戻る。んじゃな、親父』
親父と母さんが期待してくれているのはわかる。けど体育祭見りゃ、マッハが強いって判るだろうに、なんでああも理解しねぇのか、わっかんねぇなぁ
―――Side:イレイザーヘッド&オールマイト
一連の事件を受けて雄英高校は全寮制への移行を決定。
親元を離れて暮らす生徒も多いため、生徒、保護者双方に送られた家庭訪問の連絡では名目こそ「検討のお知らせ」として意見を聞くための家庭訪問を行うとあるが、既に決定事項であり、家庭訪問は意見伺いの名を借りた、「雄英に在籍するか、他校へ転校するか」の当人抜きの進路相談という面も帯びている。
そのため地方ごとに担当を決めて説明会、と言うわけにいかず、担任である相澤消太、イレイザーヘッドが自ら直接訪問をする必要があった。
正直、どこかに集まってもらって説明会、の方が楽である。だが、誠意を見せるという意味でも、相手のホームである自宅訪問には意義があると思うよりなかった。
「言うまでもありませんが、雄英は全国から生徒が集まります。A組も地方出身者が過半数を占めます。オールマイト、その体で全員を本当に回るおつもりで?」
「もう来ちゃってるしね。大丈夫、それに、私も少しは教師らしいことをしないと」
もっとも遠いのが福岡出身の障子と岩手出身の口田。どう頑張っても1日で終わるものではないしかなりのハードスケジュールになる。
(任せられるなら分担したいところだが……まぁ、仕方がない)
年齢的にもヒーローとしてのキャリアとしても大先輩だが、教員としては立場が逆転する。新任教員1人に任せられる仕事ではない。同時に、事実上の引退をしたとは言え、オールマイトのネームバリューは高い。反対意見を封じるという意味ではこれ以上の人材はいない。
移動の経路に近いので最初に立ち寄った峰田家も、口田家も両親からはすでに電話での同意は得ていて実際の訪問は表敬の意味合いが濃く、話し合いも短時間で終わった。
移動の都合で夕方になった口田家からは泊まっていけと言われるのを固辞するのが大変だったが。ともあれ、最終の新幹線には間に合って、東京方面に戻ることができている。
「今日の宿は埼玉で取ってあります。明日は8時に上鳴家を訪問。あぁ、時間は先方も了解済みなのでご安心を。終わったら車で葉隠と尾白の順で訪問します。
その後は飯田と瀬呂。終わり次第、電車で千葉へ移動し宿泊。3日目に芦戸、切島家へ。その後は羽田から九州まで飛びます。残りは麗日が少し遠いですが雄英に戻り次第、2日ほどかけて車で訪問予定です」
「きょ、強行軍だね……」
「だから言ったでしょう。まぁ、無理なら途中で戻っていただいて構いませんので」
事前の日程調整を含めた連絡ではどの家庭も比較的感触は悪くないが、実際に会ってみて意見が変わった、などと言うことがあってもいいように面談時間には余裕が持たせている。もし話し合いがこじれれば、更にハードになる可能性もあった。
ともあれ、初日の面談は比較的スムーズに終わり、予想よりもスムーズに日程を終えた。
2日目、上鳴兄妹の実家を前にタクシーを降りる。タクシーは貸し切りにしてあるので、そのまま待機だ。
「広い家だね」
「……そうですね。農家だとは聞いてないですが」
「あぁ、お待ちしておりました。オールマイト、相澤先生」
敷地に足を踏み入れたところで、出迎えに来てくれた男性が居た。どことなく上鳴電気に似た顔立ちだから父親なのだろう。
「朝早くから時間を取っていただいて、お礼を申し上げます」
父親は息子の上鳴電気と同じ電気系個性で、電気工事の会社に勤める普通の勤め人とのことだった。わざわざスーツ姿で出迎えてくれているが、着慣れぬ様子。普段は現場の作業員なのだと言う。
職業に見合わぬ広い家は、数代前までは農家を営んでいてその名残らしい。今は小規模農家は立ち行かないので、農業法人に土地を貸していて、この家屋は農家時代の名残で広い敷地が残っているとの説明があった。
おそらく趣味のものだろう、オートバイが納屋に何台か並んでいた。隣にある古い外車などはプレゼントマイクが喜びそうだと、相澤は思う。同時にこんな台数持っててどうするんだとも思っていたが。
相澤としては入学初日の個性把握テスト後のやり取りで、その家庭環境の一端を聞いているが、なるほど納得と言う室内だった。
居間に通されて、さっそく話をとなったがそれ自体は何とも拍子抜けするものだった。
「私共としては……今後も雄英さんにお任せしたいと思ってます」
「ええ、うちの子を、立派なヒーローに育ててあげてください」
「ありがとうございます。ですが、その、よろしいので?」
流石に話がスムーズ過ぎて、相澤としても真意を疑ってしまう。
「ええ、電気は小さいころから、ヒーローに憧れていましたし……
「電話は貰いましたけど、問題ないから、とだけ」
「そうですか」
思っていた以上に親子仲は良くないらしい。相澤としてはその事実を改めて認識するが、かといってわざわざ介入して仲を取り持つつもりもない。
話はこれで終わりと思ったが、母親である上鳴
「その、失礼ですが、茉芭は本当にヒーローとしてやっていけるのでしょうか?」
その身を案じてのセリフではなく、力不足を心配してのことと言う質問らしい。
「ええ、茉芭さんは大変優秀な成績を収めております」
「ご両親も体育祭をご覧になられたのではないですか?あの活躍は素晴らしかったと思いませんか?」
オールマイトがフォローに口を開いたが、そこは地雷原だったらしい。父親までもが勢いづいて、話に乗ってきた。
「そう!そこなんです。あの、あの子、電気に何か言って不正をさせたりとか、そういうことはしてないでしょうか?」
「は?」
「確かに雄英には受かりましたが、あの弱個性であんな事が出来るとか、おかしいと思いませんか?茉芭は個性は弱いですが、頭はいい子です。今からでも普通科か経営科にでも移って、将来は電気を支えてくれれば、と」
なるほどこれは根が深い。相澤としては「それはお前らの目が曇っているからだ」と言い切りたいところだった。何か言いたげなオールマイトを手で制止して、話は終わりと口を開く。
「ご心配なく。間違いなく本人の実力です。進路に関しては本人の志望が第一で、また適性も高いので我々としてはヒーロー科での研鑽が本人にとって最も良いと考えております」
この両親にとってはヒーローにふさわしいのは電気1人で、茉芭がそれを目指すのは不相応で、死んだりする前に進路を変えてほしい、と言うことのようだ。
随分と歪んではいるが、全く愛情がないわけではないのが始末が悪い。
まして、本人がその資質を開花させており、その価値が知れ渡ったらどうあっても自衛の手段が必要で、そのためにはヒーロー免許が必須なのだ。
「そうですか……繰り返しになりますが、うちの子をよろしくお願いいたします」
「はい、お預かりいたします」
話はそれで終わりだった。
その後の強行軍でオールマイトがかなり疲労していたが、話すことがあると、ホテルの部屋を訪れている。
「それで、話とは?」
「上鳴茉芭のことです。オールマイト、あなた、緑谷関係で上鳴に何をさせました?」
ネタは判っているから、さっさと話せと睨みつける。
途端に冷や汗が流れ出すその姿に、元ナンバーワンヒーローにしては情けないと内心で思ってしまう。
「ほ、本人には?」
「どうせ口止めの一つもしてるでしょう?アレに法や契約を活用させたら面倒だし、あなたに聞いた方が合理的だ。それとも緑谷を問い詰めましょうか?あの緑谷のフルフォルムとか言う活用法、本人がロクに個性の性質を掴んでいないうえに、オールマイト、
ほぼすべて見抜かれている、そういう動揺はかつての姿だった時にはスマイルひとつで誤魔化せた。
ただ今は相手が悪いと、ため息ひとつつくと、オールマイトは重い口を開いた。
「君も知っているだろう?茉芭少女は電子を”見る”事が出来る。それで緑谷少年の個性の使い方に違和感を感じていたと」
「ええ、入学初日にリカバリーガールに相談していた場に居ましたので」
「個性の発動、そのものを”見て”いる可能性については?」
「それも、保須の件で立証済みですね。例の件はご存じでしょう?」
これについては下期には情報がほぼ公開される。と言うよりも、すでに外野が動き出していいるらしい話が、相澤の耳にも届いている。
その動きは別に本人の意思を捻じ曲げるものではないが、進路がすでに外野によって埋められているに等しい状況ではある。相澤の立場としては思うところがないわけではないが、モルモット扱いよりマシだろうと納得せざるを得ない。
「あぁ、それでグラントリノの指導で身につけたフルカウル、個性制御の状態を”見て”貰ってアドバイスを求めた。結果、緑谷少年にあの使い方を提案し、発現を導いてああなった。茉芭少女曰く”超パワー”は単純な筋力に変換されるものではない、と」
オールマイトの脳内では”超パワー”ではなく”ワン・フォー・オール”と個性の名が上がっているが、もちろんそれを口に出すようなことはない。
「そのことは他に誰が?」
「リカバリーガールと、セメントス君が知っている。TDLで運用試験をしたからね」
「あぁ……あの時の」
セメントスが疲労で1日休んだ日があった。その前日にでもやらかしたのだろう。
「つまり、個性を”調整”出来るスペックが、”電子操作”には秘められている。この危険性、わかりますよね?」
個性が体に合わない、と言う人は一定数いる。A組では青山優雅がその典型だ。徐々に慣らしてはいるが、プロとしての活動で長期戦が難しいのはデメリットだ。それが解消されるとなれば、いくら積んででも見てもらいたいと思うものはいるだろう。
「その上であの両親です。居間を見ておかしいと思いませんでしたか?」
「……あぁ、確かに電気少年の写真や賞状ばかりだったね。茉芭少女は控えめな子だったのかな?」
「はぁ……”外部出力が弱いんで要らない子だった”と当人に言わさせる家庭ですよ。正直、反吐が出る」
「言葉は選ぼうねっ!いや、それってつまり……」
「地方で異形型が迫害対象になりやすいのも含め、個性が弱い子が疎んじられる、ってのは珍しい話ではないですよ。
ただ最近は少しマシですが、ああいう環境で育ったせいか自己評価が低く、やったことも大したことないと思いがちだ。今の段階ですら、知られたらどれだけの組織が欲しがるか、貴方ならわかるはずだ。オールマイト。
寮生活が始まったら改めて釘をさしますが、お気に入りの緑谷だけでなく、他の生徒にも十分、気を使っていただきたい」
相澤とオールマイトが感じる最大の危険はまったく一致を見ているわけではないが、個性に干渉してその発現する形を整える事が出来る、というのは欲しがる存在は多いだろうことは想像に難くない。
「わかった。気を付けるよ。ありがとう、相澤君」
原作A組って半数以上が地方出身なんですよね。北は東北、南は九州。この家庭訪問って、地味に地獄ツアー。
どう回るかは、ざっくりと以下のルートにしました。
初日:雄英→(新幹線)→神奈川(峰田)→(新幹線)→岩手(口田)→(新幹線)→埼玉(宿泊)
2日目:埼玉(上鳴)→(タクシー)→東京(葉隠、尾白(東京西部))→(電車)→東京(飯田、瀬呂(23区内))→千葉(宿泊)
3日目:千葉(芦戸、切島)→(電車)→(飛行機(羽田))→福岡(障子)
東京組4名の居住地区は捏造です。
公共交通機関は中央新幹線?が架空の路線として存在する以外はほぼ現実準拠のようなので、まぁ、これなら何とかなるかな?と言う雑設定。時刻表までは当たってませんので、細かい突込みはご容赦を。
ここに原作通りに砂藤(鳥取)が入ったら、1日追加して障子の後で広島からレンタカーかな?どちらにしても、3日でこの移動って絶対に自分ではやりたくないw
なお、一応、両親の捏造設定。母親は3話に登場していますが一応再掲。
□上鳴雄矢磁(かみなりおやじ)
上鳴兄妹の父親。名前は超適当。
電力関連会社勤務で、特に危険の多い高圧送電線の作業では重宝されている。
自身より強い個性を発現した電気は可愛がったが、外部出力の弱い茉芭は何もできないと決めつけていた。
そのうえで主観的には「身の丈に合った」進路を提案しても反発され、挙句、収入面でも娘に負けてプライドがズタボロになっていたりしている。
個性:変電
電圧はもちろん、直流交流の変換が自由自在。
頑張って鍛えていれば、電気の性質を”変化”させて物質化して武器とするような運用も可能だった。
□上鳴操(かみなりあや)
上鳴兄妹の母親。
個性婚というほどに闇が深いわけではないが、婚姻に当たり双方の個性を考慮していないと言ったら嘘になる夫婦。
父親似の兄・電気と双方の個性を引き継いだが結果的に外部出力が低い茉芭を比較し、兄優先の家庭を作ってしまったぐらいには個性社会に振り回された人。
個性:操作
対象の扱いが上手くなる。
ゲーム的に言えば包丁や掃除道具の扱いについて成功率や熟練度上昇にボーナスがある。
どの程度の上昇があるかは個性の熟練度と本人の嗜好に左右される。
無理に対象を広げて使うと激しい頭痛に襲われる。