まだ夏休み期間で座学はないが、全員、教室に集まった。今後についての説明、と言う事だから、仮免取得に関する話になる。
「さて、林間合宿でも話をしたが、ヒーロー科1年A組は仮免許取得を当面の目標とする」
「「「はい!」」」
「だが、その前に。雄英生が街から消えたことにより、周辺自治体から治安の悪化に関する懸念が上がっている。そのため、教師および仮免取得済みの上級生が交代でパトロールを実施するのだが手が足らない」
雄英生がすべてヒーロー科の生徒ではないが、通学中の姿は一種のパトロールのように見えていたらしい。専門訓練を受けていなくとも高いモラルがあり、通報を躊躇わないと思われていて一定の犯罪抑止効果があったのだとか。そのせいか、ヒーロー事務所は意外に少ないのが実情だ。
「よって、新たに教員を迎え入れることになった……どうぞ」
そして入ってきた新任の先生は、私にとっては懐かしく、飯田君にとっては驚愕に値する人物だった。
「兄さん!!」
「初めまして皆さん。飯田天晴と申します。今後は皆さんのヒーロー基礎学の補助及び普通科、サポート科向けのヒーロー基礎訓練を担当します。ちなみに、君たちのクラスメイト、飯田天哉は私の弟ですが、公平に扱うことはお約束します」
「あー、飯田はとりあえず落ち着け。飯田先生は元ターボヒーロー・インゲニウムとして知っているものも多いだろう。ヒーロー殺しによって半身不随の大けがを負ったが、今回、新療法の治験に参加しこうして日常生活を送れる程度には回復した。そこで雄英が講師に招くことになった」
そこまで聞いて、気が抜けたように椅子に座り込む飯田君。
「あぁ、兄さんが回復したことは素直に嬉しい、しかしそうなるとインゲニウムの名は兄さんに返さねば。僕はいったい何と名乗るべきか……」
「天哉、黙っていて悪かったよ。インゲニウムの名はお前に譲った。回復したと言っても、長時間の戦闘には耐えられない。ヒーロー活動からの引退は変わらないよ」
席まで行ってポンポンと頭を撫でる。感極まったか涙を流す飯田君。何にしても回復してよかった。
「よし、話をつづけるぞ。ヒーロー仮免許ってのは人命に直接かかわる重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免と言えど、その合格率は例年5割を切る」
「仮免でそんなキツイのかよ……」
「そこで今日から君らには、一人最低でも二つ……必殺技を作ってもらう!」
このセリフに合わせて登場する、ミッドナイト先生にセメントス先生、エクトプラズム先生。
「「学校っぽくて、それでいて!ヒーローっぽいのキター!!」」
ええっと、装備込みで考えていいです……よ、ね?
「必殺、是即チ、必勝ノ型!技ノ事ナリ」
「その身に沁みつかせた技、型は他の追随を許さない。戦闘はいかに自分の得意を押し付けるか!」
「技は己を象徴する。今時、必殺技を持たないプロヒーローなんて絶滅危惧種よ」
「細かい話は実演を交えて合理的に行いたい。コスチュームに着替えて体育館γに集合だ」
体育館γ、通称トレーニングの台所ランド。略称がTDL。USJといい、微妙なネーミング大好きな雄英らしい。まぁ、訴えられてないんだからセーフだろうけど。
ヒーロー活動において、ヴィラン以外にも様々な障害に立ち向かうために必要なのが必殺技で、必ずしも攻撃技でなくてもいいらしい。
「例エバ、飯田君ノ”レシプロバースト”。一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアルタメ、必殺技ト呼ブニ相応シイ」
「アレ、必殺技でいいのか」
「そうだ。インゲニウムの名を継いだからには、俺よりも上に行って欲しいけどな」
「はい!兄……いえ、飯田先生!」
飯田君がなんというかフルスロットルだなぁ
勝利の方程式を定める、かぁ、さて、どーしよ?
「中断されてしまったが、元々林間合宿は必殺技開発のための素地を作るためだった。ここから後期開始までの10日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す圧縮訓練となる!
なお、個性の伸びや技の性質に合わせてコスチュームの改良も並行して考えて行くように。
Plus Ultraの精神で乗り越えろ。準備はいいな?」
「「「はい!」」」
さて、私はどういう風にするかなぁ、まずは先生と相談かな。どうやらエクトプラズム先生が複数の分身で個別に相談に乗ってくれるみたいだし。何というか、器用ですね。
「上鳴
「そうですねぇ、今ある手札で考えられる方向性ですけど……」
攻撃関係は
「
最近、個性伸ばしのおかげか電子の扱いが楽になっている。自身を浮かすだけなら消費も少なくできそうなので、ソールに圧電素子とコンデンサぐらいは仕込んでもいいかと思ってる。
「フム、他ニハ?」
「とりあえず、軽く攻撃していただいていいでしょうか?」
エクトプラズム先生が威力こそ加減してくれているが速度の乗ったパンチを放つ。軽いジャブを頭だけ動かしてかわす。避けた先に待ち構えている蹴りは当たる軌道に踏み込んでカウンターを胴に。それがガードされたところで一旦距離をとる。見ると、ガードした先生の左腕が崩れており、そのまま全身が崩れたのちに再び新しい分身が現れた。
「反応速度ガ良イナ。ソレト今ノ攻撃ハ?」
「必殺技、と言うには地味ですけど、感知した動きにカウンターを当てていく感じですね」
そのうえで、触れた相手の体内電子を乱して、運動を阻害、上手く行けば気絶に持ち込む。エクトプラズム先生の場合は実体ではないので、分身の構成が乱れて崩れ落ちたみたいだけど。
「今の先生はすべてが個性による複製なので、ちょっと見辛いですけど」
それでも実体を取っているから、人体に類似する電子の流れが見えるのは助かった。
個性伸ばしの成果とこれまで積み重ねてきた鍛錬を合わせるとこういう答えになった。後はこれに包帯捕縛術を加えれば、中・近接戦闘はそれなりにこなせるだろうと思う。
「フゥム、確カニ地味ダガ悪クナイ。ム、オールマイト?」
「やぁ、茉芭少女。私がアドバイスするよ」
なにやら他の皆の所も回っていたようだけど、急にどうしたのだろう。それにしてもこうしてオールマイト先生を”見る”のは初めてだけど、またずいぶんと酷い。
「君の最大火力はレールガンだと思うが、アレはどう考えているのかい?」
「過剰火力かつ周辺被害を生みかねないので、基本的には禁じ手にしようかと」
「えっ!?勿体なくないかい?」
「弾の小型化や威力の軽減で消費を下げることも考えましたが、避けられたら周囲に被害が出ます。粗悪な拳銃を撃つようなものなので、ヒーローとしてはいかがかと思いまして」
オールマイト先生のように「
「それでまぁ、林間合宿で撃たれそうになった時に、知覚能力と合わせると格闘なら大体避けられると思いまして。なら後は接近して、こんな具合に」
オールマイト先生の方に触れて、体内の電子に働きかける。一言でいえばものすごく凝っているのだけど、色々流れが滞っているのは加齢だけでなく、長年にわたる酷使によるものもありそうだ。
「おぉぉぉ……なんと心地よい……」
「蕩ケテイルナ」
「対人戦闘では、電子の流れを乱して動きを阻害するか、落として気絶してもらおうかと。前は外から電気の形で干渉してましたが、触れれば中から、と言うのがだいぶ楽になりまして。
それはそれとして、かなり流れが悪いところがあるので、きちんとリカバリーガールに診てもらうか、せめて全身しっかりお風呂に浸かって体を労わってください」
全身しっかり解きほぐして手を離す。長年のヒーロー活動で酷使され、全身満遍なく不健康なのは仕方ないのかもしれないけど、なんだか不思議な感触だった。
「どうかしたかね?茉芭少女?」
「あぁ、いえ、前に緑谷君を”見た”時と、似た感じを受けまして……実はお子さんだとか、ないですよね?」
「グハァツ!」
途端に吐血したんですが、そんな拙いこと言ったかな?
「い、いや、そんなことはない。ともかく、マッサージありがとう。楽になったよ」
そう言い残して次の生徒の所に向かうオールマイト先生。ただせめて、ポケットに入れたハウツー本は隠しておいてください。
「トコロデ、技ノ名ハドウスル?」
「派手さがないのが泣き所ですが、
「直球ダナ」
「ネーミングセンスないんですよ」
その後は個性伸ばしと格闘訓練と言うことで、ボコボコにされましたよ、ええ。
訓練後は皆のマッサージを一通り、これも個性伸ばしの一環。まぁ、あまり峰田にはやりたくないのは変わらないが、変に差別するのもね。あまり体を酷使してないから短時間で済むし。
「あれ、お茶子ちゃんと飯田君もコスの改良?」
「おぉ、上鳴さんか」
「うん、茉芭ちゃんも?」
聞けば飯田君はラジエーターの強化、お茶子ちゃんは自身を浮かすための改良をしたいとか。単純な軽量化か、酔い止めの強化かわからないけど。いっそ、推進器を付けたサーフボードにでも乗って、空中機動したらいいんじゃないかな?
「うん、ブーツに圧電素子でも組み込んでもらおうかと」
サポート科の工房前につくと、そこには緑谷君の姿。彼も改良か。
「おーい、デクくーーん」
「あ、麗日さ――――」
ドアを開けたタイミングでこちらを見た緑谷君だったけど、タイミング悪く爆発で吹き飛ばされていた。
「いててて」
「お前なぁ、何でもかんでも思いついたもの組むんじゃないよ」
煙の中から現れたのはパワーローダー先生。もう一人の女性の声は……うん、頑張れお茶子ちゃん。
個性を使った全周囲視界に切り替えると、クラスの男子大半が羨むシチュエーションになっていて、発目さんがその豊満な胸を緑谷君のおなかあたりに乗せている格好だった。
これ、もうちょっと上でも下でも、危なかったろうなぁ
緑谷君的にはラッキーかもしれないけど、お茶子ちゃん的には穏やかではなさそうだ。他人事ならこうしてニマニマ見ていられるんだけどねー。三奈ちゃんとか響香が居なくてよかった。
改良に関して、緑谷君はフルフォルムの習熟に合わせて、フルカウルでの出力も上がったようで使い勝手のいいフルカウルでうっかり体を壊さないような改良をしたいのだとか。
「それで上鳴、お前は?」
「はい。ブーツのヒール部分にでも圧電素子とコンデンサを仕込みたくて」
「あぁ、前にバッテリーを減らしたからその補填か。その程度ならすぐできるからちょっと待て」
取扱説明書とブーツを渡す。大した手間がかからないのはありがたい。
「先日の襲撃では蹴りで自分の骨折ってたろ。レッグガードの強化は要るか?」
「アレはコスなしだったので、多分大丈夫かと」
「……ならいいが。そも見た目優先で気休め程度になってるから、余りあてにするなよ」
「はい。ありがとうございます」
出来る限りブーツの補強部分で蹴ることを心がけよう。相手の硬さ次第では足首痛めそうだから状況にもよるけれど。
「上鳴さんは、そういう戦闘スタイルなんだ。グローブが格闘用だからパンチ主体と思ってた」
「パンチも使うけど、一佳、あぁ、B組の拳藤ね。彼女を相手にしてるとパワー負けするから。いなして蹴ることが増えたかも。何なら今度、組手……は、いいや。お茶子ちゃん、やる?」
発目さんが緑谷君をまさぐったりして、お茶子ちゃんが百面相してるけど、聞いているかな?心配しなくても発目さんは自分が女ってことも半分以上忘れてるから、気にしないでいいと思うけど。
「あぁ、そうか。パワーで言ったら足は腕の3倍とも言われているし、何で気付かなかったんだろう。オールマイトが自分に倣っているって言ったのはこのことか。僕に合った僕だけのスタイルを模索しなければならないんだ。ブツブツブブツ」
「な、なんだ!?」
「あ、いつものことなんで大丈夫です。叩けば直りますから。お茶子ちゃん、やっておしまい」
「デク君、すとーーーぷっ!」
ともあれ、コスチュームの改良はなんとか出来そうだし、後は使いこなして仮免試験に臨まないと。
必殺技の練習回。
仮免試験に向けて微強化と言うところで、今後の展開に合わせて強化していく予定。