年2回の仮免許試験のうち、6月の試験は2年の先輩方が受験している。
今回、9月の仮免許試験は上級生に再試験者がいないことや、雄英を巡る状況の悪化もあって1年生で仮免取得と言うことになっている。
国立多古場競技場で行われる仮免許試験、流石にみんな緊張の色が隠せなかった。
「うぅ、緊張してきた~」
「仮免、受かっかな~~?」
「峰田、受かるか、じゃない。受かってこい」
「もももも、もちろん!」
他校の生徒も続々と会場入りしている。さすがに見知った顔はいないけど逆に私たちは雄英体育祭で少なからず顔が知られている。ちらちらと視線が向けられているのが少々煩わしい。
そう思うくらいには、私自身、緊張しているのだろうけど。
「この試験に受かれば、お前ら卵は晴れてヒヨッコ。セミプロへと孵化できる。頑張ってこい」
受かったら受かったで、お尻に殻を付けた半人前以下とか言われそうだけど。
「おっしゃ!なってやろうぜヒヨッコによ!」
「いつもの一発決めてやろうぜ!プルス!「ウルトラァ!!」」
切島君の掛け声に混ざってきた他校の人。なにやらテンションだけは高いけど。
どうも士傑高校の人らしい。
雄英の推薦入試トップ合格ながら入学を辞退し、士傑に入学したのだとか。東の雄英、西の士傑とどちらが良いかはともかく、実力者であることは間違いない。
「実力は本物だ。マークしとけ」
こんな絡みがあるんだったら、バスを降りた時点で周りを”見て”おくんだったかなぁ
個性の無断使用を問われたくなかったから自重してたけど、失敗だったかもしれない。
「イレイザー!イレイザーヘッドじゃないか!」
ふいに相澤先生を呼ぶ声に、珍しくその表情がこわばる。
「体育祭で姿は見てたけど、こうして直接会うのは久しぶりだなー。結婚しようぜ」
「しない」
「ぶはっ!しないのかよぉ、ウケるー」
「相変わらずだな。ジョーク」
それで心当たりがあったのか、緑谷君が語り始めた。うん、緊張と縁がなくて羨ましい。
「スマイルヒーロー・
それ、そんな嬉しそうに語ることかなぁ……いや、間違っても戦いたくないけど。
「私と結婚したら、笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ!」
「それ絶対幸せじゃないだろ」
強制的に笑いが絶えなくなるんですね。狂気に満ちた家族団らんになりそう。で、かなり冗談めかして言ってるけど、割と本音混じってますよね?
「それにしても……ピクシーボブさんと言い、妙齢の女性ヒーローはこうなるのかぁ……」
「なんつーか、”ヒーローに出会いを求めるのは間違っている”って感じだね」
「そう!そうなんだよ、少女達!いいかい?社会に出たらもっといい出会いがあるなんて悠長に構えず、イイ男がいたらしっかり捕まえとくのが幸せを逃さない秘訣だからね!!特にヒーローなんてやると若いうちは男女共にモテる!そりゃ、それを理由にヒーロー目指すなんて奴だっているくらいに!」
響香と話していたら、がっしり手を掴まれて力説されてしまった。
しかもものすごい真顔で。
ついでに何故か、ビクッと峰田が反応してる。モテたいからヒーローを目指したの部分かな。
切っ掛けは人それぞれだしね。今のところ、モテるかはともかく、ヒーローには近づいてる。望みだけは持とう?
「だからヒーローって割と恋愛に受け身でね。特に野郎はダメだ。歳食っても適度にモテるから、自分から口説こうってのは少数に過ぎる。ヴィランやファンの前じゃ勇ましくても、女の前じゃ結構ヘタレなんだ。いつまでたっても厨二が抜けないから口説くの格好悪いとか思う奴も多いし。
そして女性ヒーローは一般男性の憧れになって、告られて付き合っても、いざ結婚!となると野郎は大体腰が引ける。男より強い女を許せない連中ばっかりさ。だからね、ヒーローの男とくっつくのが一番いいんだが、競争率は高いからガンガン行かないとダメなんだよ!」
な、なんというか、緑谷君のブツブツ並に早口かつ、説得力がものすごいんですけど。
「は、はぁ……」
「お、なんか余裕の態度。ははぁ~、イイ子がいるにゃ?この乙女め」
「いい加減にしろ。俺の生徒に余計なちょっかい出すんじゃない」
軽いゲンコツが
「それはそうと、ジョーク。お前がここにいるってことは……」
「おっといけない。ついつい。みんな!おいで、雄英だよ。傑物学園高校2年2組。私の受け持ち。よろしくな」
傑物学園は2年生が受験か。1年の差がある分、態度に余裕が感じられる。
経験が少ないのは確かなので相手にされていないのも仕方ない。
何故か
コスチュームに着替えて説明会場に集合すると、ヒーローコスチュームの集団で辺りは流石に異様な雰囲気だった。
「あー、では、仮免試験の、
いや、あの、公安の人の嗜好を聞いてどうしろと。
「仕事が忙しくてろくに寝れない……人手が足りてない……眠たい。だるい。そんな信条の下ご説明させていただきます」
チェンジして寝てください。
ものすごくテンションの低い説明を聞くと、参加1,540人での勝ち抜け演習をやるとのこと。
「現在はヒーロー飽和社会とも言われ、ステイン逮捕以降、その在り方に疑問を呈する向きも少なくありません。
個人的にはその動機がなんであれ、命がけで人助けをする人間に『何も求めるな』っていうのはどうかとは思いますが。まぁ、対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローたちが救助、ヴィラン退治に切磋琢磨した結果、事件発生から解決までの時間は引くぐらい迅速になっています。
君たちは仮免許を取得したら、その激流に身を投じる。そのスピードについていけないようでははっきり言って厳しい。
よって、試されるのはスピード。先着100名を合格といたします」
予想外の一言に会場がざわつく。前回までは半数が合格した仮免試験。それが一気に1割を切る合格率とは。
「昨今色々ありましたので?皆さんは運が
オールマイトの引退で精鋭を求める、と言うのはわかるけど、変えすぎて後で人手不足で泣くことになると思うけど。自分が寝れないからって、ヒーローに人手不足を強いないでほしい。
ターゲット3つを体に装着、ボールは1人6個支給。3つ全部に当たったら失格。合格は2名を倒すこと。倒した判定は3個めのターゲットに当てた人、と。
条件はシンプルだけど、割とエグイ。協力するごとにターゲットが減っていくから、早めに目標を余裕をもって確保することが好ましい。
でもそれ自体が難しいから、情報収集能力と多数を制圧する戦術、個性が求められる。雄英の先生方もそうだけど、ヒーロー関係者って性格エグすぎない?
各校、受け取った人から自分に有利な地形を目指して駆け出していく。
会場入りが少し遅かったから受け取り順も遅いんで、私たちは待ち伏せに有利な地形とかは期待できない。
とりあえず、ターゲットはお腹と太もも前面にしておこう。ここなら包帯や手でカバーしやすい。
「みんな!出来るだけ固まって動こう!」
「ええ!」
「そうだな!」
集団の利を活かそうという緑谷君の提案に飯田君達は同意。ただ爆豪君や轟君は不同意だった。
「ざけんな。遠足じゃねぇんだ」
「俺も抜けさせてもらう。大所帯じゃ力を発揮できねぇ」
「轟君!」
緑谷君は止めるけど、悪い判断ではないと思う。
「緑谷君、2人とも間違ってない。実力的にも個性の性質的にも。私たちがいないほうが良い。切島君は爆豪君との連携は慣れてるし、電気は……まぁ、大丈夫でしょう」
多分、だけど。どちらにしても範囲攻撃可能な人は単独の方が有利。だからお互いに気を使わないようにできるならそれが正解。
「それより、わかってると思うけど、すぐ来るよ」
正直、知覚範囲に居る人数が多すぎて正確な数は把握できない。もう少し精度と解析能力を上げていかないと。そんなことを思ったのと同時にスタートのブザーが鳴り、一気に周囲を囲んだ人たちが現れた。
「君、たしか体育祭では何もできなかった割に一目置かれているっぽいね。そういう、不確定要素から潰すっ!」
傑物学園のなんか胡散臭い人の掛け声とともに一斉に飛んでくるボール。
緑谷君が蹴りの余波で吹き飛ばし、さらに三奈ちゃんや常闇君、意外……ってことはないけど、峰田が防ぎきる。いやほんと、こういうときは頼りになるよね。
「その間に上空に退避させてもらったけど」
同じく上空に逃げたお茶子ちゃんだったけど、消耗を考えてすぐに降りた。私も移動を考えたら降りないといけないのだけど。
「うわっ、なんて強力な」
響香の必殺技「ハートビートファズ」が地面を割る威力なのも驚いたが、傑物学園の人がさらに大規模に地面を割った。
「うわ、ととと、流されるっ!」
岩山の崩壊とそれに合わせて起きた風に流され、皆とはぐれてしまった。なんて間抜け。さっさと降りておけばよかった。
『だ、脱落者120名……一人で120人を脱落させて通過したぁ!』
「派手なことをする人が居るなぁ」
同時に会場に響き渡るアナウンスは、何とも非常識な結果を成し遂げたアナウンスだった。これ、轟君も爆豪君もまず無理だから、士傑か傑物の誰かかな。
「人のことは後でいいか。まずは誰かと合流しないと」
人数も散ったので、状況は把握しやすい。
現状の知覚範囲300メートル程度だと、試験会場全域とはさすがに言えないけれど、1つのゾーンぐらいならカバーできる。
「お、あれは緑谷君……お茶子ちゃん居なくてよかったねぇ」
なにやら黒いライダースーツ姿の女性に組み付かれている。できれば後ろから気絶させて救出するのと合わせてどちらかが1人目の討伐を確保したいところだが距離が離れすぎてる。
出来る限り急ぐ中、他の受験生が介入してきて難を逃れたけど、緑谷君はそのまま集団に襲われて逃げ惑っている。そこに瀬呂君とお茶子ちゃんが私より先に支援に入ってきた。
そこで緑谷君が合流のためだろう、スマッシュで相手の足場を崩す。岩山が崩れて大量の砂煙が視界を塞ぐ。
「くそっ!足場崩したぁ!!」
「サンキュー、緑谷君!」
合流のつもりだったけど、私は崩壊現場の砂煙に突入する。バイザーもあるから砂は目に入らないし、そもそも私が”見る”なら目をつぶっていても関係ない。
「そ、そんなっ!どうやって!」
「くっそっぉ!見逃してくれよぉぉ!!」
「すいませんね。先輩方。こっちも必死なんです」
脱出に手間取っていた人を見つけ、包帯で拘束。気絶させて、1次試験の通過を勝ち取った。
その前に数人ほど、ターゲット1個だけ残してボールを押し当てておいた。残機1で明らかに破壊力で勝る緑谷君を追いかけたくはないだろう。
即抜けしてしまうので、せめてもの支援だ。
『えー、18人目の合格者が出ました。通過した人は控室に集まってください。通過後の戦闘行為は禁止です』
それと同時に自分が付けていたターゲットの色が青に変わる。通過者が移動中にターゲットにされて双方に無駄な時間が生じないようにする配慮だろう。
それにしても、あのライダースーツの人、”見た”印象が何か奇妙な感じだった。なんというか、二重構造のような。
もしかしたら変身系個性の持ち主だろうか?ああいう風に変わる個性もあるのか。覚えておこう。
緑谷君、無事ならいいけど。さて、爆豪君と轟君、どちらかはもう受かっているかな?
「あ、どうも!自分!士傑高校の夜嵐イナサっス!雄英の最初の合格者が上鳴さんなんて感激っス!」
控室にたどり着いたらものすごい熱血な感じで話しかけられた。そしてクラスメイトはまだ誰も通過してなかったらしい。
「ありがとう。雄英の上鳴
「それでも凄いっス!体育祭の活躍!拝見しました!握手してほしいっス!」
そう言われるとき恥ずかしいものはあるが、拒否するようなものでもない。
「轟戦での熱い言葉!決勝での檄も!!ホンッとうに感激したっス!雄英にも熱い人がいるって判って、安心したっス」
「あ~、あの、あれはちょっと、自分でも頭に血が上ってて恥ずかしいので、その……」
個人的には本当に黒歴史なんで忘れてほしい。
その後もしばらく、なんか必要以上に持ち上げられて困っていたのだが救いの手はやっと現れた。
「上鳴。もう通ってたのか」
「あ、轟君。うん、通過おめでとう」
軽くハイタッチ。やっぱり仲間が通過すると安心するね。
「あぁ、ソイツは確か、士傑の……」
「すいません。上鳴さん。自分、これで失礼するっス」
折角だし紹介ついでに相手してもらおうと思ったら、急にその場を去っていった。ちょっと轟君を見る目に嫌悪感のようなものを感じたけど。
「……なんだったんだ?」
「さあ?まぁ、テンション高くて大変だったから、ちょっと助かった」
とりあえず飲み物とお菓子をもらってきて、轟君にも渡しておく。
後はお互いの試験経過を情報交換がてら話していると、70名を超えたあたりで響香に梅雨ちゃん、百ちゃんと障子君が通過してきた。
「轟さんに茉芭さん!通過していたんですね」
「流石ね」
「他のみんなは?」
「来てない。上鳴が最初で次が俺、その後がみんなだ」
轟君より早く合格と言うことで、4人の視線が私に集まる。
「うん、タイミングに恵まれた。緑谷君が相手の足場を崩して逃走を選んだ時に、ちょうど砂煙で視界が塞がれてたから。後で緑谷君にはお礼言っとかないと」
「追跡を減らす意味もあるから、構わないだろ」
その後に合流した緑谷君達だけど、瀬呂君とお茶子ちゃんが私が砂煙に突っ込んでいくのを見てたらしい。その直後に合格者が増えたから、心配してなかったと。
林間合宿で目隠ししたまま調理してるのをみんな見てるからね。視界の有無が影響しないというのはそれだけでも十分強い。鍛えてよかったと思えた。
「いやホント、合流しようかと思ってたんだけど、追跡者減らせるからいいかな、と」
「うん、あの後、士傑の人にまた襲われてたから、人を減らしてもらえて助かったよ」
その言葉に少し視線を夜嵐君の方に向けるが、特に気付いた様子もなかった。まぁ、良いのだが。
そしてギリギリ最終枠までこじれたものの、A組全員が一次試験突破を決める最高の結果を得る事が出来た。
オリ主をどうやって通過させようか悩んだ結果、序盤に漁夫の利で通過してもらいました。
試験に紛れ込んでいたトガヒミコについては、距離もあったしスルーさせました。本作世界では合宿襲撃時に誰の血も取れてないので、優先殺害対象の緑谷と、オリ主、趣味的に麗日の血を取りに来た、ということでw
なお、シーズン4のサバイバル訓練は本作では仮免試験後に改変します。
時系列的に圧縮訓練に費やしたほうが良いだろうと思ったのと、正直、ここまで書いてから思い出したので、時系列の整理が面倒だったのですw